2017年6月4日日曜日

0039 女王陛下のユリシーズ号

書 名 「女王陛下のユリシーズ号 」 
原 題 「H.M.S ULYSEES」1955年
著 者 アリステア・マクリーン
翻訳者 村上 博基
出 版 早川書房 1972年1月

 この本のタイトルについては有名な話だとは思うが、一応書かないと気が済まないので書いておく。第二次大戦中のイギリス国王は、ジョージ6世(エリザベス2世女王の父)だ!女王ではない。刊行当時すぐに指摘があったはずだと思うのだが、あからさまな間違いなのに、訂正出来ない事情でもあったのだろうか?「軍艦ユリシーズ」で良かったのにな。
 さて、本題である。
 直前の航海から帰還直後、港内に停泊中に、一水兵の不服従から端を発し、水兵達の反乱が起こる。それは、繰り返されてきた過酷な任務に堪えかねてのことだった。自艦内での鎮圧は不可能とみて、近くに停泊する戦艦《デューク・オブ・カンバーランド》の海兵隊の派遣をたのみ、ようやく鎮圧に至る。その失態を問責される、ティンドル提督とヴァレリー艦長。そして、次の任務を告げられる。

 「ユリシーズは、あー、名誉回復の機会を与えられたと思っていい」

 このムルマンスク行きの輸送船団〈FR77〉は、ユリシーズに対する懲罰だった。

 恐るべき荒天の北極海。喀血を繰り返し、もはや自力では鉄扉を開閉したり、梯を上る力もない艦長は、それでも自分に鞭打って極寒の中乗組員たちを巡回する。
 襲い来る敵。空襲、Uボート。次々に荒れ狂う波間に沈んでいく僚艦。被弾して味方を巻き込む可能性のある味方輸送船の撃沈を命じられた若き水雷兵ラルストンの悲劇。敬愛する艦長を支える副官ターナー。乗組員の運命を案じながら、力尽きて息を引き取る艦長に泣かずには居られない。
 北ソ連航路を繰り返し護衛してきたユリシーズは、満身創痍で歴戦の老艦の風格だが、実は当時最先端のレーダー装置をそなえた最新鋭巡洋艦である。それが数度の航海でボロボロになる冬の北極海の非情。極限状態に置かれた乗組員たちの最後の抵抗(不服従)を軍紀に問い、より過酷な死の航海に送り出す海軍本部の無情。その中で、なぜか僚艦サイラスの存在に心が温まった。せめてあの船が最後まで生き残ってくれて良かった。

 ちなみに、表紙は新装版である。イラストは変わりないが、題字が少しオシャレになっている。この際、タイトルも直せばよかったのに・・・・・な。
 このイラスト、一瞬何が描かれているのかわからないくらいごちゃごちゃしているが、見れば甲板に突っ込んだドイツ空軍機の尾翼が2機、めちゃくちゃに破壊された砲塔、倒れた煙突、傾いたマスト、波に洗われる艦尾、爆発炎上する前部甲板、攻撃を受けてめちゃくちゃになったユリシーズ最後の姿であった。

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