2017年8月30日水曜日

0051 L. A. Requiem (Cole and Pike Book 8)

書 名 「L. A. Requiem (Cole and Pike Book 8)」
1999年 
著 者 Robert Crais 
初 読 2017/8/30

 この本を巡る国内状況について。Robert CraisのC&Pシリーズは、1作目『モンキーズレインコート』から『指名手配』まで17作が発表され、そのうち日本で出版されているのは1作目から6作目『サンセット大通りの疑惑』までと11作目『天使の護衛』の7作品と、16作目『約束』、17作目の『指名手配』の計9作品。このうち『約束』は日本では警察犬マギーとスコットの続編として発行され、『約束』を読んで、初めてコール&パイクシリーズに関心を持った日本の読者も少なくないはず。因みに本作は8作目。
 だがこのシリーズ、本邦未訳の7作目『Indigo Slam』から10作『The Last Detective』までの4作は名作として誉れ高い。コールとパイクの、お互いに対する堅い友情と献身が刻まれているのこの作品群を読まずにいるのは、あまりにも惜しい。そこで、無理を承知でペーパーバックを入手した。(私は英語力が低い。)でも辞書を引くのが面倒だったので、読んだのはもっぱらKindleで。ありがとう辞書機能。以下ざっくりあらすじ。

 ルーシーがロスに引っ越してきた。コールが引越しの手伝いに精を出していると、パイクから呼び出しがかかる。友人のトラブルに手を貸して欲しいという。パイクがプライベートのトラブルを持ち込んでくるのは例のない事で、訝しみながらもコールは駆けつける。パイクはコールをフランク・ガルシアと引きあわせる。トラブルとは彼の一人娘であるカレンの失踪だった。ガルシアから、パイクがカレンのかつての恋人であり、いずれパイクは自分の一族に加わると思っていた、と聞かされたコールは驚く。
 捜索を始めて程なく、カレンが死体で発見され、事態は犯人の捜索に移るが、犯人がパイクを偽装したことによって殺人の容疑はパイクに向けられる。

 終盤、パイクは銃撃戦で重傷を負ったまま姿を消す。逮捕されれば残る人生を刑務所で過ごさなければならない、と言うパイクをコールは敢えて逃がすが、パイクはだれもが失血死を予期するほどの傷を負っていた。また、コール自身も跳弾によって負傷する。コールは病院で応急手当を受けるが、医師は肩の手術が必要だと言う。 翌日、コールは顧問弁護士のチャーリーに伴われ市警本部に出頭する。殺人犯(パイク)の逃亡を教唆・幇助した罪を受け入れてコールは犯罪者となり、私立探偵のライセンスを失うのは確実となった。それを受け入れたのは、自分の法廷闘争に拘っていてはパイクを捜索する時間が失われるからだった。翌日、肩の再建手術を受け、退院するとすぐに、コールはパイクを探し始めるが消息はつかめない。事件の渦中にあってコールはルーシーとだんだん疎遠になっていく。やがてコールの事務所に探偵免許と銃器所持許可を剥奪する州からの公式通知が届く。
 
 ガルシアがコールを夕食に招待した。ガルシアがコールに渡した封書の中には、コール名義の私立探偵のライセンスと武器の携帯許可証が入っていた。ルーシーがコールのライセンス回復の為に、コネのあるガルシアに働きかけていたのだ。「我々は君を愛している」「そしてあの美しい女性も、君を愛している」ガルシアは言う。コールは声をあげて泣く。自分の為にではなくパイクのために。
 失踪していたパイクの居場所が分かり、コールはその場所に駆けつけるが、その後からロス市警のSWATが到着し、ライフルが二人を取り囲む・・・。

 個人的には銃撃戦の後、病院で応急手当を受けたコールがやっと家に帰り、ためらいつつルーシーに電話を掛けるシーンがツボ。ダイヤルするだけでも傷が痛む、と思いつつルーシーの声を聞きたくてコールは電話をする。しかしルーシーは必ずしもコールが期待した優しい声を掛けてはくれない。体の右半分が全部痛む。「傷が痛いんだ」と言ってしまえ!と思うが、そういう言葉が出てこないのがコール。電話のあと黒猫がやってきてコールの包帯を舐める。恋人がいても、やっぱりコールをなぐさめてくれるのは黒猫だけ。コールの根深い孤独が垣間見える。

2017年8月22日火曜日

0050 ヒーローの作り方―ミステリ作家21人が明かす人気キャラクター誕生秘話

書 名 「ヒーローの作り方―ミステリ作家21人が明かす人気キャラクター誕生秘話」 
著 者 オットー・ペンズラー  
翻訳者 小林 宏明
出 版 早川書房  2010年8月
初 読 2017/08/22

 ひとまず、冒頭のケン・ブルーウン、ロバート・クレイス祭りの流れでクレイス/コール&パイク、私にも馴染みのある数少ない主人公の一人であるリンカーン・ライムの章だけ読んだ。
 それ以外はまた後ほど。
 読んだこともないのに、ブルーウンが面白すぎて爆笑。リンカーン・ライムは短編小説になっていてちょっと得した気分。
 コールは一人称が「おれ」になっていてかなりの違和感あり。「わたし」か「僕」の方が良いなあ。パイクのパートは素晴らしい!の一言に尽きるけど、ある意味、人物の種明かしなので、人によっては読まないほうがいいんじゃないかな。とも思った。
引用 「わたしは人間を描く。わたしが達成感を味わうのは、意表を突くプロットを思いついたときではなく、キャラクターの陰影が読者を共感させたり、感動させたり、夢中にさせたりしたときだ。(中略)人間を深いところで理解したと思ったときのほうが、喜びは大きい」「私が書いているのは、(中略)人間のまったき理解の仕方なのだ。」
 完全に同意。私は読んでいて入り組んだ謎解きよりも、登場人物の存在の理解に力が入る。クレイスとは相性がいい。でも、パイクの造形ついて、あまり詳しく解説しないほうがいいんでない?と思わないでもなかったのだ。

2017年8月19日土曜日

0049 サンセット大通りの疑惑 探偵エルヴィス・コール

書 名 「サンセット大通りの疑惑 探偵エルヴィス・コール」 
原 題 「Sunset Express」1997年 
著 者 ロバート・クレイス
翻訳者 高橋玖美子 
出 版 扶桑社 2000年3月
初 読 2017/08/19

 C&P6作目。
 純なコールが迂闊にも強者の悪意に騙される。
 それだけだと読むのがツラいが、ルーシーとの恋が絡んでコールが騙されるのも止むなしと思わされるところが上手い。コールの恋の為なら子守も辞さないパイク超万能!
 利用された事に気づいた後半の巻返しは爽快だが「そこから派生したあらゆることが、自分の人生にこれほど長く尾を引く深刻な打撃を与えようとは思いもしなかった」というプロローグを読み返すにつれ、グリーンを撃ち殺したくなるのはパイクだけじゃない。
 その後のコールの災難を読んだ後となっては奴を締め殺してやりたい。

 クレイス祭りも終盤。残すところは『破壊天使』と『ホステージ』、コール&パイクはこれで邦訳は読み切った。本当はここからの4作をじっくり邦訳で読みたいのに。このシリーズはここからシリアスモードに突入するんだよ!
 『天使の護衛』の後のパイク主役シリーズもなかなか良さそうなのに。ああ、残念。この巻には、思わず励まされるような良い台詞が沢山あった。
 P「たぶん。だが、不都合があれば俺たちが正す」 
 ギブス「それでも、連中はまちがってて、われわれは正しい。その過程で銃弾を浴びなきゃならないのなら、浴びるまでだ」
 「大事なのは司法制度の悪い部分じゃなくて、いい部分だ。悪い部分は正していかなきゃならない」
 「あなたが正義と呼びたいものをわたしたちに与えてくれるのは、人間だけだわ」

 ここのところ、ほぼ仕事から逃避するように読書にのめり込んでいたが、最後の最後でコールに元気づけられてしまった。しゃーない。私も頑張るかあ。(ちなみに司法とは関係ない) 
 ついでに守護神パイクの恋愛指南
 「こいつが寂しがるだろう」(コールを見ながら、ルイジアナに戻るルーシーへ)
 「頭がどうかしてるぞ。最後の夜なのにこんな話をしている場合か」

2017年8月10日木曜日

0048 天使の護衛

書 名 「天使の護衛」 
原 題 「Stalking the Angel」 1992年 
著 者 ロバート・クレイス 
翻訳者 村上 和久 
出 版 武田ランダムハウスジャパン 2011年8月
初 読 2017/08/10

 C&P11作目。
 三人称で語られることでCとPの輪郭がいっそうはっきり立ち上がる。
 正直、本当の意味で、コールの格好良さに気付いた。コールは前作(The Forgotten Man)でショットガンで撃たれて重傷を負っており、本作ではまだ自宅で療養・回復中の身である。にもかかわらず、自由にならない体をおして、パイクの為に活動する姿が実にタフで有能でクールで格好よいのだ。
 一方のパイクは父に虐待された生い立ちから、「家族」というものに抱くあこがれのような特別な感情、ラーキンへの思い、コールとの友情などが、スリリングな事件の展開と絡み合いながらパイクらしくハードに表現される。「愛している」は蛇足だ、とは思ったけど、それも込みでパイクなのかも。とにかくこれまで邦訳されたシリーズでは、ターミネーターの印象しかなかった(笑)パイクの印象を改めることになる一冊。

 ストーリーとしては、ラーキンとパイクのあれこれがメインのはずなんだけど、脇を手堅く固めるコールがいぶし銀のごとく輝いていて、ラーキンがかすむ。。。。。やっぱり、コール&パイクだよねえ。
 解説等ではパイク主役のスピンオフってことになってるが、紛れもなくC&Pの11作目だと思う。

 蛇足ながら、不思議と痛くないやりかたで殴られるって、それ痛くないんじゃなくて解離してるだけだから!虐待から心理的に逃避してるんだよ?
 悲惨な育ち方で、身近に守ってくれるものがなかったからこそ、人として正しく行動し、他人を守れる人間になりたいと願うパイク。しかし世間の標準とはちょっと価値基準がズレてるので、組織の中では上手くいかない。結局パイクが選択した自分の正しさを実践できる生き方は傭兵だったのだ。
 コールの存在は、パイクにとって最も価値あるもののうちのひとつなのだろう。
 「自分がコールの背後を掩護していなかったら、たぶんコールは殺されるだろう」というのがコールのパートナーをやってきた理由。だから前作の負傷を引きずり、自分の身をまもるのもおぼつかないであろうコールに危険を持ち込んだ事を悲しんでもいる。そんな2人の友情と共闘が胸熱である。

2017年8月7日月曜日

0047 追いつめられた天使―ロスの探偵エルヴィス・コール

書 名 「追いつめられた天使―ロスの探偵エルヴィス・コール」 
原 題 「STALKING THE ANGEL」1989年 
著 者 ロバート・クレイス 
翻訳者 田村義進 
出 版 新潮文庫 1992年3月
初 読 2017/08/07

 一人クレイス祭り続行中。C&P第2作。
 正直妙な日本文化には閉口するけどまあそれはいい。コールが初めから最後まで関与しないほうが、ミミの為には良かったんじゃないの??というのは言わぬが花。
 今回の仕事は盗まれた日本の古書「葉隠」の捜索。手がかりを求めて乗り込んだヤクザの事務所でいきなり刺青やら小指のない男やらと遭遇して乱闘寸前。ノリは三文アクション映画である。そうこうしている内に依頼者の娘ミミが誘拐されてしまい、護衛に失敗したと落ち込むコールが実にカワイイ。
 内心心配して様子を見に来るパイクはさらに良い。

 事件は例によってどんどん深刻化。ついには殺人に発展。事態を阻止できなかったことをコールは悔やんでさらに落ち込むが、そんなコールに守護神パイク。
 酔っ払ったコールがパイクに電話を掛けた30分後には瞬間移動したかのように居間にいて、台所でオムレツとイチゴジャムトーストを作り「こっちへこい」。黙って食べたコールに「話せるか?」そして、コールの話を微動だにせずに聴くのだよ。 
 C&Pの何がいいって、この二人の関係性がいいのだ。コールもパイクも基本的にサバイバーで、辛ければ辛いほど、それを言葉にできなくなる。(幼少時から周りの他者(親や大人達)に助けられた経験が乏しいから。)それをわかってるパイクはまずはコールに食事を食べさせて、コールの心のハードルを下げてから「話せるか?」と問うんだよね。さりげないシーンが胸に来る。

 今回のパイク語録。
 C「まずいな。飛行機に乗るつもりかもしれない。」
 P「だいじょうぶだ。撃ち落とせばいい」ほんとに出来そうで怖い。

 「葉隠」は秘伝なんで読んで覚えたら本は燃やせと伝えられていて、だから原書は残っておらず伝承されているのは写本で、しかも何冊もあるんだ、とか、写本である以上、文化財的価値はさておき、精神的価値は、そこらの出版物と大して変わらず、そんなもののために日本人は殺し合いはしないだろう、とかはこの際どーでも良い。
 サムライは紅白のハチマキはしないし、ソバ入りのミソスープは勘弁してほしい。でもいい。どーせ亜米利加人の描いた軽めのミステリーなんだから!コールとパイクが格好良ければそれで良いのだ!

【再読C&P祭り!『指名手配』刊行記念】
 初読時はコールが好きすぎて興奮状態だったが、今回はさすがに落ち着いて読めた。
 その分、コールの男っぷりと優しさが染みわたる。依頼人の娘ミミの境遇に本気で腹を立て、心底心配して力を尽くそうとするコール。事件の結末は苦すぎて、どれだけ酒を飲んでも足りないが、「苦痛を取りのぞいてくれる者が愛してくれる者なら、それはあなただ。」というジリアンの言葉は最大の慰めだろう。ハガクレやヘンな日本文化には今回も目をつぶる。

 「そこに置いてあるウィーバー社製のバーベキュー・グリルの下に、ネコはうずくまっていた。大きくて、意地が悪くて、真っ黒。片方の耳は立っているが、もう一方の耳は横に倒れていて、そこにクモの巣のような白い傷跡が残っている。誰かに撃たれたのである。それ以来、まともではなくなった。」
 コール若かりし頃から同居している黒猫さん。「わたしも11ヶ月ヴェトナムにいたが、・・・」「ヴェトナム以降、おまえさんは自分自身の子供の部分にしがみついてきた。」2作目は、過去の従軍体験への言及は少なめ。カルヴァーシティの射撃場の主リックは、海兵隊に12年いて、そのうち8年間は射撃班に所属。そんな彼が嬉しそうに目を細めて眺めるパイク。そういえば、コールの年齢その他はあらかた推測できているが、パイクは何歳なんだろう。