2018年8月29日水曜日

0138−39 暗殺者の潜入 上・下

書 名 「暗殺者の潜入 上」「暗殺者の潜入 下」 
原 題 「Agent in Place (Gray Man) 」2018年 
著 者 マーク・グリーニー 
翻訳者 伏見威蕃 
出 版 早川書房 2018年8月 
初 読 2018/08/29


 いきなり、ISISに捕まって処刑される直前、て描写から始まって、前代未聞の危機一髪状態のジェントリー。どうするんだおい。
 今回はCIAの汚れ仕事ではなくフリーランス。CIAの汚仕事の後なので自分の気持ちに適った仕事をして、ちっとは浮上したかったらしいコート。だからって泥沼シリアには行きたくはない。だけど無辜の女子供の命がかかってると言われては、例によって善人スイッチON!

 上巻は敵味方含めて状況説明が多くちょっとダルいが、シリア入りしてからの戦闘描写は流石。ジェントリーの技倆は戦場では隠れようもない。
【お気に入りのセリフ】
「友よ。きみは重大な人間不信に陥ってるよ」
「ああ、どうしてだろうと思っている」
 そりゃあもう。何故だろうね! 

 さて、下巻に入ってからは、 グレイマン無双。コート、やっぱり傭兵部隊が似合ってるね。この寂しがり屋さんは本当はチームが好きなんだよな、とほくそ笑む。
 そして、ここ一番の所では伝家の宝刀「ラングレー直通電話」&米軍全面支援。
 無双過ぎて何だかな〜と思わないでもないが、グレイマンが全力で事にあたれる環境整備って点では申し分ない。

 今回は、フランス人元諜報部員のヴァンさんも何だかな〜の一員。
 全部が全部、コートのお眼鏡に叶うわけもないが、1話で3も回コートを裏切るのは、余りにも危険行為です。命知らずにもほどがある。
 まあ、最後は頑張ったけどね。二度とコートとは仕事できないだろうね。

2018年8月21日火曜日

0137 赤毛のストレーガ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

書 名 「赤毛のストレーガ」 
原 題 「Strega」 1987年 
著 者 アンドリュー・ヴァクス 
翻訳者 佐々田 雅子 
出 版 早川書房 1995年1月 
初 読 2018/08/21 

  今回は性被害に遭った少年を助ける為にバークが奔走する。だけど、隠れた(いや、隠れてないかも)テーマは、幼少時の性虐待がどれだけその子ども(いずれは大人になる)の人格形成に酷い影響を残すか、という例をストレーガの姿を通して示すこと、かもしれない。
 異性関係を支配/被支配でしか捉えられず、自分の肉体を投げ出す事で相手を支配しようとする行動パターン。
 自分の価値をセックスにしか見いだせない。
 他人と信頼や愛情を交わすことができない。
 人間としての成熟を阻害され、幼児性が顕在化している一方で、虐げられたこと、助けてもらえなかった事への怒りがいつも自分の中に渦巻いている。

 ストレーガの存在がとても重い。でもふとした瞬間に癒される事もあるのが人間の不思議でもある。男の子を守って癒した事、信頼に値する人間に出会った事がストレーガの癒しになるといいと願う。そして一服の清涼剤のようなミシェルの存在が素晴らしい。あんな女になれたら良いのに。

2018年8月12日日曜日

0136 フラッド (ハヤカワ・ミステリ文庫)

書 名 「フラッド」 
原 題 「Flood」 1985年 
著 者 アンドリュー・ヴァクス 
翻訳者 佐々田 雅子 
出 版 早川書房 1994年9月 
初 読 2018/08/12 

 シリーズ1冊目は、主人公バークや彼の仲間の微に入り細を穿つ描写が結構なボリューム。
 ニューヨーク最底辺の特異な連中が、自分の生きる隙間を守る為に蠢いている様が、時にリアルに時にはファンタジーのように語られる。
 書き込みが過ぎてかえってリアリティーが薄れているきらいもあるが、これだけ徹底してディティールを書き込まなくては「フィクション」にできなかったのだろう、と思う。

 ヴァクスは児童虐待専門の法律家で、その実態を世間に知らしめるためにフィクションの体裁で書いた。現実はもっと凄惨だろう。

 それはさておき、フィクションであるからには、バークとその仲間達がとても魅力的である。
 バークは強いのだか弱いのだかよく分からないが、自分なりのルールと矜持に従って、サヴァイバー特有の、危険を察知する独特の感性を頼りにニューヨークの底辺を泳いでいる。聾唖の武道の達人、短軀の黒人の自称「予言者」、知的な美人の男娼、そして『性交園』というとんでもない名前の中華料理屋を営む「ママ」。
 最後の作戦が愉快。あれをラストの仕上げに持ってくることで、「殺し」はバークの本来の仕事じゃないって示してるのかな、とちょっと思った。

2018年8月6日月曜日

0135 スターダスト (ローダンNEO 1)

書 名 「スターダスト (ローダンNEO 1)」 
著 者 フランク・ボルシュ 
翻訳者 柴田さとみ 
出 版 早川書房 2017年7月 
初 読 2018/08/06 
 
 言わずとしれた、ローダンシリーズのリブート。 ローダンNEO。本家ローダンも、グインサーガも早々にリタイアしてしまった私には、天啓か?今からなら頑張れるかもしれない。しかし、にしても、この本が刊行された時点で、すでに原作は150話を超えているとか。本家は3,000話に近くなっているとか。NEO、いっそのことダイジェストで良いんじゃないか?死ぬまでに終わるんだろうか? とはいえまずは面白いと思えるかどうか、だ。かなり懐疑的だったのだけど、クレストとのファーストコンタクトで、ローダンが知的生命体の持つであろう叡智について語ったところで、がっつり掴まれた。そして、地球への生還シーン、最後に目にした追尾ミサイルのマークは母国アメリカ国旗。エピローグで腕からアメリカ合衆国の旗をむしり取って捨てるローダン。国家主義・民族主義が染みついたおバカさんじゃないところが素敵じゃないか。異星人の乗組員がみんなゲームにハマって正体失ってる、とか、クレストの病気の治療が人間なら可能、とか、ちょっと荒唐無稽に過ぎる感じはするけど、ごりごりのハードSFじゃないわけだし、そこんところは大甘にみて。


2018年8月5日日曜日

0134 女王陛下の航宙艦

書 名 「女王陛下の航宙艦」 
原 題 「ARK ROIYAL」 2014年
著 者 クリストファー・ナトール 
翻訳者 月岡 小穂 
出 版 早川書房 2017年6月 
初 読 2018/08/05 
 
 取り敢えずこれだけは言うぞ。邦訳タイトルが良くない!原題は『Ark Royal』、HMS Ark Royal》はイギリス海軍伝統の空母の名称だ。であるから、この船も宇宙空母もしくは航宙母艦だが、そもそも原題タイトルはあえてHMSが付いていない、としか思えないのに、そこを敢えて「女王陛下の」、とやるとはどんな覚悟なのかと小一時間。イギリス海軍の(この場合には宇宙軍の)艦船にはすべてHMSが付くとおぼしいのに、全部に「女王陛下の」と枕詞を付ける気か?・・・・・、と店頭平積みを見た瞬間、またかよ、といささかウンザリしたにもかかわらず、つい買ってしまったのだったが・・・・・まあ、いいや。毒を吐くのはこれくらいにしておかないと。

ではさて、ストーリーですが。
酒が飲みたい。とにかく酒が飲みたい。ほぼアル中の飲んだくれの老艦長率いる老朽航宙母艦が人類の最後の望みの綱となる。人類は、突然の宇宙人の攻撃に立ち向かえるのか?という人類存亡の危機がイギリス風味のやや安穏とした口調で語られる
 現在の国際情勢をほぼそのままで、人類は外宇宙に進出している。だから宇宙軍も「地球軍」ではなくあくまでイギリス軍、ロシア軍、中国軍、、、、となって協調性がない。
 そんな中メキシココロニーやロシアコロニーが宇宙人の攻撃を受けて各軍協力を余儀なくされる。とはいえ、その当たりの描写はとことん乏しい。
 艦長の座を狙う気満々だったやり手若手のフィッツウィリアム副長は、当初の思惑こそ浅はかだったが、老艦長に仕えると覚悟を決めてからは有能で忠実な部下としての本領を発揮、艦長を支えて艦務に邁進。この辺りは、伝統だよなあ、と思う。部下の有能さと艦内の人間関係は気持ち良い。
 しかし、戦闘描写は冗長で行き当たりばったりの感がある。これはひょっとして、物語中に登場するおバカな従軍記者達並みに、自分が状況把握が出来ていないせいなのか?と疑惑が頭をもたげる。
 行く先々で予想された異星人からの反撃がなくその幸運に助けられるが、いくら人間常識の範囲外の敵が相手とはいえ、幸運すぎないか?続刊を読むかどうかはちょっと悩ましいところ。とはいえ、ファーストコンタクトものとして、言語も文化も思考様式も異質でまったく意思疎通もできない異星人と、戦争するにしても講和の道を模索するにしても、ありきたりな宇宙戦争でない話を読ませてほしいもの。
 このシリーズを9冊出すのなら、「栄光の旗のもとに」ユニオン宇宙軍戦記も続刊の出版をお願いしたい。それはもう。是非。
【一応の覚え書き】
 なぜか同時期一斉に、宇宙戦記もの、3部作の1巻目がハヤカワから刊行。
『栄光の旗のもとに』『暗黒の艦隊』『女王陛下の航宙艦』
 この、アークロイヤルは、艦長のキャラが、『暗黒の艦隊』ジャクソン艦長とかぶる。副長フィッツウィリアムと『栄光の〜』の艦長マックス・ロビショーがもろキャラ被り。艦隊行動については、彷徨える艦隊と被る。まあ、それぞれの本を読んだ順番に影響されているのだが、総じて、『女王陛下の航宙艦』が「何かに似ている」という印象を抱く。それでも、個人的には面白ければ良いので、よろしく頼みたい。(何をだ?)