ラベル ダグラス・リーマン の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル ダグラス・リーマン の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2020年9月30日水曜日

0222 奇跡の巡洋艦

書 名 「奇跡の巡洋艦」 
原 題 「The Iron Pirate」
著 者 ダグラス・リーマン 
翻訳者 大森洋子 
出 版 早川書房 1992年2月
初 読 2020/9/30

 リーマンもだいぶ読み尽くしてきて、いよいよドイツ側の一冊。同じような語り出しだが、やはり空気感が厳しいと感じるのは舞台がドイツだという先入観があるからかな。
 何しろ、ドイツ艦だ。辛い結果になるに決まってる。もう、鷲舞を読む時のような覚悟でこっちは臨むのだ。なのになのに、いつものリーマン節である。
 原題のThe Iron Pirate(鉄の海賊)は、寡黙な艦長、主人公ディーター・ヘヒラードイツ海軍大佐に部下達から奉じられていた異名である。ヘヒラーはドイツ重巡洋艦《プリンツ・ルイトポルト》の艦長で、この頃、すでに艦は「奇跡の巡洋艦」との評を得ていた。
 巡洋艦リューベック号も出てきて、あれ、リューベック号って、他の本で誰かの駆逐艦に沈められていなかったっけ?リーマンは結構、敵艦も味方艦も、艦名を使い回す。それとも対戦相手は、あの駆逐艦なのか?しかも、すでに10冊以上リーマンを読んでいて、始めの頃に読んだ駆逐艦本は、もはや頭のなかでエピソードが混ざってしまっている。
 悲劇ははなから折り込み済みなので、できれば格好良い「ロマンチックな愚か者」を堪能したいところなのだが、そこはリーマンなので、今回は極めつけにイヤな身内の敵、ライトナー司令官が終始同乗している。これがとにかくイヤなやつ。そして、ライトナーがユダヤ人の富豪を殺害して略奪した財宝と、それにまつわる様々な欲と思惑。妻の不貞を知っているヘヒラー、それに関わりのある艦医、ゲシュタポに妻を拘束された副長。巌のようにあるべき艦長とその副長を悩ます心の揺らぎ。心と意志を一つにして強固に団結しているべき艦に入り込むきしみ。まるで靴の中に入った小石のように、いらいらチクチク、異物感が半端ない。

 そこに艦に同乗する女性パイロット。まあ、恋に落ちるよね。リーマンだもの。負傷して艦長室を病室にするエリカと、彼女を見舞う艦長ヘヒラー。見ぬふり、聞かぬふりで廊下を見張る歩哨の様子に、いかにヘヒラーが部下に慕われているかを感じる。前半はとにかく煮え切らず、ぐだぐだと悩んでいる様子だったヘヒラーも、英国海軍との戦闘に及んでは、鉄の鉄たる所以を示し、そして彼の船、ドイツの重巡洋艦は、戦い敗れて大西洋に沈むのだ。艦に与えられた命令は、名誉の「自沈」。しかし、ヘヒラーは、総員退艦を命じ、自らも沈むプリンツ・ルイトボルトを見送る。
 捕虜となり、ヘヒラーは英国の捕虜収容所で終戦を迎える。やがて、荒廃した祖国に戻った彼を待っていた者が。ヘヒラーとエリカが、どのような戦後を生きたのか、その物語の予感で物語は閉じる。

2020年9月7日月曜日

0221 砲艦ワグテイル(創元推理文庫)

書 名  「砲艦ワグテイル」
原 題  「Send a Gunboat 」1960年
著 者 ダグラス・リーマン
翻訳者 高橋泰邦
出 版 東京創元社 1982年2月

 ついに出た(´∀`)。伝統のアル中艦長!初っ端の危機には、気弱で屈折した退役間際の副長ファローが思いの外いい奴で、泥酔したロルフ艦長を渾身で世話してくれたのでホッとした。いやあ、命令書持って参謀が来艦というのにいきなりの艦長ご乱行で、どうなる事かと(冷汗)。
 はっきりと年代は書いていないが、女王陛下の砲艦(HMG?)と名乗っているからには1952年(エリザベス女王の即位)以降か。そういえば、ロルフが朝鮮戦争にも参戦したらしいことが書いてあったので、1953年以降、ほど近い頃の話だと思う。酒に逃げる余裕があるのが平時の証かもしれん。同じ寝取られでも「輸送船団を死守せよ」のマーティノーが苦悩を抱えたまま自沈攻撃に及んだことを考え合わせると、泥酔して艦をドッグの側壁にぶつけるのは平和のなせる技かもしれないし、アル中艦長は戦争中のモチーフではないのだろうな。何はともあれ面白い。リーマン、流石です。
 WW2終結後、勢力拡大と固定化を図る中国共産党(いや、今もか?)。台湾の先、陸地にほど近い国民党旧勢力が支配する小島に、入植した英国人の小集落がある。中共の動きが怪しいので事を構えずに英国人を脱出させたい。ロクな港もない小島に接近できるのは、退役間際の河川用砲艦である老艦ワグテイル号。艦長は何かの事件を起こして軍法会議の末に左遷されてきた男である。
 さて、この男、乗艦してすぐにタチの悪いアル中と知れる。
 もう二度と飲むまい、と決意する側から酒の誘惑。艦長の社交には酒がついて回るし、ロルフがグラスを持つ毎の、読んでるこちらの緊張感と言ったらない。
 しかしこの男。
 酒さえ入らなければ、冷静沈着、勇猛果敢な生え抜きの海軍士官なのだ。
 酒に溺れた原因は、心の底から愛して、崇拝していた妻の浮気。生真面目一本な男には辛すぎた現実。こんな男を癒やすのは、戦いと女しかない。なにしろリーマンだし。そんなわけで、彼には過酷な成り行きが用意されている。艦長が一人で艦をはなれて中共が侵攻して戦闘状態の島に潜入したり、女を助けたり、海を必死で泳いだり、そんな艦長に、一人の忠実な少年が付き従ってすんでのところを助けたり。と冒険活劇モードがふんだんに盛り込まれています。そして、アル中から立ち直った彼の側には、美しい女性が。リーマン節です。

0220 掃海艇の戦争

書 名  「掃海艇の戦争」
原 題  「In Danger's Hour」1988年
著 者 ダグラス・リーマン
翻訳者 大森洋子
出 版 早川書房 1993年

 世間の耳目を集める大型の作戦ハスキー作戦やノルマンディー上陸作戦の影で、味方の艦船が作戦遂行できるようにするため、ひたすら下働きの機雷除去を続ける小型艦。上陸作戦を仕掛ける攻撃艦や兵士を運ぶ上陸用舟艇のためにまず海路を開かねばならない。機雷原を隊列を組んで進み、機雷を除去。一歩間違えれば触雷し、海底に沈む数多の艦船の後を追うことになる。
 小型とはいえ80余名が乗る掃海艇の艇長イアン・ランサム少佐28歳。志願予備役の将校で戦時だけの軍人だが、部下と艦を愛する錬達の艦長である。年の離れた弟が地中海で戦死したとの報に胸が潰れる思いを押し隠し、冷静に艦を指揮する。個性豊かな乗組員の悲喜こもごもを交えつつ、そんな部下をまとめて、育て上げ、誇りにすら思う、ランサム少佐の情の深さが読みどころ。そのような彼の姿が、新任の副官の目を通して語られる。
 この副官、中将の一人息子で、もちろん将来を嘱望されている。しかし、潜水艦には不適、と判断され、大型艦で艦長に上り詰めるにはちと、何かが足りない。そんな息子に父親が敷いたレールが、小型艦の副官から艦長に昇任させる、というもの。よってランサムの掃海艇ロブロイ号への配属は、明かに本人ではなく父親の野心付き。この父親、女癖が悪いようで、掃海隊の指揮官であるブリス中佐とは、女絡みの因縁があるもよう。当のハーグレイヴ大尉は、予備役士官や、小型艦のあれこれに偏見を持ちがちではあるが、生来の素直さ、生真面があって素直にランサムに感化されて、副長職を勤め上げるまでに成長していくのも見所のひとつ。

 さてそんなランサムの秘めた恋の相手は、10歳も年下の牧師の一人娘のイブ「俺のかわいいお嬢さん」。なんと相思相愛の純愛である。さすがの年の差・立場の差に、世間体を案じた両家の思惑で長年引き裂かれていた二人。イアンを想い続けていたイブと、艇長にまで出世して、年の差は如何ともしがたいが、なんとか世間的には釣り合いが取れてきた?イアン。
 愛の成り行きは初々しく、手を繋いだり、頬にキスをしたり、万感の思いを込めてぎゅっと抱きしめたり。甘酸っぱいことこの上ない。それでも、彼女の純真な想いはついに実る日を迎えるのだ。そのとき、まさにD-deyの直前。そして、ついに彼の艇は危機を迎えることになる。
 イアンの部下の航海長、元機雷処理士官シャーウッドの人生模様と、ずっとイアンの心を支えていたに違いない、彼が愛する大型ヨット〈バラクーダ〉号も、物語の背景にあって、準主役級の存在感を示していた。派手さはないけど、手堅くてよい物語です。

2020年8月28日金曜日

0219 志願者たちの海軍

書 名 「志願者たちの海軍」 
原 題 「The Volunteers」1985年 
著 者 ダグラス・リーマン 
翻訳者 高永洋子
出 版 早川書房 1990年4月

 カナダ人の予備役大尉で航海長のフレイザー、警察官から海軍入りして小型艇に乗り組みたかったアイブス、掃海艇乗務から機雷除去のエキスパートになって、聖ジョージ勲章まで受けたアランビー。志願の動機は生き甲斐、やりがい、はたまた生存戦略。3人の男達が集ったのはオールダンショー少将麾下の特殊部隊『ブロザローの海軍』。
 ハスキー作戦の前哨戦から始まり、Dーdayを経て終戦までを闘い抜く、戦争が日常の男達の群像。どこか薄幸そうだったアランビーは恋人を喪いついに報われず。酷薄な陸軍士官の描写にリーマンの海軍びいきがちょっと鼻につくのは仕方ないか。フレイザーは少佐に昇進したのに、アランビーが置き去りなのは可哀想ではないか。主役に甘く、脇役にとことん薄情なのもリーマンのお約束? 今回の女性は、婚約者を喪った女性(婦人部隊大尉)と、その部下の、弟を機雷処理の失敗で喪った婦人部隊員。機雷処理に当たっていたのはアランビー。「あなたは逃げられたんですね」との言葉に打ちのめされるアランビー、そしてその上司のリンに唐突に一目惚れするフレイザー。ちと唐突過ぎるけど、一目惚れもリーマンの作風と言えよう。

2020年8月23日日曜日

0218  燃える魚雷艇

書 名 「燃える魚雷艇」 
原 題 「A Prayer for the Ship」1958年 
著 者 ダグラス・リーマン 
翻訳者 中根 悠
出 版 徳間文庫 1988年2月

 記念すべきリーマン処女作。さすがに若い頃の作だからか、翻訳の違いなのか、描写が丁寧。
 主人公クライヴ・ロイス中尉、志願予備役でなんと任官3ヶ月目の20歳!このまだ未熟な中尉が魚雷艇に着任するところから始まり、一人前の魚雷艇艇長に成長するまでを、もちろん恋愛付きで、懇切丁寧に描写してます。
 彼が尊敬するハーストン艇長もまた若い。23歳。ですがすでに歴戦の勇士の貫禄を備え、ロイスを導き、艦を指揮する。小さな魚雷艇のこと、士官は艇長と先任の二人のみ。あとは下士官と水兵。つまり、ロイスは初心者なれど先任士官なのだ。激しい戦闘の中で、ハーストン艇長がロイスに艇を託して絶命。その後ハーストンには一人妹がいたことが判明。もちろん、ロイスにとって忘れられない女性となる。後任の指揮官はカービー少佐でこれが教条主義のイヤなやつ。カービー指揮下で闘う中で、ついに被弾し艇を喪う時がくる。ドイツ軍トロール船を道連れにしたものの、ロイス自身も重傷を負って死にかける。ここまでが前半。
 救助→治療→回復の過程の描写も丁寧で、後のリーマンが用いる、断片的に情報を提供して読者の想像にぶん投げる手法はまだ見えない(笑)。

 さて、後段は、百戦錬磨の魚雷艇乗りとして自艇を操るロイスの活躍と、恋愛模様。大尉に昇進し、殊勲賞を受け、最新のフェアマイル型魚雷艇を預かる艇長としての成長が語られる。
 ハーストン艇長の妹ジュリアと恋仲になり、クリスマスにジュリアを乗せてちょっとした冒険もしたりして。ドイツ駆逐艦やEボートとの激しい戦闘。港への帰還。突堤で入港してくる艇隊を見つめるジュリア。再会と抱擁。
 処女作とはいえ、やはりリーマンの全てが詰まってました。(正し、不倫と未亡人をのぞく(笑))。なにしろ主人公達が若いから!青春モード全開でした。

2020年8月9日日曜日

0214  起爆阻止

書 名 「起爆阻止」 
原 題 「Twelve Seconds to Live」2002年 
著 者 ダグラス・リーマン 
翻訳者 高沢次郎 
出 版 早川書房 2004年3月

 リーマン御大80歳、35作目の作品で、年寄りの昔語り宜しく筆の遊ぶまま悠々自適な書きっぷりである(笑)。細かく時間を刻んで話が前後するので読んでいると迷子感が半端ないが、とりあえず面白い。
 主人公デイヴィッド・マスターズ少佐は老成して見える29歳。
 時折触れる頬の傷跡。元潜水艦乗り。かつて新造艦の指揮官として出航、港の鼻先で初潜行しようとしたその時、触雷して艦が沈没。まだ艦橋にいたマスターズは海に投げ出されて助かったが、部下は全員が艦と運命を共にした。一人生き残った罪悪感。喪ってしまった初めての指揮艦と年若い部下達。港は掃海してあったはずだった。
 死んだ部下達への贖罪から機雷処理の道を選び、危険な現場で働く部下達を常に思いやり、時には体を張って守る。マスターズはそんな人。
 もう一人の主人公は現部下のモーターランチの艇長フォーリー。そしてもちろん恋愛もある。だってリーマンだし、必需品なのだ。フォーリーの恋人はマスターズの潜水艦で死んだ乗組員の妹で、マスターズの運転手を務める婦人部隊員。マスターズだって当然恋愛する。だってリーマンだから。さてそんなマスターズが陸から海に戻った命がけの特殊任務。ラスト、主人公は死なないリーマンだと信じていたのに海に浮かんで動かないマスターズの描写に胸がきゅっとなる。
 後段、フォーリーは昇進し最新型の機雷敷設艇の艇長に。彼はマスターズの部下なのだが、マスターズが特殊作戦に組み込まれたため、ラスト数ページに至るまでほとんど作中での絡みがない。あそこにフォーリーの艇がなければ、マスターズは間違いなく死亡してたはず。いろいろと語られていない部分も含め、全部リーマン御大の頭の中ではうまく収まってるんだろうな、と感じる。それでもマスターズが滅法格好良いし、フォーリーも頑張ってるし、とにかく面白かった。
 原著のTwelve Seconds to Liveは、機雷の雷管が作動してから爆発するまでの設定時間のこと。ドイツの機雷は一番爆破の効率が良いとして12秒に設定されていたとか。もし機雷が作動してしまったら、この12秒で全速力で逃げ、物陰に身を伏せなければならない。そうそう上手くいくわけではなく、多くの機雷処理士官と兵士が、命を落とした。リーマンが繰り返しテーマに据えたモチーフである。

2020年8月6日木曜日

0213  国王陛下のUボート

書 名 「国王陛下のUボート」 
原 題 「Go in and Sink!」1973年 
著 者 ダグラス/リーマン 
翻訳者 高永洋子
出 版 早川書房 1985年10月

 なんと、英国軍艦Uボートである。英国にとっての幸運と、ドイツにとっての不運が重なり、ほぼ無傷で、拿捕されたUボート。ドイツはこの潜水艦が沈んだとは思っていても、英国に獲られたとは知らない。この僥倖をどう利用すべきか。
 作戦は、大西洋、太平洋を荒らし回るUボート群の補給を担う大型補給潜水艦〈ミルヒクー〉を沈めることから始まる。抜擢されたのは、歴戦の潜水艦乗りスティーブン・マーシャル少佐。
 さてとりあえず今回の据え膳、死んだ親友の妻ゲールがダメだ。地中海で夫の指揮する潜水艦が消息を絶つ。おそらくは機雷。後から帰還したマーシャルが弔問に訪れた時にはすでに再婚して転居済み、相手はエリート士官のシメオン中佐。それなのにマーシャルを呼びつけて、死んだ夫ビルと結婚したのはマーシャルが結婚してくれなかったから、今も私、あなたが好きなの。でも私は家庭が欲しかったのよ。それってそんなに悪いこと?だから今の夫と結婚したの。でもあなたがその気なら・・・・って、なんだこの女?こんなすえた膳食ったら腹壊すって。
 でも、ご安心あれ。ホントのヒロインはもう一人の方。亡命フランス人だが、フランスに残った夫がドイツ軍に協力して新形兵器を作っているらしい。夫と接触し、情報を得るためにマーシャルのU−192に乗って、イタリアへの潜入を図る。今回色事は控えめなれど、英雄気取りはいらないって散々言ってるくせに、彼女を助けるために上陸作戦に及ぶ潜水艦の艦長ってどうなの?でもまあ、これは戦記ではなくて冒険小説だから。。。
 生意気な気取り屋航海長が戦闘中に死ぬのもリーマン的お約束。シメオンとはマーシャルが中佐に昇進して、部下ではなくなった途端に、腕力でぶちのめし、ある種の理解に達したようなのは良かったのか。シメオンの方がどう考えても先任だろうに、階級がそろった途端に殴るはタメ口になるは。行儀の悪い艦長だよ。
 とにかく、ハヤカワにしては珍しくもタイトルで成功していると思うこの一冊。『国王陛下』で時制もOK、意外性でつかみもOK。英国軍にもその存在を知られず、ひとたび海にでれば、英国軍からドイツ軍からも攻撃されかねない、というまさに四面楚歌な状況下で、この見た目も恐ろしい、かつては宿敵であったはずの自艦を愛すべきか、当初気持ちを扱いかねていたマーシャルのラストの台詞が効いている。
 激しい戦闘で回復不能な損傷を受け、微速で航海するU192。放棄するか曳航するか、との英駆逐艦からの問いかけに
 〈国王陛下ノU192ハ、艦隊二復帰スル〉

2020年7月29日水曜日

0212  黒海奇襲作戦

書 名 「黒海奇襲作戦」 
原 題 「Torpedo Run」1981年 
著 者 ダグラス・リーマン
翻訳者 池 央耿
出 版 早川書房 1984年12月

 陸(おか)での久しぶりの休暇だったのに、司令部に呼ばれて死んだ戦友の任務の引継ぎを命じられるドゥヴェイン少佐27歳。高速魚雷艇の艇長。その亡くなった戦友の妻が彼に逢いにくる。さあ、リーマンお約束の据え膳だ。彼女の悲しみを癒やすために二人でパブに入る。ロンドンの夜を襲う空襲。ショックを受けた彼女を横抱きにしてホテルに入るいやはやの展開。リーマン節に抜かりなし(笑)。まだ作戦も始まってないぞコラ!これまでに読んだリーマンで一番早い色展開である。
 主人公は絡み金筋の予備役士官組だが、魚雷艇5隻を率いて闘う局地防衛戦の英雄。新聞紙面を飾ったこともある。
 そして次の戦場、黒海へ船も人も中東経由で陸路移動。地図帳もしくは地球儀必携。ヨーロッパと中東と中央アジアの距離感を再確認する。ドイツ支配地域を交わして黒海入りするには、そういうルートになるのか!
 黒海のソ連基地をベースに、ソ連軍と協力して側面からドイツを脅かし、ソ連のドイツ侵攻を援助する為の特殊作戦。ドイツ側もあらたに魚雷艇戦隊を派遣してきた。そこに配置された敵は、奇しくも散々ドーバー界隈で名前を売っていた宿敵リルケのEボート戦隊《ゼーアドラー》。名前を聞いただけで格好よく感じてしまうのは銀英伝の影響か?今回は、珍しく敵の輪郭がはっきりしている。部下達や同僚のべリズフォードとの関係性は気持ちよく、協力するソ連側将校は得体も底も知れないが、どうやらドゥヴェインを気に入ってくれているらしい。チームワークよくやっていけそうなのに、そこを削りにくる身内の敵、無能で教条主義な上官。極限の前線で制服の着こなしや帽子のかぶり方に因縁をつける士官はろくでもないに決まってる。隠密行動上等の“名無し”状態で、5隻見分けがつかなかった魚雷艇にでっかく船体に番号を描かせたのが、その後の囮に利用するための布石だったとしたら、この男やはり許せない。
 重傷を負い一端戦線離脱、戦友の真の自殺理由が明らかになり、僚艦を失い部下達は戦死していく。前線の悲哀であるが、ラストは冒険小説の王道。リーマン節。

2020年7月20日月曜日

0210 大西洋、謎の艦影

書 名 「大西洋、謎の艦影」
原 題 「Rendezvous – South Atlantic」1972年
著 者 ダグラス・リーマン
翻訳者 高永洋子
出 版 早川書房 1984年7月

 接収した豪華な貨客船を改装した武装商船巡洋艦が主役。
 武装して妙な姿になっている上、戦闘でほとんど上部構造をぶっ壊された挙げ句火災で真っ黒焦げ、しかも国旗でも海軍旗でもない奇妙な旗を掲げた「謎の艦影」。

 助けに駆けつけた僚艦からの問いかけは、〈貴艦ハ何者ナルゾ?〉と問われる。 シリアスな情景なのにそこはかとなく可笑しい。
 艦長はリンゼイ中佐33歳。大西洋輸送船団護衛で、ご丁寧に往路と復路でそれぞれ撃沈された経験を持つ。最初の護送船団護衛時は、自分の指揮下での戦闘中のことだし、自艦は沈没したものの、多くの乗員は退艦して、近くの商船に移ることができた。しかし船団の行く先、ニューヨークはまだ戦争を知らぬ賑やかな異世界で、今も空襲にさらされている祖国との解離に衝撃を受け、さらに英国への復路、乗客として乗った商船が、Uボートに沈められる。助けようとしたユダヤ人の幼い兄弟は、リンゼイの腕の中で死んでいった。この体験の衝撃からは回復しがたく、リンゼイはPTSDの辛い日々を送っていた。

 そんな彼に当てがわれたのが正体定まらぬベンベキュラ号。

 最初は屈辱感で一杯だったリンゼイだが、やがてこのおんぼろ艦が愛おしくなってくる。
 副長以下の多くが、商船だったころの乗組員。こちらも過去の栄光にすがって、愛する船が戦艦に改装されたことを受け入れられない。そんな部下を脅したりすかしたりしながら、一人前の軍艦乗りに仕立てあげ、さらには過酷な戦闘に向かっていく。そこに加わるさまざまな人間模様。もちろん恋も。

 華やかなりしころの商船が忘れられない副長ゴスに船内パーティーを開催させたり、候補生をその父である准将からかばったり、リンゼイの優しさが光るリーマン節。生真面目な正義感から、候補生の父親でもある准将と対立し、体よく艦を取り上げられそうになる。その准将は、なぜかベ号を旗艦に選び乗艦してくる。恨みを買うような、整備不良になりかねない嫌がらせをしておきながら、自分が乗り込むってどうなの?とは思わんでもない。ひょっとして、整備や補充の足を引っ張ったのは准将の仕業で、その艦に准将が乗り込まざるを得なくしたのは、准将に腹を据えかねた他の参謀の差し金か?

 ベ号乗員の意趣返しも小気味よく、身内の敵には鉄槌が下されるのも安定のリーマン流。

 なんとか身の安全を図りたい小心な准将であるが、武装商船だろうが、どれほど武装や装甲が貧弱だろうが、軍艦という名を戴く以上、先頭で闘う気概のリンゼイ。そして、艦内ともなれば、艦長が最高権力者である。

 ところでリンゼイ、なんだかんだで出世が早い。33歳で大佐に昇進した。まあ、不幸な事故までは、護衛船団の先任艦を務めていたんだから、出世頭ではあったのか。

2020年7月17日金曜日

0209 アドリア海襲撃指令

書 名 「アドリア海襲撃指令」 
原 題 「To Risks Unknown」1969年 
著 者 ダグラス・リーマン 
翻訳者 高津 幸枝
出 版 早川書房 1994年1月

 地中海で高速魚雷艇戦隊を指揮してきた男が、惨い経験を経て草臥れたコルベット艦の艦長に任命される。ジョン・クレスピン少佐(27歳)は、失望や期待やもろもろを胸に畳んで新たな任務に臨む。その彼を指して
「ファイルを読んだところでは、ちょっと盛りをすぎたって感じですかな。正規の士官だというのに、与えられたのはあんなおんぼろコルベット艦だけでうからね」と言う参謀士官。
 ジョン・クレスピンは地中海で高速魚雷艇戦隊を指揮していたが、ある作戦で味方の船は全滅、部下達と海中を漂い、励まし合いながら夜明けを待っていた。ところが、現れた艇に救助されると思いきや機銃掃射を浴びせられ。
 次々と仲間が殺され、なんとか生き残った二人の部下と夜明けに海岸に泳ぎ着き、そのあと3日間砂漠を彷徨うことになる。陸軍の斥候隊に発見された時には、部下が死んだことにも気付かずに担いでいた。
 そんな過酷な体験を経て、与えられた次の艇はくたびれたコルベット艦。それまで指揮していた魚雷艇と比べたら、酷使された足の遅いコルベットは、格落ちも甚だしい。《シスル》号(あざみの意)というからには例のフラワー級コルベットである。

 だがしかし、この艦は、ある任務のために特殊部隊司令官のオールダンショー少将が特に手にいれたものだったし、クレスピンの任命も、かれの輝かしい軍歴を買ってのものだった。

 任務は小規模な奇襲と陽動、現地抵抗組織との協働。現地指揮官はかなりクセのある人物。やがてそれは、単なるクセでは片付けられない危険な兆候となる。
 功名心あふれる上官の無謀な作戦立案のもと、無口であまり感情を見せない彼が、部下や現地の人々にも心を寄せて行動していく。戦争小説としても冒険小説としてもこれは骨太で面白い。エピローグの余韻はなんとも言えず、切なさを感じる。

 翻訳の高津幸枝氏は、「舵中央」にミジップ、「前進全速」にフル・アヘッド、等、英語の操舵号令のルビを振ってくれているので、その気になって声にだすとなお楽しいぞ。

 お約束の主人公の恋人は人妻でも未亡人でもない、まともな美人が相手の恋愛路線で安心、と嵩を括っていたら、これまた大変なことに。彼の子供を身ごもっていたのに、イギリスに帰還する飛行機が行方不明に。おそらく撃墜。どこまでもクレスピンが痛ましい。それでも折れない。どれほど心が痛めつけられても、一人でも多くの仲間を救うべく、目は海図とジャイロを見つめ、操艦を命じ、戦時の軍人の生き様を見せてくれる。

 とはいえパルチザンの口を借りて、「こんなに愚直なまでに、しかも我が身の安全を顧みずに誠意を重んじるのは、英国人だけだ!」と言わせるリーマンの自画自賛には、ちょっと噴飯ものだとも思ったが。バルフォアに聞かせてやったら〜?

2020年7月11日土曜日

0208 巡洋戦艦リライアント

書 名 「巡洋戦艦リライアント」
著 者 ダグラス・リーマン
翻訳者 大森洋子
出 版 早川書房 1998年

 レナウン級巡洋戦艦リライアント(レナウン、レパルスに続く架空の三番艦)が主役。もちろん艦長であるシャーブルック大佐39歳が表向き主人公なんだが、読んでいるうちに、この物言わぬ大艦が艦長に身を委ねている感じがひしひしとしてくる。

  シャーブルックは前の指揮艦だった巡洋艦ピラスを北極海で喪った。
  護衛航海中、遙かに火力に勝るドイツ巡洋艦3隻とたった1艦で交戦。救援に来ると言われていた味方の大型艦は現れず、ピラスは集中砲火を浴びて氷の海に沈む。乗員450名のうち生き残ったのは艦長含め8人のみ。 その後、怪我と喪失の痛手から回復したシャーブルックは、巡洋戦艦リライアントの新艦長として任命される。

 リライアントは、戦隊旗艦であり、ピラスが沈んだ時に救援に現れなかった巡洋戦艦の一隻だった。自殺した前艦長はシャーブルックの親友でもあり、親友の救援に駆けつけることができなかった自責の念が自殺に関係しているのか・・・とは、作中では言及されていないものの、十分考えられることではある。冒頭から因縁深い新艦長とリライアントである。

 戦隊旗艦であるからには、クセのある少将を頂き、艦の指揮権に干渉を受けつつも艦を掌握し、艦と次第に心通じる艦長。まるで小型艦を操縦するように巨大な巡航戦艦をコントロールする描写が良い。

 さてこのリライアント、作戦行動中に舵が効かなくなったり、機器が故障したりするやっかいなお嬢(この際、「老嬢」というのは余りに失礼)である。むろん、整備不良が原因の故障ではあるのだが、おかげで撃沈を免れたり、絶好の交戦海域に出たりする。
 艦橋でそんな彼女(の艦長イス)に手を添えたシャーブルックが「落ち着け、いい子だから。お前の言いたいことはわかった」と囁く。船の代名詞がsheで、無骨な戦艦が美女にたとえられるのが、これまで日本語の語感だといまいちピンとこなかったけど、リライアントは間違いなくツンデレ淑女。別に「艦これ」のシュミはないが、擬人化してもいいレベルでリライアントがかわいいと思える。

 艦隊司令である少将は、かつてシャーブルック、自殺した前艦長のキャヴェンディッシュと3人で、大尉としてリライアントに乗り組んでいたこともある人物で、人となりは知れている。武勲よりはあの手この手の世渡りと自己演出で出世してきた我欲の強い人物である。
 シャーブルックは口数は少ないが自分の主張は静かに通すタイプで、もちろん少将とは水と油。当初は静かに穏やかに少将を立てていたシャーブルックであるが、やがて対立が表面化するのは避けがたかった。

 さて、そんな艦隊司令と艦長を戴くリライアントはどうするのか。
 なにやら頑固な意志を感じさせるリライアントは、戦隊旗艦のくせして、最後は艦長シャーブルクと対立していた司令官を艦から叩き出したよ。あっぱれである。
 そして、その最後もまた、あっぱれだった。

2020年6月28日日曜日

0207  落日の香港

書 名 「落日の香港」 
原 題 「Sunset」1994年 
著 者 ダグラス/リーマン 
翻訳者 大森洋子
出 版 早川書房 1997年6月

 話は、戦闘の痛手を負ったちょいと影のある新任艦長が新しい指揮艦に乗艦するところから始まる。というもいつものリーマン節。
 今作の艦長はエズモンド・ブルック少佐29歳。
 スペイン内戦から逃れる人の救出作戦に従事中、モーターボートで避難民を輸送していて機雷に接触し艇ごと吹き飛ばされる。足に重傷を負い、2年軍を離れていたが、戦争による人材不足と本人の復帰要望が相まって駆逐艦勤務に復活、副長勤務を経て今回が初の艦長。酷い痛みは取れているらしいが、いまだに片足を引きずっている。
 奇しくも新たな乗艦はかつて新造艦だった時ブルックの父が艦長を務めた老艦サーペント。しかしまだまだ現役の、三本煙突の美しい駆逐艦である。サーペントには、かつてエズモンドの父が指揮を取っていたときに新前水兵だった男が操舵長を務めており、乗艦してきたエズモンドの姿に、かつて新造艦だったころの艦長の姿を見て涙ぐむ。
 艦長と同時に乗艦してきた航海長のカルヴァートは、もと戦闘機パイロットで、戦闘神経症で飛べなくなった男。ヴィクトリア十字勲章受勲者。香港への途中ジブラルタルで乗艦した士官は特殊部隊の爆発物操作のエキスパート。むしろこの香港行きは、彼を送り届ける為なのではないか?で、あれば爆発物専門家が香港で与えられる任務は何なのか。
 きな臭さ満載ではあるものの、大西洋を離れて、まださほど戦局が厳しくない香港への航海では局地戦すらなく、仕事といえば海賊相手の哨戒くらい。しかし、海賊と見えたものが実は海賊を偽装した日本軍であり、狙われた船は蒋介石軍に兵器を密輸していたことも判る。東洋の魔窟は英国人には難解すぎる。

 今回恋愛パートは二組の恋が同時進行。艦長の方は貞操の硬い東洋人女性相手なだけに、手を握る以上進展できないところも、なんか胸が苦しくてよろしい。もう一組は、これも心に傷を負っているカルヴァートである。愛し、愛されて癒やされていくのも、リーマン流。しかし、この二組の恋愛の結末は明暗を分けることになってしまう。
 エズモンドの方は、足を強打したのがきっかけで古傷が開き、艦を離れているときに大出血して倒れ、中国人富豪の娘リャンに助けられる。リャンの父の家で養生し、急速にリャンと接近するエズモンドであるが、実は彼女、かつてイギリス留学中に、今は香港基地の参謀を務めるエズモンドの弟のジェレミー(中佐)と恋仲だったらしい。
 しかも、エズモンドには以前婚約者がいたのだが、足の負傷が原因で、婚約者が将来性のある弟のジェレミーに乗り換えて結婚してしまった、という手痛い経験をしている。そんな体験が彼の足の怪我へのコンプレックスに拍車をかけていたのだが、醜い(とエズモンドが思っている)傷に目を背けずに手当してくれたリャンに心救われたのだ。一方のリャンもジェレミーが結婚してしまい失恋。この二人がくっつくって、まあ、安直な感じはないではないし、エズモンドは弟のお下がりでいいのか?と思わないでもないが、リャンが一途で素敵な女性なので、良いことにする。リーマンだしな。

 一方の航海長のカルヴァートの恋の行方は。
 再び操縦桿を握ったのに、恋人を喪ってしまい、日本海軍駆逐艦に特攻をかけたカルヴァートは、艦を救い、エズモンドの目前で散ったのだ。カミカゼ攻撃は日本軍の専売特許じゃなかったのか?

 パールハーバーの前後の国際情勢を英国視点で香港から眺めるこの話。日本軍の描かれ方はもっと酷くてもおかしくない。というか日本軍の香港侵攻とか全然知識が無かったので、もっと勉強せねば、と思った。ところで、エズモンドは艦長勤務より、艦長の目となり足となり艦内をまめに動き回らなければならない副長勤務の時の方が足が辛かったんじゃないかと思うのだが、よく勤まったな。怪我でリタイアや挫折を経験して、かなり老成していて、読んでいるイメージだととてもおっさんぽくって29歳若者の絵が思い浮かばない。それでも恋愛でちょっと周りが見えなくなったりしてカワイイところがあるし、周りがそれを承知しておおらかに祝福している感じなのも良い。全体的には、こういうのも悪くない、と思える東洋風味の作だった。

2020年6月21日日曜日

0206 輸送船団を死守せよ

書 名「輸送船団を死守せよ」
原 題 「For Valour」2000年
著 者 ダグラス・リーマン
翻訳者 高津幸枝
出 版 早川書房 2003年

 グレアム・マーティノー英国海軍中佐、33歳。生粋の駆逐艦乗り。
 一方的展開になった戦闘の中で輸送船団を守る為に自艦をドイツ艦に体当たりさせ、自艦は沈没、自身は負傷し、部下の大半は戦死。この英雄的行為でヴィクトリア勲章に叙勲され中佐に昇進、新しい指揮艦に着任するところからストーリーが始まる。
 実は妻が親友である副長と浮気をしていたことを知っており、部下と艦を犠牲にした自分の指揮は果たして正しかったのか、自分の感情が一瞬の判断に影響していなかったか、と深い疑念と後悔を胸の奥に畳んで、新たな艦と任務に望むマーティノー。噂が早い海軍なので寝取られ男であることはすでに新しい乗艦であるトライバル級駆逐艦ハッカ号の全乗組員が知っている。そして、重傷を負って入院していた、親友であり、妻を寝取った男でもあった副長の死亡の報。決して望んだ形ではないが、一つの決着。
 自艦を喪ったばかりの自分に新たな艦の指揮をとれるのか、ハッカ号の副長は次の艦長となると目されていた男で新艦長の着任は心楽しくないだろう、と諸々不安はあるが、それでも自分にできる海軍の流儀に従って、部下を信頼し、部下に自分を信頼させるしかない。

 『殊勲の駆逐艦』と筋立てが似ているという評もあるが、マーティノー艦長という個性は、『殊勲の駆逐艦』のハワード艦長とは違う人となりで、一回り逞しさがある。ラストの海戦ではまた自沈攻撃しかけるんじゃないか、とかなりハラハラしたが、最後まで自艦を守り闘い抜いたところも上々な読み応えだった。

 『殊勲』のハワード艦長はどちらかというと神経が細やかで繊細な人柄で、戦争神経症一歩手前で踏みとどまっている必至さと、それが恋人の存在に癒やされていくところも読みどころだったけれど、マーティノー艦長はもうすこし逞しく、安定感があるところが魅力的である。
 どちらも共通して良いと思うのは、戦闘中に艦自身と意思が通じるような一体感を感じる瞬間が描かれているところ。リーマン節といえば、影のある男(艦長)と過去のある女が定番というが、この本ではそんなにイチャイチャしてません。念のため。

2020年6月16日火曜日

0205 殊勲の駆逐艦

書 名 「殊勲の駆逐艦」 
原 題  「KILLING GROUND」1991年 
著 者 ダグラス・リーマン
翻訳者 大森洋子
出 版 早川書房 1996年 

 英国海軍のG級駆逐艦グラディエイターを指揮する艦長、デイヴィッド・ハワード少佐(27歳)。Uボートが跋扈するまさにキリング・グラウンド、大西洋ですでに長く護送船団の護衛を務めている。直近の任務の後イギリスに帰り着き、今は艦の解体修理と補給を終えたところ。前回の護衛任務は、40隻の船団で米国を出発し、イギリスに辿りついたのはたったの13隻だった。その航海の労苦が、まだ若いはずの艦長の顔に影を落としている。そして、グラディエイター号に届いた次の命令は、「北ソ連」向け輸送船団の護衛だった。(なんてーこった。ユリシーズと同じかよ!と、私の心の声。)

 まずは、艦隊の集合地である北の港にむかう。
 それすら、ノルウェーがドイツに獲られて沿岸の制海権がドイツに移っている北海では、気の許せる航海ではない。やっと、アイスランドのレイキャビク港に入港。休暇中のほっと息抜きできる場所すらも陸(おか)の盛り場ではなく、自艦の艦尾にある艦長室であるという内省的なハワードは、作戦行動中は使用しない艦長室にやっと向うことができた。艦長室では、従兵ヴァランスが艦長の為に部屋のストーブに火を入れ、フロを沸かしてくれている。ヴァランスは、艦長の深い疲労を見て取り、この若い艦長が自分たちを港に連れてきてくれた、これからも自分たちを導いてくれる、と信頼を深める。この信頼関係が海軍物を読む醍醐味だ。

 さて、休暇中や陸の上での人間関係と、海の上での作戦行動を交互に描くのがリーマン流。
 この北海の輸送船団で戦闘中に散った航空機パイロットの妻(未亡人)がおもむろにストーリーに絡んでくる。リーマンとくれば、一目惚れと不倫。ちゃんとハワードが彼女に一目惚れするのは、もはやお約束。とにかく、一瞬にして、彼女シーリアは彼の忘れられない人になってしまうのだ。
 北海の後は、再び大西洋。
 第一次大戦の戦傷で体が不自由になっていた父が、空襲の犠牲となる。父が亡くなったという一報をハワードにもたらしたのは、シーリアの父である将官だった。父の訃報にショックをうけるハワードの手に渡されたのは、英国海軍伝統のホースネック。この飲み物を用意した従兵は、ハワードに父の訃報が伝えられることを知って、ハワードの艦の従兵ヴァランスにハワードの好物を問い合わせ、急いでこの飲み物を用意したのだった。

「これが必要だった」とハワードは従兵に感謝を告げる。
 
 敬愛する父の死と、親しい友の艦が次々に目の前で沈められていく戦争の過酷さに、ハワードの精神もだんだん追い詰められていく。
 戦闘後に手の震えが止まらなくなり、副長のトリハーンは震えるハワードの手を掴んで、彼の代わりにパイプの世話をしてやる。副長も、年若く繊細でもある艦長の精神が次第に壊れていくのを見守るしかない。止めの一撃になったのは、かつてのグラディエイターの副官で、ハワードの親友でもあるマラックが艦長をつとめるコルベットが血祭りに上げられたこと。あろうことか、Uボートはコルベットを航行不能にした上で海に浮かべておき、救助にくる僚艦の囮としたのだ。
 マラックのコルベットは救援に駆けつけたグラディエイターの目前で撃沈された。打ちのめされるハワード。

 ハワードの精神的危機を案じた上官のヴィッカーズ大佐は、ハワードに短い休暇を取ることを命じる。そのまま艦の指揮権を奪われ、傷病を理由に陸に上げられるのではないかと抵抗するハワードに、ヴィッカーズは、ハワード不在中は、自艦がオーバーホールに入って指揮する艦がない自分が先任士官として代理でグラディエイターの指揮を取る(つまり、後任人事はしない)と説き伏せる。無理矢理休暇に出されたハワードを迎えたのは、恋人となっていたシーリア。わずか9日間の二人だけの時間。愛し合い、語りあい、心の澱を吐き出すことで、ハワードは心が満たされ、癒やされていく。おとぎ話のようではあるが美しい。

 休暇から戻ったハワードは、副長がおどろくほど自信に満ち、逞しく、安定していた。そして中佐への昇進。ハワードもまた、グラディエイターを離れて、次の階梯に進まねばならない。また、グラディエイターは護衛艦への改修も決定されていた。せめて、愛するグラディエイター号を信頼する副長の手に委ねたいと願うハワードであるが。

 グラディエイターの最後の航海となったのは、機械のトラブルで航行不能となった病院船の救助。病院船は、それと分かるように煌々と明かりをつけ、赤十字マークを照らし出しているものだが、電源を喪失した大型船はそれもできず、大洋のただ中で、大きな標的でしかない。乗員は500名以上の傷病兵たち。船を守れるのはグラディエイターだけ。
 Uボートの接近を察知し、病院船とUボートの間に回りこむグラディエイター。まるで艦自身が意志したかのように、病院船の身代わりとなって、グラディエイターはその身に魚雷を受けたのだった。

 負傷し、苦痛に喘ぎながらも総員を退避させ、ハワードは、救命いかだから沈みゆくグラディエイターを見守る。グラディエイターは、ハワードと別れることを拒み、護衛艦へ改修されることを拒み、誇り高い駆逐艦でありつづけようとしたのか。

 第二次大戦中、激戦を闘い抜いた英国海軍G級駆逐艦の一隻の、最後であった。