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2021年1月10日日曜日

【訃報】『栄光の旗のもとに』著者H. Paul Honsinger氏 死去 昨年8月


最近、ホンジンガー氏の公式HPがアクセス不能となっていることに気づき、ツイッターのアカウントを確認したところ、娘さんからのツイートにより、2020年8月に、癌闘病中の新型コロナ感染による肺炎で死去されたとのことです。もともと糖尿病を煩っておられ、最近では昨年4月のツイートで癌が発見されたと報告されていました。健康状態については、このご本人のツイートが最後の消息でした。7月14日に、奥様の新刊が刊行される、とのツイートがありました。

新型コロナのことはなくても、病状は深刻な状態だったと想像します。ハイリスクであったのは間違いなく、それでも、まさか、ホンジンガー氏が新型コロナで奪われるとは思っていませんでした。
残念、などど言葉にするのもむなしい気がします。
ご冥福をお祈りします、と書けば良いのか。大切な人が去ったことを身の中に感じています。


彼の作品は素晴らしかった。
Man of Warシリーズの第2部、第3部も読みたかった。2巻目以降の翻訳が続いていないのが残念でなりません。自分が、ご本人を悼んでいるのか、作品を悼んでいるのかも良くわからない。とにかく無念です。どうか、今からでも、彼の作品を沢山の方が読んでくれますように。



2020年5月5日火曜日

0198  Brothers in Valor (Man of War Book 3)

書 名 「Brothers in Valor (Man of War Book 3)」
著 者 H. Paul Honsinger
出 版 47North    2015年6月

 前巻ラストで対クラーグのユニオン伝令艦の任を務めたカンバーランドは、案の定、帰路で使者の首級を上げようとするクラーグ艦隊に待ち伏せされる。今回の敵は巡航戦艦、巡航艦、駆逐艦 計11隻。完全に周囲を封鎖する布陣を取られ、ステルスで息を潜めるカンバーランドに対して、じわじわと包囲網を縮めるクラーグ艦隊。さすがのカンバーランドの艦内にも絶望感が漂い始める。どうするスワンプフォックス。作戦立案はしたが、まずは部下の絶望を戦意で上書きするところから戦闘開始。崇拝する艦長にコーヒー注ぎまくるヒューレット君が愛らしい。
 常々マックスの指揮艦には最低でも前部にミサイル発射管4本が必要だと思っていたが、ホーンマイヤーも同意見だったとみえ、今回、艦隊で改修を受けた際に最新型のミニ対艦ミサイル10発を連射できる高速回転式ミサイル発射装置『イコライザ』を実装。リボルバーのミサイル版みたいなものか? 与えられた装備も盗んだ?装備も存分に使いこなし、不利な状況をひっくり返そうと奮闘するマックス。
 私の愛する機関長“ヴェルナー”ヴォーン・ブラウンは極めて有能かつ常識的な男なので、マックスの非常識な戦法に顎が抜けるほど驚かされる。その会話がこれまた楽しい。
 “この戦術は三日前に二人で検討済みだ”としらっと答えるマックスに「だけど艦長!その議論のまえに二人でケンタッキーでヤンクが蒸留したウイスキーをしこたま飲んでたじゃないですか!正気の沙汰とは思えません!」 マックスの答えは「一言言っておくが、ケンタッキー出身者をヤンクと呼ぶな」。さてマックスが選択した狂気の戦術は?彼らは無事艦隊に戻れるのか?と、これが冒頭の戦闘で1~2章のみ。でもって、ここまでの戦闘はあくまで前菜。メインディッシュはここから始まるのだ。なんて贅沢な。

 このあと、ユニオン支配宙域の辺縁で補給艦と合流し、補給と修理を受け、ホーンマイヤー提督からの封緘命令書を受け取るマックス。彼のキッチンキャビネット(食事をしながら意見交換する幹部士官達)の面々と提督の命令書を吟味するが、不可解な点がある。独立した指揮官として、必要な情報は余さず知っていたいと考えるマックスは、当然マックスがそう考えるだろうとホーンマイヤーも考えるはずだ、と思い至り、カンバーランドに配属されている、ホーンマイヤーの懐刀の情報技術士官ベイルズを使い、ホーンマイヤーが隠した極秘命令(ビデオ)を発見する。ホーンマイヤーは動画の中でマックスに、極めて重大な極秘情報を伝え、マックスに大きな裁量を与える。そしてマックスに語りかける。“お前が身のうちに大きな痛みを抱えていることは知っているが、お前は極めて重要な手駒になっている。戦争を指揮することはつねに犠牲を出すことだが、自分は部下に無駄死にはさせない。必ず帰還せよ”(意訳)と。
 ホーンマイヤーの命令を履行すべくクラーグ宙域の奥深くに侵入するカンバーランドが、味方の補給艦を助けるためにクラーグ艦内で白兵戦になりクラフトが活躍、とか、カッターの名操縦士モーリの栄光とか、間奏のディナーシーンとか、カンバーランドの本来の建造目的であるところの電子偽装の性能を駆使した奇襲攻撃とか。そして、ついに来るべき時がくるのだ。クラーグのいわば“仮装商船戦法”の罠にはまるカンバーランド。致命的な損傷を受け、マックスは決断する。
  "Abandon ship"
 総員の退避状況を報告する副長はこう付け加える。
「巨大な太りすぎの黒猫も一匹シャトルに乗ってます」
 1巻では普通の黒猫、2巻目では太り気味の黒猫だったクルーゾーは「巨大な太り過ぎの黒猫」に進化。この間5ヶ月だ。ご馳走与え過ぎだ。
 カンバーランドは、その最後の務めを果たす。致命的な損傷を受けた亜光速ドライブを直接制御しているのは、重傷を負い、艦と、いや彼のエンジンと運命を共にする機関長ブラウン。そして、ひとつの伝説が終わり、次の伝説が始まる・・・・・はずなのだが、著者ホンジンガー氏の健康不安で、いまだ刊行されず。
お願いです神様。とりあえず、ホンジンガー氏をお助けください。


2020年4月5日日曜日

0195 The Hunters of Vermin A TALE OF ENSIGN MAX ROBICHAUX

書  名
The Hunters of Vermin2017年11月
著  者 H. Paul Honsinger 
出  版 H. Paul Honsinger(Kindle)

 『栄光の旗のもとに』の前日譚『Deadly Nightshade』の後編。
 主人公マックス・ロビショー16歳。先進種族ヴァーハに偵察戦闘艇ナイトシェードごと、自力では帰還も叶わぬ宇宙の彼方に拉致されたマックスだが、ヴァーハのお眼鏡にかなったのか一方的に「訓練」を施され、ホーンマイヤーの任務部隊に帰還するまでの話。
 前話では母の思い出が語られたが、この巻ではジノファージ攻撃わずか二日前の父との最後の思い出が。マックス、お父さん似だ。両親の優しい記憶で胸の底を温めながらひたすら闘うマックスに落涙必至。
 マックスの父は、宇宙艦の設計技術者だったが、飛行機黎明期のプロペラ機のレプリカを手作りすることを趣味にしていて、手製の空力飛行機の操縦もする。この時には、8歳の息子を自作の飛行機に乗せて操縦させている。もちろん、普通に操縦席に座ったのでは前が見えないので、座席に台を置き、そうすると足がフットレバーにも届かないので、補助具を置いて。そして、飛行中のトラブルでエンジンが止まっても、そのまま息子に対処させてる。大胆だな、おい。
 マックスの無謀なほどの大胆さは父親譲りだと確信した次第。
 この優しい父子が二日後に見舞われる悲劇を思うと、胸に迫るものがある。
(ちなみに、このマックスの幼少期から培われた空力飛行機の操縦技術は、第2巻で遺憾なく発揮されており、同乗者のブラムを絶叫させている。)

 さて、本作冒頭、マックスの返還を要求するために、外交官であるミドルトンの兄がヴァーハに電文を送り、それにヴァーハが返答するくだりがある。ヴァーハの価値観や若者の育成に対する考え方が見えて面白い。
 “母も父もいない若いロビショーは、宇宙軍がその代わりとなって道を示さなければならいのに、親代わりであるはずの宇宙軍は未熟な彼を一人で危険な任務に送り出した。我々が助けなければ、彼はクラーグの獲物になっていた。したがって、宇宙軍は若いロビショーについて、返還を求める権利はない。ロビショーはわれわれとともにいる” といったことをヴァーハは主張するのだ。ヴァーハは、若い戦士を慎重に育成する文化を持っており、またいくつもの後進の文明を庇護下においてもいるらしく、自分たちの価値観を問答無用で相手に適用する。ホーンマイヤーのマックスへの仕打ちは彼らの逆鱗に触れ、マックスに対して庇護者として振る舞うことにしたらしい。とはいえ、宇宙最強の戦士種族ヴァーハのトレーニングは、人間のマックスにとっては、相当に過酷だったのだが。
 この、マックスが人類側に帰還するまでのヴァーハ戦士との交流が、後の人類対クラーグの戦局に大きな影響を与えることになるのは言うまでも無い。マックスは、名誉の戦いを重んじるヴァーハ文明において、名誉を伴わず、ヴァーハ戦士の手を煩わす必要のない“害虫駆除”を行ういわば、外人部隊としての訓練を受ける。この体験が、後に、ヴァーハに「獲物を分け合う」戦士として認められ、ヴァーハ名を与えられる原点になるのだ。


2017年6月29日木曜日

0040  For Honor We Stand (Man of War Book 2)

書 名 「For Honor We Stand (Man of War Book 2)」
著 者 H. Paul Honsinger 
出 版 47North  2014年3月
初 読 2017/6/29

 完読はしていないが、未読部分は翻訳が出た時のお楽しみに取っておく(言い訳)。
 戦艦ものの醍醐味と戦術・戦略の妙、友情と信頼、艦内問題への対処、部下の指導育成、トラウマの克服、宇宙軍的子育て、異種交流てのが撚りあわさって、二巻はさらにマックスがはっちゃけてグレードアップ。そして会話がイカしている。
 
 基本どこを拾い読みしても面白い充実ぶりだが、6章に出てくるホーンマイヤ中将の命令書がこれまた面白い(笑)。曰く
 『 上官の能力を試すな。命令を無視するな。目的地へまっすぐ行け。自分の冒険のために迂回するな』
 中将はきっとマックスのことを良く判ってるんだろうな。それにしてもマックス、一体どういう評価をされているのだ。
 1巻めでは優等生ぶりを崩さなかったマックスであるが、この巻ではかなりのヤンチャっぷりを発揮しているので、彼のこの二面性がまた面白い。
 ウォーザム・ビッグズ氏が発信したとみられる謎の暗号文を受け取り、修理中のカンバーランドを離れて、大使代行であるブラムを連れてラシード星系に向かったマックス。ラシードは政情不安な状態で、ラシード宇宙軍の支援を受けたにもかかわらず目的地に着陸することができず、ビッグズ氏との会合地点に向かうためには、散発的に戦闘が起こっている地上を移動する必要が生じた。マックスが取った手段は訓練用飛行機で敵勢力の頭上を通過すること。マックス自身は操縦に自信があるのだが、曲芸飛行につきあわされたブラムは絶叫(笑)。
 そののち、ラシードに侵攻してくるクラーグ駆逐艦隊と交戦するために、マックスはカンバーランドをラシードに呼び寄せるのだが。

 別動の艦長の元に、修理中のカンバーランドで駆けつける必要が生じた新任副長デコスタが直面した問題は補給艦からの離脱。デコスタは朗らかにマックスに報告する。
「ですがその点でクラフト少佐のご助力をいただけて幸運でした」
 という明るい副長に嫌な予感しかしないマックス。
「いやなに、補給艦の連中が退艦しやすいように、いわば、まあ “後押し” してやっただけですよ」(意訳)と片手をひらひらさせて涼しい顔のクラフト。(シェーンコップの絵でどうぞ)
 さらに「宇宙軍規則に抵触する事は何もしていない」と嘯くブラウンがドッキングを解除させるために提供した手段とは。(後日「爆弾サンドイッチ」として宇宙軍に知れ渡る。)
 自分の所業は棚に上げて、上官(自分)によく似た部下達のエキセントリックな行動に冷や汗をかくマックスにクスリとくる。

 一方で、部下を指導育成する指揮官としてのマックスも健在である。戦闘中のCICで緊張のあまり落ち着かなくなった副長に、艦橋での振る舞い方について指導する場面が秀逸。

 それ以外の士官達の成長ぶりも甚だしい。
 ラシードの暗号化された軍事機密通信を傍受し復号できるという通信長のチンの提案に対して
 「私はショックを受けている。断固としてショックだ。ラシードは友邦だ。紳士たるもの同盟国の軍事機密通信を盗み聞きしたりしないものだ。君からそんな提案を受けるなんて、愕然としている」芝居がかってるな。
 「私もですよ。断固として。実際この恥を抱えて生きていけることが驚きですよ。で、艦長。どうします? コンソールにしますか?ヘッドセットで聞きますか?」
 「コンソールにしてくれ。オープンチャンネルで」
 ちょっと違うかもしれないけどこんな感じか?1巻目でマックスのささやかな意趣返しの文面に「ひっ」とか言ってたチンの成長ぶりが頼もしい一節。
 おおむねカンバーランドの面々はこんな感じで、マックスの指導(?)のもと、のびのびと本領を発揮し、実に上官によく似た妙な行動力を示すようになっている2巻目である。
 こののち、特命を帯びてカンバーランドが編入された艦隊の司令官に、マックスがさんざん侮辱されたことに怒り心頭の乗組員たちが頼もしいことこの上ない。そしてマックスは「上官の能力を試すな」というホーンマイヤーの命令のもと、ゲリラのように(旗艦以外と)指揮系統を作り上げ、クラーグとの闘いに臨むのだ。

 ヴァーハとも新たな展開がある。カンバーランドが追撃していたクラーグ艦が、偶然ヴァーハの偵察艇に遭遇して攻撃する。ヴァーハはクラーグを凌駕する軍事技術を持っているが、単座のヴァーハ偵察艇と、クラーグ戦艦で戦力が違いすぎた。名誉を重んずるヴァーハは単独でクラーグと闘おうとするが、ヴァーハ艇の操縦士がまだ戦闘経験の浅い若者であることを見てとったマックスは、ヴァーハの若者に自分が戦士として上位者であることを示し、共同作戦を提案する。その結果、ヴァーハは象徴的な意味での獲物(肉)をマックスと分かち合う必要が生じ、その為にマックスにヴァーハの戦士名を与えることになる。「スワンプフォックス(湿原狐)」がその名前。
 このマックスが分け与えられた「肉」が、今後の戦局を大きく変更する可能性を持つ代物だった。。。。。。

 このような大きな戦争の流れのなかに、カンバーランド艦内の様々な出来事が絡んでくるのがホンジンガーの作風。
 今回の大きな艦内の事件は、圧縮エンジンの事故。マックスとヴェルナーの共闘が素敵。
 戦闘中の外殻の損傷による空気漏出に一人で立ち向かったパク少年の勇気。その勇気に報いるためにマックスが取った行動。
 幼い候補生ヒューレットへのマックスの関わり方は象徴的。きっと、ミドルトンや他の艦長達もこういう風にマックスに関わり育てたのだろうな、と思わされる。そして、その関わりの中で、マックスはヒューレットに、飲むことができる水が生成されている艦内の機器を教え、他の候補生にも教えるように言う。生き残るための知恵を幼い候補生に教えるマックスに切実さを感じる。彼らがその知識を本当に必要とするときには、自身は《サンジャシント》のシン艦長のように、もはやこの世にはいないかもしれない。自分の候補生がそんな体験をしなくても良いように艦を指揮すべく、自らに命じているに違いない。
 もうひとつ、マックス個人の大きな出来事がある。それは、訓練中の幼い候補生達に、自分の巡航艦《サンジャシント》での経験を語ったこと。もちろん自分から率先して話した訳ではなく、偶然の成り行きで語らざるを得ない状況に追い込まれたのだが。当時の自分と同じ年頃の候補生たちに語り、彼らの目と反応を通して自分の体験を振り返ることで、自分があの時どれほど強い恐怖を覚え、深く傷つけられていたか気づくのだ。そしてその気付きがもたらした安息感。候補生達にとっては、クラーグに鹵獲された巡航艦でたった一人で一ヶ月近くを生き抜いた伝説の候補生が自分たちの艦長だと知った感動と畏敬。しかし、それを表すのは言葉ではなく、尊敬を込めたまなざしと敬礼のみである。これを感動といわずになんと言おうか。お願いです。翻訳で読ませてください。


2017年5月14日日曜日

0038 Deadly Nightshade A TALE OF ENSIGN MAX ROBICAUX

書 名 「Deadly Nightshade」2015年3月
著 者 H. Paul Honsinger 
出 版 H. Paul Honsinger(Kindle)

 ハヤカワ文庫『栄光の旗のもとに』のマックス・ロビショー少佐の前日譚の前編。本邦未訳。
 弱冠16歳の新任少尉マックスは、〈ナイトシェード〉という名称の単座の偵察機をあてがわれ、敵領宙域でのクラーグ軍軍事演習に関する単独諜報活動を命じられた。
 それは彼の才能故ではなく、ホーンマイヤーが溺愛する彼の姪のベッドに潜り込んでいたのがバレたから。ホーンマイヤーは激怒して、マックスに厳しい懲罰を与えようとしたが、その惑星の法律では16歳のマックスが未成年であるのに対し、彼の姪のほうは年上で成人とみなされるため、マックスを正規に罰しようとすると、姪の方が厳しく罪を問われてしまう。やむなくホーンマイヤーはマックスを降格した上で、危険な敵地に追いやることにしたのだ。
で、その単独行動中にヴァーハ艦が現れ、ヴァーハに攻撃を仕掛けたクラーグは一瞬で全滅させられ、マックスはナイトシェードごと拉致されて・・・・・。
 1巻の『栄光の旗のもとに』でのホーンマイヤーのマックスへの微妙な評価の原因となったとおぼしき出来事や、マックスとヴァーハ(『栄光の旗のもとに』では“バーチ”と訳を当てている)の遭遇の経緯など、マックスのはっちゃけた経歴が明かされる一方で、恩師ミドルトンの深い愛情に心を打たれる。それにしても、極限の状況下でへこたれず、とにかく闘いつづけるマックスの精神力はどうやって培われたのやら。
 拙い拾い読みで粗筋を押さえただけだが気持ちは満足。あとは翻訳を待つ。
 不眠症気味のマックスが、母の思い出の子守歌(フォークソングか?)を口ずさんで眠りに落ちるところに、涙腺が緩む。


2017年4月22日土曜日

0033 栄光の旗のもとに ユニオン宇宙軍戦記 (ハヤカワ文庫SF)

書 名 「栄光の旗のもとに ユニオン宇宙軍戦記」 
原 題 「TO HONEOR YOU CALL US  THE MAN OF WAR TRILOGY」2013年 
著 者 H・ポール・ホンジンガー 
翻訳者 中原尚哉 
出 版 早川書房 2017年4月 

《あらすじなど》
 候補生として8才から宇宙軍艦で育ち、28才で大尉になっていたマックスは、艦長以下の先任士官が全滅した艦内で戦闘指揮をとり、敵を破り生還する。
 この功績で最新型の駆逐艦の艦長に抜擢されるが、この艦が問題だった。前任艦長が病的な偏執狂で、乗員を疲弊させ艦内には問題が山積、戦闘効率は最低レベルまで落ちている。艦の問題を解決し、乗員を鼓舞し、士気を回復させなければならない。そのためにも敵に打ち勝つ必要がある。
 新米艦長が外敵とも艦内の問題とも果敢に戦って、部下の信頼と戦果を得ていく正統派ミリタリーSFである。おもしろい!
 艦長と兵員の間の信頼関係とか、圧倒的武力差を戦術でひっくり返すとか、艦長と軍医の友情とか、戦術を通して敵と心情が通じる、とか艦長の葛藤とか、新進気鋭の若手艦長が老練な将軍の手の平の上で頑張ってるとか、好きな要素がぜんぶぎゅっとつまっている。艦内の掌握、練度不足の乗員の訓練、前艦長が残した弊害の一掃だけでも大仕事だが、その合間に異星文明との接触、艦内事故への対処、偽装作戦、交戦、裏切り者への処罰ととにかく寝る間もないほど忙しい。これだけのネタを、よくぞこの一冊に詰め込んだ。しかも消化不良にならず、絶妙なバランスで、かつ3部作の1冊目として、きちんと収束させつつ、次作への余韻を残している。
 キャラクター造形も絶品。主人公マクシム・ロビショーは、ヌーベル・アカディアナ星出身。その名と惑星名が示す通りのケイジャンで、操舵所の凄腕チーフであるルブラン一等兵曹長も同じ星の出身。たまに交わす一言、二言のケイジャン・フレンチは艦長と操舵長の間の特別な信頼感を示しているよう。副長のガルシア(メキシコ系?ちがったか?)、機関長の“ヴェルナー”ブラウン(イギリス系)、宙兵隊支隊長のクラフト(ドイツ系)そして、医務長(艦医)でマックスの親友となるシャヒン(アラブ系もしくはトルコ系のイスラム教徒)が有能な艦長のブレーンとなり、それぞれの文化と個性を出しつつ、 艦長を支えていく。未来の多文化共生社会を覗き見している気になる。それ以外にも、候補生教導員の“マザーグース”アンボルスキや、通信長のチン、センサー長のカスパロフ、作戦長のバルトーリなど、有能な士官が脇を固める。政治的な思惑で艦の足を引っ張るいやらしい人間が出てこないのが、読んでいて爽快である。司厨にはケイジャンの司厨員がいて、味気ない宇宙軍料理にスパイスをきかせている。艦内醸造のビール、艦の焼きたてパンやケーキやパイ、軍艦ものが「料理で読める」のもめずらしい。フォレスターやダグラス・リーマンの海洋冒険小説の正当な後継とも言うべき作風であるが、二番煎じに甘んじることなく、オリジナルの世界観を構築している。

《マックスの生い立ちと取り巻く人々》

 マックスは8歳の時に敵の生物兵器攻撃のために、母と家族を喪った。この生物兵器ジノファージは、人類の宿敵であるクラーグ人が開発し、人類の居住惑星に同時多発的に放ったもので、このウイルスに感染すると、男性は無症状キャリアとなり、女性は内臓でエボラ出血熱のような激烈な液化壊死を発症し、ほぼ100%死亡した。この攻撃の年は、マックスのような、親を喪った子供達がユニオン支配星域内で大量に出現しただろう。保護者を喪った子供達(男の子)の後見となったのが宇宙軍であり、候補生として宇宙艦に乗り組んだ彼らは、艦を我が家とし、乗員を家族として、育成と教育と訓練を受け自らも軍人となる道を歩んだ。主人公マックスはそうやって8歳の頃から軍艦に乗り組んでおり、作中28歳の時点ですでに20年のキャリアを持つ宇宙軍士官である。その間、いくつかの悲惨な戦闘経験が加わり、そのもろもろが表からは見えにくいトラウマとして、彼の精神に影響を及ぼしている。彼がひた隠していたそのトラウマを見破って手をさしのべたのが、親友となるシャヒン医師だった。この、マックスのトラウマ克服も今後のストーリー展開の一つの軸となっていくだろう。

マックスが相当有能なのにもかかわらず、さらに強烈な個性を放ってマックスを手のひらの上で転がしているのが、任務部隊司令官のホーンマイヤー中将である。そのホーンマイヤーの候補生時代からの親友であり、マックスに「孫子」を教え、戦略・戦術を叩き込んだ恩師であるミドルトン大将の二人は、マックス少年期の候補生時代からマックスを見守り育ててきていると思われるが、その辺りの物語は今作では明かにされていない。ぜひ、読んでみたいものである。この二人、おそらく甘やかし役のミドルトンと、厳しい小父さん役のホーンマイヤーで役割分担しているのではないかと見え、マックスはもちろんミドルトン命なのだが、なかなかどうして、ホーンマイヤーはマックスを鍛える上では大きな役割を担ってきているように思える。

 

Heart of OakHeart of Steele

 ちなみに、原著のタイトルは、宇宙軍に歌い継がれているという設定の、イギリス海軍伝統の海軍歌「ハート オブ オーク(オークの心)」(作中では「ハート オブ  スティール(鋼の心)」として、メロディーはそのままに歌詞が宇宙軍仕様に変更されている。)その、「ハート オブ スティール」の歌詞から取られている。

 この「ハート オブ オーク」の歌詞「steady boys  steady」(作中では「そのまま進路を保て」と翻訳。steadyは操舵用語で「舵そのまま」とか「進路そのまま」の意)という台詞は、この本や続刊の要所で効果的に使われている。

 一巻では、クライマックスでガルシアとアンボルスキがささやく。二巻ではマックスが戦闘前の緊張に凍りつく艦橋で“steady  boys  steady♪”と口ずさみ、まあ、おちつけ、と部下を励ますシーンがある。海軍歌「ハート オブ オーク(オークの心)」を聴きたい方はこちらへ


「世界の民謡・童謡」 ハート・オブ・オーク Heart of Oak



《著者について》

  著者のホンジンガーはかなりの遅咲きで、なんとこの本が処女作である。小説家である妻の勧めで本作を執筆し、当初は自費で電子出版したが、Amazonの出版部門の目にとまりメジャーデビューを果たした。そして、一躍一流小説家の列に並んだ。奥様には、「よくやってくださった!」と感謝状を贈呈したい。

 ホンジンガーはすでに、第1部の2巻、3巻の出版を終え、その後、この第1部の前日譚である中編2作を世に送り出している。このMAN OF WARシリーズは3部作各3巻の全9冊となる予定で、原著の中では、全ての巻のタイトルも発表されている。本来であれば、氏のHPなどでは、第2部(4巻目)の刊行も予告されていたと思うが、健康不安が続き、刊行が中断している。氏の闘病と健康回復を祈っている。

【追記】ホンジンガー氏は、何年も糖尿病により闘病されていたが、2020年4月にガンが見つかり、8月にガン術後の回復期に感染した新型コロナにより逝去された。Man of War 第2部、第3部が遂に世に出なかったことが残念でならない。せめて、第一部の2巻、3巻と、17歳のマックス・ロビショー少尉の冒険譚である中編2作を、翻訳出版してもらいたいと、切に願っている。