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2026年5月6日水曜日

0591〜92 アポロ18号の殺人 上・下

書 名 「アポロ18号の殺人」
原 題 「THE APOLLO MURDERS」2021年
著 者 クリス・ハドフィールド   
翻訳者 中原 尚哉   
出 版 早川書房 2022年8月
文 庫 上巻:384ページ  下巻:‎ 384ページ
初 読 2026年5月5日
ISBN-10 上巻:4150123756   下巻:4150123764
ISBN-13 上巻:978-4150123758 下巻:978-4150123765
読書メーター 上巻:https://bookmeter.com/reviews/135145196
       下巻:


 上巻を読むのにあまりにも時間が掛かりすぎたために、伏線をほとんど忘却する、という事態に。人様のレビューを読んで、あわてて再チェック。
 3人の正規クルーと3人のバックアップの中に、ソ連側のスリーパーが存在した。それは誰なのか。
 アポロ18号の打ち上げ1ヶ月前にして、船長であるトムが訓練機の操縦ミスで墜落死。果たして事故なのか(んなワケない。)では、犯人は誰なのか。
 打ち上げは、バックアップクルーの中からチャドが繰り上げになって続行。
 そのチャドの、打ち上げ前の最後の食事でステーキを喰うやらかしがヒドい。

 そして無人だと思っていたソ連側偵察衛星は実は有人で、しかも、アポロ18号の悪意ある接近を待ち構えていた。なんなら手に手に武器を持って。

 自己過信強めの(よくある)アメリカ側の迂闊と、ソ連側の野蛮が宇宙空間で計算ずくの遭遇を果たすが、その結末は想像を超えた。だけど、その直接的な原因が、いかにもアメリカ野郎が考えたソ連のやらかしっぽくてかるく失笑。

 アポロ宇宙船のハッチの縁に掛かった人間の手(手袋)は、ほぼ、ホラー映画のノリである。

 そして乗り込んで来たのはソ連の女性宇宙飛行士。

 なにしろ著者が宇宙飛行士ってことで、微に入り細にわたる細かい描写を丁寧に読んでいくと全体がスローモーションみたいになってしまい、致命的に自分の文字を追うスピードと物語のペースが合わない。これが、読書に着手して3回も中断、放置になった理由。宇宙船が打ち上がったあたりからやっと面白くなってきて、読書スピードを上げることに成功し、上巻を(そして大気圏を)脱出。なんというか、やっと一段目のロケットの切り離しに成功した気分である。
 上巻ラストで、ついに件のスリーパーが誰なのか、そして、なぜイラリオン修道士が冒頭から登場していたのかがつながり、あろうことかアポロ18号に乗り組む生者3人のうち、2人までもが“ソ連側”であることが判明。だがこの2人とて、手に手をとって協力する様子ではない。だがしかし、本当に彼が“スリーパー”なのか?わかりやすすぎやしないか。もしや“スリーパー”は別にいて、さらにストーリーが錯綜する可能性すら残っている。しかし、この2人がこれからどう動くのか。そして、地上に置き去りな主人公のカジミエラス・ゼメキスはどう動くのか。個人的には、隻眼のカズは超好みである。

 そして、ここからが下巻。





2025年7月31日木曜日

0561 幻影の都市(ハヤカワSF文庫版)

書 名 「幻影の都市」
原 題 「CITY OF ILLUSIONS」1967年
著 者 アーシュラ・K・ル=グウィン    
翻訳者 山田 和子    
出 版 早川書房 1990年4月
文 庫 313ページ
初 読 2025年7月31日
ISBN-10 4150108668
ISBN-13 978-4150108663
読書メーター  

  表紙の絵が怖いのだ。白目に見えるんだよね。実際には、猫目の光彩が描き込んであって、金色の目なんだけど、小さな画像になると、金色の濃淡でうっすらと描かれた光彩が見えないのだ。
 あと、なんだかねえ。訳者後書きが死ぬほどつまらない。貴方様のSF論を読みたいわけではないのだ。観念的で、なにか意味のあることが語られてるのかを理解できないのは、私の頭が悪いからなんだろうか? なんというか、70年代の匂いが紛紛とする。「主義」とか「思想」とかの匂いがしてくる。(出版されたのは90年なんだけどね。)まあ、自分自身も文章で語ってしまったりしがちなので、あまり人のことを批判できないとは思うのだけど、ただ訳すだけじゃダメだったのか? 似たようなことは、ル=グウィン自身にも思ったりはする。ただ、書くだけじゃダメだったのか?と。作家なんだから、作品で語ればいいじゃないか。なぜ、解説したがるんだ。 ましてや、翻訳者の思い込みの強い蘊蓄なんて、本当にいらんわ。翻訳の苦労話ならいくらでも読めるのだけど。
 
 まあ、それはさておき。

 ル=グウィンは、どの作品でも主人公が大陸や原生林の中を旅をする。大いなるワンパタなんだ、と思い始めた。ゲドも旅をしたし、これまで読んだ本、『辺境の惑星』を除いて、とりあえず主人公が孤独な旅をする。作品一つ一つの完成度は高いのだと思うのだが、まとめて読んで食傷した。主人公は男にせよ、女にせよ、いつも淡々としている。とても抑制が効いている。大きく乱れない。とてもストイック。なんとなく息苦しい。
 主人公が旅の中で出会う、刻々と様相を変えていく空や、森林、壮大な大自然の描写は素晴らしいと思うのだ。多分・・・・たぶん、単品で読んだほうがいいのだ。たとえ、ハイニッシュ・ユニバースのシリーズであっても。

 このシリーズの中では、どの惑星も「地球」と呼ばれ、どの星の話なのかは読み進めるまでは判らない。時代の前後関係も、しかとは語られない。この作品は、どこか深宇宙の惑星の話か、と思ってよんでいたら、実は文明が衰退した後の地球、しかも北アメリカ大陸の話だった。科学文明が隆興し、宇宙に植民し、星間戦争ののち、衰退する。人々は、残された文明の残滓に縋りながら、近代以前に後退した文化の中で生活している。
 なお、読んでいて、『辺境の惑星』に直接繋がる話なのだと判明する。『辺境の惑星』がその後、どのように発展したのか、様子がわかって感慨深い。このあたりの文化や文明のヴァリエーションの付け方は、さすがだな、と思う。
 その一方で、舞台となる惑星は違えど、似たようなシチュエーションが展開することに飽きてきてしまって、読み進めるのがついに苦痛になってしまった。
 前半はグレートジャーニー、後半は『敵』との心理戦。敵であるシングのイメージが前半、中盤、後半でがらりと変わってくるのは面白いとは思ったのだよな。だけどそこまで。前半の旅が冗長だったので、後半の心理戦に重点を置いていたら、また印象が違ったかもしれない。

2025年6月8日日曜日

0557 辺境の惑星(ハヤカワSF文庫版)

書 名 「辺境の惑星」
原 題 「Planet of Exile」1966年
著 者 アーシュラ・K・ル=グウィン    
翻訳者 脇 明子    
出 版 早川書房 1989年7月
文 庫 215ページ
初 読 2025年6月7日
ISBN-10 4150108315
ISBN-13 978-4150108311
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/128345663

 まず、この「辺境の惑星」の設定が面白い。
 太陽は、竜座のγ(ガンマ)、エルタニン。竜座は(この地球の)北の天空の北極星を半円に取り囲んでいる星座で、エルタニンは北極星からは一番遠くに見える二等星。
 その恒星を太陽とするこの惑星(作中ではこちらも「地球」と呼ばれる。)は二重星で、こちらの地球の月よりも(おそらくは)はるかに大きく、それ故、重力の影響も強い月を持つ。
 月の影響による潮の満ち引きは、毎日15フィートから50フィート、というから満潮と干潮では、4メートルから15メートルの海面高の差を生む。干潮から満潮に向けて海が満ちてくるときには、毎日津波のように潮の壁が押し寄せる。ダイナミック!
 月と惑星がお互いを巡る公転周期は400日。月の満ち欠けは400日をかけてゆっくりと行われる。この二重星が恒星(エルタニン)を一回りする公転周期、つまり1年は60ヶ月=24000日、一日の長さについては言及されていないので、ひとまず地球日を当てはめるとして、四季が巡るのに、地球年では65年ほどかかる計算。(作中では、60年と書かれているので、もしかしたら一日の長さは地球よりも短めなのかもしれない。)
 おそらくだが、それだけ月が大きいとなると、月の公転でこの惑星も振り回されるだろうから、一月400日の間にも相当の寒暖差があるのではなかろうか。そして、60ヶ月(地球年で60年)の惑星の公転周期では、氷河期と温暖期ほどの寒暖差が生まれる。

 そんな惑星にもとから生息するヒューマノイド(ヒルフ)と、後から植民した地球人のコロニーが、冬(=氷河期レベル)の脅威と、その天候の中で生まれる生物の大移動によりもたらされる民族存続の危機に立ち向かう、そんな話。この惑星運行のダイナミズムをまず、世界観として楽しもう。

 この小説は、言うまでもなくSF小説のカテゴリーなんだけど、これまでに読んだル=グウィンのSFすべてに当てはまるが、「空想科学」の「科学」の部分はとても薄め。どちらかというと民俗学、folklore。ル=グウィンが70年代以降の米国を代表するSF作家の一人であることには無論異議はないのだが、個人的には、SFというよりはFF=folklore fantasy?fiction?ってカテゴライズを奉じたくなる。だが、それはさておき、物語は起伏に富み、とくに主人公の一人のロルリーの造形もとても良く、面白く読めた。

 遠未来の辺境の星域の惑星。植民したものの、『ロカノンの世界』でも語られた、敵対する異星文明の侵攻の煽りで惑星に置き去られ、忘れ去られた植民者たち。植民星の先住文明に影響を与えることを禁ずる法律を遵守し、原始共産制社会から中世くらいのどこかの発達段階でしかない先住民族の文化レベルに同化せざるをえなかった入植者と現住民の文化の衝突。そして氷河期レベルの冬の到来で、もう一種の北方の先住民族の暴力的な民族大移動に蹂躙される危機。先住民と入植者のコロニーは生存をかけて手を結ぼうとするものの、異文化の排他や、血族や男の沽券なんかも絡んで一筋縄ではいかない。その物語の中で、渦中の主人公ロルリーが異郷の人々の中で静かに意思の強さと賢さを発揮する様子がとても好ましい。(読んでいないけど)ネイティブアメリカンのイシもそんなだったのだろうか?などと想像。ル=グウィンの原体験に根差した作品なのであろうと感じさせられる。
 
 なお、やっとヒルフの指すところがはっきりした。HILF。ハイリー・インテリジェンス・ライフ・フォーム(高度な知性を有する生命体)の頭文字。実は先に読んだ『ロカノンの世界』にも登場していたが、『最高の知性を有する生命体』とサラリと日本語に翻訳されていたために、おそらくこれだろうな、とは思ったが、確信が持てていなかった。なお、『ロカノンの世界』の第1章は、独立した短編『セムリの首飾り』として、ハヤカワSF文庫の『風の十二方位』に収録されており、こちらの翻訳では「高度な知性を有する生命体」にハイ・インテリジェンス・ライフ・フォームと親切にルビが振ってあった。ちょっとすっきりした。

2025年5月26日月曜日

0556 ロカノンの世界(ハヤカワSF文庫版)

書 名 「ロカノンの世界」
原 題 「Rocannon's world 」1966年
著 者 アーシュラ・K・ル=グウィン    
翻訳者 小尾 芙佐     
出 版 早川書房 1989年5月
文 庫 217ページ
初 読 2025年5月18日
ISBN-10 4150108234
ISBN-13 978-4150108236
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/128057332

 ル=グウィンのデビューSF長編。(なにかの解説に「処女長編」って書いてあったけど、ル=グウィンはそのような表現嫌がりそう(笑))
 ハヤカワ文庫の表紙は萩尾望都で、これがとても美しい。そういえば、SFファンタジーというような作風は、萩尾望都、竹宮惠子などとの同時代性を感じる。実際には大泉組が影響をうけた側だろうと思うが。『銀の三角』とか『マージナル』のような萩尾望都の絵柄で、物語が脳内再生される。神話世界を生きている惑星と、そこに到来した地球(=ハイン)文明、SF的要素が融合した、異世界ファンタジーである。
 第一部は、ある(未開の)惑星の、民俗的伝承から始まる。
 そこで描かれるサファイヤ(たぶん)の首飾りは、初期の探検隊が星から持ち出し、別の惑星にある博物館に収められていた。その首飾りを取り戻すために、神話世界の女王たる美しい女性が、まさに時空を旅してロカノンの元を訪れる。
 一人の異郷の美しい女性に心惹かれた民族学者が、再びその惑星の調査に訪れる。古典SFらしい、光速旅行による時間の遷延が、物語の重要なファクターとしてうまく取り込まれている。また、超光速航法は開発されてはいるが、生物は超光速航法には耐えられず、光速の壁を越えることはできない、というル=グウィンのハイニッシュ・ユニバースの独自設定も面白い。
 一人の成熟した民俗学者である地球人(血統的には純粋なハイン人)のロカノンが、異星民族の調査中に、突然正体不明の敵からの攻撃で仲間と船を失い、母星との連絡手段も失われてしまう。鉄器ー青銅器時代の発展段階の未開な異星にたった一人で取り残された状態から、起死回生のために、現地人の勇者や従者や矮人を連れて、未知の土地に旅に出る。主にロカノンの視点で語られる未開の惑星が、ル=グウィンの手によって色彩も鮮やかに、空気も芳しく描き出される。ロカノンの驚異的な体験や、筆舌に尽くせぬ心象をごく控えめな筆致で描き、ラストでは、この惑星でロカノンがどのように最後の時間を過ごしたのかは読者の想像に委ねられ、読者はその余韻に漂うことになる。
 ロカノンがテレパシー能力を獲得するくだりなんかは、ちょっとご都合主義な感じがしないでもないが、十分に許容範囲。
 読み進めると同時に、萩尾望都を再読したくなった。今時の(?)SFらしいメカニカルなSFとは一線を画する世界観は、ちょっと郷愁めいたものを感じるし、夢中になって萩尾望都を読んでいた、〇十年前を思い出す。

 先に読んだ、『世界の合い言葉は森』は、どこか説教がましい感じがあって、あまりのめり込めなかったが、この作品は十分にセンスオブワンダーを感じる。これが、(初期の)ル=グウィンのSFか。SFと、ファンタジーと、童話を混ぜて練り上げたような、独特の読み応えがとても面白かった。

2025年5月17日土曜日

0555 世界の合言葉は森(ハヤカワSF文庫版)

書 名 「世界の合言葉は森」
原 題 「THE WORD FOR WORLD ID FOREST」1972年
    「HE EYE OF THE HERON 」1978年
著 者 アーシュラ・K・ル=グウィン    
翻訳者 小尾 美佐/小池美佐子     
出 版 早川書房 1990年5月
文 庫 391ページ
初 読 2025年5月11日
ISBN-10 4150108692
ISBN-13 978-4150108694
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/127873328

 ゲド戦記から、評論やエッセイを経由して、ル=グウィンのSFに着手。この本を最初に手にとったのは、ただの偶然。たまたま、Kindle版をスマホにダウンロードしていたから。刊行順に読むより、行きつ戻りつ読んだ方が面白いかと思って。
 この本には、『世界の合い言葉は森』と『アオサギの眼』の中編2本を収録。うち、『世界の〜』はハイニッシュ・ユニバースシリーズの一篇。『アオサギ』の方は多分独立した小説だと思われる。
 ちなみにハイニッシュ・ユニバースとは、ル=グウィンが創作したSF世界。本作中にも登場するハイン人が、過去に宇宙に植民して人類を播種し、それぞれの植民星で人類が個別に進化した、とする世界。詳しくはこちらのwikiを参照のこと→ ハイニッシュ・ユニバース

 ところで、このハヤカワの文庫本裏表紙のあらすじが酷い(笑)。

 「森がどんどん消滅していく———植民惑星ニュー・タヒチでは・・・(中略)。利益優先の乱開発で、惑星の生態系は崩壊寸前。森を追われた原住種族アスシー人は、ついに地球人に牙をむいた! だが、圧倒的な軍事力を誇る地球人に、アスシー人の大集団も歯がたたない。二つの知的種族とその文明の衝突が産む悲劇を、神話的なモチーフをたくみに用いて描き上げる・・・」

 どこがどう酷いのか、説明しがたいほどに酷い。こういう話じゃないよ。ぜんぜん違う。侵略者と被征服民、強者と弱者、正義と悪、そういう二項対立は、ル=グウィンが一番嫌うところだと思う。以下、感想。

◆世界の合言葉は森◆
 植民惑星、原住民、植民軍。“船一隻分の女が新着。繁殖用女性、品質優良のニンゲン212頭。ピチピチはちきれそうなベッド向きのボイン212人”ときたもんだ。なんだかすごいものを読み始めたぞ。と、冒頭うろたえる私(笑)。

 “野蛮人はつねに文明人に道を譲るべきだ。さもなきゃ同化するか。”

 よもやこのデイヴィッドソン大尉が主人公ではあるまいな?とドキドキする。なんだこの植民地主義の男根主義のイカれた男は! アメリカ大陸に押し寄せた侵略者はこんな感じだったんだろうか? 脳内のデイヴィッドソン大尉が、開拓時代の南軍の軍服や、西部劇の騎兵隊の制服で脳内再生されちゃって。インディアン皆殺しだヒャッホー!って感じを地でいく偏見ゴリゴリの勘違い男だが、なまじか頭がよく、信念があり、ありとあらゆる事象を自分に都合良く解釈。でも実際にもこういった人間はいる。ほら、某大統領とか、某県知事とか。現実味があるのが、いっそ恐ろしい。

 「メカ〇〇」とか、「ロボ〇〇」とか、「ロケット船」といった用語も今はなっては古色蒼然、「テレテープ」っていうのは、ビデオテープのようなものだろうか。音声記録はカセットテープ! 2001年宇宙の旅のハルの記憶媒体が磁気テープだった時代だもんな、などと思いながら、でもたとえば、ホーガンの『星を継ぐもの』なんかも1970年代SFだけど、ノートPCに類するガジェットなんかの空想のテクノロジーは、現在でも読むに耐えるものに仕上がってるし、これは、やはり作者の方向性の違い、というかテクノロジーへの関心の高さの違いかも? まあ、ル=グウィンだし、遠未来のテクノロジーを描くことが主題ではないし。なんとか1章を突破して、ようよう2章目から、目前に広がるル=グウィンの世界観!森!森!大森林!
 
さてここから読み進めるのに登場人物一覧と用語集が必要だ。

デイビッドソン大尉———上記、第1章のイカれ男。マッチョな男根野郎。だが、なまじ頭が
            良く、認知は歪んでいるが、リーダーシップもあり、行動力も十分
            にあるのが最低。
ラジ・リュボフ大尉———植民軍の研究者。人類学者。異星社会学、異星文化人類学って感じか。
ゴス      —————ドン大佐の部下
ベントン    —————ドン大佐の部下
ジョシュ・セレン ———技師
ムハメッド少佐  ———植民開拓地ニュー・ジャバの指揮官
ディン・ドン大佐————植民星ニュー・タヒチ(惑星41号)の植民軍現地司令官
ニュー・タヒチ  ———彼らが植民している惑星の通称。地球から27光年離れている。
            この星は大部分がが海で、いくつかの大きめな島があり、密林で覆わ
            れており、人類は、森林資源(材木)を目当てにこの惑星に植民した。
ユング司令官   ———星間光速宇宙船〈シャックルトン号〉指揮官。
アンシブル    ———星間通信装置。光年間の空間で即時通話を可能とする技術。
            この世界ではジャンプ航法やワープ航法はなく、宇宙船の最高速度
            は光速。通信だけが、即時通信出来る設定。
スペッシュ    ———作品中では定義が判らなかった。他の作品読んだら判るか?
            植民軍の中の技術職を指しているのか?科学者のことかも。
クリーチー    ———元々は基地の底辺労働者の意。ここでは原住民(アスシー人)にた
            いする蔑称にも。
ヒルフ      ———現地人の意か? ハイニッシュユニバースの先行本を読むと判るっ
            ぽい。
ルペノン     ———星間輸送船〈シャックルトン号〉でこの植民惑星〈惑星41号〉に
            やってきたハイン人。肌が白く、背が高い。星間連盟政府に所属。
オル       ———セチア人。毛深い。灰色、小男 ルペノンと同じくシャックルトン
            号に乗船していた。
セルバー     ———アスシー人。アスシー人は身長1m弱、緑色の体毛を持つ、アスシー
            の環境に適応して進化した人類。植民者の人間(アスシー人による
            とジンゲン)のリュボスと友誼を結び、お互いの言語を学び、辞書
            を作るなど、リュボスの研究にも貢献。
「神」(アスシー語)——新しい知識や概念をもたらすもの。指導者。アスシー語の神には通
            訳の意も含む。

 地球人側からすれば、植民惑星の開拓だが、実際のところ、侵略と原住民族の殲滅にほかならない。そもそも、デイヴィッドソンのような男を植民軍の先鋒に加えたのが間違いとしか。
 この男が少しずつ軌道がずれて、さらにおかしくなっていくのが、現実的すぎる。どこでどうやったらこの男を止められるのか。作中ではついに止められないけど。こんなのが現実にいたらどうやって対処しよう?と真面目に考えたくなる。

 人間と異星民族のアスシー人とがお互いに理解しあう、とかハイン人であるルペノンであれば融和の導きは可能かも、などという予定調和にもちこむ気は、ル=グウィンにはさらさらなく、異文明の相互理解の難しさが読者の目前に投げ出される。セルバーは人間から「殺人」を学び、行動に移すことで、アスシー人の『神』となる。アスシー人は人間から「殺人」という行動様式を取り込み、この星の文化はこれからどのような局面に向かっていくのか。彼らは平穏で安定した生活を取り戻しうるのか、殺人を知った人々は、もとの現実界と夢見界を行き来する生活に戻ることができるのか。

 彼らの行動様式を外形的に類推はできても、その基盤にある精神生活を根本的に理解することは、わたしたち「ジンゲン」には不可能だ。理解できない。そして、今我々が「理解している」と思っている、この地球上のアレコレだって、実際に理解できているかは怪しいものだ。西欧人にとって、たとえば日本の文化、イスラム文明、何一つ、本当には彼らには理解できていないのではないか。むろん、逆もしかり。私にとっても。そんな疑問を投げかけられる作品だ。

◆アオサギの眼◆
 地球の植民惑星であるヴィクトリア星。そこは、植民地というよりは、流刑地だった。過去2回の植民船の到着。1回目は100年以上前で、南アメリカ大陸から、犯罪者がおくりこまれたよう。2回目は50年くらい前で、このとき送り込まれたのは非暴力・不服従の平和主義者たち・・・いわば政治犯だった。それぞれの植民者達は、シティとタウンの二つのコロニーを形成。お互いに経済的に依存しているが、タウン(後からの植民者)が食料生産を担い、非暴力平和主義のタウンの人々は、先住者の支配を受け入れ、シティ(先住者)は議会を持ち、支配者層を形成している。ル=グウィンは、そんな舞台を作り、女性の自立や『主義』のぶつかり合いを描く。・・・・てか、ル=グウィンが描きたいものを描くための世界の構築なので、けっこう作り物感があって、あまり、没入感は持てなかったのがすこし残念。

 ◆旧世界の代表、マフィアのドンみたいなイメージのファルコ(父親)
 ◆目覚めた女性ラズ(娘)
 ◆夢想家で情熱家で活動家のレヴ(若者)。非暴力不服従の平和主義者

 レヴが語る「理想」という言葉がどうにも胡散臭い。というよりは青臭い? 理想を語る西欧人をとことん信用できないのは、日本人の性かもしれないけど。
 この、現実の暴力を知らない人間たちが、根なし草のようで頼りなく曖昧模糊としている「平和・非暴力」を大義名分にすることの危うさ。そして、大勢の人間から崇拝を集め、人々を「指導」するという優越感や自己陶酔感の危なさ。

 理想や大義を語ることで、周囲の一般大衆から一段高い場所に立ち、注目や崇拝を集め、他人を指揮することの麻薬的な効果が、暴力による優越感と大差ないことを、一人、異邦人のラズだけが看破している。

 しかし、まあ、総じて面白くはあるのだけど、なんとなく、そこはかとなく、説教臭いんだよなあ。ル=グウィンらしいとも思うけど。ちなみに、『世界の〜』はヒューゴー賞を受賞している。

2024年12月5日木曜日

0522 システム・クラッシュ マーダーボット・ダイアリー (創元SF文庫)

書 名 「システム・クラッシュ /マーダーボット・ダイアリー」
原 題 「System Collapse 」2023年
著 者 マーサ・ウェルズ
翻訳者 中原 尚哉
出 版 東京創元社 2024年10月
文 庫 320ページ
初 読 2024年12月4日
ISBN-10 4488780059
ISBN-13 978-4488780050
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/124607051

 弊機は相変わらずぼやきに満ちていてほっこりさせてくれるが、この世界観って結構殺伐としてるよな。誰が、このような殺人を当たり前のように行う企業が文字通り支配している世界に住みたいだろうか? 確か映画のロボコップも企業都市国家みたいな世界観だったよな。SFに有りがちな設定ではあるが、なんだよ「企業許可殺人」って! そんなのあっちゃダメだろ! と世界観にツッコミまくる。そんな非常識な世界観だからこそ「構成機体」なる弊機だってが登場できるわけなんだが。
 要はサイボーグと同じなんだろうけど、ミソなのは個体の意識が人間の脳組織ではなく、プログラム側にあるところ。しかし、人間の脳を持つがゆえに、感情もある。しかしあくまでも意識は機械よりだし、自在にネットワークで情報を操作することもできる。だがしかし、一番したいことは、ドラマの視聴。これが、どうにも愛しい。
 
 そんな拗らせ弊機の今作は、『ネットワーク・エフェクト』の続きから。
 異星文明の汚染に犯された過去2回の惑星開拓事業。それに巻き込まれた人々を、新たな開拓(=企業奴隷化)から護ることができるのか。
 弊機としては、自分が護るべき人々のほうが大事、盟友ARTも、ARTが愛する乗組員の人々も大事。・・・・やっぱり、自分は貧乏くじを引くのが務めと心得、最前線で厄介事に最初にちょっかいを出すのは自分、という信念は揺るがない。

 ラストで、「ああ、やっと帰れた。たいへんだった」というラッティのセリフに心底共感できる。今回も大変だった。あとは、もう、ドラマに耽溺するだけ。ご苦労さま。 

2023年12月9日土曜日

0452-53 プロジェクト・ヘイル・メアリー 上・下


書 名 「プロジェクト・ヘイル・メアリー 上・下」
原 題 「Project Hail Mary」2021年5月
著 者 アンディ・ウィアー   
翻訳者 小野田 和子    
出 版 2021年12月
文 庫 上巻:328ページ 下巻:320ページ
初 読 2023年12月9日
ISBN-10 上巻:4152100702 下巻:4152100710
ISBN-13 上巻:978-4152100702 下巻:978-4152100719
読書メーター 上巻 https://bookmeter.com/reviews/117619687
       下巻 https://bookmeter.com/reviews/117637628

Amazonあらすじ:未知の地球外生命体アストロファージ――これこそが太陽エネルギーを食べて減少させ、地球の全生命を絶滅の危機に追いやっていたものの正体だった。人類の英知を結集した「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の目的は、ほかの恒星が光量を減少させるなか、唯一アストロファージに感染していないタウ・セチに赴き、その理由を探し出すことだ。
そして、〈ヘイル・メアリー〉号の乗組員のなか、唯一タウ・セチ星系にたどり着いたグレースは、たったひとりでこの不可能ミッションに挑むことになるかと思えた……。

 まさにあらすじ通りなんですが。いや〜、ウワサに違わず面白かったです。小説はどこまで面白くなれるか、にチャレンジでもしてるのか? 覚えのない環境で目覚めたらまったく自由に動くことすらできず、記憶もない。唯一の会話の相手は今ひとつコミュニケーション不全なコンピュータ。そして同じ室内には、おそらくミイラ化した同僚の遺体。そんな状況から、現状と過去が交互に差し込まれ、だんだん主人公、ライランド・グレースの置かれた状況が明らかになっていく・・・・。
 大小の、今ここにある危機の波状攻撃。最大の危機は地球かと思いきや、それは14光年を隔てた異星文明の危機でもあり、極限状態でのファーストコンタクトであり、物理学や生物学であり、友情と信頼であり・・・・・「面白さ」の全てがぎゅっと詰まってました。いやはや。
 なによりも、グレースの性格が良い。最初はストラットに使い走りに使われる科学者?って感じでしたが、だんだん、ストラットの横に常に従う、プロジェクトのNo.2になってるし。きっとストラットはグレースに、研究面以外でも助けられていたに違いないんだよ。最後は問答無用で最前線に叩き込んだけどね。ストラットが歴史学を専攻していた、っていうのも良かった。科学者が科学の粋を極めていくように、彼女は人類の歴史を知っているからこそ、見えてくるものをたじろがずに見詰めていたんだよ。

 読み終わった後も、「地球はどうなったんだ〜〜〜!!」と気になってしょうがない。ストラットは? ディミトリは? 各国は? 気候変動はどこまで行ったんだ? 戦争になってしまったのか? 誰がビートルを受け取った? 27年か28年後の世界。その間に地球では何があったのか。苛烈で愛情深いストラット、皮肉が素敵なディミトリ、マッドなサイエンティストたち。彼らは生き延びて、万に一つの朗報に触れることができたのか。そして、地球の科学を学び、英語を学んだ異星人達は、いつの日か地球を訪れるのだろうか。
 なんだか、エルトゥールル号から始まった日本とトルコの関係を思い出してしまった。
 いつか訪れるかもしれない異星文明とのファーストコンタクトが、こんな幸せなものだったら良いな、と思う。

2023年3月5日日曜日

0418 動乱星系 (創元SF文庫)

書 名 「動乱星系」
原 題 「PROVENABCE」2017年
著 者 アン・レッキー    
翻訳者 赤尾 秀子    
出 版 東京創元社 2018年9月
文 庫 448ページ
初 読 2023年2月19日
ISBN-10 4488758045
ISBN-13 978-4488758042
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/112413918   
 アン・レッキーの『ラドチ戦記』シリーズは私の最愛の一作(ってか三冊だけど)。これはその同じ宇宙の物語で、ブレクの物語と同時並行的に進んでいる。
 “蛮族”プレスジャーによるコンクラーベが開催される、その原因はラドチ圏内の内紛とAIによる独立騒ぎ・・・・ということで、件の独立派AIであるブレクと、“彼女”が率いる二星系暫定共和国は今ごろどうしているんだろう? ブレクは仲間に囲まれて幸せにしているだろうか?
 プレスジャーの言うところの〈価値ある存在〉であることを主張して、自らの存在を示したブレク達に対応するため、プレスジャーはふたたび“コンクラーベ”を招集しており、今回の舞台「フワエ」の星系には、そのコンクラーベに参集するために、異種族ゲックの大使が乗った船が寄港している。

 今作の主人公は、ラドチからみれば辺境の、フワエ星系の人類社会に生きる女の子、イングレイ。今回は、まさに女の子といった形容がぴったりなちょっと破天荒で健気なイングレイが、文字通り、一生懸命頑張るお話である。前作にくらべれば相当に素直な舞台設定ではあるのだが、なかなかどうして、一風変わった世界観に仕上がっていて、これまた一筋縄ではいかない。

 今回登場するゲックは水生生物で、その形容から、『栄光の旗のもとに』に登場するナマズ系のプフェルング人を連想するが、ゲックの支配星系で暮らしているゲック化した人類もいる模様で、その人たちは人体改造でえら呼吸できるようになっているとか。また、ルルルルルは、今回は登場しないが、その形容は、オクテイヴィア・バトラーの『血を分けた子ども』に登場するムカデっぽい異星人を思わせる。ラドチ文明は男女を区別しない文化で人称代名詞が「彼女」しかないのが大きな特徴だったが、こちらフワエの宙域では人類は、男性、女性、無性の三つの性があり、恋愛・結婚ともいずれの組み合わせも可、人称代名詞も3性分用意されている。そして、ストーリーにさりげなく混ざりこむ恋愛感情。ちょっとまて船長!いつの間にそうなった?

 遠未来SFなのに、登場人物が等身大で、かつなんとなく鄙びていて土俗的なのもアン・レッキーらしい特徴。基本的な衣類がルンギで、裸足で歩くことも厭わないだけでなく、床座に近い生活様式。通貨よりも物物交換にちかい経済制度なのも、おもしろい。「遺物」と言われる民族や一族の歴史や由来の証になる物に対する強い思い入れや、モノや記念品や記録に対する、独特の愛着や執着。物の真贋よりも、それが何かを物語り、他者にその物語を主張することができ、自分も周囲も騙せるのであれるかどうかのほうがよほど大事。遠未来の人類が宇宙で根なし草になりつつあり、それゆえ切実にルーツを求めてやまないのだろうか。

 前作のラドチ3部作では、おもいっきりジェンダーに揺さぶりを掛けられたが、今作では物に対する価値観が揺すられる。その一方で、普遍性を持つのが、親子の情。そして、複雑な文化的背景を踏まえてさらりと表現される人間同士、人間×異種族の愛情。最後が船長×ガラルの男同士カップルとイングレイ×トークリスの女同士カップルで締められるのは、なんとも今風。
 全体的には、遠未来SFでありながら、あまりSFっぽくなくて、ちょっとどんくさい成長譚であって、自分の持ち場を心得て、等身大で生きて行くことの尊さや、未来への希望が感じられて、なかなか良い読後感だった。

2022年5月9日月曜日

0345 逃亡テレメトリー/マーダーボット・ダイアリー (創元SF文庫)

書 名 「逃亡テレメトリー/マーダーボット・ダイアリー」 
原 題 「FUGITIVE TELEMETRY 他」 2018〜2021年
著 者 マーサ・ウェルズ    
翻訳者 中原 尚哉    
出 版 東京創元社 20224
単行本 244ページ
初 読 2022年5月8日
ISBN-10 4488780040
ISBN-13 978-4488780043

 このたびも、冒頭からぼやきが止まらない弊機です。メンサーを(グレイクリス社から)守る、ということを至上命題とし、防御にかけては隙だらけのプリザベーション連合の治安システムと警備当局に終始イライラいらいら(笑)。
  •  おまけに、弊機のプリザベーション・ステーションの中での立場を向上させる為にも、警備当局と協働して緊張関係を緩和すべき、と考えるメンサーの指示で、警備局と殺人事件の捜査協力をするはめになり、イライラ値も絶賛向上中(笑)。
  •  なかなか弊機を信用しきれない警備局の上級職員のインダーさんでしたが、それは、基本善人なので、マーダーボットの基本姿勢(捨て身の滅私奉公)にだんだん絆されるのも、お約束。少しずつ、人間の間で暮らすことや、距離の取り方を学習・・・・と、いうよりは、周囲の人間に学習させている弊機です。次作も楽しみ。



2021年10月23日土曜日

0301 ネットワーク・エフェクト マーダーボット・ダイアリー (創元SF文庫)

書 名 「ネットワーク・エフェクト マーダーボット・ダイアリー」 
原 題 「Network Effect: (The Murderbot Diaries)」2020年
著 者 マーサ・ウェルズ 
翻訳者 中原 尚哉 
出 版 東京創元社 2021年10月 
文 庫 540ページ 
初 読 2021年10月15日 
読書メーター    
ISBN-10 4488780032 
ISBN-13 978-4488780036

 仏頂面の弊機はともかく、この“女の子”は誰なんだ、とカバーイラストが公表されたときから違和感しかなかった3冊目。この女の子は、どうやら弊機の後見人(?)であるメンサー博士の娘ということらしい。
 とにかく人間嫌いな“マーダーボット”こと自称弊機は、今回も1行目からぶっとばしております。いやあ、中原さんの翻訳、相変わらず素晴らしい。
 これも、ネタバレになることはあまり書きたくないな。とにかく相変わらずひねくれいじけ虫な弊機は、いろいろとこじらせつつも、誠心誠意人間の友人たちのために奔走。心を分ける機械知性であるART(の機体)に拉致され、当のART本体(知性)は存在がつかめず、どうやら削除=殺害されたようだと判断したところで、情緒的に破綻。メンサーの娘のアメナは、最初はマーダーボット弊機を嫌っていたものの、若者らしい柔軟さと情緒で、弊機と心を交わす存在になっていく。そしてまた、相変わらずARTが良い。後半登場する警備ボットの3号の一人称が「本機」なのが、弊機とは性格が違うことを感じさせる。これ、元からなの?それとも、原作はどちらも「I」で、翻訳で「弊機」と「本機」を訳し分けてるのか? 英語で原文を読んでる方に教えてほしい。(で、教えてもらいましたが、原文ではどちらも"I"だそうです。これを『弊機』と『本機』に訳し分ける中原さん、凄し。そして、日本語の表現力に感嘆する。文体から弊機と、マーダーボット2.0と、3号の性格の違いがにじみ出ている。)とにもかくにも、今作も翻訳の勝利! ああ、面白かった。



2021年5月6日木曜日

0267 接続戦闘分隊: 暗闇のパトロール (ハヤカワ文庫SF) 

書 名 「接続戦闘分隊」 
原 題 「THE RED  First Light」2013年 
著 者 リンダ・ナガタ 
翻訳者 中原  尚哉 
出 版 早川書房 2018年9月 
初 読 2021年5月6日
文 庫 553ページ 
ISBN-10 4150121982 
ISBN-13 978-4150121983

 近未来SF,というかもろサイバーパンク。生身の人間に感覚器官を拡張する機器を装着してネットワークに直接接続する強化兵士のユニット「リンクド・コンバット・スクワッドー接続戦闘分隊−」による戦い、と思いきや、そういう近未来ガジェットが当たり前となった軍隊でさらに進んだサイバネティクスが実験的に導入され、よりサイボーグに近くなった主人公。
 冒頭、アフリカの局地戦から、軍需産業の思惑に振り回されて重傷を負う主人公。負傷により、より進んだサイバネティクス義肢を装着することになり、治療—訓練—模擬戦・・・・・と進んだと思いきや、突然の小型核爆弾による同時多発テロの発生。アメリカは大混乱・・・・。しかしてその原因が、主人公シェリーの脳内をもハックしている通称「レッド」・・・クラウド上に存在している正体不明のハッキングソフトウェアの排除のための、民間軍需産業側の暴走・・・? とにかく斜面を転がる雪玉の如く、どんどん話が大きくなっていく。そして、なんと、完結しない! 米国では3部作として出版され、またしてもハヤカワ、一冊目しか翻訳出版していない模様だ。『栄光の旗のもとに』の二の舞。面白いだけに、中原氏の翻訳作品なだけに、残念、というか、もはやハヤカワが恨めしい。
 こちら読者の方は、もとは1冊のペーパーバックだったのを無理矢理上下巻、とか薄くて高い上中下巻なんかを、文句も言わずに買ってやってるじゃないか。それなら出版社だって、3部完結の本なら3部腹をくくって出してほしいよね。そんなわけで、この一冊では、まだまだ物語は端緒についたばかり、の風情です。これからどれだけストーリーが変容していくのか、想像持つきません。くっそー、続き読ませてくれよ。
 一つだけ。現代の自動車爆弾テロもイヤだが、それと同じ感覚で核爆弾テロが可能な世の中はもっとイヤだ。そんな世の中がこないよう、やはり核開発と核拡散は徹底的に管理すべきだと思う。


2021年1月10日日曜日

【訃報】『栄光の旗のもとに』著者H. Paul Honsinger氏 死去 昨年8月


最近、ホンジンガー氏の公式HPがアクセス不能となっていることに気づき、ツイッターのアカウントを確認したところ、娘さんからのツイートにより、2020年8月に、癌闘病中の新型コロナ感染による肺炎で死去されたとのことです。もともと糖尿病を煩っておられ、最近では昨年4月のツイートで癌が発見されたと報告されていました。健康状態については、このご本人のツイートが最後の消息でした。7月14日に、奥様の新刊が刊行される、とのツイートがありました。

新型コロナのことはなくても、病状は深刻な状態だったと想像します。ハイリスクであったのは間違いなく、それでも、まさか、ホンジンガー氏が新型コロナで奪われるとは思っていませんでした。
残念、などど言葉にするのもむなしい気がします。
ご冥福をお祈りします、と書けば良いのか。大切な人が去ったことを身の中に感じています。


彼の作品は素晴らしかった。
Man of Warシリーズの第2部、第3部も読みたかった。2巻目以降の翻訳が続いていないのが残念でなりません。自分が、ご本人を悼んでいるのか、作品を悼んでいるのかも良くわからない。とにかく無念です。どうか、今からでも、彼の作品を沢山の方が読んでくれますように。



2020年5月31日日曜日

0201 暗黒の艦隊: 駆逐艦〈ブルー・ジャケット〉

書 名 「暗黒の艦隊: 駆逐艦〈ブルー・ジャケット〉」  
原 題 「Warship (Black Fleet Trilogy)」2015年1月 
著 者 ジョシュア・ダルゼル 
翻訳者 金子 司 
出 版 早川書房 2017年5月 
初 読 2020/05/31 

 この訳者さんはミリタリーSFをミリタリーSFらしく訳そうという気概が足りないんじゃないだろうか。訳が所々たどたどしさを感じるのは否めない。
 宇宙艦に対して総排水量って表現はどうかと思う。排水するのか?するんだな?
 ただしこれは、誤訳ではない。「総排水量」って訳して違和感を感じるのは日本語ならではだと思うので、すこし工夫してくれたら良いのに。もっとも宇宙戦艦ヤマトも総排水量表記だったのは、wikiで確認してきた。確か、《カンバーランド》は質量トン表記だった。こちらもそもそも原著からそういう表記。

 あきんどじゃないんだから、「ご用命」は止めてほしい。「ご命令」、もしくは「拝命」の方がしっくりくる。
「センサーを艦内に格納するしくみ」とか、冗談かと思う。まさかこれが機関長のセリフとは思えん。せめて「センサー格納機構」とか当ててくれてたらサラリと読み流せるのに。
「牢屋」って。。。独房とか、拘禁室とか、さ。
 でも一番残念だったのは実は「動く歩道」だ。原著がmooving walkwayだからまったく正しいんだけど、駅とかにある平面エスカレーター式の動く歩道のイメージが強すぎる。文中の説明によると歩道の上の点滅するサークルの中に立つと行き先や乗り手を判別して自動走行する床なんだけどね。

 それから、これは翻訳のせいではなく、辺境廻りの一介の駆逐艦艦長が大佐なのは、初めは相当違和感があった。この上のクラスに巡航艦やら戦艦やら航宙母艦等々があるではないか?そっちはまさか将官なのか?
 訳に疑惑を抱いていたので、つい、まさかキャプテン(艦長)を大佐と訳してないだろうな?と心配になった。副長が中佐(コマンダー)だから誤訳ではない。つい原著をKindleでダウンロードして確認してしまったよ。
 ちなみに、この艦長の階級問題は、駆逐艦ブルージャケットは巡航艦よりもデカくて速くて頑丈だという設定らしい、ということで一応の解決を見る。全長600メートル、15デッキ、総員1000名以上。これなら、大佐でもいいのか?でも、一体どういう設定なんだろう?もっと著者の、この宇宙のバックグラウンド設定を確認したいところ。 

 さて、ここまで散々文句を言ったにもかかわらず、だ。この本面白かった! 
 ジャクソン艦長の造形が良い。
 職業軍人としてのなけなしのプライドと、温かさと弱さと老獪さが同居する人間味に現実感のある人物に仕上がっている。
 戦闘経験のないダメダメな艦を叱咤激励してなんとか異星人と戦える戦闘艦に仕立てあげる設定にしろ、艦内での反乱事件にしろ、奇抜な戦術にしろ、某宇宙の新米駆逐艦艦長と非常にストーリー展開が良く似ていてデジャブありありではあるが、そこはまあ、それでも面白かったので不問にする。
 その某新米駆逐艦艦長が眩しいばかりの才気を放っているのに対して、こちらのジャクソン艦長はいぶし銀、というよりもむしろブロンズの手堅さと重厚感。 
 国内でほぼ同時期にハヤカワから発行された軍艦SFモノ三部作3作品の一つなだけに、「栄光の旗のもとに」「女王陛下の航宙艦」とこのシリーズは比較してしまうのはやむを得ないこと、とお許し願いたいね。

 新形の軽量化された高性能艦に対して、剛構造で重厚で、頑丈で必然的に大型な旧式艦、という設定も見え隠れするけど、それはそれで「女王陛下の航宙艦」と設定が似ていなくもない。ちなみに艦長の飲酒問題も同じく「女王陛下」の艦長と設定カブリであるが、愛飲しているのがケンタッキーのウイスキーであるところは、マックスとの共通点だな。

 とりあえず、「栄光の旗のもとに」と「暗黒の艦隊」と「女王陛下の航宙艦」と「彷徨える艦隊」で設定比較表を作ってみたいと思う今日この頃。


2020年5月24日日曜日

0200 鉄の竜騎兵: 新兵選抜試験、開始

書 名 「鉄の竜騎兵: 新兵選抜試験、開始」 
著 者 リチャード・フォックス 
翻訳者 置田 房子 
出 版 早川書房 2020年4月 
初 読 2020/05/24 


 ううーむ。『宇宙の戦士』の二番煎じ感がどうも拭えない。ストーリー立ては、『宇宙の戦士』だし、装甲は鈍色ガンダムなイメージだし、操縦機構はエヴァンゲリオンで、首の接続プラグは攻殻機動隊だ。ついでに言えば、テンプル騎士団風なのはFSS。しかもオマージュと言えるほど洗練されてもいない。世界観=宗教観?もなんというか、別段新しくものないし、泥臭い、ていうか、まるで聖書を再解釈した新興宗教っぽい薄っぺらさがある。。。。。。同じような本歌取り的な作風でも、『帰還兵の戦場』を読んだ時の印象とはずいぶん違う。あちらは素直にオマージュだと受け入れられたのに。違うのは完成度か?
 ラストがちょっと思わせぶりで、次に何が起こるのか、と思わないでもないけど。なあ。。。これから大化けしてくれるのか??? ついでながら、サブタイトルの二番煎じ感も。「新兵選抜試験、開始」 とかもう止めようよ〜。恥ずかしいよ〜。


2020年5月21日木曜日

0199 われらはレギオン 1  AI探査機集合体

書 名 「われらはレギオン 1  AI探査機集合体 」 
著 者 デニス・E・テイラー 
翻訳者 金子浩 
出 版 早川書房 2018年4月 
初 読 2020/05/21 

  ランダース博士が一番好きだった、って感想でお察し。流し読みになりました。結局どこまでいってもボブなので、ちょっと食傷。人間は、どれだけ衰退してもやっぱり愚か。これで植民しても、すぐに植民星間戦争になりそうだ。そのときボブはどうするのかしら。結局私は、SF読もうがミステリー読もうが、人間の葛藤とか悩みとか心情が大好物なので、主人公ボブがとにかく明るく悩まない性格なこの作品は明快すぎて、物足りなかったのだった。続巻は当分読まないかな。


2020年5月5日火曜日

0198  Brothers in Valor (Man of War Book 3)

書 名 「Brothers in Valor (Man of War Book 3)」
著 者 H. Paul Honsinger
出 版 47North    2015年6月

 前巻ラストで対クラーグのユニオン伝令艦の任を務めたカンバーランドは、案の定、帰路で使者の首級を上げようとするクラーグ艦隊に待ち伏せされる。今回の敵は巡航戦艦、巡航艦、駆逐艦 計11隻。完全に周囲を封鎖する布陣を取られ、ステルスで息を潜めるカンバーランドに対して、じわじわと包囲網を縮めるクラーグ艦隊。さすがのカンバーランドの艦内にも絶望感が漂い始める。どうするスワンプフォックス。作戦立案はしたが、まずは部下の絶望を戦意で上書きするところから戦闘開始。崇拝する艦長にコーヒー注ぎまくるヒューレット君が愛らしい。
 常々マックスの指揮艦には最低でも前部にミサイル発射管4本が必要だと思っていたが、ホーンマイヤーも同意見だったとみえ、今回、艦隊で改修を受けた際に最新型のミニ対艦ミサイル10発を連射できる高速回転式ミサイル発射装置『イコライザ』を実装。リボルバーのミサイル版みたいなものか? 与えられた装備も盗んだ?装備も存分に使いこなし、不利な状況をひっくり返そうと奮闘するマックス。
 私の愛する機関長“ヴェルナー”ヴォーン・ブラウンは極めて有能かつ常識的な男なので、マックスの非常識な戦法に顎が抜けるほど驚かされる。その会話がこれまた楽しい。
 “この戦術は三日前に二人で検討済みだ”としらっと答えるマックスに「だけど艦長!その議論のまえに二人でケンタッキーでヤンクが蒸留したウイスキーをしこたま飲んでたじゃないですか!正気の沙汰とは思えません!」 マックスの答えは「一言言っておくが、ケンタッキー出身者をヤンクと呼ぶな」。さてマックスが選択した狂気の戦術は?彼らは無事艦隊に戻れるのか?と、これが冒頭の戦闘で1~2章のみ。でもって、ここまでの戦闘はあくまで前菜。メインディッシュはここから始まるのだ。なんて贅沢な。

 このあと、ユニオン支配宙域の辺縁で補給艦と合流し、補給と修理を受け、ホーンマイヤー提督からの封緘命令書を受け取るマックス。彼のキッチンキャビネット(食事をしながら意見交換する幹部士官達)の面々と提督の命令書を吟味するが、不可解な点がある。独立した指揮官として、必要な情報は余さず知っていたいと考えるマックスは、当然マックスがそう考えるだろうとホーンマイヤーも考えるはずだ、と思い至り、カンバーランドに配属されている、ホーンマイヤーの懐刀の情報技術士官ベイルズを使い、ホーンマイヤーが隠した極秘命令(ビデオ)を発見する。ホーンマイヤーは動画の中でマックスに、極めて重大な極秘情報を伝え、マックスに大きな裁量を与える。そしてマックスに語りかける。“お前が身のうちに大きな痛みを抱えていることは知っているが、お前は極めて重要な手駒になっている。戦争を指揮することはつねに犠牲を出すことだが、自分は部下に無駄死にはさせない。必ず帰還せよ”(意訳)と。
 ホーンマイヤーの命令を履行すべくクラーグ宙域の奥深くに侵入するカンバーランドが、味方の補給艦を助けるためにクラーグ艦内で白兵戦になりクラフトが活躍、とか、カッターの名操縦士モーリの栄光とか、間奏のディナーシーンとか、カンバーランドの本来の建造目的であるところの電子偽装の性能を駆使した奇襲攻撃とか。そして、ついに来るべき時がくるのだ。クラーグのいわば“仮装商船戦法”の罠にはまるカンバーランド。致命的な損傷を受け、マックスは決断する。
  "Abandon ship"
 総員の退避状況を報告する副長はこう付け加える。
「巨大な太りすぎの黒猫も一匹シャトルに乗ってます」
 1巻では普通の黒猫、2巻目では太り気味の黒猫だったクルーゾーは「巨大な太り過ぎの黒猫」に進化。この間5ヶ月だ。ご馳走与え過ぎだ。
 カンバーランドは、その最後の務めを果たす。致命的な損傷を受けた亜光速ドライブを直接制御しているのは、重傷を負い、艦と、いや彼のエンジンと運命を共にする機関長ブラウン。そして、ひとつの伝説が終わり、次の伝説が始まる・・・・・はずなのだが、著者ホンジンガー氏の健康不安で、いまだ刊行されず。
お願いです神様。とりあえず、ホンジンガー氏をお助けください。


2020年4月5日日曜日

0195 The Hunters of Vermin A TALE OF ENSIGN MAX ROBICHAUX

書  名
The Hunters of Vermin2017年11月
著  者 H. Paul Honsinger 
出  版 H. Paul Honsinger(Kindle)

 『栄光の旗のもとに』の前日譚『Deadly Nightshade』の後編。
 主人公マックス・ロビショー16歳。先進種族ヴァーハに偵察戦闘艇ナイトシェードごと、自力では帰還も叶わぬ宇宙の彼方に拉致されたマックスだが、ヴァーハのお眼鏡にかなったのか一方的に「訓練」を施され、ホーンマイヤーの任務部隊に帰還するまでの話。
 前話では母の思い出が語られたが、この巻ではジノファージ攻撃わずか二日前の父との最後の思い出が。マックス、お父さん似だ。両親の優しい記憶で胸の底を温めながらひたすら闘うマックスに落涙必至。
 マックスの父は、宇宙艦の設計技術者だったが、飛行機黎明期のプロペラ機のレプリカを手作りすることを趣味にしていて、手製の空力飛行機の操縦もする。この時には、8歳の息子を自作の飛行機に乗せて操縦させている。もちろん、普通に操縦席に座ったのでは前が見えないので、座席に台を置き、そうすると足がフットレバーにも届かないので、補助具を置いて。そして、飛行中のトラブルでエンジンが止まっても、そのまま息子に対処させてる。大胆だな、おい。
 マックスの無謀なほどの大胆さは父親譲りだと確信した次第。
 この優しい父子が二日後に見舞われる悲劇を思うと、胸に迫るものがある。
(ちなみに、このマックスの幼少期から培われた空力飛行機の操縦技術は、第2巻で遺憾なく発揮されており、同乗者のブラムを絶叫させている。)

 さて、本作冒頭、マックスの返還を要求するために、外交官であるミドルトンの兄がヴァーハに電文を送り、それにヴァーハが返答するくだりがある。ヴァーハの価値観や若者の育成に対する考え方が見えて面白い。
 “母も父もいない若いロビショーは、宇宙軍がその代わりとなって道を示さなければならいのに、親代わりであるはずの宇宙軍は未熟な彼を一人で危険な任務に送り出した。我々が助けなければ、彼はクラーグの獲物になっていた。したがって、宇宙軍は若いロビショーについて、返還を求める権利はない。ロビショーはわれわれとともにいる” といったことをヴァーハは主張するのだ。ヴァーハは、若い戦士を慎重に育成する文化を持っており、またいくつもの後進の文明を庇護下においてもいるらしく、自分たちの価値観を問答無用で相手に適用する。ホーンマイヤーのマックスへの仕打ちは彼らの逆鱗に触れ、マックスに対して庇護者として振る舞うことにしたらしい。とはいえ、宇宙最強の戦士種族ヴァーハのトレーニングは、人間のマックスにとっては、相当に過酷だったのだが。
 この、マックスが人類側に帰還するまでのヴァーハ戦士との交流が、後の人類対クラーグの戦局に大きな影響を与えることになるのは言うまでも無い。マックスは、名誉の戦いを重んじるヴァーハ文明において、名誉を伴わず、ヴァーハ戦士の手を煩わす必要のない“害虫駆除”を行ういわば、外人部隊としての訓練を受ける。この体験が、後に、ヴァーハに「獲物を分け合う」戦士として認められ、ヴァーハ名を与えられる原点になるのだ。


2020年1月16日木曜日

0190ー91 マーダーボット・ダイアリー 上・下

書 名 「マーダーボット・ダイアリー 上」「マーダーボット・ダイアリー 下」 
著 者 マーサ・ウェルズ 
翻訳者 中原 尚哉 
出 版 東京創元社 (2019/12/11) 
初 読 2020/01/16


 対人恐怖症で内気な暴走警備ボット。(人間由来のクローンの脳や神経組織や人体パーツと、機械部品のハイブリット。脳や神経があるから、当然痛みや恐怖もあるし、感情や自我だってある。)
 イヤなことがあれば、連続ドラマに逃避し、辛いことがあればやはり連続ドラマに耽溺する。
 自分は警備ボットでセックスボットじゃない!という自負心から、性的表現には無関心かつ否定的。どこまでもシャイな自称「弊機」は萌え要素バツグン。
 だがしかし!
《ART》と渾名された大型調査船のAIがこれまた良い。『本船がはいる』という宣言にキタコレ!
 命の選択を迫られるような緊迫した場面で思い浮かぶ、絶対に失いたくないものが、“自由や無制限のダウンロードや、『太陽の島々の物語』の新作エピソードなど。”って引きこもりニートの青年の主張みたいで、このギャップにも大いに萌える。
 人間由来の脳神経や人体組織を持ったハイブリッドロボットもしくはサイボーグ?が存在するのは、高度な判断は人間の脳が必要ってことなのかな。制限が外れた思考や感情がおずおずと幅を広げて行く様子がかわいい。それにしても本人かはっきり意識した(気持ち)が「勝ちたい」てところがやっぱり人間だなあと。 

 素人文系現代人にも理解できる言葉で、脳内で展開されるハッキングによる闘いがうまく表現されているのも良い。翻訳は中原尚哉さん。どうりで安定の読みやすさ。いつもながら素敵な翻訳です。この主人公の自称を《弊機》としたのが素晴らしい。翻訳の勝利といえよう。

2018年8月6日月曜日

0135 スターダスト (ローダンNEO 1)

書 名 「スターダスト (ローダンNEO 1)」 
著 者 フランク・ボルシュ 
翻訳者 柴田さとみ 
出 版 早川書房 2017年7月 
初 読 2018/08/06 
 
 言わずとしれた、ローダンシリーズのリブート。 ローダンNEO。本家ローダンも、グインサーガも早々にリタイアしてしまった私には、天啓か?今からなら頑張れるかもしれない。しかし、にしても、この本が刊行された時点で、すでに原作は150話を超えているとか。本家は3,000話に近くなっているとか。NEO、いっそのことダイジェストで良いんじゃないか?死ぬまでに終わるんだろうか? とはいえまずは面白いと思えるかどうか、だ。かなり懐疑的だったのだけど、クレストとのファーストコンタクトで、ローダンが知的生命体の持つであろう叡智について語ったところで、がっつり掴まれた。そして、地球への生還シーン、最後に目にした追尾ミサイルのマークは母国アメリカ国旗。エピローグで腕からアメリカ合衆国の旗をむしり取って捨てるローダン。国家主義・民族主義が染みついたおバカさんじゃないところが素敵じゃないか。異星人の乗組員がみんなゲームにハマって正体失ってる、とか、クレストの病気の治療が人間なら可能、とか、ちょっと荒唐無稽に過ぎる感じはするけど、ごりごりのハードSFじゃないわけだし、そこんところは大甘にみて。


2018年8月5日日曜日

0134 女王陛下の航宙艦

書 名 「女王陛下の航宙艦」 
原 題 「ARK ROIYAL」 2014年
著 者 クリストファー・ナトール 
翻訳者 月岡 小穂 
出 版 早川書房 2017年6月 
初 読 2018/08/05 
 
 取り敢えずこれだけは言うぞ。邦訳タイトルが良くない!原題は『Ark Royal』、HMS Ark Royal》はイギリス海軍伝統の空母の名称だ。であるから、この船も宇宙空母もしくは航宙母艦だが、そもそも原題タイトルはあえてHMSが付いていない、としか思えないのに、そこを敢えて「女王陛下の」、とやるとはどんな覚悟なのかと小一時間。イギリス海軍の(この場合には宇宙軍の)艦船にはすべてHMSが付くとおぼしいのに、全部に「女王陛下の」と枕詞を付ける気か?・・・・・、と店頭平積みを見た瞬間、またかよ、といささかウンザリしたにもかかわらず、つい買ってしまったのだったが・・・・・まあ、いいや。毒を吐くのはこれくらいにしておかないと。

ではさて、ストーリーですが。
酒が飲みたい。とにかく酒が飲みたい。ほぼアル中の飲んだくれの老艦長率いる老朽航宙母艦が人類の最後の望みの綱となる。人類は、突然の宇宙人の攻撃に立ち向かえるのか?という人類存亡の危機がイギリス風味のやや安穏とした口調で語られる
 現在の国際情勢をほぼそのままで、人類は外宇宙に進出している。だから宇宙軍も「地球軍」ではなくあくまでイギリス軍、ロシア軍、中国軍、、、、となって協調性がない。
 そんな中メキシココロニーやロシアコロニーが宇宙人の攻撃を受けて各軍協力を余儀なくされる。とはいえ、その当たりの描写はとことん乏しい。
 艦長の座を狙う気満々だったやり手若手のフィッツウィリアム副長は、当初の思惑こそ浅はかだったが、老艦長に仕えると覚悟を決めてからは有能で忠実な部下としての本領を発揮、艦長を支えて艦務に邁進。この辺りは、伝統だよなあ、と思う。部下の有能さと艦内の人間関係は気持ち良い。
 しかし、戦闘描写は冗長で行き当たりばったりの感がある。これはひょっとして、物語中に登場するおバカな従軍記者達並みに、自分が状況把握が出来ていないせいなのか?と疑惑が頭をもたげる。
 行く先々で予想された異星人からの反撃がなくその幸運に助けられるが、いくら人間常識の範囲外の敵が相手とはいえ、幸運すぎないか?続刊を読むかどうかはちょっと悩ましいところ。とはいえ、ファーストコンタクトものとして、言語も文化も思考様式も異質でまったく意思疎通もできない異星人と、戦争するにしても講和の道を模索するにしても、ありきたりな宇宙戦争でない話を読ませてほしいもの。
 このシリーズを9冊出すのなら、「栄光の旗のもとに」ユニオン宇宙軍戦記も続刊の出版をお願いしたい。それはもう。是非。
【一応の覚え書き】
 なぜか同時期一斉に、宇宙戦記もの、3部作の1巻目がハヤカワから刊行。
『栄光の旗のもとに』『暗黒の艦隊』『女王陛下の航宙艦』
 この、アークロイヤルは、艦長のキャラが、『暗黒の艦隊』ジャクソン艦長とかぶる。副長フィッツウィリアムと『栄光の〜』の艦長マックス・ロビショーがもろキャラ被り。艦隊行動については、彷徨える艦隊と被る。まあ、それぞれの本を読んだ順番に影響されているのだが、総じて、『女王陛下の航宙艦』が「何かに似ている」という印象を抱く。それでも、個人的には面白ければ良いので、よろしく頼みたい。(何をだ?)