2023年9月28日木曜日

0440 幸運には逆らうな (創元推理文庫)

書 名 「幸運には逆らうな」
原 題 「Soldiers of Fortune」2015年
著 者 ジャナ・デリオン     
翻訳者 島村 浩子
出 版 東京創元社 2023年8月
文 庫 336ページ
初 読 2023年9月24日
ISBN-10 4488196098
ISBN-13 978-4488196097
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/116342334   

 ワニ町6冊目。しかし、原作は25冊くらいあるらしいので、まだ先は長い。(ん?原作は25冊で完結してるのか?それともまだまだ続くのか?)
 今回も、前作の直後からのスタート。1作目の白骨死体発見からまだ2ヶ月たっていない。カーターとはやっと恋人関係に昇格したところ。前作で負傷したカーターはまだお母さんの監視のもと、静養を余儀なくされている。それなのに、7月4日独立記念日のお祭りのその日、シンフルの街にほど近いバイユーの島で覚醒剤密造工場が大爆発し、カーターの叔父ウォルターの頭めがめて誰かの足が飛んでくる・・・・・

 町長選挙の結果、沼地三人組の宿敵シーリアが町長に当選し、最初にやったのは保安官の解任と自分の息のかかった新保安官の任命。保安官助手のカーターはいまだ傷病休暇中。シンフルの町から治安維持力も捜査力も激減しているとあっては、三人組は出番とばかり腕をまくらないわけにはいかず、そこに街の土着マフィアのヒバート親子も地元の浄化のために参戦。もう、序盤からワックワクである。

 お笑いのツボ的には、ガーティが相変わらずかっ飛ばしている。そして今回はヒバート一家の用心棒マニーが格好良くて好き。マニー主役でスピンオフ書いてくれないかしら。

 ああ、あと、ザリガニを庭で大鍋で茹でるケイジャン料理が出て来ましたね。ジャガイモ、トウモロコシも同じ鍋に投入してゆであげる。読んでると、伊勢エビくらいでかいザリガニな印象でしたが、きっと普通のアメリカザリガニだろうな。
 これは、我が愛するユニオン宇宙軍駆逐艦艦長のマックス・ロビショー少佐のなつかしき故郷の味。世界はルイジアナでつながっている?(もちろん、殺し屋ケラーさんも、ルイジアナ在住。やんちゃでイケメンな民間軍事会社社員の故郷でもある。)人類の魔境。それがルイジアナ(笑)

 さて、巻末の解説によれば、次作はついにフォーチュンが身バレするらしいぞ。

2023年9月24日日曜日

今日は『ジョン・ウィック4 コンセクエンス』を観にいった



 心密かに楽しみにしていた、ジョン・ウィック4。気がついたら公開が始まってたので、とっとと見に行ってきた。私はあまり俳優さんに入れ込む方ではないのだが、キアヌは好きだ。
 そういえば、ブログ記事にはしなかったけど、宮崎駿の『君たちはどう生きるか』も先日見に行った。この作品、いろいろと評は分かれているらしいが、私からみたら、とりあえず名作だと思った。あと、大人の映画だ、とも思った。・・・・てか、その話ではなく、今日は『ジョン・ウィック4』
 ええ? ええぇぇぇ〜〜〜〜〜!! ということがありました。あと、エンドロール終わる前に席を立って人の前を横切るやつ。最後まで見なかったことを後悔するがよい。

 ドルビーで見たんですけど、最初から最後まで、バンバンドンドン、スドンズドンの大音量だったので、ドルビーだろうが、普通のだろうが、大して変わらなかったんじゃなかろうか。あと、字幕でしたけど、台詞は大して多くないので、無問題。
 ジョンが無敵すぎるので、敵役がショボくなってしまうのは、致し方ないところか。せっかくジョンが頑張ってるのに、これまでのシリーズで一番、敵が姑息だった気がするのがやや残念。

 内容は、アレだ。ジャンプ漫画と同じですね。
 主役が、どれだけ殴られても撃たれても、車にはねられても起き上がる。死なない。不死身。そして友情、友情、友情、友情。ジャンプ漫画の王道を行ってます。銀魂とおんなじ感じです。でもいい。キアヌが格好良いので、いい。
 そしてラスト。えぇ?ホントに?ってなって、ええっ!?ってなります。
 これ、ジョン・ウィック5も予定されているってことなんですけど、どうやって繋ぐんでしょうね。これで「実は」ってなるのも興醒めな気がするんですが、どうするのかな。
 
 帰りに、ジョン・ウィックと、この間観た『君たちはどう生きるか』のパンフレットが出てたので、買ってきたんですが、『君たち』のパンフレットは酷かった。初めから作らなければよかったのに・・・・・。金返せ、ってレベルで酷い。

 
 

2023年9月23日土曜日

介護日記的な・・・その2 認知症の愉快な日々と読書

 だいたい毎週末に、飯炊きその他もろもろのため、2時間弱かけて母の家(自分の実家)に行くことにしている。
 金曜日の仕事を夜の7時か8時に切り上げて、週末のベッドタウンに向かう帰宅ラッシュに紛れて、重たい荷物を肩に提げていけば、翌日土曜日の夕刻から夜には自分の家に帰ってこれて比較的日曜日にゆっくりできるし、土曜日の午前中に行けば、日曜日も忙しないけれど、土曜日の朝はゆっくりと迎えられる。まあ、この1年続けて、なんとなく習慣化している。
 月に1回は認知症外来への通院。先日は突然の関節炎でいきなり母が歩けなくなり、整形外科の通院やら、デイサービスの調整やら、ばたばたと。幸い、数日で症状が好転して、事なきを得た。
 とにかく、短期記憶が長期記憶に保存されることがないので、母にとっては日々刻々が新しいことだらけである。事前に予告しておいても、尋ねて行けばびっくりするし、泊まれば、翌朝私がいることにびっくりするし、1年通院を続けていても、まったく通院していることが記憶に残らないし、デイサービスのお迎えも、ホームヘルパーさんも、毎日が初対面。な、だけなら良いが、うっかりすると不審者扱いなので、ヘルパーさんにも気の毒である。(だが、プロなんだから頑張って母に取り入ってくれ!と内心願っている。)

 先日、母を定期的に見守ってくれているご友人に会ったのだが、母は、「娘は仕事が忙しいからこちらには全然帰ってこない」 冷蔵庫に保存してるご飯パックは「自分がやってるのよ」あれもこれも、「全部自分でやっている」と、ずっと言っていたそうで、ご友人は、親子関係はそれぞれだとはいえ、認知症の親を放っておくここの家の娘はいったいどうなっているんだろう?と疑惑を抱いていたとか。

 いえ、母はもうご飯は炊けません。炊事は一切ムリ。出来るのはお湯を沸かすことと、電子レンジの温めスタートだけです。
 毎週私がかよって、ご飯を炊いて、一週間分をパックにして保存しています。
 お惣菜も冷蔵庫に買い置きしているのは私です。一口で食べられる果物なんかも用意しています。
 見守りカメラで常時監視(失礼!)してます。なんなら、皆様がお出での時も、カメラで見えてます。
 毎日、電話で朝起こしたり、薬飲んだか確認したりもしています。

「えええ〜〜〜〜!そうだったの?!お母様全部自分でやってるって言ってたわよ! ゴメンなさいね〜〜!あなたの事、誤解してたワよ!」

 と、愉快な会話を繰り広げたのだった。別に母に悪気はない。他意もない。素で、自分でやっていると思っているのだ。ご飯がパックされている→あら、私がやったのね。と。

 さて、そんな母であるが、身辺にはいつも本がある。
 私は、母が読書家だと思ったことはなかったのだが、あらためて見ると、まあ、本は読んでいる方だと思う。
 新聞も毎日丹念に目を通しており、赤鉛筆でラインを引きながら、丁寧に読み、気になった記事は切り抜きをし、新聞の連載記事や小説も切り抜いて、番号順に全部保存している。
 日曜版に掲載されている数独も必ず解いている。

 正直、母を見ていて、数独も読書も、認知症予防にはならないのだ、と知った。
 
 私は自分の読書寿命をどれだけ保てるか、今から恐々としているのだが、毎日時間があれば、新聞や本を読んでいる母をみて、これは「読書」と言えるのだろうか?とつい、考えてしまう。
 おそらく、5分前に読んだことは覚えていない、と思う。
 テーブルの上に本があっても、それが昨日自分が読んでいた本だとは判らず、「なんでこの本がここにあるのかしら?」と不審そうな顔をする。
 
 ううむ。それでも、読んでいる間は刹那的に楽しいのだろうか?
 少なくとも、私が望んでいる老後の読書ではないことは、間違いない。

 なんにせよ、体は動くほうが良いし、認知症にならずにすむのなら、そのほうが良い。
 明日の我が身を見るようで、老後の心配がひしひしと身に迫る、今日この頃である。


2023年9月20日水曜日

0439 ハンチバック(2023年芥川賞受賞作)

書 名 「ハンチバック」
著 者 市川 沙央       
出 版 文藝春秋 2023年6月
単行本 96ページ
初 読 2023年9月18日
ISBN-10 4163917128
ISBN-13 978-4163917122

 この本に「芥川賞受賞作」という帯がついてなかったら、私はこの本を手に取らなかったと思う。
 これまで、芥川賞の受賞作に興味を持ったことがあまりなかったのだが、この本を人の手に取らせるためならば、賞も悪くない、と思った。
 一方で、いったいこの作品は本当に優れた作品なのだろうかとも考えた。“健常者”の自意識をスパンキングするような刺激的な書きように、選考委員の脳がマゾヒスティックに痺れただけじゃないのか? 

 受賞インタビューで、著者は、この作品は復讐だ、と語っていたが、この本が受賞することも、市川氏による復讐にコミなんじゃないのか? 
 それでも、この本が受賞し、多くの人が手に取って読むのは、価値のあることだと思う。

 この本を、著者の容貌や姿態を思い浮かべることなく、何の先入観なく読むことは私には難しい。そしてきっと、多くの人にとって、自分が当たり前に享受しているさまざまな物事について問われつつ、自分の狭量さや偏見とも向き合いながらの読書になるだろう。多くの健常者にとって、この本は、その中に入り込んで共感するのではなく、自分が当たり前だと思っていた感覚や思考を横っ面から張り倒されるような本になってしまうだろう。
 それが良いとか悪いとか、ではなく、この主人公に自分を投影することができず、自分とは異なる存在であると感じる事実に向き合うことになる。もし、釈華が自分の前にいたとして、私は彼女と理解し合えるだろうか? 自分は偽善者なので、彼女を理解しようと努める一方で、彼女は私にはなんの興味も持たない気がする。
 それとも、障害者である釈華との正しい距離感として、障害と健常という彼我の差を間に湛えたまま、お互いの気持ちを犯さない距離を探ることになるだろうか。

・目が見えること
・本が持てること
・ページがめくれること
・読書姿勢が保てること
・書店へ自由に買いに行けること
読書バリアフリーについて、彼女は紙の本が人に要求する身体能力を挙げる。
「5つの健常性を満たすことを要求する読書文化のマチズモを憎んでいた。その特権性に気付かない「本好き」たちの無知な傲慢さを憎んでいた。」
「紙の匂いが好き、とかページをめくる感触が好き、などと宣い電子書籍を貶める健常者は・・・」 

 煽るなあ、と思う。紙の本が好き、というのは単に紙の本が好きなのであって、電子書籍を貶めることとイコールではないと思うが、敢えて紙の本が好きな人は電子書籍を貶めると言い切る。もう、喧嘩を売られている気しかしない。
 これが、「紙の匂いが好き、とかページをめくる感触が好き、などと宣う健常者は暢気でいい」という文章だったなら、私は健常の身を暢気に謳歌して、そうでない人の心情には思い及ばない傲慢な人間であることを反省したりするだろう。しかし、著者が描く「健常者」は障害者を踏みにじる存在であるので、弱者の心情に気付いたり反省したりする役割は求められていないような気もする。

「あの子たちがそれほど良い人生に到達できたとは思わないけど」「あの子たちのレベルでいい。子どもができて、堕ろして、別れて、くっ付いて、できて、産んで、別れて、くっ付いて、産んで・・・・・」

 そういう人生の真似事でいい。という釈華は、「そういう人生」がどれほどの悲惨さを内蔵しているかを知らないし、自分に関係のないことだから、知る必要も感じない。知らないのを良いことに、自分勝手に想像している。そして「あの子たちのレベルでいい」という言葉に潜む、蔑視。結局のところ、健常と障害との差異の形をとってそこにあるのは、他者を理解しえない“人間の性(さが)”でしかないように思う。

 このように、一行一行、いちいち、読んでいて立ち止まって、考えさせられてしまう。
 ラストの一章がさらにメタ構造になっていることも、この章や構成の意味を考えている人が、今、日本中に沢山いるだろう。

 私は底意地悪いことに、この章は、読者が勝手に、この章の意味をあれこれと捏造し論評するその様を、著者が眺めるためだけに書かれたのではないか?とも、つい考えてしまった。

 しかし、この釈花という女子が主人公となるラストの一章が、私は好きだ。

 この章があるからこそ、これからは愛の作品を書くと言う著者を信じて、次作を待つ気持ちになれる。私は、著者がこれから書く“愛の作品”を読んで見たい。これだけ力ある作品を書く人だから、自分の外側に対置するように読むのではなく、自分が主人公の中に入り込んで読むことができる、この人の作品を読んでみたい。この人の力強い言葉に横っ面を引っ叩かれるのではなく、抱擁されてみたい。そして自分がどこに連れていかれるか、その境地を確かめてみたい。
 


追伸

朝日新聞に8月5日に掲載された書評を発見。
https://book.asahi.com/article/14974015

これはまた、おそろしく綺麗事な書評で、たいへん驚く。 

“主人公には選択肢すらない中絶への願望は、出生前診断により生まれなかった命に対する哀惜の歪(ゆが)んだかたちであり、障害者の生と性を否定する社会への捨て身の抗議に思える。”

本当にそう思えるのか? そして、そう考えるからこその次の文章である。

“両親の遺産を継いだ釈華は「お金があって健康がないと、とても清い人生になります」というが、同じ条件の邪悪な人生だってあるだろう。釈華は所与の条件に依(よ)らず、清い人なのだ。彼女の真の願いや願望は、その語りを裏切りつづける。”

 私はこの書評を読んで、なんともうそざむい、気味の悪いものを見てしまったような気分になった。

 結局、障害者は清く正しく美しくなければ、健常者に受け入れられないのか? 著者が渾身の力で世に放った毒を、このように「清く正しい」ものにしてしまわなければ、この人は、“ハンチバック”の障害者たる彼女を受け入れないのだろうか。

 この書評が著者に投影していることって、24時間テレビのいわゆる「障害者ポルノ」とどれだけ違うんだろう?

 私はこの書評の書き手が幻想した「清さ」や、この書き手にとって望ましい障害者の「願望」よりは、釈華のあけすけな性の欲求や、時に醜悪ですらある言辞の方が真実だと思えるし、敢えて著者が世に送り出したそのような”せむしの怪物”すら、清く美しいものにしてしまおうという精神こそ健常者の傲慢で、とても恥ずかしいと感じた。



(用語集)
コルバン「身体の歴史———Amazon参照のこと。お値段高!
★マチズモmachismo———「男性優位主義」を指し、男性としての優位性、男性としての魅力、特徴を誇示する、という意味合いがある。
なぜ、「健常者優位主義」にマチズモというルビを振ったのか。健常者イコール男性であり、社会の中でいまだ弱者である女性は、健常者たり得ないから? それとも「読書」にもともと付きまとっている静的で脆弱なイメージではなく、彼女にとっての紙の本の読書が、マッチョで男性的で、弱者をなぎ倒すようなイメージを付与したかったからだろうか。
★インセル———インセル(incel)とは、インターネットカルチャーの一つで、自らを「異性との交際が長期間なく、経済的理由などで結婚を諦めた、結果としての独身」と定義する男性のグループのこと。"involuntary celibate"の2語を組合せた混成語。
日本語では不本意の禁欲主義者、非自発的独身者などと訳され、「非モテ」や「弱者男性」などの言葉に重なる面が大きい。  
★ADAーーーAmericans with disability act - 障害を持つアメリカ人法(ADA法)の略。
★ナーロッパ———なろう系小説で、主人公が転生する異世界として描かれる中世ヨーロッパ風の世界のこと。あくまで中世ヨーロッパ「風」なので、本来はその時代にないような物でも存在する。トマトとかジャガイモの料理なんかも出て来そう。
★プチプラ———「プチ(小さい)プライス(価格)」の略。値段が安いことを示す俗語。ほとんどの場合、女性用のファッションアイテム・化粧品・香水・雑貨などのジャンルで、「安くてかわいい」「手に入りやすい」といった意味で使われる。
★セペ———膣内やデリケートゾーンを洗浄するやつ
リプロダクティブ・ヘルス &ライツ———性と生殖に関する健康と権利
★ハプバ(ハプニングバー)———その日店に居合わせた人達がハプニング=SEXを楽しむための店。あくまでもその日限り。
★裏を返す———何回も客が同じキャストを指名すること←→一見
★即即———風俗業界用語。ソープだけど体を洗う行為ナシで、すぐに性行為に入ること。
★NN———風俗業界用語。生で中だし。(コンドームを用いない挿入と射精を可とすること。)

2023年9月10日日曜日

介護日記的な・・・その1 '22年8月〜23年9月

 実家の母が独居になって、はや22年(?)。
 父が亡くなったのがうちの長男が生まれた年だから、ムスコの年齢=母単身生活の年数。
 長年、病弱な父の在宅生活を支え、家族の経済を支えてきた人で、まあ、母の関心と心配の対象はほとんど父が占めていたと思われるので、私とは比較的、心理的には距離があるというか愛着形成に問題があったようななかったような。
 父は一日一回の処置(我が家では包帯交換、と言っていたけど、どっちかってーとガーゼ交換かな)が必須な人だったので、長年、母が単身で外泊することはまずなく、おまけにずっとフルタイムで仕事をしていたので、その分、父が亡くなった後しばらくは、糸の切れた凧みたいに、あちこち楽しそうに海外旅行に出歩いていた。そんな風に活動的だったのも、70代までで、75を過ぎたあたりからだんだん本格的に高齢者っぽくなってきて、大きな駅(横浜駅のSF的なやつとか、渋谷駅のとか)の改修工事に頭が追いつけず電車の乗り換えが難しくなって、一人で娘(私)の家に来ることも間遠になり、そうこうしているうちに新型コロナ流行が始まって、いろいろと社会生活が制限されているうちに、昨年夏、おそらくは夏場の脱水症状がきっかけになって一気に認知症が進んだ。

 慌てて認知症外来をやってる精神科と、脳外の専門病院でMRI検査なんかもやって、付いた診断は「アルツハイマー型認知症」で、中程度まで進んでいる、とのことだった。細かい説明は忘れたところもあるけど、前頭葉はあまり影響が見られないけど、頭頂部の脳は萎縮していて、海馬の周りも細ってる、という話だったと思う。

 母はもともと体が丈夫で姿勢もよく、足腰がしっかりしている人だったので、きっとどこまでも歩いていってしまう呆け老人になるだろう、とは以前から思っていたが、幸いにも、見当識障害は今のところそれほどでもなく、家から数百メートルのスーパーに買い物に行くくらいなら、真っ直ぐ行って、真っ直ぐ帰ってくることはできるし、それほど外出する方でもないので、近所で迷子になる、という事態は今のところ、起きていない。一方でバスの乗り方や、最寄りの駅のことは忘れてしまったので、家の周囲で迷子になるのも遠い未来ではないかもしれない。念の為、自治体でやっている認知症高齢者情報には登録して、迷子タグ(QRコード)も作った。
 冷蔵庫の中は、大量のハムとか牛乳とか卵や納豆が何パックも入っていたりするのはご愛敬。定期的にこっそり整理している。

 昨年の夏、受診に先行して、(もはや認知症であることはほぼ確実だったので)地域包括ケアセンターに相談し、早々にケアマネを紹介してもらい、診断と同時に要介護認定を申請。地域の資源を検討し、いずれは利用することになるであろう特別養護老人ホームを見学し、幸い最寄りの認知症デイサービスを併設している特養がとても信頼できたので、デイサービス通所も週2日からスタートした。

 ADLが完全に自立しているのと、「片付け魔」でとにかく家の中を片付けずにはいられない性格故、家の中がじつに「きちんと」して見えるため、要介護度はⅠで認定された。

 実際には、ありとあらゆるものをどこかに仕舞ってしまうため、必要なものが次々に行方不明になるし、「火事が心配」といってはあらゆるコンセントを抜いてしまうため、携帯電話も電話の子機も、クーラーも炊飯器も使えないし、うっかりすれば見守りカメラの電源も抜かれてしまうし、ご飯を炊いたことを忘れて炊飯器のコンセントも抜いてしまうので、炊飯器の中でご飯は腐るし、もしかしたらそれを食べていたし、ましてやご飯のおかずを用意するのも論外で、主治医には「そろそろ施設を考える頃合い」とまで言われるのに、要介護1では、できることはあまりにも少ない。

 認知症高齢者の一人暮らしをどこまで支えることができるか。
 
 母は、家が大好きだし、母が自分で購入し自分でローンを払いきった自宅であるからには、やはりできるだけ長く住まわせてあげたい、と思う。私は、母とはそれほど親密ではなかったが、それでも、戦中生まれで、戦後の大変な時期に成長し、病弱な父と結婚して、多少難はあろうが(?)、いわゆる「女手一つ」で家庭を守り抜いた人であれば、惨めな老後で人生を締め括らせたくはない。できるだけ、本人が“悠々自適”と感じられる生活を長く続けさせてあげたいし、施設に入れるのは、本人があまり“判らなく”なってからの方が良いと思っている。

 そんな事を考えながら、まず、生活を整えるためにしたことは、
① 見守りカメラの設置。
② お弁当(夕食)の宅配をスタート。
③ 認知症高齢者デイサービスへの通所をスタート。
④ 金銭管理と盗まれたら困るもの、預金関係のもろもろの預かり。
  無くされたら困るもの(保険証など)の預かり。(保険証については、時たま本人が通院を思い出したときに探し回るので、後でカラーコピーでダミーを作って、母の引出しに戻した。)
⑤ 本格的な夏が始まるまえに、エアコンを2台更新・1台新設し、すべてスマホで遠隔管理できるようにした。コンセントは抜かれないように壁に埋め込むか、カバーをつけてアロンアルファで強力接着。(昨年は、暑さ/寒さが判らなくなり、エアコンもつけない部屋を閉め切り、30度を超える室内で過ごしていて、おそらく認知を悪化させた。)
⑥ それでもエアコン本体での室温管理が難しく、スイッチボットで居間や寝室の室温管理を徹底。スイッチボットは思いのほか使い勝手が良かったので、ついでに、2台目の見守りカメラも導入した。

 デイサービスは、2日から、3日、4日と増やして、できるだけ日中はデイで見守りしてもらい、一人では出来なくなった入浴もお願いをしているが、この時点で、要介護1では足が出るので、足りない分は全額自費負担になる。しかし、背に腹は代えられないし、とにかく一人ではまともに食事の用意ができないので、この夏から、ホームヘルパーも導入を開始した。
 しかし、デイのお迎えもホームヘルパーも毎度『初対面』状態で、あなた誰?から始まるので、プロとはいえ、ご苦労が忍ばれる状況である。

 私がしているのは通院同行、月1回のケアマネとの打ち合わせ、週1で泊まりがけで様子を見に行きがてら、一週間分のご飯を炊いて、一食分ずつジップロックの保存容器で冷蔵庫に保管。すぐに食べられる果物、日持ちのする惣菜などを冷蔵庫に補充するなど、おもに食事に関することが中心なのと、郵便物や各種請求書などの対応。

 最近は、金曜日の夜に職場から実家に直行し、土曜日に自分の家に帰ってくる、というパターンが定着している。それ以外には、常時監視・・・・ではなく見守りカメラで様子をみつつ、ここぞというところで電話を入れたり、朝、電話を掛けて起こしたり、薬を飲むように声かけしたり。デイサービスの担当さんと電話で連絡を取り合ったり。
 エアコンの入れ替えにしても、お弁当の宅配にしても、新しいことを導入する場合には、それこそ一日何回も電話で説明したり、見守りカメラで動向を確認したり、と手間は計り知れない。
 仕事中もしょっちゅう携帯をチェックしているので、さぞかし勤務態度の悪い職員だと思われていることだろうが、上司と、近い同僚には「介護休暇で休まれるよりはマシ」と認識されている、と願っている。

 母と相対して、気を付けているのは、「常に楽しそうにしている」こと。
 表面的には良く分からなくても、いろいろと物がわからなくなったり、出来なくなってくる不安を、本人は抱えている。こちらのイライラや不安は如実に本人の状態を悪化させるので、とりあえず「笑う」。失敗して思わず怒ってしまったりしても、最後はとにかく「笑って」収める。
 無理強いはどうせできなので、とにかく説明と説得を繰り返す。5分前と同じ話だろうが、何十回でも繰り替えす。
 一方で、何かあってもだいたい30分もあれば忘れちゃうので、こちらもあまり気にしない。
 でも、それで済んでいるのも、まだ、許容しきれない問題行動、というほどのものが少ないから。これから状態が進行していったときにどうなるのか、不安は尽きない。
★参考
見守りカメラの徹底比較サイトhttps://my-best.com/1771
見守りカメラ1代目はラムロックを選定。携帯電話の通信を使うので、通信料が毎月発生するのが難だが、通信の安定性はバツグン。コンセント接続が必要なのと、自動首振り機能は無いので、コンセントの位置と、カメラの画角と見守りたいエリアとの折り合いが付けば、それなりに使い勝手は良い。
   
スマホでエアコンのオンオフ、室温管理をするために、Switchbotを導入。
これは、相当に使い勝手がよい。Wi-Fiが必要。

実は、頻繁に録画を確認していると、ラムロックは通信量が相当嵩むので、Switchbotのカメラ運用が軌道にのったら、ラムロックは解約しようか、とも思った。しかし、そうすると一台のWi-Fiルーターに情報を頼ることになり、もし何らかの原因でWi-Fiの接続が不安定になった場合、まったく室内の情報をとれなくなってしまう。 という状況に、設置して早々に遭遇したため、当面見守りカメラはラムロックとSwitchbotの2台体制でいくことにした。 そのうち、運用を見直す可能性はある。

読書用ブログにこの記事ってどうよ、と思わなくもないが、どこかに記録を残しておきたいという気持ちもあり、そして「日記」をつけられる性格でもないので、ひとまずブログ記事にしておくことにした。

ガブリエル・アロン来歴《美術修復師ガブリエル・アロンシリーズ》(2023.9.10更新)


《大天使ガブリエル》

 イスラエルの復讐の天使 ガブリエル・アロン
 ダニエル・シルヴァによる、美術修復師にしてイスラエル諜報機関の暗殺工作員(キドン)であり、やがては諜報機関、内部の人間の呼ぶところの〈オフィス〉の長官となるシリーズの主人公、ドイツ系ユダヤ人。
 画家として非凡な才能があったが、ドイツ語を母語とし複数のヨーロッパ言語に堪能だった彼は暗殺工作員として活動することを半ば強いられ、22歳で最初の暗殺を実行する。その後も極限の中で暗殺を重ね、結果として、絵を描く才能は損なわれてしまう。その後、ベネツィアで絵画修復師として修行を積み、独立後はこれを隠れ蓑にヨーロッパで工作員としての活動を継続することになる。

 容姿の形容は、身長175cmくらいで平均以下、自転車選手のような引き締まった体躯、暗色の髪はこめかみに白髪が交じり、知性を感じさせる広い額、面長の顔、目はアーモンド型で不自然なほど鮮やかな緑の瞳、高い頬骨、木彫りのような鋭い鼻の線、細い顎。ちなみに、私の脳内では、キアヌ・リーブスが近い。目の色以外はぴったりだと思っている。もし映画化されることがあるなら、主演は彼でお願いしたい。(正し、身長差はいかんともしがたいが。)

 犬が嫌い。(キアラに言わせると野生動物全般と相性が最悪らしい。たぶんガブリエルも動物に劣らずワガママだからだろうな。)
 ガブリエルの犬嫌いはスパイ業界では有名な話らしく、部下のミハイルによれば、犬とガブリエルは「ガソリンとライターのように危険な組み合わせ」なんだとか。元々好きではなかったらしいが、『イングリッシュ・アサシン』で逃走中にアルザス犬(=ジャーマン・シェパード)と闘う羽目になり、左腕を噛み砕かれたことがあって、以来、犬族全般に対して極めて険悪な感情を持っていると推察される。

 性格はやや神経質で寡黙で暗い。時間を掛けることも待つことも厭わないが、待たされることはあまり好きではない。待たされてイライラすると物や人に当たりちらすこともあり。情緒に乏しく傲慢で冷酷とは少年期の彼に与えられた評価だが、感情表現があまり豊かでないだけで、内実は愛情深く、恩義に厚い。

「・・・石灰岩の建物と、松の香りと、冬の冷たい風雨を愛している。教会と、巡礼の人々と、安息日に車を運転する彼をどなりつける超正統派ユダヤ教徒を愛している。旧市街の市場でアラブ人の露店の前を通り過ぎるとき、彼らの守護聖人たるテロリストを何人も排除してきたのが彼であることを知っているかのように、みんなが警戒の視線を向けてくるが、そんなアラブ人のことすらガブリエルは愛している。信心深い暮らしを送っているわけではないが、旧市街のユダヤ人地区に入って、嘆きの壁のどっしりした石組みの前に立つのを愛している。パレスチナと広いアラブ世界とのあいだに永続的な平和を確保するため、縄張りをめぐる譲歩を受け入れてはいるが、本音を言うなら、嘆きの壁だけは譲りたくないと思っている。エルサレムの中心部に国境が作られることが二度とあってはならないし、ユダヤ人が自分たちの聖地を訪れる許可を求めねばならないような事態を招くことも、二度とあってはならない。嘆きの壁は現在、イスラエルのものとなっている。この国が存在しなくなる日まで、そうありつづけるだろう。地中海沿岸のこの不安定な一帯で、いくつもの王国や帝国が冬の雨のごとく現れ、消えていった。現代によみがえったイスラエル王国もいずれは消えていくだろう。しかし、自分が生きているかぎり、そうはさせない。」ダニエル・シルヴァ. ブラック・ウィドウ 上  Kindle の位置No.945-957 


 普段はかなり無口で、几帳面で感情の起伏を表に出さないタイプだから、こんな想いを語られるとけっこう胸熱だ。  

以下作中から読み解く彼の来歴
 ※『ブラックウィドウ』を読んで、ガブリエルの生年を上方修正。1950年生まれだ。

◆ ガブリエル・アロンの家族の出身はドイツ、母方はベルリン。父方はミュンヘン。
 母方は一家全員がアウシュビッツに送られ、母のみ生還。母方祖父はヴィクトール・フランケルという名の高名な画家であったがアウシュビッツに到着した日に殺害されている。母も才能ある画家で、戦後イスラエルに逃れ、現代イスラエルを代表する抽象画家となったが、心を病み生涯アウシュビッツの記憶に苦しめられた。 父も腕に番号の入れ墨のあるアウシュビッツの生還者だ〔報復という名の芸術〕が、ハーパーブックス以降の巻では、ミュンヘン出身でユダヤ人虐殺が始まるまえにパレスチナに移住した、とされている。作品初期から設定が変わっているのか?それとも戦前のパレスチナへの移住者だが、捕らわれてアウシュビッツに送られるような経緯があったのか? いずれにせよ、ガブリエルは母から芸術家としての才能と、両親からアウシュビッツを生き抜いた強靱で不屈な精神を受け継いだ。
◆ ガブリエルは1950年(の多分冬。11月か12月頃)に、イスラエルのイズレル渓谷にあるラマト・ダヴィドという農業を中心とする入植地で生まれた。〔ブラック・ウィドウ〕
◆    1967年 父が第三次中東戦争(六日間戦争)で死亡。〔ブラック・ウィドウ〕
◆ 1968年 父の死の1年後、母が癌で死亡。〔イングリッシュ・アサシン〕
◆ 兵役(イスラエルのユダヤ教徒は男女とも皆兵。男子は18歳から36ヶ月の兵役を務める。 )ののち、ベツァレル美術学校(ベツァレル美術デザイン学院)に入学。イスラエルの学生は兵役があるため、普通大学に入学した時点で21歳くらいのはずだが、アロンは1972年に暗殺者となったとき二十歳、との記載。〔英国のスパイ〕 若干計算が合わない気がしたが、『ブラック・ウィドウ』では「ミュンヘンオリンピックの後、22歳で復讐の天使になった」とのエリ・ラヴォンの言葉があり。そうであれば、1950年生まれで、ハリー・ボッシュと同じ歳(笑)である。これだと、計算があう。というわけで、ざっと年齢を修正。
◆ 在学中に最初の妻、リーアと結婚。
◆ パリに1年留学していた、との記載あり。〔報復という名の芸術〕
 留学、とはいうものの留学生の身分を偽装に利用して暗殺工作を展開するためだった可能性もある。
◆ 1972年のミュンヘンオリンピック事件(ブラックセプテンバー事件)直後の9月、ガブリエルの語学力、兵役時の銃器を扱う才能、偽装に使える画才等を見込んだシャムロンが彼を強引にスカウトし、シャムロン麾下の暗殺工作員(キドン)となる。〔イングリッシュ・アサシン〕 この時22歳。〔ブラック・ウィドウ〕その後3年間にわたって、ブラックセプテンバー事件への報復作戦である「神の怒り作戦」に従事。
◆ ブラックセプテンバー事件の実行犯・関係者12名を暗殺(銃殺もしくは爆殺)して「神の怒り作戦」におけるガブリエルの任務は終了する。ガブリエルはそのうち6名を直接殺害した、とされている。その際、ブラックセプテンバー事件の犠牲になったイスラエル選手団11名の報復として、可能な限り一人につき11発の銃弾を撃ち込んだ。これは、この後もガブリエルの暗殺のスタイルとなっている。
◆暗殺した6人の内のひとりが、マハムンド・アル=ホウラニだった。この男の弟のタリク・アル=ホウラニが、兄を殺された復讐のため後にガブリエルの妻子を爆殺する。〔報復という名の芸術〕
◆ ガブリエルは、3年間作戦に従事したのちイスラエルに帰還し、改めて画家としての活動を再開しようとしたが、キャンバスに向かうと自分が殺した相手の顔がちらついて、絵を描くことができなくなっていた。そこで、シャムロンの了解のもと、ベネツィアの美術修復士のもとに弟子入りし、絵画修復の道に入る。
◆ 1975年〜1977年頃までの3年間、ベネツィアで修行。
  絵画修復師として独り立ちした後は、この身分を隠れみのに、工作員としての活動を継続。
◆    1976年頃には、チューリッヒ在住のパレスチナ人劇作家、アリ・アブデル・ハミディを殺害。〔イングリッシュ・アサシン〕
◆ 1977年頃  シャムロンが修復師修行を終えたガブリエルをイシャーウッドに引き会わせる。
◆ 1988年頃 息子のダニエル・アロン誕生。(ガブリエルはこのとき38歳)
◆ 1988年4月のPLO幹部暗殺事件では、作戦に加わり、暗殺を実行している。
◆ 1991年1月 ウイーンでガブリエルの自動車に仕掛けられた爆弾により息子のダニ(当時2歳半)が死亡、妻リーアは全身大やけどを負い、精神に異常をきたす。〔報復という名の芸術〕
◆ 事件の後、ガブリエルは〈オフィス〉を辞め、イギリスのコーンウォール最南端のガンヴァロー海岸にあるコテージに隠棲。このコテージとアトリエは、こののち長い間彼の心の休息地となるが、『英国のスパイ』では殺戮の舞台となる。
◆ 1998〜1999年頃、イギリス・コーンウォールのヘルフォード川河口、ポート・ナヴァスの近くにあるコテージに移り住む。このコテージの隣家にピール少年が住んでおり、ガブリエルは亡くなった息子ダニエルと同じ歳のピールと交流する。〔報復という名の芸術〕
◆ 1998年頃は「この世界(諜報と暗殺)から遠ざかっていた」と本人の弁。〔英国のスパイ〕この頃はイシャーウッドからの絵画修復の依頼で生計を立て、精神病院に入院していたリーアの治療費を稼いでいた。
◆    1999年頃 シャムロンの要請で〈オフィス〉の現場に復帰。ニューヨークでパレスチナ人テロリスト(タリク・アル=ホウラニ)の銃撃を胸にうけて重傷。〔報復という名の芸術〕
◆ 2001年頃 ナチスによって奪われたユダヤ人が所有していた絵画を巡り、スイスの秘密組織に潜入するも捕らえられて拷問される。なお、この作戦の際、パリで爆弾テロの標的とされ、腕に大怪我もしている。(爆弾テロ1回目)〔イングリッシュアサシン〕
◆ 2001年〜2002年冬 サン・ザッカリア教会の祭壇画(ベッリーニ)の修復。
  盟友ベニがミュンヘンで謀殺される。
  ローマ教皇暗殺犯(ベニを殺した男)をバイクで追跡中転倒し重傷を負う。〔告解〕
◆ 2003年  聖クリストソモ教会の祭壇画(ベッリーニ)の修復。キアラとは恋仲になっている。SS将校であったラデックを捕らえてイスラエルに連行する。〔さらば死都ウィーン〕
【5作目から13作目 未読 ガブリエルがキアラと別れたりくっついたり、ローマ教皇を助けたり、ロシアに潜入して大怪我したり、サウジに潜入して捕まったり、イギリスの首相を助けたりしている。ああ、翻訳読みたい(泣)】
◆    2014年秋  サン・セバスティアーノ教会の祭壇画(ヴェロネーゼ)の修復。
◆ 2014年秋〜12月 英国人の殺し屋ケラーとともに元IRA爆弾テロリストとロシアのスパイを追う。ロンドンで爆弾テロの標的にされて負傷するが、この事件を逆手にとって死亡を装ってテロリストを追撃。
◆    2014年12月 妻キアラとの間に双子誕生。
  女の子をアイリーン(ガブリエルの母の名)、男の子をラファエル(ルネサンスの大画家より)と名付ける。〔ブラック・ウィドウ〕
  カラヴァッジョの祭壇画《キリストの降誕》の修復〔ブラック・ウィドウ〕
◆ 2015年4月〜ISISの爆弾テロ指導者〈サラディン〉を追う。この間、ワシントンで爆弾テロに巻き込まれる。〔ブラック・ウィドウ〕
◆ 2015年の末に 〈オフィス〉長官に就任(65歳)。双子1歳の誕生日。サラディンの追跡を継続。パリのヴォクソール・クロスでまた爆弾テロにあう。〔ブラックウィドウー死線のサハラ〕

◆ 2019年11月 ローマ教皇パウロ7世逝去。双子は4歳で、もうすぐ5歳。ガブリエルは69歳になったところ。ガブリエルの旧友でもあるドナーティが、新教皇に選出される。〔教皇のスパイ〕

◆ 2020年3月 新型コロナの流行。アロン家はナハラルのバンガローに仮住まい。ガブリエルの旧友であるロンドン在住のロシア人富豪が毒殺される。
◆ 2021年1月6日 米国でトランプ支持者による議会議事堂襲撃。 1月20日 大統領就任式の直後にQアノン支持者によるガブリエル暗殺未遂。生死を分ける一週間、さらに2週間の集中治療ののち、ガブリエルはイスラエルに帰国。その後、復帰までにはさらに数ヶ月の静養を要した。〔報復のカルテット〕

◆ 2021年末 オフィス長官辞任。ヴェネティアでついに引退生活に入る。
◆ 2022年春 旧友のイシャーウッドが贋作絵画売買の詐欺に巻き込まれる。1枚の絵の所有者が殺害され、イシャーウッドも狙われるに及んで、ガブリエルが調査に乗り出す。結果、全世界を股に掛けた巨大絵画投資詐欺グループを壊滅に追い込む。〔謀略のカンバス〕

美術修復師ガブリエル・アロン シリーズ (2024.4.29更新:新刊『The Collector』2024年6月18日邦訳刊行予定!)

ガブリエル・アロンについての考察はこちら(年表付きです。)


『告解』でガブリエルが手がけている
祭壇画 サン・ザッカリア教会

1【報復という名の芸術】(The Kill Artist 2000年)
1999年。 1,991年1月にガブリエルがウィーンで幼い息子を失ってから9年近くが過ぎていた。シャムロンに逢うのは事件のあとテルアビブで〈オフィス〉の仕事を辞めると伝えた時以来。ガブリエルが隠棲していたのは、イギリス、コーンウォールの海辺のコテージ。かつてはガブリエル専属の支援者(サイアン)だったイシャーウッドとは、本当の画商と絵画修復師の関係となっていた。そんなイシャーウッドからガブリエルの居場所を聞き出して、シャムロンが新たな「復讐」を携えてやってくる。それは、ウィーンでガブリエルの車に爆弾を仕掛け、彼から家族を奪った男への報復だった。
  
2000年頃? この作中で彼は50歳。スイス在住のある資産家が、ガブリエルに接触を図る。その男が秘匿していたのは、かつてナチスがユダヤ人から略奪しした絵画の数々だった。この絵画を巡り、ナチの残党との死闘が始まる。スイスが未だ隠し持つ、かつてのユダヤ人の財産。ヨーロッパ諸国とナチスとの関係は、歴史の暗部となって未だ各国にわだかまっている。ナチスはユダヤ人の財産を奪った、というアロンに対して、ユダヤ人はパレスチナ人から土地を奪った。動産より不動産の方が罪が重い、と論じるスイス人。ユダヤ人とユダヤ人国家にまつわる問題は一筋縄でいくものではないが、だからといってナチスの罪が薄れるわけではない。それに協力した人間の罪も、である。

2001年冬 ガブリエル51歳になったばかり。ベネツィアのサン・ザッカリア教会で祭壇画の修復を手がけていると、シャムロンからの呼び出しが。かつての盟友がドイツで殺害された。調査を始めると、今度はガブリエルが何者かに追跡される。親友だったベンジャミンが追っていたのは、第二次対戦時のナチスとヴァチカンの関係だった。法王庁とローマ・カトリックの権威を至上とするヴァチカンの秘密組織が、ガブリエルと彼が掴んだ証拠を抹殺しようとする。時を同じくして新教皇は、ユダヤ人との和解のための一歩を踏み出そうとしていた。教皇にも危険が迫り、ガブリエルは新教皇を守るために接触を図る。 
 
『さらば死都ウィーン』で
修復を手がけている祭壇画
サン・ジョヴァンニ・クリソストモ教会
ジョバンニ・ベッリーニ作
『聖クリストフォロス,聖ヒエロニムスと
ツールーズの聖ルイス


時期的には2002年か2003年、またしても冬。雪のちらつくウイーンは、ガブリエルにとっては不吉の象徴。親友であり、戦友のエリ・ラヴォンがウイーンで運営していた戦争犯罪調査事務所が爆破される。スタッフは死亡、エリは重体。ガブリエルは追跡調査を開始するが、すぐに命を狙われることになる。エリが追っていたのは、身分を偽装してオーストリアで社会的にも大成功を収めていた元SS将校。その男の成功の原資となったのはユダヤ人から略奪された資産であり、また、その男はガブリエルの母とも因縁があった。ガブリエルは、ヤド・ヴァシェムに残された母の証言書を読み、初めて母の苦難と向き合うことに。

5(Prince of Fire 2005年)未訳
ガブリエルに関する秘密文書が暴露され、ヴェネツィアにいられなくなったガブリエルはキアラを伴いやむを得ずイスラエルに帰国する。キアラとの生活を準備するが、イギリスの病院に入院させていたリーアが誘拐されて・・・・・。紆余曲折ありキアラが1人でヴェネツィアに去る。
 
6(The Messenger 2006年)未訳
ローマ法王パウロ7世がテロの標的に。ガブリエルが法王を守る。法王の計らい(?)でベネツィアにキアラを訪れ、関係復活。『教皇のスパイ』で触れているエピソードがこれ。
 
7(The Secret Servant 2007年)未訳

8(Moscow Rules 2008年)未訳
ガブリエルがモスクワに潜入。 
 
9(The Defector 2009年)未訳

10(The Rembrandt Affair 2010年)未訳

11(Portrait of a Spy 2011年)未訳
サウジアラビアに潜入。サウジ人女性ナディアを救出しようとするが、2人とも砂漠で殺されそうになる。結局ナディアが死に、ガブリエルは重傷。その後サウジ秘密警察に捕らえられ、過酷な尋問を受けて傷を悪化さる。米国CIAの介入で解放されるが、女性の死に責任を感じて深刻なPTSDを患い、イギリス・コーンウォールでキアラとアリに見守られて静養する。このときガブリエルを案じたサラ・バンクロフトの依頼でナディアの肖像画を描き、この絵を契機に精神的に復調するのだが、この絵がMoMA美術館のナディアコレクションの入り口に展示されている。これが、『過去からの密使』の下敷きとなっているエピソード。
12 (The Fallen Angel 2012年)未訳

13 (The English Girl 2013年)未訳

2014年春〜秋  ガブリエル64歳。キアラは妊娠中。ガブリエルは、カラビニエリの美術班、フェラーリ将軍の依頼により盗難にあったカラヴァッジョの《キリストの降誕》を探すため、盗難絵画のコレクターを釣る餌として、ゴッホの《ひまわり》を盗み出す。しかし、《ひまわり》の盗品売買の相手を追跡するうち、盗難絵画がシリアの独裁者の隠し財産の形成に利用されていることが分かり、事態は一転する。ガブリエル個人の請負仕事が、オフィスの大プロジェクトに展開。標的はシリアの独裁者の財産である。一連の事件終了後、ゴッホ美術館に盗まれた《ひまわり》が戻ってくるが、なぜか手入れをされて盗難前より状態が良くなっていた、ということだ。
 

2014年秋〜冬  亡者のゲームの三日後から。 
キアラの妊娠後期から出産まで。ガブリエルがロシアの策略で爆弾テロの標的にされる。
怪我の詳細の記載はないが全身打撲くらいはありそう。 一週間程度で復活している。ロシアが手先に利用したのは、英国人暗殺者との因縁も深い、IRA爆弾テロ犯だった。そしてこの男は、ガブリエルの家族を犠牲にしたウイーンの爆弾テロにも深い関わりが。MI6からの請負仕事だった事件が、復讐の色を濃厚に帯び、事態は逼迫する。今回は絵画修復のシーンはないが、事件終了後、出産間近なキアラが待つエルサレムに帰還し、自宅の子供部屋の壁にダニの顔を模した天使の絵を描いて涙ぐむガブリエルの姿が切ない。

2015年4月〜12月 ※2015年のISISの戦闘についてと、気候変動抑制に関する協定(パリ協定 2015年12月12日)が結ばれたことについて言及している。 ISISによるユダヤ人の組織を狙った大規模な爆弾テロがパリで起こり、ガブリエルはISISに潜入させる工作員とするため、フランス系ユダヤ人の女医ナタリーをリクルートする。前半はじっくりとスパイを養成するガブリエル。自分の子供時代のことを明かしながら、ナタリーとの信頼関係を築く。
 そして、潜入、テロ計画の始動。標的は、フランス大統領訪米中の合衆国だった。イスラエル、ヨルダン、フランス、イギリス、合衆国それぞれの諜報機関の長たちの協力関係も面白い。 この回でもガブリエルは爆弾テロの現場にいて被害にあう。



2016年2月〜11月 サラディンとの決戦。
 上巻冒頭で、エルサレムをイスラエルの首都と認め、「米国大使館」をテルアビブからエルサレムに移設する、 と発言した新しい米大統領の就任の話題があるが、トランプ就任は2017年1月なので、現実とは1年ずれた格好か。
訪問していたフランス秘密情報部のビルが自動車爆弾で爆破される。間の悪い時に間の悪い場所に居合わせるのがガブリエルの得意技。このときの怪我は爆風とがれきの下敷きになって、肋骨数カ所を骨折、腰椎2か所にひび、重度の脳震盪で一週間ほどダウン。だが復讐の炎が痛みをおしてガブリエルを突き動かす。そして、サラディンをおびき出す作戦が始動。  
 サラディンの収入源である麻薬取引をヨーロッパ側で仕切る男を攻略し、サラディンに繋がる細い道をこじ開ける。米国からの横やりを排除しつつ、CIA、MI6、フランス治安総局と協働し、作戦を遂行。このあたりのガブリエルの政治力も見物。さりげなく出てくるウージ・ナヴォトもなかなか渋い。そしてサハラでサラディンを追いつめるが、サラディンは欧米のどこかに潜伏しているテロリストに攻撃を命じた後だった。

2017年1月頃? 前作の爆弾テロの際の負傷の後遺症?で痛む腰をさすりながらのガブリエル登場である。おかげで若作りのガブリエルもだいぶ歳相応に見えてきた。良い記憶のあまりないウィーンでの作戦。例によって陣頭指揮を執っていたが、目の前で亡命させる予定だったロシアのスパイが殺害されてしまう。その上その場にガブリエルが居合わせたことを隠し撮り写真でマスコミにリークされて窮地に立たされる。
怒り心頭、恨み骨髄のガブリエルはそこから怒濤の諜報戦に突入するが、判明したのは、宿敵を絡め取ろうとするロシアの策謀が二重三重に張り巡らされていたこと、そしてある伝説の二重スパイの存在だった。

 




12歳の少女(サウジ皇太子の娘)が誘拐され、その父である皇太子が、敵であるはずのガブリエルに捜索と奪還を依頼する。中東との融和の糸口になれば、という思いと、ただ、何の罪もない少女を助けたいという思いで、捜索に協力するガブリエルだが、目の前で少女は爆殺されてしまう。少女の殺害とその父の失脚の裏にロシアの影を見たガブリエルは、復讐の反撃に出る。戦いはガブリエルの勝利に終わるが、少女を助けることができなかった悔恨がガブリエルを苦しめる。サウジ皇太子によるカショギ記者謀殺事件をモチーフに、ロシア、イギリスを絡めたシルヴァ風の一流のエスピオナージ
 。

2019年11月。長官に就任して以来、腰を負傷して自宅で療養した数日以外は一日も休まず働いていたガブリエルを見かねて、キアラが休暇を手配する。(なんと首相にまで手を回して!)旅行カバンを用意していたキアラに、「出て行くのかい?」と真顔で尋ねるガブリエル! 休暇の行き先はキアラの両親が暮らすヴェネツィア、仕事ひとすじで余暇の過ごし方など知らないガブリエルの為に、修復する絵まで用意する周到ぶり。そこに、ガブリエルの庇護者でもあった教皇パウロ7世崩御のニュースが。この時点で、彼の任期は2年と1ヶ月。
 

21【報復のカルテット】(The Cellist 2021年)
2020年3月〜2021年4月。世界はcovid(新型コロナウイルス)に支配されている。
 アロン家は人が多く、ロックダウン中のエルサレム市街の自宅から、故郷のイズレエル谷のラマト・ダヴィドに程近いナハラルに仮住まいしてコロナを避けている。双子たちは田舎暮らしで逞しく成長中。ガブリエルは新しく入手したガルフストリームに現金を詰め込み、人工呼吸器や検査薬や、医療用防護衣を世界中で買い付けて、国内の病院に配布。政治家への転身の準備か・・・との世間の噂も。そんな噂は歯牙にもかけず、ガブリエルはオフィスで諜報戦の陣頭指揮も執っている。そんな折、ガブリエルと旧知のイギリス在住のロシア人富豪が毒殺され、ガブリエルはおなじみMI6のケラーと動き出した。
 
22 【謀略のカンバス】(Portrait of an Unknown Woman 2022年)
2021年12月〜。ガブリエルはついにオフィス長官を引退し、長年にわたる諜報の世界から身を引いた。カラビニエリのフェラーリ将軍の庇護のある古巣ヴェネツィアに家族と居を構え、キアラはティアボロの美術修復会社の経営に参画し、子ども達は地元の小学校に通っている。キアラの配慮の行き届いた落ち着いた生活で長年の疲労や苦悩が少しづつ薄れ、彼が本来の笑顔やユーモアを取り戻しつつあるころ、旧友のイシャーウッドが、ある絵画売買絡みのトラブルに巻き込まれる。穏やかな日常に少々退屈しつつあったガブリエルは、キアラの赦しをえて調査にのりだす。

23 【邦題未定】(The Collector 2023年)
失われた名画を追うガブリエルが、やがて、ロシアと西欧との闘いの渦中に・・・・・


2023年9月5日火曜日

栗本薫〈矢代俊一シリーズ1〜22〉総評


最初に、1冊目の『YOU DON'T KNOW WHAT LOVE IS 恋の味をご存じないのね』の冒頭に配された、栗本薫の御夫君であり、以前はS-Fマガジンの編集長でもあった今岡清氏の前書き 「矢代俊一シリーズ電子版刊行にあたって」から抜粋。

栗本薫の個人レーベル(同人誌)である天狼叢書の出版について、今岡氏は以下のように語っている。
・・・また、『真夜中の天使』、『キャバレー』などの作品が、作家としてデビューする以前に出版するあてもなく、書きたいという衝動だけにせかれて書かれていたことへの回帰ということもあったのでしょう。編集者の意向や読者の要望などに影響されずに、思うがままに書いていきたいという気持ちから書き始められたのが『YOU DON'T KNOW WHAT LOVE IS』以降の矢代俊一シリーズの作品でした。

シンプルな表紙を取ったとこについては、
・・・いつまでも語り継がれるよう、矢代俊一シリーズの表紙はずっと変わらずにいるようにとあえてこの形をとりました。最後に、電子版配信にあたって天狼叢書として出版された版と多少の違いがあることをお断りしておきます。まず、編集者としての私から見て明らかな矛盾や事実誤認については訂正をしました。もちろん内容や表現に関する部分には、一切手を加えてはいません。訂正は、栗本薫に納得してもらえると私に確信の持てる部分に限っています。

 シリーズが巻数を重ねるにつれて趣味的要素が強くなりすぎ、読者が減っていったこと、プロの編集者の目から見て、(編集・出版の)プロの目が介在しなかったことによる瑕疵が気になるところでもあった、と今岡氏は語るのだけど、それは薫サン自身が望んだことなんだよね。他者の意見を聞き入れる精神を持ち得なくなった作家が、周囲の批判や意見から耳を塞いで居心地のよい環境に逃げ込んだだけにしか思えず、そのような創作環境を、プロの編集者の目をもつ夫の今岡氏はどのように受け止めていたのか、とか、考え始めるといろいろと気になってしまう。それでも、今岡氏は「いつまでも語り継がれる」価値があるとは考えているわけだ。(だからこそ、この電子書籍シリーズが今も刊行中なわけだけど。)

 先に、電子全集に『トゥオネラの白鳥』が収録されてしまったがために、『東京サーガ』の行き着く先が、栗本薫の同人レーベル非読者にも明かされてしまったのは、私にとっては、不幸な出来事だった。少なくとも私の心中には、とんだ東京焼け野原が出現することになってしまったが、しかしあの『トゥオネラの白鳥』に含まれる、〈毒〉はいったい何なのだろう。その〈毒〉ゆえに、栗本薫は闇落ちした、と私は確信したのだが、そんな薫サンの軌跡をたどる、同人レーベル〈矢代俊一シリーズ〉正伝24巻、外伝18巻(未完作品を含む)を、いまから辿ってまいりますよっと。


◆「東京サーガ/矢代俊一ブランチ 作品一覧」◆
角川書店 「野性時代」1983 年掲載
角川書店 1983年
角川文庫 1984年
角川春樹事務所/ハルキ文庫 2000年

『死はやさしく奪う』(矢代俊一シリーズの登場人物金井恭平のエピソード)
角川文庫 1986年
カドカワノベルズ 1990年

『黄昏のローレライ キャバレー2』
角川春樹事務所/ハルキ・ノベルス 2000年

『身も心も 伊集院大介のアドリブ』(伊集院大介シリーズに矢代俊一登場)
講談社 2004年
講談社文庫 2007年

『流星のサドル』
成美堂出版/クリスタル文庫 2006年

以下は天狼プロダクション刊 〈矢代俊一シリーズ〉
  1. 『YOU DON'T KNOW WHAT LOVE IS 矢代俊一シリーズ1』 2007
  2. 『朝日のように爽やかに Softly,As In A Morning Sunrise 矢代俊一シリーズ2』 2008 
  3. 『CRAZY FOR YOU 矢代俊一シリーズ3』  2008 
  4. 『NEVER LET ME GO 矢代俊一シリーズ4』 2009 
  5. 『BLUE SKIES    矢代俊一シリーズ5』 2009
  6. 『ROUND MIDNIGHT    矢代俊一シリーズ6』   2009
  7. 『THE MAN I LOVE    矢代俊一シリーズ7』   2010
  8. 『WHAT ARE YOU DOING THE REST OF YOUR LIFE   矢代俊一シリーズ8』 2010
  9. 『GENTLE RAIN    矢代俊一シリーズ9』2010
  10. 『CARAVAN    矢代俊一シリーズ10』  2011
  11. 『亡き王女のためのパヴァーヌ    矢代俊一シリーズ11』 2011
  12. 『LOVER FOR SALE    矢代俊一シリーズ12』2011
  13. 『SUMMERTIME    矢代俊一シリーズ13』   2012
  14. 『SOUL EYES    矢代俊一シリーズ14』 2012 
 で、ここまで(14冊目まで)の感想だが、失礼ながら、以外にや、面白かった。
 やはり好きなものを、好きなように書いているからだろうか。エロ描写がふんだんに散りばめられているためか、脳内流出ぐだぐだトークが相対的に少なくなっていて、格段に読みやすいし、展開がスピーディーだ。『キャバレー』の矢代俊一がこうなり、『死はやさしく奪う』の金井がああなる。そしてその二人がそうなる。この点のみ、ぐっと飲み下すことができれば、このシリーズは読める。少なくともここまでは。キャラ劣化の兆しは見えてはいるものの、まだ、そう酷くはない。しかし、たとえば黒人キャラクターに与えた役割や、HIV感染の話など、センシティブな事柄に対する無神経な取り扱いにはドン引きする。実在のタレントを彷彿とさせる当て字で、あそこの穴がゆるゆる、とかやるのも勘弁してほしい。こういう思慮のなさは、もともとの薫サンなんだろう。
 透はやっと13作目での登場だが、なにやら婉容なセックスマシーンみたいなキャラになっているが、まあ、私的にはまだ、許容の範囲内。このあとの続刊を坐して待つ。

【以下、追記】

◆ 2022.7.30 15冊目の『WILLOW WEEP FOR ME 』が刊行されたので、レビューを追加。
 執筆時期の薫サンの体調の影響か、はたまた、他の活動の影響か、作品の質にかなりのバラツキを感じるのは気のせいかな。15冊目はなんだか俊一の方向性というか、姿が定まらない感じで心許ない。
◆ 2022.9.22 16冊目の『SKY LARK 』が刊行されたので、レビューを追加。
 透の人物像に相当な劣化を感じるようになった。また、アクションパートが終了したため、全体的に、薫サンの〈脳内ダダ漏れぐだぐだトーク〉と私が形容している、冗長で繰り返しの多い無駄な文章が増え、目が滑る率が高まる。どの登場人物も同じような言葉回しをするため、セリフによる各人物の書き分けが曖昧。小説の質的な劣化が見られる。
 しかし、『テンダリー』を三分割して、61ページ分を550円、91ページ分を770円で頒布する、という価格設定は暴利というか無謀ではないか?同人誌価格なのか?さすがに私は買わないよ、これ。
◆ 2022.11.30 17冊目の『IT AIN'T NECESSARILY SO』刊行
  結構、読むのがツラい代物になってきた。透が完全に闇落ちしましたね。もやは、『朝日のあたる家』や『嘘は罪』や『ムーン・リヴァー』の透とは別人に成り果てました。
◆ 2023.2.20 18冊目『MORE THAN YOU KNOW』 刊行。
 薫サンの脳に沸きいずる言葉をただただ、だらだらと書き綴ったのだな。ひたすら俊一が己の二股の恋を思い悩む。そうはいっても、そんなに深いものにはなりようがない。残り、本編6冊。
◆ 2023.4.20 19冊目 『ボレロ』刊行
  待ちに待った、俊一と父、万里小路俊隆の父子リサイタル。薫サンの音楽描写は悪くないと思っているし、クラシックを織り交ぜたコンサートの構成とか、それを薫サンがどのように描写するか、とかそれなりに(結構に)楽しみにしていたんだよね。でもって、期待値を上げすぎて惨敗する、という、なんだろう、己に負けたような残念感だったりして。詳細は個別のレビューのほうへどうぞ。
◆ 2023.6.20  20冊目 『DEVIL MAY CARE』刊行
 もはや期待のひとかけらも持たずに。それでも発売日に惰性でダウンロード。スマホの画面を10回スライドさせて1行読むくらいのペースで読み飛ばした。その程度で十分な希薄さなのだ。読むべきものも、評価すべきものもないと思う。
◆ 2023.9.1   21冊目     『AS TIME GOES BY』刊行
 惰性であることは重々理解しているが、とりあえず、隔月で出るので、いちおう目を通す。出だしは悪くないかも?と思ったのだけど、すぐに俊一がグダグダしだして、ウンザリ。この巻はステージもないので、ほんと、金井と寝て、英二と寝て、透に犯されて、寝込む。だけ。それが大ステージ控えたプロのミュージシャンのやることか? 深海より深く反省しやがれ。
◆ 2023.10.22   22冊目 『SENTIMENTAL JOURNEY』刊行
 前々から決まっていた全米ツアーの一部始終。俊一を嫌う在米の日本人ジャズピアニストが寄ってきて、つまらぬ嫌がらせの数々。俊一は英二に焼き餅をやき、痴話喧嘩の一方で、やはりニューヨークに来た金井と寝るし、風間を全力で誘惑するし。でもまあ、ステージの描写は悪く無かった。

    (以下未刊)※2023年10月現在
 23.『ANGELEYES 矢代俊一シリーズ23』 2015
 24.『MY ONE AND ONLY LOVE  矢代俊一シリーズ24』 2015

《未完作品》
  1. 『OBLIVION——忘却    矢代俊一シリーズ未完作品集1』   2016
  2. 『トゥオネラの白鳥       矢代俊一シリーズ未完作品集2』   2016(栗本薫・中島梓傑作電子全集28【JUNE Ⅱ】収録)
《矢代俊一シリーズ 外伝》
  1. 『テンダリー』 2009(晃一)
  2. 『明るい表通りで』 2009(晃一)
  3. 『酒とバラの日々』 (金井)
  4. 『SMILE――獣人の恋――』 (黒田)
  5. 『GEE BABY,AIN'T I GOOD TO YOU 』 2010(渥美) 
  6. 『聖夜—サイレントナイト』 2010(金井×俊一)
  7. 『VERY SPECIAL MOMENT』 2010(俊一×メンバー)
  8. 『Bei Mir Bist Sheon—素敵な貴女—』 2011(風間・黒田)
  9. 『EIJI29歳』 2011(俊一×英二)ニューヨーク後
  10. 『ラ・ヴィ・アン・ローズ』 2013(透)
  11. 『悪魔を憐れむ歌』 2014(銀河)
  12. 『レイジー・アフタヌーン』 2014(透)
  13. 『夜のタンゴ』 2015(透)
  14. 『タンゴ碧空』 2015
  15. 『アリヴェテルチ・ローマ』 2015
  16. 『牧神の午後への前奏曲』 2015
  17. 『BLACK ROSES』 2016
  18. 『ブルーレディに赤いバラ』 2016
※なお、『栗本薫・中島梓傑作電子全集28【JUNE Ⅱ】』に収録されている、矢代俊一年譜から書き起こした東京サーガ年譜はこちらへ。



2023年9月4日月曜日

0438 AS TIME GOES BY <矢代俊一シリーズ21>



読書メーター https://bookmeter.com/reviews/115881905   

Amazonより・・・勝又英二と暮らしながらも金井恭平への思慕を捨てきれずにいる矢代俊一だが、俊一の父は金井を快く思っていないばかりか、森田透からも金井との関係は無理があることを指摘されて俊一の苦悩は深まっていく。しかも俊一自身もまた、金井恭平への思いが次第に変わってきてることに気づかざるを得なくなっているのだった。アメリカツアーを目前にして俊一をめぐる錯綜した人間関係は否応なしに変化する兆しを見せていくが……。矢代俊一シリーズ第21巻。

 Amazonの解説がぜんぶ語ってる。これ以上の事はとくにない、のだけど、一応感想的な。
 ニューヨーク渡航前の数日間を俊一の心象で語る。それにしても、たぐいまれな才能を持ち、希有の美貌を持ち、芸術の神ミューズに選ばれ愛されている・・・・・と薫サンが力説すればするほど、俊一が陳腐で曖昧な存在になっていく。
 東京サーガを通じて割りを喰っていた風間サンは俊一専属のプロデューサーとなり、俊一の“最大の理解者”ポジに納収まって幸せいっぱい。そのプラトニックな立ち位置を堅持しようとする風間を、俊一が「寝てもいい」とか言って煽る煽る。
 かつての島さんとの愛憎の日々をディスりつつ、金井を追い落として俊一の愛人ポジを狙い、俊一の籠絡を図る透は、寄生昆虫かなにかに内部を喰われたゾンビみたいで気持ち悪い。今となっては『朝日のあたる家』が名作に思えるレベルで暗黒面に墜ちている。
 金井は、俊一を追いかけてニューヨークに行き、俊一とジャズマンとしての再起の二兎を追うつもりとな。
 英二と父は相変わらずで、きしょい。
 音楽シーンがほぼないので、ツライ一冊。次作はやっとニューヨーク。あと3冊かあ。。。“毒を喰らわば皿まで喰う”つもりで始めたこのシリーズのレヴューだが、 こんな罵詈雑言ばっかり書き続けて良いのか、とさすがにためらいを感じるが・・・・・とはいえ、ねえ。『真夜天』で、『翼あるもの』で、そして『朝日のあたる家』で『ムーン・リヴァー』で、人の心を動かした責任っつうものがあるんではないか?と問わずにはいられない。

2023年9月2日土曜日

2023年8月の読書メーター

 7,8月のなんという体たらくよ。(ちなみに7月はモノクローム・ロマンス文庫の1冊のみだったため、記事にしなかった。) 8月、読メ登録はなんとコミック3冊だけ。しかも結構な流し読み。実家の母の介護やらなにやら渾然一体となって進行中で、まとまった紙本にどうしても手が伸びない。この大スランプの突端のストッパー役になってしまったのは、『アポロ18号の殺人』だった。大好きな中原尚哉氏の翻訳なのにどうした私!? そして世の中は読書の秋に差し掛かりつつあり、楽しみにしていた新刊が続々と刊行中。必ず読むぞ!との決意のもと、とりあえず入手はしているので、いよいよ積ん読の標高が高くて、もはや酸欠必死。いや圧死するかも。とはいえ少なくとも小説からは離れていない・・・細切れ時間での読書欲はpixivで発散中。
 独居の母は突然足の痛みで歩けなくなり、デイケアでは車椅子でお世話していただいた。
 整形外科で薬を処方されるも、認知症にとって、突然始まった朝昼晩の服薬の難易度の高いこと。お薬の管理がしやすいように配薬トレーを導入するも、配薬トレーを家のどこかに片付けてしまう母(ToT)。
 その母の行動を追いかけていた見守りカメラまで、電源抜かれてお片付け〜〜〜(゚Д゚)
 そんな母の住まう実家に通ってあれこれする傍ら、父の蔵書を整理したり手入れしたり。手塚治虫漫画全集のカバー掛けは一応完遂した。


8月の読書メーター
読んだ本の数:3
読んだページ数:552
ナイス数:382

3月のライオン 17 (ヤングアニマルコミックス)3月のライオン 17 (ヤングアニマルコミックス)感想
あかりさん、ってこれフラグなん?あの男なの?島田さんじゃなく?そんな!!な三日月堂の幸せ。そして気持ちがしあわせで安定した零ちゃんの幼児化はっちゃけジャックラッセル化(笑)なんかどのページもわちゃわちゃ騒々しかったけど、面白い。この物語、どこまでいくんだろうねえ。
読了日:08月30日 著者:羽海野チカ

幼女戦記 (28) (角川コミックス・エース)感想
ああ、なんかデグさん、一周回っちゃったな。の巻。冒頭、ヴィーシャとのイチャイチャの続きコマから眼福ではじまり、何かがぶち切れたままのデグさんはそのままモスコーを蹂躙し映像記録と宣伝が大好きだった某独裁者よろしく、記録映画まで収録。そして、早期終戦を目論んでいた首脳部の思惑を(意図せずに)粉砕。存在Xとの対話を一蹴し、賭け金は自ら、そして部下達、そして育てあげた大隊。ここからどこに向かうのか、一コマ一コマは切ないのに、総体はいけいけドンドン。章間の蘊蓄コラムも相変わらず充実している。
読了日:08月30日 著者:東條 チカ

モーメント 永遠の一瞬 19 (マーガレットコミックス)モーメント 永遠の一瞬 19 (マーガレットコミックス)感想
ソチの前のバンクーバー五輪をどうするのかと思っていたらこう来るか! 雪の、すでに何回目かもわからんターニングポイントです。フォームを矯正して、しなやかに自然に、いっそう伸びやかに美しく。雪の通って来た道がとても10代の女の子とは思えずもはや何を読んでいるのか良く分からなかったりもするけれど、槇村さとるの大好きなフィギュアスケートものなので、最後まで頑張る。
読了日:08月08日 著者:槇村 さとる

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