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2020年10月6日火曜日

0223 孤独の海

書 名 「孤独の海」 
原 題 「THE LONELY SEA」1985年 
著 者 アリステア・マクリーン 
翻訳者 高津幸枝他 
出 版 早川書房 1992年12月 
初 読 2020/10/6
 
『女王陛下のユリシーズ号』のアリステア・マクリーンの唯一の短編集。処女短編『ディリーズ号』、ドイツの誇るビスマルク号が沈むまでの数日間『戦艦ビスマルクの最後』 他。

『ディリーズ号』
とても良かった。
わずか13ページの短編であるが、文中では語られない、じいさんと二人の息子の人生がありありと思い浮かぶ。妻に先立たれた船乗りが、残された幼い二人の息子を男手ひとつで育てあげる。おそらく、海に長く出ている間は近所の農家の奥さんに息子達は預けられたかもしれない。息子達に慕われ、尊敬される船乗りの親父。息子達は父親の背中を見て真っ直ぐに育ち、やがて彼らも船乗りになる。二人は救助艇に乗組み一人は艇長となる。荒れた海にさらわれた見ず知らずの幼い兄妹を、見過ごしにはできない父親譲りの正義感。そのような息子達を誇りにする父親。こんな事は事細かに一言も書かれていないが、そうであろう、と老船乗りグラントじいさんの背後に語られない人生が浮かび上がってくる。
 そして嵐の夜の荒れた波間に、息子達と、筏に乗せられた子供達を見つけたとき、グラントじいさんは、息子達が助けようとした幼い兄妹を荒れた海からすくい上げることを選択する。助けられるチャンスは一度だけだった。無情というのも軽々しい、万感の思いが軍艦ユリシーズの最後に通じる。

『ラワルビンジ号の死闘』
 ちょっと気になった一文だけ。「手に入れた情報の正確さと完璧さに匹敵するのは、その情報がベルリンへ送られる迅速さくらいのものだろう」・・・・・日本語として、どうよ。原文読んでいないからちょっとわからないけど。「手に入れた情報の正確さと完璧さと並んで、その情報がベルリンに伝達される早さも比類ないものだった」くらいが自然な感じだろうか。

ドイツが誇る〈シャルンホルスト〉と〈グナイゼナウ〉の試航海の餌食になった英国武装商船ラワルビンジ号の悲劇。再三のシャルンホルストからの降伏勧告に応ぜず徹底抗戦を図り、撃沈。なんというか、あまりに文章が淡々としていてこの行動をどう受け止めるべきなのか困る。結局240人の経験豊かな乗組員が船と艦長と運命を共にした。玉砕は日本軍の専売特許じゃなかったんだな、と改めて思う。

『戦艦ビスマルクの最後』
ドイツが誇る戦艦ビスマルクと、イギリス人の誇り、戦艦フット。どちらも誤った情報と、指揮官の驕りや判断の誤りの集大成の結果沈んだのか?イギリスの戦艦フットが、あたかも日本人にとっての戦艦大和のような、海軍を象徴する艦だったことが良く分かる。それを沈めたビスマルクを執拗に追いかけるイギリス海軍。しかし、丹念に双方の証言を重ねれば、見えてくるのはイギリス側もドイツ側も誤認と失策を積み重ねた挙げ句の「戦果」だったようだ。

【備忘録】デンマーク海峡
 アイスランドとグリーンランドの間の海峡。なぜここがデンマーク?と思ったので調べてみた。アイスランドは1918年に独立するまでデンマーク領で、グリーンランドは今もデンマーク領なんだそうだ。そうだったっけ。そうだったんだ。現在の国土の大きさで舐めることなかれ、デンマークはかつては海洋国家。学生時代は、地図帳を見ても,陸しか見ていなかったような気がする。しかし、バルト海の出口に位置し、北海に直面し、さらにドイツにフタをする格好のデンマークは、どう見ても軍事・通商の要衝ではないか。イギリスを海洋国家として見るべきであるように、ヨーロッパ史を海を視点の中心に据えると、これまで勉強してきたものからだいぶ違ったものが見えてくるのだろうな。

さて、このあと数話読んだが、艦が次々に沈む描写に気持ちが滅入ったので、今回はここまで。

2017年6月4日日曜日

0039 女王陛下のユリシーズ号

書 名 「女王陛下のユリシーズ号 」 
原 題 「H.M.S ULYSEES」1955年
著 者 アリステア・マクリーン
翻訳者 村上 博基
出 版 早川書房 1972年1月

 この本のタイトルについては有名な話だとは思うが、一応書かないと気が済まないので書いておく。第二次大戦中のイギリス国王は、ジョージ6世(エリザベス2世女王の父)だ!女王ではない。刊行当時すぐに指摘があったはずだと思うのだが、あからさまな間違いなのに、訂正出来ない事情でもあったのだろうか?「軍艦ユリシーズ」で良かったのにな。
 さて、本題である。
 直前の航海から帰還直後、港内に停泊中に、一水兵の不服従から端を発し、水兵達の反乱が起こる。それは、繰り返されてきた過酷な任務に堪えかねてのことだった。自艦内での鎮圧は不可能とみて、近くに停泊する戦艦《デューク・オブ・カンバーランド》の海兵隊の派遣をたのみ、ようやく鎮圧に至る。その失態を問責される、ティンドル提督とヴァレリー艦長。そして、次の任務を告げられる。

 「ユリシーズは、あー、名誉回復の機会を与えられたと思っていい」

 このムルマンスク行きの輸送船団〈FR77〉は、ユリシーズに対する懲罰だった。

 恐るべき荒天の北極海。喀血を繰り返し、もはや自力では鉄扉を開閉したり、梯を上る力もない艦長は、それでも自分に鞭打って極寒の中乗組員たちを巡回する。
 襲い来る敵。空襲、Uボート。次々に荒れ狂う波間に沈んでいく僚艦。被弾して味方を巻き込む可能性のある味方輸送船の撃沈を命じられた若き水雷兵ラルストンの悲劇。敬愛する艦長を支える副官ターナー。乗組員の運命を案じながら、力尽きて息を引き取る艦長に泣かずには居られない。
 北ソ連航路を繰り返し護衛してきたユリシーズは、満身創痍で歴戦の老艦の風格だが、実は当時最先端のレーダー装置をそなえた最新鋭巡洋艦である。それが数度の航海でボロボロになる冬の北極海の非情。極限状態に置かれた乗組員たちの最後の抵抗(不服従)を軍紀に問い、より過酷な死の航海に送り出す海軍本部の無情。その中で、なぜか僚艦サイラスの存在に心が温まった。せめてあの船が最後まで生き残ってくれて良かった。

 ちなみに、表紙は新装版である。イラストは変わりないが、題字が少しオシャレになっている。この際、タイトルも直せばよかったのに・・・・・な。
 このイラスト、一瞬何が描かれているのかわからないくらいごちゃごちゃしているが、見れば甲板に突っ込んだドイツ空軍機の尾翼が2機、めちゃくちゃに破壊された砲塔、倒れた煙突、傾いたマスト、波に洗われる艦尾、爆発炎上する前部甲板、攻撃を受けてめちゃくちゃになったユリシーズ最後の姿であった。