2022年7月16日土曜日

0371-74 栗本薫《矢代俊一シリーズ 11〜14》の感想


《あらすじ》
 波乱万丈だったアルバム発売記念全国ツアーも何とか無事終了し、東京に戻って束の間の休息を得る俊一は、実の父で名ピアニストの万里小路俊隆を荻窪の自宅に訪問する。父子の絆を急速に深める俊一。一方で〈神の苑〉の追い込みは最終段階を迎える。さらに他方、写真家渥美は俊一のハメ撮り写真や陵辱ビデオの存在をちらつかせて俊一に服従を迫り、再三にわたり俊一をレイプ。俊一がスタジオに連れ込まれて襲われたとき、英二、金井、黒田がタッグを組んで救出に踏み込み、俊一を辛うじて救出し、画像・動画とネガを奪取した。金井の家族の長野移住に始まった騒動は終演に近づくも、もう、自分はジャズの世界にも、表社会にも戻れない、という現実を語る金井に対して、俊一は「自分とジャズを捨てるなら死んでやる」とメンヘラ女的反応で金井を翻弄。
 さて、やっと、渥美の魔の手から逃れたと周囲が安心する間もなく、ふたたび俊一が渥美に騙されてファックされる。心身ともに限界まで傷ついてしまった俊一を助けたのが森田透。透はPTSDでフラッシュバックの発作が再発した俊一を、男娼で磨いたSEXの業で癒やす。(←なんかこう書くと、ホント身もフタもない。)

11 亡き王女のためのパヴァーヌ <矢代俊一シリーズ11>
重傷を負いながらのステージをもやり遂げ波乱のツアーを終えた矢代俊一は、実の父との至福の時を迎える。(Amazonより)・・・・・アルバム発売記念の全国ツアーをなんとか成功させ、東京に戻った矢代俊一が、実の父であるピアニスト万里小路俊隆を初めて荻窪の自宅に訪れた一日。俊一が父と会うのはこれが3回目。2人で奏でた《亡き王女のためのパヴァーヌ》のピアノとフルートの一音一音が父子の空白の時を埋めてゆく。珍しくもまったくSEXがからまない、静かで豊かな音楽家父子の時間の描写です。俊一の存在が、母の不貞の証拠であったゆえに母に愛されなかった、とか、それ故に母に護られることなく、小さい頃から災難が多かった、とか俊一の設定がおっそろしくベタだけど、まあそれはおいといて、俊一の幼少時の心の傷を癒やす穏やかな時間の描写は悪くない。万里小路父と俊一息子が、似たもの親子なのが微笑ましくもある。話自体は間奏曲って雰囲気でよかった。

12 LOVE FOR SALE <矢代俊一シリーズ12>
神の苑頌霊教団とのトラブル、そして止まるところを知らぬ渥美の妄執もついに終局の時を迎えるのだった。(Amazonより)・・・・・基本的にはめっちゃ面白い。《神の苑》教団撲滅の最終仕上げの一方、潜伏した金井との束の間の逢瀬。狂人渥美の横恋慕に黒田のニヒルな活躍。野々村の暗躍(実際のところ、何やってるかよくわからんけど)。キャラの動きが多い分、薫サンの脳内ダダ漏れグダグダトークが最小限なのが、面白い証拠。万里小路父と俊一の交流や語らいはハートウォーミングで、束の間の幸せがとても微笑ましく、渥美(キモい)との暗闘と交互でバランスも悪くない。だがね、俊一の微妙な“キャラ崩れ”がいささか鼻につく。たった一人で世界に向こうを張ってきた、天才と努力の孤高の人だったはずの俊一が、突如として血統故に才能に恵まれた高貴な人になってしまった。それも鼻高々に。俊一が恥ずかしげな風情で、しかし自慢げに父のことを周囲に漏らす様が、とても40男には見えず、見栄っ張りでおしゃべりな中年女みたいだ。俊一がプライベートで父と逢瀬を重ねて、“誰も知らないけど、この偉大なピアニストが僕の父なんだ”、って心密かに想ってる分には一向に構わない。だけど、それを友人知人に言いたくてしょうがない、っていうのがとにかく気持ち悪い。ってか薫サンの姿が背後霊のように透けて見えるよな。コワいよぉ。一方、俊一への執着を一層強める写真家渥美がの勘違いっぷりが、まさにストーカー気質でこれもキモい。薫サン。変質者を書かせたら天下一品です。コワいよぉ。 
 金井が俊一の前から去ろうとしたのを、もし俺のこと・・・俺もジャズも——捨てたら、死んでやる。本当にやるからな・・・俺が辛いのが一番イヤだっていったでしょう。もし、俺からはなれようとしたら——一番辛い死に方で死んでやる・・・恭平の目の前で死んでやる……と脅迫する俊一君。あんた誰?いやあ、立派なビッチに成長されましたな。母に生存を脅かされ、父にも認められずに育った俊一のアダルト・チルドレンな一面が、(親代わりとして)一番心理的に依存している金井に対して表出したか。言い草が、とても四十の中年男とは・・・・(ちなみに、中年男とは、作内で俊一自身が頻繁に自称してる。) 
 なお、この《神の苑》暗闘編とでもいうべき一連の事件で暗躍した情報屋の野々村さんは、もちろんあの野々村さんだが、これは「マスコミ事務所」の野々村のウラの正業、って訳ね?一連の出来事は、時期的にいえば、島サンが亡くなる前から4ヶ月後くらいまでの期間に相当するようで、「この事件がなかったら、自分は島サンの死から立ち直れなかった」とのこと。島津のことなどまるで知らない俊一の前で突然島津の思い出話を始めて、俊一をぽかんとさせる野々村老であるが、この前ふりが次巻に繋がっていく、のかな。いやさすがに唐突だろう、とは思ったけど。 

13 SUMMERTIME <矢代俊一シリーズ13>
痛手を負いながらも渥美の暴行から救出された俊一へ、なんと渥美からの詫びの電話が……(Amazonより)・・・・・渥美から、会って謝罪したい、という電話に騙されて呼び出された俊一は、再度渥美から酷い暴行を受ける。(三度目だバカ。いや四度目か?) 「血をみないと達せない」という渥美は俊一にフィストを仕掛け、これまでなんとか保ってきた俊一の精神はついに崩壊一歩手前にきてしまう。正気を失ったまま、街をふらついていた俊一を、たまたま近くで飲んでいた風間と森田透が発見して、透のマンションに保護する。幼児に心理的に退行していた俊一は、大男の風間には怯えるが、透の痩せた優しい手や、穏やかな声音には安心できるらしく、透に看病されて、正気を取り戻したのは翌日の昼を過ぎてからだった。透の住まいは、今は亡き名プロデューサー島津正彦のマンション。俊一が自分の体の状態を卑下したり、透に下半身の傷の手当てを受けたことを恥じたりしないですむように、と、透は俊一に、自分もフィスト・ファックで死にかけた経験があることや、これまでの境遇を語る。互いに互いの境遇を知り、俊一は、自分と比するようなつらい過去を持ちながら、今は穏やかに微笑んでいる透に強い親近感と愛着を感じる。心身ともに傷ついていた俊一は透を求め、酷い性的暴行の記憶は、優しいセックスの経験で上書きしてしてしまったほうが良いと考える透は、穏やかに俊一の求めに応じた。透もまた、島津の死後、孤独な時間を持て余しており、他人との触れ合いを渇望していた。・・・・・って、本当はもっといろいろと俊一のことが書いてあるんだけど、私が透への関心のほうがバカ高いので、こういう感想になります。あしからず。

14 SOUL EYES <矢代俊一シリーズ14>  
ようやく金井との情事の時を迎えたが、俊一はそこで激烈なPTSDの発作を起こしてしまう。(Amazonより)・・・・・渥美の暴行から体は回復し、金井とセックスしようとした俊一は強烈なフラッシュバックの発作に襲われ、意識を失ってしまう。英二とならできるか試してみろ、と金井に言われた俊一は、英二とのセックスを試みるが、やはり発作に襲われ、意識を消失し、泣き喚き、呼吸ができなくなる事態となって、救急搬送されてしまう。主治医の催眠療法により、6歳の時の暴行事件のいきさつを明かにした俊一は、恋人二人以外との性交で、自分が発作に見舞われるのかどうか試すために、透の家を訪れる。
 俊一の目的を察した透は、俊一をセックスに誘う。・・・・・なんかねえ、透のSEX描写がとても美しい。そして、ちゃんとエロい(笑)ような気がする。なんだ、ちゃんとエロいエロシーンも書けるじゃないの、このひと。『朝日のあたる家』前半なんかでは、どちらかというとぼーーーーーっとしていた透ちゃんが、なんだかエロエロキャラに変身しているような気がしないでもないが、私は透ちゃんびいきなので、そう恐ろしいキャラ崩壊していない限りは不問に付しておく。透は、島津を失って3,4ヶ月、良の出所にもあと何ヶ月も待たなくてはならない、という時点設定だが、ここでも時空が乱れていることは、年譜で明かにしたとおり。島津が恋しくて寂しくて、できることなら後追い自殺したい、という気持ちと、良を待っていなければ、という気持ちを抱え、だた、時間が通り過ぎるのを待っている透の悲しさが際立つ。個人的には俊一はどうでもいい。あとひとつ、脳血栓と脳溢血は全く違う病態なので、混同するのは止めてほしい。

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