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2020年9月30日水曜日

0222 奇跡の巡洋艦

書 名 「奇跡の巡洋艦」 
原 題 「The Iron Pirate」
著 者 ダグラス・リーマン 
翻訳者 大森洋子 
出 版 早川書房 1992年2月
初 読 2020/9/30

 リーマンもだいぶ読み尽くしてきて、いよいよドイツ側の一冊。同じような語り出しだが、やはり空気感が厳しいと感じるのは舞台がドイツだという先入観があるからかな。
 何しろ、ドイツ艦だ。辛い結果になるに決まってる。もう、鷲舞を読む時のような覚悟でこっちは臨むのだ。なのになのに、いつものリーマン節である。
 原題のThe Iron Pirate(鉄の海賊)は、寡黙な艦長、主人公ディーター・ヘヒラードイツ海軍大佐に部下達から奉じられていた異名である。ヘヒラーはドイツ重巡洋艦《プリンツ・ルイトポルト》の艦長で、この頃、すでに艦は「奇跡の巡洋艦」との評を得ていた。
 巡洋艦リューベック号も出てきて、あれ、リューベック号って、他の本で誰かの駆逐艦に沈められていなかったっけ?リーマンは結構、敵艦も味方艦も、艦名を使い回す。それとも対戦相手は、あの駆逐艦なのか?しかも、すでに10冊以上リーマンを読んでいて、始めの頃に読んだ駆逐艦本は、もはや頭のなかでエピソードが混ざってしまっている。
 悲劇ははなから折り込み済みなので、できれば格好良い「ロマンチックな愚か者」を堪能したいところなのだが、そこはリーマンなので、今回は極めつけにイヤな身内の敵、ライトナー司令官が終始同乗している。これがとにかくイヤなやつ。そして、ライトナーがユダヤ人の富豪を殺害して略奪した財宝と、それにまつわる様々な欲と思惑。妻の不貞を知っているヘヒラー、それに関わりのある艦医、ゲシュタポに妻を拘束された副長。巌のようにあるべき艦長とその副長を悩ます心の揺らぎ。心と意志を一つにして強固に団結しているべき艦に入り込むきしみ。まるで靴の中に入った小石のように、いらいらチクチク、異物感が半端ない。

 そこに艦に同乗する女性パイロット。まあ、恋に落ちるよね。リーマンだもの。負傷して艦長室を病室にするエリカと、彼女を見舞う艦長ヘヒラー。見ぬふり、聞かぬふりで廊下を見張る歩哨の様子に、いかにヘヒラーが部下に慕われているかを感じる。前半はとにかく煮え切らず、ぐだぐだと悩んでいる様子だったヘヒラーも、英国海軍との戦闘に及んでは、鉄の鉄たる所以を示し、そして彼の船、ドイツの重巡洋艦は、戦い敗れて大西洋に沈むのだ。艦に与えられた命令は、名誉の「自沈」。しかし、ヘヒラーは、総員退艦を命じ、自らも沈むプリンツ・ルイトボルトを見送る。
 捕虜となり、ヘヒラーは英国の捕虜収容所で終戦を迎える。やがて、荒廃した祖国に戻った彼を待っていた者が。ヘヒラーとエリカが、どのような戦後を生きたのか、その物語の予感で物語は閉じる。

2020年9月7日月曜日

0220 掃海艇の戦争

書 名  「掃海艇の戦争」
原 題  「In Danger's Hour」1988年
著 者 ダグラス・リーマン
翻訳者 大森洋子
出 版 早川書房 1993年

 世間の耳目を集める大型の作戦ハスキー作戦やノルマンディー上陸作戦の影で、味方の艦船が作戦遂行できるようにするため、ひたすら下働きの機雷除去を続ける小型艦。上陸作戦を仕掛ける攻撃艦や兵士を運ぶ上陸用舟艇のためにまず海路を開かねばならない。機雷原を隊列を組んで進み、機雷を除去。一歩間違えれば触雷し、海底に沈む数多の艦船の後を追うことになる。
 小型とはいえ80余名が乗る掃海艇の艇長イアン・ランサム少佐28歳。志願予備役の将校で戦時だけの軍人だが、部下と艦を愛する錬達の艦長である。年の離れた弟が地中海で戦死したとの報に胸が潰れる思いを押し隠し、冷静に艦を指揮する。個性豊かな乗組員の悲喜こもごもを交えつつ、そんな部下をまとめて、育て上げ、誇りにすら思う、ランサム少佐の情の深さが読みどころ。そのような彼の姿が、新任の副官の目を通して語られる。
 この副官、中将の一人息子で、もちろん将来を嘱望されている。しかし、潜水艦には不適、と判断され、大型艦で艦長に上り詰めるにはちと、何かが足りない。そんな息子に父親が敷いたレールが、小型艦の副官から艦長に昇任させる、というもの。よってランサムの掃海艇ロブロイ号への配属は、明かに本人ではなく父親の野心付き。この父親、女癖が悪いようで、掃海隊の指揮官であるブリス中佐とは、女絡みの因縁があるもよう。当のハーグレイヴ大尉は、予備役士官や、小型艦のあれこれに偏見を持ちがちではあるが、生来の素直さ、生真面があって素直にランサムに感化されて、副長職を勤め上げるまでに成長していくのも見所のひとつ。

 さてそんなランサムの秘めた恋の相手は、10歳も年下の牧師の一人娘のイブ「俺のかわいいお嬢さん」。なんと相思相愛の純愛である。さすがの年の差・立場の差に、世間体を案じた両家の思惑で長年引き裂かれていた二人。イアンを想い続けていたイブと、艇長にまで出世して、年の差は如何ともしがたいが、なんとか世間的には釣り合いが取れてきた?イアン。
 愛の成り行きは初々しく、手を繋いだり、頬にキスをしたり、万感の思いを込めてぎゅっと抱きしめたり。甘酸っぱいことこの上ない。それでも、彼女の純真な想いはついに実る日を迎えるのだ。そのとき、まさにD-deyの直前。そして、ついに彼の艇は危機を迎えることになる。
 イアンの部下の航海長、元機雷処理士官シャーウッドの人生模様と、ずっとイアンの心を支えていたに違いない、彼が愛する大型ヨット〈バラクーダ〉号も、物語の背景にあって、準主役級の存在感を示していた。派手さはないけど、手堅くてよい物語です。

2020年8月28日金曜日

0219 志願者たちの海軍

書 名 「志願者たちの海軍」 
原 題 「The Volunteers」1985年 
著 者 ダグラス・リーマン 
翻訳者 高永洋子
出 版 早川書房 1990年4月

 カナダ人の予備役大尉で航海長のフレイザー、警察官から海軍入りして小型艇に乗り組みたかったアイブス、掃海艇乗務から機雷除去のエキスパートになって、聖ジョージ勲章まで受けたアランビー。志願の動機は生き甲斐、やりがい、はたまた生存戦略。3人の男達が集ったのはオールダンショー少将麾下の特殊部隊『ブロザローの海軍』。
 ハスキー作戦の前哨戦から始まり、Dーdayを経て終戦までを闘い抜く、戦争が日常の男達の群像。どこか薄幸そうだったアランビーは恋人を喪いついに報われず。酷薄な陸軍士官の描写にリーマンの海軍びいきがちょっと鼻につくのは仕方ないか。フレイザーは少佐に昇進したのに、アランビーが置き去りなのは可哀想ではないか。主役に甘く、脇役にとことん薄情なのもリーマンのお約束? 今回の女性は、婚約者を喪った女性(婦人部隊大尉)と、その部下の、弟を機雷処理の失敗で喪った婦人部隊員。機雷処理に当たっていたのはアランビー。「あなたは逃げられたんですね」との言葉に打ちのめされるアランビー、そしてその上司のリンに唐突に一目惚れするフレイザー。ちと唐突過ぎるけど、一目惚れもリーマンの作風と言えよう。

2020年8月6日木曜日

0213  国王陛下のUボート

書 名 「国王陛下のUボート」 
原 題 「Go in and Sink!」1973年 
著 者 ダグラス/リーマン 
翻訳者 高永洋子
出 版 早川書房 1985年10月

 なんと、英国軍艦Uボートである。英国にとっての幸運と、ドイツにとっての不運が重なり、ほぼ無傷で、拿捕されたUボート。ドイツはこの潜水艦が沈んだとは思っていても、英国に獲られたとは知らない。この僥倖をどう利用すべきか。
 作戦は、大西洋、太平洋を荒らし回るUボート群の補給を担う大型補給潜水艦〈ミルヒクー〉を沈めることから始まる。抜擢されたのは、歴戦の潜水艦乗りスティーブン・マーシャル少佐。
 さてとりあえず今回の据え膳、死んだ親友の妻ゲールがダメだ。地中海で夫の指揮する潜水艦が消息を絶つ。おそらくは機雷。後から帰還したマーシャルが弔問に訪れた時にはすでに再婚して転居済み、相手はエリート士官のシメオン中佐。それなのにマーシャルを呼びつけて、死んだ夫ビルと結婚したのはマーシャルが結婚してくれなかったから、今も私、あなたが好きなの。でも私は家庭が欲しかったのよ。それってそんなに悪いこと?だから今の夫と結婚したの。でもあなたがその気なら・・・・って、なんだこの女?こんなすえた膳食ったら腹壊すって。
 でも、ご安心あれ。ホントのヒロインはもう一人の方。亡命フランス人だが、フランスに残った夫がドイツ軍に協力して新形兵器を作っているらしい。夫と接触し、情報を得るためにマーシャルのU−192に乗って、イタリアへの潜入を図る。今回色事は控えめなれど、英雄気取りはいらないって散々言ってるくせに、彼女を助けるために上陸作戦に及ぶ潜水艦の艦長ってどうなの?でもまあ、これは戦記ではなくて冒険小説だから。。。
 生意気な気取り屋航海長が戦闘中に死ぬのもリーマン的お約束。シメオンとはマーシャルが中佐に昇進して、部下ではなくなった途端に、腕力でぶちのめし、ある種の理解に達したようなのは良かったのか。シメオンの方がどう考えても先任だろうに、階級がそろった途端に殴るはタメ口になるは。行儀の悪い艦長だよ。
 とにかく、ハヤカワにしては珍しくもタイトルで成功していると思うこの一冊。『国王陛下』で時制もOK、意外性でつかみもOK。英国軍にもその存在を知られず、ひとたび海にでれば、英国軍からドイツ軍からも攻撃されかねない、というまさに四面楚歌な状況下で、この見た目も恐ろしい、かつては宿敵であったはずの自艦を愛すべきか、当初気持ちを扱いかねていたマーシャルのラストの台詞が効いている。
 激しい戦闘で回復不能な損傷を受け、微速で航海するU192。放棄するか曳航するか、との英駆逐艦からの問いかけに
 〈国王陛下ノU192ハ、艦隊二復帰スル〉

2020年7月20日月曜日

0210 大西洋、謎の艦影

書 名 「大西洋、謎の艦影」
原 題 「Rendezvous – South Atlantic」1972年
著 者 ダグラス・リーマン
翻訳者 高永洋子
出 版 早川書房 1984年7月

 接収した豪華な貨客船を改装した武装商船巡洋艦が主役。
 武装して妙な姿になっている上、戦闘でほとんど上部構造をぶっ壊された挙げ句火災で真っ黒焦げ、しかも国旗でも海軍旗でもない奇妙な旗を掲げた「謎の艦影」。

 助けに駆けつけた僚艦からの問いかけは、〈貴艦ハ何者ナルゾ?〉と問われる。 シリアスな情景なのにそこはかとなく可笑しい。
 艦長はリンゼイ中佐33歳。大西洋輸送船団護衛で、ご丁寧に往路と復路でそれぞれ撃沈された経験を持つ。最初の護送船団護衛時は、自分の指揮下での戦闘中のことだし、自艦は沈没したものの、多くの乗員は退艦して、近くの商船に移ることができた。しかし船団の行く先、ニューヨークはまだ戦争を知らぬ賑やかな異世界で、今も空襲にさらされている祖国との解離に衝撃を受け、さらに英国への復路、乗客として乗った商船が、Uボートに沈められる。助けようとしたユダヤ人の幼い兄弟は、リンゼイの腕の中で死んでいった。この体験の衝撃からは回復しがたく、リンゼイはPTSDの辛い日々を送っていた。

 そんな彼に当てがわれたのが正体定まらぬベンベキュラ号。

 最初は屈辱感で一杯だったリンゼイだが、やがてこのおんぼろ艦が愛おしくなってくる。
 副長以下の多くが、商船だったころの乗組員。こちらも過去の栄光にすがって、愛する船が戦艦に改装されたことを受け入れられない。そんな部下を脅したりすかしたりしながら、一人前の軍艦乗りに仕立てあげ、さらには過酷な戦闘に向かっていく。そこに加わるさまざまな人間模様。もちろん恋も。

 華やかなりしころの商船が忘れられない副長ゴスに船内パーティーを開催させたり、候補生をその父である准将からかばったり、リンゼイの優しさが光るリーマン節。生真面目な正義感から、候補生の父親でもある准将と対立し、体よく艦を取り上げられそうになる。その准将は、なぜかベ号を旗艦に選び乗艦してくる。恨みを買うような、整備不良になりかねない嫌がらせをしておきながら、自分が乗り込むってどうなの?とは思わんでもない。ひょっとして、整備や補充の足を引っ張ったのは准将の仕業で、その艦に准将が乗り込まざるを得なくしたのは、准将に腹を据えかねた他の参謀の差し金か?

 ベ号乗員の意趣返しも小気味よく、身内の敵には鉄槌が下されるのも安定のリーマン流。

 なんとか身の安全を図りたい小心な准将であるが、武装商船だろうが、どれほど武装や装甲が貧弱だろうが、軍艦という名を戴く以上、先頭で闘う気概のリンゼイ。そして、艦内ともなれば、艦長が最高権力者である。

 ところでリンゼイ、なんだかんだで出世が早い。33歳で大佐に昇進した。まあ、不幸な事故までは、護衛船団の先任艦を務めていたんだから、出世頭ではあったのか。

2020年7月11日土曜日

0208 巡洋戦艦リライアント

書 名 「巡洋戦艦リライアント」
著 者 ダグラス・リーマン
翻訳者 大森洋子
出 版 早川書房 1998年

 レナウン級巡洋戦艦リライアント(レナウン、レパルスに続く架空の三番艦)が主役。もちろん艦長であるシャーブルック大佐39歳が表向き主人公なんだが、読んでいるうちに、この物言わぬ大艦が艦長に身を委ねている感じがひしひしとしてくる。

  シャーブルックは前の指揮艦だった巡洋艦ピラスを北極海で喪った。
  護衛航海中、遙かに火力に勝るドイツ巡洋艦3隻とたった1艦で交戦。救援に来ると言われていた味方の大型艦は現れず、ピラスは集中砲火を浴びて氷の海に沈む。乗員450名のうち生き残ったのは艦長含め8人のみ。 その後、怪我と喪失の痛手から回復したシャーブルックは、巡洋戦艦リライアントの新艦長として任命される。

 リライアントは、戦隊旗艦であり、ピラスが沈んだ時に救援に現れなかった巡洋戦艦の一隻だった。自殺した前艦長はシャーブルックの親友でもあり、親友の救援に駆けつけることができなかった自責の念が自殺に関係しているのか・・・とは、作中では言及されていないものの、十分考えられることではある。冒頭から因縁深い新艦長とリライアントである。

 戦隊旗艦であるからには、クセのある少将を頂き、艦の指揮権に干渉を受けつつも艦を掌握し、艦と次第に心通じる艦長。まるで小型艦を操縦するように巨大な巡航戦艦をコントロールする描写が良い。

 さてこのリライアント、作戦行動中に舵が効かなくなったり、機器が故障したりするやっかいなお嬢(この際、「老嬢」というのは余りに失礼)である。むろん、整備不良が原因の故障ではあるのだが、おかげで撃沈を免れたり、絶好の交戦海域に出たりする。
 艦橋でそんな彼女(の艦長イス)に手を添えたシャーブルックが「落ち着け、いい子だから。お前の言いたいことはわかった」と囁く。船の代名詞がsheで、無骨な戦艦が美女にたとえられるのが、これまで日本語の語感だといまいちピンとこなかったけど、リライアントは間違いなくツンデレ淑女。別に「艦これ」のシュミはないが、擬人化してもいいレベルでリライアントがかわいいと思える。

 艦隊司令である少将は、かつてシャーブルック、自殺した前艦長のキャヴェンディッシュと3人で、大尉としてリライアントに乗り組んでいたこともある人物で、人となりは知れている。武勲よりはあの手この手の世渡りと自己演出で出世してきた我欲の強い人物である。
 シャーブルックは口数は少ないが自分の主張は静かに通すタイプで、もちろん少将とは水と油。当初は静かに穏やかに少将を立てていたシャーブルックであるが、やがて対立が表面化するのは避けがたかった。

 さて、そんな艦隊司令と艦長を戴くリライアントはどうするのか。
 なにやら頑固な意志を感じさせるリライアントは、戦隊旗艦のくせして、最後は艦長シャーブルクと対立していた司令官を艦から叩き出したよ。あっぱれである。
 そして、その最後もまた、あっぱれだった。

2020年6月28日日曜日

0207  落日の香港

書 名 「落日の香港」 
原 題 「Sunset」1994年 
著 者 ダグラス/リーマン 
翻訳者 大森洋子
出 版 早川書房 1997年6月

 話は、戦闘の痛手を負ったちょいと影のある新任艦長が新しい指揮艦に乗艦するところから始まる。というもいつものリーマン節。
 今作の艦長はエズモンド・ブルック少佐29歳。
 スペイン内戦から逃れる人の救出作戦に従事中、モーターボートで避難民を輸送していて機雷に接触し艇ごと吹き飛ばされる。足に重傷を負い、2年軍を離れていたが、戦争による人材不足と本人の復帰要望が相まって駆逐艦勤務に復活、副長勤務を経て今回が初の艦長。酷い痛みは取れているらしいが、いまだに片足を引きずっている。
 奇しくも新たな乗艦はかつて新造艦だった時ブルックの父が艦長を務めた老艦サーペント。しかしまだまだ現役の、三本煙突の美しい駆逐艦である。サーペントには、かつてエズモンドの父が指揮を取っていたときに新前水兵だった男が操舵長を務めており、乗艦してきたエズモンドの姿に、かつて新造艦だったころの艦長の姿を見て涙ぐむ。
 艦長と同時に乗艦してきた航海長のカルヴァートは、もと戦闘機パイロットで、戦闘神経症で飛べなくなった男。ヴィクトリア十字勲章受勲者。香港への途中ジブラルタルで乗艦した士官は特殊部隊の爆発物操作のエキスパート。むしろこの香港行きは、彼を送り届ける為なのではないか?で、あれば爆発物専門家が香港で与えられる任務は何なのか。
 きな臭さ満載ではあるものの、大西洋を離れて、まださほど戦局が厳しくない香港への航海では局地戦すらなく、仕事といえば海賊相手の哨戒くらい。しかし、海賊と見えたものが実は海賊を偽装した日本軍であり、狙われた船は蒋介石軍に兵器を密輸していたことも判る。東洋の魔窟は英国人には難解すぎる。

 今回恋愛パートは二組の恋が同時進行。艦長の方は貞操の硬い東洋人女性相手なだけに、手を握る以上進展できないところも、なんか胸が苦しくてよろしい。もう一組は、これも心に傷を負っているカルヴァートである。愛し、愛されて癒やされていくのも、リーマン流。しかし、この二組の恋愛の結末は明暗を分けることになってしまう。
 エズモンドの方は、足を強打したのがきっかけで古傷が開き、艦を離れているときに大出血して倒れ、中国人富豪の娘リャンに助けられる。リャンの父の家で養生し、急速にリャンと接近するエズモンドであるが、実は彼女、かつてイギリス留学中に、今は香港基地の参謀を務めるエズモンドの弟のジェレミー(中佐)と恋仲だったらしい。
 しかも、エズモンドには以前婚約者がいたのだが、足の負傷が原因で、婚約者が将来性のある弟のジェレミーに乗り換えて結婚してしまった、という手痛い経験をしている。そんな体験が彼の足の怪我へのコンプレックスに拍車をかけていたのだが、醜い(とエズモンドが思っている)傷に目を背けずに手当してくれたリャンに心救われたのだ。一方のリャンもジェレミーが結婚してしまい失恋。この二人がくっつくって、まあ、安直な感じはないではないし、エズモンドは弟のお下がりでいいのか?と思わないでもないが、リャンが一途で素敵な女性なので、良いことにする。リーマンだしな。

 一方の航海長のカルヴァートの恋の行方は。
 再び操縦桿を握ったのに、恋人を喪ってしまい、日本海軍駆逐艦に特攻をかけたカルヴァートは、艦を救い、エズモンドの目前で散ったのだ。カミカゼ攻撃は日本軍の専売特許じゃなかったのか?

 パールハーバーの前後の国際情勢を英国視点で香港から眺めるこの話。日本軍の描かれ方はもっと酷くてもおかしくない。というか日本軍の香港侵攻とか全然知識が無かったので、もっと勉強せねば、と思った。ところで、エズモンドは艦長勤務より、艦長の目となり足となり艦内をまめに動き回らなければならない副長勤務の時の方が足が辛かったんじゃないかと思うのだが、よく勤まったな。怪我でリタイアや挫折を経験して、かなり老成していて、読んでいるイメージだととてもおっさんぽくって29歳若者の絵が思い浮かばない。それでも恋愛でちょっと周りが見えなくなったりしてカワイイところがあるし、周りがそれを承知しておおらかに祝福している感じなのも良い。全体的には、こういうのも悪くない、と思える東洋風味の作だった。

2020年6月16日火曜日

0205 殊勲の駆逐艦

書 名 「殊勲の駆逐艦」 
原 題  「KILLING GROUND」1991年 
著 者 ダグラス・リーマン
翻訳者 大森洋子
出 版 早川書房 1996年 

 英国海軍のG級駆逐艦グラディエイターを指揮する艦長、デイヴィッド・ハワード少佐(27歳)。Uボートが跋扈するまさにキリング・グラウンド、大西洋ですでに長く護送船団の護衛を務めている。直近の任務の後イギリスに帰り着き、今は艦の解体修理と補給を終えたところ。前回の護衛任務は、40隻の船団で米国を出発し、イギリスに辿りついたのはたったの13隻だった。その航海の労苦が、まだ若いはずの艦長の顔に影を落としている。そして、グラディエイター号に届いた次の命令は、「北ソ連」向け輸送船団の護衛だった。(なんてーこった。ユリシーズと同じかよ!と、私の心の声。)

 まずは、艦隊の集合地である北の港にむかう。
 それすら、ノルウェーがドイツに獲られて沿岸の制海権がドイツに移っている北海では、気の許せる航海ではない。やっと、アイスランドのレイキャビク港に入港。休暇中のほっと息抜きできる場所すらも陸(おか)の盛り場ではなく、自艦の艦尾にある艦長室であるという内省的なハワードは、作戦行動中は使用しない艦長室にやっと向うことができた。艦長室では、従兵ヴァランスが艦長の為に部屋のストーブに火を入れ、フロを沸かしてくれている。ヴァランスは、艦長の深い疲労を見て取り、この若い艦長が自分たちを港に連れてきてくれた、これからも自分たちを導いてくれる、と信頼を深める。この信頼関係が海軍物を読む醍醐味だ。

 さて、休暇中や陸の上での人間関係と、海の上での作戦行動を交互に描くのがリーマン流。
 この北海の輸送船団で戦闘中に散った航空機パイロットの妻(未亡人)がおもむろにストーリーに絡んでくる。リーマンとくれば、一目惚れと不倫。ちゃんとハワードが彼女に一目惚れするのは、もはやお約束。とにかく、一瞬にして、彼女シーリアは彼の忘れられない人になってしまうのだ。
 北海の後は、再び大西洋。
 第一次大戦の戦傷で体が不自由になっていた父が、空襲の犠牲となる。父が亡くなったという一報をハワードにもたらしたのは、シーリアの父である将官だった。父の訃報にショックをうけるハワードの手に渡されたのは、英国海軍伝統のホースネック。この飲み物を用意した従兵は、ハワードに父の訃報が伝えられることを知って、ハワードの艦の従兵ヴァランスにハワードの好物を問い合わせ、急いでこの飲み物を用意したのだった。

「これが必要だった」とハワードは従兵に感謝を告げる。
 
 敬愛する父の死と、親しい友の艦が次々に目の前で沈められていく戦争の過酷さに、ハワードの精神もだんだん追い詰められていく。
 戦闘後に手の震えが止まらなくなり、副長のトリハーンは震えるハワードの手を掴んで、彼の代わりにパイプの世話をしてやる。副長も、年若く繊細でもある艦長の精神が次第に壊れていくのを見守るしかない。止めの一撃になったのは、かつてのグラディエイターの副官で、ハワードの親友でもあるマラックが艦長をつとめるコルベットが血祭りに上げられたこと。あろうことか、Uボートはコルベットを航行不能にした上で海に浮かべておき、救助にくる僚艦の囮としたのだ。
 マラックのコルベットは救援に駆けつけたグラディエイターの目前で撃沈された。打ちのめされるハワード。

 ハワードの精神的危機を案じた上官のヴィッカーズ大佐は、ハワードに短い休暇を取ることを命じる。そのまま艦の指揮権を奪われ、傷病を理由に陸に上げられるのではないかと抵抗するハワードに、ヴィッカーズは、ハワード不在中は、自艦がオーバーホールに入って指揮する艦がない自分が先任士官として代理でグラディエイターの指揮を取る(つまり、後任人事はしない)と説き伏せる。無理矢理休暇に出されたハワードを迎えたのは、恋人となっていたシーリア。わずか9日間の二人だけの時間。愛し合い、語りあい、心の澱を吐き出すことで、ハワードは心が満たされ、癒やされていく。おとぎ話のようではあるが美しい。

 休暇から戻ったハワードは、副長がおどろくほど自信に満ち、逞しく、安定していた。そして中佐への昇進。ハワードもまた、グラディエイターを離れて、次の階梯に進まねばならない。また、グラディエイターは護衛艦への改修も決定されていた。せめて、愛するグラディエイター号を信頼する副長の手に委ねたいと願うハワードであるが。

 グラディエイターの最後の航海となったのは、機械のトラブルで航行不能となった病院船の救助。病院船は、それと分かるように煌々と明かりをつけ、赤十字マークを照らし出しているものだが、電源を喪失した大型船はそれもできず、大洋のただ中で、大きな標的でしかない。乗員は500名以上の傷病兵たち。船を守れるのはグラディエイターだけ。
 Uボートの接近を察知し、病院船とUボートの間に回りこむグラディエイター。まるで艦自身が意志したかのように、病院船の身代わりとなって、グラディエイターはその身に魚雷を受けたのだった。

 負傷し、苦痛に喘ぎながらも総員を退避させ、ハワードは、救命いかだから沈みゆくグラディエイターを見守る。グラディエイターは、ハワードと別れることを拒み、護衛艦へ改修されることを拒み、誇り高い駆逐艦でありつづけようとしたのか。

 第二次大戦中、激戦を闘い抜いた英国海軍G級駆逐艦の一隻の、最後であった。