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2025年12月21日日曜日

0573 初雪 海は灰色 第一部

書 名 「初雪 海は灰色 第一部 」
著 者 柴田 よしき      
出 版 角川書店 2025年12月
文 庫 288ページ
初 読 2025年12月20日
ISBN-10 4041169135
ISBN-13 978-4041169131
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/132244150

 待って、待って、待って、待ち続けた待望の続刊。
 「聖なる黒夜」から「私立探偵・麻生龍太郎」を経て、道を分かったはずの麻生と練が、再び語らう。

 「聖なる黒夜」を読んで頭ん中がうわーーーーーっとなって、続き!続き!こいつらこれからどうなっていくんだ〜〜〜とネットを徘徊し、柴田よしきさんが続話をWEBで連載していたことは知ることができたが、その時点で、もう「海は灰色」はWEBから下げられていて、愛読者のブログなどでおぼろげに輪郭が分かるだけの、まぼろしの作品と化していた。いつかは、いつかは刊行されるに違いない、と思って待ち続けてはや〇年。このたびついに刊行され、やっと手にとることが叶った『聖なる黒夜』続刊である。

 てっきり、練のあの事件の真相を追う話だと思い込んでいたんだが、出だしはなんと、龍太郎の逃げた奥さんを探す旅だった。そこに練が乱入、その上2人が滞在する鄙びた温泉街で殺人事件と傷害事件が起こる。正統派な推理小説仕立てながら、根城の新宿を離れて身軽な風情な練と、前科がついて、裏街道をとぼとぼと行くしかなくなった龍太郎が、一緒に同じ事件を追う、という、なんというか、『聖黒』ファンにとっては、ボーナストラックみたいな、なんだか時期的にはクリスマスプレゼントみたいな作品であった。
 私は練ちゃん贔屓なもんで、麻生龍太郎ははっきりいって憎々しく思っていたのだが、なんかこの作品を読んでそんな気分も霧散した。2人の腐れ縁はこれからも切っても切れないし、龍太郎にとって、今生きている練は、暴風雨の後に一輪健気に咲き続けている小さな花なのか、と思ったら、ついうっかり、龍太郎の練を愛しく思う気持ちに移入してしまったよ。練は「練」なのだけど、なんとなく泥の中に咲く「蓮」を連想した。

 練にとっては、龍太郎は練の過去も現在も等しく知っているほぼ唯一の存在なんだな、と考えると、練の龍太郎に対する執着も分かるような気がする。練の胸に止まっているウスバシロチョウの意味も、そもそもそこにウスバシロチョウを彫っていることだって、知っているのは龍太郎以外に誰がいるのか。そういや、作中で練が温泉に入るくだりで、練が背中に彫りモンがあるような記述だったが、練って背中に何かしょってたっけ?どうにも思い出せない。『聖黒』の細部の記憶がだいぶおぼろげになったところで、『RIKO』から刊行順に読み直すのも乙かもしれんな。

 このほとんど救いのないような練・龍の2人がこれからどうなっていくのかは、続刊を待つしかない。ちなみに続刊の発行は、26年12月、つまり1年後だそう。またまた長いな〜〜〜。いっそのこと揃ってから一気読みしたいくらいだが、読者はこの本を待ってたんだ!という心意気を示すためにも、予約で買いました。ついでに、Kindle版も購入したので、2冊買いだ。それくらい応援している。続刊をあと1年、待ちます。なお、作者様のXによれば、この作品は3部作になるそうだ。そして、第二部以降は大幅なリライトになると。はい。お待ちしております。『海は灰色』刊行してくれてありがとう!

2025年2月24日月曜日

0545 ないもの探しは難しい (Ruby collection)

書 名 「ないもの探しは難しい」
著 者 metta
出 版 KADOKAWA 2025年1月
文 庫 304ページ
初 読 2025年2月22日
ISBN-10 4041138531
ISBN-13 978-4041138533

読書メーター https://bookmeter.com/reviews/126236959

 X(旧ツイッタ−)で、仁茂田もにさんのリポストで、この本のドイツ語版が配信されているとの情報を得、海を渡っている日本BL!(オメガバース)に好奇心が爆発してDLして読みました。
 冒頭から、文章のテンポがすごく良くて、気持ちいい。主人公の、健気だけど湿っぽくはなく、元気でめげない雑草のようなたくましさがとても好ましい。ろくに発情しない薄いΩであるとの設定なので、あまり濡れ場は濡れ濡れしていないというかあっさりめ。イラストは概ね好みだけど、読んでいると主人公の片割れアルファのダリウス卿は、大柄でガタイが良くて厳ついイメージを抱いていたので、この表紙のダリウスさんは、ちょっと線が細くて優し過ぎかも?
 それはさておき、タイトルどおり「ないもの」を探すのほど難しいものはなく。
 さしたる特徴もない普通の人が、細心の注意を払って身を隠したらどうなるのか。
 それを探し出すのは、もはや番アルファの執念しかない。
 途中で和解する兄や、主を叱咤する執事のマシューさんの性格も好み。とても面白かったデス。彼らのムスメのシグリットのまったく秘めてない恋と執着の行方も、なかなか楽しみではあるね。

2024年10月20日日曜日

0512 金木犀二十四区

書 名 「金木犀二十四区」
著 者 三木 笙子        
出 版 角川書店 2012年9月
単行本 265ページ
初 読 2012年9月
再 読 2024年10月20日
ISBN-10 4041102294
ISBN-13 978-4041102299
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/123758258   

 『怪盗ロータス』を読み終わって、次はこの本、と手に取った朝、この秋はじめて、朝の空気にかすかに交じるキンモクセイの香りに気付いた。キンモクセイはこの家に住み始めたときに、敷地の角に植えたもので、樹齢は二十数年というところ。隣地境界故に強く剪定せざるをえず、枝をのびのび伸ばさせてやれないのが可哀想なのだが、毎年健気に花を付け、密やかに香りを届けてくれる。今年も花香る秋が来た。この本を読むのにこれ以上の時節はない。
 
 表紙、背表紙とも美男子が描かれているが、作中にはもう一人、佳い男が登場する。この表紙(主人公)と裏表紙(主人公の友人)ともう一人(友人の友人?同僚?)の3人がメインで話は進む。
 舞台となっているのは、現代の日本・東京のパラレルワールド的な都市『首都』。花の名を冠した二十三区の片隅に、地図上にはないが金木犀二十四区と人に称される、時の歩みから置き忘れられたような、古風ゆかしい地区がある。その地は樹齢千年を超える金木犀の大木をご神体とする神社を中心に人々がゆるりとした時の流れの中で生活していて。
 イメージとしては、平成の世の中で、その一角だけは昭和の中頃みたいな感じだろうか。
 『東都』(江戸)、『革命』(明治維新)、『大君』(将軍)など、世界を作り込んでいるのに、一方では「建武の新政」なんて言葉が素で出て来たりして、ちょっと世界観にぎこちなさを感じてしまうのが、少々引っかかってしまうところではある。そこに、隕石、天狗、森林化といういわばファンタジー要素が加わり、あれ、そっち方向に行くのかな、と思いきや、なんとなく失せ物ミステリー(首飾り事件)風味もあるし、でも実は、ちゃんと、人の孤独によりそう優しさの話である、という、なんというか、そう、三木笙子さんの世界そのもののような物語とでもいおうか。
 
 隕石と天狗の話に唐突感はあり、読み手としては、まあそういう設定でいくのならそれに付き合うしか有るまい、という感じはややある。だけど、辛い事があったとしても「毎日の生活に少しずつ溶かしこんで記憶を薄め、やり過ごしていくしかない」「目をつぶるでなく、傷口をさらすでなく、あったことはあったこととして受け止めていく」ことが、どれほど大変なことか。それを、文字通り淡々と行い、自分とも周囲とも向きあっていく主人公・秋の在り方そのものが、この物語なのだと思う。この芯が強いが嫋やかな、まさに野に有る和の花のように目をこらさないとそこにあるのにも気付かないようであるけれど、確かに誰かを勇気づける存在が、この物語に感じるちょっとした引っかかりなど凌駕する。

 ちなみに、舞台は武蔵野湧水地の・・・というからには、三宝寺池や、石神井あたり・・・もっと西に行けば国分寺崖線なんかも思い浮かぶが、地理的には23区の一番西より、練馬区の一角あたりなんだろうな、と思って読む。レモンイエローの電車は西武新宿線、延長されそうでされない地下鉄は丸の内線? 読みながらそう考えはしたけれど、この話にはそういう現実感は不要だな。

2024年8月26日月曜日

0495 小公子(羽田 詩津子訳/角川文庫版)

書 名 「小公子」  
原 題 「Little Lord Fauntleroy」1886年
著 者 フランシス・イライザ・ホジソン・バーネット(バーネット夫人)    
翻訳者 羽田 詩津子    
出 版  KADOKAWA 2021年1月
文 庫 288ページ
初 読 2024年8月26日
ISBN-10 4041095255
ISBN-13 978-4041095256
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/122711518  

 小公子を読み比べ中。この翻訳は羽田詩津子さん。
 私的には早川文庫の『シャム猫ココ』シリーズでお馴染みの翻訳家さん。前回読んだ川端康成訳『小公子』は、読んだタイミング(『カメレオンの影』を読んだ後だった。)も悪く、また文豪川端康成氏のやや古くて固い翻訳ぶりにもいまいち興が乗らず、けっこう酷評気味だったと自覚あり。
→ 0242ー43 小公子・小公女 (新潮文庫)
 やはりバーネットの翻訳であれば、女性の手になるほうが良いかも。次に控えているのは、西田佳子さん翻訳の本だけど、ぱらぱら捲った限りでは、この西田さんの翻訳もとても良い。伯爵の上流階級的な言葉遣いなどは、西田さん訳が一番素敵な気がする。
 
 で、今回はちょうど同時進行で読んでいるダグラス・リーマン『緋色の勇者』が同時代な気がしたので、時代背景も意識しつつ、読んだ。
 著者のフランシス・ホジソン・バーネット女史は、イギリスで生ま
れ、アメリカに渡って成長し、作家・劇作家になった人。
 作品の時代は1880年ごろ、イギリスはヴィクトリア女王の時代(在位:1837年6月20日 - 1901年1月2日)。ダグラス・リーマンの『緋色の勇者』が1850年。同じヴィクトリア女王の治世でも30年の歳月は大きく、リーマンの作品中では、まだ海軍の主力は大砲を並べた戦列艦(大型帆船)で、やっと作中に外輪の蒸気フリゲートが登場しているが、セドリックと母は、蒸気客船で大西洋を渡っている。おそらくスクリュー船だと思われる。
 出版当時、この作品は大評判となり、セドリックスタイルの黒のベルベットと白レースの子供服が大流行したんだとか。

 ドリンコート伯爵の跡取りを示す「フォントルロイ卿」はイギリスの儀礼称号と言われるもの。
 イギリスでは正式な貴族は当主一人のみなのだが、その家族は自分が所属する身分に従った儀礼的な称号を名乗ることができる。たとえば、伯爵家の長子は、伯爵が持つ従たる爵位を名乗る。つまり、ドリンコート伯爵は、この場合爵位は子爵なのか男爵なのかわからないが、フォントルロイという爵位も所持しており、その爵位を儀礼的に跡取りである直系男子に名乗らせているわけだ。なので、この小説の原作タイトルは「リトル・ロード・フォントルロイ」なのだが、日本で最初にこの作品が紹介された1890年(明治13年)、最初の翻訳者である若松賤子はこの作品名として「小公子」という名訳をあてた。それ以来、130年、日本では「小公子」というタイトルが不動のものになっている。

 驚いたのが、1886年にアメリカで出版されたこの小説が、4年後の1890年(明治13年)には翻訳されて日本で出版されていたこと。現在の出版スピードと大して変わらないのでは。翻訳者が女性というのも、素敵だ。翻訳者の若松賤子については、ぜひwikiを読まれたし。会津藩士の長女に産まれ、横浜の英語塾(後のフェリス女学院)でアメリカ式の教育を受け、後にはフェリスの教師も務めながら、翻訳を世に送り出した。日本の男女平等思想と女子教育の先鞭を付けた人である。

 ちなみに、自分が子供の頃、最初に読んだのは、こちら、偕成社の字の大きな、児童書。
 この表紙にだまされて(?)ドリンコート伯爵の犬はセントバーナードだと思い込んでいたが、実際にはマスチフだと今回再確認した。マスチフを手なずける7歳児の方がインパクトはあるな。もう、この本は手放してしまって手元にないのだが、良い本だったと思う。何度も読みかえしたものだ。もういちど読んで見たい気がする。

 感想はあまり書いていないけど、まあ「小公子」なのでいいよね。


2023年4月10日月曜日

0419 ドント・ストップ・ザ・ダンス (講談社文庫)

書 名 「ドント・ストップ・ザ・ダンス」 
著 者 柴田 よしき         
出 版 講談社 2016年8月(単行本初版 2009年7月)
文 庫 560ページ
初 読 2023年3月10日
ISBN-10 4062934647
ISBN-13 978-4062934640
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/113021593
 園長探偵ハナちゃんシリーズ、最終作になる5作目。読んでしまうのが名残惜しい。だからって、読了に一ヶ月以上掛かったのは、読み惜しんだからではなく、仕事の超繁忙期と家庭の事情と、体力の都合ゆえ。疲労困憊で、週末毎に実家に通う往復の電車でも、イスに座ったとたんに泥のように寝落ちしてしまう日々で、毎日読めたのは数ページだったから。読み終わったときには冒頭のエピソードは忘れかけている始末だった。
 とは、もっぱらこちらの事情で。

 我らがハナちゃんは借金返済と愛する園の子供達のため、今日もがむしゃらに走るのだ。

 前作は短編連作だったが、こちらはがっつり長編。ハナちゃんの保育園に通う小生意気な5歳児の父は、今現在は売れていない小説家。妻には逃げられ、小説は書けず・売れずで、バイトのダブルワーク、トリプルワークでなんとか日々の糧と息子の保育料を稼いでいる状態。それなのに、何者かに襲われて意識不明の重体となってしまって。他には身よりのない子供を園で世話しつつ、逃げた母親を探し、一方で美味い稼ぎになるはずだった城島からの探偵仕事は、どんどんきな臭くなっていく。ヒットマンの影がちらつくころには、進むも引くもならない窮状に陥るハナちゃん。そして早朝の新宿駅のホームで背中をどつかれて、列車が進行してくるなか、ハナちゃんが宙に舞う!?
・・・・と、なんともテンポもよろしく、これでもか、と窮地の波状攻撃なのは通常運転といえなくもない。聖黒界隈で一番、不遇な男であるハナちゃんは今日も命からがらだ。
 
 それにしても、柴田よしきさんのこの聖黒関連のシリーズは、なぜか私の土地勘のあるエリアが舞台になっていることが多い。この作では東急田園都市線の青葉台駅が登場。最近は月にに数回は行っている。なぜならば、実家詣でのコースだから。駅前のショッピングセンターは東急スクエア。2フロアを占める大型書店はブックファースト。2階の雑貨ショップ併設のカフェは無印良品だ。

 凶悪犯罪と、園児のパパへの暴行事件&家庭内争議、という大型二本立てで進行するのかとおもいきや、事件はさくっと一本にまとまり、大人達が子供時代を過ごした児童養護施設で起こったある事件に行き当たる。前の作品のレビューで児童福祉の知識が寸足らず、などと批判的なことを書いたが、作者の柴田よしきさんが、このテーマに大切に取り組んでいる感じがして、大変失礼だった、とちょっと反省している。

 この作品で、聖黒の練ちゃん登場作品は読み切ったことになる。あとは、もやはネットでも読むことができない『海は灰色』の刊行を待つばかり。今年は柴田よしき氏の作品刊行ラッシュらしいので、そのうちの一冊が『海は灰色』でありますように、と切に願っている。

2023年2月1日水曜日

0410—13 ゲイ風俗のもちぎさん1〜4(とりあえず1〜2)

書 名 「ゲイ風俗のもちぎさん」 1巻〜4巻 (書誌情報は1巻のものです)
著 者 もちぎ        
出 版 KADOKAWA  2019年8月
単行本(ソフトカバー) 176ページ
初 読 2023年1月28日
ISBN-10 4047357421
ISBN-13 978-4047357426
読書メーター   
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 職場のひとに紹介されたのが、『ゲイバーのもちぎさん』。すごく勉強になる、と。で、大人買いしたのが上記。これまで引っかかっていたセクシュアリティにまつわるあれこれに、当事者からの率直かつ直球な意見。あぁ〜そうなんだ。と腑に落ちることが多々ある。体の性、心の性、性指向。そして一人ひとりの自分と、他人への向き合い方。いろいろな人がいて、一生懸命だったり、がむしゃらだったり、無防備だったり、計算高かったり、思慮深かったり、浅はかだったりしながらも、生きている。生きて行くってことに関しては平等で対等でありたいし、いろんな在り方に臆さず向き合い、認めたり、認められたりしたいと思う。みんな違ってみんないい、と思いたいし、みんなにそう思ってもらいたい。できることなら、もっといろんなことが平等であればいいと思う。たとえば経済的なこと、親の愛情、一人ひとりの能力や健康、でもそれは絵空事で、不平等なのが本当だから。だけど、何十年か前はおおっぴらに語られることの少なかったLGBTQが、今は普通に語られるようになっている。だから今から何十年後かには、きっと今よりもっと変わって、生きやすくなっているひとが沢山いるだろうし、きっと数年先だってそうであってほしいと思う。

0409 ゲイ風俗のもちぎさん 1
 「人生賛歌」というもちぎさん。すごいな。
 もちぎさんはサバイバーだ。父が精神疾患で自殺して、メンタルを病んだ母に虐待されて育った。働かない母が子供のもちぎさんにお金をせびるから、男相手に買春して稼いで家にお金を入れた。そうしないと、大学進学のお金も、家を出るためのお金も貯められなかった。それなのに母にそのことを責められて高3の卒業前に家を飛び出し東京に来た。きちんと稼げるゲイ風俗(ウリセン)で働いて、いろいろな経験をしながら、大学にも進んだ。言われてみればそりゃそのとーりだよな、と思うセクシャルマイノリティの生態だって、こうやって改めてもちぎさんに教えてもらわなけりゃ、意識に登ってこないことがたくさんある。ウリセンにはウリセンの仁義や矜持があるし、そこでしか生きていく術のない人達が必死で守っている場所でもある。性を鬻ぐことを被害・加害という視点だけで語ることにはできないと思う一方で、そこで身ぐるみ搾取される子がいるのもまた事実だと知っている。むしろ売る方も買う方も同類なゲイ風俗の方が、普通(?)の女の子たちの風俗よりも暖かくて生きやすい場所なのかもな、とも思った。

0410 ゲイ風俗のもちぎさん 2
 ずーっと謎だった、「本物のゲイは、BLをどう見ているんだろう」という疑問に、もちぎさんからかなり明快な答えが。BLを読む本職さんもいるんだ!(少数派ではあるらしいが)アレ気持ち悪いんじゃないかと思ってたよ。だって、男性向けの〈男×女〉のエロコンテンツ(女性がエロエロになるやつ)って、はっきりいって自分からみたら気持ち悪いもの。それにハーレクインみたいな女性向け〈男×女〉のポルノ小説に出てくる男性キャラって、生身の男からみたらありえね〜!ってならない? 所詮ファンタジーだし、ファンタジーだと頭のどこかで思っているから無邪気に楽しめるものでもある。
「ほら ゲイからしたらBLってファンタジーじゃん。ほぐしなしに洗浄なしの挿入行為とか 二丁目以外の街でイチャつくとか、コミュニティに属することもなくノンケ社会で出会いがあるとかさぁ」
・・・・そうか、街でイチャつくのも、そこらで出会いがあるのも、実際にはないのか。そうだよね。たしかに、見ない・・・かも。
 当たり前だと思うけど「嫌だっていうゲイもいる」
それに対してもてぎさんは名言だと思う。
「慣れてないのかもね」「男が性的なコンテンツになって異性に楽しまれることに」
「テレビや雑誌で水着になるのも女性が多いし、エロ本としてコンビニにおかれているのも女性のグラビアだけ」「女性の性欲をまるでなかったことにして男性だけが性的コンテンツを楽しんでると思っちゃってるのかも」
 なるほどねえ、と思ったよ。女性が性的に消費されるコンテンツとして扱われることが嬉しいとはおもわないけど、温泉娘騒動みたいに、そういうコンテンツを駆逐せよ!とは思わない。そう言ってる当人がピンクをイメージカラーにしていて、どうにも牛の前で赤い布振ってるようにしか見えんしな。・・・・・とこれは脱線。男にも女にも性欲はあって、ある程度ファンタジーで補われている部分は必ずある。必要なのは、敬意なんだと思う。
 もてぎさん曰く「性産業に勤める人間を卑下しちゃダメ」「あたいらも含めて人間のカラダの価値の話だから」
 もちろんこの話だけではなく、ゲイ風俗で働くひとりひとりのエピソードは、こんな風にお手軽に感想をかくのも憚られる思いがする。どうか沢山の人に読んでもらって、そこでわいた思いは胸に畳んで、自分とは違う人に対して優しい人になれるように、自分の一部にしてほしいなあと願う。
 でも、一番胸に染みたのは、昔の恩師の先生に会うために地元に行った話だ。この本を読んで「勉強」しようなんて、おこがましいよな。もちぎさんが今、幸せだといいな、と願う。とりあえず“もっと幸せになりますように”と念を送る。















2022年10月4日火曜日

0395 月神の浅き夢 (角川文庫)

書 名 「月神の浅き夢」
著 者 柴田 よしき         
出 版 角川書店 2000年5月
文 庫 645ページ
初 読 2022年10月4日
ISBN-10 4043428049
ISBN-13 978-4043428045
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/109413916

 いよいよ、『聖黒』を先に読んだことを後悔する。
 被害者 玉本栄、掛川エージェンシーってだけで、激しくネタバレ状態だ。まあ、そこはぐっと目をつぶって気付かないふりして読まなければ。って言ってるそばから、泉が、彼氏はコンピューターの天才なんだ、と。それって練以外にあり得ないじゃん? やっぱり脳内を一端初期化したい。まっさらな状態でリコシリーズから読み直したい。

 そうはいっても気を取り直して、あらすじのおさらいだ。リコは息子が3歳になり、やっと安藤警視と夫婦らしい生活を営んでいる。そしてついに、刑事を辞職して息子を育て、夫に守られる生活に入ってしまおうか、と心が傾いているよう。安藤とは、長野県松本のリコの両親・・・というよりはリコの父に、結婚の赦しをもらいに行こう、と夫婦で話あっているところ。 父にとっては、リコは職場で上司と不倫して、警視庁を追われた不名誉極まりない娘だったし、安藤は、既婚者でありながら部下の初心な娘に手をだして、おまけに未婚の母にまでした、憎い男だ。しかし、生まれてきた孫は可愛いし、安藤が身辺を整理して、リコと結婚の覚悟を決めたとあっては、和解する潮時だった。

 そんな矢先に、凄惨な連続殺人事件が発生する。犠牲者はすべて私服刑事。独身、美男子。
 手足と性器を切断されて、首を吊られた状態で発見された。犠牲者はすでに5人に及ぶ。
 特別捜査班が警視庁に設けられ、辰巳署のリコも、新宿署の坂上も、特捜班の助っ人に駆り出される。警視庁は、リコにとっては鬼門。今でも偏見に満ちた軽蔑の目で見る刑事たちが大勢いる。その中で、特捜班を指揮する高須は、ここで実力を見せつけろ、とリコに命じる。
 リコの捜査と、捜査の成果をこえる閃きで、事件は過去の警察の汚点であるある冤罪事件につながる。その事件の捜査には、リコの夫の安藤や、その部下だった高須も、そして麻生も関わっていて・・・。その事件の被害者の娘と、その娘につながるもう一人の娘の存在が連続殺人事件の焦点となっていくが・・・・・・

 つかみは上々。
 だがしかし。児童福祉に関する知識がちょっと寸足らずな印象を受ける。
 子供の保護を受け持つのは福祉事務所ではなく児童相談所だし、児童養護施設はたしかに児童福祉施設の一つではあるが、ここでいうならやっぱり「児童養護施設」だと思う。
 入所している子供の保護理由の多くが母親からの虐待で、もう一つ多いのが父親からの性的虐待である、とかもどうなの?
 むろん性虐ケースはそれなりにあるが、この二つが代表であるかのような書きっぷりはちょっと違うように思った。実際には身体的虐待や非行、養育困難の方が多くて、たぶん、性的虐待は件数的にはそれほど多くない。それは、実数が少ないからではなく、表面化しずらいため子どもの保護に到らないって理由もあるだろうと思う。作品の中で、子供の虐待について、登場人物にあんなに語らせず、曖昧にぼかしたままでも十分ストーリーは成立しただろうに、あえて詳しく語っちゃったせいで、かえってリアリティが薄れてしまったのが、残念に思えた。
 もし、新版とか改訂版とか出すチャンスがあったら、児童福祉制度に詳しい人にちょっと監修してもらえるといいんじゃないかな。

 捜査の謎解きは、せっかくきめ細やかに捜査を積み重ねているのに、肝心のところはリコのひらめきに頼り過ぎてるんじゃないかな。まあ、リコはそういう「捜査のカン」が優れた刑事ではあるんだけど、もっと理詰めでもいけそうなのに。泉の表情から、許されない命がけの恋をしているのだ!というくだりなんかは、思い込みが強すぎでないかい。

 話の流れからもっと、練の冤罪事件に切り込むのかと思いきや、そこはそれほどでもなかあた。練の事件への関わり方があまりにもさりげなく、しかもリコへの絡み方もモロ好みで、やっぱり練が主役じゃあないか、と。
 練が泉を住まわせるために調度を整えてやったマンションの描写にもなんだか胸がつまる。
 しかし、練がかなり淡々としているのに、麻生はひとり悶々として、あげくにリコに慰めてもらうって、どんだけ身勝手なんだ麻生!!
 それに、練は斎藤の出所を出迎えてやったのだ。練はやっぱり、麻生に出迎えてほしかったんだろうなあ、と斎藤が練に出迎えられて驚いたってくだりで思ったのですよ。
 今作では、練のいろんな顔を見ることが出来てその点でもとても満足。

 連の冤罪事件については、『海は灰色』を待つしかないようだ。いや、批判ばっかりしているように見えるかもしれんが、私はこの一連の作品群が大好きだ。あとは大切に取っておいてある、ハナちゃんシリーズが2冊のみ。続編の刊行を切望する。

 それにしてもラスト。練はリコにどのように語ったのだろう。


0394 聖母の深き淵 (角川文庫)

書 名 「聖母の深き淵」
著 者 柴田 よしき         
出 版 角川書店 1998年3月
文 庫 560ページ
初 読 2022年9月30日
ISBN-10 4043428022
ISBN-13 978-4043428021
読書メーター https://bookmeter.com/books/573930

 リコが主人公な話なのに、私にとっては山内である。
 それは、私が『聖なる黒夜』を先に読んでいたから。あとで落ち着いたて考えたら、この話、刊行順じゃないと駄目だったよね。この本先に読んでいたら、どれだけ、「な!なにがあったのよ〜〜〜〜〜!!!山内!麻生〜〜〜!!!」とジタバタすることができたことか。やっぱり本当はRIKOシリーズを先に読むのが正解。そのじたばたとドキドキを味わう為だけでも。
 『聖黒』を先に読んでしまった私には、ハナちゃんシリーズ読んでも、RIKOシリーズを読んでも、もはや、山内が主人公としか思えない。(笑)山内には、作品の中にも外にも、その魔性の魅力にとりこまれちまった人間が山ほどいるのだ(笑)。
 さて、その山内を愛している筆頭の麻生のセリフである。
 “彼女”はどんな人か、とリコに問われて麻生が惚気るわけだよ。

『そうだなぁ……天然の、柔らかいくせっ毛なんだ。日本人にしては茶色っぽいな。朝日がさしてその髪に当たると、瞬間だけど金色に見えることもある』
『うん。睫が長くて、泣き虫なもんだから、その睫の先に大きな涙の粒が載っかってることがたまにある。それが揺れると、ころんと落ちる。』

 『ちょっと怒ったりするとすぐに耳が朱くなる。』

『抱きしめてやると、山鳩みたいな声を出す』「山鳩?」と聞き返すリコに
『そう。ククゥ、ルルルルって聞いたこと、ない?あんな感じ。』
『あとは、そうだな、酒が強いな。酔い潰されたことが何度かあるよ。その人は酔うと少し下品になるんだ。扇情的になって、すぐに脱ぎたがる。あれは悪い癖だな……』

酔って下品になって、それからどうなるの?『天使になる』

 もはや、山内練は人間ではない。山鳩みたいに喉を鳴らせる人間がいるものか。練は天使なんだ。
 練を泣かせて、睫の上に乗っかる涙の粒を(おそらく超至近距離で、おそらくは腕の中の練を)観察してる麻生め! あんたさあ。麻生さんよ。その涙は、世田谷の取り調べ室ですか?それとも、韮崎が死んだ時ですかぁ?あんた、コロンと落っこちる涙に萌えてるばあいじゃないだろうがぁぁぁ!
 ああもう。麻生の腕の中で喉を鳴らす練ちゃん。天使になる練ちゃん。きいいいいいっ(逆上)
 世の中には麻生龍太郎ファンが数多いることは知っているが、私にとっちゃ、麻生は全小説世界を横断しても、ピカイチで腹が立つ野郎だよ。だが、いや、まて!

 本当は、ここでの読者の正しい態度は「なになに、それってどんな女なの?麻生さんが惚れた女はどこの誰なの〜〜?!」だ。まさかここで、相手が練だとは思うまい。そうなのだ。そして、麻生は背が高く、ハンサムで、有能な元刑事の私立探偵なのだ。私の脳内の麻生はどっちかってーと「刑事コロンボ」さんなんだけど、そうじゃない。どこから見ても二枚目なのが麻生の役どころ。
 ああ、いったん自分の頭の中を消去して、初めから読み直したい。

 さて、ここで登場する練は、韮崎という大物ヤクザが殺されたあと、春日組の次期組長を期待され、企業舎弟の社長から、異例の抜擢で春日組の若頭に就任した、極悪ヤクザだ。だが、リコに見せる隙や、なぜかリコに聴かせてしまう昔語りや、リコに反撃されて怖い目をみるとやけに素直になっちゃったりするところは、やっぱりどうしたって可愛い。

 いつ自分がぶっ壊れても構わないかのような向こう見ずで大胆な悪行で、日夜新宿界隈の裏表を泳ぐ練ではあるが、リコも無謀・向こう見ずではひけを取らない。そんなリコはどうも練に気に入られたらしく、思わぬ昔話も聞かされたりしてしまうのだ。
 練と田村の馴れ初めなんぞも、もう、私には、涙無しには読めませんでしたが。
 刑務所で初めて男に犯された夜、ボロい毛布を口に突っ込んで声を殺して震える練を、田村が一晩中抱きしめて、背中をなでていた。・・・・・そんな昔話を、タダできかせてもらってしまったリコ、この縁はもう、切っても切れないよ。

 リコ本人については、ちょっと形容しがたい。
 生まれてこのかた自分にすり込まれた社会的性差を全部とっぱらった、全き女(そんなものが存在するとして、だが)がどういうものなのか、どうにも考えてしまう。リコみたいに、皮膚が子宮の中まで全部つながって(いや、実際つながってはいるんだけど)感覚器になってしまってるみたいなキャラ、初めてだったしな。そんなに簡単に性暴力に晒されてしまっていいのか、リコの周りの男どもの気が知れないと思う一方で、なぜそれを「ごっくん」とできるのか、赦していないけど「ごっくん」と腹に収めた、というのがどういう精神状態なんだか、どういう納得の仕方なんだか・・・・・ちょっと、素直に自分の感覚に取り込めない。ものすごく、質感というか肉感があって、魅力的なキャラではあるんだけど、同僚のバンちゃんに「私のこと守ってね」って言っちゃう感覚もよくわからない。「男に守られたい」っていう気持ちと男に互したい、っていう気持ちはリコの中では対立しないのか? リコは矛盾や葛藤を抱えまくっているし、その混沌を混沌のままマグマのように自分の中に抱え持って、かつ、1人の人格として成立しているリコに言いようのない魅力を感じるんだけど、やっぱり納得仕切れないものもあるんだよね。

 いやあ、全然ストーリーの方は頭に入ってなくて恐縮なんだけど、読了後一日経ったら、すでにあれ、この話、何の事件だったっけ?ってくらい事件そのものの印象が薄い。それだけ、練もリコも強烈。ああ早く続編、『海は灰色』を読みたい。すでに角川の電子書店ではダウンロード出来なくなっているので、近いうちに、正式に出版されるものとおおいに期待している。

2022年9月17日土曜日

0391 RIKO ‐女神の永遠‐ (角川文庫)

書 名 「RIKO ‐女神の永遠‐」 
著 者 柴田 よしき         
出 版 角川書店 1997年10月
文 庫 396ページ
初 読 2022年4月24日
ISBN-10 4043428014
ISBN-13 978-4043428014

 この間プライベートでいろいろとあったりで、細切れ読みになったり、疲労困憊して読んでる途中で意識朦朧となったりしてたので、あまり、ちゃんと感想が書けていないのが大変残念なこの本です。
 「聖なる黒夜」と表裏一体と言ってもいいようなテーマで、主人公の緑子(リコ)の性があまりにも奔放なので、ちょっと引いている自分と、自分が引っかかるからこそ、そこにリアルがある、と感じる自分がいて、読後感はかなり複雑。
 でも、まずは登場人物を整理しておかないと、わけがわからなくなりそうなので、以下。




【登場人物】
◆新宿署
 村上緑子  刑事課 警部補  
 円谷    刑事課長
 斉藤    防犯課長
 鮎川慎二  防犯課の巡査部長 緑子の恋人
 陶山麻里  交通課の婦人警官 緑子の親友
 松岡    暴対課 刑事
 坂上(バンちゃん)刑事課 刑事 緑子の部下、というか応援団
 青木(アオさん)  〃
 山本(シゲさん)  〃 巡査部長 
◆警視庁
 安藤明彦  警部  警視庁捜査一課5係
 高須義久  警部補  〃
 佐々木幸弘 捜査一課5係の緑子の元同僚
 柏木(通称コマさん) 警部 警視庁捜査一課7係 
 菅野    捜査一課長

◆被害者
 桜井和貴 17歳・・・自殺
 杉本宏幸 26歳・・・交通事故死
 清川健太 16歳 肩に薔薇の入れ墨のある少年
 鵜飼宗介・・・晴海沖で溺死体で発見 月島署に捜査本部設置
◆その他
 鈴木茉莉子 東京地検の検事
 神崎容子  緑子が取調べした殺人事件(心中未遂)の容疑者
 劉晴明   香港マフィア
 茂木鉄雄  懲戒免職になった元上野署防犯課刑事 
 
 もう、登場人物リスト作らないと、本当に頭がゴチャゴチャになる(笑)日本人の名前って苦手だ。
 警察小説だけど、本当に描いているのはジェンダー。
 香港マフィアが絡んできたところでバイオレンスの方向になるのかと思いきや、最初から最後まで女がどうやってジェンダーに立ち向かうのか、二人の女の闘い方が対照的でそれぞれに強烈だった。
 ところどころで同性目線でもよくわからないところがあったり、強烈すぎてかえってファンタジーっぽく感じるところもあるのだが、自分の中の本来の自然な女性性と、自分の周囲から求められたり、強制されたりする「女」をどう対峙させるのかっていうのは、多かれ少なかれ、ほとんどの女がそれぞれに、生きる中で対処せざるを得ない問題だと思う。自分自身も然り。
 リコは、いわばエリートの部類の刑事ではあるのだが、男女関係の陥穽に落ちて、レッテルを貼られ偏見に晒されながらも、刑事として部下も持ち、体を張って生きている。脆いのに、強くしたたかで、性的に酷い目にあっているのに奔放。このアンバランスは、小説だからこそ可能なのかもしれないが。
 男社会で縦社会で男尊女卑の縮図のような警察組織(初出は平成9年。25年前とは!今もって新しいと感じるのは、四半世紀すぎても世の中があまり変わっていないからなのか、女性の職業進出や、制度的な発展はあっても、精神的にはあまり変化がないようにも思えるのだが?そういえば今は「婦警さん」って言わないかも。)が捧げもつ正体不明な「社会正義」の犠牲にされるのはのは、組織の外にも中にもいて、リコは「中」、「聖なる黒夜」の山内練は「外」。練とリコは男と女の違いはあれど、表裏ともいえる同類項だ。

 正直、私はぶっちゃけ緑子が高須にアレを口移しした、アレさえなければ大丈夫なんだけど。アレは気持ち悪すぎてダメだった(笑)。もしアレやったのが自分だったら(←いや、そんなこと考えるなって(笑))、絶対アレの代わりにゲ◯を口移しすることになるのは必至。(汚い話題でゴメンな。)
 リコは、「男が許されるものなら、女にだって許されるべき」って思考なんだけど、私は「女がされて嫌なことは、男にもするべきではない」のでは?とか思っちゃって、そういう意味でもリコが高須を精神的にレイプしたのはどうなん?って考えたりもする。でも、高須にとっては、ものすごい気づきになったみたいだけど。
 結局上下関係を明確にすることで安定する群れ社会の男にとっては、君臨するのでなければ、服従になってしまうのか。高須は、リコの弾除けになる覚悟まで持っていて、けっこう格好良い奴だったりするので、リコとの関係がどんなふうに落ち着くのかも、ちょっと気になるのだけどな。リコの子がこの先、高須そっくりなハンサムに育ちそうな気がするし。(だって、ゴムつけてなかったのこいつじゃん?) それに、リコと明彦はこの後フィフティの関係を築いていけるのか、そんなことも気になる。明彦さん、けっこう龍太郎と似てるような気がしているのだよね。龍太郎は私の中では「ダメな奴」認定されているのだ。
 

2022年9月8日木曜日

0388 育休刑事 (角川文庫)

書 名 「育休刑事(デカ)」
著 者 似鳥 鶏    
出 版 KADOKAWA 2022年8月
文 庫 336ページ
初 読 2022年9月7日
ISBN-10 4041115132
ISBN-13 978-4041115138
読書メーター https://bookmeter.com/books/20029203   

 日本の作家さんに弱いので、この作家さんは初読でした。そして名前の読み方が判らず、つい「にとり・にわとり」と読んでました。いいえ、“にたどり・けい”さんです。
 県警本部捜査一課の刑事が、妻の代わりに育児休業を取る。本邦初(だかしらないけど)育メン刑事。これはもう、設定の勝利。
 それに、欄外の細かい解説が面白い。最近の育児事情なども把握できて、ほう、世の中はここまで進んだか。とか思いながらニマニマ読めます。私の同年代の男性諸氏にもぜひ読んでいただきたいもの。私も声を大にして言いたいのは、世の母親たちはいとも軽そうに赤ちゃんを抱っこしてますが、あれ、本当は重いのよ!日々育っていく赤子を運搬するのは、毎日が筋トレ、日々、自分の気力・体力の限界に挑む作業なのだ。傍から見るぶんには、お母さんに抱っこされている赤子はまるで羽のように軽そうに見えるんだけどね。

 さて、世の公務員・・・つうか男くさい警察機構の中で生きる男性と女性のために、最初の一石になるのだ、と覚悟を決めて一年間の育児休業を取得した主人公 秋月春風(はると)。この名前にうっとなる。キラキラネームだ!ついに小説の主人公までキラキラになってしまった!生後三ヶ月になるベイビーは蓮くん。お、これも名付け人気リスト上位のお名前だ。
 そんな秋月春風(はると)刑事【育休中】が、お腹にゴキゲンな蓮くんをくくりつけ、秋風の中散歩に出たところが、姉(法医学者)と立ち寄った質屋で強盗事件に巻き込まれてしまう。
 そして春風(はると)の迅速な通報のおかげで、最速でネズミ一匹逃がさぬ最適な包囲陣を敷いたにもかかわらず、犯人一味の一人が質屋の事務室で射殺され、もう一人の犯人がまんまと逃亡。そして行方が判らなくなってしまった。
 これを取り逃したら県警本部の面子は丸つぶれどころか、当の捜査一課の課員が(男の)育休中で人手不足で・・・などと、マスコミにほじくられ、未来の後輩たちの為にも育休を取りやすい職場を作るのだ、という意気込みが裏目にでて、むこう10年は育休がとれない職場ができあがってしまう・・・・・。
 そんな危機的状況を打開すべく、春風(はると)←しつこい? は、上司の石蕗係長の求めに応じて、「育休中」ながら、赤ちゃん連れで聞き込み調査を開始する・・・・・。

 まあ、ここまで読んで、犯人とトリックが判ってしまったような気がするが、それは良い。警察手帳と拳銃の替わりに、世の中で最強のアイテム「赤ちゃん」を片手に、育休刑事が走る。まことにもって、今時の、最先端の、お仕事小説である。欄外の解説がとても面白い。
 人の気持ちや受け止め方が変わってくるだけで、世の中少しづつ動いていくものだろうから、この本もきっとそういう世の中に向かって動く力になるだろう。それにしても、育休中に働いてはイカンな。赤子を連れているときには安全第一でお願いしたい。

 そしてこの作品、短編連作なのだった。
1話目 「人質はねがえりをする」は、予想通りの展開でサクッと犯人逮捕。
2作目 「瞬間移動のはずがない」 まあ移動したのは車ではなくて、アレだろうなあ、との予想を裏切らない素直な展開。
3作目 「お外にでたらご挨拶」は、前2作のほのぼのムードと違って、ちょっとスリリング。ある捜査の失敗が原因で警視庁から飛ばされてきた、というキャリアの捜査一課長の命が狙われる。爆弾テロを追いかける分刻みの展開と、春風(はると)がなかなか格好良い。「管理職」である妻の「正体」がいつ明かされるのかな、と思っていたけど、なるほどねえ。

 全体としては、オモシロさ及第点というところ。事件の発見も解決も姉の視力・観察力・行動力という“特殊能力”に依存しているのと、狂言回しとはいえ、この姉のパワーがなかったらストーリーすら転がっていかないだろ、というキャラ設定の都合の良さと妻の正体が、ちょっと出来すぎ感マシマシでしたが、まあ、気持ちよく読める軽いお仕事小説としてはなかなかの良作でした。



2022年9月2日金曜日

0386 コハルノートへおかえり (角川文庫)

書 名 「コハルノートへおかえり」
著 者 石井 颯良     
出 版 KADOKAWA/角川書店 2016年4月
文 庫 254ページ
初 読 2022年9月2日
ISBN-10 4041040302
ISBN-13 978-4041040300
読書メーター 
https://bookmeter.com/books/10857973 

 この本も私の読書傾向からはかなり遠いのだけど、実は著者にささやかなご縁があって、出版されたときに入手した本なのだ。でも、パラパラしただけで、通読はしていなかった。いつまでも放置プレイは本にも著者にも申し訳ないので、せっかく出来た時間でこのたび手に取った次第。
 この作品は、第一回角川キャラクター小説大賞の奨励賞受賞作品だそうで、奨励賞でも出版されるんだから大したものだと思う。デビュー作ね。言葉の選び方が私の感覚とは合わないので上手に脳裏に絵を結ばない、私が苦手なタイプの作品ではあるんだが、ちょっと拙いところはあれど、一生懸命な書きぶりが主人公の小梅ちゃんとちょっと重なって応援したくなる。と、いうかなんだかムスメの夏休みの自由課題で書いた作文を読んでいるようなくすぐったい気分になる。ごめん、わたしがおばちゃんなのがいけないのね。そうはいっても、中盤になれば、文体にもなれてするする読める。

 主人公は高校生。しかもなりたての女子高生。(この場合は、女子の高校生、ではなく女子高の生徒。) 高校時代、学校近くの喫茶店に入り浸っていた頃が懐かしい。
 小江戸と呼ばれる川越で、落ち着いて、倉なんかも並んでいる古い街並みの中にひっそりと開店した「コハルノート」という名前の“香り”のお店と素敵だけど、どこか陰がある若い店主。調合するのはあなただけの香り。実際に提供するのは、ブレンドしたオリジナルのハーブティなど。最近流行ってる、古本屋とか珈琲店とか、古道具屋とかのほんわか日常系?っていうのかな。ハーブティとアロマと美男子と元気娘。主人公の小梅ちゃんの元気と勢いが余ってる感じだけど、まあそういう子だしな(笑)。
 あ〜でもね。
 小雪ちゃんよ「送り主」は送る方の人のことで、「送られる」方のことじゃないのよ。
 あと、「月がきれいですね」も、もっと国文勉強しようね。
 

2022年8月7日日曜日

0379 警官の道(単行本)

書 名 「警官の道」 
著 者 呉 勝浩, 下村 敦史, 長浦 京, 中山 七里, 葉真中 顕,
    深町 秋生, 柚月裕子 
出 版  KADOKAWA 2021年12月
単行本 328ページ
初 読 2022年8月7日
ISBN-10 4041120764
ISBN-13 978-4041120767
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/108130197   

1葉真中顕 「上級国民」
 N県警本部警備部警備一課、「公安」に所属する渡会。「ばっかじゃねえのか!」と吐き捨てた仕事の中身は、「上級国民」が起こした交通事故の後始末。だがしかし「下級国民」のしたたかさ、しぶとさと、そうでなければ生き残れないとでも言いたげな切なさに唸る。そして、ラストのちゃぶ台返しに驚愕。上級でも下級でもない、中級としか言いようのないしがないノンキャリ公務員の主人公がいささかあわれだ。

2中山七里 「許されざる者」 
なんと、2020(実は2021)東京オリンピック。閉会式の演出家が、開会式当日に撲殺死体で発見される。とてもいい人だった、と口々に関係者から聞かされるが、やがて、「いい人」なのは上半身のみ。下半身は別物、と分かってくる。と同時に、学生時代のイジメの主犯だったことも。
 にしても、コロナ禍でいろいろなところで、仕事のやり方が変わったとは思うが、まさか容疑者の取り調べがリモートで?マジか?ホント?コロナ後も全然かわらぬ“お役所仕事”の方こそ経験した身としては、さすがに冗談としか。

3呉勝浩 「Vに捧げる行進」
・・・・レミング? よくわからないや。こういう不条理もの(?)は苦手だ。べつに、主人公が警官である必要もなさそうで。コロナ、閉塞感、不安。耐えろよ。耐えようよ。耐えられないと、レミング化して集団自殺してしまう・・・みたいな? 

4深町秋生 「クローゼット」
 上野署の刑事2人。バディを組む相棒に心寄せる刑事荻野は「クローゼット」の中にいる。観光地化した新宿二丁目よりコアな、ゲイの街という顔を持つ東上野界隈で起きた、男性暴行事件の捜査に、自らも秘密を持つ荻野の気持ちが揺れ動く。ラストの思い切りの良さに、思わず荻野のこれからを全力で応援したくなる。願わくば、彼の恋が成就しますように。

5下村敦史 「見えない刃」
 最初に、東堂が怪しいと思って、最後の最後まで東堂が怪しいのでは、と思い続けた私って、ひょっとして性格に問題でもあるんだろうか。それともスレすぎてる、とか・・・? テーマはセカンドレイプなんだけど。なんだか表層的っていうか、教科書的っていうか、東堂がおキレイすぎちゃって、アヤシい、と。で、上手く言えないんだけど、小学校の道徳の時間に、教科書を音読させられたようなそこはかとない不快感を感じるんだよね。この作品。

6長浦京 「シスター・レイ」
 もう、めっちゃ面白い。こういうのは大好き。でも、あまり警官関係ないかも・・・・。いや、憲兵隊の対テロ特殊部隊だって、警察機構っちゃあそうなんだけど。

7柚月裕子 「聖」 
 これぞ、警官の道。トリにふさわしい。そして「下級」は「下級」のままだ、と言い切った一話目に対置して、底辺からでも上を目指すことができる、根性さえあれば。と刑事が諭す。なんかキレイにまとまった感があるけど、観音コンビの結成を見てみたい。警官になった聖の姿をみて、嬉し泣く母の姿もね。 
聖、がんばれよ。

2022年8月4日木曜日

0377 ヴァイス 麻布警察署刑事課潜入捜査 (角川文庫)

書 名 「ヴァイス 麻布警察署刑事課潜入捜査 」
著 者 深見 真      
出 版  KADOKAWA  2016年12月
文 庫 240ページ
初 読 2022年8月4日
ISBN-10 4041043700
ISBN-13 978-4041043707
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/108081495

 潜入捜査ってそーいうことかいっ!
 深町さんの流れから、Kindleアンリミでタイトルだけで拾った作品でしたが、思いのほかの面白いので、紙本もポチ。しかし、Amazonから紙本が届く前に読了。おい、えらく早く読めたぞ。ひょっとして凄く薄い本なのか?と思ったら、240ページでした。

 どす黒い汚職警官ものですが、一番真っ黒な汚職刑事仙石が、ありえないくらいの爽やか系。なぜか脳内では、長倉ヒロコの絵柄で、ただし「煙と蜜」ではなく「ルドルフ・ターキー」な感じで展開される。主役仙石は名前が一緒なもんで「ボールルームにようこそ」の仙石アニキの顔で登場。 ストーリーテリングが軽快で、青年漫画を読んでる感じで脳内にコミックの紙面が広がる。 
 すごく軽快な文章だなあ、と思ってたら、ラノベ系の作家さんで、でもってPSYCHO-PASSの人だった。PSYCHO-PASSも読みたいと思っていたのだ。
 警察機構の暗部・内部汚職から、表に出せない外交関係者の犯罪、政治家、芸能人のスキャンダル隠し・・・・・麻布警察という立地だからこそ伸ばせる妄想の翼。(現実の麻布署のお巡りさんごめんなさい。)
 一冊目では、仙石がなぜこうなった、の過去や背景はちらとも明かされていないので、非常に気になる。これは追いかけるでしょ。面白いもん。


2022年7月2日土曜日

0359-60 嘘は罪 上・下 角川文庫

書 名 「嘘は罪 上・下」
著 者 栗本 薫    
出 版 角川書店 2009年9月
文 庫 上:489ページ  下:421ページ
初 読 2022年7月2日
ISBN-10 上:4044124221 下:404412423X
ISBN-13 上:978-4044124229 下:978-4044124236
読書メーター 上:https://bookmeter.com/reviews/107400101
       下:https://bookmeter.com/reviews/107407740 

 「東京サーガ」森田透・今西良ブランチのサイドストーリーというか、スピンオフ。
 良に耽溺するあまり道を誤った“普通の人”たる風間先生の改悛と再生の書。私は風間先生は好きだな。
 良を失い、名誉も地位も地に落ちて、仕事もなく、周囲の好奇の視線を怖れて、どん底で自宅マンションに閉じこもる風間先生がドロドロと考え続けている。遂に金も食料も酒も尽きた。だが何よりも辛いのは煙草が無くなったことだった。風間は、自分を案じてくれている数少ない友人の野々村に金を無心しようと、やっと部屋を出て、新宿二丁目に足を運ぶ。
 偶然出会った、野生の獣のような忍という少年に、風間は信じがたいような音楽の才能を見いだす。今西良のようなスター性はないが、剥き出しの原石の天性。忍を苦境から救い出し、その才能を伸ばしてやりたい、と風間が思ったとき、風間自身も再生を始める。
 いい話っちゃあいい話だと思うのだけど、せっかくのストーリーラインが、薫サンの脳内から零れだした、薫サンのとも風間センセのとも判別できないグダグダ無限ループ状態のクソみたいな思考に沈んで、上巻前半でほぼ溺死状態。そうはいっても、風間センセが少々立ち直って、動きはじめてからは状況はやや改善するので、とにかく冒頭は読み飛ばしておけ。読まなくても、まったく大勢に影響はない。
 この話をたとえば、上下巻ではなく、半分の一冊にまとめられなくなったのが、薫サンの文才の限界を示してるのではないかねえ。途中で二回、透ちゃんが登場して、風間センセの話相手を務めるが、その形容が美しいのは良しとする。透はいつでも優しいね。
 絶対音感と、おそらくは音に関する共感覚を持ってうまれたのに、その悲惨な生まれ育ちのせいで、だれにもその才能を気付かれずに生きてきた忍という少年を偶然拾ってしまい、忍に歌の手ほどきをすることで、一度は諦めた音楽と生きる道を模索し始める風間は、もともと生真面目な性格だし、不器用さがかわいいところがあって、見捨てがたいキャラではあるのだよな。私は風間センセが嫌いではない。ってか、良も透も風間も島さんも野々村も好きだし、ついでに言えば、今作に登場する黒須もなかなか良いキャラだ。
 上巻は、基本のお膳立てと仕込み。ついでに、恐ろしいばかりのはずだった暴力団若頭の黒須が、風間と二丁目のお友達になってしまうまで。
 端正な顔立ち、黒髪を後ろにひっつめて黒いパンツに革のロングコート、に黒のグラサンという凄みのあるヤクザの黒須に、風間が、あんたの刺青を見てみたい。という。かすかな恥じらいを浮かべる黒須。きゃー(棒)。場所が二丁目なだけに、お互いがそういう相手を求めているということは了解済みとはいえ、なかなかに凄い口説き文句だわ。その刺青たるや、大輪の牡丹に蓮に菊に百合が咲き誇り、白い肌に散る絢爛な刺青の背中に解いた黒髪が流れおちるって、色っぽいにもほどがある。
 下巻に入り、急にハードボイルド路線か?と思いきや、そうでもない。どん底で、どれだけ批判され、世の中から受け入れられなくても、人は生きていかなければならない、という風間の境遇に、薫サンは自分を重ねているのだ、という話もあるし、嘘を歌えない忍に、自分の歌いたい唄しか歌えない忍に、薫サンは、自分の書きたいものを書きたい自分を重ねたのかな、とも読める。だがしかし、「それが世界一厳しい道」であることを、奇しくも風間が指摘したのは、薫サン自覚があってのことなのか?
 一生で一曲だけの本当の歌を歌って死んだ歌手もいる。どんなに自分の好きなもの「だけ」を世に送りたくても、歌い手はボイストレーニングは必要だし、音痴では話にならない。書き手は、世に認められる水準で、作品を書かなければだれも読みはしない。それが受け入れられないのは、不当に扱われているからではなく、単に研鑽が足りないからではないのか。「嘘は罪」、だけど嘘は吐いたもん勝ちになることだってある。これはひょっとしたら名作なのかもしれないが、でもそれを書いた薫サンがその生き方で、作品を裏切っているような気がする。

2022年6月19日日曜日

0356 死はやさしく奪う (角川文庫)

書   名 「死はやさしく奪う」
著   者 栗本 薫    
出   版 角川書店 1986年1月
文   庫 294ページ
初   読 2022年6月19日
ISBN-10 4041500117
ISBN-13 978-4041500118

 かの『キャバレー』みたいな、ハードボイルドだけど、音楽を追いかける小説かとおもいきや、表紙のまんまのハードボイルド・ミステリーでしたね。これ、金(かね)さんのイメージなのかな?

「俊一がね、言ってたな」
「カネさん見てると、昔知ってた人、思い出すって」
「昔ちょっと知ってたヤッチャンだってさ」(P.211) 
 
 金井恭平は、JAZZのサックス奏者で、『キャバレー』の矢代俊一の兄貴分。サックスをお気に入りの順に「本妻」「二号」「三号」とよび、彼が行けなかったステージの穴に俊一をかり出した礼としてか、「俊ちゃんがカネさんの三号を欲しがってた」と人づてに聞いただけで、まあいいや、やっか。取りに来い、と実に気取らず、豪快で気前のいいところを見せるおっさんである。
 もっとも、俊一なら俺よりずっと大切にラッパを扱って毛筋一本ほども傷なんて付けねえだろうし、また吹きたくなりゃあとりもどせばいいや”くらいに考えていそうだけど。


 身長165㎝くらいしかない小柄な男だが、学生ボクシングで鍛えたがっちり体型の金サン、ちょっと見にはとてもジャズ奏者には見えず、どうみても筋もん。あれ、そういえば、いつ猫にミルクの皿を出してやったんだっけ?と3回見直したがそんなシーンは無かったぞ。まあいいや。

 大学時代から15年も片思いをしているゴージャス美人(今は人妻)が、夫婦で殺された、と聞き込みにきた刑事の2人組に聞かされ、にわかに身辺が怪しくなる。本人の思考が追いつかないうちに、自宅に忍び込まれ、殴られ、怪電話は掛かるし、ヤクザにボコられるし、自宅の冷蔵庫には毒入りミルク。(これがどうにも、ストーリー的になんだか浮いててね。こういう違和感て、ミステリ読みには大事よね。)いやさ、牛乳パックをスーパーとかで買ってきて、外からバレないように注射器かなんかで目立たないように農薬を注入し、それをわざわざ、金井のアパートに持ち込んで、冷蔵庫にしまうヤクザ。ってあまりにもマメマメすぎて、絵的にも面白すぎるじゃん、と思っていたらなんとなんと、そーでしたか。なるほどねえ。

 クラブでバイトしているトシが、16歳で山形から集団就職してきた、というのが、なんとも時代を感じさせる。集団就職って、昭和40年代くらいまでか。オイルショックでの経済低迷と、高校進学率が増えて、中卒就労が減ったのもこの頃。企業の募集が高卒以上になってきた時期。この本は昭和61年発行だから、薫サンはだいたい昭和50年代を描いたのだな。・・・・もっとも、薫サンの作品で時代考証をしようなんて考えない方がよいかもしれんけど。

 ストーリー的にはごくシンプル。
 女に惚れて、裏切られて、自分の中の聖女も、その聖女を愛した自分も“殺され”た。だから、その復讐を。ちょっとだけ女々しい男のハードボイルド・ストーリー。金井恭平という男のロマンでした。
 

2022年6月15日水曜日

0353 朝日のあたる家 Ⅴ(角川ルビー文庫)

書   名 「朝日のあたる家 Ⅴ」
著   者 栗本 薫    
出   版 角川書店   2001年12月(単行本初版)/20033月(文庫初版)
文   庫 365ページ
初   読 2022年6月15日
ISBN-10 4044124213
ISBN-13 978-4044124212

 作中で、良が長々と、「矢代さん」「矢代先生」について、本物の天才とはなにか、本物のスターとは何か、その人そのものを認められ、愛されるとはどんなことか、と語るんだけどね。うーん。読む方からみると、ちょっと、いやかなり、作者のオナニープレイが恥ずかしい。一方の作品のスターが、もう一方のシリーズの主人公を褒めあげてるわけだからね。じゃあ、その矢代がどれだけすんばらしいかっつうと、天才という設定の美貌のBLキャラだったりするわけで、、、、。矢代君が『キャバレー』からもうすこし、逞しく育ってくれてたらよかったのになあ。なんか矢代のために体を張った滝川さんに申し訳ない気がしてくる。

 あと、良が島津の別荘や、島津の自宅にいくのをちょっとイヤがったりするんだけど、お前さん、3巻や4巻で、島津のマンションに入り浸ってたよね? きっと薫サン、わすれちゃってるんだろうなあ。

 それはおいておくとして、だ。『翼あるもの』上巻から、周りからあがめ奉られるばかりで、まったく本人の本当の意志や姿が見えず、偶像崇拝も極まっていた良が、その周囲の身勝手な思い込みとイメージの押しつけについに反旗を翻し、自分を語りはじめた5巻である。
 透のほうは「えぇ」とか「うーん」とか「それは・・・」とか言いながら、良の話を聞くしかない状況。
 これまで、著者の薫サンがさんざ良の死亡フラグを立てまくっていたが、それすら、そんなの本当のオレじゃないもーん。とばかりに、良の本来の生命力が満ち溢れてくる。それはいい。キャラが勝手に自分の生を生きはじめてこそ、栗本薫の本領発揮だもの。一方で、この良も栗本薫の投影であるならば、栗本薫は何に縛られ、どう、なりたかったのかな、などども、もちらちと頭を過ったけれどもね。

 この話のキモはなんだろう、と考えると、透が1巻で、一日一日をカタツムリが歩むようにゆっくりと踏みしめ7年間の時を過ごし、かつての巽と同じ歳になっていることに気付く。そして、5巻ではかつて透を愛おしんだ巽のように、自分が良を愛おしみ、そんな「弱き、幼き者を愛し、慈しむ」立場、つまり大人になっていることに気付く。人は変わる。成長することができる。人を愛する側になることができる。
 これがこの作のテーマだといいな、と思うのは私の願望に過ぎないが、けっして透ちゃんが立派で力強い大人、になるわけではないのが面白いところ。だって、死ぬ寸前までヘロヘロに弱った良と、なんとかかんとか生き抜いてきて、すこしは生きる力がついてきたかな、というか、かつてないほど、生命力がついてきたかな、という透で力関係はほぼイーブン。
 だから、透が、精一杯良を愛して、透が持てるエネルギーをすべて注いで、良に充電してやったおかげて、良は力を得てその天性の生命力を甦らせ、輝かせ、活動させ始める、そうすると、透はまったくそのエネルギーには敵わない、のだ。それが透の凡人たるところ。ちょっと可哀想なんだけど、その弱さや、揺らぎがまた透たる由縁。だがね。

 栗本センセイ、書いたら書きっぱなしで、他の作品との整合を図るなんてめんどいことはしないのだよ。文章を脳内から垂れ流してるとしか思えない、まるで昼下がりのワイドショーや、つまらない主婦のお喋りのようなだらだらした文章を書きなぐってるせいで、透の人格の崩壊ぶりが著しい。本当にヒドい。

 良はかわいい。透も良も愛おしい。ダメなのはあんただよ、栗本センセイ。アンタの頭の中からまろび出て、一人歩きを始めた人格達をきちんと表現してやらなかったのはアンタだ。『朝日』も『ムーンリヴァー』も良い作品だと思う。少なくともその骨格や、目指すところは。だけどこの5巻とムーンリヴァーを続けて読んだら、透ちゃんはただの言行不一致の口だけの行き当たりばったり野郎になってしまう。こりゃあ往年のファンが怒る筈だ。💢 と納得の逸品的な仕上がり具合だ。それでも終章の美しさと言ったら、私、10回は読んだからね。💢
 でもでも。この終章だけが、まるで別の生き物みたいに、作品全体から浮いているのは否めない。ここまで頑張ってきて、コレかよ。と思う人もいるだろうなあ。恐竜頭のパンチ一発。透ちゃんは顎粉砕骨折でダウンしましたとさ。だもの。

 どうしたらよいのコレ。  同人の浜名湖うなぎ氏のように、二次創作宜しく、かくあるべき『朝日のあたる家』を自分で脳内に妄想するしかないのか。それなのに、愛しくも美しく、切ないのだ。バカー!!

2022年6月11日土曜日

0352 朝日のあたる家 Ⅳ(角川ルビー文庫)

書   名 「朝日のあたる家 Ⅳ」
著   者 栗本 薫    
出   版 角川書店   1999年10月(単行本初版)/20032月(文庫初版)
文   庫 340ページ
初   読 2022年6月8日
ISBN-10 4044124205
ISBN-13 978-4044124205

 良を諦めることができない風間の狂気と、正体不明(ってか読者には分かってるけど、透が鈍すぎ)の脅迫、マスコミの悪意、良(ジョニー)の周辺の者達の敵意にだんだん追いつめられる透ちゃんが、必至で頑張る四巻目です。
 何とか話合いで乗り切ろうっていう透が甘いっちゃあ甘いが、透ちゃんは凄惨な経験を沢山してきているわりに、人間の善意を信じているっていうか、悪意の存在を信じきれていないようなところがあるので・・・・・・ってか、それが“透”っていう存在で、その存在がなければ『東京サーガ』も存在しないわけだが。

 そんな彼自身の甘さが災いして、やることなす事裏目にでるのが常な透が、本当なら島津の部屋のサボテンよろしく、ひっそりちんまりじっとしている方がよほど似合っているわれらが透ちゃんが、もう無理!オレには無理!と内心悲鳴をあげながら、可愛い良のために、しゃかりきにがんばる、だけど力及ばない。しかし、普段はめっぽう非力なのに、良に対してはリードしたり、ヤれる男ぶったり、社会常識をちらつかせたり、となんだか一生懸命さが甘酸っぱい。


 よかれと思って、風間と良の話し合いの場を設けたものの、良は猛然と風間を挑発し、煽られて暴走した風間が良の首を絞める。ひた隠しにしてきた破綻が、ついに衆目に晒されることとなり、風間は逮捕、良は入院、そして記者連中に取り囲まれた透はやむなく記者会見に臨むことになり。
 これまでも何度もそういう場で滅多打ちにされてきた透は、そこそこうまく対処したように思えるけど、結局は記者連中に煽られ、中傷されて、記者会見で事態を収拾することはできなかった。そこに接近してきたのが、野々村とも通じているスクープ記者で、この男は朝倉樹三郎の政界汚職事件の調査の突破口を求めていた。透はこの男に朝倉雪子の結婚の真相を教えられ、雪子とつなぎをつけてくれれば、良と透に都合のよいように、記事を出してやる、と。・・・こんなオイシイ伏線を置いたのに、まったく回収に訪れなかった栗本薫は、己の不覚を深く恥じるがよい!(駄洒落ではない。)

 透は、誰かを頼んだり利用したり、ってことがまったく考え及ばないお人好しなんで仕方ないが、この記者会見、野々村に事前に頼んでムラさんの手の者を数人送り込んでもらうだけでだいぶ状況をコントロールできたのになあ、と思うと、残念である。

 透が必死で防波堤になるべく頑張っている一方で、考える時間だけはたくさんあった良も、一人で一生懸命考えました。基本がお姫様体質なので、こうと決めたらそりゃあ頑固。
 透が好きだもん。透はオレのアイドルだったんだもん。もん。もん。って小学生かよ、なワガママっぷりで、プロダクションの社長沢野を翻弄する。沢野の怒りは透に向かい、逃亡して透とSEXすることで頭がいっぱいの良に、もはや透は抵抗できず、やむを得ず良を連れて駆け落ち、愛の逃避行と相成りました。
 だがしかし、日頃出不精な透と、一般社会常識皆無の良の組み合わせ、なので逃避行そのものも地味。結局、巽さんに一度つれてってもらった思い出の横浜のニュー・グランド・ホテルにチェックイン。(いや、ホテル名書いてなかったけど、そうだろ?)そして次の行き先は熱海に行きたい!とな。天下のスターが、熱海に温泉旅行にすら行けなかったのかと思うと、それはそれで哀れである。

 そして透は、良の精神的健康をとりもどすべく、本来の健康な人間の性の営みってやつを、良に取り戻してやりたい、とついにSEXを敢行。というか、一昼夜、やりまくりました。


 個人的には、風間が発狂寸前で透に縋ってきたときに、透が思わず風間に同情して、風間と寝てたりしたら(シモな表現だが抜いてやってたら、さ)、案外風間も憑きものが落ちて収まったりしたんじゃ、と脳内パラレル、というか二次方向の妄想をしたりもしたが、そうなると、後で良、風間、島津、透の恐るべき四角関係が出現するのか、そりゃあムリだな。とか考えたり。

 良のプロダクションの沢野が透に感謝したり、怒ったり。まあ、他人というものは身勝手なもの。トミーのレックス時代のご乱行は、そうとう酷かったんだろうなぁ、と思いつつも、実はレックスの興行を獲るために、プロダクションが陰で透を売ってたりもしただろうと想像する。あの当時のトミーにもっと気配りをしてくれる周囲の人間がいたならば、透はどれほど生きやすかっただろうか、なんてことも考えたり。人生は思うに任せないもの、を地で行く哀れな透ちゃんと、ほとんど動物的な勘と生命力で生き抜くことを欲する良はこれからどうなる、で遂にあとラス1、です。


2022年6月4日土曜日

035Ⅰ 朝日のあたる家 Ⅲ(角川ルビー文庫)

書   名 「朝日のあたる家 Ⅲ」
著   者 栗本 薫    
出   版 角川書店   1991年6月(単行本初版)/20031月(文庫初版)
文   庫 333ページ
初   読 2022年6月3日
ISBN-10 4044124191
ISBN-13 978-4044124199

 第三巻です。
 良は実は透が好きだった。透は良をずっと愛していて、これは運命。と透が考え続ける。
 だけどさ。そこ、島津さんの家だし。
 透が島津さんちに良を入れてるせいで(?)風間も入り込むし、雪子も押しかけるし、良のマネジャーだって来るし、そこ、島津天皇の自宅だよ?
 島津さん、潔癖症で人嫌いで、基本透以外の人間を家にはいれないじゃない?
 そこに良が入り込んで、いくら透のベッドだっていったって、島津さんの寝室じゃん、そこ? って事実が、なんだか、収まりわるくて、正しいことでない感じがして、居心地が悪いのだよ。おまえ、そこでスキャンダル書かれたらどうするんだよ〜。島サンを背後から撃つなよ〜!と気が気ではないじゃないか。
 するとあれか。私は島津さんが好きなのかな? 透って、もし身近にいたら、絶対にふざけんな〜!ちったあモノ考えろよ!頭冷やせ!と殴りたくなるだろうな〜。それを、好きだっていってられる野々村さんも、案外偉大なのかもしれない。良も天然だが、透も相当に天然なんだよなあ。

 それにしても、だらだらとひたすら透の思考を追いかけるこの巻です。まあ、栗本サンのご本はこれに始まったことではないけど、推敲して、言葉を厳選したら、50ページぐらいに収まりそう(笑)
 人間の思考なんて、そもそもだらだらと冗長でループして、しょーもないことをぐだぐだと考えているものなのだけど、だからといってそれを全部文章にしたら良いってもんでもないだろうに。

 良の記憶は世界線を越えて、『まよてん』にダイブ。あれは前世だったのか?とは特に考える必要はなし。

 良の心の傷をいやすべく、SEXをすべきか、それは今か、犯ったら自分も巽さんみたいに殺されるか?
 と迷う透に、透への《恋》に恋するあまり家出をした四十女の雪子、透に頼りきる一方で、透に良を盗られたと嫉妬の幽鬼と化した風間。透の身から出たサビとはいえ、透を通じて島津に取り入ろうと、身の程知らずの欲で透に絡むアリサはなけなしのプライドを傷つけられてバカな復讐に出そうだし、やっと手に入れた良を守らなければと肩に力が入れば入るほど、透の周囲は他人の欲望でがんじがらめに狭まれていく。この雰囲気がちょっとサスペンスっぽくて、はらはら。そんな風に追いつめられちゃうと、透ちゃんは、島津の愛にふたたび気付いたりしてしまうわけで。ほんとうにもう、あああめんどくさい。こりゃあ、風間が収まらないだろうなあ、と、いうところで四巻目へ。

 追伸。とはいうものの、透がこれから良を何から守らねばならないのか、と自分の一番ツライ時期————ソロデビューを目指して頼んだプロダクションで、男色の社長の慰みものにされ、格好の枕営業のコマとして利用され、転落し、麻薬に手を出し、逮捕され、本当の男娼に落ちるまでの、自分でも時間の底に封印していた記憶を解きほぐす場面は、読んでいて切ない。透ちゃんの過去は壮絶すぎた。彼を島津さんに成り代わって抱きしめてヨシヨシしてあげたい気分になる。SEXの経験を重ねすぎて、もう、良とも、SEXするよりも体は触れあわず唇だけを重ねるほうが、より真実性を感じるようになっているという透の過去も、良との邂逅で癒やされてほしい。この切なさは、『翼あるもの・下巻』に匹敵。


2022年5月31日火曜日

0350 朝日のあたる家 Ⅱ(角川ルビー文庫)

書   名 「朝日のあたる家 Ⅱ」
著   者 栗本 薫    
出   版 角川書店   1988年10月(単行本初版)/200210月(文庫初版)
文   庫 340ページ
初   読 2022年5月31日
ISBN-10 4044124205
ISBN-13 978-4044124205

 相変わらず気だるい透ちゃんであける第二巻。
 今日はなんとなく、生きやすい感じ♪と彼にしては浮かれて、♪巽さんとこに行こう♪と、ヨコハマに行くことにし、決して東横線などという下賎な乗り物には乗らず、贅沢にも青山からタクシーで一路ヨコハマへ。かつて一度だけ、甘々なデートをした巽との思い出の場所をほっつき歩く透ちゃんである。
 思い出のニュー・グランド・ホテルのバーで良い気分でウイスキーをかっくらおうとして目に飛び込んでくる『視聴率の魔術師、島津正彦プロデューサー、KTVを去る!』なんてスポーツ紙の見出し。

 透が見いだした亜美の才能を買った島津は、それを確信し、また朝倉の敵意を透から遠ざけて自分に引き寄せるために、亜美を映画に使おうと決意している。無論、敏腕プロデューサーとしての勘と職業人としての誇りもある。透のためだろうが、島津が自分で決めたことであれば、その選択と決断は島津一人のもの。責任を感じてよけいなちょっかい出しはするな、と荻窪の大蜘蛛こと野々村に釘をさされ、透にはできることがない。
 それでも、これだけは島津のためにやってくれ、と言われたのが、「亜美と別れる」こと。だがしかし、真剣に透に惚れている亜美がそう簡単に言うことを聞くわけもなく。
 そんな中、同時進行で、こちらもいい加減破綻の瀬戸際の良—風間コンビが、それこそ、交互に透にSOSの電話をかけてくる。呼ばれて出向く度に悲惨なモノを目にすることになる透であるが、その博愛主義が災いして、ついには風間にまで“マリア様”呼ばわりされる悲劇である。
 風間は、ついに透に「巽を殺したのは良」と打ち明け、うすうす分かってはいたけど、確定的な事実として知らされたくはなかった透は、それじゃ、巽さんが死んだのは、良に巽さんをけしかけた自分のせいじゃん。と、分かっていたとはいえ、あらためて目前に突きつけられて透はショックを受ける。だがしかし、透に真実を知られたと悟った良は、いっそう透に救いを求め、そんな良に「かわいそうに」と心底同情しつつ、オレは良を愛してたんだ!良を理解するためだけのために、今までのオレの苦難や悩みがあったんだ。オレは良の為に形づくられたんだ、良の為だけに存在するんだ〜〜〜〜!と、自分の苦しみこそを存在意義に転嫁する、非常にありがちな自己正当化に爆走。
 相当に陳腐な展開と透ちゃんのモノローグも、栗本薫の語りでついうっかり感動させられてしまう。
 愛とはなにか。人を癒やすのは、自分自身を癒やすのはなにか。無心に、自分のことは忘れてひたすら他人の事を考え尽くすこと、人の為に心を砕くことこそが、自分自身の癒しになる、というかそれでしか自分が癒やされることはない。ということ。人から人に流れる愛のごとき何か、人と人の心の間に生まれる何かにこそ、人間が人間として存在する無上の価値があること。
 栗本薫が小説を書き、それを通じて世に知らしめたかったことは、それではないのか。そして、その愛を体現する透が、たとえどれだけぐらぐらしていようとも、行き当たりばったりで、そのとき目の前にいる人にこんこんと情が湧いて、この人を誰よりも愛してるんだ!死んだらこの人の元に魂になって戻ってくるんだ!とか、この人の為になら殺されてもいい、とか本当にそのときどきで考えていることがコロコロ変わって、矛盾だらけであっても、通しでみたら、コイツが一番不実なんじゃないの、とか思うことがあっても、だ。透が愛しくて、透の思いが切なくて、ただただ、胸が痛むのだ。


2022年5月30日月曜日

0349 朝日のあたる家 Ⅰ(角川ルビー文庫)

書   名 「朝日のあたる家 Ⅰ」
著   者 栗本 薫    
出   版 角川書店   1988年10月(単行本初版)/200211月(文庫初版)
文   庫 394ページ
初   読 2022年5月26日
ISBN-10 4044124175
ISBN-13 978-4044124175

 最初に書いておくと、このイラストはぜんぜんイメージじゃない、と思ったんだよ。やっぱり、「翼あるもの」の竹宮恵子のイメージが強すぎる。『ムーン・リヴァー』の表紙はとても素敵だったけど、と。
 ところが読んでいるうちに、なんだか馴染んでしまった。とくに、絶対違う!と思った島さんが、なんだか「あれ?これでもいいのか?」と。

 タイトル『朝日のあたる家』というのは、米国のトラディショナル・ソングで、多くの歌手が歌い、いろいろなアルバムに収録されているほか、日本の歌手も様々にカバーしている。私の記憶に残っているのは、女性ヴォーカルのものだったのだけど、ジョーン・バエズだったか?
“ニューオーリンズに朝日のあたる家と呼ばれる家がある、そこは娼館で多くの少年や少女が身を落とす。私のようにはならないで。この家に近づかないで・・・・”といった内容。歌詞にも色々なバージョンがあって、少女ではなく男、娼館ではなく刑務所のバージョンなどがあるとのこと。有名なアニマルズのは少年院のバージョン。



こちらもオススメ。ジュリーの『朝日のあたる家』です。この歳になって、(若かりし頃の)沢田研二にうっとりする日がやってくるとは思わなかった。人生って、いつも新しいわね。


動画を張りたいのはやまやまだけど、著作権的にどうなの、多分ダメな気がするので、リンクを張っておきます。必見


 さて、冒頭からジゴロっぷり全開の透ちゃん。結局これが彼の生き方なのね。とくに己を卑下するでもなく、自然体なのにほっとさせられます。『翼あるもの』の頃には、とにかく赤むけの膚を晒しているような悲痛な痛々しさに溢れていましたから。33歳になった透ちゃんは、かつて自分を拾って、愛して、死んだ巽と同じ歳になっていることに、静かに驚いている。透も大人になったな。
 巽が死んでから7年。一日一日を、どうにかやり過ごすし、死んでいないから仕方なく生きている、毎日のすべてが面倒くさい。そうはいうものの、時間の経過とともに、気持ちも落ち着いて、自分というものにやっと馴染んできて、透はけだるいながらも人肌の温かさのある、深みすら感じさせる人間になってきている。そして、透が相手にしている女は、自立して生命力に溢れていて、健康的なのだ。変温動物の透ちゃんが、岩場で日光浴するイグアナみたいに女の体温と生命力にぬくもってるって感じを受ける。

 透は触媒みたいなもの。
 透自身はなにもしなくても、(・・・ほとんどなにも。いや、結構バカなことを仕出かしてるか、)透の周りの人間がどんどん変化し、グズグズに崩れていくようだ。巽、雪子、亜美、良、風間、そして島津まで。そこで起きる変化は、在るべきものが在るべきところへ向かうものであっても、変化の過程があまりにも激烈で、同時に、痛手もあまりにも大きいから、誰もがあえて望まない変化であるにも関わらず、透が介在することによって、それが起こってしまう。自分は自分のことで一杯一杯、ただただ一日一日をなんとか生きているなだけなのに、と透本人は困惑するのだが・・・

 10年振りの良との再会は、巽の墓の前だった。良は、なぜ透がそこにいたのか知らない。しかし、この思いがけない良との再会が、透の生活にも、透を間に挟み火花を散らす雪子と亜美の母子にも、そしてあろうことか辣腕をきかせ、テレビ局内では“天皇”とまで奉られている島津の仕事にまで大きな影を及ぼしていくことになる。
 良は結婚そして離婚をし、麻薬中毒になり、仕事にも陰りが出ている。バックバンドのレックスは解散してソロとなり、良を支えるのは風間一人になって、風間は良に翻弄されて破綻寸前になっている。
 与党の超大物政治家朝倉の妻である雪子、その娘の亜美はそれぞれが透に入れ込み、透とそのパトロンであると目された島津が朝倉の恨みを買ってしまう。
 島津を窮地に追い込んだことを知った透もまた、袋小路に入り込み、良が離婚した相手である真木アリサに近づく。良を傷つけた女に仕返しがしたかったから、は多分建前で、透はだれか他人の力で破滅したかったのかもしれない。
 その誰か、になったのは、良を溺愛する風間だった。
 アリサと一緒にいるところを良と風間と鉢合わせした透が風間に激しく殴られる。嵐が去った後の虚脱感は透を死に誘うが、そのとき透は、帰るべき場所があることに気付くのだ。島津のマンションに戻り、殴られて腫らした顔を島津に晒して、透はそのことを島津に告げる。透のために、天皇とまで言われ、社長に手が届くところまできていたキャリアを投げ打つ決意をしていた島津も、ついに、自分の決して表にださなかった愛情が報われていることに気付く。

(巽さん。誉めてくれよ————おれ、あんたなしで、七年も生きてきたんだ・・・・・もう、いいだろう。もう・・・・・)

 巽から与えられた愛情の記憶が、これまでも何回も透を生かしてきたのだろう。しかし、このとき、透を生の方に引き寄せたのは、巽の思い出ではなく、島津への気持ちだった。
 どこをとっても、透ちゃんは切ないのだけど、ここは極めつけに切ない。


 これまで、風間や透の目を通して、その輪郭しか語られてこなかった良が、ついに自分の言葉で自分のことを話し始めるこの物語。良は透を傷つける存在ではなくなり、透は自分の、良への深い愛情を自覚しつつも、そのあまりの不安定さに慄いてもいる。その透をバックアップする島津がどんどん“いいひと”化。かつてのサドの帝王の面影はもはやない(笑)。そして、透に示す嫉妬と愛。いやはや。

 透が、この年月でなんとかかんとか乗り越えてきたもの、それなのに良に再会して引き起こされる過去への心の揺らぎ、必至で事態を掌握しようとする、だけどできない足掻き、透を触媒として巻き起こる周囲の感情。透目線での「どうしようもなさ」が、読者の透への愛をいっそう搔き立てるこの巻。まだ全5巻の一冊目でこれだ。これからどうなってしまうというんだろう。(いや、知ってるけどさ。)