2024年3月27日水曜日

0474 警視庁公安J (徳間文庫)

書 名 「警視庁公安J 」
著 者 鈴峯紅也
出 版 徳間書店 2015年12月
文 庫 517ページ
初 読 2024年3月21日
ISBN-10 4198940517
ISBN-13 978-4198940515
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/11979734  

 いくらなんでも芝居がかりすぎてないか、とか文章が気障で気恥ずかしいの一歩手前、とか思わないでもないが、こういう本はファンタジーが入ったフィクションと割切って、入り込んでしまえば無問題なはず! 日本人にあるまじき特異な経歴と身元(曰く「華麗なる一族」)故に警視庁公安で「飼い殺し」司令が出ている「J」こと小日向純也のアクション&アドベンチャー。いたるところで多用される「◯◯にして△△」という表現が鼻につくったらないが、それもこれも作者の個性と思うべし。
 PTSDやPTGの設定も、あんまり純也の個性に現実感を持たせることには成功してないような気がするし、6歳から10歳を戦場でっていうのもどうかと思う。傭兵部隊とは言え、先進国フランスの部隊がそんな子供引き回してていいのか?アリなのか? せめてティーンエイジャーくらいまで戦場で過ごした設定のほうがよかったんじゃあ・・・・とか、色々、いろいろ注文をつけたくなる。だけど、10歳というのは日本に帰国して感動秘話的にマスコミ受けして、かつ家族と再統合をはかることができる年齢としてはギリギリかも。そもそもリアリティを追求している小説じゃないし、そこにこだわっちゃうのは、正しくない。
 で、とにかくいろいろ飲み込んで、とりあえず面白い。ちゃんとエンタメとして成立している。荒唐無稽だしかなり際どいけど。だけど、もろもろ凌駕して、きちんと面白い。日本を舞台にしてここまでスカッっとスケールが大きい小説もあまりない。
 繰り返して言うが、面白いです。
 設定が荒唐無稽な反面、時代背景とか歴史公証的なところ、題材はちょっとアンタッチャブルではあるけれど堅実で、そこがまた面白いと思う。
 女性の描きかたは、どうもいまいち。多分におっさん臭い嗜好を感じる。それに犯人に全部語らせちゃうのも好みではないんだけど。
 でもまあ、面白いし、続きは全部読むでしょ。

 ところで純也の部下が鳥居と犬塚と猿丸・・・・鳥と犬と猿ってコレ桃太郎か? 
 なるほど、腰のきびだんご(純也の私財)で取り込まれて、正義の桃太郎と一緒に鬼退治をする話なのね(笑)
 きび団子ならぬ、大金さえあれば何とかなる。(笑)BMWのクーペが何台壊れようが、帝都(帝国)ホテルのエントランスが大破しようが、ほとんどポケットマネーで公安を運用しようが。『隠蔽捜査』シリーズを踏破した後にこっちを読むと、価値観が真逆で変な笑いがこみ上げてくるよ。いや〜小説って、ホントに何でもできて面白いですねって思います。

登場人物の中では、純也に指を落とされた猿丸さんと、春子お祖母様が好き。

あ、だけとちょっと気になったのは。

それは「公文書偽造」ではなく「有印私文書偽造」ではないだろうか。
あと、金相場は3000円/キロではなく多分/gだと・・・

忘備メモ・純也の部下兼見張り役(元)
 鳥居洋輔(メイさん)
 犬塚健二(シノさん)
 猿丸俊彦(セリさん)

2024年3月18日月曜日

0473 帝都騒乱 サーベル警視庁2(ハルキ文庫)

書 名 「帝都騒乱 サーベル警視庁2」
著 者 今野 敏    
出 版 角川春樹事務所 2022年8月
文 庫 372ページ
初 読 2024年3月17日
ISBN-10 475844505
ISBN-13 978-4758445054

読書メーター   

 辛くも日露戦争に勝利し講和条約を締結するも、その内容は樺太の半分をせしめたのみ、賠償金はなし。戦費をひねり出すための増税に告ぐ増税に耐えてきた国民の怒りに火が付き、東京市内で暴動となる。市民の怨嗟は首相の桂とその妾の「お鯉」に向けられる。警視庁第一部第一課の刑事達は警備に駆り出され、榎坂にある桂の妾宅に詰めることに。
 途中で死体が出て来てちょっと捜査っぽい雰囲気も出てくるが、全体的に時の空気感を読むような感じ。時は第一次桂太郎内閣。山県有朋、伊藤博文との内紛やら、桂と原敬との協力やら、孫文やらを上手く絡めて、歴史のお勉強とはひと味違う、時代の雰囲気を想像する。
 ラストは、小気味良い。してやられたり。日本にとって大陸が広く自由に感じられた時代でもあったのだろうか。

《日本近代史復習》※ニュービジュアル版新詳世界史図説(浜島書店)参照
徳川家慶 1837〜53
 1852 ロシア船下田に来航
 1853 ペリー 浦賀に来航
徳川家定 1853〜58
 1854 日米和親条約(下田・函館の開港)
 1858 日米修好通商条約
徳川家茂 1858〜66
 1858〜59 安政の大獄
 1860 桜田門外の変
 1862 生麦事件             
 1863 薩英戦争
 1864 四カ国連合艦隊 下関砲撃
徳川慶喜 1866〜67 
 1867 大政奉還・王政復古の大号令・明治改元
明治天皇 1867〜1912
 1869 版籍奉還
 1871 廃藩置県
 1872 鉄道開設(新橋—横浜間)
 1873 徴兵令・地租改正
 1874 台湾出兵・天津条約
 1875 樺太・千島交換条約
 1875 江華島事件
 1876 日朝修好条規(江華条約)・朝鮮開国
 1877 西南戦争
 1879 沖縄県設置
 1881 国会開設の詔
 1881 自由党結成
 1882 日本銀行設立
 1883 鹿鳴館開く
 1885 内閣制度開始
 1888 枢密院設置、市制町村制交付
 1889 大日本国帝国憲法公布
 1890 教育勅語
 1893 条約改正交渉開始(陸奥宗光)
 1894 治外法権を撤廃
 1894〜95 日清戦争 1895 下関上や烏
 1895 閔妃暗殺
 1900 立憲政友会結成
 1901 八幡製鉄所創業開始
 1902 日英同盟
 1904〜05 日露戦争
 1904 第一次日韓協定
 1905 ポーツマス条約  ← イマココ
 1906 夏目漱石「坊っちゃん」発表

2024年3月15日金曜日

0472 サーベル警視庁 (ハルキ文庫)

書 名 「サーベル警視庁」
著 者 今野 敏 
出 版 角川春樹事務所 2018年8月
文 庫 375ページ
初 読 2024年3月14日
ISBN-10 4758441928
ISBN-13 978-4758441926
読書メータ— 
https://bookmeter.com/reviews/119528864

 自分が50歳を過ぎて、自分の人生が「半世紀」を超えたと意識したあたりから、やっと30年、50年という年月が自分の中の丈で測れるようになった。自分が小さかったころ、まだ家の電話は重い黒電話だったし、駅の改札には駅員さんがいて、改札ばさみをチャキチャキさせながら紙の切符に斬り込みを入れていた。子供のころ、終戦は遙か昔のことだと思っていたが、自分が生まれたころからたった二十数年前の事だった。
 明治維新(明治元年・1868年)鳥羽伏見の戦いから、翌年の函館までを国を分けて戦い、その後38年で日本は、そして東京はどれだけ変化したのか。それを目の当たりにした人々はどういう人たちだったのか。戦いに勝った側もいれば、負けた側もいる。そしてどちらもそれぞれの「戦後」を生きたのだ。そんなことを考えながらの読書となり、明治38年(1905年)の東京、警視庁を舞台とするこの話、正直ストーリーよりも、歴史的な興味の方が勝ってしまった。
 ちなみに、スマホアプリで「東京時層地図」というたいそう優れた代物がある。明治初期から現代まで、地図をミルクレープのように重ねたもの。その時代時代の東京の街の様子が、現代の位置感覚と合わせて観察できるので、明治〜戦前くらいの東京が舞台の小説など読むときには必携。
 藤田五郎(新撰組の斎藤一)のキャラクターなどは正直、どうだろう?あまりインパクトを感じなかったのだけど、かえって既読の新撰組本や、これまでは手を出していなかった斎藤一や永倉新八の本を読んでみたくなった。
 陸軍の中の長州閥や、警視庁の薩長閥、フランス派とドイツ派の対立、同じ長州閥の中でも主流派と反主流派が暗闘していたり、なるほどなあ、と思って読む。
 作中に登場した「黒猫先生」は言わずとしれた、吾輩の作家だが、そういえばあの猫は、実際には黒猫では無かったらしい。本の挿絵が黒猫だったので、黒猫説が広まったか? もっとも、三毛猫説も誤りらしいぞ。ペルシャの如き黄色混じりの淡灰色に漆黒の斑入りだとか。ちょっとイメージしづらいが、ひょっとしてサバトラ?いや、キジトラか?いや、もしかしたらサビ猫かも。

 

2024年3月8日金曜日

0471 探花―隠蔽捜査9―

書 名 「探花―隠蔽捜査9—」
著 者 今野 敏       
出 版 新潮社  2022年1月
単行本 336ページ
初 読 2024年3月6日
ISBN-10 4103002611
ISBN-13  978-4103002611
読書メーター 

「それにしちゃ、詳しいな」「神奈川県警ですからね」
海に面しているのは、東京も同じだ。だが、たしかに・・・・

「神奈川県警の人間は、皆そんなに船に詳しいのか?」

 東京を「海に面している」なんて思ってるようじゃあ、まだまだよな。と思う元横浜市民/現東京都民(笑)
 竜崎はまだハマっ子の心を知らない。神奈川県民を知らない。(笑)私も神奈川県民全般のことはよく知らんが、横浜市民は、海と港に対する愛とプライドをDNAレベルで刻み込まれているのだ。おまけに仕事のこととなれば、そりゃあ警備艇のスペックにも港の知識にも詳しくなろう。


 タイトル「探花」とは、科挙3位の者のことだとか。国家公務員上級試験を科挙に例えた。竜崎が入庁3位つまり探花、なんと伊丹が2位だそうだ。
 伊丹の上に出たくて東大法学部を出て警察に入ったのに、伊丹の方が成績が上だったのは、ちょっと皮肉な設定だ。
 さて今作がぼんくら八島の初登場作品。読む前は、レビューを見て何があるのかとドキドキしたが、しょせんは竜崎の敵ではなかったね。うまいこと竜崎の手の平の上で転がされた感じです。歯牙にもかけないとはまさにこのこと。清々しい。

 息子の件は、途中でオチに気づくが、案の定でした。

 今回も殺人事件の犯人を追うのだが、遺体発見現場が横須賀港のヴェルニー公園。昨年私が米空母エイブラハム・リンカーンを見に行った所だ。犯人が米軍基地に逃げた可能性や白人だったとの目撃証言も出て、基地司令と捜査協力を取り付けるために、竜崎が交渉に出たり、日米地位協定などの政治的な味付けも面白かった。竜崎はまた、ファンを増やした模様だ。
 犯人を追いかけて、福岡、千葉、東京と捜査範囲も広がり、あちこちの県警本部に協力依頼の電話を入れるのだが、「あの竜崎さんの頼みなら」という反応をされて、いまいち腑に落ちていないのがおかしかった。
 私の中ではツンデレ妻認定されている参事官の阿久津は、もっとデレるのかと思いきや、筋金入りのツンで、なかなかデレない。そこが味わい深いのだが、ラストでついにデレましたね。

 「竜崎部長は、人を大切になさる方ですから」

正直阿久津と竜崎のやりとりが今一番の楽しみです。 
 
 

0468 初陣―隠蔽捜査3.5―(新潮文庫)

書 名 「初陣―隠蔽捜査3.5―」
著 者 今野 敏    
出 版 新潮社 
単行本初版 2010年5月
文庫本初版 2013年1月
文 庫 352ページ
初 読 2024年3月2日
ISBN-10 4101321582
ISBN-13 978-4101321585
読書メーター 


 スピンアウト的な短編集1冊目は伊丹目線で。幼馴染みの気になるアイツはブレない軸を持つがゆえに、本人は微動だにせずとも周囲が振り回される。とくに伊丹が勝手に右往左往(笑)
 助けるよりは助けられる方が多いようだが、めげないのが伊丹の良いところだ。(笑)愛される三枚目キャラ、伊丹。同期の竜崎の視線はややキツいが、そんな竜崎も憎みきれないのが伊丹という男なのだ。
指揮
 福島県警刑事部長を務めた伊丹。次の異動の内示はなんと警視庁刑事部長。これは栄転だ。同期のアイツの異動も気になる。東大法学部出身の由緒正しいキャリアである彼の異動先は出世の王道を行く、警察庁長官官房総務課長。伊丹の後任は、これまた東大法出身のキャリア。いかにも官僚らしい官僚で、現場主義の伊丹とは相容れず。殺人事件の捜査本部を実地で引き継ぎたいのに、相手にされない。異動日を迎えて伊丹は困りきるが、そんな伊丹に竜崎は的確にアドバイスする。
とりあえず山口出身の後任キャリアは敵地福島で苦労しやがれ、と思う。(笑)
初陣
 同期のアイツから電話。内容は最近世間を賑わせている警察の裏金にまつわる不祥事。助けてくれ、との甘言(?)にのせられてつい、裏金作りの実態についてしゃべったはいいが、今度はその情報を忖度なしで竜崎に使われそうな気がして心臓がばくばくする伊丹。外野から一言いわせてもらえば、交通費はともかく、弁当代が自腹なのは当たり前だ。三食食うのは仕事ではない。「公務員ならだれだってやってるんじゃないのか」「たとえば公立の学校でも・・・」いや、やってないよ〜〜ムリムリ。昭和の時代のことは知らんが。
休暇
 俺だって、たまには休暇を取りたい。温泉にだって行きたい。だけど小心なので悪いことをしているようで落ち着かない。それでも一人で温泉に来てやっと寛いでいたところに、大森署管内で殺人事件があった、おまけに大森署長になった同期のアイツが言うことをきかない、との連絡が入り・・・。アイツは都外の温泉に旅行している伊丹に呆れつつも、どうやら絶対に伊丹の休暇の邪魔をすまい、と決意したらしく、捜査本部を作る、という本庁の意向をぶっちして、1時間で事件をスピード解決。超有能であった。
懲戒
 先の選挙にからんで、公職選挙法違反のもみ消し疑惑が。警務部長から部下の処分を丸投げされた伊丹は板挟みになる。当事者の刑事は伊丹とは旧知の男で、善良な家庭人でもあるのだ。どうしても懲戒免職にしなければならないのか。苦しいときの竜崎だのみ。原理原則の大鉈と、少々の温情で竜崎は解決策を示す。
病欠
 朝起きたらインフルエンザだった。どんなに体調が悪くても出勤するし、現場にでるのが美徳と思っている伊丹は、竜崎に呆れられる。殺人事件で第二方面に捜査本部が立ち上がるが、当該の警察署も周辺の署も、インフルエンザの大流行で戦力半減。捜査どころではない。だが、第二方面で唯一無傷な警察署があった。もちろん大森署。竜崎の指示で、予防とインフル対策は万全だった。
冤罪
 冤罪事件が起こった。伊丹は弱り切る。苦しいときはやっぱり竜崎だのみだが、今回はさすがの竜崎にも名案が浮かばないよう。だが、竜崎の最後の助言が伊丹を救う。
試練
 ううむ。私はこの話は嬉しくないな。舞台裏は見なくて良い。と思った。
静観
 大崎署で捜査ミス?心底心配した伊丹は、大崎署に駆けつける。だが当の幼馴染みの堅物男はまったく焦っていない。目先の情報に飛びつき踊らされる周囲の人間と、正しく物事を観察し、動じない竜崎。ラストの飲み会で、いったい竜崎は何を話したんだか(笑)

2024年3月6日水曜日

0470 一夜 ー隠蔽捜査10ー

書 名 「一夜:隠蔽捜査10」
著 者 今野 敏    
出 版 新潮社 
初 版 2024年1月
単行本 344ページ
初 読 2024年3月4日
ISBN-10 4103002638
ISBN-13  978-4103002635
読書メーター 

 なんだかもやもやする。このシリーズ、ミステリ仕立てにしようとすると途端に失速するような気がするんだけど私の偏見かなあ。捜査に絡んでくる小説家の梅林も、どうにも動きが中途半端で、リアリティがないように思える。
 殺人の動機も浅いし、その浅さを人間の不可解さと解くにはちょっと無理があるような・・・・・
 それに、ちょっと著名な作家とお知り合いになったからって、いきなり息子を会わせるのってどうよ? 安直すぎないか? 捜査員が自分の家族構成などの個人情報を犯罪捜査の関係者に漏らすのは危機管理上あり得ないし、職務上で得た人間関係にプライべートを相談するのもNGだ。こんな風に個人情報を漏らしていたら、家族の安全は守れない。
 竜崎がどうの、というよりも今野敏さんの「公務員」のイメージなのだと思うけど、プライベートな家族の問題に対応するために部下を自宅に呼ぶとか、捜査関係者に家族を会わせる、とか細かいところでは、「ちょっと出てくる」といって職場を離脱する、とか、とてもとてもNGだど思うのだけど。
 とりあえず竜崎には、自分の子供のことは自分で真摯に対応せよ!と言いたい。

0469 審議官―隠蔽捜査9.5―


書 名 「審議官―隠蔽捜査9.5ー」
著 者 今野 敏    
出 版 新潮社 
初 版 2023年3月
単行本 288ページ
初 読 2024年3月3日
ISBN-10 410300262X
ISBN-13 978-4103002628
読書メーター 

空 席 
内 助 
 竜崎家で主の留守を取り仕切る奥様の冴子さんは、事件のニュースを見てふと何かがひっかかった。そこで
手に入るニュース記事から原因を探す。捜査本部から夕食をとりに戻った竜崎は冴子の推理から犯人を特定。現場では竜崎の株がまた上がった。夫の手柄は妻の手柄。これこそが内助の功である。竜崎が恋愛結婚なのか、お見合いなのかが気になる。

荷 物 
 竜崎家長男がポーランド人の友人の頼みで預かった荷物は、中に白い結晶粉末が入っていた。気付いた邦彦は愕然として頭を抱えた。悩みに悩んで、父に打ち明ける。竜崎はやはり原則通り対応する。それが一目で塩だとわかっていても。ちょっと危なっかしいご長男殿には良い薬になったでしょう。ですがこんなこともあったのに危なっかしい長男の東欧への留学を認める竜崎って、どうかと思うよ。

選 択 

専門官 
 「大森署の戸高」的ポジションの、神奈川県警捜査一課の八坂刑事。大のキャリア嫌いで一匹狼で細かい規範ルール違反は数知れず、だが成果を上げる。優秀な刑事である。周囲の課長は、八坂が竜崎に立てつくのではないかとハラハラしているが。八坂が竜崎の手のひらに乗るまであと◯秒。

参事官 
 神奈川県警の参事官2名。一人は能面のキャリア阿久津警視正。もう一人は組織犯罪対策本部長を兼ねる平田清彦警視正ノンキャリアである。この2人の反目が問題になっているからなんとかせよ、と県警本部長に「特命」された竜崎。竜崎は人間関係などめんどくさいと思っているから、基本意に介さないのだが、決して鈍ではない。人目も気にせず、言い合いをしている2人の参事官を竜崎が冷静に観察をすると。この二人、決して険悪ではないのかもしれない。

 「不仲な連中を何とかしろと言われても困る」 
「互いにどう思っているかなんて、俺にわかるはずがない」 
 「だがな、あの二人がいっしょになると間違いなくいい仕事をする。それでいい」
 「俺は、人間関係には興味がないんだ」

 竜崎の名言である。

審議官
 警察庁の審議官が竜崎に腹を立てた。本部長を呼び付け、暗に竜崎の処分を命じる。だがその怒りの理由が竜崎にはどうにもわからない。なんとなれば、合理的な理由ではなかったからだ。審議官のお高いプライドを傷つけたのだとやっと気づいた竜崎は、審議官を全力でヨイショする手に出る。同席した佐藤県警本部長曰く、「歯が浮きそうだった」。竜崎はこんなことも実はできる。硬いようでそうでもない、というか竜崎が硬いのは本質的な所なので、そこを通すためなら結構融通無碍に動ける。

非 違 
 女性キャリア所長を迎えた新体制の大森署のお話。戸高が野間崎に目をつけられた。実際叩いたら埃が出そうな男なのでおなじみの課長達は困り果てた。副署長は悩んだ末に元署長コール。竜崎の助言は所長に相談しろ。だった。その結果、今度戸高は競艇場に美人所長をエスコートすることに(笑)

信 号
 信号はなんのために守るべきなのか。
 深夜の人も車も通らない道の赤信号は守るべきなのか、そんなキャリアの飲み会の酒飲み話が記者に漏れ、交通課長(ノンキャリ)が激怒。憤怒の形相で県警本部長室に怒鳴り込み。まだ、本編の隠蔽捜査9を読んでいないのだが、竜崎の同期トップ入庁の八島はかなりボンクラっぽい。

2024年3月2日土曜日

0467 清明―隠蔽捜査8―(新潮文庫)

書 名 「清明―隠蔽捜査8―」 
著 者 今野 敏        
出 版 新潮社
単行本初版 2020年1月
文庫本初版 2022年5月
文 庫  432ページ
初 読 2024年3月1日
ISBN-10 4101321647
ISBN-13 978-4101321646

 表紙の写真を見て気付く。あれ?神奈川県警本部、いつの間にここに? Wikiによれば、平成3年に新庁舎完成とのこと。私、このアングルで、新港埠頭に渡る「万国橋」の上から横浜税関(愛称:クイーン/表紙の中央左側奥にあるクリーム色っぽい建物)の絵を描いたことがあるよ。
 当時はMM21地区開発前。新港埠頭はさびた鎖やトラロープでおざなりに閉じられ「関係者以外立ち入り禁止」の札がぶら下がっていた。当然、赤煉瓦倉庫は横浜の旧跡ではあっても観光スポットではなく、周囲はタグボートの港湾労働者のおっさんや、外国航路の貨物船の外人船員がぶらぶらしていたし、新港埠頭の一番奥は、まだ米軍倉庫だった。(1994年に返還。)ブラタモリでもやってた廃線跡の線路もプラットホームも朽ちるままの姿でただずんでいた。私はこの辺りを散策するのが好きで、よく学校をさぼってぶらついていたものだ。当時は馬車道の中程に有隣堂の文具館があって、ここで画材を物色してから、伊勢崎町の有隣堂本店まで足を延ばすのも定番のコースだった。
 そんなこんなが懐かしい、横浜・神奈川が新たな舞台となる竜崎警視長の隠蔽捜査シリーズ第8巻。竜崎は大森署長から神奈川県警本部の刑事部長に昇進(返り咲き)して、シリーズの新たなステージが開幕した。

 横浜、関内、伊勢佐木長者町、中華街、山手・・・・すべてが懐かしい。ついでに言えば、町田界隈も、十分に土地勘はある。そして事件は地元神奈川県民には神奈川県町田市、と揶揄されるエリアで起こった。地番こそ東京都町田市・・・・・ではあるが、三方を神奈川県に囲まれた場所にある公園で、他殺死体が発見される。当然犯人は神奈川県側に逃げた可能性が高く、警視庁と神奈川県警の合同捜査本部が設置され、現場大好き伊丹が臨場するとなれば、神奈川県警側も刑事部長を押し出さないわけにはいかず。
 警視庁を離れ、県警に赴任した翌日には捜査本部が立ち上がり、またひな壇幹部席で伊丹とイスを並べ、警視庁の田端捜査一課長や岩井管理官と顔を合わせることになったのだった。

 犬猿の仲、とのウワサの警視庁と神奈川県警。よく知っているはずの警視庁の面々であるはずなのに、気心しれた伊丹の態度にも見えない壁を感じる竜崎だが、捜査が進むにつれ、自分の部下の立場を守り引き立てつつ、地の利も生かして捜査を主導してやがては全体をまとめていく竜崎の指揮ぶりが素晴らしい。

 今回、一番気に入ったのは、阿久津参事官。
「奥様のご様子はいかがですか」などと気遣いをしているのに、あまりに周到で整いすぎているために、かえって竜崎に「足元を掬おうとしているのでは?」とうさん臭がられている。(笑)
 その阿久津参事官は、処分を予想した竜崎が「短い付き合いだったかもしれない」と言うのに対し。
「万が一、そんなことになったら、警察というのはつまらないところだと思います」
と、言う。そして、警視庁に(叱責を受けに)出かける竜崎に対して、
「お戻りをお待ち申し上げております」
ときたもんだ。そして、戻ってきた竜崎に対しては
「お帰りなさい。今日は、これからどうなさいますか?」
・・・・これもう、妻のセリフだよね。
そして、最後に。
「部長も、本当にごくろうさまでした」
ああもう、これすでに心酔してるでしょう。(笑)

 次巻以降、竜崎の阿久津の掛け合いが楽しみでしょうがない。

《参考》
清明 杜牧
淸明時節雨紛紛    清明の時節、雨 紛紛(ふんぷん)なり
路上行人欲斷魂    路上の行人、魂を絶たんと欲す
借問酒家何處有    借問す、酒家 いずれの処にか有らんと
牧童遙指杏花村    牧童 はるかを指さす 杏花の村

(訳) 清明の季節なのに、霧雨が降りしきっていて
    濡れそぼった道往く旅人(私)は、気持ちは沈み心折れてしまいそう
    (せめて酒でも飲めないものかと)牛飼いの少年に
    どこかに酒家はないか、と戯れに尋ねてみれば、
    牛飼いの少年は、遠くに見える杏の花が咲き乱れる村を指さした

  ※ 清明 二十四節気の4月上旬から中旬

2024年3月1日金曜日

2024年2月の読書メーター

2月の読書メーター
読んだ本の数:14
読んだページ数:4257
ナイス数:1041

1月からこっち、あまりにも読書が捗らず、自分は本が読めない体になってしまったのでは?と恐怖したが、隠蔽捜査シリーズのおかげで何とか持ち直した。1日1冊読める快感を久しぶりに味わった。そうか、私の本を読むスピードが遅くなったわけではなく、読める本を読んでいなかっただけのようだ。翻訳小説は、けっこう内容がぎっしりしているものが多く、1冊読むのに3から4日かかる本が多いが、今野敏は、さくっと、一気に一冊読める。そして面白かった。

棲月―隠蔽捜査7― (新潮文庫)棲月―隠蔽捜査7― (新潮文庫)感想
なんだかモヤる。これまでで一番面白くなかったような気がする。ほぼ直感だのみの見込み捜査じゃないのか? 犯人が判明するまでの過程にもひねりもないし、鉄道本社はともかく銀行への職員派遣はやはり越権のように思えるし。生安部長の鹿児島弁も、とってつけたようだし。だがまあ今回も、野間崎や部下の課長たちとのやりとりは面白かった。「それもわかっているつもりです。ええ、私個人はわかっているのです。竜崎署長に何を申し上げても無駄だと・・・」「所長にプレッシャーですか。怖いもの知らずですね」
読了日:02月29日 著者:今野 敏

署長シンドローム署長シンドローム感想
Audibleで読了。朗読の国分和人さんの声はとても好み。あの大森署の問題児・戸高が、二枚目にしか聞こえないww  さて竜崎が去った大森署に着任したバリキャリ女性署長は絶世の美貌の持ち主で、目が合った男どもがことごとくフラフラになる。『署長シンドローム』とは、藍本署長を直視してしまった男が必ずや罹患する、表情筋の脱力と緊張感の喪失と、思考力の低下と多幸感をもたらす病なのだ。免疫を獲得しつつある副署長さえ、うっかり直視するとそのまぶしさにふらっとなる。これ、竜崎と対面させたい〜〜!!
読了日:02月26日 著者:今野 敏

去就: 隠蔽捜査6 (新潮文庫)去就: 隠蔽捜査6 (新潮文庫)感想
ストーカー殺人。だけど殺されたのはストーカーされてた女性ではなく男性。そして誘拐?事件の大筋と現場の印象のちぐはぐさから真相に辿り着く竜崎。だがしかし、第二方面本部長の弓削がメンドクサイ。そして遂に、野間崎が覚醒?「やってみましょう。お任せください」あの野間崎が初めて光った瞬間である。弓削については「根回しには役立つだろう」って、そのくらいしか使い道ないって言ってるよね。しかもその根回し失敗してるし。事実しか口にしない竜崎だけに、辛辣(笑)。今回も、現場からの揺るぎない信頼に力をえた竜崎です。面白かった!
読了日:02月25日 著者:今野 敏

北北西に曇と往け 7 (青騎士コミックス)北北西に曇と往け 7 (青騎士コミックス)感想
本棚の関係で紙本は一度手放してしまったのですが、ちょっと続きが気になったのでKindleで読んでます。三知嵩の過去をよく知らないことに気付いた慧が、分かれて生活していたころの三知嵩の周囲の人間関係を調査する。見えてきたのは明らかに普通とは異質の、弟のありよう。三知嵩はいつからあんな能力を開花させたのか。
読了日:02月24日 著者:入江 亜季

宰領―隠蔽捜査5― (新潮文庫)宰領―隠蔽捜査5― (新潮文庫)感想
「その願いを叶えてご覧にいれましょう」神奈川県警SISの係長が竜崎に言う。現場に任せ、その責任は負う。それが上に立つ者の為すべきこと。決して竜崎が狙ってるわけではないが現場を味方につける真骨頂。大森署管内でおきた現職衆議院議員に絡む殺人および誘拐は、犯人が横須賀に潜伏したために、神奈川県警と警視庁の合同捜査となる。しかし、警視庁と神奈川県警は言わずと知れた犬猿の仲。横須賀の前線本部の指揮を任された竜崎もさすがに手を焼くが。
読了日:02月24日 著者:今野 敏

選択 隠蔽捜査外伝選択 隠蔽捜査外伝感想
短編。竜崎の娘の美紀ちゃんのお話。年相応の一生懸命な女性の瑞々しさが良いです。竜崎が電話を一本掛けたのかな?多分そうだろう。そういうことを嫌いそうで、ちゃんとやるのが竜崎の良いところ。
読了日:02月24日 著者:今野 敏

空席 隠蔽捜査シリーズ (Kindle Single)空席 隠蔽捜査シリーズ (Kindle Single)感想
竜崎が神奈川県警に異動した日、次の署長の着任に遅れが生じて、大森署は署長不在の空白の一日が生じてしまった。そんな時にひったくりの緊急配備がかかったところで管内でタクシー強盗が発生。2件の緊配はさすがに対応不能だが、そこに野間崎が意趣返しのつもりかごり押しに乗り込んでくる。対応に窮した課長と副署長は・・・。竜崎が去った後の大森署の小話です。だがしかし。今時「あら、よろしくね。〜よ」って、クラブのママじゃあるまいしそんな自己紹介する女性管理職がいるのか?もはや、ざあます言葉くらい死語だろ!!
読了日:02月24日 著者:今野 敏

自覚―隠蔽捜査5.5― (新潮文庫)自覚―隠蔽捜査5.5― (新潮文庫)感想
失敗するとまず叱責されることを連想し、できるだけ穏便に上司に報告したくなる。そのために情報を整理してから良い要素を揃えて上司に報告したいし、材料を集めるまでは報告したくない。そんな葛藤が手に取るよう。だが悪い情報ほど早く上げろというのが危機管理の基本。そのこころは早く対策を取るためであって、責任追及のためではない。だけど、大抵の上司は叱責するんだよな(T-T) 下の者が上を信頼できていないと悪い情報は上にはなかなか上がっていかない。 そんなお話など、部下の目からみた竜崎節が光る短編集。
読了日:02月22日 著者:今野 敏

疑心―隠蔽捜査3― (新潮文庫)疑心―隠蔽捜査3― (新潮文庫)感想
あなたちょっと書店にいって『隠蔽捜査』って本を読んでいらっしゃい。恋愛は犬猫でもできるって主人公がいってるわよ。と思わず言いたくなるような突然のフォール・イン・ラブ(笑)だ。読んでるこっちがびっくりだよ。あまりにも竜崎がアワアワしているので、こっちまで赤面しそう。わたしこういう恋愛モノは苦手だわ〜〜〜〜〜と思って、つい4巻を先に読了してしまった。だがしかし、変人竜崎は立ち直りも早かった。今回は米国大統領の来日にともなう警備案件。誰の陰謀か竜崎が警備の方面本部長に抜擢。そして羽田空港でテロの気配が?
読了日:02月20日 著者:今野 敏

転迷―隠蔽捜査4― (新潮文庫)転迷―隠蔽捜査4― (新潮文庫)感想
「胸騒ぎがする」平穏な大森署で副署長が発する静かな言葉が嵐の到来を予告。その夜、管内で続いていた放火が住宅火災になる。隣の大井署では殺人事件で捜査本部が立ち上がり、大森署管内のひき逃げは計画殺人の様相に。娘の彼氏がカザフスタンで飛行機事故という報に外務省の知人の伝手を使えば相手は国際情報官室だし、捜査の邪魔をされたと麻取が所長室に怒鳴り込み(笑) 。これをまとめていなせるのは流石に竜崎しかいない。伝家の宝刀・正論突破で各方面の毒気を抜きつつ、錯綜する状況を整理し、最後は二つの捜査本部を仕切る。
読了日:02月20日 著者:今野 敏

隠蔽捜査 (新潮文庫)隠蔽捜査 (新潮文庫)感想
あなたは変わってる。変人。唐変木。散々な言われようだが、通常人は本音とタテマエの本音を大切にするところ、タテマエ至上主義?の竜崎に奉られた評価。東大受験、結婚、男女不平等(?)。しかし読み始めからの竜崎の印象がどんどん変化していく。ってかこの描き方は著者のあざとさを感じるな。警察官による連続殺人を公表するか隠すかの組織内抗争。組織の利益を最大化するためには姑息な隠蔽に走るべきではない。それが結局は身を保つ事になるし、現場で必死に働く捜査員のためにもなる。犯罪捜査ではなく、組織論。面白い。
読了日:02月16日 著者:今野 敏

果断―隠蔽捜査2― (新潮文庫)果断―隠蔽捜査2― (新潮文庫)感想
なぜか2巻目から読む。色々と欠点もある男だが、竜崎のその公務員としての矜持と信念と行動力に惹かれた。自分の常識が世の中とズレている。おかしな方ではなく、原理原則や合理性の方に強くズレている。だから組織慣行とか内部事情みたいな「常識」の方は踏み外す。その踏み外し方が爽快で心地よい。息子に東大受験を強要したり、家の中では縦のものを横にもしないような亭主関白ぶりは、いくらなんでもこの21世紀に?とは思うが、まあ、妻がそのような男に育てたと言えなくもない。権限の委譲についての話でもある。いかに部下を動かすか。
読了日:02月11日 著者:今野 敏

モーメント 永遠の一瞬 20 (マーガレットコミックス)モーメント 永遠の一瞬 20 (マーガレットコミックス)感想
ラスト近くまで完結巻を読んでいると思っていなくて、終わってしまうことに気付いてびっくりした。なんと10年読み続けてきた。ソチ五輪もずいぶん前になってしまった。長い時間をかけて雪がソチまでの道のりで大人の女性になったように、現実ではあの時はまだ10代で可愛買った羽生君も、今や立派な成人した男性になった。スポーツ選手の人生や困難やDVにも焦点を当てた。少女漫画で描かれる女性の精神性も例えるなら『愛のアランフェス』から『白のファルーカ』を経て、『モーメント』まで成長した。女性が自立を獲得する道程を見ているよう。
読了日:02月10日 著者:槇村 さとる

幼女戦記 (29) (角川コミックス・エース)幼女戦記 (29) (角川コミックス・エース)感想
この巻は、危なげなく安心して読めました。ヴィーシャとのほんのり百合風味も、心和む。
読了日:02月09日 著者:東條 チカ

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