2023年6月30日金曜日

0436 カササギの飛翔〜カササギの魔法シリーズ3〜 (モノクローム・ロマンス文庫)

書 名 「カササギの魔法シリーズ(3)カササギの飛翔」
原 題 「Flight of Magpies」2014年
著 者 KJ.チャールズ
翻訳者 鶯谷 祐実    
出 版 新書館 2023年2月
文 庫 352ページ
初 読 2023年6月28日
ISBN-10 4403560539
ISBN-13 978-4403560538
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/114585655

 前巻では「紳士」なクレーンに感心し、惚れ込むことしきりだったのですが。2人の中も深まっただけ、クレーンの独占欲も支配欲も深まったのか、変態度も・・・・(^^ゞ
 実のところ、ベッドの中ではとことん支配されたいスティーヴンと、余すところなく支配欲を発揮したいクレーンはベストカップルなんですが。2人とも外面とのギャップが激しすぎでクラクラする。

 審犯機構を潰したい協議会の、陰湿なやり口で予算も宛てられず、欠員補充もされないまま、大ロンドンの能力者絡みの犯罪の捜査や取り締まりに忙殺されるスティーブン。自分にしか出来ない、と頑張りすぎてしまうスティーヴンに対して、変わりの利かない仕事はない、と力説するクレーンの台詞が、いや、合理的だし、耳が痛いわ。
 おまけに協議会の悪意の裏には、宿敵ブルートン夫人の暗躍があった。
 クレーンの血に潜む〈カササギ王〉のちからを渇望する能力者たち。
 今回は、スティーヴン、クレーンがそれぞれ捕らえられてしまい、危機一髪でした。

 ご先祖様の力も威光も振り払って自分自身であることを選ぶクレーンとスティーヴンに幸あれ。ついでに、メリックとセイントのカップルにも。
 おまけ短編の4人で迎えたクリスマスのお話もステキだし、エピローグの舞台が日本だなんて、どういうサービスよ! もう、日本で花を愛でながら、どうぞ幸せに暮らしてください。

2023年6月27日火曜日

0435 捕らわれの心〜カササギの魔法シリーズ2〜 (モノクローム・ロマンス文庫)

書 名 「カササギの魔法シリーズ(2)捕らわれの心」
原 題 「A Case of Possession」2017年
著 者 KJ.チャールズ
翻訳者 鶯谷 祐実    
出 版 新書館 2023年1月
文 庫 380ページ
初 読 2023年6月26日
ISBN-10 4403560520
ISBN-13 978-4403560521
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/114550665

 2巻目の表紙も、美しく、そして色気がある。
 ただこの2人、本当は40cm近く身長差があるんですよ。たぶんスティーブンの頭の先が、クレーンの肩に届くくらいなのでは。絵的にはちょっと難しいかな? 話中で、体の大きなクレーンが、小柄でやせっぽちのスティーブンをすっぽり抱きすくめたり、ベッドの中で丸くなったスティーブンをクレーンが腕の中にかいこんで寝かしつけたりするのがめっぽう良いんですけどね。まあ、それはさておきましょう。

 体のサイズはともかくも、一流の能力者として立派に自立しているスティーブンですが、彼自身は天涯孤独で、同じ能力者の間でも距離を置かれる存在であり、心を許せる数人の仲間の他は友と呼べる者もなく、仕事に誇りを持っているといいつつ、現実にはその仕事を失ったら生きて行く術がない、という不安定で寄る辺のない身の上。それが身に染みているからこそ、全てを持っていて、なにものも怖れないクレーンの愛を信じきることができない。そういうスティーブンの葛藤ごとまるっと包み込むクレーンの深くて真っ直ぐで強い愛情が素晴らしい。そしてその想いは抱いているだけではいけなくて、きちんと、「言葉」にして相手に率直に伝えなければならない。そんなクレーンの人間としての真っ当さ、ゆるぎなさが、この作品の芯です。

 この巻ではこの2人、冒頭から恋人同士ですから、それはもう遠慮なく、愛し合ってます。私はまったく真っ当な感性の人間なので、なぜベッドの支柱に縛り付けて変態的にいたすこととが、彼の中でスティーブンを〈崇拝する〉ことにつながるのか、もうまったく理解できませんが!(ホントですよ) おまけにスティーブンはM寄りの気質があって、疲労や葛藤が深まると、恋人に乱暴に扱われたがるんですよ。本当は繊細に優しくしたいと願いながらも、そんなスティーブンの要求に激しく応えるクレーンが、それなのにとてつもなくよい男である、という点について私の脳は若干理解が追いつかない。ですけど、その倒錯っぷりを遺憾なく発揮しているクレーンが本当に紛れもない紳士なんですよ。
 
 時は19世紀英国で、神に背く同性愛が法律上の犯罪として投獄の対象となる、彼ら性的異端者には生きにくい時代と土地柄。その英国で仕事をするスティーブンのために、自らも上海に戻らず英国に身を置き続けているクレーンを、脅迫しようとする輩が現れる。一方、ロンドンの下町、貧民街で巨大化したドブネズミが人々を襲って食い殺す事件が発生。スティーブンの能力者チームはこの事件を追っている。ドブネズミがクレーンの周辺の人物を襲うに至って、2人の関係が仲間にバレ、スティーブンはかなり恐慌状態に陥りますが、仲間達は暖かく2人を受け入れてくれて一安心。2人は協力して事件の解明に乗り出し、化けネズミを操っているのは殺されて正しく弔われずに死霊と化した上海のシャーマンであると判る。この死霊が、力の溢れるクレーンの体を欲して、乗っ取りを企み、そしてカササギ王の片割れたるスティーブンがそれを阻止する。
 と、いう粗筋ですが、それよりもこれはもう全編、クレーンからスティーブンへの愛の告白です。メインはそれ。堂々たるラブロマンスでした。
 

2023年6月25日日曜日

0434 カササギの王〜カササギの魔法シリーズ1〜 (モノクローム・ロマンス文庫)

書 名 「カササギの魔法シリーズ1 カササギの王」
原 題 「THE MAGPIE LORD」2017年
著 者 KJ・チャールズ    
翻訳者 鶯谷 祐実    
出 版 新書館 2022年12月
文 庫 290ページ
初 読 2023年6月24日

ISBN-10 4403560512
ISBN-13 978-4403560514
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/114512453

   この本を読むなら、まずはかささぎの画像をググって、この鳥の姿形を目に焼き付けてから読み始めてほしい。羽根と尾を広げて飛んでいる姿が非常に美しい、黒と白と青の羽が極めて印象的な鳥です。飛んでいる姿をネットで探していたら、こちらのブログの写真が素晴らしかったので →「日本全国の山・川・海に生息している野鳥達に会えるサイト」

 ついでに、この本と同じ年に原作が上梓されてベストセラーとなっている『カササギ殺人事件』にも登場する“カササギの数え歌”も予備知識をもっているとなお良い。
「カササギの数え歌」は17世紀まで遡る伝承で、鳥の数を数えて吉兆をうらなう子供の遊びうたのようなものらしい。子供の頃に靴を前に蹴り投げて、裏になるか表になるかで明日の天気をうらなった遊びのようなものか? カササギは烏の一種の比較的大型の鳥で、日本にも広く生息しているが、ヨーロッパでも日本の鳩や烏並みに普通にいる野鳥らしい。翻訳としては、「一つ」よりは「一羽」のほうが良かったかも?
ストーリーのあちこちで、結構効果的にこの数え歌が使われている。
 この本の冒頭に載っている数え歌は以下を参照。

一つは哀しみのため
二つは歓びのため
三つは女の子のため
四つは男の子のため
五つは銀のため
六つは金のため
七つは明かしてはいけない秘密のため
八つは海の向こうへの手紙のため
九つはとても誠実な恋人のため 
KJ・チャールズ. カササギの魔法シリーズ(1)カササギの王 (モノクローム・ロマンス文庫) (p.10). Kindle 版. 

 さて、時は19世紀英国。17歳で英国から放逐されて以来、上海で生き抜き貿易商としてのし上がっていたルシアン・ヴォードリー(37歳)は、伯爵だった父と、跡継ぎの兄の相次ぐ自殺でクレーン伯爵の爵位と所領と財産を継承することになり、20年ぶりに英国に帰国した。しかし、冷血非道だった父と兄を殺したと思しき呪いがルシアンの身にも及ぶ。ルシアンは英国のシャーマンである「能力者(プラクティショナー)」を頼り、彼の元に派遣されて来たのが、痩せた小男のスティーブン・デイ。しかし、彼の両親はヴォードリーの父と兄によって非業の死を遂げており、スティーブンはヴォードリーの血筋を恨んでいた。図らずも親の敵であるヴォードリーの血縁者を助けねばならなくなったスティーブンの心中は穏やかではないが、それ以上に、ヴォードリーの血族に向けられた魔術による呪いは邪悪なもので、スティーブンは看過することができない。小柄だが印象的な琥珀色の瞳と力を秘めた手を持ったスティーブンは、英国の超常能力者を束ね、違法とされる魔力の行使を取り締まる「審犯機構」の「審犯者(ジャスティシアー)」だったからだ。
 という感じで、ルシアンとスティーブンが、反発しつつも惹かれあいつつ、ヴォードリーの屋敷とルシアン自身に幾重にも掛けられた呪いを解しながら源を辿っていく。
 読んでいて“審犯者”などの造語の座りが悪くて馴染めなかった、というのは傍に置いておいて。
 空気が濁って動かない、陰気で湿っぽい石造りの古い屋敷、座り心地の悪い馬車、陰湿な執事や召使い、淀んで力を失った呪われた土地、総じてゴシックロマン調というか、いかにも英国っぽい陰鬱な雰囲気の中で進行する黒魔術。
 ではあるのだけど、要所要所で地崩れするみたいにルシアンとスティーブンの2人がロマンス方向に雪崩れ込む(笑)。その唐突さで一瞬、目眩のようにくらっとして意外にもこれが面白い(笑)。
 魔力絡みの本筋は、ルシアンのご先祖初代クレーン伯爵が、能力者の律法を築いた“カササギ王”と呼ばれた稀代の能力者だったことが判明したあたりから、これはルシアンも能力に目覚めるのか、とか、いろいろな可能性がちらちらと頭を掠めて、焦点が定まらずにバタバタしている間にクライマックスになって、どたばたと片付いてしまった。個人的には、もっとドラマティックに盛り上げてもよかったのに、と少々物足りなかった気がする。しかし、あっちの方は途中散々お預けを食らったり、スティーブンの葛藤やルシアンの男振りも素晴らしく、ラストで大いに盛り上がる。カササギが飛び回るラストがとくに印象的。ストーリーとしては★三つくらい、キャラクターと恋愛に関しては★五つ。次作を期待して間違いなし。
 なお、カササギの刺青にまつわる掌編も読む価値大いにあり。最後のお楽しみに♪

2023年6月20日火曜日

0433 謀略のカンバス (ハーパーBOOKS)

書 名 「謀略のカンバス」
原 題 「Portrait of an Unknown Woman」2022年
著 者 ダニエル・シルヴァ    
翻訳者 山本 やよい    
出 版 ハーパーコリンズ・ジャパン 2023年6月
文 庫 648ページ
初 読 2023年6月19日
ISBN-10 4596774781
ISBN-13 978-4596774781
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/114433241

 2021年12月。ガブリエル71歳。
 ガブリエルは、長年身を捧げてきたイスラエルの諜報機関「オフィス」の長官を引退した。幸いにして、1年弱前の暗殺未遂事件による負傷は、大きな後遺症を残さなかったようだ。キアラの敷いた計画どおり、退任したその日にはエルサレムを離れて、古巣ともいえるヴェネツィアに移住した。この地は、若い日に、画家になることを断念したガブリエルが美術修復師になるための修行を積んだ街であり、その後長年にわたって身元を偽って、数々の絵画修復を手がけたガブリエルの第二の故郷であり、そしてキアラの両親が暮らす街でもある。
 双子のアイリーンとラファエルは家から近い公立の小学校に通い、登下校の送り迎えはガブリエルがしている。
 キアラの監督(監視?)の元、ゆっくりと休息をとり、長年の苦労と疲労を落としたガブリエルは1人の画家、もしくは美術修復師として生まれ変わったように・・・・というよりはガブリエル本来のものであったはずの笑顔やユーモアを取り戻しつつある。
 まあ、たまにカラビニエリのフェラーリ将軍が厚情でつけた護衛を、尾行者と間違えてうっかり叩きのめしたりはしているが。
 で、そんな穏やかな新しい生活に、ガブリエル本人がいささか退屈も感じ始めたころ、旧友の画廊経営者であるイシャーウッドが偽造絵画売買に関わるトラブルに巻き込まれてしまう。ガブリエルはキアラの赦しを得て、フランスに出向き、調査に乗り出す。

 前作に引き続き、かつてのガブリエルの恋人だったアンナ・ロルフが登場。イシャーウッド、サラ・バンクロフト、ケラー、オルサーティ、占い師の老女、おまけに邦訳されていないシリーズ8作目『Moscow Rules』で登場したフィレンツェのヴィラまで登場。(ガブリエルがモスクワに潜入し、ルビヤンカの地下で殴られて目を負傷したのち、脱出してこのヴィラで治療を受け、静養した、、、んだったと思う。たしか。)前作でも思ったが、旧作の登場人物を次々と登場させるあたり、シリーズ総まとめに入っているんだろうか?と感じる。
 おまけに今回は美術界の贋作売買の一大ネットワークを巡る事件なので、ガブリエルの絵画に関する蘊蓄や制作シーンがふんだんに描かれている。ついでに、愛するキアラとの熱々な昼下がりまで、サービス満点。
 絵画と諜報という二大得意分野の合わせ技で、その才能に並ぶものなはなし、各国・各界に助力を惜しまない協力者がいるガブリエルは向かうところ敵なしで、まさに余裕綽々と言ってよく、中盤までの危なげない様子はむしろ退屈と言えなくもない。しかし、終盤に至って、元CIAのきたない金で動く民間警備会社やらが登場し、ガブリエルの計画の進行が怪しくなったあたりからは、いくつかのどんでん返しも仕掛けられてかなり面白かった。総じて、ガブリエルがこんな老後(?)にたどり付けて本当に良かった・・・・・というのが正直なところの感想。
 あと何年・・・・いや、何作続くかわからないけど、本当にもう、これ以上は怪我させないでほしい。

0432 DEVIL MAY CARE <矢代俊一シリーズ20>


読書メーター https://bookmeter.com/reviews/114436781   

Amazonより・・・父親とのコンサートの翌日、俊一は情報屋野々村の電話で渥美公三に強姦された際のビデオの上映会が行われていたことを知る。渥美の息子銀河にその件を押さえることを提案され、野々村の事務所に渥美のマネージャー山口、アシスタントの沢村、渥美銀河を呼び200万円でビデオを買い取ることに。その帰路、俊一は銀河のマンションに連れ込まれかけ、その場に黒田が来たことでなんとか逃れたたものの、絶えず黒田に盗聴されていることに気づき、俊一は金井に会って相談するが、なし崩しに納得させられる。矢代俊一シリーズ20巻。」

 まあ、Amazonの解説以上のことはなにも・・・・。渥美による俊一の陵辱ビデオの上映会が裏で行われ、写真が出回っているという。コンサートの翌日に野々村からの電話で知らされて、事態の収拾もできずオロオロするばかりの俊一。そんなお姫様を守る男たち、父、英二、金井、黒田、銀河に風間。俊一に風間を取られた形になり俊一に嫉妬する野々村・・・・って時点ですでに醜悪。それが例によってだらだらだらだら、抑揚もなく腐った脳みそが垂れ流されるみたいに延々と続くのだ。なんとなく、クロトワさんの「腐ってやがる・・・」ってセリフが頭のなかでリフレイン。
 内側から腐った巨大な肉体が壮絶な腐臭をはなってぐずぐずと崩れている様が脳裏から離れん。
 あ〜〜〜〜『毒を喰らわば皿まで』と称して最後まで読んでやるつもりだったけど、も、ムリかも。なんか今日は熱が出たし、これ以上はカラダに悪いかもしれん。

 

2023年6月15日木曜日

0431 機龍警察〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA)

書 名 「機龍警察〔完全版〕」
著 者 月村 了衛
出 版 単行本 2014年11月/文庫 2017年5月
文 庫 400ページ
初 読 2023年6月14日
ISBN-10 4150312745
ISBN-13 978-4150312749
読書メーター 
   
 いやあ、まいった。
 予想以上にユーリが青くて甘くて熱くて、可愛くってしょうがないではないか。もっとクール一徹なキャラだと読む前から勝手に思っていたよ。大丈夫なのかユーリ!? こんなんでやっていけるのか、ユーリ!! とのっけから心配で心配で(爆)
 完全に掴まれちゃいました。ハートを、っていうよりは、弱みを握られたというほうが近い。私は傷ついた男に弱いんだよ。
 そういう意味では傷らだけな3人、姿、ユーリ、ライザ。それぞれに壮絶な過去がありそうだが、傷の受け止め方も三者三様であるようだ。姿のからりとした男前な風情もそれはそれで良い。ちなみにこの巻の主役はユーリではなく姿。それでもついユーリに目が行ってしまうのは、私の贔屓目だ。そして周囲の特捜部の男達。なぜみんな男前なんだ〜!どうしてジャガイモみたいなヤツがいないんだ(笑)
 さりげなく、城木ー宮近、由起谷ー夏川がバディっぽいのも良い。誰のシーンを読んでも面白い。
 そんな、あらゆるタイプの『格好いい』をぎゅっと詰め込み、そこにヒューマノイド形のマシンが加わりごく近未来なSF風味を加えた、傭兵アクションものと日本の警察ものとマフィアとかヤクザとかの裏社会ものの融合、というニッチにもニッチを極めた異色な小説。私向き。
 そして、この本は、大舞台の紹介というか、ご挨拶程度で。これからまだまだ続く。
 じっくりと味あわせていただきたい。
 今のところ、超頼りになる兄さんと、超超頼りになる姉さんに挟まれた末っ子風味のユーリがこれからきっとずんずん逞しくなっていくだろうことも楽しみ。
(あれ、ライザとユーリはどっちが若いのだっけ・・・・)
 ライザもそうとう拗れているが、これまた好きなタイプなので、次作を読むのを楽しみにしている。


2023年6月13日火曜日

0430 世界でいちばん透きとおった物語 (新潮文庫)

書 名 「世界でいちばん透きとおった物語」
著 者 杉井 光
出 版 新潮社 2023年4月
文 庫 240ページ
初 読 2023年6月11日
ISBN-10 4101802629
ISBN-13 978-4101802626

 なにしろ「ネタバレ厳禁」なので、ぜひ読み友さんと、個別に裏で「どこで何に気づいたか」を検証したい(笑)。紙本をこよなく愛する人であれば、かなり早い段階で気づくはずだ。
 個人的には、Amazonの広告は煽りすぎ。
 広告による先入観のせいで、つい穿った読み方をしてしまい、素直に読書を楽しめなくなったのが残念。

この本を読む人には、あまり帯や煽りにつられず、普通に読書を楽しんでもらいたい。
 表現の自由度が相当広い日本語であれば、そして短歌などの字数の制約がある中で事物や心情を表現してきた日本人であればこそ、これはアリだと思った。また、文章に波のようなおおらかな抑揚が生まれていて、すらすらと読める気持ちよさがあった。
 1点、大いに不満があるのは、「殺人」の解釈ですかね。ああた、20年前はそんなに昔ではありません。著者がお若いのかな?と思ったらそうでもなさそう。曾野綾子「神の汚れた手」あたりを読んで勉強していただけると嬉しいです。せっかくの構成が中身で台無しになりかねません。勿体ない。

 また、杉井光さんは、どきっとするような日本語表現を使われる。美しいと思いました。いくつか抜粋。
「僕にとって・・・・・、うっすらとした軽蔑と分厚い無関心越しに遠く眺めるだけで済む。」————“うっすらとした”と“分厚い”の対比の使い方が面白い。
「こんなにも薫り高く穏やかで暖かい死の予感に満ちた場所では、嘘は口に出した端から腐っていきそうだ。」————ちょっと私には思いつけない表現で、凄く印象的。
「足の爪が割れそうなほど寒い二月末の夜に」————足の爪が割れそうな寒さ、って私には想像が付かないのだけど、これも素敵な表現だと思いました。
 あとですね。
 この本をよんだら、猛烈に京極夏彦氏の著書を読みたくなりました。いままで、あの分厚さに圧倒されて、敬遠していたのですが・・・・・

2023年6月11日日曜日

0429 深山の桜 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

書 名 「深山の桜」
著 者 神家 正成 
出 版 宝島社 2016年3月
文 庫 479ページ
初 読 2023年5月9日
ISBN-10 480025342X
ISBN-13 978-4800253422
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/114261338
   
 憲法と現実と政治的思惑の狭間で、つねに不安定な立場を強いられる自衛隊。PKO(国連治安維持活動)は、ときどきの政治や外交の手練手管にされ、末端の現場の隊員の安全はないがしろにされる。武力行使を禁じられたまま、「紛争地域ではない」との言葉遊びで、内戦地帯に送り込まれる。霞ヶ関にとっても市ヶ谷にとっても、一兵卒の命は軽いものなのか。しかし、もし本当に自衛隊員の命が軽いのなら、たぶん政治にとっては国民1人1人の命も同じく軽い。

 南スーダンに派遣された自衛隊。登場人物1人1人が抱えている問題は、一つ一つが重く苦しい。亀尾の鬱屈、心神喪失の発作にまでつながる杉村の苦しさ。保身が強い幹部。狭量な古参。どこか影のある元部下。読んでいる側も、いったいどこにつれて行かれるのか、皆目分からない。救われたとすれば、派遣隊長の三角一佐の温和で思慮深く、潔い指揮官ぶりと、香りが漂ってきそうな、うまそうなコーヒー。
 宿営地で起こった事件は42発の銃弾と小銃の紛失。それを3人の探偵役が追う。主人公の亀尾、その部下の杉村、なぜかオネエ言葉の植木礼三郎。植木には別話もあるらしく、この本では「なぜにそのキャラ?」の疑問には答えてくれない。
 クーデター未遂が起きて、内戦の危機が最高潮に高まる南スーダンで、いつ砲撃されてもおかしくない緊張が高まっているのに、国内向けには「平和」ということにされていて、味方や民間人が目前で殺されそうになっても「駆けつけ警護」すら認められない、無責任かつ不安定極まりない状況下での探偵ごっこは、そのアンバランスさにくらくらする。特異な状況下での単なるミステリーなのか?それにしても、現場の異常な状況を世に問いたいという動機と、自衛隊に復讐したい、という動機が混じって起こされた事件としては、手が込みすぎてはいないか? と思い始めたところに投げ込まれる”爆弾”(杉村兄)の凶悪なこと。しかし、ただ凶悪なだけではないのがまた凄いところ。

 まがうことなき悪役(ヒール)だったはずの、杉村の兄による新聞の書名記事

『・・・戦後七十年を迎えるに当たり、我々は自衛隊の存在意義を、実質的な観点から見直す必要があるのではないだろうか。そして、それは同時に憲法第九条をはじめとした法整備の見直しであり、我々日本という国家が、世界平和の実現に向けて、どのような理念を持ち、役割を果たすべきなのかということを、世界に表明することである。国民すべてが切実に自分の問題として捉え、現実の問題から目を逸らさず、十分な議論を尽くす時期に入っているのではないだろうか。我々は戦後、自らの暗部から目を背け続けてきた。しかし、問題の先送りは悲劇を繰り返すだけである。今、日本は国家の矜持を問われているのである』

 これがまさに著者が世に問いたいことか。それをこの男に言わせる。一気に、この日本で生まれ日本で育ちながら、一日違いで日本国籍を得る選択肢も与えられなかった在日(3世か4世の世代?)の人物像に厚みが生まれる。どのように育ち、考え、生きてきたのか。なぜ新聞記者になったのか。どのように生きることを希求しているのか。

 そして、杉村は、これからどのような自衛官になっていくのか。

 ラストで妻の想いのような『深山の桜』に出会った亀尾が、なにがしかの希望を得て生還したことを願う。

2023年6月4日日曜日

0428 空飛ぶ広報室 (幻冬舎文庫)

書 名 「空飛ぶ広報室」
著 者 有川 浩
出 版 幻冬舎  2016年4月
文 庫 558ページ
初 読 2023年6月3日
ISBN-10 4344424549
ISBN-13 978-4344424548
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/114128447   

 なにしろこの表紙。スクランブルですよ。格好良いったらありゃしません。私もね、若い頃は冒頭の稲葉ちゃんみたいに戦争反対!平和主義万歳!自衛隊は暴力装置だ!とか思っていた頃もあったわけだ。青い。若かった。そしていわゆる『セカイ系』と一緒で、自分と世界(理想)の間に、その中間を埋めている社会の複雑さや、その中で必死に生きている生身の人間は見えていなかったと思う。いまだって、自分が生粋の平和主義者だと自任しているが、だからといって、自衛隊を否定すりゃあいいなんて、単純なものではないことも良く分かっている。
 日本国憲法を大切に思っているし、憲法前文の理想は至高だと思っている。その一方で、「戦争放棄=自衛隊がなくなりゃあいい」なんて、単純なものではないと思っている。朝な夕なミサイルを飛ばしているかの国や、日本を仮想敵国化してやまないあの国や、もとKGB将校が大統領やってる例の国や、隣国を恫喝してやまない某国と国境を接しているこの国がどうやって戦争に巻き込まれず、平和を守って行くか。地図を見てみると良い。日本はあれらの国にまるで瘡蓋のように、蓋をしている。地球儀の上に、こんなに「邪魔くさい」国が他にあるだろうか。
 
 そして、もうひとつ、自分の中に大きな矛盾がある。
 宮崎駿が『紅の豚』や『風立ちぬ』を作らざるをえなかったように。
 なぜ、私は潜水艦や、戦闘艦や、戦闘機に愛着を感じてしまうのだろう?
 闘うためだけに作られた機械に、どうして心動かされてしまうんだろうか?
だれか、この衝動を説明してほしい。いや本当に。

 とまれ、この本の主役は、そんなこの国のかかえる矛盾とそれ故の批判を一身に請けつつ、日々生真面目に任務に精励する航空自衛隊の広報官の面々。ブルーインパルスに憧れ、ブルーに乗るために戦闘機パイロットになり、ついにその日がくるという矢先に不遇な事故でパイロット資格を喪失し、失意の中、広報室への異動を命じられた元パイロット(P免)の空井が主人公。
 まだ若く、純粋・純朴な空井が、世の中の偏見や軋轢にめげながらも折れず、カンバっている、そんな等身大で普通な彼らを描くお仕事小説。実はいまの私の勤務地がほどほど防衛省に近かったりして、利用駅やら飲むエリアやらが確実に彼らとかぶってる。防衛省のビルの上に離発着する輸送ヘリなんかはもろ、頭上を飛んでいく。あまり見かけないが、胸に略綬を沢山付けた姿勢の良い制服姿の自衛官と道ですれ違ったりも。そんなこともあって、むやみとこの本の登場人物たちに親近感も感じつつの不思議な読書タイムになった。

 この本は本当は2011年の夏に発行を予定していたそうだが、その矢先の3月11日、東日本大震災が起こった。自衛隊の松島基地の被災も報道で取り上げられたが、より注目を浴びたのは自衛隊の災害復興支援活動だったろう。著者の有川浩さんは、これを書かない訳にはいかないと、この本の終章を書き上げ、1年遅れでの本の発行となったとのこと。
 出版された直後に書店の平積みからこの本を手に取ったとき、終章を見て、これはあざといだろ、と思った。しかし後書きを読んで、終章を書き足さざるをえなかった気持ちが十分に理解できたし、これを読めて良かったと思う。(この本の内容とは関係がないが、ブルーインパルスは、2020年5月29日、新型コロナに奔走する医療者を応援するために、都心の上空で展示飛行を行った。当時は高層ビルの上階で働いていたが、当日は忙しくしていて、窓の外を眺める暇が無かったが、あのとき窓の外をみたら、普段は見ることができない高度からブルーを見れたのにとおもうと、ちょっと残念だ。)
 震災当時、職場のテレビは情報収集のためにつけっぱなしになっており、押し寄せる津波で飛行機が横流しに流される松島基地の様子も映し出され、なんとも形容しがたい気持ちで胸がふさいだ。爆発して白煙を上げる原発の映像に暗澹とした気持ちになった。そのなかで、呆然としながらも働いて、気がついたら4月の人事異動を迎えていた。各職場からはかなり早い段階で災害復旧支援の人員が出されていたが、早い時期に支援に派遣された人達は、缶詰工場から流された大量の青魚が腐敗する中を必死で道路復旧にあたったり、学校を泥かきして清掃したりもしたとのこと。なかには瓦礫撤去中にご遺体を発見したという話も耳にした。その後も、YouTube動画を沢山みた。
 私自身に東北支援の順番が回ってきたのは、震災から10ヶ月後の、奇しくも話中でリカが仙台に到着したのと同じ2012年1月だった。仙台駅周辺の繁華街はほぼ復旧していた。被災地でお金も使うのも復興支援!と開き直って、初日はリカと同じく駅構内の牛タン通りで食事をして、以降毎日牛タンだ、ずんだだと消費に勤しんだのは、苦労や辛い思いも多かった先発隊には非常に申し訳ないことながら、仙台は街も人も活気があってやさしく、今でも私が一番好きな街の一つになった。
 支援派遣中の中一日は休日があって、その日はリカの道中と同じく仙石線に乗って、松島海岸までいった。震災の傷跡をこの目で見ておかなければ、という気持ちがあった。話中のリカの視線は、私の視線と重なる。
仙台駅から海岸線に近づくにつれて、リカが目にしたとおり、延々更地になった土地が続くようになり、津波の痕跡を目で追った。自衛隊の滅私の奮闘や、被災者がお互いを思いやり、自制と自律で被災生活を送っていたことに、日本人の精神性の高さを称揚する動画や書き込みがネット上にも溢れたが、一人ひとりの自分と等身大の人達の努力や苦難や、悲しみを忘れないようにしたい。この本も、同じ思いで書かれていると思う。

後書きラストから引用
「自衛隊をモデルに今までいろんな物語を書いてきましたが、今回ほど平時と有事の彼らの落差を思い知らされたことはありません。
 ごく普通の楽しい人たちです。私たちと何ら変わりありません。しかし、有事に対する覚悟があるという一点だけが違います。
 その覚悟に私たちの日常が支えられていることを、ずっと覚えていたいと思います。」
 
 日々の平和は、当たり前にそこにあるのではなく、守られ、支えられてここにある。そのことも私たちは事実として、きちんとわきまえていなければならないだろう。

2023年6月1日木曜日

2023年5月の読書メーター

 4〜5月は、夫実家の片付け。終わってみればあっけない。小ぶりで思い出にもなるものを、すこしだけ我が家に持ち帰ったが、なんとはなしに「こんなに小さくなっちゃって」という、普通こういう場面では使わない常套句が脳裏を過る。
 あと3箱、古本をクロネコさんに持ち出してもらえば、我が家の当面の片付けも終了する。
 落ち込んでいた読書ペースも復活の兆し。6月も読書にいそしみたい。

5月の読書メーター
読んだ本の数:8
読んだページ数:2708
ナイス数:805

線は、僕を描く (講談社文庫)線は、僕を描く (講談社文庫)感想
探偵も警察も、拳銃も謎もスパイも犯人も出てこない小説を果たして自分は読み切れるのかと思ったが、ちゃんと読めた。良かった。著書は水墨画家でもあるとのことで、人間存在と命の本質に、水墨画を通じて刃の様に鋭く、深緑の湖水のように底知れず深く切り込んだ作品である。水墨画の奥深さに恐れ入る。一度真剣に、展覧会を見に行きたくなった。高校生で親と死別した主人公青山霜介が水墨画の巨匠である篠山湖山に出会い、半ば強引に内弟子にされる。霜介の空っぽになっていた心の中に、水に薄墨を流すように、水墨を通して万物が流れこみ始める。
読了日:05月29日 著者:砥上 裕將

ジャベリン・ゲーム サッチョウのカッコウ (ハルキ文庫 た 28-1)ジャベリン・ゲーム サッチョウのカッコウ (ハルキ文庫 た 28-1)感想
サクッと軽めのノリの和製エスピオナージ。日本の警察官僚が実はCIAのアセットで、密輸された盗難ジャベリンミサイルの行方を、日本の特捜のような顔しながら、実は米国の利害を背負って追いかける。しかし「母は強し」。主人公穣の母のベロニカがアッパレである。オペレータと名付けられたAIも凄い。最先端のAIがこんな感じなのだとしたら、やはりシンギュラリティは近いのかもしれない。きちんとクローハンマー作戦に落とし前がつくまで、シリーズ続いて欲しい。私の好みからするとちょっと軽すぎなのは否めないが面白かった。一気読み。
読了日:05月25日 著者:田村 和大

機捜235 (光文社文庫)機捜235 (光文社文庫)感想
《CNC - 犯罪小説クラブ(Crime Novels Club)》久しぶりの参加。初読みの今野敏さんの凸凹警察バディもの。機捜235は機動捜査隊の覆面パトのコールサイン。定年間際のロートルと突然組むことになった若手の高丸。はじめこそこんな年寄りに何ができる、と内心ぼやいていた高丸だが、見てくれこそパッとしない年長の相棒縞長(シマさん)が元「見当たり捜査官」だったと知り、その能力に感服するだけでなく、地道に動き、犯人逮捕一筋に面倒くさい組織の中を渡っていく姿に感化されていく。連作短編で読みやすく、面白い。
読了日:05月20日 著者:今野敏

スティグマータ (新潮文庫)スティグマータ (新潮文庫)感想
チカのシリーズ4作目をやっと読了。ふたたびツール・ド・フランス。渡欧5年目、30歳になったチカはもうベテランの域。自分の力量と性格に合ったアシストという仕事にプライドも満足も持っているけど、自分自身の勝利を目指す伊庭やそのほかのトップたちへの羨望も心の中にはある。ツールは様々な思いや欲望が複雑に交錯する場。そこにドービングでかつて表舞台を去った墜ちたヒーローがなにがしかの思いを持って再登場してくる。選手としてもう若くはないチカの思索が中心に綴られるが、それも真っ白になるチカの真骨頂のダウンヒルが最高。
読了日:05月19日 著者:近藤 史恵

ペダリング・ハイ (小学館文庫)ペダリング・ハイ (小学館文庫)感想
面白い。そして自転車が欲しくなる。とはいえド素人に本格ロードバイクは無理。せいぜい街乗り前提でクロスバイクか。いやその前に玄関放置のミニベロを整備せねば。大学進学で念願の東京一人暮らしを始めた主人公。叔父からもらったぼろ自転車の整備を頼もうと街の自転車屋に入ったのが運の尽き・・・ではなく運が付き!地元自転車レースチームの面々に取り囲まれ、あれよあれよという間に自転車レースの世界に引きずり込まれていく。自転車競技の基礎知識やら、知ってると面白くなる用語とか、戦法など満載。そして自転車を買いたくなるぞ!
読了日:05月14日 著者:高千穂 遙

悪しき正義をつかまえろ ロンドン警視庁内務監察特別捜査班 (ハーパーBOOKS)悪しき正義をつかまえろ ロンドン警視庁内務監察特別捜査班 (ハーパーBOOKS)感想
今作も隅から隅まで、エピソードがまるで英国菓子のクリスマスプディングのように混ぜ込まれてぎっしり詰め込まれている。色々と不満が無いわけじゃない。ある意味大味な作品でもあって、例えば脱獄した重犯罪人が海外逃亡して外国で死体になったら、死体の返還を求めないのだろうかとか、顔の現認ぐらいできるだろーが、とか。ヤードは退職した汚職警官から制服や通行証や身分証を返還させないのか?とか、囮捜査と隠密捜査がごっちゃになっていないかなど。そうは言っても面白いことは間違いない。
読了日:05月12日 著者:ジェフリー アーチャー

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