2024年9月23日月曜日

0507 人形遣いの影盗み

書 名 「人形遣いの影盗み」
著 者 三木 笙子       
出 版 東京創元社 2011年2月
単行本 246ページ
初 読 2011年2月
ISBN-10 4488017665
ISBN-13 978-4488017668
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/123233952
《文庫》
出 版 東京創元社 2013年9月
文 庫  316ページ
ISBN-10 448842113X
ISBN-13 978-4488421137


 明治40年代を映しとった短編連作「帝都探偵絵巻」の3冊目。このシリーズの初読は10年以上前(新刊だった頃)なのだけど、そのときよりも、再読した今のほうが感動が大きい。ミステリータッチではあるが、謎解きよりも、人々の優しさや、良かれと思った気持ちがすれちがったとき心に堪える淋しさ・哀しさや、それを埋めよう、癒やそうとする人間模様に、切なさを感じる。なにより、人は誠実に、真摯に生きるべきなのだというメッセージがある。著者の三木笙子さんの生真面目な心ぶりを感じる。一篇一篇が美しくて、それぞれに味わいがある。

第一話 びいどろ池の月
 邸内に水を引き込んで作った池の周りに部屋や渡り廊下を配し、水郷の雰囲気にガラスをふんだんにあしらった茶屋は、想像するだにどこか異国情緒が漂う、妖しい異世界のようだ。束の間、世知辛い世の中を離れて茶屋に遊ぶ男たちともてなす芸妓、池に沈んで密かな光を映すびいだま。三味線の弦を撥がはじく硬質な音や、芸妓の唄声、興の乗った客の声が映画の背景のごとく聞こえてくる。
 事件は芸妓の花竜の目を通して、初め散漫として捉えどころがないが、礼と高広が種明かしをするに及んで、スッキリとまとまった姿を見せる。ラストの親子の会話のきりりとした心情が良い余韻を残し、父のセリフの切なくほろ苦い後味が良かった。

第二話 恐怖の下宿屋
 帝都一の下宿屋は、泥棒などの犯罪者にとっては恐怖の下宿屋でもあった、と。いながらにして犯罪者に自主させる高広の下宿の大家、桃介さんの話。茄子づくしの食事がとにかく美味そうだ。礼は果たして本当に高広に会いにいったのか?? 腹が減ってただけのような気がするぞ?

第三話 永遠の休暇
 松平家のお家騒動、というか兄弟愛。ちょっと風呂敷が広すぎて、頭が付いていかなかったけど、実際ご長男はどこにいるのだろう。それにしても描く絵に自分一人しかいない絵。しかもそんな絵ばかりとは。本棚の中はロビンソン・クルーソーだけ。この人の孤独を思う。実際のところ島流しであるし、なにも謎ではなく、ただ、隠したかっただけ。と、同時に礼の恩師である洋画家、嵯峨画伯の選択。礼の絵が日本画でも油彩画でもなく、アールヌーヴォーのデザイン画であることを知る。たとえば、一條成美(いちじょう せいび)のようなイメージだろうか。

第四話 妙なる調べ奏でよ
 礼が詐欺師に騙されている? 高広の過保護パワーが炸裂するこの話。礼は騙された訳ではなく、騙されたかった。美しい話、心躍る夢にひととき身を委ねたかったのだ。礼の気持ちが切ない。この話は大好きだ。いっそのこと、ホームズの翻訳版権を至楽社でとってしまえよ。高広が翻訳して、礼が挿絵を描いて、帝都マガジンで連載してしまえよ!!と思ったのは私だけではないはず。 実際には、シャーロック・ホームズは明治30年代にはぼちぼちと翻訳され、日本でも紹介されていたようだが、登場人物が日本人に置き換えられていたり、日本人にも読みやすいように翻案されていたりしたらしい。もし帝都マガジンで連載していたら、きっとドル箱になったのに。残念だ。

第五話 人形遣いの影盗み
 ジャワの影絵芝居、ワヤンクリが題材。ロータスが登場。
 ジャワの影絵人形師は黒魔術の使い手でもあり、影に宿った人の魂を抜き取って、その人を呪い殺してしまう。そんな思い込みに捕らわれた御婦人が、高広の義母に相談し、相談を受けた妻の名誉を重んじた高広の義父が、高広に解明を依頼する。なぜか、礼とセットにして。
 突然高広の下宿に酒瓶片手に訪れて、妻の女心が判らん、と愚痴をいう高広父が、相変わらずかわいい。事件の仕掛けそのものは、かなり大がかりでそれをする意味があるのかな?とかもうちょっと合理的で確実な手があるのでは、などとつい思ってしまうが、そこに突っ込むのは無粋。これはロータスの舞台なので、派手になるのは致し方ないのだと理解する。

第六話 美術祭異聞 ※この話は文庫本とKindle版のみの収録
 ふたたび、森恵くんと友人の唐沢君が登場。美術学校で久しぶりに開催される美術祭の係になったという2人が、至楽社の高広と礼のところに、学校当てに届いた脅迫状についての相談を持ち込む。友情とライバル意識と芸術を愛する心。だしにされた恋心がちょっと可哀想だが、それが次の愛に代わってくれたら、と願わないでもない。

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