著 者 佐伊
出 版 新書館 2026年6月
単行本 352ページ
初 読 2026年6月22日
ISBN-10 4403221599
ISBN-13 978-4403221590
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/136178111
『竜王の婚姻』『君を転生させないために』『精霊の宿る国』の佐伊さんの、新作(紙本)。
『小説家になろう』サイトですでに読了済みながら、紙本で出版されるのを知った時から、出版の日を心待ちにしていた。
公式には6月22日発行となっていたが、22日が月曜日だったため、前週金曜日には配本になってるかも!と思って新宿のブックファーストに行ったが、探すも探すも「在庫無し」の表示。どうしても待ちきれず、そのままAmazonをポチった。(今にして思えば、最初から紀伊國屋書店本店に行けば良かった。だけど、紀伊國屋書店の閉店時間は夜9時。ブクファは10時半で、その時点で紀伊國屋は閉まっていたのだ。)Amazon以外の店舗で購入したら、特典の掌編を読めるんだぞ?!とは思ったんだけど、ガマン出来なかった。
ネットでは通読しているんだし、本が届くのが一日後になってもイイや、明日あさってはどうしてもリアル本屋に足を向ける時間がないんだし、と思って紙本をポチったのに、やっぱり今すぐ読みたい欲が抑えられず、Kindle版も購入。。(以下、7月17日に加筆。その後、やっぱり特典の掌編読みたさに、シーモア版も購入。その後、下巻の出版を待つ間の焦燥感に駆られて、数ページでも良いから読みたい!と初回購入特典の割引をアテに、Honto版も入手した・・・・で下巻が発売された7月17日に、今度はちゃんと特典折り込みも目当てに新宿紀伊國屋書店本店に突撃して、下巻と並んでいる上巻(折り込み入り)を手にして数分、硬直したまま逡巡した挙げ句にレジにGO。結局、上巻については紙本2冊、電子3冊を買ってしまった愚かな(?)私は、今後、ラノベ・BL系はAmazonで購入してはいけないことを身をもって学習した。)
さて、この作品。
オメガバース設定のBLではあるが王朝内部の政治抗争や、宗教(教会)との利害の対立、隣国との紛争・・・・が綿密に描かれて、近世後半くらいの西洋風歴史ファンタジーとして、非常に非常に骨太な物語になっている。(最初は修道騎士とか出てくるので中世後期から近世初期くらいのイメージだったんだけど、小銃から大砲まで火器が発達していたり,海軍が艦隊戦やってそうだったり、議会制や裁判制度が発達してたり、修道騎士が時代遅れだと揶揄されてたりしたので、もう少し後ろかな、と脳内で時代を修正した。)
そこに、オメガバースならではの性差別と、それに起因する各人の立場の複雑さや苦渋や危うさが緻密に織り込まれてくる。この構成力がさすがの佐伊さん。凄い!政治情勢の緻密な書込だけでも読み応えマシマシ。
隠れオメガの国王エイドの深い深い苦悩や、まやかしの宗教裁判で姦淫の罪に問われて、還俗させられてしまった修道騎士ヴァルトルがエイドに寄せる親愛と、敬意と、純愛。ヴァルトルの叔父であるメソルトの困難な立場、メソルトとハリオとヴァルトルの関係、王太后の思惑、修道騎士の兄弟愛・・・・とキャラ立ちしている上に複雑な人間関係が絡みに絡み、非情に濃厚。その上、所々に織り込まれる、ヴァルトルの修道騎士としての戦闘能力の高さに高揚する。
それに、王侯貴族ものの作品にありがちな、王族・貴族の絢爛な生活の表面ではなく、それを裏で支える宮廷の働き手側の目線で話が進んでいくのもちょっと異色で面白い。なんか、表はゴージャスなお店のバックヤードに迷い込んだ気分だ。
「素手で殺せます」とか「素手で行います」(刺客を殺す)とか、なにかと物騒で、直裁で、周囲の思惑に忖度することなく、我が道を突っ走るヴァルトルの造形がまた、良い。そのヴァルトルがハリオにだけ向けるちょっと甘えた言辞。ヴァルトルの台詞の書き分けがまた、素晴らしい。ヴァルトルの庇護者であるメソルトが、難しい立場にいるにも関わらずなかなかに軽やかな言動で、誰に対してもあまり変わらないのとは対称的。ヴァルトルと聖騎士団の仲間の関係性は胸熱だし、とにかく美味しいところだらけ、というか美味しいところしかない。個人的にはアゼルも大のお気に入りだし、アゼルとラウルの恋物語も、ぜひ書いていただけないか・・・・など。
物語は紆余曲折あるが、上巻は、メソルトの血を吐くような告白がクライマックス。
国王エイドに忠誠を捧げるヴァルトルには、(もう最後までネット上で読んじゃってはいるんだけど)これ以上、ヴァルトルに苦難が降りかかりませんように!と願いたくなる。下巻は7月中旬発行ってことで、ただひたすら待ち遠しい。
書き下ろしの短編は、本編をネットで読了して、是が非にも読みたかった、あの、イワンゴの攻防戦。からのヴァルトルの宗教裁判。幕間に登場するエイドの心病んだ描写に胸が痛む。まさに「前夜」の物語。
一点だけ今だに気になっているのは、ヴァルトルの愛馬(初代“暁”)がどうなったのか。
イワンゴ砦の中に入るには海中からの侵入だったのだから、馬は連れて行けなかったんじゃないかと思ったのだ。ヴァルトルの回想の中では、愛馬もイワンゴで死んだことになってるのだけど、優れた騎士と愛馬の別れは、すごく気になる。これも、番外編でどこかに書いていただけないものか・・・・
でもそれはさておき、何よりも読みたかった邂逅前夜の物語でした。
紙本出版ありがとうございます。














