2022年8月31日水曜日

0384 フォー・ユア・プレジャー (講談社文庫)

書 名 「フォー・ユア・プレジャー」
著 者 柴田 よしき         
出 版 講談社 2003年8月
文 庫 544ページ
初 読 2022年8月31日
ISBN-10 4062738171
ISBN-13 978-4062738170


「若」。わか。刑事だったのに汚職で懲戒免職くらった辞め警の斎藤が、今は山内練の腹心の部下に収まっている斎藤が、練を「若」と呼ぶ。
 若頭だから「若」なんだろうけど、なんか、それだけで、愛というか思慕が溢れてるんだよ。
 だけど、その男、心は他の辞め警のものなんだぜ? さらりと描いている脇のはずの斎藤の慕情が、なんとも切ないのだ。結局、保育園園長で凄腕探偵なハナちゃんが活躍するこの話は、美形で傷ついてて壊れてて、ケタケタと笑って平気で残酷な振る舞いをするあの男の物語、なんだな。だから、ここには登場しない麻生さんよ、つまらないプライドは捨ててさっさと練を抱いてやれよ、と。

 そんな練に、今日も振り回されているハナちゃんのかいがいしい努力が涙ぐましい、ハナちゃんシリーズ2冊目なのです。今作はより一層グレードアップした難題がハナちゃんを襲う。
 一回寝ただけの行きずりの男を捜してくれ、という無茶な依頼をしたのは、どこかタカビーな天然女。飛び込みで保育園を訪れた無茶な父親からやむを得ず預かった乳児が深夜の急変で救急車を呼ぶ騒ぎになり、その育児に無知な父親に罵倒され、最愛の恋人の理沙はなにか困った様子だったのだが、ハナちゃんには相談できないまま姿を消してしまい、その理沙の妹のトラブルが、理沙失踪の原因かと追いかければ、なんとまたしても殺人事件に巻き込まれる。
 その上、極悪ヤクザの山内にはケタケタと笑いながら無理難題をふっかけられ、解決の為に与えられた時間は24時間しかないのに、マトリの捕り物に巻き込まれ! 全部が全部つながって円満解決したについては、さすがにできすぎ、というかやり過ぎだろ、と思ったがそれはまあ、よい。読んでほんわか幸せな気分になるための小説だしな。
 胸の蝶の刺青で読者にちょっとどきっとさせるあたり、柴田センセは芸が細かいのお。あと、太宰治の「走れメロス」の真っクロ黒な洒落が洒落になってませんでした。今作もハナちゃんには同情しかありませんでした。頑張れ園長先生!


 

2022年8月20日土曜日

0383 フォー・ディア・ライフ (講談社文庫)

書 名 「フォー・ディア・ライフ」 
著 者 柴田 よしき         
出 版 講談社 2001年10月
文 庫 496ページ
初 読 2022年8月22日
ISBN-10 4062733064
ISBN-13 978-4062733069

 彼の名前は花咲慎一郎、愛称は「ハナちゃん」。ただそれだけで漂うほんわかな雰囲気で、そもそも大成功してるよね、この本。
 そのハナちゃんは、新宿の裏町の無認可保育園の雇われ園長で、新宿の夜の女達が預けにくる子どもたちを守るために孤軍奮闘している。保育園の経費を賄うために、睡眠時間を削って、あぶない探偵仕事を頼まれながら。
 そのハナちゃんの経歴が、じつは警視庁の元刑事で、同僚を射殺して職を追われていたり、その保育園が、某暴力団の先の組長の妾だったおばあさんが経営するものだったり、その園の建物が乗ってる土地の所有権が、某イースト興業つう超絶ブラックで反社な会社に移って、美貌の睡眠薬中毒の社長(兼暴力団若頭)に土地の買い取りを巡って顔面蹴り上げられたり、とまあ、とにかくただ事ではない。
 『聖なる黒夜』やその続編の短編では、まだ表社会と裏社会の狭間で揺れていた練も、ここでは、もはや真っ黒黒な正真正銘のヤクザである。だがしかし、その彼がチラ見せする優しさや弱さに、またそそられるのだ。ああもう、麻生さんなにやってんのよ。なんで一緒に闇落ちして、練を抱いてやんないのよぉぉぉぉぉ、という私の心の雄叫びを聴きやがれ(笑)

 ハナちゃんの事件簿、ももちろん面白いのだが、それよりも、『聖黒』『RIKO』『ハナちゃん』で構成されているこの界隈の群像が面白い。某下町のうらぶれたビルに職住共用で悶々と悩みながら暮らす硬派でホモの元刑事の探偵やら、極悪非道な美形のヤクザやら、そしてかつて大物ヤクザの愛人だった美人の医者なんかが蠢いているのだ。あ、あと私は百々井さんが結構好きだな。で、それはさておき、ハナちゃんである。

 子どもを預ける母たちから取る保育料だけでは到底園の経営は維持できないから、ハナちゃんは給料をもらうどころか、園の赤字補填のために探偵の裏稼業で稼ぐ日々。頼まれ仕事はヤクザの殴られ役に始まり、家出少女の捜索、家出少年の追跡・・・・だったはずなのに、なぜか厄介な事件に巻き込まれていく。だがそのネタがね。
 いや、これは、もっぱらワタクシ事なんだが、栗本薫の「僕らの時代」を読んだ次に、あえて「僕らの気持」を読まずにこの本を手にとったのにこのネタかよ!・・・・と。いささかげんなりしたのは事実だ。
 いや、ハナちゃん大好きです。おもしろいよ!オススメ!
 だけど、ゲイの恋愛に、往年の大漫画家ネタに、コミケに二次・・・・と、なんかトッピング盛りすぎじゃねーか?????とも思ったのだ。もう、胸焼けしちゃう。ま、面白いんだからいいけどね!


2022年8月19日金曜日

0382 新装版 ぼくらの時代 (講談社文庫)

書 名 「新装版 ぼくらの時代」
著 者 栗本 薫     
出 版 講談社 2007年12月
文 庫 448ページ
初 読 2022年8月19日
ISBN-10 4062759330
ISBN-13 978-4062759335
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/108406787   
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【旧版】
出版社   講談社  
単行本初版 1078年9月/文庫本初版 1980年9月
初 読   1983年頃?
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 「推理文壇」っていう言葉があるんですね。
 ミステリー界、ではなく「文壇」。私だけかもしれないけれど、この文壇って言葉には、えらくアカデミックで高尚で、考えようによってはうさんくさい感じがしてしまう。
 なるほど、栗本薫は処女小説でこの「推理文壇」なるものに、超新星のごとく出現したのだ。たしかに、それでけのインパクトのある、若々しく瑞々しいのに、こなれている、これは良作、もしかしたら名作かもしれん。
 高校生・大学生の父親世代に、まだ「戦争帰り」がいる時代なのだ。私自身よりもちょい前くらいの世代か。たしかに、戦中生まれだった私の父がもう数年早く生まれていたら、学徒出陣していた可能性もあったわけだ、と今ごろになって、思いのほか「戦争」は昔の話ではないのだと気付いたりもする。このあたり、初読の時にどう感じたかはちょっと思い出せない。
 ここのところ、栗本薫の晩期の作をずっと読んできて、こうして、〇十年ぶりにあらためて処女作を読むと、この段階で、ほぼ完成した作家だったのだと改めて思う。と、いうかここが絶頂期なんじゃないのか? ただし、語彙の使い方、漢字のひらき方に(私の感覚からすると)妙なものもあり、そういったところを、処女作からもてはやされて「大目に見てもらえ」て、業界から持てはやされて、これでOKと絶大な自己肯定感を得てしまったのが、薫サンの長い凋落の始まりだったのだろうか。ここで、この時に、キビシイ担当編集さんにがっつり、小説書きのお作法を仕込んでもらっていたら・・・・・いや、仕込まれたのだろうか? 書き上げたら読み直してみなさいとか、推敲しなさい、とか。漢字の使いかたとか? 推敲する習慣だけでも、きちんと身に付けてくれていたならば、早書きだけが能の作家には成り下がらなかったろうに。(迂闊、軽率は直らなかったかもしれないけど。)

 テレビ局、マスコミ、スター、などというキラキラした世界が最初から好きだったんだな、とも思う。のちの「島サン」に通じる原田ディレクターや、「良」なんかのスターにつながる若くて脆弱なスターの造形も、「探偵」役の造形も、原型は全部ここにある。それに、後の一連の東京サーガで登場するテレビ局「KTV」が、「極東テレビ」だということも再確認。

 ストーリーは文句なく面白い。タイプの違う2人の探偵役の役どころも面白い。トリックというか、トリックは無かった、というかのストーリーのひねりもなかなか練れている。
 戦後の焼け野原から再興したトウキョウの街と、それを汗水垂らして作りあげてきた「大人」の矜持、その押しつけに反抗するこども、反抗の証しともいえるロックと長髪。そしてやがて「もう若くないんだ」と彼らも髪を切って就職していくんだな、と某名曲を思い出す旧版「ぼくらの時代」と「ぼくらの気持ち」の表紙がなつかしい。なにはともあれ、面白かった。

2022年8月14日日曜日

0381 身も心も〈伊集院大介のアドリブ 〉 (講談社文庫)

書       名 「身も心も〈伊集院大介のアドリブ 〉」 
著    者 栗本 薫    
出    版 講談社 単行本:2004年8月/文庫:2007年3月
文    庫 496ページ 
初       読 2022年8月14日
ISBN-10 4062756714
ISBN-13 978-4062756716

 伊集院大介、ジャズの貴公子矢代俊一に出会う。
 言わずとしれた(?)栗本薫の一大シリーズ「伊集院大介」の事務所に、「キャバレー」の矢代俊一が、事件の依頼に訪れる。最初の出版は2004年。東京サーガとしては、「朝日のあたる家」完結後、次に書かれた作品か。物語の時点は俊一39歳。
 作品世界の時期的には俊介氏の『嘘は罪』と同時期。ちなみにこの話には関係ないが、今西良は服役中。俊一を伊集院大介の元に手引きした竜崎晶は伊集院大介シリーズの準レギュラーなのかな?伊集院大介シリーズは、大昔に一冊くらい読んだ気もするが、以降まったく読んでいないので、登場キャラはよく分からない。なにはともあれ、薫サンが「東京サーガ」と大括りにしている作品世界の、「伊集院大介ブランチ」と「キャバレーブランチ」がこの作品でクロスする。

 ちなみに、伊集院大介は、痩せ型長身、低血圧、寝食にはあまり興味がないタイプのようで、これは栗本作品によく登場する類型。矢代も、透もおんなじタイプ。薫サンはこういうタイプの男性がひとつの理想なんだろう。(ひょっとすると薫サンのダンナ様もこのタイプではないか?と写真を拝見して想像しているのだが。)

 さて、矢代俊一が大介の事務所に持ち込んだトラブルは、脅迫・ストーカー案件。ライブの前になると必ず「〇〇を演奏するな」という脅迫が届くようになった、という。ストーカー慣れしている俊一も、時間が経つにつれだんだん気味が悪くなってきて、あげくにライブの最中に照明が落下し、ピアニストの高瀬が大怪我をするに及んで、さすがに看過できなくなった模様である。しかし、これまでの経験から警察が取り合ってくれるとも思えず、晶のつてで、「名探偵」のところに事件を持ち込んだ。と。

 事件としては、結構簡単だ。名探偵・伊集院大介でなくとも
✓犯人は、矢代のスケジュールを詳細に把握している。(外部に未公表な情報を把握)
✓矢代本人に対する強い執着がある。
 ってだけで、だいたいあたりがついてしまう。
✓照明器具への細工も、ちょっとプロっぽい、というか会場や設備を熟知していないとできなさそう。(ただし、本当に事件なのかどうかは、中盤すぎても不明)
って時点で、容疑者2〜3人に絞れちゃう。あとは、予想外の伏兵がいて大どんでん返しがあるかないか?
 
 あと、細かい表現について、薫サンにとやかく言っても詮無いのは分かってるんだけど、どうしても気になってしまったことがいくつか。
✓「〒ポスト」は、さすがに小説の文章として無いんじゃあないか?しかもこれは、マンションのエントランスなんかにある個人の郵便ボックスのことだ。道ばたにたたずんでいる赤いヤツのことではない。パソコンの予測変換にやられたか?
✓「エアージンなんてやったことあるのかなあ」とか俊一が言ってますが、数年後の岡山のライブで39度の熱をおしてステージにたってぶっ倒れたのは、この「エアージン」を演奏していたとき。結構演奏している風だったけど、これ以降第三次矢代俊一グループを結成して(まともなピアノとベースを入手できてから)レパートリーに加えたのかな?
✓俊一の天敵ジャズ評論家の「松本温」ずっと、なんて読むんだろうと思っていたら、冒頭の登場人物紹介で「温(おん)」とふりがながある。やっと分かった♪と思っていたら、作中で「あつし」とルビ。どっちだよ(怒)

 で、この本であるが、正直、伊集院大介の推理が光るミステリー、ではなく、ひたすら、矢代俊一のキャラクターを、伊集院大介や金井恭平が語り上げる、そっちのほうがメイン。大方のページ数はこれに費やしている。(推定九割!) 謎解きは一向にすすまず、そもそも大したことなさそうな予感すら漂う。要は矢代俊一賛美に、伊集院大介が駆り出されたかたち。こりゃあ、大介ファンは面白くないだろうなあ。それとね。

 中盤のカネさんのセリフ。
『あいつはもともと金持ちの坊ちゃまだったし、いろんなものを最初っから、持ちすぎてたんだよ。だから、カネも欲しくねえし、野望もない。ただ臨むものはもっともとてつもねえ野望———音楽とひとつになりてえ、っていう野望だけでさ。そのことがわからねえ俗世の人間は、本当は矢代俊一に近づかないほうがいい。たいてい、さいごのさいごにしっぺ返しをくらって、えらく裏切られたような気分になるからな。そのことで、とても怒る、それこそ激怒するやつもいるよ。そういうやつらは、矢代にだまされた、と思う。てめえらの強欲や、表面のうわっつらしか俊を見なかったことは棚にあげてな。————』

 なんとなく、薫サンは自分を重ねてるんだろうな、という気がする。“自分には才能がある。求めるものがある。それは凡俗とは違うんだ、だれも自分を理解してくれない、それは自分が悪いのではなくて、周りが俗だからなんだ”って自分を肯定したい気持ちが一杯、いっぱい、溢れてる。

 私の薫サンへの関心の一つは、「なぜ、それこそ小説家デビュー前から連れ添ってきた良ではなくて、俊一に乗り換えたのか」なんだけど、思えば『朝日のあたる家』で、良は自分が本当の歌手でないことに気づき、そして自分は本当の歌を歌いたい、と自覚して、自分の意志で、茨の道を進むことを選択するわけだ。良は、薫サンが連れ添うには厳しすぎる選択をしてしまったんだな。薫サンにはもはや、良は書けなかったんだろう。だから、薫サンは良をうっちゃって、「天才」って甘い夢を一緒に見続けることができる俊一にお乗り換えしたんだろうと思うよ。
 そう考えてみると、薫サンの描く主人公達はたいてい、溢れる異才を糧に生きてる人達なのかもしれない。だから、良が努力の道を選んだ瞬間に、もはや、良は薫サンに捨てられる運命だったんだろう。私はどっちかっていうと透押しで、良はどうでもいいのだけど、透のためにも、良をよい方向にもって行ってあげたかったと思う。
 
 いずれにせよ、この本は、矢代俊一をよいしょっともういちど表舞台に持ち上げるために、伊集院大介をダシにした。そんな話だと理解しておりますです。


2022年8月11日木曜日

0380 猫に知られるなかれ (ハルキ文庫)

書 名 「猫に知られるなかれ」
著 者 深町 秋生       
出 版 角川春樹事務所  2016年10月
文 庫 365ページ
初 読 2022年8月9日
ISBN-10 4758440441
ISBN-13 978-4758440448
読書メーター  https://bookmeter.com/reviews/108223639
  
Cedant arma togae, concedar laurea laudi.
武具は市民服に従うべし。月桂冠は文民の誉れに譲るべし。「キケロー選集〈9〉哲学Ⅱ」

 戦後の日本の再生のために、旧日本陸軍諜報部将校らにより密かに結成された諜報機関CAT。その意は「武具は市民服に従うべし。」

第一章 蜂と蠍のゲーム
永倉一馬を藤江忠吾がCATにスカウト。永倉は抵抗しつつも巻き込まれ、GHQ将校を狙う旧陸軍残党との闘いに臨む。

第二章 竜は威徳をもって百獣を伏す
藤江忠吾、本名平塚三郎 長崎出身。陸軍中野学校出身の情報士官。敗戦後の引き上げてきた鹿児島港でMPに捕らえられ、東京に連行される。散々抵抗して血の気の多い米軍情報将校を煽り、願わくば(日本軍人として)銃殺されることを期待したが・・・・。

第三章 戦争の犬たちの夕暮れ
それぞれの敗戦。業火に巻かれて死んだ市民。命からがら日本で生き延びたもの。遠く大陸で死んだもの。なんとか復員できたもの。そして、さらに遠くの極寒の地で辛酸を舐め尽くしたもの。日本の焼け荒れ果てた姿を目の当たりにして願うのは、ただ、肉親の無事だった。
 
第四章 猫は時流に従わない
池袋界隈の闇市での再会。永倉の幼なじみであった元大尉が登場した時点で、イヤな予感しかしない。だがしかし、永倉が良い漢だ。いくらでも続編が書けそうな話ではあるが、続きは出ていないようだ。このくらいの余韻で終わっていたほうが良いのかも知れない。

【この本を読みながら、ついでに仕入れた雑学】
 敗戦直後の焼け野原の東京で、飢えながら必死に生き延びる日本人と、君臨する占領軍。米軍に接収されて通りの名前まで変わった丸の内界隈。(冒頭の丸の内の地図は必見。)代々木の旧陸軍練兵場は、米軍に接収されて中位の米軍将校のための住宅「ワシントン・ハウス」に。内側は日本政府の財政負担で立てられた日本製の米風住宅、外周を塀で閉ざされたこの地区は、サンフランシスコ平和条約後も都心近くの在日米軍住宅として残ったが、後に東京オリンピックの際に日本政府に返還され、米軍住宅はそのままオリンピック選手村として利用された。現在の代々木公園、国立代々木競技場、国立オリンピック記念青少年総合センター。朝鮮戦争当時、アメリカ合衆国大使館軍事援助顧問団(MAAG)の職員として来日し、ワシントン・ハウスに住んでいたジョン・ヒロム・キタガワが、日本人少年達をあつめた少年野球チーム「ジャニーズ少年野球団」を作り、ここから初代ジャニーズの4人が芸能界デビューし、喜多川はジャニーズ事務所を設立。東京のそこここに、今は目に見えない「敗戦後」の日本の記憶がある。まだ、戦争の記憶が新しかったはずの子どものころより、今のほうが、戦後の時間のつながりを濃く感じるのが不思議だ。

緒方竹虎(ウィキペディアより)(明治21(1888)年1月30日生—昭和31(1956)年1月28日没)
 日本のジャーナリスト、政治家。朝日新聞社副社長・主筆。自由党総裁、自由民主党総裁代行委員、国務大臣、情報局総裁、内閣官房長官、副総理など歴任。
 戦前は朝日新聞社の主筆、副社長を務め、2・26事件にも遭遇。戦中の1944年、国家の情報宣伝を行う情報局の総裁に就任。戦後は公職追放を受けたが、解除された後、衆院選に当選。第4次吉田内閣の内閣官房長官に就任し、保守本流の形成に尽くした。首相候補とも言われたが、56年に急死。

2022年8月7日日曜日

0379 警官の道(単行本)

書 名 「警官の道」 
著 者 呉 勝浩, 下村 敦史, 長浦 京, 中山 七里, 葉真中 顕,
    深町 秋生, 柚月裕子 
出 版  KADOKAWA 2021年12月
単行本 328ページ
初 読 2022年8月7日
ISBN-10 4041120764
ISBN-13 978-4041120767
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/108130197   

1葉真中顕 「上級国民」
 N県警本部警備部警備一課、「公安」に所属する渡会。「ばっかじゃねえのか!」と吐き捨てた仕事の中身は、「上級国民」が起こした交通事故の後始末。だがしかし「下級国民」のしたたかさ、しぶとさと、そうでなければ生き残れないとでも言いたげな切なさに唸る。そして、ラストのちゃぶ台返しに驚愕。上級でも下級でもない、中級としか言いようのないしがないノンキャリ公務員の主人公がいささかあわれだ。

2中山七里 「許されざる者」 
なんと、2020(実は2021)東京オリンピック。閉会式の演出家が、開会式当日に撲殺死体で発見される。とてもいい人だった、と口々に関係者から聞かされるが、やがて、「いい人」なのは上半身のみ。下半身は別物、と分かってくる。と同時に、学生時代のイジメの主犯だったことも。
 にしても、コロナ禍でいろいろなところで、仕事のやり方が変わったとは思うが、まさか容疑者の取り調べがリモートで?マジか?ホント?コロナ後も全然かわらぬ“お役所仕事”の方こそ経験した身としては、さすがに冗談としか。

3呉勝浩 「Vに捧げる行進」
・・・・レミング? よくわからないや。こういう不条理もの(?)は苦手だ。べつに、主人公が警官である必要もなさそうで。コロナ、閉塞感、不安。耐えろよ。耐えようよ。耐えられないと、レミング化して集団自殺してしまう・・・みたいな? 

4深町秋生 「クローゼット」
 上野署の刑事2人。バディを組む相棒に心寄せる刑事荻野は「クローゼット」の中にいる。観光地化した新宿二丁目よりコアな、ゲイの街という顔を持つ東上野界隈で起きた、男性暴行事件の捜査に、自らも秘密を持つ荻野の気持ちが揺れ動く。ラストの思い切りの良さに、思わず荻野のこれからを全力で応援したくなる。願わくば、彼の恋が成就しますように。

5下村敦史 「見えない刃」
 最初に、東堂が怪しいと思って、最後の最後まで東堂が怪しいのでは、と思い続けた私って、ひょっとして性格に問題でもあるんだろうか。それともスレすぎてる、とか・・・? テーマはセカンドレイプなんだけど。なんだか表層的っていうか、教科書的っていうか、東堂がおキレイすぎちゃって、アヤシい、と。で、上手く言えないんだけど、小学校の道徳の時間に、教科書を音読させられたようなそこはかとない不快感を感じるんだよね。この作品。

6長浦京 「シスター・レイ」
 もう、めっちゃ面白い。こういうのは大好き。でも、あまり警官関係ないかも・・・・。いや、憲兵隊の対テロ特殊部隊だって、警察機構っちゃあそうなんだけど。

7柚月裕子 「聖」 
 これぞ、警官の道。トリにふさわしい。そして「下級」は「下級」のままだ、と言い切った一話目に対置して、底辺からでも上を目指すことができる、根性さえあれば。と刑事が諭す。なんかキレイにまとまった感があるけど、観音コンビの結成を見てみたい。警官になった聖の姿をみて、嬉し泣く母の姿もね。 
聖、がんばれよ。

2022年8月6日土曜日

0378 ゴルゴタ (徳間文庫)  

書 名 「ゴルゴダ」
著 者 深見 真    
出 版  徳間書店  2010年7月
文 庫 378ページ
初 読 2022年8月6日
ISBN-10 419893195X
ISBN-13 978-4198931957
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/108126704   

 『ヴァイス』を読んだところ、この『ゴルゴタ』が出色だ、との読み友さんからの情報をいただき、手に取る。
 冒頭、某国の工作船が能登半島に漂流・座礁し、逃げ場を失った10名の精鋭工作員が石川県に上陸、自暴自棄で戦闘に出るところから始まる。これは、大石英司の『特殊作戦群、追跡す!』みたいな展開になるのか、と思いきや、そこは一章でサクっと作戦終了。この思い切りの良さに驚く。続く数章は自衛隊特殊部隊の訓練風景。ここまでは、ひたすら主人公の為人や背景を説明するための数章。そして事態が動く。

 最精鋭の特戦群でもトップの戦闘力の自衛官が、10代の非行少年どもの凶行で妻子を失う。不自然な少年審判で犯人達が正しく法に裁かれる道が閉ざされた被害者の真田が、周到な準備ののち、非道な報復に出る。残虐な拷問殺戮を繰り返し、捜査に当たる警官もあっさりと殺害してしまい、「これで良いのか?それとも、このあと更に、この事態を納得させるようなどんでん返しが来るのか?」と不安にざわざわする。
 迎え撃つ警視庁捜査一課の特殊班も、SIG社のアサルトライフルやらSIGの1911やらで武装して、ただ事ではない様相になってくるし、真田の元部下の協力者が、自衛隊制式のライフルを持ち出しているあたりで、どうもウラがありそうなきな臭さも感じるが、警察対真田の結末はかなりあっけなくついてしまう。

 とにもかくにも、なんとも複雑な気持ちにさせられる作だった。
 真田よ、アンタは正しくない。絶対に間違ってる。だけど、何がどう間違ってるのか、読んでいる自分が混乱してくる。バカも愚か者も含めての世の中だ。駄目な連中の酷い行いもなにも、清濁併せ呑むのが人の世のあり方なんだよ。でもそんな理屈が、幼い時に目の前で両親を殺された孤独な男に、その男がやっと得た家族を、なんの理由もなく殺されてしまった絶望に通用するか?
 この小説とはなんの関係もないのだが、最近のことだが、本当は危険な人物に対して、さしたる自覚もなく無責任な行動をとる人たちの危うさを目の当たりにして、ヒヤリとしたことがある。この人、こんな無責任なことしちゃって、もしこの人に恨まれたら、ただじゃ済まないかもしれないよ。と。

 怒らせてはいけない男を怒らせてしまった。眠れる竜を起こしてしまった。そんな話。
 ゴルゴタの丘で一人の人間が殺されたことで、後世を大きく変えた。
 それは大げさに過ぎる喩えかもしれないが。

追伸 どうしても一箇所、気になる表現が。
『大会の無差別級個人戦決勝で、優勝候補同士がぶつかった。』
・・・・決勝戦でぶつかるのは、優勝候補同士にちがいあるまいよ。いや、そういうことを言いたいのではないとは思うのだけどね。優勝候補の二人が、順当に決勝戦に勝ち上がったんだよね。分かってるよ、うん。


2022年8月4日木曜日

0377 ヴァイス 麻布警察署刑事課潜入捜査 (角川文庫)

書 名 「ヴァイス 麻布警察署刑事課潜入捜査 」
著 者 深見 真      
出 版  KADOKAWA  2016年12月
文 庫 240ページ
初 読 2022年8月4日
ISBN-10 4041043700
ISBN-13 978-4041043707
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/108081495

 潜入捜査ってそーいうことかいっ!
 深町さんの流れから、Kindleアンリミでタイトルだけで拾った作品でしたが、思いのほかの面白いので、紙本もポチ。しかし、Amazonから紙本が届く前に読了。おい、えらく早く読めたぞ。ひょっとして凄く薄い本なのか?と思ったら、240ページでした。

 どす黒い汚職警官ものですが、一番真っ黒な汚職刑事仙石が、ありえないくらいの爽やか系。なぜか脳内では、長倉ヒロコの絵柄で、ただし「煙と蜜」ではなく「ルドルフ・ターキー」な感じで展開される。主役仙石は名前が一緒なもんで「ボールルームにようこそ」の仙石アニキの顔で登場。 ストーリーテリングが軽快で、青年漫画を読んでる感じで脳内にコミックの紙面が広がる。 
 すごく軽快な文章だなあ、と思ってたら、ラノベ系の作家さんで、でもってPSYCHO-PASSの人だった。PSYCHO-PASSも読みたいと思っていたのだ。
 警察機構の暗部・内部汚職から、表に出せない外交関係者の犯罪、政治家、芸能人のスキャンダル隠し・・・・・麻布警察という立地だからこそ伸ばせる妄想の翼。(現実の麻布署のお巡りさんごめんなさい。)
 一冊目では、仙石がなぜこうなった、の過去や背景はちらとも明かされていないので、非常に気になる。これは追いかけるでしょ。面白いもん。


2022年8月3日水曜日

0376 ヘルドッグス 地獄の犬たち (角川文庫)

書 名 「ヘルドッグス 地獄の犬たち」 
著 者 深町秋生       
出 版 KADOKAWA 2020年7月
文 庫 560ページ
初 読 2022年8月2日
ISBN-10 4041094100
ISBN-13 978-4041094105

 ううーむ。深町さん初読みである。だがしかし、並み居る深町さんファンに申し訳ないことにこれは私にとっちゃ鬼門かも? 
 べつに暴力描写とかは全然問題ない。余裕で許容範囲内。
 しかし、これだけの猛烈なストーリーにリアリティを与えるための人物描写があと一息、あと一歩、深みがあればなあ。あと、暴力団組織のあれこれとかが説明がましくて、中盤に差し掛かるまえに気持ちが砕けた。だが、面白くないわけじゃあ、もちろんない。むしろ、好きなカテゴリなだけに、要求水準が自ずと高くなってしまったか。個人的には、こいつを “アジアを又にかける孤高の殺し屋出月梧郎の壮絶な前日譚” ってことにして、梧郎主人公のハードボイルド小説を読みたい。

 だがしかし。
 日本の作家さんを読んでいると陥りがちな、言葉の引っかかりが発生。
 「夜間双眼鏡」はできたら「暗視双眼鏡」「赤外線双眼鏡」でお願いできれば、と。
 「じゃっかん」はぜひ漢字で記載願いたい。
 「肩身の狭い想い」は「思い」の方が良いかと・・・・だから、こういう風に引っかかっちゃうから、日本人作家さん苦手なのだ〜。でも、まあ序盤中盤はかなりざっくりと読みましたが、後半戦、例の誘拐あたりからは、ワクワクが止まらなかったよ。室岡は気に入っていただけに、結末が悲しい。ああなる宿命とはいえ、ちょっと勿体ないなあ。良い弟分だったのになあ。もうちょっと二人で動くところを見たかったな。残念だ。
 あと、血まみれの殺し道具やら服やらの始末を他人に任せて後に残してくるのって、プロとしてどうなん?とは思った。


2022年8月1日月曜日

2022年7月の読書メーター

読んだ本の数:23
読んだページ数:9126
ナイス数:1215

栗本薫オンリーとはいえ自分史上空前の23冊読了。(うちコミック3冊、再版もの2冊、ショートショート一作なので、実読は17冊)。薫サンは超速筆・多作の作家さんだが、書かれるのが早い本は結局読まれるのも早い(つまりは内容が薄い)ということなんだろうなあ。5月以降、栗本薫《東京サーガ》を追いかけ、ついに【毒を喰らわば】企画に発展。自家出版(同人)本である「矢代俊一シリーズ」を読み尽くす。この間、Kindle読み過ぎで視力が低下。慢性的な頭痛に悩む。

坂道のアポロン(1) (フラワーコミックスα)坂道のアポロン(1) (フラワーコミックスα)感想
ジャズ繋がりで、YouTubeでアニメを発見。アニメと原作とどっちが気持ち良いかな、と比較のため手にとる。こちらは、残念ながら「音」が聞こえてこないな。「のだめカンタービレ」などは、漫画を読みながら脳内にピアノも交響曲も鳴りっぱなしだったんだけど。ジャズを“聴く”には、アニメのほうが良いようだ。ついでに映画の方もチラ見したが、こちらは、ピアノが下手。自分的にはアニメ一択。
読了日:07月31日 著者:小玉ユキ

WILLOW WEEP FOR ME <矢代俊一シリーズ15>WILLOW WEEP FOR ME <矢代俊一シリーズ15>感想
【毒を喰らわば皿まで】企画15。ずっと「隼」だったサブキャラが何故か「準」に、「花咲」サンが「花井」サンになってるよ。いい加減なことで。編集長(御夫君)は何をなさってるのかな? やっと渥美の執着から解放されたと思ったのに、ピアノデュオを続けている高瀬が微妙に束縛男っぽくなってきて鬱陶しい。その高瀬とのデュオライブに来た透のリクエストで歌った『朝日のあたる家』の絶唱で、聴衆が色気に当てられて変な気分になる副作用が発生、さらに別れを切り出した金井には自殺すると脅迫して金井を激しく困惑させる俊一サンであります。
読了日:07月30日 著者:栗本薫

幼女戦記 (25) (角川コミックス・エース)幼女戦記 (25) (角川コミックス・エース)感想
封緘命令書を開封するシーンで、ヴァイス大尉の前に守られるようにちょんと座っているターニャがなんとも可愛い・・・と書いたら、前の方のレビューもおんなじことが。なんかもう、すっかり中の人も少女であることに馴染んでおられるな。戦争は善か悪か、それとも必要悪なのか。戦わなければならないのなら、せめてこの一戦で決着をつけられるように。次の世の平和のために。これまで戦争に出た幾多の人がそう思ったろうか。
読了日:07月27日 著者:東條 チカ

モーメント 永遠の一瞬 17 (マーガレットコミックス)モーメント 永遠の一瞬 17 (マーガレットコミックス)感想
なんだか疲れるなあ。雪の周りの人、メンタルばっかでちょっとやりすぎなんじゃなかろうか、と、すこーし思ったね。疲れた大人は漫画くらいは夢がほしいと思うのよねぇ。ソチ五輪に立派に臨む、というゴールは見えているけど、まだそれは次の次のオリンピック。先が長すぎて、もう、付いていくのやめようかなあ、とまで思う。あとは、完結してから一気読みしようかなぁ、と。
読了日:07月27日 著者:槇村 さとる

所轄刑事・麻生龍太郎 (角川文庫)所轄刑事・麻生龍太郎 (角川文庫)感想
特別書き下ろしは30p弱の『小綬鶏』。コジュケイといわれてもピンとこなかったが「ちょっと来い」でわかった。アイツかあ。姿は見たことがないけど、鳴き声には馴染みがある。そういえば、最近、というか今住んでいる町では聞かない。滅多に飛ばない鳥だったとは。別名を「警官鳥」というそうだ。鳥の写真を専門にするカメラマンの及川のパートナーが登場して、ちょっと良い感じです。麻生ってなんだかいつも泣きそうな感じがしてるなあ。
読了日:07月26日 著者:柴田 よしき

戦闘妖精・雪風〈改〉〔愛蔵版〕戦闘妖精・雪風〈改〉〔愛蔵版〕感想
『アンブロークンアロー』『アグレッサーズ』に加え今回の『〈改〉愛蔵版』もハードカバーだったので手持ちの『グッド・ラック』のみ文庫本、になってしまった。もういっそのこと『グッド・ラック』も愛蔵版を出してほしい。さて、もう何回目かの再読かわからんが一応読了登録しておく。書き下ろしは19ページのみ。新人パイロットの零とスーパーシルフの雪風との初フライト。だがしかし、ちょっとストーリーは後付けっぽいと思った。なんとなく「妖精の舞う空」の前日譚っぽくない、というか。フライトオフィサがバーガディシュ少尉だしな。
読了日:07月26日 著者:神林 長平

鰻は神からの贈り物。鰻は神からの贈り物。感想
おい。そこで止めておけよ。と人ごとながら、(いやショートショートながら)自分の脳内で、佐藤の肩に手をかける。な、そこまでにしておけよ。それ、間違いだからな?いや、夢オチかもしれんぞ。
読了日:07月23日 著者:ヒデキング


SOUL EYES <矢代俊一シリーズ14>SOUL EYES <矢代俊一シリーズ14>感想
【毒を喰らわば皿まで】企画14 『トゥオネラの白鳥』までの展開には合理性があるのか検証する。写真家渥美の陵辱行為で心身共に傷ついてPTSDが再発し、A-SEXが不能となった俊一が、先日自分を助けて介抱してくれた透の自宅を訪れ、元高級男娼のテクを駆使したSEXカウンセリングを施してもらう。一巻から通しで読んで、英二、金井、透とSEXシーンを書き分けている薫サンは流石だ、との結論に達した。透のSEXシーンの描写は美しいと思う。結局これが栗本薫の本領なんだろうなあ。ここまでのところでは、まだ透は登場したばかり。
読了日:07月16日 著者:栗本薫

SUMMERTIME <矢代俊一シリーズ13>SUMMERTIME <矢代俊一シリーズ13>感想
【毒を喰らわば皿まで】企画13 検証『トゥオネラの白鳥』の展開には合理性があるのか!? 俊一が写真家渥美に強姦される(四度目)。ショックで正気を失って街を徘徊していた俊一を、たまたま飲んでた風間と透が保護。透の自宅に避難させて透が俊一を介抱する。俊一はショックで一時幼児に退行。俊一から事情を聞き出しながら、透の方も最愛の人に先立たれてしまった寂しさ・虚しさを吐露。なんとなく特別な関係に。ちなみに時点は島津の死後3〜4ヶ月後・・・・ってことになってるが、本人自作の年譜によれば
読了日:07月15日 著者:栗本薫

LOVE FOR SALE <矢代俊一シリーズ12>LOVE FOR SALE <矢代俊一シリーズ12>感想
【毒を喰らわば皿まで】企画12 ついつい面白そうなところから読んじゃったシリーズ12冊目。基本的にはめっちゃ面白い。《神の苑》教団撲滅の最終仕上げ。潜伏した金井との束の間の逢瀬。狂人渥美の横恋慕に対してはニヒルな黒田の活躍。キャラの動きが活発な分、薫サンの脳内ダダ漏れグダグダトークが最小限なのがなにより良い。万里小路父と俊一の交流や語らいはハートウォーミングで、束の間の幸せがとても微笑ましく、渥美との胸クソな暗闘と交互でバランスも悪くない。
読了日:07月14日 著者:栗本薫

亡き王女のためのパヴァーヌ <矢代俊一シリーズ11>亡き王女のためのパヴァーヌ <矢代俊一シリーズ11>感想
【毒を喰らわば皿まで】企画11。シリーズ11作目。波瀾の西日本ツアーから東京に戻った久々の休養日。矢代俊一が実の父であるピアニスト万里小路俊隆を初めて荻窪の自宅に訪れた。二人で奏でたピアノとフルートの一音一音が、親子の空白の時を埋めてゆく。まったくSEXがからまない、静かで豊かな音楽家父子の時間の描写です。母の不貞の証拠であったゆえに母に愛されなかった幼少時の、心の傷を癒やす穏やかな時間。万里小路父と俊一息子が、似たもの親子なのが微笑ましい。設定がベタすぎるけど、話自体は間奏曲って雰囲気でよかった。
読了日:07月13日 著者:栗本薫

CARAVAN <矢代俊一シリーズ10>CARAVAN <矢代俊一シリーズ10>感想
【毒を喰らわば皿まで】企画10巻目。淫教《神の苑》撲滅にむけた仕掛けと同時進行で、全国ツアー後半戦が始まる。野々村の指示で風間が俊一の護衛役に加わり、金井と黒田は《神の苑》を潰す本隊として行動。緊張の最中、西日本へのツアーを開始する俊一だが、そこに、写真家渥美が風間を騙して俊一のホテルの部屋に襲来し、俊一を陵辱し、ビデオを写真まで撮る。俊一は心理的なショックと、怪我を抱えたまま、ジャズ・ミュージシャンの執念で、岡山のステージに臨む。ステージの幕間で高熱を発して倒れる俊一だが、
読了日:07月12日 著者:栗本薫

GENTLE RAIN <矢代俊一シリーズ9>GENTLE RAIN <矢代俊一シリーズ9>感想
【毒を喰らわば皿まで】企画9。金井が突然失踪し、俊一は失意のあまり心神喪失状態。そんな俊一が不憫で英二がせっせと世話をやく。この恐るべき二股状態に、遂に慣らされた自分も恐るべし。《神の苑》教団も、サディスト渥美も、俊一を巡って本気の実力行使にでて、翻弄されるばかりの俊一。金井を護るために、なんとか教団の情報を得ようと、渥美の紹介で野々村老に引き合わされるが、それを“弱み”とみられて、渥美が強引に愛人関係を迫る。ツアーの長野でついに教団に襲撃されての大立ち回りで金井と再会し、いよいよ物語も佳境に差し迫る。
読了日:07月11日 著者:栗本薫

WHAT ARE YOU DOING THE REST OF YOUR LIFE <矢代俊一シリーズ8>WHAT ARE YOU DOING THE REST OF YOUR LIFE <矢代俊一シリーズ8>感想
【毒を喰らわば皿まで】企画8/栗本薫の同人出版「矢代俊一シリーズ」既刊本のラス1。ついに読み切ったので順番に並べ替え中。この巻から淫教《神の苑》暗闘編(勝手に命名)スタート。俊一との恋を全うしようと金井は妻子を長野の実家に送る。しかしその実家は新興宗教団体に乗っ取られようとしており、金井の妻子も教団に取り込まれ、金井は命を狙われることになってしまった。そして魔の手は俊一にまで迫り、焦った金井は俊一に別れを切り出す。ちょっと金井の思考が例によってぐだぐだダラダラして、
読了日:07月10日 著者:栗本薫

THE MAN I LOVE <矢代俊一シリーズ7>THE MAN I LOVE <矢代俊一シリーズ7>感想
【毒を喰らわば皿まで】企画7 一人で参加した北海道のジャズフェスの会場で、俊一は金井と会う。3泊4日の邂逅で身も心も溶ける俊一、金井の激しいSEXで何かの変化が俊一におとづれる。そんな最中に俊一の母が自宅で足を骨折して入院。俊一は母を病院に見舞い、同行した英二を、一生を共にするパートナーであると紹介。母は俊一が不倫の子であること、本当の父は著名なピアニストだったことを明かす。骨折手術の麻酔事故で母は帰らぬ人となり、俊一は焼香におとづれた客の中の一人の老紳士が自分の実の父であると確信する。
読了日:07月09日 著者:栗本薫

ROUND MIDNIGHT 〈矢代俊一シリーズ6〉ROUND MIDNIGHT 〈矢代俊一シリーズ6〉感想
【毒を喰らわば皿まで】企画・シリーズ6冊目。今作は次の激動までのインターバル、波乱の幕間ってところ。俊一がとにかく英二は手放したくないし、金井のことは喉から手が出るくらい欲しい、ってもの凄い欲深な三角関係を形成し、そのテンションに耐えきれなかった英二が暴行に走り、体調を整えきれなかった俊一がライブの途中で貧血でぶっ倒れる。ついでにサド写真家渥美の手による写真集企画が始動し、渥美の魔の手が俊一に伸びつつあり。例によって薫の筆力でなんだか良いものを読まされたような気にさせられるが、結構酷い内容ではないかと。
読了日:07月08日 著者:栗本薫

BLUE SKIES <矢代俊一シリーズ5>BLUE SKIES <矢代俊一シリーズ5>感想
【毒を喰らわば皿まで】企画5。早瀬関連エピはでここで一区切り。「矢代俊一グループ」が第4次だったり第3次だったりして、作者の相変わらずのルーズさが光る。さて1巻から5巻までをまとめてみる。①俺はミューズの女神に貞操を捧げてるんだ。 ②俺にはミューズの女神がいるんだ!だけどエロスの神もいるらしいぞ。 ③あれ、ミューズの神殿ってエロスの神も同居可能じゃね? ④なんだかエロスとミューズって一体だったみたい。 ⑤もう、ミューズどこにいるかわかんないけど俺恋しちゃったし、赦してくれるよね? っていう感じですかねえ。
読了日:07月07日 著者:栗本薫

NEVER LET ME GO <矢代俊一シリーズ4>NEVER LET ME GO <矢代俊一シリーズ4>感想
【毒を喰らわば皿まで】企画4。ちょっと毒が強いです。この皿。早瀬がエイズだったことで俊一もHIV陽性に。検査結果が出るまではSEX禁止と言い渡されてるにもかかわらず、感染の可能性を英二に話した後もやっぱりSEXを抑制できない俊一。なんかHIVの扱いが軽々しく、ドン引きする。黒人の描き方もそうだけど、センシティブな事柄の扱いのずさんなことときたら、ちょっと耐え難いレベル。そして、俊一が英二に開発されちゃったんで性欲が抑えられなくなったという金井も、めちゃくちゃキモい。
読了日:07月06日 著者:栗本薫

CRAZY FOR YOU <矢代俊一シリーズ3>CRAZY FOR YOU <矢代俊一シリーズ3>感想
【毒を喰らわば皿まで】企画3。前作読んで、性愛を描いて性愛以上のものを書きたかったんだろうとは思ったが、やはりその「性愛以上のもの」が陳腐。ついでにいうと「性愛」が「性愛」になってない。エロにもポルノにもなっていない。濡れ場が濡れてない。まったくそそられない。読んでる自分が不感症になった気がする。・・・と先には書いたのだが、つまり、俊一と英二の濡れ場が濡れない、ということらしい。あとの方読むと、金井との描写はちゃんとエロかったんだよね。書き分けてるのか薫サン。さすがのテクニシャンだぜ。
読了日:07月05日 著者:栗本薫

SOFTLY, AS IN A MORNING SUNRISE——朝日のように爽やかに <矢代俊一シリーズ2>SOFTLY, AS IN A MORNING SUNRISE——朝日のように爽やかに <矢代俊一シリーズ2>感想
【毒を喰らわば皿まで】企画2。目指せ『トゥオネラの白鳥』。誤解を怖れずに書くと、やおいの本領発揮なこの話、ノリも流れも出来も、先日読んだ『嘘は罪』よりも数段上な気がする。好きなことを好きなように書いてるからなのか。性愛を書いて、性愛以上のことを書きたいのは良く分かったが、性愛の上位互換が相変わらずの「マリア様」、他にはないのか薫サン。俊一に逆恨みする早瀬が俊一を誘拐/レイプ。黒人キャラの扱いが酷い。だれか止めろよ。
読了日:07月04日 著者:栗本薫

YOU DON'T KNOW WHAT LOVE IS——恋の味をご存じないのね <矢代俊一シリーズ1>YOU DON'T KNOW WHAT LOVE IS——恋の味をご存じないのね <矢代俊一シリーズ1>感想
【毒を喰らわば皿まで】企画1 検証:『トゥオネラの白鳥』の展開には合理性があるのか!? 栗本薫の自キャラ同人シリーズ第一作。台湾マフィア事件の後遺症でPTSD/対人恐怖を患い病弱化した“姫”こと矢代俊一が、トラで出演したライブで英二と晃市に出会う。コミック『コイシラズ』原作。でもまだ、俊坊は男っぽいと思う。ちなみに41歳。
読了日:07月03日 著者:栗本薫

嘘は罪(下) (角川文庫)嘘は罪(下) (角川文庫)感想
下巻に入り、一瞬ハードボイルド路線か?風間センセかっこいー!となったがそれほどでもなかった。結局の主題は「嘘の歌」は歌えないということ。薫サンが自分が書きたいもの(だけ)を書きたいのだ、という思いを託したものか。しかしボイストレーニングは必要だし、歌いたくとも音痴では駄目なように、文章を世に出すのだって、世が認める水準で出す必要はあるわけで。良いところもある作品だと思う反面、薫サンの作家としてのあり方が作品を裏切っているような気がする。それが一番厳しい道なんだという風間のセリフを薫サンに捧げたい。
読了日:07月02日 著者:栗本 薫

嘘は罪(上) (角川文庫)嘘は罪(上) (角川文庫)感想
風間が主人公のスピンオフ、とはいえ「東京サーガ」の立派な一員。ストーリーはなかなか面白く、薫サンの脳内からだだ漏れる栗本とも風間とも判別しないグダグダ無限ループの冗長過ぎる語りさえなければ、傑作、少なくとも佳作にはなったんじゃないか。だが字は細かいし、この厚さの上下巻になるようは本ではない。良は拘置所、自分は地位も名誉も無くしてドブの底に沈んだような風間が思いもかけず出会った人間達。独りは天性の絶対音感と共感覚を持った少年。そしてもう一人は漆黒の美形のヤクザ。その名も黒須さんの百花繚乱の刺青を見てみたい。
読了日:07月02日 著者:栗本 薫