2018年7月31日火曜日

0133 長いお別れ

書 名 「長いお別れ」 
原 題 「The Long Goodbye,」1953年 
著 者 レイモンド・チャンドラー 
翻訳者 清水 俊二 
出 版 早川書房 1976年4月 
初 読 2018/07/31 

 心優しくも不器用な男達の友情。というよりはむしろ愛に近いような気すらする。
 最初の数章と最後の一章で凄く良い本を読んだような気になったが、中盤は冗長だし、アメリカ白人上流階級の排他的・退廃的・モラル崩壊してる様子が、弱冠不愉快ですらある。女3人のそれぞれの描写も、私の理解からは離れていてイライラ。
 マーロウもイライラしているが、そうか、友の死を巡る状況に実は怒っているのか。

 そんな上流連中に振り回されつつも閃きと執念で体を張り、友とその妻の死の真相に迫ろうとした結末は、無情だった。行き所のない静かな怒りと喪失感が読後もずっと胸に残る気がする。

2018年7月28日土曜日

0132 銀河英雄伝説  3 雌伏編

書 名 「銀河英雄伝説  3 雌伏編」 
著 者 田中芳樹 
出 版 創元SF文庫 《初版は徳間ノベルズ 1984年4月》 
初 読 1984年頃?   再 読 2018/07/28

 再読企画《銀英伝》  往年のファンとしては読み方がマニアックになるのは否めない。
 3巻で特筆すべきはこれ!「オーベルシュタインの犬」。 
 人名録に「オーベルシュタインの犬」「オーベルシュタインの犬の飼い主」とそれぞれ記載されても可笑しくないほどのインパクト。 
 あと一つはやはり「黄色いばらの花束」。 
 以来初読より30余年。定期的に衝動的に黄色いバラの花束を求めたくなる。例え花言葉が「嫉妬」であっても。 
 シュトライトとリュッケの副官コンビ結成もこの巻。シュトライトは好きだ。色々はしょってるがラストのミュラーの勇姿が光る。
「何だ、この犬は?」
「は、あの、閣下の愛犬ではございませんので?」
「ふむ、私の犬に見えるか」
「そうか、私の犬に見えるのか」。
 オーベといい、フェルナーといい、目的のためなら手段を選ばない現実主義者が私は好きだなあ。でも、こんな面もあるのよ。
 そしてキャゼルヌ先輩は、トリューニヒトの隠しようのない悪臭に隠れる致命的な毒に気付き始める。そうそう、査問会という不毛なイベントもあった。とにかく、嫉妬羨望で人が人の足を引っ張るのはかくも醜いものなのだ。
 そうだ、もう一つ思い出した。要塞をワープさせるんならいっそのことイゼルローンを飛び越えて同盟側出口に布陣出来なかったものか、と思うんですがね?一応イゼルローン回廊を飛び越える技術はまだないって設定なんですよね。だけど要塞を飛び越えるくらいは出来そうじゃないですか。 と、30年越しの疑問を口にしてみる。

2018年7月26日木曜日

0131 湖中の女

書 名 「湖中の女」 
原 題 「The Lady in the Lake」1943年
著 者 レイモンド・チャンドラー 
翻訳者 清水 俊二 
出 版 早川書房 1986年5月 
初 読 2018/07/26 

 これはすんなり読めて面白かった。
 最後の2行目までは本格ミステリー。最後の1行でハードボイルドになった感じです。どんでん返しも王道で好みでした。
 毎度ハラハラさせられるマーロウ、今回も後頭部を強打されて昏倒。毎回、後遺症もなく生きているのが不思議だ。パットンがいい味出してる。
 タイトルからもう、湖に女が沈んでいるのはお察しだし、あとは発見のタイミングと誰が沈んでいるのかの問題。
 そして身長・スタイル・髪の色や髪型が良く似ている女が二人、とくれば、どなたかも書かれていたけど、これはもう、入れ違いになっているに違いない。そこまで分かっていても、やっぱり謎解きが面白い、本格ミステリーな仕立てだった。でも、最後の1行できっちりハードボイルドに持ってくるところがさすがの巨匠。

2018年7月24日火曜日

0130 かわいい女

書 名 「かわいい女」 
原 題 「The Little Sister」 1949年 
著 者 レイモンド・チャンドラー 
翻訳者 清水 俊二 
出 版 創元推理文庫 1959年6月 
初 読 2018/07/24 

  読むのが長引いたせいか、自分が疲れていたせいか、ストーリーに没入出来ずやや辛い読書になってしまった。3人の女が代わる代わるマーロウに絡んでくるが、次々と出てくる登場人物との相関が複雑で、なかなか読み解けない。いちばん悪い(かわいい)女は誰?猫の目のように表情をかえる女達に、マーロウ共々翻弄された。もうちょっと余裕のあるときに再読したい本。それにしても毎度、なぜマーロウが殺されないのか不思議。タイトルの「かわいい女」は誰にとって?ラガーディ医師にとって、だったのか。もっとも、原タイトルはLittle Sisterだった。 「愛しき女」がムース・マロイにとってだったように。そういえば最初は「兄を探して」という兄思いの可愛い妹から始まったのだった。もっとも「手に負えない女」はみんな、マーロウにかかったら「かわいい女」に変換されるのかも??

2018年7月13日金曜日

0129 大いなる眠り

書 名 「大いなる眠り」 
原 題 「The Big Sleep,」1939年 
著 者 レイモンド・チャンドラー 
翻訳者 双葉 十三郎 
出 版 創元推理文庫 1959年8月 
初 読 2018/07/13 

このチャンドラーのシリーズは、東京創元社の「創元 夏のホンまつり @東神楽坂」でまとめて入手。良い買い物だった。そして良いイベントだった。

 チャンドラーの長編第一作。1939年の作である。
 一作目にしてこれ!富豪の老将軍の依頼は娘の一人に関わる恐喝事件。しかし、本当に老人の心を捉えていたのは、もう一人の娘の婿の消息だった。
 マーロウが恐喝事件を探ると、意図しない殺人が起こっていき。。。
 依頼されたわけではない娘婿を探すとも無く探すうちに、見えてくる一人ひとりの情と思惑。これだけワルが沢山いて、しかも嫌なやつがいない。真相は小さく空しく、解決策はない。ただ「大いなる眠り」を強く、優しい探偵が見つめる。
 雨とスモッグを重く含んだ冷たく汚い濃霧に包まれるような、濃厚な読後感だった。古めの台詞が面白い。「モチだぜ」昔はナウくていなせな言葉だったんだね。拳銃を「パチンコ」と言っていた時代があったのか。「パチンコ」「はじき」「チャカ」の俗語の中ではいちばん古いとな。事件を解決する話、ではなく、世の無常とマーロウのかっこよさを堪能する話です。今時、こういう格好良さの男の話はなかなか書けないんじゃないかなあ、とも思う。

2018年7月7日土曜日

0128 さらば愛しき女よ

書 名 「さらば愛しき女よ」 
原 題 「Farewell, My Lovely」1940年 
著 者 レイモンド・チャンドラー 
訳者 清水 俊二 
出 版 早川書房 1976年4月 
初 読 2018/07/07 

 ラストのマーロウとランドールの会話がもの悲しく胸に残る。これがハードボイルドか、と得心。男達は皆魅力的なのに、女はみんな猫が人間に化けてるみたいな造形だ(笑)。チャンドラーにとっても女は猫と同じくらい不可思議な生き物だったんだろう、と思うことにする。なので、アンの描写がイマイチなのは、仕方ない。翻訳のせいもあるかもしれな。古き良き時代の男の世界。1940年の作。本書は1976年ハヤカワ刊の清水俊二訳。言いたかないけど、この本が書かれたとき、日本は戦争真っ盛り、パールハーバーも目前。この時、日本はどんな世相だったのだったけ?と、およそこの本には関係ないことを思う。
 

2018年7月3日火曜日

0127 プレイバック

書 名 「プレイバック」 
原 題 「Playback」1958年 
著 者 レイモンド・チャンドラー 
翻訳者 清水 俊二 
出 版 早川書房 1977年8月 
初 読 2018/07/03 

 レイモンド・チャンドラー。
言わずとしれたハードボイルドの大家の作を初めて読む。
なのに、ついうっかり、最晩年の最後の長編から読んでしまった。 そのせいかどうかは判らないが、あまり謎解きには重きを置いていないようだ。テーマはフィリップ・マーロウの生き様。 トレンチコートの襟を立て、斜めに帽子を被ってそうな、まさにこれぞハードボイルド。
 「タフでなくては生きていけない。やさしくなくては、生きている資格はない。」 冒頭の台詞をが全てを語っている。 

 事件は起こったような起きなかったような。
最初から最後までどことなくモヤモヤしているが、マーロウの生き様、という一点では書き切ってる。なぜ、そこまで女を守ろうとする?そこにやはり時代を感じる。  今時は、生きてる女は簡単には守らせてくれない。だからきっと死体にされてしまうのだろう、と最近のハードボイルドを思う。
 村上春樹氏の新訳版とも、読み比べしてみたい。