2024年12月17日火曜日

0524 ダ・ヴィンチの翼 (創元推理文庫)

書 名 「ダ・ヴィンチの翼 」
著 者 上田 朔也       
出 版 東京創元社 2023年9月
文 庫 384ページ
初 読 2024年12月15日
ISBN-10 4488554075
ISBN-13 978-4488554071

「それは、権力者の論理にすぎぬ。戦争は、常に名もなき者たちや弱き者たちを犠牲にする。そうした権力者の論理を受け入れることは、弱き者たちを踏みつけにすることにほかならぬ」

 上田朔也氏『ヴェネツィアの陰の末裔』に続く第二作目。これは面白かった。主人公を13才のコルネーリオに定めるまでに、最初はベネデット、次はヴィオレッタと主人公を変えて2回書き直したそう。その甲斐あってか、前作にくらべて文章が滑らかで読みやすい。結果、物語にも入りやすかった。「無造作に流した金髪」という形容が登場したときにはちょっと苦笑したけど。「魁偉な容貌」という形容がヴァチカンの暗殺者が登場するたびに枕詞のように出てくるのも若干気になったけど。前作のベネデットの形容である前述の「無造作に流した金髪」とおなじく、こういう書き方がこの人の癖なんだろうなあ。私はやめた方が良いとおもうけど。まあ、仕方ない。

 さて、今回は暗号の謎解きと追跡と闘いの物語。
 しかも、レオナルド・ダ・ヴィンチが残した未知の兵器の設計図を、ミケランジェロの密偵が、ヴァチカンと神聖ローマ帝国の暗殺者と追いつ追われつで探す、という、出血大サービス的なあらすじ。これはワクワクするしかない。読みながら、机脇に、レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿の画集とか、フィレンツェ、ヴェネツィア、ヴァチカン関連の図録なんかが積み上がっていく(笑)。
 とはいえ、時は1530年頃?(本の最後で1529年だと記載があった。) 
 史実では、フィレンツェ共和国は1532年に神聖ローマ帝国に敗北してメディチ家が返り咲き、フィレンツェ公国となる。負け戦必至のニッチにニッチを極めた時期に、どうやってダ・ヴィンチの新兵器を絡めるのか。結論から言えば、まあ落とし所はこのへんだよね、という予定調和に満ち満ちた感じになってしまったのも、致し方ないか。
 そういう意味では、物語の主眼は、コルネーリオの成長や、アルフォンソの恢復、そして全編を通して語られるのは、戦争の犠牲となる名も無き民衆や力なき者の嘆きに、数の理論ではない、どのような態度を対置するのか。
 兵器の開発、戦争の準備、陰謀術数、そういった芸術とは異なる論理が働く場所で、稀代の芸術家であるレオナルド・ダ・ヴィンチとミケランジェロが何を思い行動したのか。そんなことが著者の思いとともにたっぷりと語られる。
 ある意味欲張りな作品ではある。その分、ファンタジーとか冒険活劇という面はやや薄味であった。
 これも、前作と同様の著者の癖だと思うが、あからさまに違和感のあることをとうとうと書き、すぐ後で、実は・・・・とその行動の意味を明かす、という描き方をする。だが、そもそも違和感アリアリなので、ちょっとわざとらしくて、若干うざったい(笑)
 また、この本でも、三人称での視点の移動があり、これももっと意識して書いてくれたらば、と思う。基本三人称神視点で書かれているのに、突然三人称人物視点に視点が動く。あれ?と思って、どこからその人物視点だったんだ、と数ページ戻って確認する、ということがすくなくとも数カ所あった。

 前作でも登場したヴェネツィアの魔術師、ヴィオレッタとその護衛剣士のフェルディナンドがメインキャラとして登場。なお、名前は出てこないものの、ベネデットとその護衛剣士のリザベッタも数回登場。コルネーリオの能力の表現が共感覚っぽいな、と思っていたら、巻末の参考文献に共感覚に関する本が数冊入っていた。
 その類い希なる共感能力を持ったコルネーリオが母の火刑を目撃していたならば、その能力ゆえに精神的ダメージははかり知れず、こんなに健全には育ち得なかったのではなかろうか、と思うのは私が底意地が悪いのかなあ。


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