2021年1月27日水曜日

0254 死線のサハラ 下  (ハーパーBOOKS)

書 名 「死線のサハラ 下」 
原 題 「House of Spies」2017年 
著 者 ダニエル・シルヴァ
翻訳者 山本 やよい 
出 版 ハーパーコリンズ・ ジャパン  2018年7月 
初 読 2021年1月29日 
文 庫  384ページ 
ISBN-10  459655093X 
ISBN-13  978-4596550934

 サラディンのテロ活動を支える莫大な収入源である、モロッコからヨーロッパに流入する麻薬取引。
 そのヨーロッパ側の受け口となり、マネーロンダリングを受け持つのがジャン・リュック・マルテルだった。この男を支配下に置くために、ガブリエルは大がかりな偽装作戦を展開。まずはマルテルの愛人であるオリヴィアを攻略した。そしてマルテルを脅迫して強引にサラディンに繋がる細い道をこじ開ける。時はすでに夏になっていた。
 マルテルから得た情報で、サラディンの麻薬密輸船を3隻拿捕し、大損害を与え、サラディンが動かざるをえない状況を作り出す。しかし、その作戦で思わぬ展開が生じる。
 押収した船の積み荷から、大量の麻薬だけではなく、高純度の放射性セシウム(塩化セシウム)粉末が発見されたのだ。これが示すところは、今後の欧米での自爆テロに、放射性物質が使用され、ヨーロッパの主要都市が放射能で汚染されるということだった。

 サラディン阻止の重要性が飛躍的に高まり、合衆国も静視していられなくなる。
 ガブリエルが立案実行している作戦に米国が介入を、というか横取りを仕掛けてくるが、ここで政治的手腕も発揮して自分の戦場を守り、かつ米国のテクノロジーを利用できるように交渉し、かつ、米国CIA内で地位を失いつつあった盟友のエイドリアン・カーターの失地回復まで手を回す。このあたりの丁々発止もかなり面白い。

 舞台は、モロッコに移り、潜伏するサラディンを追いつめる。
 前線においた作戦本部で直接指揮を執るガブリエルだが、誰がどう考えても自分でサラディンに手を下すことしか考えていない模様。本人以外の全員が、内心、長官が前線で危険な作戦に身を晒すことにいささか閉口しているが、まったく意に介する様子もなく。
 サラディンの爆弾テロ活動は、そもそもがガブリエルの親しい友人であった女性を殺害されたことに端を発し、すでに2回もガブリエル自身が爆弾テロの巻き添えを食っている。イスラエル諜報機関の現役最古参に違いない暗殺工作員(キドン)の怒りは静かに深く、激しい。

 今回は、美術修復のシーンがなく、絵画絡みの場面が少ないのが残念ではあるが、ジャン・リュック・マルテルの記憶から、ガブリエルがサラディンの似顔絵を描きおこすシーンがでてくる。その後の閣議でも退屈のあまり、ノートに似顔絵をいたずらがきしているガブリエルである。そうか〜、退屈するといたずら描きしちゃうのかあ、とおもわずクスリとなる。
 ガブリエルの長官執務室と、生まれ故郷のイズレイル渓谷にほど近い隠れ家に飾られた絵の中にも、ガブリエル自身の作品があるようで、それにもなんだかうれしさを感じる。

 ラストはその年の11月。婚約指輪をして幸せ一杯のナタリー、シャムロン邸で行われたのはナタリーとミハイルの婚約記念パーティーか?
 大勢の客人を室内に残し、静かなバルコニーで、シャムロンとガブリエルが言葉少なく語り合う。

「子供のころのわたしは」やがてシャムロンが言った。「いくつも夢を持っていた」
「わたしもそうでした」ガブリエルは言った。「いまも夢を持っています」
 西からそよ風が吹いてきた。古の戦場だったヒッティーンの方角から。
「あれが聞こえるか?」シャムロンが訊いた。
「何が?」
「剣のぶつかる音、死にゆく者の悲鳴」
「いえ、アリ、音楽しか聞こえませんが」
「幸運な男だ」 
「ええ」ガブリエルは言った。「わたしもそう思います」

 ガブリエルが、穏やかにシャムロンと語りあい、イスラエルとアラブを巡る国際情勢に心を配り、自分を「幸運な男」と表現する時が来たのか、と感慨深いラストだった。

0253 死線のサハラ 上  (ハーパーBOOKS)

書 名 「死線のサハラ 上」 
原 題 「House of Spies」2017年 
著 者 ダニエル・シルヴァ 
翻訳者 山本 やよい 
出  版 ハーパーコリンズ・ ジャパン  2018年7月 
初 読 2021年1月26日
文庫  376ページ 
ISBN-10  4596550921 
ISBN-13  978-4596550927

 ガブリエルの〈オフィス〉長官就任から2ヶ月。時は2016年2月、冬の終わりの頃。(だと思われ。)
 米国では、新政権が誕生している。(トランプ政権誕生が2017年1月。おっと、現実世界と1年ズレたか?)
 
 ワシントンに誕生した新政権が、親イスラエルであることを、歓迎すべきかどうか。

 “前大統領との関係は最悪だった。新大統領はワシントンとイスラエルの絆を強めると約束し、さらには、アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移すとまで言っている。そうなれば、アラブとイスラム世界に激しい抗議の炎が燃えあがるだろう。”

 イスラエル国内には、新しい米大統領の強引なイスラエル寄り路線を歓迎する向きもあるが、ガブリエルはそれに対するアラブ世界の反発を警戒している。油断すればアラブの反動の中にイスラエル一国が取り残されることになる。
 新長官となってまだ2ヶ月。決して穏やかとは言えない航路を、ガブリエルは慎重に舵取りしなければならない。毎日深夜になるそんな彼の帰りを、エルサレムのフラットで妻のキアラがカウチで小説を読みながら待っている。

“キアラがカウチの端にすわっていた。開いた本が膝にのっている。ガブリエルは彼女の手からそっと本をとりあげて表紙を見た。イタリア語に翻訳されたアメリカのスパイ小説だった。
「こういうのは現実の人生だけで充分じゃないのかい?」
「小説のほうが現実よりはるかに魅力的だわ」
「主人公はどんな男?」
「良心を備えた殺し屋よ。あなたにちょっと似てるかな」

キアラ、それはもしや“グレイマン”という通り名の殺し屋が出てくる小説ではないか? ガブリエルにちょっと似ているかどうかは置いとくとして。

 そういえば、今回多分これまで読んだ中で初めて、ガブリエル自身の作品が登場した。もっとも美術学校時代に描いた絵のようだけど。母やリーアの作品に交じって、自分が描いた絵も長官室に掛けてあって、なんだか嬉しい。

 前回の作戦でサラディンを取り逃がし、欧州各国ではテロへの恐怖と緊張が続いている。そんな中、次に狙われたのはロンドンの繁華街。千人以上の犠牲を出す同時多発テロが発生する。複数の犯人は逃走もしくは爆死。手がかり皆無な中、ガブリエルは英国、次にフランスに出向き、再度サラディンを捉えるための共闘を持ちかけるが。またしても爆弾テロである。
 今度狙われたのはフランス諜報機関の〈アルファ・チーム〉の本拠地ビル。おりしもガブリエルはそこで、〈アルファ・チーム〉のチーフ、ルソーと作戦協議中だった。3巻連続で爆弾テロに遭遇するガブリエルである。
 今回は肋骨を数カ所折り、腰椎にヒビが入る重傷。本当に怪我が多い人だ。やり過ぎじゃないか、シルヴァ? しかし、復讐心に燃えるガブリエルは痛みに耐えて行動を開始する。
 シリアの独裁者から盗んだ金を豊潤に使い、大規模な偽装作戦を仕掛ける。
 だがしかし、一つ気になるのは、ガブリエルの手駒の少なさ。
 役者はいつもの顔ぶれだ。ナタリーなんて、完全に面が割れているのではないだろうか?エリ・ラヴォンなんて、ガブリエルとは40年来のおしどり夫婦なみ。その他の面々も度々作戦に顔をだしている。ほんとうにこれで目ざとい敵を欺けるのか? ガブリエルの負傷の多さと相まって、若干リアリティに欠けるような気がするのが残念ではある。
 でもまあ、ガブリエルが素敵なので不問に処す。以下下巻へ。

2021年1月25日月曜日

本という「物質」も好きだ。

本屋で表紙が文字通り輝いていた。
あまりに美しいので、傷をつけまい、と思って薄紙のブックカバーを掛けようと表紙を剥いたら、本体がまた美しかった。
久しぶりに本の質感にうっとりした。黒に赤の差し色。


2021年1月24日日曜日

0252 ブラック・ウィドウ 下 (ハーパーBOOKS)

書 名 「ブラック・ウィドウ 下」 
原 題 「The Black Widow」2016年 
著 者 ダニエル・シルヴァ 
翻訳者 山本 やよい 
出 版 ハーパーコリンズ・ ジャパン  2017年7月 
初 読 2021年1月24日
「ラッカ?何をとち狂ってるんだ?」

 静的な上巻にくらべて、にわかに事態が動き出す下巻。
 急遽ガブリエルが飛んだワシントンで面会したCIA作戦本部長のエイドリアン・カーターが毒づく。
 ISISに潜入したナタリーを守るため、毎日ラッカに対して行われている米軍と有志連合による空爆を控えて欲しいと要請する。カーターは、若干恨みがましく米国への連絡が最後になったことに苦情を呈するものの協力を約束し、今後は情報を逐一米国にも寄越すよう要請。
 シリーズ最初から登場しているカーターは、ガブリエルとは古い友人でもあり、何回も協力してきている。いざとなれば捨て身で相手の為に尽力するガブリエルを信頼しており、見返りを求めず行動するガブリエルの性格が、返って大きな見返りとして現在、各国情報機関間の信頼と協力関係をもたらしている。
 そんな友人の言葉。
   「子供たちは元気か?」いきなり訊いた。 
   「さあ、どうかな」 
   「大事に育てろよ。きみの年じゃ、これ以上子供を作るのは無理だ」 
   ガブリエルは微笑した。 
   「いいか、わたしは十二時間のあいだ、きみは死んだものと本気で思ってたんだぞ。あんなまねをするなんて、あんまりじゃないか」 
「ああするしかなかったんだ」 
「それはわかる。だが、次のときは、わたしに断ってからにしろ。わたしは敵ではない。きみの力になりたくてここにいるんだ」

 ガブリエルは・・・・・65歳か? そういうエイドリアンは何歳なのか知らないが、65歳という年は、荒事に手を染める現役工作員としては年が行きすぎているし、これから彼が乗り出す政治の世界では、まだまだ若輩、と言えなくもない。

 ナタリーは潜入したシリアで、米軍の爆撃により重傷を負ったサラディンの治療を行うことになる。この辺りの展開が意外だが、敵にも人格を与えることでリアリティと緊迫感が高まる。最初の接触を終え、無事にフランスに戻った後は、数ヶ月にわたる待機。さすがのガブリエルも焦りが出てくるが、やがてナタリー=ライラが動き出す。行き先は米国。サラディンは、フランス大統領訪米に合わせて9.11後最大のテロを合衆国に仕組んでいた。
 そして、ガブリエル達の努力も空しく、攻撃は実行に移される。最初の標的に選ばれたのは、ガブリエル達が詰めている「国家テロ対策センター(NTCT)」だった。
ピアノを弾くマルグリット・ガジェ

 それにしても、ここでまたしても爆弾テロの現場に居合わせるガブリエル。この次の『死線のサハラ』でもそうだからね。未訳部分も含めてシリーズ中何回爆弾テロに居合わせるのかしらんが、「○回爆弾テロに遭って死ななかった男」としてギネスブックに載るだろう。
 自爆ベストを着せられたまま行方を追えなくなったナタリーの救出と、さらなるテロの阻止、しかし、肝心の米国側組織はテロの波状攻撃で大混乱中。結局最後に現場に立つのはガブリエルとその腹心たちとなる。今作は「英国人」の出番がないかわりに、ミハイルが滅法格好よい。テロは阻止できなかったがたった一人の女は救い出す。

 すっきり悪を倒して一件落着しないのがこのシリーズで、今回はサラディンの勝ち。しかし、正体を見破られて処刑直前だったナタリーは辛うじて救出した。作戦自体は苦い結末だが、少なくともガブリエルは子供達の元に戻ることができたし、遂にオフィスの長官の座に上る日が来る。就任の日の祝賀パーティーは、双子達の満1歳の誕生日祝いも兼ねていた。また、精神病院に入院したままの最初の妻リーアにも子供達を面会させた。ラファエルを膝にのせ、火傷でねじれ固まった手で抱きしめるリーアを見つめるガブリエルの目が涙で曇る。子供達が生まれ、新しい家族とどんなに幸せな生活があろうとも、リーアとダニの悲劇はそのままだし、自分だけが幸せになる罪悪感が薄れることもない。

 ちなみに、後書きによるとゴッホの「鏡台のマルグリット・ガジェ」は存在しないとのこと。替わりに実在する「ピアノを弾くマルグリット・ガジェ」をアップしておく。時価1億ドル以上のこの遺贈品を、ガブリエルはイスラエル博物館に寄贈する。条件はだたひとつ。イスラエル博物館が存在する限り、所有し続けること。イスラエルが永続する願いが込められているように思えてならない。
 

 
 


2021年1月20日水曜日

0251 ブラック・ウィドウ 上 (ハーパーBOOKS)

書 名 「ブラック・ウィドウ 上」
原 題 「The Black Widow」2016年 
著 者 ダニエル・シルヴァ 
翻訳者 山本 やよい 
出 版 ハーパーコリンズ・ ジャパン  2017年7月 
初 読 2021年1月20日 
 

 パリで頻発するユダヤ人迫害事件に抵抗して、一人のユダヤ人女性が講演会を企画した。講演会の当日、彼女は会場ビルで会の出席者もろとも爆弾テロの犠牲になる。
 殺されたユダヤ人女性はかつて、ガブリエルの作戦に協力したことがあり、身よりのない彼女は自分の所蔵するゴッホ(時価1億ドル相当)の相続人に、ガブリエル・アロンを指名していた。
 犯人を追跡し、さらなるテロを防ぐため、フランス情報部のチームリーダー、ポール・ルソーは〈オフィス〉に協力を要請する。ゴッホと引き換えに名指ししたのはガブリエルだった。
 当のガブリエルは、自分の「死後」表舞台から退き、4ヶ月の間、エルサレムの自宅で最愛の妻キアラと生まれたばかりの双子アイリーン、ラファエルとの束の間の家庭生活を送る一方(本人の言うとことの育児休暇)、イスラエル博物館の保存修復ラボで、ローマ法王庁から委託された例のカラヴァッジョ《キリストの降臨》の修復作業に没頭していた。そして、やっとカラヴァッジョの修復が終わったかと思えたその日、ウージ・ナヴォトに召喚される。なかなか現場を引かせてもらえないガブリエルは、友人であった女性と彼女のゴッホのために、フランスとの共同作戦を引き受けることに。

 ガブリエルは部屋の入り口に立ち、片方の肩をドアの枠にもたせかけて、壁面にゆっくりと視線を走らせた。どの壁にも絵がかかっている。ガブリエルの祖父の作品が三点。その三点だけがようやく見つかったのだ。それから母親の作品が数点。また、若い男性を描いた肖像画の大作もある。こめかみに早々と白髪が交じり、疲労のにじむやつれた顔に死の影がつきまとっている。・・・・・・子供たちがいつの日か、この肖像画に描かれている苦悩を湛えた若い男性のことを、そして絵を描いた女性のことを尋ねるだろう。

 度々作中に登場する、ガブリエル自宅の寝室の壁の 絵の描写である。
 ガブリエルの祖父はドイツで高名な画家だったが、ナチスの迫害でその作品はほとんどが破壊されて失われた。肖像画は「神の怒り作戦」直後のガブリエル、描いたのは最初の妻リーアである。私としては、ガブリエル自身の作品がないのが残念。ガブリエルは自分が描かれた肖像画を見ながら物思いに沈む。

 子供たちは自分を憐れむだろうか。怖がるだろうか。怪物、殺人鬼だと思うだろうか。・・・・・この絵は本当の父さんじゃない————子供たちにはそう答えることにしよう。こういう人間にならざるをえなかったんだ。父さんは怪物でも殺人鬼でもない。おまえたちがこの場所で暮らせるのも、今夜、この国で平和に眠っていられるのも、父さんみたいな人々がいるおかげなんだ。

 再び父親となった感慨からか、若い工作員を育てているからか、この巻ではガブリエルの記憶が語られるシーンが多い。そしてそのどれもが苦い。 

 ISISへ潜入させる工作員としてガブリエルがスカウトしたフランス系ユダヤ人のナタリーに、自分の少年時代を語るシーンがある。(父については、どこかでアウシュビッツの生還者だと読んだ気がしていたが、ここでは違う説明になっている。)父に対して思慕が感じられないのはなぜだろう。一方、母についての思い出も心温まるものではない。ガブリエルの口から、アウシュビッツでの体験からイスラエル移住後も心の平穏を得ることができなかった母の思い出が語られる。母はほとんど笑うことがなかった。気持ちの浮き沈みが激しく、鬱を繰り返していた。一度だけガブリエルが母に戦争の時のことを尋ねたら早口で曖昧な言葉でアウシュビッツ時代の事を話したが、そのあと何日も寝込んで重度の鬱状態になった。それ以降、家で二度と戦時中の話はしなかった。「悪魔を起こさないよう、母の前では静かにしていなくてはならないことを、わたしは子供のころに学んでいた。 」自分もおのずと内向的で孤独な人間になった。。。。。等々

 これまで、イスラエルという国家をどう捉えるべきか、考えあぐねていたが、そして今でもこの地域の混沌をどのように見るべきか、迷いつつ読んでいたりするのだけど、ホロコーストを経験したユダヤ人が、自分たちを自分たちで守ることができる民族国家、主権国家をどれほど切望しただろうか、ということは、日本にいる限り絶対に理解がおいつかないだろうと思う。国や家族を守る為には殺人も行う、やられれば復讐する、というガブリエルの切実かつ強烈な意志に圧倒される。かつてイギリスの三枚舌外交に翻弄され、今はアメリカに翻弄されているとしか見えない民族と土地と聖地に、これ以上の血と混乱がもたらされないようにするにはどうしたらよいのだろう。

 さて、私は人物を読むのが好きなので、ついガブリエルの心情に目がいってしまうのだが、作品自体は立派なエスピオナージ物なので、ちゃんと諜報戦をやっている。

上巻は、自身で“ブラック・ウィドウ(黒衣の未亡人)=テロリストに仕立て上げられた、異教徒との戦いで愛する恋人や夫を失った敬虔なイスラム女性”となる潜入工作員に育て上げる訓練過程と、遂にISISの本拠地ラッカにナタリー=ライラが入り込むところまで。そして、ガブリエルは合衆国へ向かう。

 

2021年1月18日月曜日

0250 イングリッシュ・アサシン―美術修復師ガブリエル・アロンシリーズ(論創ミステリー)

書 名 「イングリッシュ・アサシン―美術修復師ガブリエル・アロンシリーズ」 
原 題 「The English Assassin」2002年 
著 者 ダニエル・シルヴァ 
翻訳者 山本 光伸 
出 版 論創社 2006年1月 
初 読 2021年1月17日 
単行本 386ページ 
ISBN-10  4846005577 
ISBN-13  978-4846005573

 爆弾テロ、多過ぎである。いったいこのシリーズで、ガブリエル・アロンは何回爆弾テロに遭遇するのだろうか?
 両腕に怪我をして、特に右手は腱の状態が良くないからきちんと手術をしないと動きが悪くなるだろう、とまで医者に言われて、しかもその後で散々ボコられてぼろぼろにされるし、これまでコートランド・ジェントリーのことを負傷の多い奴だと思っていたけど、ガブリエル・アロンはコートのはるか上を行く。

 さて、最近ではハーパーブックスから出版されているガブリエル・アロンシリーズであるが、こちらは論創社より出版されているシリーズ最初の4冊のうちの2冊目。ヨーロッパにおける現代史の暗部。ナチスとどのような関わりを持ったか、というテーマは、ヨーロッパ各国の記憶の深部に横たわる十字架だ。スイスに秘匿された、ナチスの隠し財産。フランスのユダヤ人から収奪された多くの美術品が、スイスに流れ込み、現在も個人の所蔵家や銀行の地下金庫に秘匿されている。戦中、ナチスの協力者だったある銀行家は良心の痛みに耐えかね、自分が秘蔵している元はユダヤ人から略奪された名画の数々を、秘密裏にイスラエルに返還しようとする。しかし、それは彼の「仲間」にとって許すベからざる裏切りだった。

 イスラエル諜報組織側がスイスの銀行家ロルフの元に立てた使者は美術修復師のガブリエル。名画コレクションを所蔵するコレクターである銀行家を訪問するには格好の人選だった。しかし、ガブリエルが訪問したとき、銀行家はすでに死体になっていた。そして、殺人への関与を疑われたガブリエルは警察に正体を見破られ、拘束されてしまう。

 シャムロンの手配で難を逃れたガブリエルは、失われた絵画を探すために、ロルフの娘であるヴァイオリニスト、アンナと逢う。さらにロルフの美術顧問をしていたパリの画商を訪れると、画商が爆弾テロの標的にされる。危険を察知して現場を離れつつあったガブリエルの頭上にも爆風で割れた周囲のビルの窓ガラスが降り注ぎ、頭部をかばったおかげで両腕に負傷。医者を連れて支援に出張ったウージ・ナヴォトと落ち合い、その場で治療を受けるものの、きちんと手術をやり直さないと右手に支障がでるだろうと警告される。しかし、作戦の渦中でのんびり治療に専念できるわけもない。ガブリエルはそのまま追跡を続行。
 著名なバイオリニストであるアンナ・ロルフもガブリエルに協力し、やがて、ある銀行の貸金庫に収められたロルフのコレクションを発見して、英国の画商イシャーウッドの元に運び込むことにひとまず成功する。ガブリエルは、さらに隠されているはずの美術品と、それを所蔵しているナチスと繋がるスイスの地下組織を暴く為に突き進む。

 この地下組織が、ガブリエルを抹殺するために雇ったのがコルシカの殺し屋。仕事を請け負った「英国人」はガブリエルの殺害に動くが、ガブリエルの動きを追ううちに、自分が請け負っている仕事に疑問が生じて・・・・・
 この「英国人」、コートランド・ジェントリー並みの「お人好し系」である。隠しきれない人の好さと、紛れもない技術と、自分の意図とは無関係に組織からこぼれ落ちてしまった悲哀がまた、グレイマンぽい。そしてラストでは頼まれもしないのに、ガブリエルの仕事を人知れず肩代わりするあたり、美味しいところをさくっと持っていっている。コルシカ島の庇護者にも、友人(この本ではまだそこまで到達していないけど)にも恵まれるこの「英国人」は、そういう意味ではグレイマンよりかなり幸せな奴である。

 さて、地下組織の根城に乗り込もうとしたガブリエルは、裏をかかれて殴り倒されてつかまってしまう。殴る蹴るの拷問を受け、その惨状は例えるなら作品『拷問室の男』。自分を客観視するときにはついキャンバスに描かれた絵を想像するところがガブリエルらしいっちゃ、らしい。協力者の力で命からがら脱出はしたものの、負傷は全身に及び・・・・・書かれていなかったが、右腕のガラスによる裂傷もちゃんと再治療したんだろうな? テルアビブで治療を受け、イギリス、コーンウォールの海辺の自宅コテージに戻るのに3ヶ月の時間を要した。なんというか・・・・本当に、この人、怪我が多い。そして、すっきり悪を倒して一見落着、ということにならないのも、ダニエル・シルヴァらしい幕切れである。そんなに単純に事はおさまらない、だけど時間は進んでいくし、傷は時間に癒やされるものでもある、という哲学めいたものを感じないでもない。(←かなり無理がある。)
 
 ハーパーBooksのシリーズは14作目以降なので、ガブリエルは次期〈オフィス〉長官に内定していて、作戦についてもどちらかといえば指揮官であったり、作戦そのものも頭脳戦・諜報戦だったり、地味に落ち着いている感じがそれはそれでイイのだが、このシリーズ冒頭の作品群ではまだ、ガブリエルはシャムロン麾下の一介の「暗殺工作員(キドン)」であり、ストーリーも相当荒事寄りなようだ。とはいえ、外見上年齢不詳なガブリエルも実は50歳だったりして、あまり無茶はさせないで欲しい、とつい思ってしまう。それから、商売道具の利き手は大事にして!(あと、いくら年齢不詳とはいえ、五十男にしては台詞廻しが軽い。なんか親に反抗するティーンエイジャーみたいで、もうすこし落ち着いた感じに訳出できなかったものかと。。。。)

2021年1月16日土曜日

0249 英国のスパイ (ハーパーBOOKS)

書 名 「英国のスパイ」 
原 題 「THE ENGLISH SPY」2016年 
著 者 ダニエル・シルヴァ 
翻訳者 山本 やよい 
出 版 ハーパーコリンズ・ ジャパン  2016年7月 
初 読 2021年1月15日 
文 庫 616ページ 
ISBN-10 4596550298 
ISBN-13 978-4596550293

 英国元皇太子妃暗殺と、イランの核開発と、因縁のIRAの爆弾テロリストの追跡と、ロシアのSVR(エスヴェーエル)によるガブリエル・アロンの暗殺計画をからめ、そこに「英国人」クリストファー・ケラーの人生の仕切り直しを盛る、という大盤振る舞い。

 カリブ海でイギリスの元皇太子妃が乗っていた船ごと爆殺された。MI6長官のグレアム・シーモアは調査に乗り出す。
そこに、イスラエルが誇る諜報機関〈オフィス〉の長官であるウージ・ナヴォトから電話が入る。
 「そちらでお捜しの男をわれわれが見つけたかもしれない」
 「誰なんだ、その男は」
 「古い友達」
 「そちらの?それとも、こちらの?」
 「おたくのほうだ。われわれには友達はいない」
 ・・・・イスラエルが「われわれに友達はいない」と言うときの含意に凄みがあるよなあ。
 ナヴォトが差し出した書類に記載されていたのは、因縁のリアルIRAの爆弾テロリストに関する文書。かつてこの男を排除するために、〈オフィス〉はMI6に作戦を持ちかけたことがあったが、英国側に拒絶された。再度協力を申し出るナヴォトにシーモアが出した条件は「ある男」が計画を担当することだった。かくて、出産を控えた妻との穏やかな生活を望んでいるガブリエルに、新たな作戦が提示される。しかし、それは巨大な罠の入り口だった。
 シーモアは絵画修復に携わっているガブリエルをローマに訪ね、ケラーの身柄をネタに協力を迫った。ガブリエルが作戦を引き受けたのはケラーの為だった。作戦に協力し、シーモアの力でケラーを英国人として復活させようと考えた。
 そしてガブリエルはケラーと共に爆弾テロリスト、クインを追い始める。ケラーにとっても、クインは因縁深い敵だった。北アイルランドでの捜索から始ってクインの足跡がリスボンに繋がり、リスボンから英国へ。追跡しているつもりが、クインに英国におびき寄せられて大規模な爆弾テロの標的にされたのだと気づいたのは、ガブリエルが爆弾に吹き飛ばされた後だった。ここから、怒濤の逆転劇が開始される。
 クインの背後に、ガブリエルに恨みを抱くロシアがいることが分かり、さらにイスラエル諜報機関が情報源としていたイランの男も、ロシアに操作されていたことが判明。そして、爆弾テロリスト・クインは、かつてウイーンで息子ダニを殺した爆弾の設計に協力していたことが知れ、作戦はいよいよ個人的な復讐の色を帯びてくる。

 前作は流血少なめで、絵画詐欺と金融詐欺の大がかりなフェイクが楽しい軽めのエンタメテイストだったが、今作はかなり血が流れる。ガブリエルの冷酷な暗殺者ぶりも際立つ。情報を引き出すのに自白剤なんて使わない。足の先の方から銃弾を撃ち込んでいき、情報をよこせば痛まないようにしてやる、と脅す。そして必要な情報を引き出したら楽にしてやる。
 一方で、ガブリエルの情の厚さや義理堅さも。見ず知らずの母子を助けるために爆弾の前に飛び出してしまったり、友人の「英国人」ケラーの人生や人間関係を修復させてやるべく尽力したり。ガブリエルがコーンウォールのコテージで隣のコテージに住んでいた男の子を可愛がっていたエピソードは切ないし、ロシア人暗殺者とアイルランド人テロリストに蹂躙された後の大切なコテージにしばしたたずむ姿が悲しい。

 さて、ラストは、作戦終了後のイスラエル。
 自分の留守中に、イスラエルの自宅でキアラが生まれてくる子どもの為に子供部屋を整えていたのを見て、大切な時間を一緒にいてやれなかったことを後悔するガブリエル。キアラが描いた子ども部屋の壁の雲の絵を自分で描き直すことにして、壁を塗り直しティツィアーノ調の雲を描き、そこに男の子の天使の絵を描き入れ涙ぐむ。震える手で亡くなる前、最後に見た息子の顔を描き、自分のサインと日付を入れる。
 そして、妻がついに出産の時を迎え、呆然自失してほとんど役立たずになるガブリエル(笑)。
 今度こそ、彼に幸せな時間が訪れますように。

2021年1月11日月曜日

0248 亡者のゲーム (ハーパーBOOKS)

書 名 「亡者のゲーム」 
原 題 「THE HEIST」2014年 
著 者 ダニエル・シルヴァ 
翻訳者 山本 やよい 
出 版 ハーパーコリンズ・ ジャパン  2015年7月 
初 読 2021年1月13日 
文 庫 584ページ 
ISBN-10 4596550018 
ISBN-13 978-4596550019

 論創社から出版されていた『美術修復師ガブリエル・アロンシリーズ』の続刊にあたる。ただし、5作目から13作目までは翻訳されておらず、本邦未刊。

 イスラエルの諜報機関といえば、言わずと知れた“モサド”であるが、この作品の中では公称はなく、所属する人間からは単に〈オフィス〉と呼ばれている。
 主人公は美術修復師を表向きの職業、というか本職としているガブリエル・アロン。ドイツ系ユダヤ人の家系に属し、著名な画家だった母方の祖父をはじめ、一族がアウシュビッツで殺されている。イスラエルの美術学校で画家として才能を磨いていた青年時代、その才能とドイツ語に堪能であることを買われ、ドイツに潜入する工作員としてスカウトされて、テロリストの抹殺に暗躍する暗殺者となる。
 紆余曲折があり、組織からは一時離れていた時期もあったが、現在は〈オフィス〉の次期長官として内定しており、残るわずかな日々を妊娠中の妻とベネツィアで、教会の祭壇画の修復の仕事を請けおいながら穏やかに過ごしていた。ちなみにスカウトされたのが1972年のミュンヘンオリンピック事件※直後で、シリーズ第2作『イングリッシュアサシン』(2002年)時点でガブリエルは50歳との記述があり、この作品『亡者のゲーム』には爆弾テロで殺された息子が生きていれば25歳、との記述。たぶんこの時点ではアロンは60歳前後のはずだが、読んでいると、台詞回しもフットワークも非常に若々しい。しかし、〈オフィス〉の次期長官であるからには、すでに老練といっても良い域に入っているスパイと考えるべきなんだろうな。

ミュンヘンオリンピック事件(または「黒い九月事件」)とそれに対するイスラエルの報復「神の怒り作戦」。アロンはこの報復作戦の実行メンバーだった、という設定で、「黒い九月事件」の実行犯12人のうち6人を直接殺害した、とされている。実行に当たっては「黒い九月事件」で殺されたイスラエル代表オリンピック選手とコーチ11名のための報復として、一人殺す度に11発の弾丸を撃ち込んでいた、という。この任務を完了したのち、あらためて画家としてのキャリアに立ち戻ろうとしたが、その頃には絵をかける精神状態ではなくなっていた。そこで、絵画修復の道に入った、というのがこの話の前景。 

 「美術修復師」と「秘密工作員/暗殺者」をどのように融合させるのだろうと、読むまで不思議だったが難なく一つの人格にまとまっている。殺伐とした諜報の世界に生きるガブリエル・アロンにとって、絵画修復は自己の精神の修復にもかかわる作業で、この両輪が回ってこそ、イスラエル諜報機関の凄腕工作員として、強靱な精神力を発揮することができるのだろう。
 しかし、表稼業も裏稼業もその道では隠れようもないガブリエルが、いくら慎重に行動しているとはいえ、殺されずにその両方を全うしているというのは、不思議ではあるな。

パオロ・ヴェロネーゼ『栄光の聖母子と聖人たち』
サン・セバスティアーノ教会 祭壇画420 x 230 cm
 冒頭に、ガブリエルが取り組んでいるサン・セバスティアーノ教会の祭壇画についての記述があるが、すっごい誤植(?)発見。(P25) パオロ・ヴェロネーゼが教会の壁画を描いたのは1956年ではないだろうよ。私が読んでいるのは古本で手に入れた第一刷だが、二刷以降は修正されているのだろうか?びっくりだ。ちなみに、その絵がこれ。→

この美しく色鮮やかに修復されたフレスコ画が、イスラエル最強の暗殺者ガブリエル・アロンの手になるものだなんて、と思わず人知れずムフフ、となっている観光客がいるのだろうか?

サン・セバスティアーノ教会


















祭壇全景
これらはホンのプロローグ部分なのだが、なにしろ私のようにハーパーブックスで初めでシリーズに触れるような人間には、主人公ガブリエル・アロンの精神性を知る上で良い情報だ。

 と、いうのも、翻訳小説の例にもれず、このシリーズも最初4冊が論創社から刊行され、うち2冊はすでに絶版。Amazonマケプレでは高値の花と化し、5作目から13作目までは未訳。この「亡者のゲーム」はなんと14作目だ。これ以降はいまのところ、順調にハーパーブックスから刊行されている。このままハーパーブックスさんにはがんばってほしい。とにかく、売れない、とか翻訳権の問題とかいろいろあるのだろうが、翻訳小説を巡る状況は、作品にとっても、読者にとってもきわめて残念な状況なのだ。やはり英語を勉強しなおして、自力で原著を読むしかないのか? だけど私は翻訳を読むのが好きなんだよ。原著を読むのと同じくらい、「翻訳者」の仕事を読むのが好きなのだ。

 さて、脱線はここまで、として。
 サン・セバスティアーノ教会で修復作業にかかっているガブリエルに、カラビニエリの美術班の指揮官フェラーリ将軍から「裏仕事」方面の依頼が入る。むろん、ガブリエルの素性を知ってのことだ。引退してイタリアで美術関連の事業をしているイギリス元外交官の殺害事件の調査である。これに巻き込まれたのが〈オフィス〉の協力者であり、ガブリエルの旧友でもあるイギリス人美術商であるからには、断ることもできない。そして、この惨殺された英国人を追うと程なく、この男が世界でもっとも有名な盗難絵画の一つであるカラヴァッジョ『キリストの生誕』の盗品取引を手がけていた噂がある、という情報を得る。
《キリストの降誕》
 物語前半は、大がかりな盗難絵画詐欺、そして後半は〈オフィス〉の作戦になるシリア独裁者の隠し資産を追うこれまた大がかりな金融詐欺のような諜報戦となる。この前後の作品のことはまだ知らないが、これまでの作品で登場したかつての敵は今の友、的な顔見せ、オールスター出演で、必殺仕事人のよう? エンタメ色満載でサービス過剰なくらいであるが、思いのほか派手なドンパチにはならない。
 かつて、ヨーロッパから中東にかけて血の雨をふらせ、各国の諜報機関からも危険人物とマークされている暗殺者が、ついに組織のトップに上り、自分で大規模作戦の指揮をとるに及んで、一国の独裁者を破滅させるような罠を張り巡らしながら、一人の女性を救うために、それをあっさり放棄する。
 他の作品をまだ読んでいないから、あえていい加減なことを書くが、シリーズの中で、大天使ガブリエルの時代の幕開けともいえる転換点の作品なのかも、と感じた。
 右は、この本の隠れた主役? 盗難により失われたカラヴァッジョの「キリストの降誕」
 現実にはこの絵はいまだ発見されていない。

2021年1月10日日曜日

【訃報】『栄光の旗のもとに』著者H. Paul Honsinger氏 死去 昨年8月


最近、ホンジンガー氏の公式HPがアクセス不能となっていることに気づき、ツイッターのアカウントを確認したところ、娘さんからのツイートにより、2020年8月に、癌闘病中の新型コロナ感染による肺炎で死去されたとのことです。もともと糖尿病を煩っておられ、最近では昨年4月のツイートで癌が発見されたと報告されていました。健康状態については、このご本人のツイートが最後の消息でした。7月14日に、奥様の新刊が刊行される、とのツイートがありました。

新型コロナのことはなくても、病状は深刻な状態だったと想像します。ハイリスクであったのは間違いなく、それでも、まさか、ホンジンガー氏が新型コロナで奪われるとは思っていませんでした。
残念、などど言葉にするのもむなしい気がします。
ご冥福をお祈りします、と書けば良いのか。大切な人が去ったことを身の中に感じています。


彼の作品は素晴らしかった。
Man of Warシリーズの第2部、第3部も読みたかった。2巻目以降の翻訳が続いていないのが残念でなりません。自分が、ご本人を悼んでいるのか、作品を悼んでいるのかも良くわからない。とにかく無念です。どうか、今からでも、彼の作品を沢山の方が読んでくれますように。



2021年1月9日土曜日

0247 祖国なき男 (創元推理文庫)

書 名 「祖国なき男」 
原 題 「ROGUE JUSTICE」1982年 
著 者 ジェフリー・ハウスホールド 
翻訳者 村上 博基 
出 版 創元推理文庫 2009年11月 
初 読 2021年1月 日 
文 庫    288ページ
ISBN-10 : 448823903X 
ISBN-13 : 978-4488239039

 前作『追われる男』の続編。なんと前作から42年後、著者82歳での続編執筆とのこと。それだけでなんだか凄い、と思えてくる。
 さて話は、主人公“わたし”の親友であり、管財人でもあった弁護士のソウル・ハーディングによるプロローグから始まる。時は1942年。前作のヒトラー暗殺未遂に引き続く一連の事件が1938年の出来事であったことも判明。
 なんとゲシュタポに捕らえられた“わたし”が仮収監されていた警察署(?)が英国空軍の空襲により倒壊し、地下牢から脱出するところから始まる。あれ、ヒトラー暗殺の冒険活劇ではないの?またもや逃走劇なの?と思いつつ、この濃厚な一人語りは勢いで読まないときっと挫折すると思って読み進める。

「わたしはドイツの将兵には尊敬の念しか抱いたことがない。彼らにとって、自分たちが守るのは祖国であり、地獄から生まれた体制ではないのだ。」

 これも、戦後40年近く経ったからこそ、書けた一文かもしれないな。

 一つ疑問に思うのは、なぜ、3年の忍耐と偽装ののちに、ヒトラー暗殺を断念したのか。これだけ粘り強いのだから、初志貫徹したほうが何かをなせる可能性は高かったのではないだろうか。なぜ帰国し判りやすい(言うなれば安直に)戦争に参じようとしたのか。
 Ⅰ章で、頭の最初の危機———ゲシュタポによる逮捕拘留ーーーが、英国で参戦するためにスカンジナビア経由で帰国を目指したものの、ドイツのスパイとしてイギリスに拒絶されて送還された直接の結果だというのが、皮肉でしかない。ここから、怒濤の逃走劇が展開するわけだが。
 ロストク爆撃→シェチェン→アウシュビッツ→クラクフ・・・・なんだろう、この行き当たりばったり、口八丁手八丁でどこまでもいっちゃう感じは、どこかで、と思ったらヴォルコシガン・サガのマイルズ『戦士志願』と似ていなくもない、か? もっとも状況はこちらのほうが狂気じみていてかなり熾烈だ。そして、この強烈な生き残りに賭け、一人だけの戦争を続けるあり得ないほどの闘志がどこから生まれるのだろう。


2021年1月8日金曜日

0246 追われる男 (創元推理文庫)

書 名 「追われる男」 
原 題 「ROGUE MALE」1939年 
著 者 ジェフリー・ハウスホールド 
翻訳者 村上 博基 
出 版 創元推理文庫 2002年8月 
初 読 2021年1月8日 
文 庫 254ページ 
ISBN-10 4488239021 
ISBN-13 978-4488239022

 ポーランドで一人でスポーツハンティングをしていた英国貴族の“わたし”は国境を越え”隣国”に潜入する。そこでライフルのスコープに捕らえたのは“ポーランド隣国”の要人。しかし引き鉄を引くに至らず、かえって要人暗殺未遂犯として警備の秘密警察に捕らえられ凄惨な拷問を加えられる。殺害されるところをからくも生き延び、イギリスの貨物船に密航して帰国。しかし、某国の捜索の手は故国にまで伸びてきていた・・・・・ 
出版は1939年、舞台となっている時代はその数年前か。主人公も某国要人も某国の名前も明かされないが、「ポーランド隣国」がドイツであり、要人がヒトラーであろうことは読んでいるとわかる。 

 前半は某国からの逃走劇、中盤はイングランド南部ドーセットの農村地帯での野宿・潜伏、終盤は反撃からの快走。終盤までの閉塞感と重圧感がすごい分、終盤の反撃・逃走のカタルシスが圧倒的。
 最後に手記の結びとして、“わたし”はもう一度ハンティングを行う為、そして今度は都市部で中距離の速射でそれを行うため、某国に入国することをほのめかしている。これでは、後年書かれたという続刊を読まないわけにはいかない。


当時の世界史年表を抜粋
1925年 ヒトラー『わが闘争』
1930年 総選挙 ナチス躍進
1932年6〜7月 ローザンヌ会議(ドイツの賠償額が決定)
               7月 総選挙 ナチ党第一党となる
1933年  1月    ヒトラー内閣成立
        3月    全権委任法成立
1934年  8月    総統ヒトラー
1935年  3月    再軍備宣言
1936年  3月    ラインラント進駐
1937年11月日独伊3国防共協定成立
1938年  3月    ドイツ、オーストリア併合




2021年1月5日火曜日

0245 片目の追跡者 (論創海外ミステリ)

書 名 「片目の追跡者」 
著 者 モリス・ハーシュマン 
翻訳者 三浦 亜紀 
出 版 論創社  2004年11月 
初 読 2021年1月5日 
単行本 197ページ 
ISBN-10  484600516X 
ISBN-13  978-4846005160
 単行本だけど薄めで、行間広め。内容も軽めのソフトハードボイルド?というのだろうか。
 1960年代の作品で主人公は32歳。
 朝鮮戦争に従軍し左目を負傷。失明したわけではないが怪我した目をかばって強い光線を避け、眼帯やサングラスを着用するハンサムな私立探偵が主人公。
 退役後ニューヨーク市警に勤務ののち戦友とともに共同経営の探偵事務所を開業している。さて、その親友がある日消息を絶ち、行方を捜し始めるところからストーリーが始まる。
 調査中の横領事件と一件の家出の届出が絡んで、小粒ながら探偵物のミステリーの体裁であるが、なぜか始まる殴り合いに脈絡がない(笑)
 舞台と大道具がそろったところで、相棒がどこにいるかはピンときてしまったが、犯人はけっこう意外だった。細かいネタまで一つのストーリーにまとまり、構成はそれなりに良い。しかし時代性もあるのだろうが、出てくる女性がみなヒステリックでキーキーうるさいのに辟易(笑)。そして男はみんな浮気性。ちょっとステレオタイプ過ぎ? それに、相棒の失踪も、家出の届出も、大の大人が一晩帰ってこなかったくらいで、そこまで大騒ぎするもんかねえ?とちょっと不思議ではあったな。銀行のロビーとか、病院の待合とかで時間を潰すのに最適な軽めの読み物でした。

2021年1月4日月曜日

0244 ぼくのお姉さん (偕成社)

書 名  「ぼくのお姉さん」 
著 者  丘 修三 
出 版  偕成社  2002年9月  
初 読  2018年6月17日 
単行本  186ページ 
ISBN-10  4036524100 
ISBN-13  978-4036524105

 第一話の「ぼくのお姉さん」で、お姉ちゃんのひろちゃんが初めてのお給料で封筒を出すシーン、涙がこみ上げた。
 ダウン症という障害を得て生まれたひろちゃんを17歳になるまで一生懸命に守り育ててきた家族の、そこまで積み重ねてきた時間の重さ、大切さ。
 でも、この本を読んで思ったことがある。自分の思ったことを、口にできない。正しいと思ったことを行動できない。悪いと思っているのに謝れない。これだって、生きていく上では「障害」ではないか。
 障害は、知恵が遅れていること、しゃべれないこと、歩けないこと、だけではない。人が自分の心のままに、穏やかに、正しく、幸せに生きていくうえで邪魔をするものはすべて「障害」だし、そういう意味では人はみな大なり小なりの障害を抱えている。
 この本に出てくる、嘘をついてしまう子、いじめてしまう子、いじめをもっと弱いものに転嫁してしまう子、みんな苦しい心を抱えている。
 この本で出てくる子の中で、多分一番しあわせをたくさん感じているのはひろちゃんじゃないだろうか。人の「しあわせ」とはなんだろう、ということを考えずにはいられない。 

0242ー43 小公子・小公女 (新潮文庫)

書 名 「小公女」 
著 者 バーネット 
翻訳者 畔柳 和代 
 出 版 新潮社 2014年10月 
初 読 おおむかし 
ISBN-10  4102214038 
ISBN-13  978-4102214039

 子どものころ読んで、実はあまり感銘を受けた印象のなかったこの物語。いわずと知れた名作だけど、改めて読んだら印象が変わるかしら、と思って小公子とセットで入手した。で、読んでみたのだが。
 持ち前の気品と想像力で苦境を乗り越える、という大変に美しいお話であるはずだが、想像力が行き過ぎていてほとんど妄想の域に達してるし、高貴というにはセーラの言動が鼻につくんだよなあ。あと、セーラ父の人物像も気になる。
 昔も気になった気がするが今はもっと気になる。イギリス人で「大尉」で、ダイヤモンド鉱山に出資している相当の資産家。但し中産階級で、貴族ではないようだ。この人インドで何してるの? 軍務やってるのか? ああ、やはり私は素直に読めなかったよ。なぜだ〜!


書 名 「小公子」 
著 者 バーネット 
翻訳者 川端 康成 
出 版 新潮社 2020年6月 
初 読 おおむかし 
ISBN-10 4102214054 
ISBN-13 978-4102214053 

 『小公女』と違って、この本は小学生の頃から大好きだった。これまでも何回も読み返してほっこりしている。
 しかし、川端康成の訳がいまいち性に合わないのか、こちらがだいぶ人間的にスレたのか、どうも今回は素直に話が入ってこない。折しも丁度読んでいた『カメレオンの影』でジャクソンがセドリックのことを

「私に言わせれば、あの少年は退屈な女を母親に持つ、ばかげた格好をした、ただのおべっか使いよ」

と一刀両断(笑)
 前からうすうす思っていたけど小公子って、見た目が7割っていうか、もし彼が金髪の可愛らしいなりをしていなかったら成立しないよね。あれが赤毛の顔色の悪いソバカスガリガリ(赤毛のアン?)だったらどうなっていただろう、ビロードに白いレースカラーのお坊ちゃん服が似合っていなかったらどうなっていたんだろう、とつい考えてしまう。そして、領民に与え尽くして財産なくして没落貴族になる前に、ぜひセドリックには大学で経済学もしくは経営学を学んで欲しい、と切に願う。

2021年1月3日日曜日

0241 尋問請負人 (ハヤカワ文庫 NV)

書 名 「尋問請負人」 
原 著 「THE INQUISITOR」2012年 
著 者 マーク・アレン・スミス 
翻訳者 山中 朝晶 
出 版 早川書房 2012年5月 
初 読 2021年1月3日
文 庫 440ページ 
ISBN-10  4150412561 
ISBN-13  978-4150412562

 2021年初読みがこれかよ!
 な、拷問、流血満載のブラッディな本・・・・かと思いきや、拷問シーンはやや控えめか? もっともこれは読む人の耐性によるので、どうか信用はしないでいただきたい。以前、『アウトランダー』の読メレビューを読んで、「拷問シーンがリアルで」という書き込みが沢山あったので、ワクワクして読んでみたら全然たいしたことなかった、という経験の持ち主である。

 焼いて真っ赤っかなキリで突き刺す、とか刃こぼれしたカミソリで切開、とかなーんだ、たいしたことないじゃん?て人なら大丈夫。昨日、なぜかAmazonプライムビデオでつい観てしまった『ネイビーシールズ』は、電動ドリルで手の甲に穴、空けてたからな、あっちの方がよほどリアルに痛そう。映像なだけに(爆)
 しかし、そんなおどろおどろしい「お仕事」小説だというのに、どうしてこれが、初々しいというか、まるで青い初恋みたいな読み口である。なぜなら、主人公ガイガーがあまりにも初心(うぶ)だから。といっていいやら、良く分からんが、作中の表現に任せるなら

「彼は幼い子ども(リトル・ボーイ)だ」

そう、純真な子どものような精神状態のまま、拷問人に仕上がっているガイガーが、思いもかけない仕儀から己を取り戻していく物語なのだ。

 それにしても気になるのは、ガイガー父の“宗教”だか“哲学”の出所。アメさんのことなので、本当にこんな異端宗教がありそうで怖い。ご存じの方がいらしたら、教えてほしい。

 足の裏側(膝裏から腿にかけて)無数の傷跡を持つガイガー。15分以上座っていると足が痺れて来るし、膝の可動域が狭く、歩行するときには主に股関節と足首を使っていて、それでも動作は一見滑らかに優雅に体をコントロールしている。あきらかに後遺症で、血行障害がありそうだ。そして、成人になる以前の記憶がなく、気づいたときにはこういう人間に仕上がっていた。「こういう人間」とは、痛みと恐怖で精神を操り、人から情報を引き出す自称「情報獲得業」、他称は「尋問請負人」もしくは「拷問人」。

 そんな彼の「お仕事」のマイルールは、子どもと老人は対象としないこと、だったにも関わらず、他人の思惑なぞ気にもとめない雇い主にルールを一蹴され、12歳の「対象者」の尋問を強要されたことから、ガイガーの周囲が騒然とし始める。そしてガイガーが慎重に保っていた精神の平静も乱されるに及んで。。。。。

 これは、血生臭い稼業でありながら、(正真の)少年と、少年の心を持った男の交流と恢復の物語なのだ。カミソリで切開される描写なんて、背筋やら尻の穴がぞわぞわするが、それにも関わらず爽やかさが漂う、なにやら中毒性のある作品である。万人にお勧めはできないが、面白いことは請け負う。

 やや蛇足だが、敵役のホールが、最初はただのマフィアの下働きのような印象だったが、話が進むにつれて車の所有者の割り出しから、公共料金の支払いから所有不動産を洗い出し・・・・と、あきらかに手法が捜査機関かCIAっぽくなってくる(ただし、こちらも非合法の民間請負)。子どもに情けをかけたり、ターゲットを民間人から玄人に絞ったり、かと思うと無能な手下を切り捨てたり。明かに民間人の巻き込みと流血を嫌うこのホールの行動もそう思って読むと結構味わいがある。

2021年1月2日土曜日

謹賀新年2021



明けましておめでとうございます。

本年の抱負
 ✓ 積んでいるディーヴァーを読む。6作12冊
 ✓ 積んでいる特捜部Qを読んで、『アサドの祈り』文庫本化に備える。4作8冊
 ✓ キンケイド警視シリーズの残り8冊
 ✓ ダグラス・リーマン おあと紅の海兵隊シリーズ4冊と原潜1冊、大トリが『キール港の白い大砲』
 ✓ ボッシュシリーズを攻略
 ✓ そしてロバート・クレイス新刊『危険な男』
 ✓ あとは、ドン・ウィンズロウ、リューイン、フロスト、ヴァランダー、その他諸々
 ✓ 海洋もの(ボライソー、ホーンブロワ他)は巻数が多すぎて、とても読破はムリ
 ✓ その他 私を待っている未読本の諸々
 ✓ 新たな出会いももちろん望む

 多くを望まないが(どこがだ)、読書の時間は確保したい。

さっき読メで読友さんの座右の銘を知った。「群れない、盛らない、垂れ流さない」に激しく反省。わたしも「群れたがらない、盛りたがらない、垂れ流さない」方針でがんばろう。克服すべきは依存心。

ちなみになんの関係もないが、私の座右の銘は「四の五の言わずに仕事しろ!」
以前、同僚が(←今は管理職なってる。さすがだ。)が、くどくどしい苦情電話にこう言い放って電話をガチャ切り。感動した。電話の相手の奴は翌日、菓子折もってご機嫌伺いに来た(笑)。←コイツは同期で今はいい友人である(だと思っている)。

さて、2021年
コロナは続くだろう。
オリンピックは諦めるか、商業主義と訣別するきっかけとなし、無観客かつホスピタリティ抜群の「おもてなし」で各国選手団をワクチン接種込みでご招待したらいかがか。
こう言ってはなんだが、コロナはまだマシなはずなのだ。近い将来、致死率数十%の強毒性新型インフルエンザが控えている。第一次大戦直後の“スペイン風邪”の死者は、第一次大戦の戦死者よりも多かった。大戦の混乱や、戦時の人の大移動もパンデミックに拍車をかけたろうが。行政は、コロナ対策を教訓とトレーニングの機会とすべき。市民は、かねてからいわれているように1ヶ月は自宅に閉じこもれるだけの災害備蓄を少しずつ。今この時もがんばっておられる現場の医療関係者の皆様には感謝と敬意を捧げる。

卑近なところでは、目指せ人事異動
願わくば、残業の少ない職場へ行きたい。(そして読書時間と家事時間を確保したい。)
かれこれ5年近く、深夜残業続きである。現職場に異動する直前の3月は21連勤だったな。それでもあの頃のほうがマシだったってどんだけだよ。いい加減、いい歳になってきたので無理が利かなくなってきているんだよ。若手どもには理解できないことかもしれんが。・・・・・そういえば3週間ぶっ続けで働いていた新米警視がいたなあ。人間を有限なリソースだと考えない組織に未来はない。現在の無謀な人員配置を招いた無能な上司は「○《ピー》ねばいいのに」、という禁断の一言を胸にたたんで、つい口からこぼれ落ちないよう要注意。

読書年間100冊。1冊につき3日が、自分の読書ペースだと限界だな。

いつかどこかに、本棚を増設したい。すでに本棚に入れられずに箱収納しているコミックが小さい折りたたみコンテナケースに24箱、棚板にして10m分くらい。本棚に仮置き(二重置き)している文庫本が、棚板10m分くらいか。読んだそばから全部きれいに並べるのが夢。というか、未読の積読本を生きているうちに読み尽くすのが夢だ。いずれ、実家の本を引き取って収納することも想定し、棚板はあと30m必要。

健康管理
現在血圧の薬を服薬中であるが、優しい先生には「もうすこし下げたいけど、薬を増やすより体重を減らしましょうよ」と微笑まれる。いや、判ってるんだけどね。
ストレスが身につく体質で。
運動もダイエットも時間と心の余裕が必要なんです、と言い訳した昨年1年。

子供の進路のこととか、気にならないわけではないが、親の思惑通りになるもんではなし、とりあえず自力で喰っていけるようになって欲しいと願うばかり。自立したあかつきには、ポールスミスのスーツでもなんでも、お祝いしてやる。
昨日息子に、「就活したことあるのか?」と問われたので「試験勉強しかしたことがない」と答えた。当時の職業選択の基準は、男女の給与格差がない、男女の仕事格差がない、定年まで働ける、死ぬまで一人で生きていける、いざとなったら家族も養って生きていける、というものだった。
やりたいことを仕事にする、とか好きなことを仕事にする、とか昨今の中高生の「キャリア教育」って何か間違ってると思う。やりたくなくてもやらなければ社会が成立しない仕事はいくらでもあるし、夢を仕事に出来ている人間が世界の何パーセントいると思ってるんだ。働いて喰っていくことの大切さをきちんと教えてほしいね。仕事して、給料もらえるありがたみ。なぜか五七五。
ついでに、そういうに仕事きちんと報酬を払える世の中であってほしい。

なんだか今年の抱負から離れてきてしまったので、とりあえずここまで。

2021年1月1日金曜日

2020年12月の読書メーター

12月の読書メーター
読んだ本の数:11
読んだページ数:3403
ナイス数:856

フラジャイル(19) (アフタヌーンKC)フラジャイル(19) (アフタヌーンKC)感想
医療過誤訴訟編。実は弁護士同士の詐欺。とばっちりを喰うのは知識のない患者遺族、ってのは許せない「先生」が二人。今回は地味に静かに岸先生ががんばりました。結構堪えていたもよう。その間病理は宮崎先生ががんばった。こういう話も良いねえ。
読了日:12月29日 著者:恵 三朗
幼女戦記 (20) (角川コミックス・エース)幼女戦記 (20) (角川コミックス・エース)感想
ターニャ・フォン・デグレチャフ、ついに昭和生まれの平成のおっさんと訣別して、あの時代に着地する(?) 今回は、終始切なかった。失意の中自然と足が孤児院にむかうターニャさん。院長先生との短い語らい。レルゲン中佐との討論。そしてゼートゥーアとのすれ違い。お互い勝手にすれ違うのはいつもの事なんだが、今回のは切なすぎるなあ。そしてド・ルーゴのフランソワ亡命政権の樹立と合衆国の参戦。ヨーロッパ(仮)の戦争は、世界大戦へと。
読了日:12月29日 著者:東條 チカ
Veil (3)たおやぐビェルイ (リュエルコミックス)Veil (3)たおやぐビェルイ (リュエルコミックス)感想
3巻目が出てました。この二人、プラトニックなんだか、そうでないんだか。この不思議な感じに翻弄されてしまう。
読了日:12月28日 著者:コテリ
クリスマスイブに、僕は少し泣いた。クリスマスイブに、僕は少し泣いた。感想
ヒデキング〜!これは切ないよ。だめだよう。がんばってる情弱なおかあさん食い物にしちゃあ! そのすけべオヤジはオヤジ狩りに遭うべし!あうべし!あうべし!(呪)
読了日:12月27日 著者:ヒデキング
カメレオンの影 (創元推理文庫)カメレオンの影 (創元推理文庫)感想
《海外作品読書会》間違いなく今年ベストの一冊。キャラクター造形が素晴らしい。1ページしか出てこないような端役まで、その人の面立ちや人生が見えるような個性が醸し出されている。ましてや、主要人物は実に生き生きとしている。主人公チャールズ・アクランドはイラクで受けた爆弾攻撃で左目と供に左顔面を失い、酷い偏頭痛や耳鳴りの後遺症が残る。希望した陸軍への復帰も叶わず、失意のままロンドンに暮らすが、時を同じくして彼の近辺で連続殺人事件が起こり、彼が酒場で起こした乱闘騒ぎがきっかけで、容疑者と疑われて・・・
読了日:12月26日 著者:ミネット・ウォルターズ
死んだレモン (創元推理文庫)死んだレモン (創元推理文庫)感想
読んだ。読み遂げた。なんだか感想よりも達成感の方が先にくる。中ほどまでは面白かったのだけど、主人公の一人称で、内省も観察も全て主人公視点だし、謎解きまで全て主人公の独壇場で、始めは情けないデッドレモンズ(人生の落伍者)だった主人公がラストはスーパーヒーローで、もう食傷(苦笑)。三兄弟の家業も取って付けたようだしなあ。 ともあれ、ニュージーランド舞台の小説は初めて読んだので、また読んでみたいとは思う。ハカをマオリも白人も一緒に踊っている動画などを見ると、ニュージーランドの多民族文化をもっと知りたくなるしな。
読了日:12月22日 著者:フィン・ベル
老いた男 (ハヤカワ文庫NV)老いた男 (ハヤカワ文庫NV)感想
かつて一人の特殊工作員が上層部から罪を着せられた上、敵地で切り捨てられた。自力で帰国した工作員は大金を持ったまま行方をくらまして、以降35年間をひっそりと隠遁・・・ただし、万全の備えをしたうえで。今は2頭の大型犬と静かに暮らすそんな男の元にある日暗殺部隊が送り込まれてくる。ベトナム戦争に従軍し特殊部隊としてのあらゆる訓練を受け、35年間その能力を保持し続けていた「オールド・マン」が、静かに身に降りかかった火の粉を払うおはなし。私は気に入ったよ!サクサク読めて面白いです。
読了日:12月18日 著者:トマス ペリー
死闘の駆逐艦 (新戦史シリーズ)死闘の駆逐艦 (新戦史シリーズ)感想
WWⅡを3隻の駆逐艦で北海から地中海まで駆け回ったロジャー・P・ヒル艦長(英国海軍少佐)の本人による記録。極めて優秀かつたたき上げの駆逐艦乗り。艦長になるまでを大型艦で過ごすことが多かったが本人の夢は駆逐艦を指揮して戦うこと。念願どおり〈レドベリー〉〈グレンヴィル〉そして〈ジャーヴィス〉の艦長を歴任。従事した作戦はソ連向けPQ17、マルタ向け輸送船団、ビスケー湾のUボート掃討、カイロ会談にむかうチャーチル一向を載せた巡洋戦艦〈リナウン〉の護衛、そしてノルマンディー上陸作戦の援護など。PQ17については、
読了日:12月15日 著者:ロジャー ヒル
パードレはもういない 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫)パードレはもういない 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
一気読みだった。読みやすかったと思う。この本はkindle推奨。下巻でクレモナが出てきたときにはダンテとクレモナの関係が思い出せず、kindleの検索機能で『そこにいる』から検索して拾い読み。人物も混乱するたびに検索機能で関係をチェック。それでも、あの時あの人があんな行動を取ったのは何故だったのか、だれの指示でどんなコントロールを受けて?動機は? その人物にとってその行動にそれだけの価値があったのか?とか考えだすと、細部まで理解できていない感が半端なく、これはあとで3部通して読み直すしかないな、と
読了日:12月09日 著者:サンドローネ ダツィエーリ
パードレはもういない 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)パードレはもういない 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
ここまで読んだところで、何が起きているのかサッパリ分からん。とにかくダンテが生きていた。回復した。コロンバもズダボロだけど、なんだか元気に動いてる。まあ怒ってる、とも言えるか。サンティーニが何故かどんどん好きになってしまう(笑)。さあとにかく下巻に急げ。
読了日:12月08日 著者:サンドローネ ダツィエーリ
砂漠の標的 (ハヤカワ文庫―ハヤカワ・ミステリ文庫)砂漠の標的 (ハヤカワ文庫―ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
マクシム少佐4冊目でラスト。ヨルダンで軍の反王党派が反乱を起こす。英国ではヨルダンの要人誘拐たてこもり事件が発生。誘拐されたのがマクシムの知己の軍人であったことからマクシムが突入作戦を指揮する羽目になり、後始末で外務省からヨルダンにお遣いに出され、行方不明になっている英国新型戦車の試作品の位置を特定するに及び、ヨルダン反乱軍に奪われる前に捜索・破壊するための作戦に巻き込まれる。マクシムの心の声は「おれはアグネスのベッドにもどりたいんだ」でも、兵士たる自分は目の前の事態から逃げ出すわけにはいかん。
読了日:12月05日 著者:ギャビン ライアル

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