2022年9月11日日曜日

0390 エデン (新潮文庫)

書 名 「エデン」
著 者 近藤 史恵        
出 版 新潮社 単行本 2010年3月/文庫 2012年12月  
文 庫 318ページ
初 読 2022年9月11日
ISBN-10 4101312621
ISBN-13 978-4101312620
読書メーター 
https://bookmeter.com/books/5689122

 前作で、スペインのプロ・コンチネンタルのチームに移籍した白石誓ことチカは、2年間スペインで活動した後、今はフランスのプロチームにいる。チームのエースは前回のツール・ド・フランスの総合第五位のフィンランド人ミッコで、チカは、アシストとして手堅くミッコを支えている。お互いに寡黙な異邦人同士だが、相性は悪くない。
 チカは、次の世界選手権に日本代表として伊庭とともに出場するそうで、名実ともに日本のエースだ。
 そして、今年もツール開催の時期となったが、ここにチカのチームに大きな暗雲が立ち込める。スポンサーの撤退の決定。このままだとチームは解散になってしまう。チカは次の契約先が見つからなければ走る場を失ってしまう。チームの存続、それぞれの身の振り方、監督、メンバーそれぞれの思惑で、チームメンバーの間が軋みはじめ、居心地の良かったチームがギクシャクしはじめる。
 やっと手にしたプロチームと、ツールへの参加も、今年限りになり、下手したら日本に帰らなければならなくなるかもしれない。暗澹とした気持ちを抱きつつも、ミッコをサポートし仕事に徹するチカが、主君に殉ずるサムライみたいでなんとも日本的に思える。

 ストーリーは、前回ほどの激しい出来事はないが、三週間かかってフランスを一周する大レースに1日で選手たちと一緒に引き回される力技。(笑)
 そして、このレースに、フランス人の期待を一身に背負う、まだ若いエースのニコラとその親友でアシストのドニの物語が並走する。
 移民問題や人種・民族差別、経済格差などの社会問題を背景に、プロスポーツにというよりはツールに付きまとうドーピングの問題、どうしようもない実力の差と嫉妬、羨望など、きれいごとではすまされない世の中や競技の負の側面も背負いながら、それでも全身全霊でロードレースに打ち込む選手たち。
 
 それにしても、一万円かそこらで安価な自転車が手に入る日本の環境は恵まれているのか否か。そういえば、ヨーロッパの街角にはあまりママチャリは似合わない。そもそもヨーロッパが、自転車といえばスポーツサイクルで相当高価なものなのだ、という自転車文化だとは、このたび初めて知った。
 日本でも、せいぜい数万円で買える安価なMTBとかクロスバイクをひとつ超えると、10万円台クラスになる。
 生粋のフランス人のニコラの家庭が自転車など買えない貧乏な家庭で、アルジェリア移民のドニの家庭は次々に自転車を買い与えることができる裕福な家庭だ、というのも現実に存在する皮肉なのだろう。友達から次々に高価な自転車を貰う、という行動はちょっと不思議。日本人のメンタリティだったら「そんな高価なものをいただくいわれはありません!」って固辞する場面になりそう。なんて、この本を書いているのも日本人なんだから、そこに突っ込んでもしょうがないか。

 なんにせよ、ドニを失ったニコラはプロとして気持ちを立て直して、来年のツールに参戦してくるだろう。チカはミッコとともに新しいポルトガルのチームに移り、前年の王者として再びツールを走るだろう。ニコラが新たなアシストを得て、翌年、チカのチームとわたり合う姿を、ぜひ読みたい。


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