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2026年7月31日金曜日

0560 Ghosted (モノクローム・ロマンス文庫)

書 名 「Ghosted (ゴーステッド)」
原 題 「Ghosted」2023

著 者 ジョシュ・ラニヨン
翻訳者 冬斗 亜紀
出 版 新書館 2026年7月
文 庫 424ページ
初 読 2026年7月25日
ISBN-10 4403560679
ISBN-13 978-4403560675
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/136840330

 久しぶりのジョシュ・ラニヨンの新刊。既刊のシリーズの続きではないが、FBI物ではあるので、きっとこの世界のワシントン州シアトルにはエリオット&タッカーがいて公私ともに仲良くしているだろうし、ロスのFBI支局にはジェイソン・ウエストがいて、ワシントンDC・クワンティコのFBI本部に勤務するサム・ケネディと遠距離恋愛中なんだろう。
 そして、この作品の主人公アーチーもFBI特別捜査官で、1年数ヶ月、過激派武装組織に潜入捜査をしていた。最終的に身バレして銃撃され、ターゲットは逮捕、アーチーは重傷を負って戦線離脱し、故郷のトゥインクルトンに傷病休暇で戻ってきた。・・・・かつて、恋人だったボーが警察署長を務める町に。
 そして、アーチーが戻ってきてすぐ、アーチーの後見人であり養い親であったジョンが殺害される。頭部外傷の後遺症に悩まされるアーチーにも嫌疑がかかり、その捜査に当たるのは、辛い破局の記憶がいまでもアーチーの心の傷になっているボーだった。

 そうね〜、アーチーは『殺しのアート』シリーズのジェイソンタイプ。ボーは『フェア・シリーズ』のタッカータイプ、かな。ざっくり男らしいボーに対して、アーチーの内面は柔らかくその悩みは深い。結構厚めな本なんだけど、読んでいると、延々アーチーのお悩みに付き合うことになる。

 日本のBLとはっきり違うな、と思うのは、アーチーがしっかりと自分をゲイだと認識していること。そして、アーチーはカミングアウトしており、ボーはクローゼット。どこかファンタジックでパラレルな感じが付きまとうBLと違って、現実感のある同性愛者の愛や困難、なんなら肉感もマシマシで描かれてる。とはいえ、そこそこいいお年になった2人で、しかも片方は、体力万全ではないアーチーなので、せっかくのチャンスも寝落ち(笑)
そんなこんなで、SEX描写はやや控えめ、アーチーとボーの悩みはマシマシな、ちょっと大人な恋愛事情でした。

 また、表紙、挿絵の門野葉一氏の絵が美しいことよ。完璧にこの絵が脳内に刷り込まれて、物語が進んでいく。憂いを含んだ青い目と紺青の目が見つめ合い、絡み合い。なんかもう、眼福です。

2026年7月18日土曜日

0599 アルファは飢えても主を摘まず(下) (ピスタッシュ・ノヴェルス)

書 名 「アルファは飢えても主を摘まず(下) 」
著 者 佐伊   
出 版 新書館 2026年7月
単行本 352ページ
初 読 2026年7月17日
ISBN-10 4403221602
ISBN-13 978-4403221606
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/136632547

 6月に上巻が刊行されてから、一ヶ月。寝ても覚めても、この話のことを考えていた。ていうか、ヴァルトルたちが脳内を闊歩していた。幸いにして、前日譚の『泣かぬオメガが身を焦がす』(ヴァルトルの親のメソルトの話)が、毎日夜9時に連載更新されていたから、それでだいぶ心が慰められた。・・・・話の中身のハードさったら、慰められるどころではないのだけど。あのメソルトにしてこの子あり。

 それにしても、昨夜17日に更新された、『泣かぬオメガ・・・』の開戦第12話は、本当にしんどい内容だった。(メソルトの立場が辛すぎる。そして、18日に更新された13話はもっとしんどかった。(T-T)  あのイワンゴ海戦にブライス聖騎士団が派遣された、その決定に、ここまでメソルトが関わっていたとは。メソルトやハリオの心中はいかばかりだったろう。ホント、レンドがどこまでも憎らしい。)

 自分の仕事はめちゃくちゃ忙しかったにもかかわらず、そんな感じで脳内のリソースのかなりの部分をこの作品世界に持っていかれたまま毎日を過ごし、それでも下巻発売が待ちきれず、Webサイトで、この『アルファは飢えても主を摘まず』下巻部分をほぼ2巡した。(睡眠時間は押して知るべし。もともと不眠症気味だからいいのよ。)もはや、紙本出版の際に加筆修正した箇所を当てられるんじゃないかってくらい読み込んだ。そして、絶対に今日には配本されて店頭に並ぶはず!と思い定めた7月17日。今度こそ、紙本特典もGetすべく、オシゴト終了後に紀伊國屋書店新宿本店へ! 速攻で入手しましたとも。・・・・・上巻も合わせて(汗)

 だって、特典ペーパーがやっぱり読みたかったんだもん。もん。もん・・・・

 ここは声を大にして言うが、絶対に『泣かぬオメガ』も紙本出版してほしい!!そして、あちこちに小出しされてる掌編なんかもまとめて、番外編集を出してほしい!! いや、それよりも続きやスピンオフを書いてほしい!

 で、さて、下巻である。
 国王エイドのベッドで寝落ち(気絶)→覚醒→背汗、のやらかしからスタートだ。
 でも、本編は、繰り返すが直近の2巡も含め、すでに連載版を4巡はしているので、とにかく番外編にGO!!
 
 本編ではほとんど語られない(BLなのに(笑))、エイドとヴァルトルのいちゃいちゃシーンからたっぷりと。それにしても、メソルト(母)とハリオ(父)の“愛の巣”でイチャつくヴァルトルはやっぱり相当のKY(笑)。いや、仕方ないんだけど。他に場所もないし。設定したのはメソルトだし。にしても、憮然とした当のメソルトと、いそいそと手伝うハリオにニヤニヤしてしまう。
 そして、舞台は法廷へ。
 マルコス家絡みの裁判は、ほとんどがマルコス側が被告なのに、ヴァルトルのマルコ殺害の裁判だけは、マルコス側が原告でヴァルトル側が被告なんで、マルコス側も、起死回生の一手をここに打ち込んでくる。それを迎え撃つヴァルトル弁護団。証人尋問でのエイドの静かな告白。そしてヴァルトルの更に静かな告白。・・・胸に染み渡る・・・・感涙。

 正直ね、この一ヶ月、ずーっといろいろなパターンを妄想してたのですよ。ずーっと脳内にヴァルトルやメソルトが闊歩してたし。

 個人的に一番ハマった妄想は、ルーオン家の名誉回復とルーオン侯爵家の復興っていうネタ(もちろん私の捏造)。
 マルコス追求の立役者の一人であるクロード准将や、前サロバ公シャイロからの嘆願で、新国王アゼルが決断して、罪人として葬られていたルーオン元侯爵(ハリオ父)とアンリ(ハリオ兄)を、ルーオン一族の墓地に改葬して、ルーオン侯爵家を再興。だけど、ハリオは今更上流貴族として宮廷に戻りたいとは思わないだろうし、下級貴族であることに意地と誇りを持ってるだろうメソルトは尚更。なら、やっぱりヴァルトルか? ヴァルトルをルーオン侯爵にして、そこに退位したエイドが降嫁する、なんて妄想がたいそう捗った。(笑)

 ハリオは多分、メソルトとヴァルトルがいて色々と報われているんだろうけど、わたし的にはもっと名誉回復させてあげたい人、の筆頭。あとは、アゼルとラウルの愛の往復書簡集とか。

 海軍諜報部大佐のクロードは、いつからヴァルトルがハリオの息子だと知っていただろう?とか。「お前、ヴァルトル・オーゼックスだろう?」って言ってたけど、ハリオがメソルトに匿われて一人息子を育てていたことは多分知っているよね?どこにも書いてないけど。だとしたら、自分は負傷して引き揚げ船に乗せられて、ヴァルトルが後に残っておそらく死んだに違いない、と思ったとき、どれほど嘆き・恨んだだろう・・・とか。

 金髪くりくりのミッシャはその血筋の良さと能力の高さから、次期かその次くらいの大首座候補だろうけど、ウォルトが修道院に入ったら、やっぱりそうなるかな。ミッシャとウォルトが師弟関係になったら面白そう・・・・とか、いや、エイドが退位して、ヴァルトルと結ばれた後なら、エイドがウォルトを養子にする、っていう道だってあるかもしれない・・・とか。あ、でも、正統下巻番外編を読み終えた今となっては、存続がどうなるかも未定なサロバ公家は、いったんシャイロ様が公爵に返り咲いて、その後はウォルトに継がせるっていうのも良いのでは。。。など。

 脳内二次創作モード全開である。(書けないけど!)ここまでドはまりできる小説は年に1作出会えるかどうか、なので、本当に嬉しい。

 繰り返すが、前日譚の『泣かぬオメガ・・・』の出版も正座して待ってます!よろしくお願いします、新書館様。

2026年7月12日日曜日

0598 引きこもりオメガ公爵の円満なる離婚計画 (ディアプラス文庫)

書 名 「引きこもりオメガ公爵の円満なる離婚計画 」
著 者 仁茂田もに   
出 版 新書館 2026年7月
文 庫 224ページ
初 読 2026年7月11日
ISBN-10 4403526497
ISBN-13 978-4403526497
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/136513095 


 最近では「アップされたら、即読み」「出たら即買い」作家さんの仁茂田もにさん新刊。今BL作家さんで追いかけてるのは、仁茂田もにさん、佐伊さん、野原耳子さん、墨尽さん・・・で、それ以外にも商業出版にのってない(たぶん・・・)御方が数名。文学フリマとか、J庭とか、コミケとかに足を向ければ、もっと世界(入手手段)が広がるんだろうけど、そこまでの気力体力がない(なんせ歳が・・・)。仁茂田もにさんの作品では、『王と正妃』が別格で好き・・・なのだけど、紙本で出版してくれないかしら。出版社様。
 こういうしっとりした熟年の純愛も良いと思うのよ。需用あるよね?きっと。子育てが一段落したあとに、夫と再び恋愛をやり直すって良いよね。・・・・・っていうか、これでは『王と正妃』の感想になってしまう。そうではなくて。

 このお話は、もっと若い2人の超絶すれ違い。まあ、王(主人公の伯父)のやらかしがヒドいよ。コレさえなければ、そして主人公のシェリルがあと一歩だけ踏み出せて、きちんとジャンと話すことができれば・・・・・こんなことにはならなかったはずなんだけど、ただの身分差恋愛で済んだはずなんだけど、そこはそれ、そういうキャラだし、そういうお話なので(^^;)

 不器用・言葉足らずで勘違い先行型のジャン(α)と臆病・引きこもり・言葉が出ないシェリル(Ω)の組み合わせであれば、ただの身分差恋愛であるはずのところが、永遠にボタンの掛け違いが発生して、ついに離婚話にまで・・・・若い2人の5年は長いよ。可哀想に・・・

 とはいえ、淡い初恋から、ずーっと両片思いなので、とにかくあーあ、と思いながらももだもだを愉しんでいれば、おのずとちゃんと収まるべきところに収まります。安心仕様。なんの不安もなく読めるのが有り難いときもあるんですよ。それに絵が美しいです。


 先週、金曜日(この本の発売日)は、すごく大きな仕事があって、ここ一ヶ月の間、体調不良とも付き合いながら、アレ(仕事)が終わったら、その足で書店・・・・その足で書店・・・・この仕事が終わったら、新刊が読める・・・・新刊が読めるときには、この仕事が終わってるハズ!! と、念じていました。そして、来週は、佐伊さんの『アルファは飢えても主を摘まず』の下巻の発売日。仁茂田もにさんと、佐伊さんの新刊をワンツーで読める(泣)そのためにもこの仕事を無事に終わらせなければ!!! そう自分に念じていたんですよ。 もはや生きる原動力です。

2026年6月30日火曜日

0597 アルファは飢えても主を摘まず(上) (ピスタッシュ・ノヴェルス)

書 名 「アルファは飢えても主を摘まず(上) 」
著 者 佐伊    
出 版 新書館  2026年6月
単行本 352ページ
初 読 2026年6月22日
ISBN-10 4403221599
ISBN-13 978-4403221590
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/136178111


 『竜王の婚姻』『君を転生させないために』『精霊の宿る国』の佐伊さんの、新作(紙本)。
 『小説家になろう』サイトですでに読了済みながら、紙本で出版されるのを知った時から、出版の日を心待ちにしていた。
 公式には6月22日発行となっていたが、22日が月曜日だったため、前週金曜日には配本になってるかも!と思って新宿のブックファーストに行ったが、探すも探すも「在庫無し」の表示。どうしても待ちきれず、そのままAmazonをポチった。(今にして思えば、最初から紀伊國屋書店本店に行けば良かった。だけど、紀伊國屋書店の閉店時間は夜9時。ブクファは10時半で、その時点で紀伊國屋は閉まっていたのだ。)Amazon以外の店舗で購入したら、特典の掌編を読めるんだぞ?!とは思ったんだけど、ガマン出来なかった。
 ネットでは通読しているんだし、本が届くのが一日後になってもイイや、明日あさってはどうしてもリアル本屋に足を向ける時間がないんだし、と思って紙本をポチったのに、やっぱり今すぐ読みたい欲が抑えられず、Kindle版も購入。。(以下、7月17日に加筆。その後、やっぱり特典の掌編読みたさに、シーモア版も購入。その後、下巻の出版を待つ間の焦燥感に駆られて、数ページでも良いから読みたい!と初回購入特典の割引をアテに、Honto版も入手した・・・・で下巻が発売された7月17日に、今度はちゃんと特典折り込みも目当てに新宿紀伊國屋書店本店に突撃して、下巻と並んでいる上巻(折り込み入り)を手にして数分、硬直したまま逡巡した挙げ句にレジにGO。結局、上巻については紙本2冊、電子3冊を買ってしまった愚かな(?)私は、今後、ラノベ・BL系はAmazonで購入してはいけないことを身をもって学習した。)

 さて、この作品。
 オメガバース設定のBLではあるが王朝内部の政治抗争や、宗教(教会)との利害の対立、隣国との紛争・・・・が綿密に描かれて、近世後半くらいの西洋風歴史ファンタジーとして、非常に非常に骨太な物語になっている。(最初は修道騎士とか出てくるので中世後期から近世初期くらいのイメージだったんだけど、小銃から大砲まで火器が発達していたり,海軍が艦隊戦やってそうだったり、議会制や裁判制度が発達してたり、修道騎士が時代遅れだと揶揄されてたりしたので、もう少し後ろかな、と脳内で時代を修正した。)
 そこに、オメガバースならではの性差別と、それに起因する各人の立場の複雑さや苦渋や危うさが緻密に織り込まれてくる。この構成力がさすがの佐伊さん。凄い!政治情勢の緻密な書込だけでも読み応えマシマシ。
 隠れオメガの国王エイドの深い深い苦悩や、まやかしの宗教裁判で姦淫の罪に問われて、還俗させられてしまった修道騎士ヴァルトルがエイドに寄せる親愛と、敬意と、純愛。ヴァルトルの叔父であるメソルトの困難な立場、メソルトとハリオとヴァルトルの関係、王太后の思惑、修道騎士の兄弟愛・・・・とキャラ立ちしている上に複雑な人間関係が絡みに絡み、非情に濃厚。その上、所々に織り込まれる、ヴァルトルの修道騎士としての行動能力の高さにも高揚する。ついでに、話の合間に差し込まれる馬とのエピソードも良い!
 それに、王侯貴族ものの作品にありがちな、王族・貴族の絢爛な生活の表面ではなく、それを裏で支える宮廷の働き手側の目線で話が進んでいくのもちょっと異色で面白い。なんか、表はゴージャスなお店のバックヤードに迷い込んだ気分だ。
 
 「素手で殺せます」とか「素手で行います」(刺客を殺す)とか、なにかと物騒で、直裁で、周囲の思惑に忖度することなく、我が道を突っ走るヴァルトルの造形がまた、良い。そのヴァルトルがハリオにだけ向けるちょっと甘えた言辞。ヴァルトルの台詞の書き分けがまた、素晴らしい。ヴァルトルの庇護者であるメソルトが、難しい立場にいるにも関わらずなかなかに軽やかな言動で、誰に対してもあまり変わらないのとは対称的。ヴァルトルと聖騎士団の仲間の関係性は胸熱だし、とにかく美味しいところだらけ、というか美味しいところしかない。個人的にはアゼルも大のお気に入りだし、アゼルとラウルの恋物語も、ぜひ書いていただけないか・・・・など。

 物語は紆余曲折あるが、上巻は、メソルトの血を吐くような告白がクライマックス。
 国王エイドに忠誠を捧げるヴァルトルには、(もう最後までネット上で読んじゃってはいるんだけど)これ以上、ヴァルトルに苦難が降りかかりませんように!と願いたくなる。下巻は7月中旬発行ってことで、ただひたすら待ち遠しい。

 書き下ろしの短編は、本編をネットで読了して、是が非にも読みたかった、あの、イワンゴの攻防戦。からのヴァルトルの宗教裁判。幕間に登場するエイドの心病んだ描写に胸が痛む。まさに「前夜」の物語。
 一点だけ今だに気になっているのは、ヴァルトルの愛馬(初代“暁”)がどうなったのか。
 イワンゴ砦の中に入るには海中からの侵入だったのだから、馬は連れて行けなかったんじゃないかと思ったのだ。ヴァルトルの回想の中では、愛馬もイワンゴで死んだことになってるのだけど、優れた騎士と愛馬の別れは、すごく気になる。これも、番外編でどこかに書いていただけないものか・・・・
 でもそれはさておき、何よりも読みたかった邂逅前夜の物語でした。
 紙本出版ありがとうございます。


0596 サイモン・フェキシマルの秘密事件簿 (モノクローム・ロマンス文庫)

書 名 「サイモン・フェキシマルの秘密事件簿 」
原 題 THE SECRET CASEBOOK OF SIMON FEXIMAL」2015年
著 者 KJ・チャールズ
翻訳者 鶯谷 祐実    
出 版 新書館 2021年12月
文 庫 363ページ
初 読 2026年6月27日
ISBN-10 4403560482
ISBN-13 978-4403560484
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/136178079

 19世紀末から20世紀初頭のイギリス(主にロンドン)を舞台にした、ゴシックロマン+M/M。霊能者のサイモン・フェキシマルとその相棒で著述家のロバートの物語。19世紀後半のオカルトに覚えがあれば、面白さはたぶん倍増する。当時の神秘主義の流行や、諸々の作品群へのオマージュに溢れてる。

 耳なし芳一みたいに、躰の上を経文ならぬルーン文字の呪文がのたくっているサイモンと、自身の幽霊事件がきっかけで彼に出会って恋をした新聞記者のロバート。2人の出会いの物語から、かずかずのおどろおどろしい事件、2人の関係が恋愛の上でも、仕事の上でも、そして霊的な結びつきの上でも深まる。密やかに愛情深い関係を築き、しかし、第一次世界大戦が始まる。霊能者たちももれなく戦争の道具として利用され、遂に2人も行方不明となった由。しかし、2人のこれまで語られなかった冒険と、秘められ、大切に温められてきた愛を綴った、ロバートの手によるサイモンの事件簿の原稿を手にした、ロバートの長年の友人である編集者のヘンリーは、2人が密かに南欧あたりの人里離れたコテージに居を移し、満ち足りた愛の生活を営んでいることを夢想する。

 同性愛即犯罪だった生きにくい時代と、戦争の世紀に突入した世相が、汚水の悪臭漂うロンドン下町の埃っぽく薄暗い汚さ、ゴシックロマンの濃厚な闇と交じりあって、2人の人生に苦難の色を添えている。その中にあって、不器用で実直で有能なサイモンと、直情で陽気で行動力のあるロバートのパートナーシップは最高。暗い世相の中でキラキラと光るような、2人の気持ちを愛おしく感じる。

2026年6月20日土曜日

0595 狼の見る夢は (モノクローム・ロマンス文庫)

書 名 「狼の見る夢は」
原 題 「With Abandon」2011年
著 者 J.L.ラングレー    
翻訳者 冬斗 亜紀    
出 版 新書館 2015年6月
文 庫 481ページ
初 読 2026年6月14日
ISBN-10 4403560229
ISBN-13 978-4403560224
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/136022876

 『狼の遠い目覚め』で登場した、ジェイクの探偵事務所の事務員バイトのマットと、キートンの兄オーブリー。
 マットがジョージア州立大学に入学して、オーブリーの自宅のゲストルームに居候することになる。マットとオーブリーは初対面で“メイト”であることを悟るけど、オーブリーはゲイであることが許されない超保守的な南部で一族代々のホテルチェーンを経営し、代々続く家系や財産や、群れの“アルファ”までも継承しなければならない身で。“跡取り”は必須、いずれ結婚して子どもを作って、家を継ぐことが自分の務めと信じている。当然、ゲイだなんて、親にも打ち明けられないし、母親には結婚して子供を作ることを求められるし。
 メイトとの熱く手放しがたい恋、だけどとてもじゃないがカミングアウトなんてできない長男の責任感と苦悩。所詮、オーブリーの独り相撲って言ってしまったら身もフタもない話なんだけど、オーブリーの悩みは真剣。そこはお気楽な次男(キートン)がさっさとカミングアウトして、家を出てしまったりしたものだから、いっそう雁字搦めになってしまっていて。
 もちろんM/Mなだけに、あっちこっちSEXまみれ(笑)なんだけど、自分の生き方に悩む、しごく真面目なゲイ小説であった。

 マットについては、ヘンテコな色使いの服を着る天然、って感じの初出だったが、実は赤緑色盲で、マットなりに悩んでいたり、ちょっとヌケた感じだと思っていたのが、純真無垢で、努力家で家族思いの長男だったりと、相当イメージアップした。
 あとは、無理やり人狼化させられちゃったカーソンがかなり憐れではある。これからどうなるのかは相当気になるものの、カーソンとボスキーの恋物語を読みたいとは思えない(笑)。さすがにボスキーは強引すぎるだろ。この件に関しては、終始一貫してカーソンがかわいそう。
 マットの兄弟たちはこれからも苦労が多いだろうけど、長兄マットや次兄のローガンがしっかりしているし、ジェイク以下、群れの大人達も頼りになるし。レミ贔屓の私は、一番下のエディとダレンは、レミとジェイクが養子にして育てたらいいんじゃないか、と密かに思っているのだけど。(レミとエディの組み合わせサイコー!)

2026年6月14日日曜日

0594 狼の遠き目覚め (モノクローム・ロマンス文庫)

書 名 「狼の遠き目覚め」
原 題 「With Caution」2008年
著 者 J.L.ラングレー
翻訳者 冬斗 亜紀    
出 版 新書館 2014年5月
文 庫 436ページ
初 読 2026年6月12日
ISBN-10 4403560172
ISBN-13 978-4403560170
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/135897720

 「狼を狩る法則」ではかなり嫌みな登場の仕方をしたあげくに、人狼に襲われて死にかけて、ジェイクとチェイの血によって人狼となったレミは、実は、16歳年の離れた弟のスターリングを父親の暴力から守り、父親代わりになって育ててきた良い奴だった。天真爛漫に育ったスターリングを見れば、傷を負ったレミが、どれだけ努力奮闘してスターリングを守ってきたか、分かろうというもの。とにかくレミが健気すぎて心が痛い。心からスターリングを愛してきたレミは、子供の遊び相手も上手で、読んでいる途中から、だんだんレミの印象が性別を超越してきた(笑)。同性愛嫌悪のように見えた言動も、父親から自分と弟を守るために創り上げた鎧のようなもの。メイトであるジェイクが側にいることで感じる安心感で、少しづつレミが安らいでいく様子に絆される。

 そのレミが、群の集会で他の“アルファタイプ”の狼たちに襲われそうになったことで、“オメガ”であることが判明、メイトがオメガであることが分かったジェイクは、これまでの群から独立して、新たな群を率いることになる。

 レミとジェイクがパートナーとして親密さを増して高まっていくこと、アルファに従属的で闘争力は弱いが、その共感力で群の連帯を強めるオメガとして、レミの能力が開花していくのと、レミが虐待親と対決し過去の傷を乗り越えていくという、レミの成長三本立てのストーリーである。

 アルファ気質で支配欲のあるジェイクがSMの性癖があるとか、ちょっとうへぇ、と思わないでもなかったけど、SMといっても、父親から惨い身体的虐待を受けてきたレミに対しては、ジェイクもそんなに大胆なことはできず、描写はごくソフトでした。

 結局、レミとスターリングは両親を喪うことにはなるのだけど、そもそも機能不全家族だったし、レミとスターリングには、群という新たな家族ができ、おまけにスターリングが、ジェイクの副官(ベータ)のリースのメイトなのが分かったり、その上、スターリング三形態の人狼ってことは、優秀で力のある個体であることは間違いなさそうなので、幸せな将来の予感がたっぷりでよかったです。

0593 狼を狩る法則 (モノクローム・ロマンス文庫)

書 名 「狼を狩る法則」
原 題 「Without Reservations」2006年
著 者 J.L.ラングレー
翻訳者 冬斗 亜紀
出 版 新書館 2013年10月
文 庫 414ページ
初 読 2026年6月13日
ISBN-10 4403560148
ISBN-13 978-4403560149
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/135915673

 最初に「遠い目覚め」の方を読了してしまったのだが、こちらが1巻目。米国発M/M小説。冬斗亜紀さん翻訳(好き)。
 日本でいうBLカテゴリで、表紙イラストもそんな感じであるが、(いつもつい書いてしまうのだが、ボーイズラブってよりも、ゲイ・ラブロマンス。私の感覚が古いんだろうが、BLっていうとどうしても「少年愛」寄りな語感を感じてしまって。M/Mはもっとオス臭いっていうか、ガチムチ寄りっていうか、大人の恋愛寄り(当社比)。) そして、人狼(ワーウルフ)物でもある。
 人狼の群れを統率する概念として、アルファ、ベータ、オメガが出てくるが、これは狼の群れのヒエラルキーの話。いわゆるオメガバースはこちらが本家。アルファが群れのボス。ベータは副官。オメガは群れの調和者で、集団の維持の要になる、という設定。

 もっとも、この狼のヒエラルキーは、かつて人工での集団飼育下で観察されたもので、現在では、自然界における狼の群れは家族単位で構成されており、父(リーダー)、母、子供達で構成され、それほど厳格なヒエラルキーはないことが分かっているそう。この作品における「オメガ」の設定は、かつての狼ヒエラルキー概念における「最弱者」(集団のガス抜き役)と、現在の狼の群れの概念の「母親」(母性)がミックスされたような感じかと。 「人狼もの」の設定はいろいろあるらしくて、読み比べてみると楽しそうな気がする。

 さて、作品の舞台はニューメキシコ。
 ネイティブアメリカン(アパッチ)の居留地に程近いエリアに住む獣医のチェイことチェイトン・ウィンストン(ネイティブアメリカン)の元に、怪我をした白狼が運び込まれるところから。チェイは人狼で、このエリアの人狼の群れに属している。(おもにネイティブアメリカンで構成されているよう。そこに運び込まれた白人で白狼のキートン。
 チェイは、この白狼が自分の“メイト”(=伴侶。運命の恋人)であることを直感するのだが。
 なんとこの白狼が雄だった。自分はストレートだと確信していたチェイは大混乱。そしてストレートだった恋人に手酷く裏切られた過去のある生粋のゲイのキートンも、チェイを誤解して、断固拒絶・・・・・からの、急接近。運命には逆らえない♥️
 ほぼ最初から最後まで、全編ゲイSEX描写が全開だけど、とにかく明るく、前向きで健康な大人の恋愛って感じであるので、思うほどイヤラシくない。

 まあ、男女の恋愛ものだと、どうしてもジェンダーを感じて、自分的に陰にこもった感じになっちゃうので、男/男のほうが、他者的に(あるいみ無責任に)楽しめる、という個人的な感覚の問題もある。
 
 キートンが命を狙われたり、最初はホントに嫌なヤツだったレミが、瀕死の重傷を負って人狼の仲間になったり、とか物語の起伏も面白いし、人間だと、チビでやせっぽちで童顔のキートンが、狼としては最強だったりとか、登場人物もキャラ立ちしていて良き。読んでいて楽しかった。

 子供の頃、最初に買ってもらった本格的な読み物としての本が『おおかみ王ロボ』と『名犬ラッシー』(ポプラ社)で、依頼、オオカミの物語には特別な憧憬を感じる。人狼ものってなんだか特別なロマンがあるわ。そこに人種や同性愛、虐待、差別なんかの人間としての葛藤も加わって、物語としても面白い。

2026年3月21日土曜日

0586〜89 精霊を宿す国

書 名 「精霊を宿す国(1)青嵐」
著 者 佐伊          
出 版 リブレ 2023年8月
単行本 312ページ
初 読 2026年03月02日
ISBN-10 479976389X
ISBN-13 978-4799763896
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/133790956


 これまでに、『竜王の婚姻』『君を転生させないために』と佐伊さんの作品を読んできて、三作目の「精霊を宿す国」を遂に入手した。
 この作品、これまでに読んだ中で一番好きだ、と思う。
 一読目は、とにかく何が起こるのか、どうなるのか?と先を知りたくて、駆け足で読み飛ばしたので、ラストまで読み終えてから、最初に戻ってじっくりと精読した(定期)。なにしろ登場人物が多いし、血縁関係や縁戚関係が入り組んでるので、読みながら人名や用語や設定をメモった。それもまとめようと思っていたが、著者の佐伊さん作の設定集/人物集が「なろう」の作品サイトの冒頭にアップされてるのに気がついたので、そちらを有り難く活用させていただいた。

 でもって、一度最後まで読んた後に最初から読むと、物語冒頭のキリアスの行動がいかに、いかにヒドいか良く分かる(^^ゞ 
 初読時とは全然印象が違うので再読オススメだ。

 オルガの出生から現在まで、いかに多くの人がその健やかな成長を切望し、遠くに、近くに見守ってきたか。そしてそれをいかにキリアスが踏みにじったか!初読時とはまるでちがう切なさをひしひしと感じる二読目である。
 依代と操者の二人一組で一体の精霊を操作する、そしてその二人の「共鳴」の過程はセックスに通じる感覚である、ってことで全編ややエロい描写が散らばってるが、なにしろ、それも「修行」の一貫なので笑い事ではない。エロ全開のラグーン師匠は大変いい味だしてる。(笑)

 で、さて、一巻目は、14歳になった主人公オルガがおっかなびっくり、精霊師になる修行のためにお山(千影山)に入るところから。
 お山に生息する精霊「こだま」はまんま、宮崎駿の『もののけ姫』のイメージで。そして傍若無人な第一王子キリアスとの出会い。大切に育てられた国王の長男が、ちゃんとその血筋ゆえに、育ちゆえに、能力ゆえに、大いに傲慢ワガママに育っている。お手軽ファンタジーにありがちな由緒正しい品行方正な王子様❤️ではないのだ。こんなところも何気にリアルである。
 王位継承権を奪われたからには、ぜったに神獣師になってやる、と手段を選ばず、最短距離で「青雷」をひそかに身のうちに宿すオルガを、強引に我がものにしたキリアス。本当にダメな子なんだが、そのあとはひたすら精進するあたりはやはり、ただのダメっ子ではない。ちゃんとクルトにお仕置き喰らってるしな。ちゃんと努力も出来るし、譲れないところ以外では、師匠の教えに従う素直さもあって、そういうヤツが好きな師匠連中の評価は爆上がりしてるし、ただただ年齢相応な(よりやや幼い)だけのオルガが比較されて可哀想ではある。

 そして、なぜオルガは青雷をその身に宿しているのか。オルガの出生の謎は、まだこの巻ではチラ見せ。そして、オルガとの出会いでは、とにかく恐ろしいばかりのカディアス王(キリアス父)。これから巻が進むごとに、彼が舐めた理不尽な辛酸であるとか、彼の愛情のありようであるとかが分かってくるのだけど、とにかく最初はもう、カディアス王との出会いはトラウマ級の恐怖体験でしかない。

 オルガよ、よく耐えた。そしてオルガは己の父の名前と己が血筋を知るのだ。
 メインのストーリーと併走して、ライキとクルトの紫道、ゼドとセツ、ユセフスとミルドの百花の物語も。ミルドなんか、純愛を通りこしてただの変態・・・・(失礼!)にしか思えないんだけど、それも突き抜ければ一周巡って? あのユセフスが折れて? ・・・・まあ、割れ鍋にとじ蓋的な? ユセフスも、よくわからない人物ではあるのだけど、これからだんだんじわじわと味わい深くなってくるからな。


書 名 「精霊を宿す国(2)黄金の星」        
出 版 リブレ 2023年9月
単行本 312ページ
ISBN-10 479976411X
ISBN-13 978-4799764114
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/133790959

 1巻の終わで、鳳泉の操者になれ、との国王の意を受けたキリアスは、すでに半年もオルガと別離の状態で修行を重ねている。こいつ、一生懸命でもまだまだ身勝手だな〜と思う。早く覚醒しやがれ。そして、ちゃんとオルガ本位になりやがれ(笑)

 物語は、光蟲のイーゼスとハユル、時を一世代遡って、ダナルとルカの物語、さらに前代の鳳泉のガイとリアンの物語も。まだ若いカディアスと、王宮を覆い尽くす不穏。先読という存在が、こんなに不安定で大丈夫なんだろうか? これで、ちゃんとこの国は維持されるのであろうか? と、大いに心配になる。とにかくそれぞれのパートで語られる物語が終始一貫して切ない。そして、どこをどう切り取ってもこれ以上はないってくらい苦労人のカディアス。よくこんな状況で16歳で即位し、耐えてきたな。やっぱりこの物語で一番存在感が大きいのは、カディアス王だろう。この物語は、いわばカディアスが即位してから退位するまでの、一代記でもある。
 現在の時点での王宮での事件と場末の娼街での騒乱でついにオルガとキリアスは共鳴し青雷の能力は全開になる。そして、オルガが16歳を迎え、青雷はオルガを離れていく。 オルガは鳳泉を授戒する定めのキリアスの半神足たるべく歩んでいく。これから、いよいよ物語は核心に近づいていく。


書 名 「精霊を宿す国(3)赤い炎の翼」         
出 版 リブレ 2024年1月
単行本 336ページ
ISBN-10 4799765760
ISBN-13 978-4799765760
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/133790963


 色街を襲った大火は、光蟲、紫道、青雷が治め、そして青雷がオルガ16歳の約定の日を迎えて去った。来るべき試練の前にオルガを両親に会わせたいと願ったキリアスがオルガと友に辺境を訪れるところからの王都への召還。
 つかのまの穏やかな日々。心休まるオルガの里帰りと、波乱の予感しかないキリアスの里帰り(王宮)。
 この巻で、オルガ出生に繋がる過去の物語が明かされる。
 それにしても、少年期から延々と続く、危機を一人耐えたカディアスである。いくら神獣師達に囲まれ守られていたっていったって、そもそも傲慢不遜な能力至上主義の連中である。助けになってるんだか、圧迫になってるんだか。よくカディアスは心折れず、投げ出さず、耐えたな。それこそが王たる所以か。カディアスとトーヤの愛にも泣かされる。
 カディアスに比べたら、キリアスなんて、ほんのひよっこ。キリアスの悩みなんぞ如何ほどのものだろう。

 それにしても、だ。アジス家の悪習が諸悪の根源ではないか。
 やっぱり、先読みとの意思疎通にすら難がある依代でなかったなら、もっと違った物語があったはず、と思ってしまう。
 そして、いよいよ次巻では、鳳泉の授戒と、最終決戦である。


書 名 「精霊を宿す国(4)新しき空と神の獣達」
出 版 リブレ 2024年2月
単行本 320ページ
SBN-10 4799766104
ISBN-13 978-4799766101
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/133844400


 3周くらい読んだ。ついに完結。オルガとキリアスが鳳泉を授戒したものの、なかなかその力を万全に発揮できるようにはならない・・・・ってところで、若干のお笑いパートも差し挟みつつ、セフィストとの闘いが終局に至る。
 セフィストと真っ向から戦ったのは、ルカ。そしてその闘いを全力で支えた半神のダナル。おおむね、格好良いところはこの二人に持って行かれてました。とにかく、ダナルの愛が尊い。そして、セフィストを討伐するのではないところにもひとつの愛がある。


 そして、隣国との決戦に、鳳泉は間に合うのか。カディアス王が出陣し、ユセフス、イーゼス、ライキもその後を追い国境へ。最終決戦に青雷が参加しなかったのは、たぶん五つの神獣は輪番で代替わりせざるをえないのだから仕方ないんだけど、やっぱり、五大神獣そろい踏みの闘いは観てみたかったかも。しかし、足の悪いユセフスまでが前線に展開した総力戦は読み応えがあった。
 
 それにしても、カディアス王の治世は波乱に満ちていた。ラストの新王セディアスによる青雷の正戒シーンは、その父カディアスの初めての正戒であったゼドとセツの際の、あの幸福な風景を思い出す。時は螺旋のように巡り、やっと正常で安定した姿をヨダ国は取り戻す。

 読後も、余韻が尾をひき、しばらく物語世界で揺蕩っていた。小説というか、ファンタジーというか、ここではない別の世界にしばし飛ばされた気分。こういう作品を書ける人って凄いなー、と心底尊敬する。

2026年2月28日土曜日

0583—85 君を転生させないために

書 名 「君を転生させないために(1)」 
著 者 佐伊        
出 版 新書館 2025年6月
単行本 304ページ
初 読 2026年2月28日
ISBN-10 4403221440
ISBN-13 978-4403221446
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/133704298   

『竜王の婚姻』で出会った佐伊さんの作品。
『竜王の婚姻』のスケールの大きい大河っぷりに敬服し、こちらも読んでみようと入手してあった。この度、やっと読了できた。
 そもそもBLとして創作されている作品ではあるが、1巻目はまだそれほどそっち方面は進展しないので、これ、BLでなくて、普通の中華ファンタジーでも良かったのでは?とちょっと思ったんだけど。2,3巻まで通読したあとではとてもそうは言えませんな(^^;)

 呪術の設定とか、世界観がよく作り込まれていると思う。イメージは古代中国の西域の小国二つって感じだろうか。大中華って感じではない。国の規模や組織も小さい。規模的にはむしろ日本の平安朝とか、朝鮮王朝大河ドラマくらいな印象。王宮と市井も近いし、王族と民間人も近い。国も小さく、数日の騎行で国と国を行き来できている。

 登場人物の名前が、漢名風なのに、全部カタカナなのはちと辛かった。登場人物がさほど多くならなかったのが幸いだったが、これ以上多くなったら、多分誰が誰だか分からなくなった(苦笑)。あと、個人的な感覚の話ではあるんだけど、
「大夫」を“たゆう”と読ませるのだけは、どうしても受け付けられない。花魁や文楽じゃないんだから、ここはどうしても“たいふ”と読みたい。ていうか、どうしても“たいふ”“だいぶ”としか読めず、ルビを無視して勝手にそう読んでいた。

 で、1巻目は主人公である「延(えん)」国の年若い呪術師ソラが、延国王の命令で敵対する隣国「耀(よう)」に行くところから。
 耀の国王シゲンは前世で呪いを受けて転生した忌人(きじん)で、呪いのために死ぬことができず、すでに110歳を超えている。体は老い腐り、異臭を放っているのに死ぬことができぬ。しかし忌人の呪いを緩和するには「解呪」という技が必要だが、それは呪術師しか施すことができない。耀国はすぐれた呪術師が絶えているため、隣国延に呪術師の派遣を求めてきた、という。ソラは、家族を質にとられた形で、あわよくば耀国王シゲンの命を奪う下命を受け、耀国に入った。その耀国で、ソラが見たもの、聞いたもの。感じたこと。シゲンの身の呪いと、耀国と延国の歴史。シゲンがこれまでに成してきた国づくり。そして、蠢く陰謀と呪術。
 これは、大呪術合戦・一大スペクタクル・歴史ファンタジー大河か!?と思いきや、実はこれも壮大な前振り?

書 名 「君を転生させないために(2)」      
出 版 新書館 2025年7月
単行本 272ページ
初 読 2026年2月28日
ISBN-10 4403221459
ISBN-13 978-4403221453

 2巻冒頭から大きく事態が動く。耀王宮に延の間者が入り込んでいることが分かる。そして、1巻で、主人公の呪術師ソラが密かに仕掛けた罠が始動する。さて、間者はあの2人の内のどちらか・・・、と思っていたが、さすがにどちらかまでは分からなかった。私の予想ははずれ。そっちか! 正体の分からない延の術者との呪術の掛け合いで激しく消耗したソラは、シゲンの呪いの暴発に「解呪」を施すも、浄化の力及ばす、シゲンから吸い取った呪いを我が身に遺してしまう。

 忌人であるシゲンは身に纏った呪いが相手の命を奪ってしまうために、常人には触れることができず、孤独な生を生きてきたが、護符を身に刻んでいるソラだけは普通にふれあうことができた。シゲンはソラを深く求めるようになり、ソラもまたシゲンを愛すように。シゲンの呪いに犯されて先のない命であることを悟ったソラは、忍び寄る死に怯えつつ、残った時間をすべてシゲンを慈しむことに注ぎ込みたいと願うのだが。

 当初は、シゲンの宿命の敵はソラなんじゃないかとも思っていたのだが、ラウレンの様子が変わってきたところで、これは違うな、と。そして、2巻が終わるところまでは、シゲン&ソラvs延国呪術師(ラウレン、その他)の呪術大戦的なスペクタクルになると予想し、シゲンとシゲンの呪いを身に受けたソラが助かる道は、もうシゲンに呪いを掛けた呪術師を仕留めるしかない。敵の延国呪術師を破ることで、シゲンとソラが呪いから解放されて、二人幸せになるんだろう、と思って(思い込んで)読んでいたのだが。

書 名 「君を転生させないために(3)」      
出 版 新書館 2025年8月
単行本 256ページ
初 読 2026年2月28日
ISBN-10 4403221467
ISBN-13 978-4403221460

 ついに、ラウレンが耀国に乗り込んでくる。シゲンへの輿入れ、もしくは人質として。そして、ラウレンを盲信するソラに対して、シゲンをはじめとする耀国の人間は、なにやら思うところがありそう。このあたりから、ソラが政治の中枢の動きから蚊帳の外に置かれ、ソラパートとシゲンパートが分離。
 そして物語はシゲンとシゲンの敵との闘争で大激震するかと思いきや、ラウレンの自滅で案外そっちはあっさりと決着し、その後、物語はロミオとジュリエットみたいな怒濤の愛に突き進む!
 そして、読み終わってみれば、これは呪術合戦などではなく、清廉な愛の物語だった。
 ちょっと肩透かしをくらった感じがしないでもないんだけど、なにより、一生懸命悩み、愚直に現実に直面し、危急の時には迷わず行動するソラがなんとも健気で美しく、ソラとシゲンの愛が深く、清く、麗しいのだ。

 「シュウキ=ラウレン」がちょっと小物っぽかったな、とか、シゲンが自分で自分に掛けた呪いの「延」はどうなったんだろう、とか、なぜ、忌人の転生は1回限りなんだろう、とか、こまかいハテナはいくつかあるんだけど、とにかく美しいラブストーリーだった。呪いを受けて死ぬと悲惨な転生を遂げる、という設定が、どのように生きるのか、どのように愛するのか、そしてどのように愛する人を死なせるのか、という大きな命題になって、主人公たちが悩み、苦しみ、決断し、愛する。これがとてもリアルに感じられた。
 ラストの後日譚的な「君が転生するために」で、個人的に気になっていたカイリとメイロウの初恋カップルも無事成婚に至ったし、貴方が次の世でも幸せであるように、と言祝ぐソラの思いに、読んでるこちらまで、せつなくも甘やかで幸せな気分になることができた。素敵なストーリーだった。

 この物語では語られないけど、愛しあうソラとシゲンがやがて、長くはない生を終え、二人身を寄せ合い、最後まで相手への思いやりと愛を語らいながら、一緒に息を引き取るシーンを想像しちゃって、なんだか読後感はしんみりしてくる。

(あと、心の声。ロウゼン、受けかよ・・・・)

2026年2月11日水曜日

0578—80 傭兵の男が女神と呼ばれる世界1〜3 (アンダルシュノベルズ)

書 名 「傭兵の男が女神と呼ばれる世界1」
出 版 アルファポリス 2020年9月
単行本 304ページ
初 読 2026年2月4日
ISBN-10 4434278754
ISBN-13 978-4434278754
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/133260505

 引き続き野原耳子さん作品。
 これまた異色も異色なBLでビックリ! 有り得なさそうなものを取り合わせてブッ込んで面白くしました!って感じだけど、これがとにかく面白い。断然面白い。
 なにしろ、無骨な傭兵だ。AK47抱えてジャングルを縫い、手榴弾放り投げる戦士。元自衛官。既婚・子供あり。(ただし訳あり)
 そんな、男臭く、汗臭く、ジャングルの泥まみれ、砂漠の砂まみれみたいな迷彩服の男が、なんと異世界に飛ばされる。それも女神として!! つーか、異世界側が女神がやってくるという神のお告げ?に従いお出迎えしたら、現れたのがこいつ、尾上雄一郎だった。もう、名前からして男臭い(笑)。尾上(おがみ=男神?)は女神に掛けてるのかナ?
 雄一郎の抵抗も虚しく、女神として召喚されたんだから、男だろうがおっさんだろうが、お前は女神なんだ、と異世界側には強弁(笑)されてしまう。お前のこの世界での使命は、軍を率いて「正しき王」を勝利させること、そして「正しき王」の子を産んで国母となること(!)。自衛隊上がりの傭兵だから軍を率いて・・・の方はなんとかなるにしても、「国母となれ!」は37歳中年男に無茶振りもいいところである。
 しかもこの異世界は王位簒奪戦の真っ最中で、自分の目の前のひ弱な泣き虫少年が王位簒奪の憂き目にあっている正当な王位継承者「正しき王」であると言われ、なにもかもが納得いかないうちにいきなり砲撃にさらされ、やむを得ず戦闘開始。
 技術的には連発銃が戦力になりつつあり、大砲は戦力化されており、航空機以前の世界観。ドライセ銃からスペンサー銃をイメージすればイイ感じかな? 世界史年代的にいえば19世紀中頃、アメリカ南北戦争くらいの軍装を思い浮かべればだいだい合ってる? まるっきり甲冑、ロングソードってわけでもなさそうなところが、元陸自・傭兵の尾上雄一郎が戦闘指揮能力を発揮できそうな絶妙な塩梅である。
 そしてあれよあれよというまに、元の世界に帰るためにもとりあえず「王の子」を産むことを納得させられ、夜ごとの3Pになだれ込む。激しい。いろんな意味で激しい。

 一巻目は、異世界召喚からの戦闘。雄一郎が初夜(?)で犯され、徐々に「正しき王」ノアと「仕え捧げる者」テメレアに絆されつつ、まずは反乱軍に侵攻された王城を奪還するところまで。昼は過酷に戦い、夜は夜とてベッドの上で男2人に侵略される、男・尾上雄一郎37歳の戦記であるとともに、全てを失い絶望した男が何を思い、何を取り戻していくのか、そんな雄一郎の内面からも目が離せない。(こんなBLがあるとは・・・・目から鱗が落ちそうな一冊である。)


書 名 「傭兵の男が女神と呼ばれる世界2」 2021年7月
単行本 299ページ
初 読 2026年2月7日
ISBN-10 4434291106
ISBN-13 978-4434291104
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/133284932

 反乱軍の居場所を探るために偵察に出した兵とテメレアが戻らない。唯一戻った女性士官のイヴリースの背中には矢が突きたっていた。
 その方面には、女神を信奉する部族の街があったはずなのに、なぜ? テメレア奪還のために出撃する雄一郎である。そして、なんと雄一郎の他にも、もう一人の「女神」がこっちの世界に現れていた。ノア側とノア兄側、それぞれが「女神」を擁し、隣国の最新兵器も登場して戦局はいよいよ厳しい。そこで、雄一郎側は、ノア兄側と同盟している隣国ゴルダールの内乱を誘発する策にでる。
‎ 
 元いた世界で妻と子供を失い、すべてに絶望し、心なんぞ死滅したような雄一郎の、その実は細やかな心情が描写されるのが良し。死にかけたり・生き返ったり・倒れて寝込んだり、それなのにやっぱり犯され喘がされ、戦争よりもベッドの上が激しい。シャグリラの実という、女体化を促進する実を摂取しているうちに、なんとなくヒゲが薄くなり、体が柔らかくなってきた。そして、2人の夫?愛人?恋人?を求めずにはいられない体になりつつある。しかし、王位継承のための戦争はまだまだ混沌として続く。雄一郎の外套の襟元にとめられたピンの赤い石(サザレ)が不穏。それを留めたゴートはいずこに? まだまだ波乱の気配を漂わせながら、話は3巻へ


書 名 「傭兵の男が女神と呼ばれる世界3」 2022年5月
単行本 515ページ
初 読 2026年2月8日
ISBN-10 4434303244
ISBN-13 978-4434303241
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/133362698

 隣国ゴルダールの前王の双子の子を見つけだし、現ゴルダール王を打ち破り、ジュエルドとゴルダールに平和な未来をもたらすことを約束したノア一行。行く先々でアオイが現れるが、このアオイの造形とか、アオイの位置づけなんかは結構チープな感じがする。まあ、悪役として分かりやすくはあるが、もうちょっと魅力的な悪役でもいいような気がする。ともあれ、雄一郎の過去の出来事が、ついに雄一郎の口から語られる。そして、ゴートの裏切りによって、腹を刺されて凍った湖に落ちた雄一郎は、再び死線を越えて現代の日本に。

 この作品では、戦争が平和な世界を築くための「必要悪」として語られるけれど、第二次大戦の記憶が遠ざかり、そして近隣の大国中国をはじめ、東欧、南米と全世界がキナ臭くなってきた今、戦争や犠牲を、そういうふうに単純化してしまってよいのか、という読み手(私)の思いを、作中の雄一郎自身が、受け入れ難く思っているところにも共感できたりする。雄一郎はやむを得ず戦うことを選ぶが、本当は、妻と子供を爆死という悲惨な形で失った雄一郎の嘆きが全てなんじゃないか? とも思う。
 令和が次の殺戮の女神の時代でありませんように、なんて、選挙の野党の惨状を見ながら考える。今が、ヒットラーが国民選挙で選ばれ、ナチスが台頭した時代と同じでないと、だれが言える?
 こんな感じで、読んでる自分の気持ちが現実と物語世界を行き来しつつ、「黒の女神」雄一郎の勇姿を追う。
 女神隊を鼓舞する雄一郎なんて、ほんとヤバい。せめてもの救いは、雄一郎が自覚を持っていて、戦争に酔っていない現実感覚を持っていることだ。そして、なにはともあれ、大量の戦争の犠牲者の屍を礎として、平和なジュエルドの、ノア王の治世はもたらされる。


 私としては、子供を産んでからの雄一郎が大好きだ。結果として(番外編までいれると)7人の子持ちになっちゃうわけだが、相変わらず一人称は「俺」でぞんざいな口調なのに、子供達からは「母様」と呼ばれ、母として根気強く子供達を育てる雄一郎を好ましく思う。なんていうか、戦争が終わってしまえば軍人の出番はなく、内政も外交もノアとテメレア任せで、雄一郎はせいぜい暇つぶしの盗賊退治の他は、母親業しかやることなくなっちゃったんだろうとも思ったりするが。

 番外編については、賛否両論ありそうだけど、ゴートの執着と雄一郎の未練は私的には「アリ」だと思った。『雄一郎がどれだけ自分を憎んでも、疎んでも、それでも僕もテメレアも雄一郎を見捨てない。雄一郎がどんなことをしても最後には許す。雄一郎が好きだから。誰よりも大事だから』というかつての言葉を、ちゃんと守る2人の夫であった。私としては、自分自身でも受け止めきれない妻と娘の悲劇の痛手を抱えつつ、ゴートの喪失に寄り添い、ゴートの行き場のない怒り(裏切り行為)も受け止め、ずっとゴートを側に置き続けた雄一郎の懐の深さを、事実もろともゴートにぶつけたいと切望したよ。ノアとテメレアは、ゴートに言っちゃえばよかったのに!(そしたらきっと、ゴートは再起不能なまでに打ちのめされたと思うよね。) さて、誰の子になるかはワカランが、雄一郎に8人目の子が生まれないかどうかは、神のみぞ知る??? ちょっと期待してしまったり・・・・

 久しぶりに読後も主人公が頭の中を歩き回る感じを味わっている。だいぶ雄一郎に入れ込んだ。読後数日たっても、まだ物語世界から抜き出せきれていない。私は本当に傷ついた男が好きなんだよなあ。。。。。

2026年1月31日土曜日

0577 再生 Kindle版

書 名 「再生」
著 者 野原 耳子   
出 版 電書バト 2024年7月
Kindle 337ページ
初 読 2026年1月28日
ASIN B0CZQRDXZB
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/133068952   

 基本、書誌データは紙本で登録することにしているのだが、これは電書オンリー。紙本はない。(ちょっと残念)
 ソープで女の子に交じって体を売っている喜一(きぃ)。自分で幸せを捨ててきた、という喜一。だけど真実は・・・・。これBLなのか。むしろ文芸書?文学? とにかくリリカル。心情描写の一つ一つがリリシズムに溢れてる。きぃちゃんは、どこか壊れている。きぃちゃんの体の中から、割れたガラスが軋むような音が聞こえてきそうだ。やっと保っている喜一の輪郭が、ガラスが砕けるように崩れるのではないかと、読んでる間中ずっと心配だった。

 幸せが砕け散ったあとに残った一人は、どうやったら生きていくことができるのだろう。男に体を売ることで、緩慢に死ぬようにやっと生きている喜一の崩れかけた意識が、友人のれっちゃんが受けた暴力をきっかけに一瞬ピントが合う。その瞬間に溢れでる歯止めがきかない加虐性の描写もすごい。喜一の心が幸せと不安と不幸の間をせわしなく行きかう様が丁寧に鮮明に言語化されていて心に響く。
 主人公の名前が「きぃ」なのも凄い。他の呼び名なんて、考えられない。一郎でも太一でも裕太でも(なんでもいいんだけど)なくて、「喜一(きいち)」で「きぃ」なのだ。
 ヤクザの真砂さんや、ソープの店長の田中さんが「きぃ」と呼ぶ。それだけで優しさが滲む。きぃの周りの人がみんなやさしい。そのやさしさの中で、きぃが自分を取り戻したとしても、きぃの壊れたコップの心はやっぱり傷だらけのまま。“金継ぎ”のようにより美しく、強くはならないけど、傷ついても、完全には元には戻れなくても、痛みを抱えたままでも、人は生きて行くことができるし、幸せを感じることすらできる、そんなメッセージを感じる。

 なんだかすごいものを読んだ。先日、『俺の妹は悪女だったらしい』を読んで、野原耳子さんという作家を知り、これは掘り出し物かも?と思って野原耳子さんの他の作品を探してみたのだ。そしたらコレよ。なんか、すごい。今時のデジタル時代の(という言い方が既に古いけど)文学の裾野の広さを感じる。

2026年1月25日日曜日

0575—76 バッドエンドを迎えた主人公ですが、僻地暮らしも悪くありません 上・下 (ピスタッシュ・ノヴェルス)


書 名 「バッドエンドを迎えた主人公ですが、僻地暮らしも悪くありません 上・下」
著 者 仁茂田 もに       
出 版 新書館 2025年9月・11月
単行本 上巻 320ページ/下巻 336ページ
初 読 2024年?月(アルファポリスにて)
ISBN-10 上巻 4403221432/下巻 4403221483
ISBN-13 上巻 978-4403221439/下巻 978-4403221484
読書メーター
 上巻:https://bookmeter.com/reviews/132968692
 下巻:https://bookmeter.com/reviews/132968718

 引き続きハッピーエンドしか読みたくない病を発症中。
 仁茂田もにさんは、そんなときに安心して読める、好きな作家さんのおひとりである。最初に読んだのが、「Ω令息は、αの旦那様の溺愛をまだ知らない 」で、それ以降、電子書籍版や、pixivや「なろう」やアルファポリスにアップされている作品も好んで読んでいる。
 とくに気に入っているのが、「王と王妃」と「七年前に助けた子どもが、勇者になって求婚してきた」。この2作品は、電書化されていなくて商業出版ベースに乗ってないので、読みかえしたくなったときには、pixivファンボックスやなろうに出かけて再読している。

 この「バドエン主人公」は、アルファポリスで連載されていたときに追いかけて読んでいた。今回商業出版バージョンを入手したのは、Amazonからオススメされて、つい読み返したくなったからだ。お気に入りの作家さんを買って応援するのは読者の勤め。心を込めて?ポチる。 

 後書きによれば、「今流行りのキャッチーなものを書いてみよう」と思って書かれた作品とのこと。「今女子に流行りの日記ってものを書いてみようと思って書いたんだよ」という紀貫之/土佐日記の冒頭を思い出した。(笑)

  主人公が転生したのは過激BLゲームの中。登場人物は男だけ、なんなら世界中男しかいない設定。世界は平面・天動説。世界の裏側には暗黒の女神の世界があって、世界が破れたら大変なことに。冒頭から始まる断罪劇、チート主人公、超美形な相方で役満。ってか美形しかおらん。ちょこっと出て来るだけのやつは「モブ」で一把一絡げな感じも潔い。振り切れた世界観だから、ただただ楽しもう!と思って楽しんで読む。
 仁茂田もにさんの作品の登場人物たちは、どんなに逆境でも心折れない嫋やかさがあって好きなんだよ。読んでいてすごく癒やされる。「悪役令息」役のジュリアンと再会してからの流れなんかも面白かった。ちょっとフィン隊長が死んでしまうのではないかとドキドキしたよね。アルトが負傷したときも、刺客に襲われた時も、危機一髪でちょっとハラハラしたけれど。それでも誰も死なない大団円。ハッピーエンドをありがとう♥️

2026年1月17日土曜日

0574 俺の妹は悪女だったらしい (一迅社ノベルス)

書 名 「俺の妹は悪女だったらしい」
著 者 野原 耳子    
出 版  一迅社  2025年12月
単行本 372ページ
初 読 2026年1月16日
ISBN-10 475809781X
ISBN-13 978-4758097819
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/132828897

 死に戻り・巻き戻し系ファンタジーBL。
 現在、実生活で母の入院やら何やらで、もはやオーバーフロー状態で、脳ミソが『そして2人は幸せに暮らしました』以外の物語を求めていない(苦笑)。
 そんな私的需用にマッチした、絶対にこいつら幸せになるだろ、と確信できる作品。主人公が得物の戦斧を振るって全力で立ちはだかる困難を薙ぎ払う!

 純情で強情で、純朴で剛力(なにしろ大人2人で運搬必須な大斧を振り回す)な護衛騎士(作中ではロードナイト)と、冷酷で腹黒な執着系君主。今表紙絵を見てふと思ったンだが、キルヒアイスとラインハルトの類型っぽい感じもある。
 主人公ノアが溺愛する妹のダイアナがだんだんイイ性格に育っていくのも、じつは伏線っぽいところがある。とにかく必至で努力する主人公ニアが、実は主君だけではなく妹にも溺愛されている変則三角関係。フィルとダイアナの間にも、なにか腹黒な取り決めがあったらしいと思われるが、そこは読者にもナイショなところ。(だったんだけど、なろうにアップされている番外編でネタばらしされてました。) 死に戻りしたのが1人だけじゃなかったのがミソ。
 ストーリーは内容的に二部構成で、「2人はいったん恋愛成就して幸せに」なっただけでは済まないところと、後半の驚愕の事実からの疾走感がとても良い。聖女はちょっとチープな感じだったけど。死に戻った理由もちゃんと明かされているのも良いし、読んでる途中では「?」だった本書タイトルもちゃんとラストで回収。戦闘シーンは多くないものの、要所要所でちゃんと主人公の大斧が活躍する。
健全な肉体にこそ、健全な精神は宿る、という主人公の信念もよし。そういえば、性的描写もそれほど多くない? 商業出版化で多少出力調整されているのかも・・・と思ったのは私の穿ちすぎ。

 BLを読むたびに、私にとってBLの需用ってなんだろう。とつい考えちゃうのだが、女性キャラクターの恋愛だと、どうしても女性側に移入しがちなのにもかかわらず、女心や恋愛描写には違和感があるのに、BLだと、完全に自分から切り離してお気楽に読めるからなんだろうな〜と思う。なんていうか、男女の恋愛ものって、イヤがうえにもジェンダーを刷り込まれる感じがしてダメなのよね。(女はこうやって男に抱かれろ!みたいな?)まあ、そんな理由付けをしなくちゃ読めないくらい、いい年してBLを読むのって小っ恥ずかしいところがあるんだけど、なにはともあれこの本は面白かった。

2025年12月21日日曜日

0573 初雪 海は灰色 第一部

書 名 「初雪 海は灰色 第一部 」
著 者 柴田 よしき      
出 版 角川書店 2025年12月
文 庫 288ページ
初 読 2025年12月20日
ISBN-10 4041169135
ISBN-13 978-4041169131
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/132244150

 待って、待って、待って、待ち続けた待望の続刊。
 「聖なる黒夜」から「私立探偵・麻生龍太郎」を経て、道を分かったはずの麻生と練が、再び語らう。

 「聖なる黒夜」を読んで頭ん中がうわーーーーーっとなって、続き!続き!こいつらこれからどうなっていくんだ〜〜〜とネットを徘徊し、柴田よしきさんが続話をWEBで連載していたことは知ることができたが、その時点で、もう「海は灰色」はWEBから下げられていて、愛読者のブログなどでおぼろげに輪郭が分かるだけの、まぼろしの作品と化していた。いつかは、いつかは刊行されるに違いない、と思って待ち続けてはや〇年。このたびついに刊行され、やっと手にとることが叶った『聖なる黒夜』続刊である。

 てっきり、練のあの事件の真相を追う話だと思い込んでいたんだが、出だしはなんと、龍太郎の逃げた奥さんを探す旅だった。そこに練が乱入、その上2人が滞在する鄙びた温泉街で殺人事件と傷害事件が起こる。正統派な推理小説仕立てながら、根城の新宿を離れて身軽な風情な練と、前科がついて、裏街道をとぼとぼと行くしかなくなった龍太郎が、一緒に同じ事件を追う、という、なんというか、『聖黒』ファンにとっては、ボーナストラックみたいな、なんだか時期的にはクリスマスプレゼントみたいな作品であった。
 私は練ちゃん贔屓なもんで、麻生龍太郎ははっきりいって憎々しく思っていたのだが、なんかこの作品を読んでそんな気分も霧散した。2人の腐れ縁はこれからも切っても切れないし、龍太郎にとって、今生きている練は、暴風雨の後に一輪健気に咲き続けている小さな花なのか、と思ったら、ついうっかり、龍太郎の練を愛しく思う気持ちに移入してしまったよ。練は「練」なのだけど、なんとなく泥の中に咲く「蓮」を連想した。

 練にとっては、龍太郎は練の過去も現在も等しく知っているほぼ唯一の存在なんだな、と考えると、練の龍太郎に対する執着も分かるような気がする。練の胸に止まっているウスバシロチョウの意味も、そもそもそこにウスバシロチョウを彫っていることだって、知っているのは龍太郎以外に誰がいるのか。そういや、作中で練が温泉に入るくだりで、練が背中に彫りモンがあるような記述だったが、練って背中に何かしょってたっけ?どうにも思い出せない。『聖黒』の細部の記憶がだいぶおぼろげになったところで、『RIKO』から刊行順に読み直すのも乙かもしれんな。

 このほとんど救いのないような練・龍の2人がこれからどうなっていくのかは、続刊を待つしかない。ちなみに続刊の発行は、26年12月、つまり1年後だそう。またまた長いな〜〜〜。いっそのこと揃ってから一気読みしたいくらいだが、読者はこの本を待ってたんだ!という心意気を示すためにも、予約で買いました。ついでに、Kindle版も購入したので、2冊買いだ。それくらい応援している。続刊をあと1年、待ちます。なお、作者様のXによれば、この作品は3部作になるそうだ。そして、第二部以降は大幅なリライトになると。はい。お待ちしております。『海は灰色』刊行してくれてありがとう!

2025年8月17日日曜日

0563 好きだと言って、月まで行って (モノクローム・ロマンス文庫)

書 名 「好きだと言って、月まで行って」
原 題 「To the MOON and BACK」2023年
著 者 N.R.ウォーカー
翻訳者 冬斗 亜紀
出 版 新書館 2024年11月
文 庫 400ページ
初 読 2025年8月17日
ISBN-10 4403560598
ISBN-13 978-4403560590
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/129720163


 N.R.ウォーカーは、オーストラリアのゲイロマンス作家さん。初読み。翻訳は安定の冬斗亜紀さん。とても読みやすい。
 主人公の一人、ギデオン(ゲイ/シングルパパ/失恋直後/ヒゲのいい男/高学歴・高収入)の背景とか、もう一人の主人公トビー(ゲイ/イタリア系オーストラリア移民の家系/高学歴のプロのナニー(超有能))の背景とか、オーストラリアのLGBTQの様子とか、育児に関わる社会制度とか、ストーリーの背後にぎっしり詰め込まれているものがあって、これを全部読み解けたらかなり深いな、と思うけど、単純に不器用男2人がモダモダ恋に落ちるロマンスとして、十分に楽しい。
 出だしこそ、ヒゲのタフガイが慣れない子育てでおたおたしている話かと思ったが、この「ヒゲのタフガイ」が思いのほか繊細で、むしろ女性的(っていうか、こういう性格描写の語彙がどうしても性的役割分担を色濃く反映しているのは、なんか良い形容詞がないものか)なのが、ミスマッチで面白い(というか、これをミスマッチと感じる感性がそもそも性差に対する意識が固定化しているよな)というか。
 読んでいると、さりげなく、固定化したジェンダー意識に揺さぶりをかけられているようで、なんか意識の柔軟体操しているみたいで良いよな、と思う。日本の社会でLGBTQが社会権を得たのって、BLもそれなりに大きな役割を果たしていると思うのよね。

 ストーリーは、突然シングルパパになってしまって困惑・疲労困憊している男のところに、超有能な男性ナニーがやってきて、あっというまに生活改善して、あっというまに恋に落ちる、というまあ、ありがちな感じなんだけど、その恋に落ちる過程や、2人の心理描写がとてもとても良い。早くに親を亡くして親の愛情に飢えていたギデオンが、トビーの大家族に心温められながらも、寂しく感じる描写なんかもすごく素敵だ。も〜〜〜あんたたち両思いなんだから、もっとシャッキリしなさい!と言いたくなるが、この、これまで自分が世の中的に慣れ親しんできた男性性とは、性質を異にしたナイーブな優しさ全開の2人に、なんだか未来への希望を感じちゃう。・・・・とちょっと壮大な感じの感想になってしまった。
 あと、雇用関係や雇用契約に対する意識がはっきりしているなあ、と思う。さすが、ジョブ型雇用の欧米社会。権利—義務関係を明確にさせようとする意識がここまで恋愛の足を引っ張るって、日本人的な感覚だとあまりないのでは。そういう意味でも、「もだもだしすぎだ!」とうっかり感じてしまうかもしれないが、きっと当人たちにとっては、そして彼等の文化規範の中では、独立した個人として、とても大切なことなのだ。

 以下は余談だが、先日、子育て仲間だった友人と呑みながら話をしていて、なぜかBLの話になり、友人は「BLは女の子の健全な成長に必要なのよ!」(ちょっと細部はうろ覚え)と力説していて、私もなるほどなあ、と思ったのよ。
 男女の恋愛物語を読んだり見たりしたら、女の子は女性側に移入せざるを得ない。“女性らしい”感じ方、“女性らしい”振る舞い、女性としての性的役割を、作品のを通じてすり込まれる。私はそれが苦手で、恋愛小説はあまり読まないのだけど、BLならば、キャラクターのどちらに移入しても可だし、それこそニュートラルに、若干は客観的に、恋愛を疑似体験できる。なにをどう感じるかを(精神的にも、肉体的にも!)強制されることはない。自己を確立する時期の思春期の女の子にとって、BLは成長のための梯子になり得るのかもしれない。

2025年6月22日日曜日

0559ー60 竜王の婚姻 上・下

書 名 「竜王の婚姻 上」
著 者 佐伊       
出 版 ‎ MUGENUP 2024年4月
単行本 544ページ
初 読 2025年6月20日
ISBN-10 4434337041
ISBN-13 978-4434337048
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/128631885 

 Kindle版をAmazonにオススメされ、アンリミだったので好奇心でクリックしたのが運の尽き?(いやその言い方は著者の佐伊さんにあんまり失礼だよな!)
 正直、最初は舐めてかかってました。ごめんなさい。
 よくある異世界BLで竜に嫁した不遇な主人公が溺愛される系だろうとの安直な予想を見事に裏切る、超骨太大河ファンタジーだった。なにしろ本は分厚いし、内容は激重だし、先は気になるし、で、ついついの駆け足飛ばし読みになってしまった。(これまた著者の佐伊さんに失礼な!)。なので、1回最後まで通読してから、最初に戻ってじっくり読み返し。

 最初はオメガバース?と思ったが、そうではなくて独自設定。惹香嚢(じゃこうのう)という発情期に強烈なフェロモンを発する子宮類似器官を持つ人々が少数ながらいる世界。世の中を構成するのは人間、獣人、そして惹香嚢持ち。性的には女性、男性、両性、そして男性であっても妊娠できる惹香嚢体。小国(従属国)の惹香嚢体の第四王子が、宗主国の皇帝(実は獣人)に輿入れする事に端を発する物語だが、主人公は全然愛されないまま話は何年も進むし、竜王と婚姻するのは主人公じゃないし、でどんどん予測をかわしてくる展開にぐいぐい引き込まれる。
 「神山」を頂点とするヒエラルキー社会の硬直化した末期的様相や、獣人に対する差別意識や、神山に対抗するレジスタンスや、奇病の延命法を巡る壮絶な陰謀、意志を奪われた人間、それぞれの人間の立場や苦悩が描かれ、同時に登場人物のキャラが立ち、程良く強くて自立している主人公が苦難に立ち向かう、と実に濃厚で重厚な読み応えたっぷりな大河ファンタジーでありました。小山田あみ氏のイラストとは、モノクローム・ロマンス文庫の「ヘル オア ハイウォーター」シリーズ以来の再会で、これまた濃厚。主人公の絵柄は自分のイメージとは若干違ったが、じゃあどんな?と言われたら困るかも。

 それにしても、この話、書記官で執政を補佐してるはずのジグルトのやらかしがとにかく酷いんでないかと思うのよ。主人公のセナへの個人的反感が根底にあるからか、とにかくいろいろと情報をネグって、セナ絡みの必要な情報を皇帝に上げないから、皇帝が見事に後手に回って、非常によろしくないのだ(笑)。だからこの話が進むんだ、と言えなくもないんだけどねー。最悪なのは出産時に無視放置だ。そうなった王側の事情は番外編で明かされるが、さすがにまずい。全体的にさらりとその主因となったジグルトのしでかしは流されてるけど、本人自覚しているように、これは万死に値するぞ。おかげて、セナと皇帝は関係を深めるチャンスを逸してしまうし、護衛官の白銀狼イザクにセナの気持ちをもってかれちゃう遠因にすらなっている。まあ、この三角関係の捻れは話の核心ではあるので、ジグルトは役目を果たしていると言えばそうなんだけど。


書 名 「竜王の婚姻 下」
著 者 佐伊       
出 版 ‎ MUGENUP 2024年4月
単行本 544ページ
初 読 2025年6月20日
ISBN-10 443433705X
ISBN-13 978-4434337055
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/128631885   

 あれほどのボリュームの上巻がアンリミであるわけだ。先が気になっちゃって、読まずにはいられない。下巻をKindleで読んだあと、やっぱり紙本を手元に置きたい、と上下巻購入したので、結局下巻は紙と電子の2冊分購入したことに(笑)。

 とにかくアレコレあって、物語はどんどん、どんどん破局に向かってなだれていく。鱗病の蔓延、惹香嚢体の命運、最愛の男イザクは絶命し、竜王すら死に瀕し、八方塞がるなかでの唯一の望みとなるのはセナ自身の体のみ。自分の死を選ぶことで、世界の命運は繋ぎ止められるかもしれない。この決断に至る主人公が潔すぎる。ファンタジー世界だからこそ可能な、現代社会が惑う様々な社会問題のごった煮の中で、子供を愛し、人を愛する主人公の芯が物語の背骨になって、この無骨な物語を成立させている。ほんと飛ばし読みで申し訳なかったが、物語の先を読みたい気持ちに目が字を追うスピードが追いつかなかったよ。上下巻をほぼ1日で通読した。そして紙本を入手してみれば、上下巻あわせて厚さは6センチ、ページは2段組のボリュームだった。で、そのあと一週間かけてじっくり読み直した。
 
 番外編の皇帝(上皇)の気持ちが切ない。150年後の竜王の命によって贖われる世界。そういう竜王を育て上げたセナと、竜王の伴侶アスラン、その二人と竜王を、そして二人が世を去ったあとには一人で守り続けたであろう王に祝福を捧げる。

2025年2月24日月曜日

0545 ないもの探しは難しい (Ruby collection)

書 名 「ないもの探しは難しい」
著 者 metta
出 版 KADOKAWA 2025年1月
文 庫 304ページ
初 読 2025年2月22日
ISBN-10 4041138531
ISBN-13 978-4041138533

読書メーター https://bookmeter.com/reviews/126236959

 X(旧ツイッタ−)で、仁茂田もにさんのリポストで、この本のドイツ語版が配信されているとの情報を得、海を渡っている日本BL!(オメガバース)に好奇心が爆発してDLして読みました。
 冒頭から、文章のテンポがすごく良くて、気持ちいい。主人公の、健気だけど湿っぽくはなく、元気でめげない雑草のようなたくましさがとても好ましい。ろくに発情しない薄いΩであるとの設定なので、あまり濡れ場は濡れ濡れしていないというかあっさりめ。イラストは概ね好みだけど、読んでいると主人公の片割れアルファのダリウス卿は、大柄でガタイが良くて厳ついイメージを抱いていたので、この表紙のダリウスさんは、ちょっと線が細くて優し過ぎかも?
 それはさておき、タイトルどおり「ないもの」を探すのほど難しいものはなく。
 さしたる特徴もない普通の人が、細心の注意を払って身を隠したらどうなるのか。
 それを探し出すのは、もはや番アルファの執念しかない。
 途中で和解する兄や、主を叱咤する執事のマシューさんの性格も好み。とても面白かったデス。彼らのムスメのシグリットのまったく秘めてない恋と執着の行方も、なかなか楽しみではあるね。

2024年12月1日日曜日

0521 獅子帝の宦官長 寵愛の嵐に攫われて (エクレア文庫)

書 名 「獅子帝の宦官長 寵愛の嵐に攫われて」
著 者 ごいち         
出 版 MUGENUP(エクレア文庫)2022年12月
文 庫 290ページ
初 読 2024年11月
ISBN-10 4434310445
ISBN-13 978-4434310447
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/124539378


 KindleアンリミでAmazonの画面に上がってきたのを興味本位で読んでしまったんだが・・・。いやこれがなかなか大したものだった。いちいち、引っかかってもしょうがないのだが、こーいうのにBL(ボーイズラブ)ってほんとどうなの?と今だに思ってる(苦笑) 明らかにボーイズじゃない。だって皇帝三十路だし、宦官長もアラサーよ? だからってM/Mって訳でもないし。(文化的に違うよな。)なんなの、なにせよニッチなジャンル。だが本質はエロだ。官能小説?それが一番しっくりくるか。
 そもそも宦官ってところですでに背徳感満載なわけだが、これがもう、淫靡というかエロが濃い。どろりと濃い。SEX描写はちょっと読み疲れて途中斜め読みになる。主人公イルハリム、流されているだけ、と言えなくもないが、じゃあ流されない生き方なんて可能なのか?という時代や文化設定だし。流されるままの彼がしかし、嫋やかで清純で、一生懸命なのが麗しい。勢いで、連載されていた『獅子帝の宦官長Ⅱ』もKindle分冊版で読了。折しも最終刊。これはもう、大河ドラマだ。どことなく、韓流宮廷大河の趣を感じる。

 作者のごいちさんの他の作品も気になって探してみるが、商業化されているのは、この2作品のみのよう。活動しているアルファポリスで他の作品も読み漁ってきたが、どれも非常に面白い。いや、才能がある人っているもんだなあ、としばし堪能した。個人的には、『王宮に咲くは神の花』も大河ドラマ級のスケールで読み応えがあったが、『愛しの妻は黒の魔王!?』が主人公や脇のキャラ立てが好みでとても面白かった。平安王朝物の『九重の姫♂は出世を所望する』も雅でよろしかった。ごいちさん、作品ごとに雰囲気を書き分ける文才が見事です。


    

2024年11月10日日曜日

0520 あなたの糧になりたい (ディアプラス文庫)

書 名 「あなたの糧になりたい」
著 者 仁茂田 もに      
出 版 新書館 2024年11月
文 庫 240ページ
初 読 2024年11月10日
ISBN-10 4403526136
ISBN-13 978-4403526138
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/124161855

 比較的最近になってBLを読み出してから、作品を求めてpixivなどを読み漁り、オメガバースとかDOM/SUBなんて世界観が生まれていることも知った。最初はこういう「枠組み」に違和感を感じたんだけど、慣れるに従って、考えて見れば、架空の生き物であるドラゴンがいるファンタジー世界なんかも、大勢の創作者や読者で世界観を共有して、素晴らしいファンタジー作品から、二次創作まで展開されているわけだから、BLというジャンルでそのような架空の世界観を作者や読者で共有することだってアリだろう、と気付いた。
 最初は、♂と♂がSEXするためのただの装置じゃないか、と眇で眺めていたんだよ。でもいったんそういう世界観が構築されると、そこにその世界なりのジェンダーが生まれるし、それ故の悩みや葛藤や悲劇も生まれ、つまりは物語が生まれるのだ。物語あるところに、良い小説もある。

 仁茂田もにさんは、そういった良い小説を生み出す作家さんだ、と私が思うおひとりである。たまたまAmazonで偶然作品を知り、もにさんの作品を求めてアルファポリスにも読みに行った。どれもすごく良い。BLは共通項だが、キャラクターや時代や設定もさまざまで、それぞれに面白い。何よりキャラたちが良い。それぞれに個性的で、ひとりひとりが誠実なのが、とても良い。みんな応援したくなる。
 で、この作品『あなたの糧になりたい』は、つい最近までアルファポリスで公開されていたので、そちらで一度読了している。
 このお話は、オメガバースBLとしてはちょっと異色だと思った。
 尽くすオメガに溺愛アルファって書けばありがちに聞こえるけど、アルファが売れない画家で、オメガに養われてるってところがすごく新鮮。
 喪失の絶望すら絵の糧になることを願う主人公の律(Ω)の我の強さも異色っちゃあ異色だし、運命の番を歯牙にもかけないところも面白い。また、この運命が良い男で。
 絵を通してしかコミュニケート出来ていなかった人間関不得手の二人が、お互いを失った長い時間を経て、やっと愛を知り、お互いに向き合うことを学んだ。・・・そして二人は幸せになるのだよ。リアルなような童話のような、普通の恋愛小説と何がちがうっていったら、そりゃ、SEX描写ががっつり入っていることだけど、それはなんか、私にとってはそれほど大きな事じゃないような気がするんだよね。気持ちがリアルかどうかが私的にはポイントなんだと思う。何はともあれ、仁茂田もにさんは良い。他の作品もぜひ、商業化して出版してほしいです。