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2022年8月3日水曜日

0376 ヘルドッグス 地獄の犬たち (角川文庫)

書 名 「ヘルドッグス 地獄の犬たち」 
著 者 深町秋生       
出 版 KADOKAWA 2020年7月
文 庫 560ページ
初 読 2022年8月2日
ISBN-10 4041094100
ISBN-13 978-4041094105

 ううーむ。深町さん初読みである。だがしかし、並み居る深町さんファンに申し訳ないことにこれは私にとっちゃ鬼門かも? 
 べつに暴力描写とかは全然問題ない。余裕で許容範囲内。
 しかし、これだけの猛烈なストーリーにリアリティを与えるための人物描写があと一息、あと一歩、深みがあればなあ。あと、暴力団組織のあれこれとかが説明がましくて、中盤に差し掛かるまえに気持ちが砕けた。だが、面白くないわけじゃあ、もちろんない。むしろ、好きなカテゴリなだけに、要求水準が自ずと高くなってしまったか。個人的には、こいつを “アジアを又にかける孤高の殺し屋出月梧郎の壮絶な前日譚” ってことにして、梧郎主人公のハードボイルド小説を読みたい。

 だがしかし。
 日本の作家さんを読んでいると陥りがちな、言葉の引っかかりが発生。
 「夜間双眼鏡」はできたら「暗視双眼鏡」「赤外線双眼鏡」でお願いできれば、と。
 「じゃっかん」はぜひ漢字で記載願いたい。
 「肩身の狭い想い」は「思い」の方が良いかと・・・・だから、こういう風に引っかかっちゃうから、日本人作家さん苦手なのだ〜。でも、まあ序盤中盤はかなりざっくりと読みましたが、後半戦、例の誘拐あたりからは、ワクワクが止まらなかったよ。室岡は気に入っていただけに、結末が悲しい。ああなる宿命とはいえ、ちょっと勿体ないなあ。良い弟分だったのになあ。もうちょっと二人で動くところを見たかったな。残念だ。
 あと、血まみれの殺し道具やら服やらの始末を他人に任せて後に残してくるのって、プロとしてどうなん?とは思った。


2022年6月19日日曜日

0356 死はやさしく奪う (角川文庫)

書   名 「死はやさしく奪う」
著   者 栗本 薫    
出   版 角川書店 1986年1月
文   庫 294ページ
初   読 2022年6月19日
ISBN-10 4041500117
ISBN-13 978-4041500118

 かの『キャバレー』みたいな、ハードボイルドだけど、音楽を追いかける小説かとおもいきや、表紙のまんまのハードボイルド・ミステリーでしたね。これ、金(かね)さんのイメージなのかな?

「俊一がね、言ってたな」
「カネさん見てると、昔知ってた人、思い出すって」
「昔ちょっと知ってたヤッチャンだってさ」(P.211) 
 
 金井恭平は、JAZZのサックス奏者で、『キャバレー』の矢代俊一の兄貴分。サックスをお気に入りの順に「本妻」「二号」「三号」とよび、彼が行けなかったステージの穴に俊一をかり出した礼としてか、「俊ちゃんがカネさんの三号を欲しがってた」と人づてに聞いただけで、まあいいや、やっか。取りに来い、と実に気取らず、豪快で気前のいいところを見せるおっさんである。
 もっとも、俊一なら俺よりずっと大切にラッパを扱って毛筋一本ほども傷なんて付けねえだろうし、また吹きたくなりゃあとりもどせばいいや”くらいに考えていそうだけど。


 身長165㎝くらいしかない小柄な男だが、学生ボクシングで鍛えたがっちり体型の金サン、ちょっと見にはとてもジャズ奏者には見えず、どうみても筋もん。あれ、そういえば、いつ猫にミルクの皿を出してやったんだっけ?と3回見直したがそんなシーンは無かったぞ。まあいいや。

 大学時代から15年も片思いをしているゴージャス美人(今は人妻)が、夫婦で殺された、と聞き込みにきた刑事の2人組に聞かされ、にわかに身辺が怪しくなる。本人の思考が追いつかないうちに、自宅に忍び込まれ、殴られ、怪電話は掛かるし、ヤクザにボコられるし、自宅の冷蔵庫には毒入りミルク。(これがどうにも、ストーリー的になんだか浮いててね。こういう違和感て、ミステリ読みには大事よね。)いやさ、牛乳パックをスーパーとかで買ってきて、外からバレないように注射器かなんかで目立たないように農薬を注入し、それをわざわざ、金井のアパートに持ち込んで、冷蔵庫にしまうヤクザ。ってあまりにもマメマメすぎて、絵的にも面白すぎるじゃん、と思っていたらなんとなんと、そーでしたか。なるほどねえ。

 クラブでバイトしているトシが、16歳で山形から集団就職してきた、というのが、なんとも時代を感じさせる。集団就職って、昭和40年代くらいまでか。オイルショックでの経済低迷と、高校進学率が増えて、中卒就労が減ったのもこの頃。企業の募集が高卒以上になってきた時期。この本は昭和61年発行だから、薫サンはだいたい昭和50年代を描いたのだな。・・・・もっとも、薫サンの作品で時代考証をしようなんて考えない方がよいかもしれんけど。

 ストーリー的にはごくシンプル。
 女に惚れて、裏切られて、自分の中の聖女も、その聖女を愛した自分も“殺され”た。だから、その復讐を。ちょっとだけ女々しい男のハードボイルド・ストーリー。金井恭平という男のロマンでした。
 

2022年1月7日金曜日

0313 グッド・パンジイ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

書 名 「グッド・パンジイ」 
原 題 「DEAD AND GONE」2000年
著 者 アンドリュ−・ヴァクス    
翻訳者 菊地 よしみ    
出 版 早川書房 2003年8月
単行本 582ページ
初 読 2022年1月●日
ISBN-10 4150796114
ISBN-13 978-4150796112
読書メーター  
 愛すべき老犬の、イタリアン・マスチフのパンジイ。バークの相棒、親友、同居人。バークは、はめられて銃撃され、バークを守るために敵に襲いかかったパンジイは蜂の巣にされて殺される。
 バークも九死に一生を得るも重傷を負って片目の機能を損ない、マックスの隠れ家にかくまわれて何ヶ月も潜伏する。
 やがて、活動を再開したバークは、パンジイの敵討ちを果たすために、自分を狙った相手とその理由を探し出す・・・・・

 シリーズのなかでもかつてない危機と苦難に見舞われたバークであるが、そのバークを助けるために登場する面子がこれまた素晴らしく、それこそシリーズ中かつてなかった“バディ物”の雰囲気が漂う。これは・・・・・・ひょっとして、 『ブルーベル』を超える名作なのでは!?
 サツ嫌いのバークをして一目置かせるシカゴの優秀な刑事、クランシー。かつてビアフラでバークが命を助けたことを今もって恩にきているホモの黒人、バイロンはパイロット&自動車運転の名手。その恋人の「国内では活動できない」諜報機関員(つまりCIA)のブリックもその技術でバークの支援につく。かつてポル・ポト政権下のカンボジアを生き抜いた経歴を持つ、才色兼備で大食の女ジェムは、バークの「押しかけ女房」に。幼い頃、児童精神病院を共に脱出したかつての美少年で今は超絶ハンサムな男に成長したパターン分析の天才ルーン、その部下のインディアンのレヴィは元海兵隊で長距離射撃の名手。これにいつものファミリーの面々と久しぶりに登場のサニー(ランディ)も加わり、為すことはただ一つ。バークの命を狙った奴を探し出す。そしてパンジイの復讐を。
 バークの命が狙われた理由を探すことは、すなわち、バークの過去を洗い出すこと。
 分析の天才ルーンに導かれて、バークは記憶のある限り、自分の過去を洗い出す。
 バイロンとのいきさつ、ルーンとの過去、子犬のパンジイを育てた思い出。辛い記憶をまさぐる度に解離を経験しつつ、ジェムに守られ・癒やされながら。前作のバークの不安定さと対象的に、この本のバークは静かだ。

“ジョー・ランズデールの新作が目に留まった。まだ読んでいないやつだ。” 

 ヴァクスはランズデールと仲が良いのだろうな、バーク・シリーズにはランズデールの本の登場率が高い。そして、ホモセクシャルの黒人キャラ、バイロンでレナードを連想する。

“「あんたは、どんなことだとおれに安心して話せるのかな?」”

 初対面のバークを、最初は自己紹介代わりに自分の用事に連れ回したあと、そう問うたのは、シカゴの有能刑事のクランシー。穏やかに、的確に。いや、バークのような人間との付き合い方を心得ているよな、と感心する。本当に良い奴だ。

 “女が立ち上がった。何かの小さな缶詰を開いて、中身を品よくフォークで白い陶器の皿に掻き出す、猫が近づいてきて、慎重ににおいを嗅いでから、女王然とした態度で、二、三口召し上がった。”

 ヴァクスは、犬のことだけでなく、猫のこともよく理解しているようだ。

“ジェムの食べ方は・・・・・慎重、という言葉がふさわしいようだ。ゆっくりと、一口ごとに何度も何度も噛んでいた。同時に着実でもあり、決してペースを乱さなかった。ローストチキンをまるごと平らげた彼女は、小さな白い歯で骨まできれいにしていった。ドレッシングをかけたサラダの大盛り。ロールパンを四度おかわり。アップルジュースを大きなグラスで三杯。オニオンリングのフライを一皿。付け合わせのロースト・ポテト。”

 自分は大食いだ、と挑戦気味にバークに話しを向けるジェムに、バークは、彼女が小さい頃に飢餓を体験していることを言い当てる。カンボジア人のジェムは、幼い頃にクメール・ルージュに知識人だった両親を殺されていた。そのジェムに、「あなた、どうなるかわからないって恐怖を知ってる?完全に無力だという恐ろしさ、・・・・理解できる?」と問われたバークは「ああ、知ってる」と答える。そんな一言で分かりあえるほど二人の体験は簡単なものではないが、二人は会話や行動を重ねるなかで、信頼を作っていく。

“「古い目覚まし時計をタオルにくるみ、子犬をそのそばで寝かしてやれば、母犬の心臓の鼓動のように聞こえて安心すると言われている。そうする代わりに、おれはパンジイをおれの心臓の上で寝かしてやった。」”

 自分の復讐の目的と理由をジェムに語るバーク。忠実なパンジイがバークを守って、死ぬまで勇猛に闘ったことの意味をジェムに伝えるためには、自分とパンジイの、子犬のころからの関係を語らなければならなかった・・・・・



 冒頭の激しさやバークの苦悩の深さにもかかわらず、パンジイの復讐を実行するという、極めて明確な目標を自分のなかに定めたバークは、非常に落ち着いている。そのためか、この本、これまでのシリーズの中で一番読みやすい。その上、改造車の蘊蓄、50年代、60年代の音楽、さらりと脇に登場する犬猫、銃器、とかなりマニアック度も高い。さらけ出されるバークの過去話も注目度高し。この巻の終わりに、しばしニューヨークを離れてポートランドを拠点にすること、つまりはジェムと一緒に暮らすことを決めるバークであるが、日本語版の刊行がこの巻で止まってしまっているのが非常に残念。ここからのバークの生き様をさらに追いかけたいのに。

2021年12月26日日曜日

0312 クリスタル(ハヤカワ・ミステリ文庫)

書 名 「クリスタル」 
原 題  CHOICE OF EVIL (Burke Series Book 11)」 1999年 
著 者 アンドリュー・ヴァクス     
翻訳者 菊地 よしみ    
出 版 早川書房 2001年6月 
単行本 584ページ
初 読 2021年12月25日
ISBN-10 4150796106
ISBN-13 978-4150796105
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/103382173   
 バークは、前作で出会ったクリスタル・ベスと、恋仲になっていた。
 バークの隠れ家の家主である男の逆恨みで長年住み慣れた隠れ家を失ったバークは、パンジイと共にクリスタル・ベスのセーフ・ハウスに移り住んだが、そんなときに、ゲイの集会に出かけたベスが、同性愛者を嫌悪する殺人者の巻き添えになり銃殺されてしまう。再び住処を失い、三度恋人を喪ったバークは、新しい生活基盤を作りながら復讐を心に誓っていたが。。。。

*** *** *** *** *** *** ***

 今作は、バークの内面の傷つきを深く感じる。
 長年住んだ隠れ家を失い、“表の顔”として手間をかけて維持してきた身元を失い、生計手段(小口詐欺)をすべて失い、おまけにパンジイを危うく失いかかる危機に晒された。
 そこに、クリスタル・ベスの突然の消失が加わる。バークの精神のたがが緩み始めたようだ。頻繁に解離が起こるようになっていて、ママの店の指定席でそうなったとき、ファミリー達が地下室に担ぎ込んで介抱していた。バーク本人にその間の自覚がないからどんな様子だったのかは語られないのだが、ファミリーの反応からして結構酷かったのだろうと推測する。バークの自己コントロール不全は不安な要素だ。バークとセックスしたがる女・ネイディーンは、なぜかバークに本能的な不安と怯えを抱かせるようで、バークの拒絶感が会話に現れ、コミュニケーションがほとんど成立しない。
 バークは、ネイディーンの何かを恐れて、言葉を尽くして近寄るなと言っているのだが、ネイディーンにはまったく疎通しない。バークが背中の毛を逆立たせた野生の小動物のように見える。自分に構うなと理解させようとするバークの努力が涙ぐましい律儀さだ。

 一方で、ふたたび登場したストレーガの変容が艶容に輝かしい。
 かつての性的に搾取された女の子を内在させていた未成熟な女性は、加害者であった男への復讐を経てある種の成熟に至っているようだ。
 ストレーガことジーナの初出は『赤毛のストレーガ』で、この巻では、彼女は幼少時から性的虐待を受け続けた女性そのものの姿だった。自分の性を差し出すことでしか、男性との関係を築くことができず、怒りが内面に渦巻いていた。その後、何年かがたち、彼女の目の前でバークはジュリオを殺すこともした。ストレーガの深い傷は、彼女の生来の強さで埋められてたようだ。傷はなくなりはしないが、まるで金継ぎによって、傷そのものが美しさと輝きを纏うように、ストレーガは成熟した女性になっている。

 バークは、自分と共通するストレーガの内面を恐れつつ、ストレーガに憩ってもいる。魔女の底なしの奥の深さを垣間見る。

 ストーリーは、クリスタル・ベスが巻き込まれた銃乱射事件の犯人を追うバークを意外な方向に連れて行く。ゲイを嫌悪する人々とゲイを隠れ蓑にした幼児性愛者に対する殺戮から、死んだはずの殺し屋ウェズリイの名をかたる殺し屋の存在が明らかになり、バークが接触を試みると、男は自分語りを始める。
 バーク、ウェズリイ、ウェズリイに成り代わろうとした男、ネイディーン、ストレーガ、すべてが幼児性愛の犠牲者であり、その体験が人格形成に大きく関わっている。バークとウェズリイはお互いがお互いになりたかった、合わせ鏡のような人間だし、ネイディーンとストレーガもしかり。

 ネイディーンとの関係、ネイディーンの中の病理、ホモ・エレクトスの中の論理、なぜそれがバークに理解できるのか、いろいろと未消化なままの読書となってしまったので、いずれ再読しようと思う。

2021年11月28日日曜日

0309 11月に去りし者 (ハーパーBOOKS)

書 名 「11月に去りし者」 
原 題 「NOVEMBER ROAD」2018年
著 者 ルー・バーニー 
翻訳者 加賀山 卓朗 
出 版 ハーパーコリンズ・ジャパン 2019年9月 
文 庫 456ページ 
初 読 2021年11月22日 
読書メーター    
ISBN-10 4596541221 
ISBN-13 978-4596541222 
 1963年11月。裏路地の薄汚いバーや、安っぽいガウンからおっぱいをぽろりと出している娼婦まで、街全体がジャズのスウィングに身を委ねているニューオーリンズ。熱い湿気とネオンと紫煙とウイスキーと女。美味い料理、そして、マフィア。賄賂と裏社会の人脈と危険な仕事。ギャングとしてかなりの地位を築いていたフランク・ギドリーは、11月22日、全米を震撼させた事件を知った。そして、自分が頼まれた些細な仕事が、ケネディ大統領暗殺に関わりがあると直感する。
 暗殺者に仕立てられた男、実行犯であるスナイパーを手配した男、スナイパーに武器を調達した男・・・・・犯行に関係したと思しき人間が次々に消されていく。自分にも殺し屋が差し向けられるのか。今この瞬間に? この俺に?

 15歳で(おそらくは)生まれ育った貧しい家を出て、ニューオーリンズで万引きで命をつなぎ、ギャングに気に入られて使い走りをしているうちに頭角を現して、今やイタリアン・マフィアのカルロス・マルチェロ(実在のニューオーリンズのマフィア・wikiカルロス・マルセロ参照)のNo.3となっているギドリー。ボスには信頼されていると思っていたが。結局は使い走りの延長線にすぎないのか。

カルロス・マルチェロはケネディ兄弟の兄、ロバート・ケネディと因縁があり、それが暗殺事件の背景の一端として語られている。
 だけど、そんなこたあ、どうでも良い。

 たった今ままで、裏社会とはいえ人生を謳歌していたいい男が、突如命を狙われることになり、逃亡せざるを得なくなる。裏社会の仕組みは骨の髄までしみこんでいるから自分が殺される理屈は理解できる、だがそれを受け入れるのは別問題だ。一方、追跡を命じられた男も淡々と義務を果たす。なぜならそれが仕事で、それしか生き方がない。すべてが、ボードの上のチップの代わりに自分の命を置かれたゲームのようだが、やがてその中に、紛れもなく尊いものが現れる。初めはゆきずりに利用しただけだったが、自分とは違う人間の真摯な生が、かけがえのない絶対的なものになる。そしてその存在が、ギドリーの忘れようとしたはずの過去をも揺り動かす。
 孤独な男達が、それぞれに行き掛かり上道連れができて、自分で目論んだ以上の関係がもたらされる。結局は人間と、情と、愛。
 ギドリーの魅力と孤独に。バローネの虚無に。ついでにセラフィーヌの愛の深さとしたたかさに。読んで、よじれて、ジタバタする。胸が苦しくて泣きそうになったら、俺のために泣いてくれ。モン・シェール。
 
翻訳がめちゃくちゃ良い。翻訳者は加賀山卓朗氏。ジョン・ル・カレ、デニス・ルヘイン、クロフツ、グレアム・グリーン、ロバート・B・パーカー、その他を訳出されている方だ。私の積読1000冊(すみません。反省してます。)のなかにずいぶんありそう。これは読まねば。

2021年8月27日金曜日

0289 セーフハウス(ハヤカワ・ミステリ文庫)

書 名 「セーフハウス」 
原 題 「Safe House (Burke Series Book 10)」 1998年 
著 者 アンドリュー・ヴァクス 
翻訳者 菊池 よしみ  
出 版 早川書房 2000年1月  
初 読 2021年8月20日 
文 庫 521ページ
ISBN-10 4150796092 
ISBN-14 978-4150796099
 ハードカバーの『嘘の裏側』と『鷹の羽音』をすっ飛ばして、今作を読む。今作から翻訳は菊池よしみ氏。
 雰囲気や文体は、これまでの佐々田昌子氏の訳と違和感なし。ただ、微妙に言葉づかいが気になるところもある。
 冒頭気になったのが、バークに対するプロフの呼びかけで、数ページのうちに「兄ちゃん」「お若いの」「坊主」「兄弟」と変遷していく。こうなると、原著はどんな言い回しをしているか気になってくる。
 まあ、気になってしまったので確認してみると、兄ちゃん=Schoolboy お若いの=youngblood 坊主=son   だった。うーん、これはきっと翻訳も苦心されてるよな。日本語で「兄ちゃん」「お若いの」「坊主」がそれぞれ使われるシチュエーションや、この言葉を使う主体や客体って微妙に違うような気がする。だから読んでいて違和感を感じたのかな。
 あと、「オーケイ」というセリフの多用が目立つ。はっきり「オーケイ」と訳して違和感ない箇所もあれば、相手のセリフの合間に「それで?」と肯定的に相づちをうちつつ話の先を促す、とか、相手の理解や同意を前提に軽く確認するようなシーンもある。日本語であまりしない使い方なだけに、しかも「オーケイ」そのものは日本語に馴染んでいるだけに、この「オーケイ」がかけっこう浮いている。
 この半分くらいを「いいか」「それで?」「だろ?」「〜でしょ?」とかで軽い会話で流してくれると読みやすいんだけどな。
 もう一つ、引っかかってしまったのが 「もうひとりは、新品の靴を見せびらかして歩き回り、おれのコックをしゃぶったことのある女。」・・・コック、、、ねえ。わたしゃ『ナニ』も『竿』も表現としちゃあ好きではないが、まんま『コック』ってのも芸がない気がする。
 にしてもだ。
 ヴァクスの文章って、読むのはおろか、訳すのはとてつもなく大変そうだ。冒頭の

“Aren’t they just perfect?” she asked.
“Absolutely,” I assured her. 
“They’re so beautiful, I just hate to take them off.” 
“They won’t get in the way,” I said.

という会話が、

「このおっぱい完璧じゃない?」
「申し分ないな」
「すっごくきれいだから、ちっちゃくしたくないのよ」
「別に邪魔にはならないさ」

と訳されているのを見て、プロってやっぱり凄い、とも思ったのよ。

 さて、本題にはいる。
 今回はバークのところに、昔のムショ仲間が厄介事を持ち込んでくる。
 ちょっと脅すだけのはずが、ある男を殺してしまった、と。重罪で前科二犯のハーキュリーズ通称ハーク、は当然ながら捕まりたくないし、ムショに戻りたくない。で、バークに泣きついてきた。
 世話のやける、ちょっと思慮の足りない男ではあるが、人好きのする性格で、義理人情に厚い、いい漢である。かつての仲間を見捨てることができないバークが、同じおつとめ仲間であったプロフと調査に乗り出す。バークがある酒場で張っていると女—クリスタル・ベスが接触してくる。クリスタル・ベスは、配偶者に虐待された女性のための隠れ家「セーフハウス」を運営しており、この組織とそれが運営する施設に庇護されている女性と、自分自身を守るために、ある男との対決を強いられていた。そしてその助っ人としてバークに白羽の矢を立てたのだ。だが、そこにもう一つ、白人至上主義者(ネオナチ)の秘密結社への潜入捜査、という筋書きが絡んでくる。
 セーフハウスと対立する謎の男プライスは、どうやら政府機関の員数外の要員のようだ。アウトローのバークと、やはり法の外側で戦うプライスが、牽制しあいつつも共闘する中盤以降が実にスリリングな展開となる。この辺りでようやく文体にも慣れて、スムーズに読み進められるようになった。中盤になるまでほとんど話が混沌とし、ラスト1割切ってから最後の数ページで事態が動くのはこれまでの巻と同様。途中の被虐待女性達の保護活動のエピソードなど、冗長さを感じないでもないが、そこはまあ、ヴァクスだし、終盤の作戦行動へのタメとしては丁度良い。

 バークシリーズのこれまででは、バークはいわば「虐げられた子供」だった。虐待された子どもに自分自身を投影して、過去の自分を救うように子どもを助けていたのがバークだったのだ。子供(の魂)が子供の敵に復讐をする、という筋書きである。そこでは、子どもの親はむしろ「敵」として描かれていたようにも思う。しかし今作では、バークが大人になったと感じる。「ゼロ地点」からの回帰を経たバークの内面の変化だろうか。自分自身が母との親密な関わりを持ちようがなかったバークは、これまで母を守るという視点はあまり出てこなかったのだが、今回の作品には、子どもを守る為にその母親も守る、という行動の広がりがある。こういったバークの変化もこのシリーズの密かな魅力であると感じる。

 しかし、登場する女達、ヴァイラやクリスタル・ベスがウザい、と思ってしまうのは、自分が女だからだろうか?男性読者は彼女達のような女はオーケイなのか? 機会があったら誰かに聞いてみたい。

2021年8月16日月曜日

0288 ゼロの誘い(ハヤカワ・ミステリ文庫)

書 名 「ゼロの誘い」 
原 題 「Down in the Zero(Burke Series Book 7)」 1994年 
著 者 アンドリュー・ヴァクス 
翻訳者 佐々田 雅子 
出 版 早川書房 1994年5月(ハヤカワノヴェルズ) 
初 読 2021年8月16日 
文 庫 538ページ
ISBN-10 4150796084 
ISBN-14 978-4150796082
 ずいぶん長い時間が過ぎた。あの家に踏み込んで、子どもを殺してからだ。
 子どもを殺した。今はそういえる。一言一言はっきりと。

 あの家に踏み込んだ。このおれが。そこで何をするか承知の上で。

 おれは落とし前をつけるために、あの家に踏み込んだ。ことが終わったとき、死んだ子どもがおれの憎しみの形見として残った。
 
 やつらは殺したが、おれ自身があの子を生け贄にしてしまった。

 あの家に踏み込んで、児童虐待(殺害)ポルノの一味を皆殺しにしたのは、自分の過去への復讐だった。しかし、その憎しみのはけ口には落とし穴が。一味が連れ込んで今まさに餌食にされようとしていた子どもがいたのだ。そんなことには思いも至らなかったバークは銃弾の雨を降らせ、その子を巻き添えにしながら一味を殺害してしまった。自分も肩に銃弾を受けたが、それよりもバークの精神が受けた痛手の方が大きかった。
 「ゼロ」は死。バークが度々口にする「ゼロ地点」は自殺したときに落ちる場所である。(必ずしも物理的な意味ではない。)子どもを殺してしまったバークは、死に近いところで、その誘いにそよいでいた。
 ファミリイ達や、戻ってきたミシェルはバークを案じている。
 クラレンスはプロフに心酔し、バークのファミリイに加わったようだ。

 そんなバークに、とある10代の若者ランディが助けを求める。自分の周囲の若者たちが次々に自殺して彼は怯えている。彼の母親は若いころバークと因縁があり、困ったことがあったらバークに電話しろ、と息子に言い聞かせていたらしい。そんな成り行きで、バークは若者の連続自殺の謎を探りランディを守るため、ニューヨークを離れてコネティカット州に出向く。『ブロッサム』と同様、ニューヨークの裏街を離れたバークにはなんとなく安穏とした雰囲気が漂っている。

 「良い家庭」の甘ったれたお坊ちゃんになかば呆れつつも、ランディの助けに乗り出したバークが状況を探りはじめると、ファンシイ、チャーム・・・・と正体不明な女が次々に出てきて、バークが何を探しているのか良く分かららず、中盤過ぎるまでは雲をつかむような手応えの無さで読んでいて困惑する。エロシーンの多さでは『ブルーベル』に次ぐ。
 SMの女王役でしか男と関われないファンシイに、大切に扱われることを教えながら男女の恋愛に引き込んでほぐしていくバーク。しかしなんだろう、ちょっと独りよがりな感じを受けないでもない。

 若者ランディーは、車いじりが好きで運転の才能があり、バークと関わるなかで自然と興味と能力を開花させて自信を付け、バークに信頼を寄せていく。そして、実は自分の自殺を怖れていたわけではなく、好きになった女の子が自殺することを怖れていたのだと告白する。

 人のために何かをする。自分のことはとりあえず忘れて、他人の為に没頭することが、実は自分を癒やし、救うことになる、というのは真理だと私は思っているが、まさにそんなストーリー。
 自分の中の傷を持て余していたバークが、ランディーを手助けし、一人前になるのを見守り、ファンシイの心の傷を慰めるうちに、次第に強さを取り戻していくのだ。

 双子の姉妹であるファンシイとチャームもまた、近親相姦と虐待の犠牲者だった。父に支配され続けた双子は、それぞれの方法で、他人を支配することで世の中に復讐をしている。それを見定めたバークが選択した落とし前の付け方とは。

 今回は、コネティカットの白人上流社会での事件のためか、それに、ホームグラウンドを離れているためか、ある意味、大人の決着をつけるバークである。銃撃戦を闇に葬れる環境ではないので、そこは仕方がないことだろう。しかしそこにいたるラストの数十ページは、非常にスリリングで、読み応えがある。

 ヴァクスの著作は、ハードボイルド、であるとかノワールであるとか、エロであるとかの小説としての出来以外に、ヴァクスが明確に(ただし暗に)描き出したい児童虐待にまつわる、もしくは被虐待児の生涯にわたる影響に関わるテーマがあると感じる。そういう意味では、このストーリーの(隠れていない)テーマは「癒やし」だろう。人は、人と関わり、他人の為に無私になるとき、自分自身も癒やされる。自分の癒やしを望んで、自分の事ばかり考えていると、かえって病んでしまうのだ。チャームのように。ファンシイとチャームの決定的な差異もそこにあるような気がする。



2021年8月11日水曜日

0287 もう耳は貸さない (創元推理文庫)

書 名 「もう耳は貸さない」 
原 題 「RUNNING OUT OF ROAD」2020年
著 者 ダニエル・フリードマン 
翻訳者 野口 百合子  
出 版 東京創元社 2021年2月 
文 庫 343ページ 
初 読 2021年8月12日 
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/100323060  
ISBN-10 4488122078 
ISBN-13 978-4488122072
 バルーク・シャッツ 89歳、元刑事。刑事引退後35年も経ってから巻き込まれた殺人事件で犯人に襲われ、撃たれ、骨折したのが前々巻、87歳の時の出来事。
 それが原因で歩行器が手放せなくなり、日常生活にも介助が必要になったため、一生を過ごすつもりだった自宅を手放し老人ケア施設〈ヴァルハラ・エステート〉に妻のローズと共に入居した。住み慣れた、長年かけて手入れをし愛着のあった自宅や家財を手放さなければならなかった痛手は、もちろん専業主婦だった妻ローズの方が大きい。それでも70年連れ添った頑固な夫の為に、必要な判断は果断と下すローズは影の主役とも言っていい。一方のバックにとっては、家庭とはローズそのもの。そのローズが癌に冒されていると判明するところから。

 どうしてもローズが癌である、という情報が頭に入らない。アルツハイマー性痴呆の進行かと思いきや、妻の病気、そして近い将来妻に先立たれる、という事実を気持ちが受け入れるのを拒否しているから、のよう。イヤな事は早く忘れてるのは人間の脳の機能だし、絶対イヤなことは意地でも聞かなかったことにしてしまう老いた脳がなにやら愛おしくもある。
 自分自身が、だんだん老いた先のことがリアルに考えられるようになってきて、この話は身につまされる。なによりバックの進行する老化がリアルで、やがて自分もこうなっていくのか、と読んでいてなんだか気分が暗くなる。住み慣れた大切な家や親から引き継いだ家具や、愛着のある食器を全て売り払って(老人ホームに持ち込めないから)も、そのホーム2ヶ月分の家賃にもならなかった、というのが現実的すぎる。自分にもそんな日が来るんだろうか、そもそも、そこそこ世話の行き届いた有料老人ホームに入居することすら叶わない可能性の方が高いのでは?(特養に入る段になったら、もはや愛着などといっている余裕はきっと無いだろう。) それでも、自分が信念を貫いてきたという確固たる記憶と自信があれば、バックのように毅然と(←本人としては)、超絶傲慢・頑固に(←周りから見たら)していられるだろうか。

 さて、話は、バックが若い頃の連続女性殺人事件にさかのぼる。
 バックがかつて逮捕した因縁の殺人犯(シリアルキラー)が、あと数週間で死刑執行される。
 州で選択している処刑方法は致死薬。
 あるラジオ・ジャーナリストが、この死刑囚に目をとめ、彼の「冤罪」の主張と死刑制度の是非を連続番組で取り上げる。
 ラジオのインタビューの書き起こし(犯人側と死刑制度廃止論者の意見)と、バックがこのことで助力と頼んだ孫のテキーラに聞かせる導入からの1950〜70年代のバックの事件捜査が交互に差し込まれた構成がけっこう面白い。バックはたしかに行き過ぎなところがあるが、やはりいい刑事だった。人種や境遇にかかわらず、女性、セックスワーカー、社会的弱者の犯罪被害者に心を寄せ、人種差別やユダヤ人への偏見渦巻く市警の中で筋を通し、ユダヤ人として嫌がられながらも、その捜査姿勢を市警の中で認められてきていた。
 バックの代わりにジャーナリストと渡りあうテキーラもなかなかのもの。こいつは良い弁護士になりそうだ。
 結局、体制(資本主義)とそこに発する社会悪が個人の犯罪の根源で、犯罪者も体制の被害者であり、体制(=世の中)が改まれば全てが解決する、と主張するジャーナリストと、体制も悪いかもしれんが、悪を為すのは個人で、そのような個人は裁かれなければ被害者は報われない、と主張するバックの主張が歩み寄ることはないが、薬物による処刑の問題性(非人道性)は、当のシリアルキラーが死刑執行に失敗し、延々苦しみながら(自業自得、というか因果応報)死んでいく姿をさらすことで逆説的に読者に投げかける。
 ジャーナリスト側は、死刑廃止論と真性のシリアルキラーの冤罪の訴えを混同して取り扱ったのが敗因。
 悪は図らずもがっつり罰せられ、死刑廃止論、というよりも残虐な刑罰の是非を読者に投げかけ、バックは頑固ながらも嫌々老いを迎えいれ妻ローズの病気に向き合う、というなかなか良く出来たストーリーだった。これまでシリーズ現3冊の中では、一番良いと思う。

2021年7月22日木曜日

0282 凶手(ハヤカワ・ミステリ文庫) 

書 名 「凶手」 
原 題 「shella」 1993年 
著 者 アンドリュー・ヴァクス 
翻訳者 佐々田 雅子 
出 版 早川書房 1998年4月 
初 読 2021年7月22日 
文 庫 333ページ
ISBN-10 4150796076 
ISBN-13 978-4150796075
 聞かれれば34歳と答えた。だが、本当の年齢は自分でも知らない。ゴースト、と呼ぶ連中がいて、ジョン、と呼ぶ人がいた。孤児院で育ち、教護院に入れられ、刑務所に行った。最後におつとめをしたのは、愛した女を守って変態の下衆を殺したから。
 最初の殺しは15歳のとき。年長の強い少年が、弱かったり年下だったりの少年達を支配している残酷な養護施設の中でのことだった。管理者の大人はなにもしなかった。あるとき、順番が自分に回ってきた。年長のボスの言うことを聞く代わりに寝ているところを殴り殺した。

 やがて、その行為が自分の生計になった。

 情緒や感情に乏しく、言葉数が極端に少ない。単に無口なのではなく、話すべきことを初めから自分の中に持っていない。それがどんなに無惨なことか、彼の言葉で“語られない”ことを通じて、物語全体で、ヴァクスは語っているように思う。
 ふつう、ハードボイルド小説でよく見られる主人公の一人称で感情表現を交えず抑えた筆致で描き出すのは一種の「スタイル」である。読者は、文字に書き起こされない主人公の感情や思考を行間に汲み取り、そうすることで、自分の中にヒーロー像を描きいっそう主人公への感情移入を強める一種の仕掛けとなる。そこに自分を投影し、自分のヒーローを自分の中に創りだし、彼らがじぶんの中を歩き回ることを楽しむことができる。だが、この主人公ジョンはそうではない。この男は、このようにしか考えられないからこのような文章になるし、こんなふうにしか感情が動かないからこのようにしか表現できない。その行間には汲み取るべき言葉は存在しない。そこにあるのは、虚無である。彼はおそらく被虐待児症候群の類型で、例えば、詳細に脳を調べれば前頭葉の情動を司る部位や、言語野にも萎縮が見られるのではないかと思う。善悪の観念も乏しい。獣が生き抜くために獲物を殺すように、必要に迫られれば人間を殺す。人間として生まれながら、人間としての様々な希望や喜びを享受できるようには育つことができなかった。人間を殺すその時に微かに動く、彼の心の残り滓が、彼が全き人間になることができなかったことの悲劇を示す。
 そのような彼が、渾身の努力によって追い求めたのが、彼と行動をともにしていた女性、シェラである。
 ジョンが刑務所に服役している間に行方がしれなくなった彼女を、ジョンは探し続ける。その過程で、彼女を探すことができると見做した男の依頼で、殺しをする。

 「いろんなことをしたんだ」「おまえを捜そうと思って、いろんなことをした」

 シェラを探すため引き受けた様々な成り行きをジョンはそんなふうに表現する。この拙い言葉が、読者にとってはどれほど雄弁なことか。
 ジョンは、自分がなぜシェラを探し続けるのか、自分ではその理由を言葉に置き換えることができない。
 そして、ついにシェラに再会したときに、シェラがその言葉を彼に教える。「愛している」と。
 ラストの「ジャケットをとりに行く。」と言う一文の意味が、彼にとっての希望を示すものであることを願う。



 蛇足ながら、巻末の解説には一言いいたい。「卑しき者どものブルース」???? いやそれは違うだろ、と。それでは、自分はヴァクスを理解しているのか、と問われればそれはおそらくできていないのだろうけど、ことの本質は「ハードボイルド」であるとか、「卑しい街に生きるしかなかった卑しい人間」の物語が持つ可能性、などというものではないだろう、と思うのだよな。ヴァクスが作品を通して取り組んでいる幼児虐待の告発についても、その受け止め方が浅薄でがっかりする。いかにヴァクスが取り組んでいることが理解されるのが難しいかの証左のような解説であるが、まあ、これは娯楽小説だから、人は読みたいように読めば良いのだろう。私も含めて。



2021年7月18日日曜日

0281 サクリファイス (ハヤカワ・ミステリ文庫) 

書 名 「サクリファイス」 
原 題 「Sacrifice(Burke Series Book 6)」 1991年 
著 者 アンドリュー・ヴァクス 
翻訳者 佐々田 雅子 
出 版 早川書房 1996年7月 
初 読 2021年7月17日 
文 庫 463ページ
ISBN-10 4150796068 
ISBN-13 978-4150796068
 この表紙の写真だけで、胸が痛む。

 バークはニューヨークの裏側の生活に戻っている。家族の甘い幻想はインディアナに置いてきた。
 ミシェルは性転換手術を受けるためにどこかに行っているが、どうも上手くいっていないようだ。

 2歳の幼児が滅多斬りにされて惨殺された。現場には、兄の9歳の男の子もいた。そして次に、その子が預けられた養育家庭の実子の乳児が絞殺される。2人の赤ん坊を殺したのは9歳のルークだった。ルークはカメラを恐れ、地下室を恐れて、別の人格が出現、長期にわたる心身の虐待と性的虐待が原因となる多重人格の症状を示していた。ルークに虐待を加えていた両親は行方をくらます。
 日頃から密接な協力体制にある児童虐待対策の専門部門(特殊被害対策事務局)を率いる検事のウルフと、児童保護のプロフェッショナルであるソーシャルワーカーのリリイはルークの扱いを巡って対立。リリイはルークを秘匿するとともに、バークにウルフとの仲介を頼み込む。リリイからの頼みを受け、バークはウルフのもとに出向く。

 さて、バークは、何歳くらいなんだろうな?と考える。40代後半って処だろうか。細かい字で書かれた報告書を読むのに、書類を持つ手を伸ばす。もう少しで眼鏡が、、、などと考えたりしている。彼の心の中には虐待され、疎外された子供がずっと居座っているので、傍から見ると年齢不詳なのだが、今回初登場のクラレンスが「息子」ポジションに収まりそうな展開になってくる。

 ブードゥーの巫女はバークの動機の曇りの無さを見定めて、助言を与える。

———「ほんとうにわかりますか あなたは自分が赤ん坊の霊だということがわかりますか? 歩き回る霊だと言うことか」p.295 

 ———「あなたはそれを担っているのです。逃れることはできないでしょう。死ぬまでは。でも、恐れることはありません。悲しみを宝とするのです。この世にあなたの幸せはないでしょう。ですが、あなたの霊は戻ってきます。新しく、きれいになって」
「憎しみなしにですか?」 
「憎しみはあなたの霊の役目です。あなたの真の道は正しく憎むことなのです。霊を損なわないよう気をつけなさい———魂を危険にさらさないように」p.429

 ルークの両親を法で裁くのが困難なことがわかり、バークは彼らの始末を暗黙のうちにウルフから引き継ぐ。武器商人のジャックから銃器を調達し、バークはファミリーたちと彼らの潜伏先に奇襲をかける。しかし、バークはそこで取り返しのつかないミスをしてしまう。

 敵の地下室に連れ込まれていた子どもを、巻き添えで殺してしまったことで、バークは自分の魂も殺しかける。ファミリーの誰にもそのことを告げなかったが、ルークを見た瞬間に悲鳴を上げた。

 ここから、バークは自分の意志に関係なく世の中から背負わされたものだけでなく、自分の責任により負ったものも背負って歩きださなければならなくなるのだ。バークシリーズの一つのターニングポイントである。本当は、このシリーズはここで終了となるはずだったらしい。シリーズがこの後も続いて良かった。このままではあまりにもバークに救いがないので。ここからのバークの回復をこの目で確認したいと思う。


 ———俺は今、この世にいる。自分の霊が歩き出すのを待っているのだ。


 

2021年7月11日日曜日

0280 ブロッサム (ハヤカワ・ミステリ文庫)

書 名 「ブロッサム」 
原 題 「Blossom(Burke Series Book 5)」 1990年
著 者 アンドリュー・ヴァクス 
翻訳者 佐々田 雅子  
出 版 早川書房 1996年1月
初 読 2021年7月11日 
文 庫 439ページ 
ISBN-10 415079605X
ISBN-13 978-4150796051
おれは悲しい生まれだ————思い出すのはそればかりだ。だが、悲しみがおれの友だちだったことはない。必要なときでさえ、あの恐怖の電気ショックのように内部に食い込んでくるということはなかった。そいつはいつも存在しているだけだった。おれの魂に低く垂れ込めた霧のようなものだった。おれはよく自分の奥深くにもぐり込んだ。生きていく場所の中で、そこはおれが知っている唯一安全な場所だった。誰にも見えないところまで深くもぐり込んだ。だが、悲しみはやわらかすぎてちぎれない灰色の蔓を伸ばし、割れ目の間を進んできた。・・・・・・・


おれには小さな男の子が見えた。目には涙をいっぱいにため、ビンタを食った顔を赤く腫らして、自分のベッドからじりじり後ずさりしていく男の子が。3人の体のでかい少年がそちらに詰めよっていく。げらげら笑いながら、ゆっくり時間をかけて。
——————翼が折れたカモメをとり囲んでなぶる、3台の車。バークの記憶が揺すぶられる。


おれはチキンとダンプリングを食い、ジンジャーエールを飲みながら、一家の愛情あふれる会話に耳を傾けた。ふっと不思議な気がした・・・・・ここにいる自分の存在が。

 刑務所の「兄弟」ヴァージルの家に迎えられ、一家の団らんを眺めながら。
 バークとヴァージルはムショの仲間だが、子供の頃から犯罪を犯さずには生きることができなかったたたき上げの犯罪者であるバークとは違い、ヴァージルは愛する女を守るために殺人罪を犯し(引き受け?)、守ったその女はヴァージルを待ち続け、出所後には定職も家も所帯も持って2人の子供を育てている市民だ。そんなヴァージルの家で、居心地が悪いわけではないが、ふと、そこに自分が紛れ込んでいることに不思議な気分になるバーク。異世界を垣間見るような心もちだろうか。

 インディアナ州で起きた連続アベック銃撃事件。バークのムショ仲間だったヴァージルの義理の従兄弟の少年に容疑がかかる。兄弟のために真犯人探しに乗り出すバークは、犯人像として幼少時の被虐体験が原因で人格が歪み、殺人行為(射殺すること)が性欲の引き金となる孤独な青年像を想起する。かつての被害者が今は連続殺人鬼となっている。しかしバークはそんな犯人に治療と更生の道を用意してやるわけではない。とうの昔に一線を超えてしまった人間には、それなりのケリの付け方しかない。バークにそれを出来るのは、バークが同じ側のサバイバーだからである。だがしかし、ケリをつけたのはバーク自身ではなかったのだが。

 バークは殺伐としたニューヨークを離れ、インディアナのヴァージルの住む街で身分を偽装しつつ慎重に行動する。そのためか、これまでの作と比べ、人間関係もバークの行動も落ち着いて見える。ヒロインのブロッサムもこれまでの女性キャラの中では一番の高学歴(医学部出たての小児科医の卵)で、ある意味で育ちが良くて物怖じしない女性。かといってバークとまったく価値観がかすりもしないほどの良家の子女ではない。実は売春宿の娘なのだが、しっかりした母と、姉妹や店の女達に可愛がられて真っ直ぐ育っている。)
 努力が実ったり、苦労が報われたりする当たり前の表の社会と地続きではあるが、その遥か下層に、子供が虐待され、食いものにされる世界があるのだとバークがブロッサムに教える。無論、妹が殺された彼女もそのことは知っているし、小児科医としてこれから生きていけば、いやでもそういった世界に関わっていくことになるはずだ。

 ブロッサムが小児科医という身分を生かして、地域の児童保護の仕組みを調べてくる。
「いい、こういう仕組みになっているのよ、バーク。まず、800と言う番号が決められているの。これは州全体に共通の番号。みんながこの番号に電話するようになっているわけ。ソーシャルワーカー、救急センターの看護婦、学校の先生、隣近所の人、みんながね。電話はインディアナポリスに通じているの。そこの登録センターに。それから、また地元の出先に折り返し電話が行くの。それを受けた出先では人を出して調査させ、その調査員は報告書を作るの。事実か、そうでないのか。いずれにしても、その報告はインディアナポリスに送られて、すべてのコンピューターに入力されるっていうわけよ」—————1990年代のインディアナ州の虐待通報の仕組み。ちなみに日本でこのシステムに近いものが導入されたのは、2010年代。5、6年前からです。番号は「189」(イチハヤク)全国共通覚えておいてください。

 「あまりにも多すぎるんだ………あまりにも多すぎる。(中略)報告書がひどい目にあわされた赤ん坊でいっぱいだ。焼かれたり、打ちのめされたり、不具にされたり。性的虐待も受けている。しかも、このファイルの一件一件すべてが、子供を家に返してケリをつけてるんだ。元どおり万事オーケイってわけだ。」
 バークのセリフが苦渋に満ちている。子供を守ろうとする試みはいつも後手で、ほとんど救いがない。壊れた卵は元には戻らないのに、壊されてからでないと何が起こったのかはわからない。そして打てる手は少ない。いつまでも子供を隔離し続けることはできないから、まだマシな親や親族がいる場合にはそこに返して再構築を試みることになる。子供を返す側も上手くいくはずがないと知っている場合もあるだろう。
 ブロッサムが持っていた薬を正確に言い当てるバーク。ソラジン。もちろん日本で市販されているアセトアミノフェン主成分の鎮痛剤ではない。クロルプロマジンという抗精神薬で、日本で販売されているコントミンと同じもの。メジャートランキライザーである。知っている理由として「俺は教護院にいたんだ」と説明するバーク。落ち着かなかったり、他害傾向が強かったり、反抗的な子供に対して投与されてたんだろう。孤児院、里親、精神病院、教護院、少年院、刑務所。バークの居場所だったところである。そうなった理由は、まともな境遇に生まれることができなかったからである。「州に育てられた」というバークの過去はどこまでも悲しい。

 バークが助けたカモメは、折れた翼も癒えて海に帰っていく。
 バークもまた、自分が生きる場所に帰る。どんなに過酷な場所であろうともファミリーがいてホームグラウンドと呼べる場所がある。


2021年7月3日土曜日

0279 ハード・キャンディ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

書 名 「ハード・キャンディ」 
原 題 「Hard Candy(Burke Series Book 4) 」 1989年
著 者 アンドリュー・ヴァクス 
翻訳者 佐々田 雅子  
出 版 早川書房 1995年10月
初 読 2021年7月4日 
文 庫 418ページ 
ISBN-10 4150796041
ISBN-13 978-4150796044
 シリーズ4冊目に至って、にわかに筆致が滑らかになったように感じる。ブルー・ベルの直後からストーリーは始まる。

 ベルを失って、魂が未だ彷徨っているバーク。何回も死のうと思ったが、仲間が彼を見守った。刑事との密約を破って少女売春婦の誘拐殺人犯3人を殺害し、警察に手柄を譲らなかったバークは、殺人犯として目を付けられていたためニューヨークの裏町に潜行している。自然、気持ちも鬱々としている。一方でベルの恨みを晴らすため、というよりはむしろ自分の気持ちを晴らすため、ベルの実父を誘い出して殺す。
 シリーズ最初から思っていたのだけど、彼「私立探偵」なんだろうか? 日本語タイトルの「アウトロー探偵バーク」ってどうなの? 本人は自分のことを「請負人」だと名乗っているが、家出捜索人、とか、よろず仕事人、とか闇の始末屋のほうがぴったりくる。むろん、小口の商い?で小金を稼ぐ詐欺師でもある。

 前作でバークに一方的に守られた形となった音なしマックスは、武人としてのプライドや、バークの役に立てなかったこと、バークが失ったものが大きかったことなどがわだかまったようで、なかなか気持ちの収まりがつかないが、ママやイマキュラータの取りなしや、バークがマックスと行動を共にしたことでようやっと、バークと仲直りできた模様だ。
 そのマックスの妻、イマキュラータの
 「あれは自尊心の問題だったんじゃない?例の男がマックスに挑戦をうけさせるというただそれだけの目的で、うちの赤ちゃんを殺したかもしれないなんて、ちょっと信じられないもの」
 という発言は(私的には)何気に許し難い。
 バークは、こういうときに心が冷えるが、怒ったりはしない。怒るほど、他人に期待も依存もしていないということなのだろう。

 とにかく、無気力で内向的になっているバークだが、ちょくちょくフラッドのことも思い出し、ひょっとしたら戻ってきてくれるか、と心が揺らぎもする。それでも、フラッドを迎えに行こう、というマックスの誘いにその気になるほどの気持ちは湧かない。そんなときに、10代の荒れていたころの不良仲間の“キャンディ”から電話が入る。
 キャンディはいわゆる高級娼婦となっていて、16歳になる一人娘のエルヴァイラを育てていた。そのエルヴァイラが家出して、某新興宗教のアジトに入り込んでいるので、娘を連れ戻してほしいとキャンディはバークに依頼する。何不自由無く育てられたと思いきや、エルヴァイラはキャンディによって、幼女売春の手駒にされていたらしい。エルヴァイラは心を病んでいる。教祖に心酔する娘が語る主張が、本当にいるタイプでリアルだ。

 そこに、旧知の殺し屋ウェズリイが登場。事態が混迷してくる。
 前作『ブルー・ベル』で愛したベルを犠牲にすることになった『殺し』の相手が、実はウェズリイがマフィアから依頼を受けた標的であり、バークがモーテイと一緒に葬った男のひとりはモーテイの監視につけられていたマフィアの一員だったときて、バークはにわかに困った立場に置かれてしまう。ウェズリイの仕事の邪魔をした上に、マフィアの一員を手にかけており、おまけにモーテイを放っておけば間違いなくウェズリイに殺されていたはずで、ベルが巻き込まれて死ぬ必要はなかった。ベルの死がまったくの無駄死にだったと知り、さらにバークの気持ちは惑う。

 自分の痛みや苦しみに折り合いを付けて、なんとか生きて行くことを模索していくバークの内面と、バークがこうありたかった氷のような生き方を体現しているウェズリイが、実のところバークに対しては兄貴分のように振る舞っているのが、なんだろう、切ないというにはセンチメンタルに過ぎるが、胸苦しい。
 こう読んでいて、私はヴァクスがストーリーに込めたメッセージや意味をきちんと読んで汲み取れているのかな?  一体、アメリカという国は、ニューヨークという都会は、ここまで酷いのだろうか? この話が1989年頃。最近では、スラムも再開発されたり、街並みも小奇麗になって、だいぶ安全に、、、、という話は聞くが、この話に描かれるような暗黒面は、どうなんだろう。 

おれは小さな 女の子のようなベルの声を聞いた。「あたしを救ってよ」 ベルは頼む男をまちがってしまったのだ。 

おれはひびの入った卵の殻をささえるように、頭の両側に指を押しあてた。愛した女を悼んで、パンジイみたいに思いきり吠えてみたかった。おれひとりで。だが、声は出なかった。

おれは自分の内部に震えが走るのを感じた。だが、今度はいつものやつではなかった。恐怖とはちがう。おれは恐れてはいなかった。ただ、泣きだしたいほど悲しかった。憎むほどのものは何も残っていなかった。 

ベルの死を受け止めきれないバークの痛みが憐れだ。

「子どもか・・・・・・どこがどうちがうっていうんだ。バーク?」冷酷無比な殺し屋ウェズリイがバークに問う。
 ちがう、と昔は思った。おれは孤児院で、里子にだされた家で、少年院で、神に祈った。誰かがきてくれますように。ファミリイになってくれますように。ファミリイは塀の中で見つかった。その後、別の神に祈った。忘れられないベル。あたしを救って、とベルはいった。ああ。最初の神はおれに見向きもしなかった。二番目の神ははっきり姿が見えるほどちかくまで寄ってはきた。「べつにちがいはない」おれはそう答えた。 

ライ麦パンのトースト、クリームチーズ、パイナップルジュース。そんな朝飯を続けている。おれはひとりで食べるのが好きだ。自分流に。刑務所じゃ、それが最悪だった。

「おれはあんたの気を悪くさせるつもりはない。あんたに逆らうつもりはない。ただ好きなようにしていたいってだけなんだ。シャバでも、ムショでも、どこにいようと。ただ、好きなようにしていたい。放っておいてもらいたいんだ」 

バークが生きて行くために求め続けていたささやかなもの。ファミリーという特別な存在と、ほんの少しの尊厳。

   怪物ヴェズリイがいう。「どうしようもないやつらがいるもんだ、バーク。だが、おまえは盗人なんだ―――早く本職に戻るんだな」 合わせ鏡のようなバークとウェズリイ。バークはウェズリイのようになりたかった。だが、人間は結局自分以外の人間にはなれないもの。バークの弱みや甘さは彼自身である証拠、そして一方のウェズリイの方も、きっとバークになりたかったのだろうな、と思う。ウェズリイはうんざりして去ることにし、手紙を置き土産にする。バークの殺しのいくつかについて、自分の殺しだと告白して。 そして、キャンディ。これまでに登場した中では最悪な悪女だった。ハードなキャンディを自認するが、それゆえに。粉々に砕かれるのだろう。

2021年6月26日土曜日

0278 ブルー・ベル (ハヤカワ・ミステリ文庫)

書 名 「ブルー・ベル」 
原 題 「Blue Belle (Burke Series Book 3) 」 1988年
著 者 アンドリュー・ヴァクス 
翻訳者 佐々田 雅子  
出 版 早川書房 1995年4月
初 読 2021年6月25日 
文 庫 581ページ 
ISBN-10 4150796033 
ISBN-13 978-4150796037 

 性愛も情愛も純愛も一緒くたになって、ベルからバークに流れ込んでいく。お願いだからベル、そんな風にバークを愛さないで。彼が彼女を失って傷つくのを見る予感が辛い。

 始めから悲劇的な結末しか見えない、男と女の出会いである。間違っても美人ではない大女のストリッパーのベル。彼女は近親相姦の結果の子で、外目には見えにくい遺伝の傷が沢山ある。ベルはそれを知っていて、子供は産まない、と決めて不妊手術を受け、一人で生きていくことを決めた。でも一人では寂しくて、愛を与えることができる男を捜し求めている。
 一方のバークは、細かい経緯は明かされていないが孤児院で育ち、職業里親や少年院を渡り歩き、17歳になってからは殺人未遂で成人の刑務所に収容され、学校ではなく刑務所で、アウトローとして生き延びる術を学んできた前科27犯である。
 彼自身が児童虐待、そしておそらくは幼児性愛の被害者で、それ故に子供を食い物にする犯罪者を激しく憎み、抹殺することも辞さない。そして、彼もまた自分が子供の親になることを拒絶し、すでに自身に不妊の処置を施していることが、この話のなかで明かに。
 決して治癒することも、完成することもない孤独な人生を抱えた二人が、少女売春婦を標的にした事件の依頼を契機に出会うのだ。

 バークは詐欺で小金を稼ぎ、裏町の弱者から依頼をされれば探偵のまねごとも始末屋も請け負う裏稼業。短軀の黒人、廃品置き場の科学者、聾唖の武人、女装の麗人、中国人の商店主で街の顔役のママ、児童売春の元男娼だった少年、そして巨大なナポリタン・マスチフの雌犬パンジイが彼、バークの家族である。本当の家族より強い絆で結ばれ、本当なら親の愛でうまるはずの場所に友情を注ぎ込んで、それでも埋めきれない寂しさも引っくるめて抱えながら強烈な意志で生き抜くサバイバー。
 そんな彼が、街に立つ娼婦を標的に殺戮を繰り返す謎のヴァンを追う。狙われていたのは、路上の少女売春婦達である。一方で、そこに絡んでくる殺人武闘家が、赤ん坊を授かったばかりの聾唖の武人マックスを付け狙う。マックスは挑戦を知れば武闘家として受けて立つに決まっているが、赤ん坊とその家族を守ること以外の選択肢を持たないバークは、マックスを危険から遠ざける。

 バークのひりひりする生き様から目が離せないピカレスクであるとともに、バークの欠けた部分にベルの無私の情愛がしみこんでいくリリシズムがないまぜになって、全編にわたる二人の情交が深まるほどに、来たるべき破局のエネルギーが高まっていく。一気読みしたいのに、緊張感が高まりすぎて、とてもじゃないがそんなこと出来ない。

 ラストの、ベルを抱きしめたまま地面に横たわるバークの悲嘆が苦しい。

2021年5月14日金曜日

0269 もう過去はいらない(創元推理文庫)

書 名 「もう過去はいらない」 
原 題 「DON'T EVER LOOK BACK」2014年 
著 者 ダニエル・フリードマン 
翻訳者 野口 百合子  
出 版 創元推理文庫 2015年8月 
文 庫 368ページ
ISBN-10 448812206X
ISBN-13 978-4488122065
初 読 2021年5月9日

 主人公バルーク・シャッツ(元警官)88歳。付属品は歩行器と357マグナム。過剰な暴力に閉口する。とりあえず殴りつける、得物はブラックジャック、しかも骨折させたり脳に障害が残るような力で。尋問はそれから。尋問すらしない場合もある。傷つけることだけが目的なことも。
 バックのやり方は気分が悪いし許容できないし、正直読んていてドン引きするのだが、「自分が生きている世界は厳しく不公正で残酷だ」と骨の髄から思い定めているユダヤ人としてのバックの世界観は良いとか悪いとかのこちら側の気持ちではなく、「あるもの」として受けとろう、と途中で思い直した。
 公平でも優しくも正義でもないと認識している世界で、合衆国という白人キリスト教徒が支配する人種差別国家国に生まれて、妻と子と母と、地域のユダヤ人社会を守りながら、地域社会の治安に携わることを仕事にしたユダヤ人の生き方であれば、こうもなるのだろうか?
 一方で、大泥棒イライジャはバックの合わせ鏡のようだ。なぜ、正しくも公平でもないとわかっているルールに従う必要があるのか。ルールに従っても世界は守ってくれない、どうせ殺されるなら、力あるものから好きに奪ってなにが悪い。イライジャのやり口や理屈は、虐げられる側の心をくすぐる。
 この因縁の2人が、50年ぶりの邂逅。
 怪我も癒えきらず、移動には車いすや歩行器が必要な88歳が、またしても犯罪に巻き込まれる。
 物語は2009年と1965年を行き来しながら、バックの今は亡き息子ブライアンの“バル・ミツヴァ”———ユダヤ教徒の13歳になる男子の成人の儀式(ものすごく大事)———成人と見なされるとはいえ思春期の入り口の息子の鋭利な批判に耐えるバックの心情も絡めて進むのだが。
 いろいろと言いたいことが無いわけではない。登場するユダヤ人の描写が強欲であざとい泥棒、銀行家、小ずるい小悪党、窃盗犯・・・・である意味ステレオタイプで、作者がユダヤ系でなければちょっとこれもドン引きしたろうし。
 それでも、終盤330pのバックのセリフですべておつりが来る。
「自分はナチと闘う側だった。もし覚えて居てくれる人がいるなら、おれはそう記憶されたい。そして警察では、身を守るすべのない女子供を好んで襲うやつらをつかまえるために全力をつくした。だが、守護者としての警察の存在意義がほんとうはだれのためなのかわかっているし、法と掟と社会の安定でいちばん得をするのがだれなのかもわかっている。・・・・・・」
 
 とりあえず、じーさんの矜持が格好よい。よくぞ死なず、殺されず、88歳まで生きていた。
 こいつはミステリじゃなくて、ハードボイルドだった、と再認識したのだった。


 




2021年5月7日金曜日

0268 もう年はとれない (創元推理文庫)

書 名 「もう年はとれない」 
原 題 「DON'T EVER GET OLD」2012年 
著 者 ダニエル・フリードマン 
翻訳者 野口 百合子  
出 版 創元推理文庫 2014年8月 
文 庫 382ページ 
ISBN-10 4488122051 
ISBN-13 978-4488122058
初 読 2021年5月8日
 ダニエル・シルヴァの流れで、ユダヤ人とナチの話を敢えて選んだ訳ではないのだが。結果的にそういうことになった。

話の筋とはほとんどまったく関係ないが、今年の読書の流れ的に目にとまった一節————「たとえ筋金入りのリベラル主義者でも、ユダヤ人のほぼ全員が大なり小なりイスラエル国家に愛情を抱いている。イスラエルは、ホロコーストのような歴史的犯罪を招いた二流のマイノリティの地位から、ユダヤ民族が脱けだす決意を象徴している。また、大いにありうるとされている将来の迫害において、最後の避難所でもある。そして、われわれの破滅をたくらむ勢力に対する防御は、大国の政府からの庇護を乞うたり買ったりするのではなく、ユダヤ人の主権と軍隊をもっておおこなわれるべきだという、シオニストの新年を体現している。イスラエルは、焼かれるのにうんざりして自分でたいまつを持ちたかった曾祖父ハーシェルのような人たちの国だ。—————
 
 主人公バルーク・シャッツは87歳ながら矍鑠とした、もとメンフィス警察刑事。ユダヤ人。戒律を守ることには熱心ではないが、ユダヤ人コミュニティの中で老後を送っている。かつては毒舌以上にその拳銃でならした名物刑事だったが、とうに引退した現在は、妻と二人で、肉体の衰えや痴呆症を、諦め受け入れつつも、怖れながら静かに暮らして・・・・・いたのに。
 この期に及んで、突如わきおこる逃亡ナチ戦犯にからむ騒動。
 ユダヤ人の彼は、かつて第二次大戦・ノルマンディー上陸に兵士として加わり、ヨーロッパでドイツの捕虜となったときに、彼がユダヤ人であったことから捕虜収容所で殺されかける。そのとき直接手を下したナチ将校は、終戦時死んでいたはずだった。しかしその男が身元を偽りドイツを脱出していたことが明らかになり。しかも、ナチスの金塊を携えて。
 作中88歳を迎えるという年齢のバックにとっては、もう生きているとは思えない逃亡ナチス戦犯も、その男が隠匿していたかもしれない金塊も、それに目がくらんだ死んだ戦友の家族も、さらにおこぼれに預かろうとにわかに身辺にあらわれた破綻しかけた牧師も、その美しい妻も、残り少ない彼の時間を浪費しようという邪魔者以外のなにものでもない。ただただ迷惑、そして困惑。それでも、身に降りかかった火の粉ははらわないといけないし、なぜかナチのお宝に夢中になった孫息子にも目配りしないといけないし。
 ナチスやユダヤ人問題に鋭く切り込もう、という意欲作ではなくて、欲に絡めとられて人生を破綻させられるちっせえ人々の中で、88歳のバック(バルーク)・シャッツの達観と、そして腹の底から(?)にじみでる気概が実に格好良い。それに、乾いた毒舌が絶妙である。このように年を取りたいか・・・・・といわれるとちょっと遠慮しときたいような気もするが、世の中にはこんなじーさんもいなくては!とも思う。
 それにしても、孫のテキーラが、ちょっと普通にまぬけ過ぎてイヤ(笑)

2021年4月18日日曜日

0264 危険な男 (創元推理文庫) —コール&パイク18

書 名 「危険な男」 
原 題 「A Dangerous Man」2020年 
著 者 ロバート・クレイス 
翻訳者 高橋恭美子 
出 版 創元推理文庫 2021年1月 
文庫 480ページ 
ISBN-10 448811508X 
ISBN-13 978-4488115081 
初 読 2021年4月18日
「エルヴィス・コール探偵事務所、いまならひとつ分の料金で手がかりがふたつ。割引料金あり」
「手を貸してくれ」
コールの声が真剣になった。
「なんなりと」

 ジョー・パイク主役ものであっても、C&Pな由縁。パイクに手が必要になればコールが全力を尽くすし、コールに支援が必要であれば、パイクが駆けつける。すでに30年来の友情を「依存しあってる」と言い切っちゃうドレイコよ。それを言っちゃあおしまいじゃないか。あなた、思いっきり株を下げたよね。

 パイクは、酒乱の父親の暴力に晒されて育ち、コールは精神疾患の母に振り回されて、ついには捨てられた心理的虐待の過去を持つ。(公的な児童養護の世話になって育った経歴がハリー・ボッシュと共通するのは、過去にレビューでも触れたところ。)コールとパイクの二人がいかに過去の軛を受け入れ、乗り越えてきたか、については未訳の『L.A. Requiem (1999)』から『The Forgotten Man (2005)』までの翻訳刊行を大いに期待したい。それぞれが欠損をかかえた存在ではあるが、自分の人生で欠けた部分に向き合って、努力と奮闘で乗り越えてきたことが、お互いを信頼し尊敬する由縁。それを依存といわれちゃあね。

 さて、今作では「主役」パイクのエピソード多数。なかでも、彼が国防省のTS/SCI取扱許可証を持っている。というくだりは初耳。国防省の信頼の証し。国防省やCIAの請負仕事を数多くこなしてきた、という過去は、これまで邦訳ではあまり出てこなかった。ちらりとコートランド・ジェントリーを思い出す。大先輩だね♪ やっぱり、ジェントリーはロスでパイクの助力を求めればよかったんじゃないかと・・・・・(脱線)

 さて、本筋にもどろう。
 パイクが銀行に立ち寄ると、偶然にも銀行員の女性が白昼車に連れ込まれて誘拐される場面を目撃してしまう。追跡して難なく彼女、イザベルを救出。
「もう大丈夫だ。いま助けだす」 ああもう、助けてパイク!私も!とおねだりしたい。
 そのイザベルが、再度誘拐され、これは市中の捜査が必要、とみて、パイクはコールに助力を要請。それが冒頭のやり取り。コールの緩急の切り替えに悶える。

 さらに、イザベル救出の際、防弾ベストの上からとは言え、二発撃たれた衝撃で負傷しているパイクの着替えを手伝うコールに更に悶える。
 着替えのTシャツを、どうやったら痛みが少なく袖を通せるか、と思案するパイクの手からTシャツを黙って取り上げ、頭からかぶせて、パイクがゆっくりと腕を通せるよう、シャツを支えるコールは、さすがに気遣い上手である。て、いうか、どこにも語られちゃいないが、『The Forgotten Man』でコールが大怪我を負った後では、パイクの方が何くれとなく世話をしてやったんだろうな、とか妄想して、一人で勝手に悶える。とにかく、大好きなシリーズで、大好きな人達なので、いちいちページを繰る手がとまって妄想タイムが差し挟まり、読むのに時間がかかること甚だしい。
 無防備で敵の屋敷に侵入して銃撃戦で胸を撃たれたり(『モンキーズ・レインコート』)、全身を拳銃とサバイバルナイフで武装した状態で市中で警察に拘束されて、「戦争でもやるつもりか」と言われた(『ぬきさしならない依頼』)、シリーズ初期のころの描写と比べると、パイクの、ではなく著者の進化にもなんだかニヤニヤさせられる。最初の頃は、ベトナム帰還兵の社会不適合者としか思えなかったパイクも、いまでは米国政府の信任も厚い軍事請負人で、オーダーメイドの防弾ベストを常備し、市中では銃の所持に気をつかう立派な社会人に変貌している。戦争帰りの元軍人のイメージも情報量も、ランボーからだいぶ進化した。

 で、まあ今回保護の対象となった女の子二人が、あろうことかメールで居場所を教え合っていたらしい、とか、言語道断だったりするものの、そこはあえてさらりと受け流し、救出のため、連邦保安官やロス市警の刑事と連携しての突入作戦。場所は映画監督ピーター・アラン・ネルソンの別荘。ああ、豪勢な屋敷が殺戮の舞台に・・・・・でも、まあ、コールのやることであれば、ピーターは許してくれるだろう。次の映画のネタにされるかもしれんが。
 パイクとコールの息の合った突入作戦、自然と連邦保安官も主導するパイクの指揮官ぶりも素敵。ストーリにさほどひねりがないのはいつものことで、いいのだ、これはコールとパイクの友情とひととなりを悶え楽しむ本なので。。。。(爆)


2021年4月17日土曜日

ロバート・クレイス作品一覧(4/18更新)


ロバート・クレイス作品一覧 
  (1989年 新潮文庫)  The Monkey's Raincoat (1987)
  (1992年 新潮文庫)  Stalking the Angel (1989) 
  (1994年 扶桑社ミステリー)Lullaby Town (1992) 
  (1996年 扶桑社ミステリー) Free Fall (1993) 
  (2000年 扶桑社ミステリー) Voodoo River (1995) 
  (2000年 扶桑社ミステリー) Sunset Expres (1996) シェイマス賞長編部門受賞 
7 Indigo Slam (1997)        コール&パイク7
8 L.A. Requiem (1999)     コール&パイク8
11 The Last Detective (2003)   コール&パイク9
12 The Forgotten Man (2005)  コール&パイク10
13 The Two-Minute Rule (2006) 
14 天使の護衛(2011年 RHブックス・プラス) 
  The Watchman (2007)   コール&パイク11(ジョー・パイク1)
15 Chasing Darkness (2008) コール&パイク12
16 The First Rule (2010)    コール&パイク13(ジョー・パイク2)
17 The Sentry (2011)         コール&パイク14(ジョー・パイク3)
18  Taken (2012)                コール&パイク15(ジョー・パイク4)
19 容疑者(2014年 創元推理文庫) Suspect (2013)  (スコット&マギー1)
20 約束(2017年 創元推理文庫) The Promise (2015) (スコット&マギー2)コール&パイク16
21 指名手配(2019年 創元推理文庫) The Wanted (2017)   コール&パイク17
22 危険な男(2021年 創元推理文庫) A Dangerous Man(2020)コール&パイク18(ジョー・パイク5)
23 Racing the Light(2022)  コール&パイク19
24 The Big Empty(2025)    コール&パイク20

2021年1月5日火曜日

0245 片目の追跡者 (論創海外ミステリ)

書 名 「片目の追跡者」 
著 者 モリス・ハーシュマン 
翻訳者 三浦 亜紀 
出 版 論創社  2004年11月 
初 読 2021年1月5日 
単行本 197ページ 
ISBN-10  484600516X 
ISBN-13  978-4846005160
 単行本だけど薄めで、行間広め。内容も軽めのソフトハードボイルド?というのだろうか。
 1960年代の作品で主人公は32歳。
 朝鮮戦争に従軍し左目を負傷。失明したわけではないが怪我した目をかばって強い光線を避け、眼帯やサングラスを着用するハンサムな私立探偵が主人公。
 退役後ニューヨーク市警に勤務ののち戦友とともに共同経営の探偵事務所を開業している。さて、その親友がある日消息を絶ち、行方を捜し始めるところからストーリーが始まる。
 調査中の横領事件と一件の家出の届出が絡んで、小粒ながら探偵物のミステリーの体裁であるが、なぜか始まる殴り合いに脈絡がない(笑)
 舞台と大道具がそろったところで、相棒がどこにいるかはピンときてしまったが、犯人はけっこう意外だった。細かいネタまで一つのストーリーにまとまり、構成はそれなりに良い。しかし時代性もあるのだろうが、出てくる女性がみなヒステリックでキーキーうるさいのに辟易(笑)。そして男はみんな浮気性。ちょっとステレオタイプ過ぎ? それに、相棒の失踪も、家出の届出も、大の大人が一晩帰ってこなかったくらいで、そこまで大騒ぎするもんかねえ?とちょっと不思議ではあったな。銀行のロビーとか、病院の待合とかで時間を潰すのに最適な軽めの読み物でした。

2020年5月1日金曜日

0197 The Forgotten Man (Cole & Pike) (Cole and Pike Book 10)

書 名 「The Forgotten Man (Cole & Pike)」2005年  
著 者 Robert Crais 
初 読 2020/05/01

 LAレクイエムから続く三部作(だと思ってる)のラス1。
 コールの過去にまつわる最大の危機。
 『サンセット大通り』でコールに「スーザン・マーティンの殺害とそこから派生したあらゆることが、自分の人生にこれほど長く尾を引く深刻な打撃を与えようとは」と語らせ、『天使の護衛』ではある男に散弾銃で撃たれた後のコールが「実験室の事故で生まれた何か」のような姿で登場する、その原因となる事件が語られる。
 コールが過去と向き合い、乗り越えるためにはこんなに過酷な過程が必要だったのか。『約束』や『指名手配』で示されるコールの優しさに加わった確固とした揺るぎなさや安定感、円熟味は、このエピソードでコールが乗り越えた過程で獲得したものだと納得できる。そんなお話。以下簡単にご紹介。

 10歳になるルーシーの息子の誘拐事件でほとんどすべてを失ってから、コールがゆっくりと生活を取り戻しつつあったとき、 LAPDから不吉な電話がかかってきた。発見された身元不明の遺体が持っていた唯一の手掛かりが、コールの過去の事件の新聞記事の切り抜きだったという。 そして、その男は死ぬ前に自分がエルヴィスの父親だと言い残した。パイクとコールは調査を進める。しかしコールとパイクが死んだ男の本当の正体に近づにつれ、彼らは危険の中に入り込んでいた。ーーーコールが撃たれてから命をとりとめるまでの終盤と、コールがやっと動けるようになった体で母を墓参する最終章。ずっと付き添い、見守るパイク。この二人の友情を超えた友情に、心が震える。

2019年10月3日木曜日

0185−86 エンジェルズ・フライト 上・下

書 名 「エンジェルズ・フライト 上」「エンジェルズ・フライト 下」 
原 題 「Angels Flight」1999年 
著 者 マイクル・コナリー
翻訳者 古沢嘉通 
出 版 扶桑社 (2006/1/1) 
初 読 2019/10/03 
 ボッシュは、内心ではタムに関するエドガーの結論に異論をいだいていたものの、・・・おいボッシュ!貴様ァ!
 アクは強けれど私の中では正義の人の範疇だったアーヴィングがついに暗黒面に落ちるか。
 一方ずっと反目しあってたチャスティン、彼は意外に良い奴なのか?
 これは良い演出だ。これから絆が生まれるのかやっぱりいけ好かない奴のままになるのか。わくわく。そして、エレノアとの破局はやっ!
 現場のバス停にはイーストウッド主演「我が心臓の痛み」の広告。
 「ほら、ちっともイーストウッドに似てないじゃない」とはキズの弁。
 それ言わせるのか!それ書いちゃうのかww やるなぁコナリー。 

 それと、登場人物一覧は結構なネタバレ感なので見ないほうが良い。

 下巻になって、めっきり出番が少なくなってどうした?と思っていたヤツが、まさか!な展開となる。今回は「皆殺し」の二つ名をコナリーに献上したい。そして、暗黒面に落ちるかと思ったアーヴィングはまだ、崖っぷちに屹立してる。このあたりが大物と小物のちがいかねえ。なんにせよ面白かった。やっぱりボッシュはいいねえ。