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2022年2月1日火曜日

0321 スリープウォーカー:マンチェスター市警 エイダン・ウエィツ (新潮文庫)

書 名 「スリープウォーカー:マンチェスター市警 エイダン・ウェイツ」 
原 題 「THE SLEEPWALKER」2019年
著 者 ジョセフ・ノックス
翻訳者 池田 真紀子
出 版 新潮社  2021年8月
単行本 640ページ
初 読 2022年2月1日
ISBN-10 4102401539
ISBN-13 978-4102401538
読書メーター

 さあ、この帯の煽りが正しいかどうか、確かめる時がやってきましたよ。・・・・・でも、「笑う死体」を読んだ後となっては、すでに確信している。この本は、帯の煽りを超えてくるに違いない!

 今作でも、エイダンには四方八方から不運と悲運が押し寄せてくる。
 同僚が犠牲になった事件。
 その捜査を強要する非道な上司。
 事件の真の標的は自分かもしれない、という不安。
 悲惨な事件。護られなかった被害者。
 身勝手な人間たち。
 自分を監視し、行動を縛る謎の存在。
 突然寄せられた、生き別れの母の情報。
 そして、腐れ縁、ゼイン・カーヴァー。

 ラストはもう、ずるいよ。ここまでエイダンの一人称で語ってきたくせに、ラスト一章だけが三人称だなんて思えないよ。憑きものが墜ちたみたいなサティとバディを組むナオミ、そして愛すべき“妹”の結晶みたいなアン。それゆえに、エイダンの不在が切なすぎる。
 エイダン。生きているよね?キミは生きているよね??と、繰り返さずにはいられないラストだ。パスポートと大金とドストエフスキーを持って逃げて、顎を治して整形でもなんでもして、世界のどこかで生きていてほしい。こんな奴が幸せにならないなんてダメだ。いや、幸せにならなくてもいい。平穏を知ってほしい。アンがとてつもなく可愛く思えるのは、エイダンの目を通して見ているから。エイダンのその素朴で真摯な愛情が愛おしい。エイダンが守ろうとしたものが、ちゃんと護られてほしい。あととりあえずパーズは氏ね。

 後書きによれば、続編の企画もあるらしいし、映画化の話もあるのか?しかし、なまじ映像的で印象的な小説なだけに、映像化にはあまり興味が湧かない。

 むしろ、続編でもう一度、エイダンに逢いたい。お願い。生きていて。 あと、とりあえずパーズは氏ね。


2022年1月22日土曜日

0318 笑う死体:マンチェスター市警 エイダン・ウエィツ (新潮文庫)

書 名 「笑う死体:マンチェスター市警 エイダン・ウエィツ」 
原 題 「THE SMILING MAN」2018年
著 者 ジョセフ・ノックス
翻訳者 池田 真紀子
出 版 新潮社  2020年8月
文 庫 656ページ
初 読 2022年1月22日
ISBN-10 4102401520
ISBN-13 978-4102401521
 前作からなんとか首の皮一枚つながって、そりの合わない嫌み悪臭まみれの鼻つまみ者の警部補サティとバディを組んで夜勤専属の刑事として現場に戻ったエイダン。
 嫌われ者のサティにあからさまに嫌われ、いいようにこき使われているが、夜の街を見つめるエイダンの視線はどこかやさしい。
 営業を停止しているホテルからの通報で現場に向かうと、巡回中に殴り倒された警備員、逃げていく不信な人影、そして不可思議な死体。
 笑っているように顔の筋肉を硬直させて死んでいる男を巡り捜査は二転三転し、同時進行で有名テレビコメンテーターによる女子学生へのリベンジ・ポルノ、エイダン自身を標的とした殺人計画、不審な無言電話と監視者の影・・・・・と、息つく暇もなく、緻密に絡みあうストーリーは本格ミステリーとしても秀逸だと思うが、なによりもエイダンの造形がたまらなく良い。
 虐待され、犯罪に利用され、殺人や悲惨な情景を目撃しつづけた幼少時の記憶を追い散らすために麻薬に耽溺した過去、虐待から意識を逃避させるために身についた解離や認知のゆがみも自分自身の属性として受け入れながら、ただ生き延びるために生きているエイダンが、街で出会う人々に向ける思いに胸がいたむ。

 俺は妹に日に数度は合っている。オクスフォード・ロードには若い女性がひしめいている。妹と同じ巻き毛と真剣な表情をした娘もいる。二十年以上前、妹のアニーが浮かべていたのと同じ真剣そのものの顔。あのなかの一人が妹だったとしてもおかしくない。だから俺は、彼女たち一人ひとりを愛おしく思う。おしゃれに装っていれば、俺も背筋が伸びる。大事な仕事に向かうところなら、誇らしくなる。幸せそうな様子をしていれば、恋人と並んで街を歩いていれば、うれしくなる。(中略)これまで生きてくるあいだに俺は少なからぬものを失ったが、妹と離ればなれで生きてきたがために、それだけのものを手に入れた。行きずりの人を見て一日に二十回も笑みをうかべる人生。

 これが、エイダンという人間だ。

 もうひとり、嫌われ者のサティも、だたのイヤな奴ではない。 むろんイヤな奴には違いないのだが、破滅型で回りにとばっちりをまき散らしかねないエイダンをあえて引き受けているような、複雑な奥の深さがある。

 幸せでなくても、報われることがなくても、自分が死んだりましてや殺されたりする理由にはならないし、死なない以上、どんなにそれが困難でも生きていかなければならない。あまりにも薄幸だが、内面に火花のような生命力を秘めたエイダンの存在そのものが、この物語である。

   

2022年1月16日日曜日

0317 堕落刑事 :マンチェスター市警 エイダン・ウエィツ (新潮文庫)

書 名 「堕落刑事 :マンチェスター市警 エイダン・ウエィツ」 
原 題 「SIRENS」2017年
著 者 ジョセフ・ノックス
翻訳者 池田 真紀子
出 版 新潮社  2019年8月
文 庫 618ページ
初 読 2022年1月16日
ISBN-10 4102401512
ISBN-13 978-4102401514
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/103806351   
 タイトルの「堕落刑事」はややミスリード気味で煽りが強いかな。このタイトルと、“―押収品のドラッグをくすねて停職になった刑事エイダン・ウェイツ。”という謳い文句に騙されて、長いこと興味が湧かずに手を出さなかったのは事実だ。しかし、読み友さんのレビューはなかなかに興味を引く。ついでに3作目の『スリープウォーカー』の帯の惹句があまりにもあんまり(笑)なので、まとめて読むことにした。
 
 ちなみにその3冊目の帯はこれ ↓
 まあ、この惹句が正しいかどうかは、3作目をよんで判断するとして、そのためにもまずはこの一作目を読まなくてはならない。
 というわけで読んでみた。

 
 で、まず、冒頭の感想。
 タイトルがミスリード、と思ったのは最初に書いたとおり。これは多分損してるよな。堕落刑事どころかエイダン・ウェイツ、なんというか真っ直ぐで不器用だけど、ちょいと破滅型だけど、いい奴じゃないか。ただ、損な生まれつきの人間は一生損をする見本のような、負け犬人生を素で歩んでいそうではある。
 同僚の卑小な不正を見逃せず、さりとて真っ向から抵抗もできず、自分にできるささやかな証拠隠滅を図ろうとしたら速攻でバレて、証拠品横領の泥で頭のてっぺんからつま先まで真っ黒にされてしまう。おまけにマスコミに都合良くリークもされて、もはや隠れるところなき「汚職警官」の一丁上がり。そして、崖っぷちに立たされて、都合良く麻薬密売組織への潜入捜査員に仕立て上げられるわけだ。

 だがこの話、さすがはイギリスの小説というべきか、アメリカ・ミステリにはない深みがある。明確な善悪でくくれない登場人物たち。悪の親玉までが良いヤツに思えてくるのが不思議で、だれもだれもが不思議な魅力を湛えている。全部が自分は悪くない、と心底では思っている節がある。そして、エイダンはこれでもかと殴られ、殴られ、階段から落とされ、ボロボロ。とにかく哀れなのである。
 そこまでボロボロでも、それぞれが大なり小なり清濁合わせ呑むところが、さすがの英国風だと感じるゆえんだ。この世の中は、国家のありようそのものが若気の至りなアメリカ人が考えるほどには単純ではない。小説世界もまた然り。母親に捨てられてて、幼い妹と施設に入れられたエイダンが、せめて妹だけでも良い里親に引き取られるように、と願う。妹を手放したときから、妹にイメージが重なる若い女性を守ることが、彼の生き方を決めている。最後のキャスとの別れが妹との別れと重なって、無性に切ない。
 
 いやこれ、面白かったです。珍しくも1日で読み切ってしまう、というリーダビリティは翻訳者の池田真紀子氏の手腕でもあろう。当然、後2冊も読む。
 エイダンにほんのちょっとは幸いあらんことを祈りつつ。

 ちなみに、このエイダンもバークと同じ孤児院育ちだが、同じく「児童養護施設」とはいえ、二人の仕上がりにはずいぶんな差がある。これも英国と米国の懐の深さというか歴史の違いなのだろうか。