2020年5月31日日曜日

0201 暗黒の艦隊: 駆逐艦〈ブルー・ジャケット〉

書 名 「暗黒の艦隊: 駆逐艦〈ブルー・ジャケット〉」  
原 題 「Warship (Black Fleet Trilogy)」2015年1月 
著 者 ジョシュア・ダルゼル 
翻訳者 金子 司 
出 版 早川書房 2017年5月 
初 読 2020/05/31 

 この訳者さんはミリタリーSFをミリタリーSFらしく訳そうという気概が足りないんじゃないだろうか。訳が所々たどたどしさを感じるのは否めない。
 宇宙艦に対して総排水量って表現はどうかと思う。排水するのか?するんだな?
 ただしこれは、誤訳ではない。「総排水量」って訳して違和感を感じるのは日本語ならではだと思うので、すこし工夫してくれたら良いのに。もっとも宇宙戦艦ヤマトも総排水量表記だったのは、wikiで確認してきた。確か、《カンバーランド》は質量トン表記だった。こちらもそもそも原著からそういう表記。

 あきんどじゃないんだから、「ご用命」は止めてほしい。「ご命令」、もしくは「拝命」の方がしっくりくる。
「センサーを艦内に格納するしくみ」とか、冗談かと思う。まさかこれが機関長のセリフとは思えん。せめて「センサー格納機構」とか当ててくれてたらサラリと読み流せるのに。
「牢屋」って。。。独房とか、拘禁室とか、さ。
 でも一番残念だったのは実は「動く歩道」だ。原著がmooving walkwayだからまったく正しいんだけど、駅とかにある平面エスカレーター式の動く歩道のイメージが強すぎる。文中の説明によると歩道の上の点滅するサークルの中に立つと行き先や乗り手を判別して自動走行する床なんだけどね。

 それから、これは翻訳のせいではなく、辺境廻りの一介の駆逐艦艦長が大佐なのは、初めは相当違和感があった。この上のクラスに巡航艦やら戦艦やら航宙母艦等々があるではないか?そっちはまさか将官なのか?
 訳に疑惑を抱いていたので、つい、まさかキャプテン(艦長)を大佐と訳してないだろうな?と心配になった。副長が中佐(コマンダー)だから誤訳ではない。つい原著をKindleでダウンロードして確認してしまったよ。
 ちなみに、この艦長の階級問題は、駆逐艦ブルージャケットは巡航艦よりもデカくて速くて頑丈だという設定らしい、ということで一応の解決を見る。全長600メートル、15デッキ、総員1000名以上。これなら、大佐でもいいのか?でも、一体どういう設定なんだろう?もっと著者の、この宇宙のバックグラウンド設定を確認したいところ。 

 さて、ここまで散々文句を言ったにもかかわらず、だ。この本面白かった! 
 ジャクソン艦長の造形が良い。
 職業軍人としてのなけなしのプライドと、温かさと弱さと老獪さが同居する人間味に現実感のある人物に仕上がっている。
 戦闘経験のないダメダメな艦を叱咤激励してなんとか異星人と戦える戦闘艦に仕立てあげる設定にしろ、艦内での反乱事件にしろ、奇抜な戦術にしろ、某宇宙の新米駆逐艦艦長と非常にストーリー展開が良く似ていてデジャブありありではあるが、そこはまあ、それでも面白かったので不問にする。
 その某新米駆逐艦艦長が眩しいばかりの才気を放っているのに対して、こちらのジャクソン艦長はいぶし銀、というよりもむしろブロンズの手堅さと重厚感。 
 国内でほぼ同時期にハヤカワから発行された軍艦SFモノ三部作3作品の一つなだけに、「栄光の旗のもとに」「女王陛下の航宙艦」とこのシリーズは比較してしまうのはやむを得ないこと、とお許し願いたいね。

 新形の軽量化された高性能艦に対して、剛構造で重厚で、頑丈で必然的に大型な旧式艦、という設定も見え隠れするけど、それはそれで「女王陛下の航宙艦」と設定が似ていなくもない。ちなみに艦長の飲酒問題も同じく「女王陛下」の艦長と設定カブリであるが、愛飲しているのがケンタッキーのウイスキーであるところは、マックスとの共通点だな。

 とりあえず、「栄光の旗のもとに」と「暗黒の艦隊」と「女王陛下の航宙艦」と「彷徨える艦隊」で設定比較表を作ってみたいと思う今日この頃。


2020年5月24日日曜日

0200 鉄の竜騎兵: 新兵選抜試験、開始

書 名 「鉄の竜騎兵: 新兵選抜試験、開始」 
著 者 リチャード・フォックス 
翻訳者 置田 房子 
出 版 早川書房 2020年4月 
初 読 2020/05/24 


 ううーむ。『宇宙の戦士』の二番煎じ感がどうも拭えない。ストーリー立ては、『宇宙の戦士』だし、装甲は鈍色ガンダムなイメージだし、操縦機構はエヴァンゲリオンで、首の接続プラグは攻殻機動隊だ。ついでに言えば、テンプル騎士団風なのはFSS。しかもオマージュと言えるほど洗練されてもいない。世界観=宗教観?もなんというか、別段新しくものないし、泥臭い、ていうか、まるで聖書を再解釈した新興宗教っぽい薄っぺらさがある。。。。。。同じような本歌取り的な作風でも、『帰還兵の戦場』を読んだ時の印象とはずいぶん違う。あちらは素直にオマージュだと受け入れられたのに。違うのは完成度か?
 ラストがちょっと思わせぶりで、次に何が起こるのか、と思わないでもないけど。なあ。。。これから大化けしてくれるのか??? ついでながら、サブタイトルの二番煎じ感も。「新兵選抜試験、開始」 とかもう止めようよ〜。恥ずかしいよ〜。


2020年5月21日木曜日

0199 われらはレギオン 1  AI探査機集合体

書 名 「われらはレギオン 1  AI探査機集合体 」 
著 者 デニス・E・テイラー 
翻訳者 金子浩 
出 版 早川書房 2018年4月 
初 読 2020/05/21 

  ランダース博士が一番好きだった、って感想でお察し。流し読みになりました。結局どこまでいってもボブなので、ちょっと食傷。人間は、どれだけ衰退してもやっぱり愚か。これで植民しても、すぐに植民星間戦争になりそうだ。そのときボブはどうするのかしら。結局私は、SF読もうがミステリー読もうが、人間の葛藤とか悩みとか心情が大好物なので、主人公ボブがとにかく明るく悩まない性格なこの作品は明快すぎて、物足りなかったのだった。続巻は当分読まないかな。


2020年5月5日火曜日

0198  Brothers in Valor (Man of War Book 3)

書 名 「Brothers in Valor (Man of War Book 3)」
著 者 H. Paul Honsinger
出 版 47North    2015年6月

 前巻ラストで対クラーグのユニオン伝令艦の任を務めたカンバーランドは、案の定、帰路で使者の首級を上げようとするクラーグ艦隊に待ち伏せされる。今回の敵は巡航戦艦、巡航艦、駆逐艦 計11隻。完全に周囲を封鎖する布陣を取られ、ステルスで息を潜めるカンバーランドに対して、じわじわと包囲網を縮めるクラーグ艦隊。さすがのカンバーランドの艦内にも絶望感が漂い始める。どうするスワンプフォックス。作戦立案はしたが、まずは部下の絶望を戦意で上書きするところから戦闘開始。崇拝する艦長にコーヒー注ぎまくるヒューレット君が愛らしい。
 常々マックスの指揮艦には最低でも前部にミサイル発射管4本が必要だと思っていたが、ホーンマイヤーも同意見だったとみえ、今回、艦隊で改修を受けた際に最新型のミニ対艦ミサイル10発を連射できる高速回転式ミサイル発射装置『イコライザ』を実装。リボルバーのミサイル版みたいなものか? 与えられた装備も盗んだ?装備も存分に使いこなし、不利な状況をひっくり返そうと奮闘するマックス。
 私の愛する機関長“ヴェルナー”ヴォーン・ブラウンは極めて有能かつ常識的な男なので、マックスの非常識な戦法に顎が抜けるほど驚かされる。その会話がこれまた楽しい。
 “この戦術は三日前に二人で検討済みだ”としらっと答えるマックスに「だけど艦長!その議論のまえに二人でケンタッキーでヤンクが蒸留したウイスキーをしこたま飲んでたじゃないですか!正気の沙汰とは思えません!」 マックスの答えは「一言言っておくが、ケンタッキー出身者をヤンクと呼ぶな」。さてマックスが選択した狂気の戦術は?彼らは無事艦隊に戻れるのか?と、これが冒頭の戦闘で1~2章のみ。でもって、ここまでの戦闘はあくまで前菜。メインディッシュはここから始まるのだ。なんて贅沢な。

 このあと、ユニオン支配宙域の辺縁で補給艦と合流し、補給と修理を受け、ホーンマイヤー提督からの封緘命令書を受け取るマックス。彼のキッチンキャビネット(食事をしながら意見交換する幹部士官達)の面々と提督の命令書を吟味するが、不可解な点がある。独立した指揮官として、必要な情報は余さず知っていたいと考えるマックスは、当然マックスがそう考えるだろうとホーンマイヤーも考えるはずだ、と思い至り、カンバーランドに配属されている、ホーンマイヤーの懐刀の情報技術士官ベイルズを使い、ホーンマイヤーが隠した極秘命令(ビデオ)を発見する。ホーンマイヤーは動画の中でマックスに、極めて重大な極秘情報を伝え、マックスに大きな裁量を与える。そしてマックスに語りかける。“お前が身のうちに大きな痛みを抱えていることは知っているが、お前は極めて重要な手駒になっている。戦争を指揮することはつねに犠牲を出すことだが、自分は部下に無駄死にはさせない。必ず帰還せよ”(意訳)と。
 ホーンマイヤーの命令を履行すべくクラーグ宙域の奥深くに侵入するカンバーランドが、味方の補給艦を助けるためにクラーグ艦内で白兵戦になりクラフトが活躍、とか、カッターの名操縦士モーリの栄光とか、間奏のディナーシーンとか、カンバーランドの本来の建造目的であるところの電子偽装の性能を駆使した奇襲攻撃とか。そして、ついに来るべき時がくるのだ。クラーグのいわば“仮装商船戦法”の罠にはまるカンバーランド。致命的な損傷を受け、マックスは決断する。
  "Abandon ship"
 総員の退避状況を報告する副長はこう付け加える。
「巨大な太りすぎの黒猫も一匹シャトルに乗ってます」
 1巻では普通の黒猫、2巻目では太り気味の黒猫だったクルーゾーは「巨大な太り過ぎの黒猫」に進化。この間5ヶ月だ。ご馳走与え過ぎだ。
 カンバーランドは、その最後の務めを果たす。致命的な損傷を受けた亜光速ドライブを直接制御しているのは、重傷を負い、艦と、いや彼のエンジンと運命を共にする機関長ブラウン。そして、ひとつの伝説が終わり、次の伝説が始まる・・・・・はずなのだが、著者ホンジンガー氏の健康不安で、いまだ刊行されず。
お願いです神様。とりあえず、ホンジンガー氏をお助けください。


2020年5月1日金曜日

0197 The Forgotten Man (Cole & Pike) (Cole and Pike Book 10)

書 名 「The Forgotten Man (Cole & Pike)」2005年  
著 者 Robert Crais 
初 読 2020/05/01

 LAレクイエムから続く三部作(だと思ってる)のラス1。
 コールの過去にまつわる最大の危機。
 『サンセット大通り』でコールに「スーザン・マーティンの殺害とそこから派生したあらゆることが、自分の人生にこれほど長く尾を引く深刻な打撃を与えようとは」と語らせ、『天使の護衛』ではある男に散弾銃で撃たれた後のコールが「実験室の事故で生まれた何か」のような姿で登場する、その原因となる事件が語られる。
 コールが過去と向き合い、乗り越えるためにはこんなに過酷な過程が必要だったのか。『約束』や『指名手配』で示されるコールの優しさに加わった確固とした揺るぎなさや安定感、円熟味は、このエピソードでコールが乗り越えた過程で獲得したものだと納得できる。そんなお話。以下簡単にご紹介。

 10歳になるルーシーの息子の誘拐事件でほとんどすべてを失ってから、コールがゆっくりと生活を取り戻しつつあったとき、 LAPDから不吉な電話がかかってきた。発見された身元不明の遺体が持っていた唯一の手掛かりが、コールの過去の事件の新聞記事の切り抜きだったという。 そして、その男は死ぬ前に自分がエルヴィスの父親だと言い残した。パイクとコールは調査を進める。しかしコールとパイクが死んだ男の本当の正体に近づにつれ、彼らは危険の中に入り込んでいた。ーーーコールが撃たれてから命をとりとめるまでの終盤と、コールがやっと動けるようになった体で母を墓参する最終章。ずっと付き添い、見守るパイク。この二人の友情を超えた友情に、心が震える。