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2026年2月22日日曜日

0581 この悪夢が消えるまで ( イヴ&ローク 1)

書 名 「この悪夢が消えるまで」
原 題 「NAKED IN DEATH」1995年
著 者 J.D.ロブ(ノーラ・ロバーツ)    
翻訳者 青木 悦子    
出 版 ヴィレッジブックス 2002年12月
文 庫 452ページ
初 読 2026年2月20日
ISBN-10 486332667X
ISBN-13 978-4863326675
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/133609416

 イブ&ローク1冊目。2050年代、近未来のニューヨーク。冒頭、犯行に使われた旧世紀の銃器〈スミス&ウェッソン〉についてのフィーニーの蘊蓄「・・・銃禁止令が制定され、会社は2223年頃に生産を中止した。」というのは誤訳か誤植か? 21世紀後半に差し掛かるところの物語、と思って読んでいたので、いきなり200年も時代がすっとんで軽く混乱する。

 ロマンス小説の女王ノーラ・ロバーツがJ.B.ロブの別名義で、1995年に描いた21世紀後半は、コンピュータは音声入力、エアカー(航空交通)が一般化して、高級車は陸空両用、銃は規制されて所持するのが難しくなり、銃による殺人は激減(全米で年間100件とな)、警察官は拳銃の代わりにレーザー・ガンを所持している。世界最古の職業、娼婦は「公式コンパニオン」という名称で合法化。合法・公認化できちんと(?)教育・管理もされて、いわゆる管理売春は一掃されているよう。顧客のリスト化、定期健診など?も義務付けられている。SEX産業は人間にとって必要かつ健康的な産業になっているという設定。
 キッチンには〈オート・シェフ〉というマシンがあり、なんでも調理して提供してくれるらしい。コーヒー豆は超高級品で、庶民は代用コーヒーを飲んでいる。肉も高級品のようで、イブがレストランで頼んだのは野菜のパスタ。そういったちょっとした舞台装置に慣れちゃえば、あとはごく上出来なロマサス。地の文で突然ロークの心の声が混じるのがちょっと唐突感があるけど、これも慣れれば問題ない。

 ちなみにロークは2023年生まれだそうで、今現在(2026年)は2歳になっているハズ。1995年にロバーツが思い描いた70年先の世界は、現在からみた30年先よりはだいぶ先を行っている。

 ミステリアスでハンサムで有能な経営者で大富豪、庇護欲があって、ちょいワル風味な男ロークは、セントラルパークに面した200年前の石造りの4階建て豪邸に、執事にかしづかれて住んでいる。フルネーム不明で知られた名前は「ローク」だけ、という謎めいた人物。だが、決して恵まれた育ちではなかった。イブの方は、ニューヨーク警察の警部補で、きわめて有能かつ芯の通った強さであるが、幼少時に虐待を受け心に傷を抱えている。そういう心理面の壁もあって、イブはそうそうロークの思い通りにはならないが、恋愛面ではロークがやや競り勝つ。というこれがあれか、スパダリってヤツか。 もっとバリバリなハーレクイン風味なのかと思って敬遠してきたのだが、読んでみると、ちゃんとしたサスペンスだし、警察ものとしても、イブとフィーニーのバディぶりも良いし、一癖ありそうな上司ホイットニー良い風味だ。さすがは60巻まで続くだけのことはある。

 そんなこんなで、第1巻目は、イブとロークの出会いから2人が恋に落ちるまで。
 イブは8歳までの記憶がなく、だけど、父親に性的虐対を受けていた過去の傷を抱えている。ロークも少年時代は不遇だった様子が窺える。過去と心に傷を持つからこそ強くなりえた2人が出会い、これから、さらに信頼と愛を深めていくのだろう。

 物語のテーマは、小児性愛と近親相姦で、そこに特権階級が絡み、これまたアメリカ的だと思った。

 もう、米国ミステリー界は、PTSD持ちじゃない主人公っていないんじゃないかと思うくらい、「被虐体験」「過去のトラウマ」持ちだらけなんだけど、そこをどうやって描いて行くかが腕の見せ所なのかもしれんね。
 イブに関しては、怒濤のようなラスト(犯人をブチのめす)からの、緊張と恐怖から解放されてほぼ幼児化したイブとイブを甘やかすロークとの会話になんだか全部もっていかれた。
 ともあれ、まだ1巻。どこまで息がつづくかわからないけど、とにかく続きを読もう。

2024年11月4日月曜日

0517 赤レンガの御庭番(エージェント)

書 名 「赤レンガの御庭番」
著 者 三木 笙子         
出 版 講談社 2019年2月
文 庫 256ページ
初 読 2024年11月2日
ISBN-10 4065147050
ISBN-13 978-4065147054
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/123992103

 9月からこっち、ずっと読んできた三木笙子さんの本は実は既読本だったのだけど、これは初読。とても面白かったです。
 舞台は帝都探偵絵巻と同じころかな?と思える明治後期。
 徳川吉宗の代から続く御庭番の家系出身の義母がいる家に引き取られて育った入江明彦は、アメリカに留学し、勉強はそっちのけで本場の探偵術を身に付けて帰国。血のつながりはないとはいえ子供の頃から可愛がってくれた叔父が税関長を務める横濱で探偵事務所を開く。
 開港以来発展を続ける港湾都市横濱の異国情緒ある風情と、港湾労働者は威勢良く、町に暮らす人々にはすこし首都から離れたのんびりとした港町の気風が漂う空気感が何やら懐かしい。しかし、繁栄あるところには陰もある。港町の裏に跋扈する犯罪組織と、陰のある美しい女もとい青年。そして明彦に従卒のごとくかしづく文弥少年、逗留先のホテルオーナーでお喋りで世話好きな夫人。
 主人公の明彦の性格がとても良い。その育ちからして決して明るいだけではないのだが、どこか突き抜けているところが、これまでに読んだ三木さんの本の主人公達とはひと味違う。軽妙洒脱ながら情に深いが、流されない。明彦と文弥、これまた陰を背負わずにはいられない生い立ちのミツの会話もテンポが良くて楽しい。私が横浜びいきだというのもあるかもしれないが、これまでの作品とはちょっと味わいが違って、楽しく読書した。

第一話 不老不死の霊薬 
 横浜に不老不死の薬を売る者がいる。無論本物であるわけがない。犯罪の気配がするが、その「不老不死薬」の顧客がやんごとなき御婦人方であるらしく、警察沙汰にしたくない。そこで叔父から明彦に仕事が回ってくる。西洋美顔術と横浜で顔と名前の知られた西洋人医師、そして謎の「美女」ミツもからむ。鏡のエピソードなんかはちょっと生煮え感があるような気もしたが、なかなか展開が読めなくておもしろかった。

第二話 皇太子の切手 
 「ブルー・モーリシャス」と言われるコレクター垂涎の稀少切手が貼られた手紙を所持していた外国人夫妻の家が火事になり、「ぶるー・モーリシャス」もろとも失われる。失意の夫妻だが、実は保険金詐欺?
 その裏に見え隠れする、犯罪指南役の結社「灯台」。明かされるミツの出生。切手にまつわる犯罪はわりあい、筋が読みやすかった。ミツとの距離もすこし縮まったかな。

第三話 港の青年 
 「港の青年」と銘打った演劇が横濱の女性達のハートと捉える。今で言う「推し」というか。そこに、演劇のモデルとなった男を捜して横濱にやってきた男の妹が登場。港町は彼女の兄を探す手伝いをしようと、騒然となる。だがしかし、実は演劇の台本は、完全なる創作だった。陰に見え隠れするのは「灯台」の存在。派手な「兄捜し」の真の目的はなにか?

第四話 My Heart Will Go On
 今や「灯台」潰しの尖兵であることが明白になっている明彦の周りが物騒になってくる。文弥は階段から転落して大怪我。ミツも税関長である叔父も、身動きがとれなくなる。ついに「灯台」の首領との一騎打ちを覚悟した明彦であるが、その首領は意外なところにいた・・・・。ここで終わってしまうのは勿体ないキャラ立て、舞台立てだが、こういうところ、三木さんて惜しげがないというか、思い切りがいいというか。

 ここから、キャラクターの関係性を深めていって欲しい、とつい思ってしまうが、そこを余韻にして話が終わるのは、三木笙子さんらしくもある。なんにせよ、私はこのお話、とても好きだった。

2024年10月31日木曜日

0516 水の都 黄金の国

書 名 「水の都 黄金の国 」
著 者 三木 笙子        
出 版 講談社 2016年7月
単行本 229ページ
初 読 2016年8月
再 読 2024年10月28日
ISBN-10 4062201518
ISBN-13 978-4062201513
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/123818050

舞台は明治期のヴェネツィア。どこか不思議な雰囲気が漂う異国舞台のバディもの。三木笙子さんのお話はどれもブロマンスってほど濃くはない。どこかほんのりしているけど、しかし、真情に溢れてる。
 東北の小藩の、下級武士の家の生まれの誠次郎は、跡取りでもないため、自分の身は自分で立てないとならない立場。時は明治で、学問をして何とか自分の身の立て方を考えようとまずは東京に出る。今身に付けるは語学、と自らの才覚と対人スキルで独学でイタリア語をものにし、ついでにイタリアでの語学教師の職に就く。その仕事は誠次郎より早く世に出て、官費でフランスとイタリアに留学し、ヴェネツィアで病を得て早逝した親友の清人の仕事を引き継ぐものだった。
 誠次郎の親友清人は、ヴェネツィアの人々に信頼され、強い印象を残していた。なかでも、誠次郎の下宿先の青年ルカは「キヨ」に心酔し、亡くなった清人をずっと偲んでいる。
 そんなルカと誠次郎の友情を横軸に、誠次郎のもとに持ち込まれる事件を縦軸に、そして今はなき清人の存在が通奏低音のように響くストーリー。

 なにしろ、誠次郎の性格が良い。もの凄く出来るってわけではないがちゃんと冴えていて、それなりに苦労もしてきて、おごらず、昂ぶらず、周囲の人のことをきちんと考える。地に足のついた誠実さ。ルカは、日本人が想像するイタリア人ぽくなくて(笑)、暗めで寡黙、ちょっと辛辣。今は亡き「キヨ先生」に心酔していて、亡くなった清人の記憶がだんだん遠くなっていくことを悼んでいる。一つ一つの事件は、そんなに大事件ではないが独りで抱えるには重たくて、それを受け止め、受け流していくには、やはり友が必要なのだ。

第1話 黄金の国
 偽金作りの悪党が、金貨の精巧な金型を手に入れて、金貨を作らせるために腕の良い鍛冶屋に目を付けた。しかし、そこで思わぬ事態が起こる。
第2話 水の都の怪人
 ヴェネツィアの町に、金貨をばらまく怪人が出現。街の人々はだんだん、熱狂が高まって行く。ルカと誠次郎が下宿する酒場(バーガロ)の主が大切にする絵に隠された謎。
 ヴェネツィアは何もない潟の上に人間が創った街である。そのためには沢山の杭を海に打ち込み、その上に建物を建てる必要があった。それが清人の心を捉えた。と誠次郎が言う。
「俺はそこに、人間の意志を感じるんだよ。海の上に美しい街を作りあげようとする人の意志を」
 私は、そこに、三木笙子さんの意志を感じる。何もないところに、美しい物語を創ろうとしている人の意志が伝わってくるように思うのだ。
第3話 錬金術師の夢
 小説家が創ろうとしたもの。それは物語ではなく・・・・・
第4話 新地動説
 夫婦でヴェネツィアを訪れていたアメリカ人夫婦。その夫がかき消すように失踪してしまった。・・・・ところからの、誠次郎の推理。
エピローグ
 もし夢が叶わなくても。在りし日の清人。夢が叶わなくとも不幸ではない。その夢はヴェネツィアの一部になるのだから。

2024年10月15日火曜日

0511 怪盗ロータス綺譚

書 名 「怪盗ロータス綺譚」
著 者 三木 笙子        
出 版 東京創元社 2022年11月
単行本 304ページ
初 読 2024年9月30日
ISBN-10 4488028799
ISBN-13  978-4488028794
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/123627668


 表紙がとても素敵です。
 大好きなyokoさんの装画。色もシックで、なんとなく浮世絵の色使いなんかも思わせる和色。
 『怪盗の伴走者』で、ついにロータスこと蓮と行動を共にすることを選択した省吾。2人でしばらく欧州で奇術師とそのマネージャーとして活動していたようですが、このたびしばしの休息のため、日本に帰国し、帝国ホテルに逗留中。とはいえ変装しているので、蓮はともかく省吾はどうも落ち着かない。けっして騒ぎを起こすな、と念を押す省吾に、二つ返事な蓮であるが、しかしこういう男のところには、自分で面倒をおこさなくても、向こうから転がり込んでくるものなのだ。ため息をつきながら現状を容認するしかない省吾である。・・・てか、省吾がきちんと幸せそうに・・・しているな。蓮と一緒にいることがまんざらでもなさそうで、自然体でよろしい。私は君が元気でいてくれたらそれでいいんだ。

グランドホテルの黄金消失 
 日本に帰国して、2人が逗留していたのは帝国ホテル。そこに、金塊を載せた暴走馬車が駆け込んでくる。馬車が壊れて、その日のうちの横浜マルマル銀行東京支店の金庫への持ち込みを断念した持ち主は、目の前のグランドホテルに一晩金塊を持ち込むことに。そしてその翌朝、金塊が消失?!
 困った支配人が、顔なじみの蓮のところに、相談にやってくる。

特等席 
 蓮と省吾が周到に罠と仕掛けを張り巡らして、大がかりな詐欺を企てる話。何が起こるのだろう、と思いながら読んでいて、途中でこれは手玉に取られている方か、と思い至る。騙される側に移入するっていうのは、ちょっと新鮮な体験だった。途中からは誰が蓮で誰が省吾だ?と考えながら読む。それも面白い。

埋める者 暴く者 
 箱根にのんびり温泉に浸かりに行ったはずが、やっぱり事件の解決を持ち込まれる蓮、そして省吾。状況をコントロールしているはずが、だんだん相手に手玉に取られて、だんだんのっぴきならない状況に陥る様子が、『注文の多い料理店』みたいでワクワクする。最初と最後を切なく締めるのも粋。男は最愛の女の墓所を護り続けていたのだな。

すべて当たり籤
 駄菓子屋で子供が喜ぶくじ引きに事件あり。駄菓子屋の店主がトラブルに巻き込まれた、そして現在進行形で何かが狙われている・・・・というところは前話のごとく、先の展開の予想が付かず、推理小説を読むみたいに(ってか、これ推理小説だったか。)みたいにわくわく。だがしかし、そう来たか! それは意外だった。お兄さんはどうしたのよ? 簡単に騙される私は、つくづく推理小説読みじゃあないんだよなあ。と実感。
 
光と影のおむすびころりん
 これはすこし分かりにくかったかな。おむすびころりんの童話のごとく、どんどん縁と偶然がつながって最後にはすごいものに辿り付いたけど。舞台が「縁切り寺」っていうのも逆説的で面白い。

 さて、結論として、省吾は一抹の不安を抱えながらも、蓮とうまくやっているし、とりあえず後悔もしていないよう。もうちょっとだけ、蓮の弱みを観てみたい気がするので、そこは続編があればお願いしたい。



 

2024年9月29日日曜日

0508 怪盗の伴走者

書 名 「怪盗の伴走者」 著 者 三木 笙子        
出 版 東京創元社  2015年4月
単行本 256ページ
初 読 2024年9月26日
ISBN-10 4488017894
ISBN-13 978-4488017897
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/123326691
《文庫》
出 版 東京創元社 2017年9月
文 庫  284ページ
ISBN-10 4488421148
ISBN-13 978-4488421144
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/123369200

 よかったのか?これで本当によかったのか!?
 これから先、安西は親友であるはずの蓮のそばで、心穏やかに過ごすことができるのだろうか? なんだか不安だ。

 一中(現・日比谷高校)から一高(現・東京大学教養学部)、東大法科大学と理想的なエリートの道を歩み、父と同じ検事になった安西ではあるが、その道は本人が心から望んだものであったかどうか。むしろ、母の呪縛によって敷かれたレールであったろうけど、安西は心情を語っていないので、本人がどのように自分の人生を受け止めていたのかは、判らないのだ。 ただ、検事の道を歩むことで、子供の頃には見ることのできなかった父の姿と相対することはできたのではないか。
 そんな安西が検事の道を捨て蓮に従うことは、安西に何をもたらし、何を奪ったのか。

 蓮は、策略によって、安西の心と人生を掠めとってしまった。連が安西と共に生きたいと願うこと自体は、悪いことじゃない。しかし、安西が自分と共に来るように仕向けるため、安西の心を操作したことは、やっぱりやってはいけないことだ、と私は蓮に言いたいよ。
しかし、この2人の行く末や関係については、あと一冊この後日譚の『怪盗ロータス奇譚』が残っているので、それを読んでから考えることにしよう。
 さて、でもとりあえず、この作も連作形式なので、第一話から。

第一話 伴走者 
 安西省吾と、蓮の出会い。省吾が尋常小学校から尋常中学校に進学したところなので、13歳〜14歳というところか。省吾は麹町の自宅から、京橋区築地三丁目の第一中学校に歩いて通学している。ちなみに、都立日比谷高校沿革によれば、明治20年6月14日京橋区築地3丁目15番地に新校舎落成、移転とある。場所は調べきれなかったけど、築地本願寺や海軍兵学校があったあたりか。たぶん省吾が中学に通っていたのは明治20年代末くらい。なお、明治32年には中学校令が全面改正され、尋常中学校の名称が「中学校」に改称されている。
 一方の蓮は、深川の米問屋で奉公しているという。頭の良さや育ちの良さを感じさせるが、尋常小学校を出た歳で奉公に出されたからには、生家が没落するなど、なにかあったのだろう。しかし蓮は自分の境遇にことさら不満もいわず、生気の塊が飛び跳ねるがごとく働き、その才気によってその歳で、すでに米問屋の主人にも一目おかれるようになっていた。省吾の通学と蓮の商売の道行きが交差する、日比谷のお堀端の柳の下の休息所で2人は出会った。母と2人の生活に鬱屈しがちだった省吾は、眩しいばかりの生気溢れる蓮と出会って、話をすることで、気鬱になりがちな単調な生活から救われていた。

 なお、この話で登場する「氷水屋」は氷を細かく砕いて砂糖水や蜜をかけた食べ物を売る行商で、当時はもう庶民に一般的になっていた。現代人が名前から想像する「こおり水」ではない。むしろかき氷に近いか。氷の商売は「世界記憶コンクール」の第二話にも出てくるが、氷にまつわる商いの変化も、明治らしい話だと思う。

 しかし、この話の主題は、氷ではなく、米。米相場の話だ。
 米相場の仕組みは、蓮の説明を読んで考えてもちょっと頭がこんがららってしまうが、米相場(米の先物取引)は、すでに江戸時代の享保15年(1730年)には幕府の公認を受けており、近代的な商品先物取引が制度として始まっている。日本は、黒船が来航して開国し、突然資本主義経済が流れ込んで社会が大変革したわけではなく、江戸時代から、着々と資本主義経済の母体となる商取引を成熟させてきていたからこそ、明治維新が成立しえたのだ。・・・・と、いうことなんかは、まあ、この話に出てくるものではなくて、まだ中学生くらいの年頃の蓮が、情報操作によって人心を動かし、当時米の買い占めによって急騰していた米相場に冷や水をぶっかけて、多くの人を助けた、という話。蓮の才気と、それを眩しく思い、彼の友人であることを幸せに思う省吾の、少年時代の話であった。

第二話 反魂蝶 
 少しさがって、第一話の数年後。
 第一中学校在学中の省吾と、何をしているのかはちょっと判らない蓮が、奇術師の一翔斉天馬のもとを訪れる。天馬から蓮への相談事は、英国の銀行家、下院議員で著名な蝶のコレクターでもある準男爵の来日の受け入れ準備に端を発した騒動。人を騙し、山村の集落に混乱を持ち込んでまで日本の幻の蝶を追い求めた人物を探し出して、だまし取った金を返させたいというもの。
 連と省吾の推理、そして蓮の奇術により、犯人を自白に追い込む。

 蓮は、自分が特異な人間であり、それゆえに、孤独であることをすでに知っている。そして、省吾であれば、蓮と共に「走れる」であろうことを確信している。一方の省吾は、いずれ、能力の上でか、気持ちの上でかはわからないが、自分が連と一緒に走れなくなることを、すでに予感しているのだ。

別名「浅草十二階」基本設計者は英国人技師のウィリアム・
K・バートン。内部には日本初の電動式エレベーターが設置
され、また電話の宣伝のため各界に電話設備も設けられた。
第三話 怪盗の伴走者
 さらに時が下がって、現代(というか、「帝都探偵絵巻」の時点)。
 高広と礼、安西とロータス(省吾と蓮)、そして、明治初期の来日英国人で、浅草の凌雲閣を設計した人物とその友人の小説家。
 それぞれの友情の物語が交差する。
 怪盗ロータスが凌雲閣に侵入し、絵を盗もうとしたが失敗した————という記事を、雑誌記者の佐野がすっぱ抜く。
 しかし、あのロータスが狙うような絵なのか? そもそもあのロータスがそんな失敗をするのか?と信じられない思いの高広。そして礼。しかも、誰にも言っていないが、高広はそれに先立ち、凌雲閣でロータスと会っていた。
 一方の安西も高広を訪れ、自分がロータス逮捕の指揮を執ることを打ち明ける。
 高広は佐野と協力して取材というなの捜査に当たることとなり、ロータスが再犯予告した日時に、凌雲閣に安西、高広、佐野が相対し、そこに礼が正面突破で乗り込んで来たところで、ロータスが動く。というところで、冒頭の感想に戻る。
 




2024年9月23日月曜日

0507 人形遣いの影盗み

書 名 「人形遣いの影盗み」
著 者 三木 笙子       
出 版 東京創元社 2011年2月
単行本 246ページ
初 読 2011年2月
ISBN-10 4488017665
ISBN-13 978-4488017668
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/123233952
《文庫》
出 版 東京創元社 2013年9月
文 庫  316ページ
ISBN-10 448842113X
ISBN-13 978-4488421137


 明治40年代を映しとった短編連作「帝都探偵絵巻」の3冊目。このシリーズの初読は10年以上前(新刊だった頃)なのだけど、そのときよりも、再読した今のほうが感動が大きい。ミステリータッチではあるが、謎解きよりも、人々の優しさや、良かれと思った気持ちがすれちがったとき心に堪える淋しさ・哀しさや、それを埋めよう、癒やそうとする人間模様に、切なさを感じる。なにより、人は誠実に、真摯に生きるべきなのだというメッセージがある。著者の三木笙子さんの生真面目な心ぶりを感じる。一篇一篇が美しくて、それぞれに味わいがある。

第一話 びいどろ池の月
 邸内に水を引き込んで作った池の周りに部屋や渡り廊下を配し、水郷の雰囲気にガラスをふんだんにあしらった茶屋は、想像するだにどこか異国情緒が漂う、妖しい異世界のようだ。束の間、世知辛い世の中を離れて茶屋に遊ぶ男たちともてなす芸妓、池に沈んで密かな光を映すびいだま。三味線の弦を撥がはじく硬質な音や、芸妓の唄声、興の乗った客の声が映画の背景のごとく聞こえてくる。
 事件は芸妓の花竜の目を通して、初め散漫として捉えどころがないが、礼と高広が種明かしをするに及んで、スッキリとまとまった姿を見せる。ラストの親子の会話のきりりとした心情が良い余韻を残し、父のセリフの切なくほろ苦い後味が良かった。

第二話 恐怖の下宿屋
 帝都一の下宿屋は、泥棒などの犯罪者にとっては恐怖の下宿屋でもあった、と。いながらにして犯罪者に自主させる高広の下宿の大家、桃介さんの話。茄子づくしの食事がとにかく美味そうだ。礼は果たして本当に高広に会いにいったのか?? 腹が減ってただけのような気がするぞ?

第三話 永遠の休暇
 松平家のお家騒動、というか兄弟愛。ちょっと風呂敷が広すぎて、頭が付いていかなかったけど、実際ご長男はどこにいるのだろう。それにしても描く絵に自分一人しかいない絵。しかもそんな絵ばかりとは。本棚の中はロビンソン・クルーソーだけ。この人の孤独を思う。実際のところ島流しであるし、なにも謎ではなく、ただ、隠したかっただけ。と、同時に礼の恩師である洋画家、嵯峨画伯の選択。礼の絵が日本画でも油彩画でもなく、アールヌーヴォーのデザイン画であることを知る。たとえば、一條成美(いちじょう せいび)のようなイメージだろうか。

第四話 妙なる調べ奏でよ
 礼が詐欺師に騙されている? 高広の過保護パワーが炸裂するこの話。礼は騙された訳ではなく、騙されたかった。美しい話、心躍る夢にひととき身を委ねたかったのだ。礼の気持ちが切ない。この話は大好きだ。いっそのこと、ホームズの翻訳版権を至楽社でとってしまえよ。高広が翻訳して、礼が挿絵を描いて、帝都マガジンで連載してしまえよ!!と思ったのは私だけではないはず。 実際には、シャーロック・ホームズは明治30年代にはぼちぼちと翻訳され、日本でも紹介されていたようだが、登場人物が日本人に置き換えられていたり、日本人にも読みやすいように翻案されていたりしたらしい。もし帝都マガジンで連載していたら、きっとドル箱になったのに。残念だ。

第五話 人形遣いの影盗み
 ジャワの影絵芝居、ワヤンクリが題材。ロータスが登場。
 ジャワの影絵人形師は黒魔術の使い手でもあり、影に宿った人の魂を抜き取って、その人を呪い殺してしまう。そんな思い込みに捕らわれた御婦人が、高広の義母に相談し、相談を受けた妻の名誉を重んじた高広の義父が、高広に解明を依頼する。なぜか、礼とセットにして。
 突然高広の下宿に酒瓶片手に訪れて、妻の女心が判らん、と愚痴をいう高広父が、相変わらずかわいい。事件の仕掛けそのものは、かなり大がかりでそれをする意味があるのかな?とかもうちょっと合理的で確実な手があるのでは、などとつい思ってしまうが、そこに突っ込むのは無粋。これはロータスの舞台なので、派手になるのは致し方ないのだと理解する。

第六話 美術祭異聞 ※この話は文庫本とKindle版のみの収録
 ふたたび、森恵くんと友人の唐沢君が登場。美術学校で久しぶりに開催される美術祭の係になったという2人が、至楽社の高広と礼のところに、学校当てに届いた脅迫状についての相談を持ち込む。友情とライバル意識と芸術を愛する心。だしにされた恋心がちょっと可哀想だが、それが次の愛に代わってくれたら、と願わないでもない。

2024年9月19日木曜日

0506 世界記憶コンクール

書 名 「世界記憶コンクール」
著 者 三木 笙子     
出 版 東京創元社 2009年12月
文 庫 240ページ
初 読 2009年12月
ISBN-10 4488017584
ISBN-13 978-4488017583
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/123170646
《文庫》
出 版 東京創元社 2012年5月
文 庫  300ページ
ISBN-10 4488421121
ISBN-13 978-4488421120

 心優しい貧乏人の雑誌記者の里見高広(実は出自は良い)と、美人画を得意とする超売れっ子で当人も絶世の美男である絵師の有村礼(性格はワガママ)のコンビが織りなす時は明治の探偵絵巻。なかなか性格のよろしい高広の養父(里見基博司法大臣)もちょくちょく登場する準レギュラーでこれまた良い感じだ。ミステリー調ではあるが、主題は人の優しさと人の世の切なさ。キャラやストーリーもさることながら、描き出される当時の時代感がとても良い。様々な職業や市井の生活のありようなんかが、とても雰囲気よく描かれている。三木笙子さんは丁寧に考証されているのだろうと思う。

第1話  世界記憶コンクール
 高広行きつけの質屋「兎屋」の息子はたぐいまれなる記憶力の持ち主だった。その息子のもとに父である質屋の店主が不思議なチラシを持ってくる。曰く記憶力の持ち主求む・・・・
 突飛な条件で人を集め、その裏で何が行われようとしているのか。高広のもとに持ち込まれた相談に、「さあ謎を解け!」と目をきらきら輝かせる礼。話を聞いていくと、その礼にも想起されるものがあった。『赤髪連盟』。礼が熱愛するシャーロック・ホームズの中の一話である。

第2話 氷のような女
 高広の養父である、里見基博の若かりし頃の物語。妻のよし乃の出会いの物語。当時の氷売買の様子なんかが詳しい。あの時代に北海道から天然氷を輸送していたのを知って驚き。調べて見ると、そもそもは明治の初めは外国人居留地で氷の需要があり、米国から輸入していたという(通称「ボストン氷」)から更に驚く。このあたりは、この話に触発されて調べたらニチレイさんのHPのコラムに詳しかったのでご参照あれ。→https://www.nichirei.co.jp/koras/ice_history/001.html 
 で、ストーリーの方は、なんとも生臭い、というか、悪人が悪人らしくてイヤだわ〜。基博が志高く政治家を目指しているのがとても気持ち良い一方で、ダメな奴はやはり、どこにでも、いつの世にもいるのだな。ラストで「誤解なんだ」とむくれる司法大臣の里見基博が、歳月を重ねてもラブラブなのが微笑ましい。
 そして、もう一つ、史実として大いに驚きだったのが、基博が司法大臣となった話中の30年後、つまり明治40年代には、すでに機械製氷が主流となっていたとの記述。時代の流れの速さと技術革新のスピードを知り、改めて驚嘆した。その当たりの流れもニチレイさんのHPのコラムが詳しい→
 あらためて、明治という時代のすごさを感じる。

第3話 黄金の日々
 『人魚は空に還る』の中の一話『点灯人』の森恵(もりさとし)君主役の話。苦労人の恵も晴れて上野の美術学校の予科生になり、学友たちと切磋琢磨の日々を送っている。学生時代のキラキラとした輝きそのもののような日々はまさに《黄金の日々》。恵を応援する大人たち、礼と高広も恵の学生生活が嬉しそう。青春って麗しい。
  
第4話 生人形の涙
 生人形(いきにんぎょう)って、非常にリアルですごい。あれ、木彫りで作ってるんだろうか。それとも乾漆? 粘土? それとも紙と糊? 電気機械商の南金六町の先代で、からくり人形製作にハマっていたというのは、多分東芝の創業者のことだよね。
 ラストの話の放り投げっぷり、というか余韻のある終わり方は、とても三木笙子さんらしい。この話が、高広と礼の出会いであるよう。
広重 名所江戸百景 竹河岸
 
第5話 月と竹の物語 ※文庫本とKindle版に収録
 銀座の尾張一丁目の小間物屋・・・・といっても、珊瑚細工や金工品などの高級装飾品を扱う「なよ竹」が、店頭広告のために礼のかぐや姫の絵姿を描いてもらった。礼が高広に語るには、いつになく制作に力が入ったらしい。といっても、礼が心血を注いだのはかぐや姫ではなく、その背景の竹であるとのこと。隅田川の河岸にある竹問屋の「武豊」に通い詰め、何度も習作を重ねたようだ。
 店頭のショーウィンドに飾られたかぐや姫の絵の足元には、物語によせた竹の切り株。その中にはなんと金塊が飾られた。
 その礼の絵の前に居座りぼーっと絵に魅入る男が一人。
 やがて、事件が起こる。
 例によって、さあホームズ、解決するのだ!とばかりに迫られる高広(笑)・・・・何しろ、礼の絵もさることながら、本物の金塊を飾ったのかと、それが驚きだ!
 銀座探訪の素敵なHPを見つけたのでご紹介。「銀座公式Webサイト」のコラムです。オススメです。

2024年9月16日月曜日

0504 人魚は空に還る

書 名 「人魚は空に還る」
著 者 三木 笙子    
出 版 東京創元社 2008年8月
単行本 231ページ
初 読 2009年12月
ISBN-10 448801738X
ISBN-13 978-4488017385
《文庫》
出 版 東京創元社 2011年10月
文庫 ‏ : ‎ 298ページ
ISBN-10 4488421113
ISBN-13 978-4488421113

初読は2009年なので15年ほど前。彼女の「世界記憶コンクール」が出版された時にたぶん、同時に読んでいる。実は「世界記憶コンクール」の方を先に読んだ記憶があり、そっちの方が先に刊行されていたと記憶違いをしていたが、この「人魚は空に還る」が三木笙子さんのデビュー作である。
 三木さんは、明治時代の風物やとくに職業や産業の様子を詳しく書かれるので、この本を読んでいると、時代設定が明治のいつ頃なのか、明治はどういう時代だったのか、当時どれほど早く、東京という街が発展したのか、などなどいろいろと知りたくなってくる。そんなわけで、明治時代の年表やら、とくに活版印刷や西洋出版の発展がどのくらい早かったのか、やらをいろいろと調べながらの読書になった。(それらは別のノートにまとめる予定。)なにしろ、先日『小公子』を読んだ際に、かの小説が明治13年(1880年)には日本で翻訳され、雑誌に連載されていたと知って、驚愕したことろだったので。
 なお、この本の5章「何故、何故」で登場する絵双紙のように、この国では江戸時代からすでにカラー刷りの読み物の文化があり、明治の頃の雑誌も、当初から表紙はカラー印刷が多かったようだ。だからこそ、礼の絵の需要もあると言うもの。
 登場人物は、絶世の美男で、美人画を得意とする超絶売れっ子絵師である有村礼と、その友人であり(ほとんど下僕(笑)状態の)雑誌記者、里見高広、という二人の良い男。短編連作である。
 作品の中の既述から、時代が明治40年代初めであることが判る。

京都工芸繊維大学が2019年に開催した展覧会の
チラシ。草の根のアール・ヌーヴォー 明治期
文芸雑誌と図案教育』
 有村礼はコナン・ドイルのシャーロック・ホームズに耽溺しているが、自分では英語を読めないため、高広に逐次翻訳して読み聞かせてもらっている。その代わり、高広の勤める雑誌に格安で表紙絵や挿絵を描いてやっている。高名な絵師である有村礼が、弱小出版社に格安で絵を描いてくれている、という一見割にあわない取引に初めは引け目をかんじていた高広だったが、やがて、礼から友人と見做されていると知り、だんだん二人の関係も馴染んでくる。
 しかし、礼のほうでは、巷間で事件が発生すると、高広にホームズ役になって事件を解決することを要求し、自分はワトソンを気取る、というのが高広にとっては困りもので・・・・ホームズパスティーシュとも言えるかな。
 
第1話 点灯人
 高広の勤める雑誌社(至楽社。といっても、人員は社長兼編集長の田所と記者の高広のみ。)に、尋ね人の広告掲載を求めて小学校4年生の少女が訪れる。行方が知れないのは彼女の兄、府立第三中学(旧制中学なので、現在だと高校生)16歳。ちなみに旧制府立第三中学は、現都立両国高校。
 ※当時の学制は、尋常小学校6年→中学校5年→高等学校3年(大学予科・現在の大学一般教養課程に相当)→大学という流れ。
 彼女の兄である森恵(さとし)は、素晴らしい彫刻の才能を持っていて、最近広告図案の公募で一等賞をとり、大金の賞金を手にしたばかりだった。高広は、編集長で有る田所の安請け合いで、人捜しをすることになる。

第2話 真珠生成
 金魚売りから買い求めた金魚鉢の鉢底石の中から、大粒の真珠が見つかった。それは先頃、老舗の真珠店である銀座の美紀本店から盗難した、三粒の真珠のうちの一粒だった。美紀が残る二粒の真珠の行方に懸賞金をかけたことから、世間は俄に真珠探しに沸き立つ。そして、なぜ、どうやって真珠が盗まれたのか、たまたま、真珠の盗難に高広の父が居合わせたこともあり、高広と礼は真珠の行方を追う。
 「真珠」の持つ美とはなんなのか。美の価値とはなんなのか。未熟な人間である自分は、いつか、そういう美しい価値を身に纏うことが叶うのか・・・・
 謎解きよりも、そのような希求が、胸にくるものがある。

第3話 人魚は空に還る
 浅草の見世物小屋にかかった芝居が世間の評判を攫う。なんとしたら、生きている人魚を展示する芝居だったからだ。やがて、人魚の不老不死伝説にちなんで、「人魚水」なる化粧水が飛ぶようにうれるようになり、あろうことか八百比丘尼伝説を信じ込み、人魚を食わんとするものまで現れて・・・・
 人魚は空に還りたい、と望み、アンデルセンの童話のように、海の泡ならぬ空の泡になる。

第4話 怪盗ロータス
 芸術品を好んで盗み、その現場に小さな睡蓮の木彫りを残すことから巷で『睡蓮小僧』と名付けられた盗賊はその命名がいたくお気に召さず『怪盗ロテュスと呼びたまへ』と新聞社に手紙を寄越した。フランス語のロテュスはさすがに呼びにくいので、英語読みにして『怪盗ロータス』と呼ばれるようになった一風変わった盗賊は、まるでアルセーヌ・ルパンのよう・・・。
 怪盗ロータスと検事の安西、初出。

第5話 何故、何故 (文庫・電子書籍のみ掲載)
 文庫化されたときに追録された小品。ボーナストラックみたいなもの? 高広は礼とともに、礼の大叔父である絵師、歌川秀芳の住まいを訪ねる。元は武家の長屋だったという叔父の新しい住まいは大川端にあり、その居間からは川面が見渡せるはずだったが・・・・・
 大叔父宅の川向こうの質屋で起こった盗賊騒ぎの顛末を、ついうっかり高広が推理する。

《追記》
 この人の小説を読んでいると、心を削るようにして文章を紡いでるのではないか、と心配になることがある。書いているご本人が、強く強く、物語を書く、ということに希求するものがあるのだと、その言葉や行間から感じるからだ。 
 一言に小説といっても、非常に職業的に、技術的に書いていると思える作家さんもいるし、心の奥底から魂を紡ぐようにして書いていると思える作家さんもいる。そういう作家さんの文章は、誠実で美しく、泣きたいほど優しかったりする。この繊細な作家さんは魂を削りすぎて、体調を崩してしまわないかと心配になる。どうか、元気でこれからも作品を生み出してほしいと願っている。

2024年9月13日金曜日

0500 帝都一の下宿屋

書 名 「帝都一の下宿屋」
著 者 三木 笙子       
出 版 東京創元社 2018年8月
単行本 241ページ
初 読 2024年9月12日
ISBN-10 448802792X
ISBN-13 978-4488027926
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/123046596
 2018年8月に出版された本である。
 三木笙子さんの本は、だいたい新刊が出ればすぐ買うので、なんと6年も寝かせてしまったことになる。申し訳ないことだ。

 短編連作であるが、明治の東京の下宿屋を舞台に、穏やかな人間模様が描かれる。ブロマンス、というほどの熱量はないが、とても優しい。ミステリではあるが、凶悪だったり、阿漕に過ぎる人間は出てこず、大概人も死なない。
 私にとっては、この本も心の包帯系である。

紙に文字を書いただけの、何の役にも立たない作り話が、この心を温めてくれる。

 「それを読んだとき、心の中に灯りがともるような」小説こそ、まさに三木笙子さんが目指すものなのだろうと思う。

川瀬巴水《東京十二題》より
大根河岸 大正9年作
 下宿屋静修館に起居する居候の面々の中には、かの里見高広もいる。
 こちらは、「世界記憶コンクール」から始まる帝都探偵絵巻の主人公。こちらの物語もオススメだ。

 私はミステリはさほど得意ではないので、謎解きはさっぱりなのだが、三木さんの本は、ミステリの体裁ながら、さほど謎解きには力を置いていない(と、思う)。謎を解こうとする登場人物の描き方が、控えめで、それでいて芯があって誠実だ。
 明治の街や職業をよく考証しているのも素晴らしいと思う。この時代の町の様子や風物や空気感、人の体温や気持ちをことさら優しく感じる物語である。
 ちなみに、装画はyocoさんた。これまた素敵な絵を描く御方で。帯も白く美しく、「本好き」の心をくすぐる一冊だ。

永遠の市 
 明治時代のお仕事小説の感がある。広告代理店と、老舗の醤油問屋。偽物が出ないようにと最新の注意を払って作られた醤油のラベルが貼られて、なんと粗悪品が出回っていると。
 下宿屋静修館の住人である小説家の仙道湧水は、どういうからくりで、だれが偽物を捌いているのか推理する。
川瀬巴水《東京二十景》より
大根河岸 昭和5年作

障子張り替えの名手 
 ある鉱物の精錬法で画期的な手法を考案し、特許申請間際だった書類が金庫から無くなった。おそらく内部の犯行。いったいだれが盗んだのか。

怪しの家 
 静修館の下宿人5人と大家の桃介、それに以前の下宿人の蒔絵師があつまって、有る家にまつわる謎解きをする。高広も登場。そして実は、真相を知っている。さすがの記者の役得。

妖怪白湯気
 これも、とってもお仕事小説っぽい。明治の風呂屋事情と、風呂屋にまつわる仕事。どこにでも商機はあるものだ。よくもそんなニッチな仕事が、と変なところで関心する。

 いずれも、三木さん、よく調べてるなあ、と関心しながら読んだ。

2024年9月1日日曜日

0496 猫は日記をつける (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 9-27)

書 名 「猫は日記をつける」」
原 題 「THE PRIVATE LIFE OF WHO…」2003年
著 者 リリアン・J. ブラウン    
翻訳者 羽田 詩津子     
出 版 早川書房 2005年7月
文 庫 173ページ
初 読 2024年08月31日
ISBN-10 4150772274
ISBN-13 978-4150772277
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/122787981

 よくよく考えるに、最後にシリーズ作を読んだのは、ムスコが生まれる前?ってことは・・・・四半世紀ぶりのシャム猫ココシリーズ。
 この本は本編ではなく、二匹のシャム猫のしもべたる主人公クィルの日記風猫語り。シリーズ読者にはほどほどに楽しく、そうでない人には全く無価値な一冊だ(笑)。私はといえば、20数年ぶりに記憶を掘り起こすために役立った。

 たとえば、ココの本名がカウ・コウ=クンであることや、ヤムヤムの元の名前がフレイヤであったこと。クィルがリンゴ納屋を改造して、木に染みこんだリンゴの良い薫りのする居心地のよい大型ログハウスに住んでいることとか、登場人物のアレコレ。
 本編では雄猫ココが活躍しがちでヤムヤムはどっちかっていうと手のかかるお嬢さん的な扱いだったヤムヤムが、実はココよりもクィルに溺愛されていそうなことが、新しい発見か。

 すると、善良な獣医が状況を理解しないうちに、ココは突然、猫エネルギーのミサイルと化した。わたしは叫んだ。「ココ!」そして彼のしなっている尻尾をつかんだ! しかし、彼はするりと身をかわし、8フィートの戸棚の上に飛び乗り、そこから追跡者を傲然と見下ろして、シャム猫の罵りの言葉をさんざんに浴びせた。怒ったシャム猫に罵られたことがない人間には、どれほどの毒舌ぶりか想像もつかないだろう!
 
 私もこのシリーズを読むまでは、シャム猫がそれほど大声で啼く猫だとは知らなかった。
 現在の我が家の猫、カルヴァさんは、運動能力こそシャムと互角を張る気がするが、鳴き声は「鈴を転がすよう」と世間一般では言われているので。・・・・とてもそうは思えないのだけどね。

 あと、この本を読むと猫飼いは「我が家の猫の名付けの由来」を語りたくなるものらしい。

 ウチの前代の猫はシードル。現在はカルヴァドス。果実酒由来の洋酒シリーズである。もし、次に猫様をお迎えすることになったら、シェリーになるだろう。初代猫を「麦」にしなかったことがやや悔やまれる。
 




引用

2024年8月28日水曜日

リリアン・J. ブラウン  『シャム猫ココシリーズ』作品リスト


 以前に追いかけて読んでいたのだが、途中で退屈して読むのが中断したままになっているシリーズ。半分くらいは読んでるのような気がする。退屈した理由は、主人公クィルの恋人がだんだん身勝手になってきて、二人の熟年恋模様が楽しくなくなってきたから。それに、シリーズが進むごとに合衆国北の人口も少ない小さな街であまりにも殺人事件が多発して、だんだん嘘っぽくなってきちゃって・・・・
 シャム猫ココとその連れ合いのヤムヤムはわがままカワイイ(笑)
 また読みたくなってきたな。

 書 名国内発行ISBN原 題
1猫は手がかりを読む ☆1988年11月4-15-077202-9The Cat Who Could Read Backwards
2猫はソファをかじる ☆1989年8月4-15-077203-7The Cat Who Ate Danish Modern
3猫はスイッチを入れる ☆1990年4月4-15-077204-5The Cat Who Turned On and Off
4猫は殺しをかぎつける ☆1988年5月4-15-077201-0The Cat Who Saw Red
5猫はブラームスを演奏する2001年6月4-15-077220-7The Cat Who Played Brahms
6猫は郵便配達をする2002年1月4-15-077221-5The Cat Who Played Post Office
7猫はシェイクスピアを知っている ☆ 1991年1月4-15-077206-1The Cat Who Knew Shakespeare
8猫は糊をなめる ☆1991年9月 4-15-077207-X The Cat Who Sniffed Glue
9猫は床下にもぐる ☆1993年9月4-15-077208-8 The Cat Who Went Underground
10猫は幽霊と話す ☆1994年4月4-15-077209-6 The Cat Who Talked to Ghost
11猫はペントハウスに住む ☆1994年12月4-15-077210-XThe Cat Who Lived High
12猫は鳥を見つめる ☆1995年4月4-15-077211-8 The Cat Who Knew a Cardinal
13猫は山をも動かす ☆1995年11月4-15-077212-6The Cat Who Moved a Mountain
14猫は留守番をする ☆1996年8月4-15-077213-4The Cat Who Wasn't There
15猫はクロゼットに隠れる ☆1997年9月4-15-077214-2The Cat Who Went into the Closet
16猫は島へ渡る ☆1997年12月4-15-077215-0The Cat Who Came to Breakfast
17猫は汽笛を鳴らす1998年8月4-15-077216-9The Cat Who Blew the Whistle
18猫はチーズをねだる ☆1999年5月4-15-077217-7The Cat Who Said Cheese
19猫は泥棒を追いかける1999年12月4-15-077218-5The Cat Who Tailed a Thief
20猫は鳥と歌う2000年6月4-15-077219-3 The Cat Who Sang for the Birds
21猫は流れ星を見る2002年6月4-15-077222-3 The Cat Who Saw Stars
22猫はコインを貯める2002年12月4-15-077223-1The Cat Who Robbed a Bank
23猫は火事場にかけつける2003年6月4-15-077224-X The Cat Who Smelled a Rat
24猫は川辺で首をかしげる2004年2月4-15-077225-8 The Cat Who Went Up the Creek 
25猫は銀幕にデビューする2005年2月4-15-077226-6 The Cat Who Brought Down the House 
26猫は七面鳥とおしゃべりする2006年1月4-15-077228-2 The Cat Who Talked Turkey 
27猫はバナナの皮をむく2006年6月4-15-077229-0The Cat Who Went Bananas 
28猫は爆弾を落とす2006年12月4-15-077230-4 The Cat Who Dropped a Bombshell 
29猫はひげを自慢する2007年6月4-15-077231-2The Cat Who Had 60 Whiskers 
     
 猫は14の謎をもつ猫が登場する14の話を収録した短編集
  1991年7月4-15-077205-3The Cat Who Had 14 Tales 
 猫は日記をつける ☆ココシリーズ既刊作品での出来事をクィラランの日記風に書いた作品
  2005年7月4-15-077227-4 The Private Life of the Cat Who... 
 シャム猫ココの調査報告シャロン・A・フィースターによるシリーズ案内
  2002年6月4-15-077299-1 The Cat Who...Companion 
 猫はキッチンで奮闘する ★羽田詩津子による作中料理の調理エッセイ(レシピ付き)
  2008年1月4-15-077298-3 

☆ちなみに国内刊行順 ※あ〜うん。この順番で読んだ記憶がある。
 書 名国内発行
4猫は殺しをかぎつける1988年5月
1猫は手がかりを読む1988年11月
2猫はソファをかじる1989年8月
3猫はスイッチを入れる1990年4月
7猫はシェイクスピアを知っている1991年1月
8猫は糊をなめる1991年9月 
9猫は床下にもぐる1993年9月
10猫は幽霊と話す1994年4月
11猫はペントハウスに住む1994年12月
12猫は鳥を見つめる1995年4月
13猫は山をも動かす1995年11月
14猫は留守番をする1996年8月
15猫はクロゼットに隠れる1997年9月
16猫は島へ渡る1997年12月
17猫は汽笛を鳴らす1998年8月
18猫はチーズをねだる1999年5月
19猫は泥棒を追いかける1999年12月
20猫は鳥と歌う2000年6月
5猫はブラームスを演奏する2001年6月
6猫は郵便配達をする2002年1月
21猫は流れ星を見る2002年6月
22猫はコインを貯める2002年12月
23猫は火事場にかけつける2003年6月
24猫は川辺で首をかしげる2004年2月
25猫は銀幕にデビューする2005年2月
26猫は七面鳥とおしゃべりする2006年1月
27猫はバナナの皮をむく2006年6月
28猫は爆弾を落とす2006年12月
29猫はひげを自慢する2007年6月