2017年6月29日木曜日

0040  For Honor We Stand (Man of War Book 2)

書 名 「For Honor We Stand (Man of War Book 2)」
著 者 H. Paul Honsinger 
出 版 47North  2014年3月
初 読 2017/6/29

 完読はしていないが、未読部分は翻訳が出た時のお楽しみに取っておく(言い訳)。
 戦艦ものの醍醐味と戦術・戦略の妙、友情と信頼、艦内問題への対処、部下の指導育成、トラウマの克服、宇宙軍的子育て、異種交流てのが撚りあわさって、二巻はさらにマックスがはっちゃけてグレードアップ。そして会話がイカしている。
 
 基本どこを拾い読みしても面白い充実ぶりだが、6章に出てくるホーンマイヤ中将の命令書がこれまた面白い(笑)。曰く
 『 上官の能力を試すな。命令を無視するな。目的地へまっすぐ行け。自分の冒険のために迂回するな』
 中将はきっとマックスのことを良く判ってるんだろうな。それにしてもマックス、一体どういう評価をされているのだ。
 1巻めでは優等生ぶりを崩さなかったマックスであるが、この巻ではかなりのヤンチャっぷりを発揮しているので、彼のこの二面性がまた面白い。
 ウォーザム・ビッグズ氏が発信したとみられる謎の暗号文を受け取り、修理中のカンバーランドを離れて、大使代行であるブラムを連れてラシード星系に向かったマックス。ラシードは政情不安な状態で、ラシード宇宙軍の支援を受けたにもかかわらず目的地に着陸することができず、ビッグズ氏との会合地点に向かうためには、散発的に戦闘が起こっている地上を移動する必要が生じた。マックスが取った手段は訓練用飛行機で敵勢力の頭上を通過すること。マックス自身は操縦に自信があるのだが、曲芸飛行につきあわされたブラムは絶叫(笑)。
 そののち、ラシードに侵攻してくるクラーグ駆逐艦隊と交戦するために、マックスはカンバーランドをラシードに呼び寄せるのだが。

 別動の艦長の元に、修理中のカンバーランドで駆けつける必要が生じた新任副長デコスタが直面した問題は補給艦からの離脱。デコスタは朗らかにマックスに報告する。
「ですがその点でクラフト少佐のご助力をいただけて幸運でした」
 という明るい副長に嫌な予感しかしないマックス。
「いやなに、補給艦の連中が退艦しやすいように、いわば、まあ “後押し” してやっただけですよ」(意訳)と片手をひらひらさせて涼しい顔のクラフト。(シェーンコップの絵でどうぞ)
 さらに「宇宙軍規則に抵触する事は何もしていない」と嘯くブラウンがドッキングを解除させるために提供した手段とは。(後日「爆弾サンドイッチ」として宇宙軍に知れ渡る。)
 自分の所業は棚に上げて、上官(自分)によく似た部下達のエキセントリックな行動に冷や汗をかくマックスにクスリとくる。

 一方で、部下を指導育成する指揮官としてのマックスも健在である。戦闘中のCICで緊張のあまり落ち着かなくなった副長に、艦橋での振る舞い方について指導する場面が秀逸。

 それ以外の士官達の成長ぶりも甚だしい。
 ラシードの暗号化された軍事機密通信を傍受し復号できるという通信長のチンの提案に対して
 「私はショックを受けている。断固としてショックだ。ラシードは友邦だ。紳士たるもの同盟国の軍事機密通信を盗み聞きしたりしないものだ。君からそんな提案を受けるなんて、愕然としている」芝居がかってるな。
 「私もですよ。断固として。実際この恥を抱えて生きていけることが驚きですよ。で、艦長。どうします? コンソールにしますか?ヘッドセットで聞きますか?」
 「コンソールにしてくれ。オープンチャンネルで」
 ちょっと違うかもしれないけどこんな感じか?1巻目でマックスのささやかな意趣返しの文面に「ひっ」とか言ってたチンの成長ぶりが頼もしい一節。
 おおむねカンバーランドの面々はこんな感じで、マックスの指導(?)のもと、のびのびと本領を発揮し、実に上官によく似た妙な行動力を示すようになっている2巻目である。
 こののち、特命を帯びてカンバーランドが編入された艦隊の司令官に、マックスがさんざん侮辱されたことに怒り心頭の乗組員たちが頼もしいことこの上ない。そしてマックスは「上官の能力を試すな」というホーンマイヤーの命令のもと、ゲリラのように(旗艦以外と)指揮系統を作り上げ、クラーグとの闘いに臨むのだ。

 ヴァーハとも新たな展開がある。カンバーランドが追撃していたクラーグ艦が、偶然ヴァーハの偵察艇に遭遇して攻撃する。ヴァーハはクラーグを凌駕する軍事技術を持っているが、単座のヴァーハ偵察艇と、クラーグ戦艦で戦力が違いすぎた。名誉を重んずるヴァーハは単独でクラーグと闘おうとするが、ヴァーハ艇の操縦士がまだ戦闘経験の浅い若者であることを見てとったマックスは、ヴァーハの若者に自分が戦士として上位者であることを示し、共同作戦を提案する。その結果、ヴァーハは象徴的な意味での獲物(肉)をマックスと分かち合う必要が生じ、その為にマックスにヴァーハの戦士名を与えることになる。「スワンプフォックス(湿原狐)」がその名前。
 このマックスが分け与えられた「肉」が、今後の戦局を大きく変更する可能性を持つ代物だった。。。。。。

 このような大きな戦争の流れのなかに、カンバーランド艦内の様々な出来事が絡んでくるのがホンジンガーの作風。
 今回の大きな艦内の事件は、圧縮エンジンの事故。マックスとヴェルナーの共闘が素敵。
 戦闘中の外殻の損傷による空気漏出に一人で立ち向かったパク少年の勇気。その勇気に報いるためにマックスが取った行動。
 幼い候補生ヒューレットへのマックスの関わり方は象徴的。きっと、ミドルトンや他の艦長達もこういう風にマックスに関わり育てたのだろうな、と思わされる。そして、その関わりの中で、マックスはヒューレットに、飲むことができる水が生成されている艦内の機器を教え、他の候補生にも教えるように言う。生き残るための知恵を幼い候補生に教えるマックスに切実さを感じる。彼らがその知識を本当に必要とするときには、自身は《サンジャシント》のシン艦長のように、もはやこの世にはいないかもしれない。自分の候補生がそんな体験をしなくても良いように艦を指揮すべく、自らに命じているに違いない。
 もうひとつ、マックス個人の大きな出来事がある。それは、訓練中の幼い候補生達に、自分の巡航艦《サンジャシント》での経験を語ったこと。もちろん自分から率先して話した訳ではなく、偶然の成り行きで語らざるを得ない状況に追い込まれたのだが。当時の自分と同じ年頃の候補生たちに語り、彼らの目と反応を通して自分の体験を振り返ることで、自分があの時どれほど強い恐怖を覚え、深く傷つけられていたか気づくのだ。そしてその気付きがもたらした安息感。候補生達にとっては、クラーグに鹵獲された巡航艦でたった一人で一ヶ月近くを生き抜いた伝説の候補生が自分たちの艦長だと知った感動と畏敬。しかし、それを表すのは言葉ではなく、尊敬を込めたまなざしと敬礼のみである。これを感動といわずになんと言おうか。お願いです。翻訳で読ませてください。


2017年6月4日日曜日

0039 女王陛下のユリシーズ号

書 名 「女王陛下のユリシーズ号 」 
原 題 「H.M.S ULYSEES」1955年
著 者 アリステア・マクリーン
翻訳者 村上 博基
出 版 早川書房 1972年1月

 この本のタイトルについては有名な話だとは思うが、一応書かないと気が済まないので書いておく。第二次大戦中のイギリス国王は、ジョージ6世(エリザベス2世女王の父)だ!女王ではない。刊行当時すぐに指摘があったはずだと思うのだが、あからさまな間違いなのに、訂正出来ない事情でもあったのだろうか?「軍艦ユリシーズ」で良かったのにな。
 さて、本題である。
 直前の航海から帰還直後、港内に停泊中に、一水兵の不服従から端を発し、水兵達の反乱が起こる。それは、繰り返されてきた過酷な任務に堪えかねてのことだった。自艦内での鎮圧は不可能とみて、近くに停泊する戦艦《デューク・オブ・カンバーランド》の海兵隊の派遣をたのみ、ようやく鎮圧に至る。その失態を問責される、ティンドル提督とヴァレリー艦長。そして、次の任務を告げられる。

 「ユリシーズは、あー、名誉回復の機会を与えられたと思っていい」

 このムルマンスク行きの輸送船団〈FR77〉は、ユリシーズに対する懲罰だった。

 恐るべき荒天の北極海。喀血を繰り返し、もはや自力では鉄扉を開閉したり、梯を上る力もない艦長は、それでも自分に鞭打って極寒の中乗組員たちを巡回する。
 襲い来る敵。空襲、Uボート。次々に荒れ狂う波間に沈んでいく僚艦。被弾して味方を巻き込む可能性のある味方輸送船の撃沈を命じられた若き水雷兵ラルストンの悲劇。敬愛する艦長を支える副官ターナー。乗組員の運命を案じながら、力尽きて息を引き取る艦長に泣かずには居られない。
 北ソ連航路を繰り返し護衛してきたユリシーズは、満身創痍で歴戦の老艦の風格だが、実は当時最先端のレーダー装置をそなえた最新鋭巡洋艦である。それが数度の航海でボロボロになる冬の北極海の非情。極限状態に置かれた乗組員たちの最後の抵抗(不服従)を軍紀に問い、より過酷な死の航海に送り出す海軍本部の無情。その中で、なぜか僚艦サイラスの存在に心が温まった。せめてあの船が最後まで生き残ってくれて良かった。

 ちなみに、表紙は新装版である。イラストは変わりないが、題字が少しオシャレになっている。この際、タイトルも直せばよかったのに・・・・・な。
 このイラスト、一瞬何が描かれているのかわからないくらいごちゃごちゃしているが、見れば甲板に突っ込んだドイツ空軍機の尾翼が2機、めちゃくちゃに破壊された砲塔、倒れた煙突、傾いたマスト、波に洗われる艦尾、爆発炎上する前部甲板、攻撃を受けてめちゃくちゃになったユリシーズ最後の姿であった。