2023年6月25日日曜日

0434 カササギの王〜カササギの魔法シリーズ1〜 (モノクローム・ロマンス文庫)

書 名 「カササギの魔法シリーズ1 カササギの王」
原 題 「THE MAGPIE LORD」2017年
著 者 KJ・チャールズ    
翻訳者 鶯谷 祐実    
出 版 新書館 2022年12月
文 庫 290ページ
初 読 2023年6月24日

ISBN-10 4403560512
ISBN-13 978-4403560514
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/114512453

   この本を読むなら、まずはかささぎの画像をググって、この鳥の姿形を目に焼き付けてから読み始めてほしい。羽根と尾を広げて飛んでいる姿が非常に美しい、黒と白と青の羽が極めて印象的な鳥です。飛んでいる姿をネットで探していたら、こちらのブログの写真が素晴らしかったので →「日本全国の山・川・海に生息している野鳥達に会えるサイト」

 ついでに、この本と同じ年に原作が上梓されてベストセラーとなっている『カササギ殺人事件』にも登場する“カササギの数え歌”も予備知識をもっているとなお良い。
「カササギの数え歌」は17世紀まで遡る伝承で、鳥の数を数えて吉兆をうらなう子供の遊びうたのようなものらしい。子供の頃に靴を前に蹴り投げて、裏になるか表になるかで明日の天気をうらなった遊びのようなものか? カササギは烏の一種の比較的大型の鳥で、日本にも広く生息しているが、ヨーロッパでも日本の鳩や烏並みに普通にいる野鳥らしい。翻訳としては、「一つ」よりは「一羽」のほうが良かったかも?
ストーリーのあちこちで、結構効果的にこの数え歌が使われている。
 この本の冒頭に載っている数え歌は以下を参照。

一つは哀しみのため
二つは歓びのため
三つは女の子のため
四つは男の子のため
五つは銀のため
六つは金のため
七つは明かしてはいけない秘密のため
八つは海の向こうへの手紙のため
九つはとても誠実な恋人のため 
KJ・チャールズ. カササギの魔法シリーズ(1)カササギの王 (モノクローム・ロマンス文庫) (p.10). Kindle 版. 

 さて、時は19世紀英国。17歳で英国から放逐されて以来、上海で生き抜き貿易商としてのし上がっていたルシアン・ヴォードリー(37歳)は、伯爵だった父と、跡継ぎの兄の相次ぐ自殺でクレーン伯爵の爵位と所領と財産を継承することになり、20年ぶりに英国に帰国した。しかし、冷血非道だった父と兄を殺したと思しき呪いがルシアンの身にも及ぶ。ルシアンは英国のシャーマンである「能力者(プラクティショナー)」を頼り、彼の元に派遣されて来たのが、痩せた小男のスティーブン・デイ。しかし、彼の両親はヴォードリーの父と兄によって非業の死を遂げており、スティーブンはヴォードリーの血筋を恨んでいた。図らずも親の敵であるヴォードリーの血縁者を助けねばならなくなったスティーブンの心中は穏やかではないが、それ以上に、ヴォードリーの血族に向けられた魔術による呪いは邪悪なもので、スティーブンは看過することができない。小柄だが印象的な琥珀色の瞳と力を秘めた手を持ったスティーブンは、英国の超常能力者を束ね、違法とされる魔力の行使を取り締まる「審犯機構」の「審犯者(ジャスティシアー)」だったからだ。
 という感じで、ルシアンとスティーブンが、反発しつつも惹かれあいつつ、ヴォードリーの屋敷とルシアン自身に幾重にも掛けられた呪いを解しながら源を辿っていく。
 読んでいて“審犯者”などの造語の座りが悪くて馴染めなかった、というのは傍に置いておいて。
 空気が濁って動かない、陰気で湿っぽい石造りの古い屋敷、座り心地の悪い馬車、陰湿な執事や召使い、淀んで力を失った呪われた土地、総じてゴシックロマン調というか、いかにも英国っぽい陰鬱な雰囲気の中で進行する黒魔術。
 ではあるのだけど、要所要所で地崩れするみたいにルシアンとスティーブンの2人がロマンス方向に雪崩れ込む(笑)。その唐突さで一瞬、目眩のようにくらっとして意外にもこれが面白い(笑)。
 魔力絡みの本筋は、ルシアンのご先祖初代クレーン伯爵が、能力者の律法を築いた“カササギ王”と呼ばれた稀代の能力者だったことが判明したあたりから、これはルシアンも能力に目覚めるのか、とか、いろいろな可能性がちらちらと頭を掠めて、焦点が定まらずにバタバタしている間にクライマックスになって、どたばたと片付いてしまった。個人的には、もっとドラマティックに盛り上げてもよかったのに、と少々物足りなかった気がする。しかし、あっちの方は途中散々お預けを食らったり、スティーブンの葛藤やルシアンの男振りも素晴らしく、ラストで大いに盛り上がる。カササギが飛び回るラストがとくに印象的。ストーリーとしては★三つくらい、キャラクターと恋愛に関しては★五つ。次作を期待して間違いなし。
 なお、カササギの刺青にまつわる掌編も読む価値大いにあり。最後のお楽しみに♪

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