2022年10月30日日曜日

0401 私が愛したサムライの娘 (時代小説文庫)

書 名 「私が愛したサムライの娘」
著 者 鳴神 響一        
出 版 角川春樹事務所 2016年1月
文 庫 295ページ
初 読 2022年10月29日
ISBN-10 4758439761
ISBN-13 978-4758439763
読書メーター    
 SISシリーズの3作目で、小説家デビューを目指す人達が描かれていたので、作家のデビュー作というものに興味を引かれた。柴田よしき氏の『RIKO』もデビュー作にして、あの強烈さ。この鳴神氏の作のデビュー作もなかなかに凄い。新人賞の選考を突き抜けてデビューするにはこんなに書けないとダメなのか。なんとも凄い世界だ。
 小説愛好者として多くの人がそうであるように、私も中学生の頃から、何度か小説を書こうとしたことがあるけれど、プロの作家になれるとは思えなかった。何かが、何よりも気概が違う。小説家に限らず、プロを志し、真剣に努力する人は凄いな、と純粋に尊敬する。
 
 で、さて、鳴神響一氏のデビュー作である。
 これが、なかなかすごい。

 舞台は、江戸、名古屋、そして長崎出島。鎖国の時代、江戸幕府の将軍吉宗と対立した尾張藩主徳川宗春とその配下の甲賀武士。対日貿易を独占していたオランダと、大国スペインの海外領土と極東貿易を巡る野心。そこに、よるべを持たないスペインとオランダの(新教と旧教の)混血の士官ラファエルと、その血筋と師・左内ゆえに、忍びとしての過酷な境遇を甘受する忍びの雪野の恋。映画「マスター・アンド・コマンダー」ばりの(っていうか、ホーンブロアとか、ボライソーとか、ジャック・オーブリーの)海洋冒険小説のエッセンスまでちょこっと混ぜ込んで、時代小説ながら、当時の出島の風物や海外情勢なども紐解きつつ、の、スケールの大きな舞台を設定。日本人が(っていうか私が、か?)苦手にしてる、日本史と世界史の教科書の狭間を忍びの矜持と純愛で描くのだ。
 なにしろ日本人なら誰でも知ってそうな8代将軍吉宗(暴れん坊将軍&大岡越前)の治世に焦点を当て、しかも尾張宗春をその時代にいた先進的な視点を持った名君として描いたのも、その宗春の闘いが「負け戦さ」なのも渋いことこの上ない。これでデビュー作!凄いじゃないか。スケールの大きさの割には、そしてその濃密な筆致な割には淡白な印象もあるのは登場人物の造形の掘り下げがわりとあっさりめだから、そして負けた側の引き際が潔すぎるからかな。とはいえ、宗春の人柄の描き方がとても好ましいし、左内は文句なく格好良くて慕わしい。雪野の必死さもよかった。

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