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2021年1月9日土曜日

0247 祖国なき男 (創元推理文庫)

書 名 「祖国なき男」 
原 題 「ROGUE JUSTICE」1982年 
著 者 ジェフリー・ハウスホールド 
翻訳者 村上 博基 
出 版 創元推理文庫 2009年11月 
初 読 2021年1月 日 
文 庫    288ページ
ISBN-10 : 448823903X 
ISBN-13 : 978-4488239039

 前作『追われる男』の続編。なんと前作から42年後、著者82歳での続編執筆とのこと。それだけでなんだか凄い、と思えてくる。
 さて話は、主人公“わたし”の親友であり、管財人でもあった弁護士のソウル・ハーディングによるプロローグから始まる。時は1942年。前作のヒトラー暗殺未遂に引き続く一連の事件が1938年の出来事であったことも判明。
 なんとゲシュタポに捕らえられた“わたし”が仮収監されていた警察署(?)が英国空軍の空襲により倒壊し、地下牢から脱出するところから始まる。あれ、ヒトラー暗殺の冒険活劇ではないの?またもや逃走劇なの?と思いつつ、この濃厚な一人語りは勢いで読まないときっと挫折すると思って読み進める。

「わたしはドイツの将兵には尊敬の念しか抱いたことがない。彼らにとって、自分たちが守るのは祖国であり、地獄から生まれた体制ではないのだ。」

 これも、戦後40年近く経ったからこそ、書けた一文かもしれないな。

 一つ疑問に思うのは、なぜ、3年の忍耐と偽装ののちに、ヒトラー暗殺を断念したのか。これだけ粘り強いのだから、初志貫徹したほうが何かをなせる可能性は高かったのではないだろうか。なぜ帰国し判りやすい(言うなれば安直に)戦争に参じようとしたのか。
 Ⅰ章で、頭の最初の危機———ゲシュタポによる逮捕拘留ーーーが、英国で参戦するためにスカンジナビア経由で帰国を目指したものの、ドイツのスパイとしてイギリスに拒絶されて送還された直接の結果だというのが、皮肉でしかない。ここから、怒濤の逃走劇が展開するわけだが。
 ロストク爆撃→シェチェン→アウシュビッツ→クラクフ・・・・なんだろう、この行き当たりばったり、口八丁手八丁でどこまでもいっちゃう感じは、どこかで、と思ったらヴォルコシガン・サガのマイルズ『戦士志願』と似ていなくもない、か? もっとも状況はこちらのほうが狂気じみていてかなり熾烈だ。そして、この強烈な生き残りに賭け、一人だけの戦争を続けるあり得ないほどの闘志がどこから生まれるのだろう。


2021年1月8日金曜日

0246 追われる男 (創元推理文庫)

書 名 「追われる男」 
原 題 「ROGUE MALE」1939年 
著 者 ジェフリー・ハウスホールド 
翻訳者 村上 博基 
出 版 創元推理文庫 2002年8月 
初 読 2021年1月8日 
文 庫 254ページ 
ISBN-10 4488239021 
ISBN-13 978-4488239022

 ポーランドで一人でスポーツハンティングをしていた英国貴族の“わたし”は国境を越え”隣国”に潜入する。そこでライフルのスコープに捕らえたのは“ポーランド隣国”の要人。しかし引き鉄を引くに至らず、かえって要人暗殺未遂犯として警備の秘密警察に捕らえられ凄惨な拷問を加えられる。殺害されるところをからくも生き延び、イギリスの貨物船に密航して帰国。しかし、某国の捜索の手は故国にまで伸びてきていた・・・・・ 
出版は1939年、舞台となっている時代はその数年前か。主人公も某国要人も某国の名前も明かされないが、「ポーランド隣国」がドイツであり、要人がヒトラーであろうことは読んでいるとわかる。 

 前半は某国からの逃走劇、中盤はイングランド南部ドーセットの農村地帯での野宿・潜伏、終盤は反撃からの快走。終盤までの閉塞感と重圧感がすごい分、終盤の反撃・逃走のカタルシスが圧倒的。
 最後に手記の結びとして、“わたし”はもう一度ハンティングを行う為、そして今度は都市部で中距離の速射でそれを行うため、某国に入国することをほのめかしている。これでは、後年書かれたという続刊を読まないわけにはいかない。


当時の世界史年表を抜粋
1925年 ヒトラー『わが闘争』
1930年 総選挙 ナチス躍進
1932年6〜7月 ローザンヌ会議(ドイツの賠償額が決定)
               7月 総選挙 ナチ党第一党となる
1933年  1月    ヒトラー内閣成立
        3月    全権委任法成立
1934年  8月    総統ヒトラー
1935年  3月    再軍備宣言
1936年  3月    ラインラント進駐
1937年11月日独伊3国防共協定成立
1938年  3月    ドイツ、オーストリア併合




2017年6月4日日曜日

0039 女王陛下のユリシーズ号

書 名 「女王陛下のユリシーズ号 」 
原 題 「H.M.S ULYSEES」1955年
著 者 アリステア・マクリーン
翻訳者 村上 博基
出 版 早川書房 1972年1月

 この本のタイトルについては有名な話だとは思うが、一応書かないと気が済まないので書いておく。第二次大戦中のイギリス国王は、ジョージ6世(エリザベス2世女王の父)だ!女王ではない。刊行当時すぐに指摘があったはずだと思うのだが、あからさまな間違いなのに、訂正出来ない事情でもあったのだろうか?「軍艦ユリシーズ」で良かったのにな。
 さて、本題である。
 直前の航海から帰還直後、港内に停泊中に、一水兵の不服従から端を発し、水兵達の反乱が起こる。それは、繰り返されてきた過酷な任務に堪えかねてのことだった。自艦内での鎮圧は不可能とみて、近くに停泊する戦艦《デューク・オブ・カンバーランド》の海兵隊の派遣をたのみ、ようやく鎮圧に至る。その失態を問責される、ティンドル提督とヴァレリー艦長。そして、次の任務を告げられる。

 「ユリシーズは、あー、名誉回復の機会を与えられたと思っていい」

 このムルマンスク行きの輸送船団〈FR77〉は、ユリシーズに対する懲罰だった。

 恐るべき荒天の北極海。喀血を繰り返し、もはや自力では鉄扉を開閉したり、梯を上る力もない艦長は、それでも自分に鞭打って極寒の中乗組員たちを巡回する。
 襲い来る敵。空襲、Uボート。次々に荒れ狂う波間に沈んでいく僚艦。被弾して味方を巻き込む可能性のある味方輸送船の撃沈を命じられた若き水雷兵ラルストンの悲劇。敬愛する艦長を支える副官ターナー。乗組員の運命を案じながら、力尽きて息を引き取る艦長に泣かずには居られない。
 北ソ連航路を繰り返し護衛してきたユリシーズは、満身創痍で歴戦の老艦の風格だが、実は当時最先端のレーダー装置をそなえた最新鋭巡洋艦である。それが数度の航海でボロボロになる冬の北極海の非情。極限状態に置かれた乗組員たちの最後の抵抗(不服従)を軍紀に問い、より過酷な死の航海に送り出す海軍本部の無情。その中で、なぜか僚艦サイラスの存在に心が温まった。せめてあの船が最後まで生き残ってくれて良かった。

 ちなみに、表紙は新装版である。イラストは変わりないが、題字が少しオシャレになっている。この際、タイトルも直せばよかったのに・・・・・な。
 このイラスト、一瞬何が描かれているのかわからないくらいごちゃごちゃしているが、見れば甲板に突っ込んだドイツ空軍機の尾翼が2機、めちゃくちゃに破壊された砲塔、倒れた煙突、傾いたマスト、波に洗われる艦尾、爆発炎上する前部甲板、攻撃を受けてめちゃくちゃになったユリシーズ最後の姿であった。