2022年6月29日水曜日

栗本薫『東京サーガ』ーーー中間のまとめ・薫よなぜにこうなった?

 先にも書いたが、今年初めに『エイダン・ウェイツ』3作を読んで、そのあまりの可哀想さに心を痛め、傷ついた心を癒やすために、それはそれは幸せな気持ちにさせてくれるジョシュ・ラニヨンを読み、勢いで禁断のBL本『囀る鳥ははばたかない』に手を出し、流れで『聖黒』をオススメされ、いきおいで、自分の中の「やおい」の源流を確認すべく、『翼あるもの』に回帰。

 これが、2022年上半期の遍歴。
 だがしかし、ここまで栗本薫『東京サーガ』を読んできて、心中は茫茫たる焼け野原である。
 今更、『ムーン・リヴァー』を読んで感動した、なんて自分のレビューを読み直すのも恥ずかしい。いや、栗本薫って、小説一篇だけなら、力業で読者を感動させる力はあるよね。ただ、その一作だけを都合良く、調子よく書いちゃうから、前後の作品とのつじつまがまったく合わなくなるだけでさ。そして、往年の読者であれば知っている、だけど私はすっかり忘れていた事実。このひと、小説書きとしては、劣化の一途を辿ったよね。
 晩年(というには若いが)、自分の同人レーベルや、自分の公式HPを作り、いわゆるメジャーな出版社を介せずに好きなものを垂れ流す安楽さに身を任せるようになってからは、さらにそれが加速したのではないかな。それにしても、栗本薫の絶筆となった『トゥオネラの白鳥』の破壊力たるや、凄まじいものがあった。こんな風にして、自分の作品世界をぶち壊す作家がいるのか。いや、なんか、人間の振りして人間社会を破壊しにかかる未知の宇宙からの侵略者のようだと思ったよ。この人、本当に栗本薫? 中の人、実は違ってるんじゃない?ってくらいの違和感と衝撃だった。作品レビューについては詳しくは私のレビューを見て下さい。二度とは書きたくないので。そして、「栗本薫よ、なぜにこうなった?」という嘆きに彩られてはいるがじつは純然たる好奇心、も頭をもたげている。だた、それを追求するのは、私の時間が勿体ない。それに、現に生きている関係者・親族も若干はいるわけだし、無関係の他人があげつらうもんでもないしね。さて、これまでに読んだ本を、まとめておこう。

◆『真夜中の天使・・・・レビューなし
 再読するかも不明。『悪魔のようなあいつ』を見た後でコレを読んだら、シリーズの屋台骨のイメージ(なんか凄い本だったby中学生だった私)が、瓦解(なんだ、ただの二次創作だった)になるのは確実みたいなので、今は怖くて読めない。

◆『翼あるもの
 多くの人の少女時代の記憶に燦然と輝く名作。
 第一部 生きながらブルースに葬られ・・・・・今西良を巡る、作曲家・風間俊介妄想の書。
 良がスターだ、大スターだ、天才だ、特別だ、と風間の言葉だけがだらだらと語られるが、いっこうに今西良の人物像が見えてこない不思議。

 第二部 殺意・・・・・今西良のGSグループ〈ザ・レックス〉のかつてのツイン・リードヴォーカルの片割れだった森田透の凋落と、苦悩と、愛と、献身と、解脱。ただただ、透ちゃんが苦しむの書だけど、あまりにも鮮烈なイメージに圧倒される。サドの島津正彦登場。

◆『続・翼あるもの The END of the World』
 単行本未収録(たぶん)。「栗本薫・中島梓傑作電子全集2 【真夜中の天使】」に収録されている。透の最愛の人・巽竜二が殺された日の出来事。島津正彦が包丁を握りしめたまま固まっていた透に、「ひとりで逝くのが怖けりゃあ、一緒にいってやる」と口走り、透を苛んだ後に生身の体を重ねる。透と島津の関係性が決定的に変化した、ターニングポイント。巽の死んだ時期が定まらないのがこのシリーズ大きな特徴。①巽の死んだのは、2クール分のドラマの最終回の撮影時。つまり、撮影開始から6ヶ月後という設定。②島津の透への虐待(サド行為)は出会ってから(つまり例のドラマ撮影中から)1から2年くらいは続いた。③島津の透への虐待は、巽が死んだ時に島津が透に加えた酷いサド行為が最後で、以降はぴたりと止まった。の記述を、そのときどきで都合良く書き流してるんで、良く分からないことになっている。こういうことをまったく気にしないのが栗本薫。なお、ここで島津が生身で透を抱いているのは、のちの『ムーン・リヴァー』と矛盾しないか?という気がしないでもない。

◆『朝日のあたる家
 Ⅰ ・・・・・33歳になった気だるい透ちゃんが、自分が死んだ巽と同じ歳になっていることにしみじみ驚いている。歌手再デビューを27歳でリタイアした後は、男娼生活に戻り、いまはジゴロとして、島津のマンションからも離れ一人暮らし中。島津・野々村とは友人となり、おたがいに安否を確認しあう仲。そして巽の命日、巽の墓の前で、透は良に再会する。横浜山手の外人墓地の中に巽の墓はないだろう、とかは言いっこなしで。きっと近くに日本人墓地もあるのさ、とか読者の思いやりで考えていたのに、後の作品で(どれだかは忘れたが)栗本みずから「外人墓地」と語ってしまう痛恨のミス。だけど、それはさておき、良い物語に仕上がってる。
 Ⅱ ・・・・・透の為にKTVの職とキャリアを投げ打った島津のために、透も頑張る。島津はフリーランスとなって映画を作るために渡仏。島津の愛情と庇護にあらためて気づき、大いなる安らぎを得る透である。少しづつ、良との距離がちぢまり、反比例して良と風間の関係は崩壊に近づいていく。
 Ⅲ ・・・・・風間が入院し、風間の代わりに透が良の身辺の世話を焼くことになる。
 Ⅳ ・・・・・遂に精神が失調した風間が良に手をかけ、良は負傷して入院し、良と風間、そして透はマスコミの攻勢にさらされることに。入院中の良のために、透はあえて記者会見に臨むが記者会見の場で透の過去もあげつらわれ、収拾がつかなくなる。良はマネジャーに「透が好きだ」と言い放ち、自分の意志で生きたい、という良の求めに応じて透は良を病院から連れ出して逃避行。ついに透と良が結ばれる。SEXにもの凄いコンプレックスを抱える良を、透が己の性で癒やしていく。これはこれで、私は良いと思うよ。
 Ⅴ ・・・・・横浜から敦賀、武生と地味に逃げ続け、体を重ねる良と透。透に愛されるほどに、良は自信と自我を回復させ、そして決断する。東京に戻ろうとした二人は東京駅の新幹線ホームでマスコミに囲まれ、迎えに駆けつけた島津が二人を救出しようとするが、そこに現れた良の元妻アリサと現彼氏によってトラブルとなり、透が殴られて負傷。病院で意識を回復した透は、すべてが終わったことを島津に告げられ、そして「お前は優しい」「愛している」と島津は語り、透は大いなる安らぎの中で・・・・・・。なんだか凄く良いものを読ませられたような気分にさせられるのだけど、ちょっと冷静になると、これでいいのか?と。

◆嘘は罪
 良を失い、地位も名誉も金も失った風間、失意の書。最初の数ページだけ、さすが商業出版用に書いたやつは、文章もきちんとしているし、一定のレベルには達しているよな。と思わせられたのだが、ただし、最初の数ページのみ。すぐに、脳内ダダ漏れだらだらトークが始まり、風間の自意識なのか薫の自意識なのか渾然一体となったクソみたいな思考をぶちまけられ、溺死しそうになる。“嘘の歌は歌えない”忍と、“どんなに世の中から蔑まれてどん底でも、生きていかねばらない”風間に、薫が自分を重ねた、とも読めるが、それ、アナタの勘違いだと思うよ。

◆ムーン・リヴァー
 栗本薫への回帰にあたり、ついうっかり最初に読んでしまった、栗本薫の死後に発行された島津と透の最後の日々。良い作品だと思います。ええ、私は感動しましたよ。ちょっと語りがくどいところもありましたけど、近年の他の作品ほどじゃ、ありません。単品なら、十分に読み応えもあり、読む価値もあり、だと思います。表紙と共に、美しいです。ただし、時系列的にいろいろとおかしい。なぜ、島サンが62歳なんだよ。島サンがバリバリの壮年期で壮絶な癌死するのと、いい加減枯れてきた島サンが、覚悟の死をするのでは、後者のほうが気分がよかっただけだろうが。だれか薫の自作年譜に島津の年齢も書き入れてやってくれればよかったのに。

◆キャバレー
 〈矢代俊一ブランチ〉の最初の一冊。薫若かりしころの書。俊一19歳。場末のキャバレーで武者修行中。若さが甘酸っぱい、世間知らずで向こう見ずな若者(矢代)が愚かにも危険に巻き込まれ、他者の犠牲の痛みの上で大人になる、という定番。ちょっと時代を感じさせるけど、無難にまとまっている小説。

◆死はやさしく奪う
 矢代俊一の先輩サックス奏者、金井恭平の純愛。普通のハードボイルド・ミステリ。金井が良い味わいを出している。金井に接触する刑事さんも良い。ハードボイルドってこういうのだよね、って感じの小説を書きたかったんだよねって感じ。

◆黄昏のローレライ/キャバレー2
 『死はやさしく奪う』で殺人を犯し、8年の刑期を終えて娑婆に出てきた金井も登場。米国人妻を伴って日本に帰国した矢代俊一が巻き込まれるトラブル。キャバレーの滝川さん、滝川部下の黒田登場。ここで起きる出来事は、シリーズ終盤〈矢代俊一シリーズ(栗本の個人レーベルの同人誌)〉では、おそらくこれが書かれた当初とはまったく違う意味が与えられている。

◆身も心も
 2022年6月末時点で未読

同人誌シリーズについては、別途。

2022年6月24日金曜日

0358 トゥオネラの白鳥(栗本薫・中島梓傑作電子全集28【JUNE Ⅱ】 収録)

 キャバレー以降ずんずんBLキャラに進化し、手当たり次第強姦され、輪姦され、PTSDになり、入退院を繰り返しつつ恋愛もし、周囲の人間の生き血を吸いながら(?)その美貌と芸術性を高めていると聞き及ぶ矢代俊一である。そして、栗本薫の絶筆である。


 キャバレー以降の矢代俊一の変容(美形化+BLネコ化+幼児化)を追いかける気にどーしてもなれず、こっちの支線は放置でよいか、と考えていたのだが、なんと栗本薫最後の作品(同人誌)で森田透が矢代の愛人に収まっている、という衝撃の事実に接し、私のなかの東京サーガの世界観が空爆後の瓦礫の街のように崩壊を見た。だいたい、シリーズものを最後から遡って読む、という私の悪癖がいけないんだ、とは分かっているが、さすがにこの事態は受け入れ難かった。


 『トゥオネラの白鳥』には、栗本が自分を投影した小説家である霧島安曇(きりしま・あずみ)(ガン末期で在宅療養をしている♂・ゲイの天才作家(っぷっ))が登場するのだが、これが噴飯ものの自己陶酔キャラである。まともな羞恥心を持っている私ごときには恥ずかしくて読んでいられない代物なので、そもそも読むのが非常につらい。

 

 で、主人公の矢代ときたら、

①14歳も年下の元気でいちずな勝又ちゃんと同居して、勝又ちゃんに主婦役をやらせ、なんなら自分の実父(ピアニスト)の生活の面倒も見させ、

②キス一つで身も焦がすような激しい恋におちたらしい金井恭平と勝又と泥沼の三角関係を演じて、

③ようやっと金井と別れたあとも、いまだに金井への熱い思いに身を焦がしつつ、

④マネージャーに収まっている風間経由で知り合った透とも愛人関係となって、

⑤こちらは勝又には存在を隠したまま、定期的に透のマンション(つまり、島津の遺産で透のものになった外苑前の高級マンション)に通って逢瀬をかさねている、

というすごい状況になっている。


 風間が、矢代のマネジメントをしている個人事務所(社長は北原さん)に入って矢代のマネージャーをしている、という状況もすごい(酷い)が、透が矢代と寝てるってどういうことさ。あまりにも暴力的な痴情沙汰に巻き込まれやすい俊ちゃんを案じて、風間が安全パイである透を矢代に愛人としてあてがった、のか?そうなのか?


 そして透ときたら、出所してきた良に振られたってどういうこと?


 なんでも良が、透をおいて、音楽修行のために一人でロンドンに行ってしまったらしい。

 あれか、透が島津に心を残していることに、敏感な良が気づいて返す刀で切り捨てられたのか?

 

 透は、島津に自殺されてしまった心の傷と、一番辛いときに良に去られてしまった恨み節を、俊一を愛することで紛らしつつ、けっこう享楽的にも見える生きかたをしてきている様子でその場にいない良のことを「本物の天才じゃなかった」的な落とし方をしつつ、「本物の天才」である俊一のそばにいられる自分達(透と風間)は今が天国だ、みたいなことを、俊一を間にはさんで風間と語りあっているという、もはや地獄の沙汰としか思えない状況。これを読まされたこっちは悲しいやら苦しいやら。


 そういう、透ちゃんの近況をちらちらと交えつつ、俊一を相手に霧島安曇(=中島梓)が、自己の小説や音楽の芸術論をたらたらと語る。語る。語り続ける。ミューズだ、妖精王だ、魔王だ、と。


 いや、だからさ。そういうのは作家であるなら、作品で表現しなさいよ。と。自分の作品で表現しえないことを、評論家中島梓が登場して、もっともらしく解説する、って、これ、「栗本薫」「中島梓」だからこそ可能になった荒技だけど、ただの自己弁護だし、私を理解して、って肥大しまくった自意識を垂れ流してるだけだし。

 こういう激しい承認欲求に裏打ちされた何かを〈天賦の才能〉と勘違いしたうえ、ひたすら肯定してくれる環境を得てしまった、かつては一つの才能ではあったものが、ひたすらイド(うわ、懐かしい!)のように自己増殖を続けて周囲を飲み込みつつ収拾がつかなくなった、というのが晩年の「栗本薫」という存在なんだろうな。

 

・・・・と、まあこの状況である。透と島津さんが好きだっただけに衝撃的すぎて、怒りを通りこして、空しさを感じるんだけど、ここに到る矢代純一ブランチの作品は、私は全然読んでいないわけで、ひょっとしてこの状況には、ここまでの作品の中で、なんらかの正当性がある、というか、きちんと道筋がたってこうなっているのだろうか、と、救いの蜘蛛の糸を求めてみる。

 

 この状況に納得するために、手を付けまいと心していた、読み友さんがリタイア気味の「キャバレーを見届けろ」企画に遅ればせながら参加しなければならないのか?そうなのか?

 でもね。どうしても実りがあるとは思えないんだよね。


 ちなみに、この電子全集28の巻末に、「矢代俊一年譜」が収録されている。いちおう、栗本薫本人がまとめたものらしく、この時間軸を中心に、東京サーガの時系列を再構築したらどうなるんだろう、とちょっと考え中。

2022年6月23日木曜日

0357 栗本薫・中島梓傑作電子全集28 【JUNE Ⅱ】Kindle版

書 名 「栗本薫・中島梓傑作電子全集28 【JUNE Ⅱ】Kindle版」
著 者 栗本 薫    
出 版 小学館   20199
ASIN ‏ : ‎  B07X9S8P31
収録作品
【小説】

 流星のサドル

 ムーン・リヴァー

 嘘は罪

 タンゴ・ロマンティック

 「セルロイド・ヒーロー』シリーズ 

【エッセイ】

 話題の人いんだびゅう

 特別座談会 そこが知りたい! あの人は今!

【未発表作品】

 リラのワルツ

【特別収録】

 トゥオネラの白鳥

【対談】

 スペシャル対談

【特別寄稿】

 中島さんとの思い出(後編)

【回想録】

 栗本薫との日々 二十八 今岡清

「栗本薫の育児日記」 二十八 山田良子

【付録1】「特別資料」七

「特別資料」二十八

 矢代俊一年譜 

【付録2】 単行本初版書影写真

【解題】 第二十八回解題


 『東京サーガ』の『嘘は罪』と未発表作品が掲載されている、ということで入手。
 まあ、お買い得である。『流星・・・』は未読(しかし、読み友さんのレビューを事前によんでいるので、手を出すのはためらわれる。)
 既読の『ムーン・リヴァー』はKindleアンリミだったので、損はなし。もともと『嘘は罪』は電子版も欲しかったので丁度良し。
 ざっと内容は以下のとおり。(多分)


■『流星のサドル』(結城滉×矢代俊一)
■『ムーン・リヴァー』(透と島津の最後の日々)
■『嘘は罪』(良を失った風間センセ復活の記)
■『タンゴ・ロマンティック』(おっさんずラブ。総務課長と人事課長アラフィフの恋?)
■『セルロイド・ヒーロー』シリーズ(AV男優克郎くんの純情と純愛。過酷なレイプAV撮影で人格を破壊されてしまったかっちゃんがアルジャーノン化する。)
■エッセイ『話題の人いんたびゅう』(矢代俊一のインタビューで、単なる著者のオナニープレイ)
■『特別座談会 そこが知りたい!あの人は今!』(良の刑期が執行猶予なしの2年4ヶ月であったことを知る。)
■未発表作品『リラのワルツ』(野々村の純情。『ムーン・リヴァー』冒頭で野々村が無謀にも暴力沙汰に飛び込んで肋骨骨折の怪我をしているが、それに到る話。透が賢者役で登場)
■『トゥオネラの白鳥』(矢代俊一×森田透+風間センセ=驚愕!)
■その他。


 『セルロイド・ヒーロー』、これが意外にも良かった自分に汗。
 『嘘は罪』でも『リラ』でも透のポジションは賢者。島津の元で良の出所を待つ透の描写がいよいよもって美しいのには満足だ。彼は、顎の下の目立たないところに顎骨折治療の手術痕があるんじゃないかと思うのだが、とくに言及はないので自分で勝手に想像する。

 大問題なのは、栗本薫の絶筆、『トゥオネラの白鳥』
 薫サンが自己を投影した「霧島安曇」という天才作家(♂・ゲイ、末期癌で在宅療養注)と矢代との対話?みたいな、自己陶酔、もしくは自己弁護感がふんぷんとする書き出しで、読み続けるのを激しくためらう。だがしかし、ここで驚愕の事実(?)

(爆)島津の死後、透がなんと、良には振られれ、矢代俊一を「落として」いる!?だと? 
   透が矢代の愛人だと!?
   しかも、透が矢代にベタ惚れしているだと?
   しかも、風間が矢代のマネージャーに収まって、矢代のお世話をしている!だと!?
 これはない。ヒドい。焚書もんだろ。これ。
 矢代俊一ネタの小説(電子書籍・同人誌)は読んでいないで、コレをよんじまったので、たった今まで安住していた街が突然ミサイルで爆撃を受けて崩壊したみたいな衝撃を受ける。
 あまりの衝撃で、自分の中の栗本薫ワールドの世界感がガラガラと崩壊していく。

 栗本薫。この人は、自分が死ぬにあたって、自分が世の中に投げ出した自分の作品世界に後ろ足で砂かけて去りたかったのだろうか?
 なにもかも、よごして、おしまいにしてしまいたかったのだろうか?
 それとも『セルロイド・ヒーロー』の克郎くんよろしく、いささか知能が低下してしまって、それに合わせて透や矢代も、低脳化してしまったのだろうか。

 『東京サーガ』の森田透ブランチだけは、とりあえず完読したいと思った自分の執念を心底恨めしく思った。
 Kindleだからと、『透』というキーワードで全編検索した自分の愚かさを呪った。あああああああ。

 念の為、カクヨムのうなぎさんの全著作レビューを読みに行ってきた。
『セルロイド・ヒーロー』については、予想通りの辛辣レビューに草ぼうぼう。『浪漫之友』創刊号〜6号あたりを参照のこと。あはは。わたし結構面白かったんだけどな。こういう単発話(話中全部で1年位)だと、時系列の矛盾を気にしないですむので気が楽。
 SEXを精神論風に語らないと気が済まない薫サンなのに、それなのに例えるのが殉教者(ジーザス)だとか聖母マリアだとかしかない発想の貧困さにこれまた草が生えるが。

 で、件の『トゥオネラの白鳥』は、同人誌なので、「レビュー対象外」とのこと。
 うなぎさんの、砂をかむようなカンジが伝わってくるような気が・・・・・・するよ。

 栗本薫。
 100冊書く、といって本当にだらだらと推敲もせずに文字を垂れ流した作家もどき。
 キラキラと輝く作品も含め、大量の活字(デジタルも含む)を世に出した人。
 そして、それはそれは沢山の読者を、その世界観に巻き込み、最後にぶち壊して瓦礫を残していった女・・・・・・。これは、災悪だと、思った。そして、このひとが残した文字という文字を、すべて世に公表して残しておこうと考えた信奉者は、ただの愚か者だと思う。(完)

(注)そのうち、もっと穏当かつ妥当な内容に書き改めるかもしれないが、とりあえず、今朝の衝撃を書き綴っておく。あくまでも個人の感想ですよ。あああ。

2022年6月19日日曜日

0356 死はやさしく奪う (角川文庫)

書   名 「死はやさしく奪う」
著   者 栗本 薫    
出   版 角川書店 1986年1月
文   庫 294ページ
初   読 2022年6月19日
ISBN-10 4041500117
ISBN-13 978-4041500118

 かの『キャバレー』みたいな、ハードボイルドだけど、音楽を追いかける小説かとおもいきや、表紙のまんまのハードボイルド・ミステリーでしたね。これ、金(かね)さんのイメージなのかな?

「俊一がね、言ってたな」
「カネさん見てると、昔知ってた人、思い出すって」
「昔ちょっと知ってたヤッチャンだってさ」(P.211) 
 
 金井恭平は、JAZZのサックス奏者で、『キャバレー』の矢代俊一の兄貴分。サックスをお気に入りの順に「本妻」「二号」「三号」とよび、彼が行けなかったステージの穴に俊一をかり出した礼としてか、「俊ちゃんがカネさんの三号を欲しがってた」と人づてに聞いただけで、まあいいや、やっか。取りに来い、と実に気取らず、豪快で気前のいいところを見せるおっさんである。
 もっとも、俊一なら俺よりずっと大切にラッパを扱って毛筋一本ほども傷なんて付けねえだろうし、また吹きたくなりゃあとりもどせばいいや”くらいに考えていそうだけど。


 身長165㎝くらいしかない小柄な男だが、学生ボクシングで鍛えたがっちり体型の金サン、ちょっと見にはとてもジャズ奏者には見えず、どうみても筋もん。あれ、そういえば、いつ猫にミルクの皿を出してやったんだっけ?と3回見直したがそんなシーンは無かったぞ。まあいいや。

 大学時代から15年も片思いをしているゴージャス美人(今は人妻)が、夫婦で殺された、と聞き込みにきた刑事の2人組に聞かされ、にわかに身辺が怪しくなる。本人の思考が追いつかないうちに、自宅に忍び込まれ、殴られ、怪電話は掛かるし、ヤクザにボコられるし、自宅の冷蔵庫には毒入りミルク。(これがどうにも、ストーリー的になんだか浮いててね。こういう違和感て、ミステリ読みには大事よね。)いやさ、牛乳パックをスーパーとかで買ってきて、外からバレないように注射器かなんかで目立たないように農薬を注入し、それをわざわざ、金井のアパートに持ち込んで、冷蔵庫にしまうヤクザ。ってあまりにもマメマメすぎて、絵的にも面白すぎるじゃん、と思っていたらなんとなんと、そーでしたか。なるほどねえ。

 クラブでバイトしているトシが、16歳で山形から集団就職してきた、というのが、なんとも時代を感じさせる。集団就職って、昭和40年代くらいまでか。オイルショックでの経済低迷と、高校進学率が増えて、中卒就労が減ったのもこの頃。企業の募集が高卒以上になってきた時期。この本は昭和61年発行だから、薫サンはだいたい昭和50年代を描いたのだな。・・・・もっとも、薫サンの作品で時代考証をしようなんて考えない方がよいかもしれんけど。

 ストーリー的にはごくシンプル。
 女に惚れて、裏切られて、自分の中の聖女も、その聖女を愛した自分も“殺され”た。だから、その復讐を。ちょっとだけ女々しい男のハードボイルド・ストーリー。金井恭平という男のロマンでした。
 

2022年6月18日土曜日

0355 栗本薫・中島梓傑作電子全集7 【朝日のあたる家】Kindle版

書 名 「栗本薫・中島梓傑作電子全集7 【朝日のあたる家】Kindle版」
著 者 栗本 薫    
出 版 小学館   20185
ASIN ‏ : ‎ B07CQ14GFT
収録作品
【小説】

 朝日のあたる家 Ⅰ〜Ⅴ 

【エッセイ】

 「朝日のあたる家」第5巻発売&シリーズ完結記念特別版!

 欲望とセックスに関するある考察

 柄にもなく恋愛の話 PART1

 柄にもなく恋愛の話 PART2

 ふざけるんじゃねーよ

【対談】

 セクシーとは? 中島梓×北山晴一

【回想録】

 栗本薫との日々 七 今岡清

 「栗本薫の育児日記」 七 山田良子

【付録1】「特別資料」七

 『朝日のあたる家』自筆原稿

 『朝日のあたる家』創作ノート

【付録2】 単行本初版書影写真

【解題】 第七回解題 八巻大樹(薫の会)



 紙本と、Kindle本を同時進行で読む。

 角川からは電子書籍が出ていなかったので、こちらの全集を入手した。あんまり付録には関心はなかった。全編通しで収録させれているので丁度良いと思い、完結までに17年をみて、その間にどうやら方向性とか、作品の精度が変わってしまったらしい、悲しき『朝日のあたる家』について、どうしたらもっと良くなるのだろうか、と考察してみた。
 刊行の間が開いたのは、3巻から4巻の間が一番長かったが、あまり間が開いていないはずの4巻〜5巻の間のストーリーの破綻もあるし、そもそも、5巻のラストは、とにかく感動的に収めてはあるから、ついイイものを読んだような気分にさせられるが、冷静に考えればあれで良いのか?とは思うしな。
 やはり必要なのは、まずは、放置された伏線の回収やら、これから広がるべきエピソードの展開。
 それから、透ちゃんの、行き当たりばったりな発言とモノローグを、せめて首尾一貫するように修正する。
 ラストで、恐竜頭が突如現れて大活躍するのは、いただけないし唐突すぎるので、もうちょっと何とかしたいよな。
 いや、とにかく蓼科までは行けよ? とか?
 のこのこ、新幹線で東京駅入りするなよ〜。せめて途中から車に乗り換えろよ。などだろうか。

【放置されたエピソードなど】
 1 雪子の消息と政界汚職の伏線をどーする気だったんだよ。
  ついでに月間ファクトの記者村岡と透のからみもちゃんと出そうよ。
 2 伏線というほどではないが、良のファンだというKTVの保志プロデューサーの出番もあるとよいよね。
  (KTVなのだから、島津とのからみがほしい。)
 3 せっかくでてきた島津の部下「サク(朔ちゃん?)」「おチバ」ももっと使いたい。 
 4 マナベプロと田沼組の黒い関係、「透の身が危険」については、具体化したい。

【ストーリーの修繕】 
 透が良に語るたわごと「良がすべて、ただ一人の恋人、他の誰とももう寝ない、島津さんは友達」はあんまりだ。良へのリップサービスが過ぎるぜ。せめて、ムーン・リヴァー方向に無理なく進むように、島さんのことも考えて透の発言は修正したいものだ。
あとね。
 二人は米原で時間をつぶした後は、ちゃんと蓼科の別荘に向かうこと。
 東京へ帰る時は、新幹線でのこのこ帰らず、車を使うこと。
 ムラさんのコネももっと使うべき。

 例えばサ、こんなのはどう?5巻目、島津との電話のあたりから。

1 透はパリにいる島津に国際電話をかける。島津は蓼科の別荘を使えという。
  良は島津を警戒して機嫌が悪くなるが、透は自分と島津の関係をちゃんと(ここ大事!)説明する。
2 透と良は米原から列車を乗り継ぎ、蓼科に向かう。 
3 透の身を案じたパリの島津は、助っ人・連絡要員兼2人を無事に東京へ返すための運転要員として、東京の部下と車を蓼科に送り込む。
4 島津の部下の動きを読まれて、良と透の居場所がマナベに割れる。
5 マナベプロが良の奪還をもくろんで田沼のチンピラを送りこむ。
6 島津の別荘では拉致され透は見せしめに良の目の前でボコられて半死半生の有様に。ケガも、あの恐竜頭に殴られるくらいなら、やくざにやられたほうが恰好よいでしょ。)居合わせた島津の部下、サクとおチバもそれなりに負傷。
7 そこに島津、野々村の手下と警察が駆けつける。良を無事奪還。透は救助されて病院へ。
8 良は島津と野々村の手の者に保護されて東京に戻り、緊急記者会見→麻布署に出頭。
9 マナベプロは、良に対する拉致監禁容疑、透その他に対する暴行致傷容疑と広域指定暴力団との黒い関係、及び『裏切りの街路』事件のもみ消し疑惑で追い込もう。
  ついでにアリサと恐竜彼氏麻薬と脅迫で挙げて、マスコミは上手に工作して、透は被害者だと公表。マスコミ各誌一斉報道。
10 『裏切りの街路』事件からこっちの良の苦難については、たっぷりと美化してムラさんが独占手記を出してやると良いよ。
11 透は、一時意識不明状態だっだけど、透が寝ている間に、ニュースを聞いた雪子が病院を訪れる。 
透の周囲を張っていた月刊ファクトの村岡は雪子への接触に成功。 
村岡のすっぱ抜いた政界汚職が大疑獄事件に発展して、良のニュースはいい具合にかすむ。
12 透が目をさましたらそんな感じに世の中は落ち着きつつあり
13 村岡が透を見舞ってスクープの礼に、「あんたのこと、独占で記事にしたいね。オレにまかせない?イイ感じにしてやるよ?」
14 島さんは時間の許すかぎり透の枕元に付き添っていて、「島さんはお前さんのためにいろいろと頑張ったぜ」
15 オレには島さんがいてくれて幸せだ♪良にも面会にいかなくちゃ。

 Fin
 
 いま、私の脳内は、この線で妄想が走ってる。

2022年6月16日木曜日

0354  栗本薫・中島梓傑作電子全集2 【真夜中の天使】Kindle版

書 名 「栗本薫・中島梓傑作電子全集2 【真夜中の天使】Kindle版」
著   者 栗本 薫    
出   版 小学館   2018
ASIN     B078NMBCZZ
収録作品
【小説

 真夜中の天使 上・下

 翼あるもの 上 生きながらブルースに葬られ

 翼あるもの 下 殺意

 続・翼あるもの The END of the World

エッセイ

 沢田研二のためのコラージュ

 久世光彦様お慕い申し上げております

 森茉莉との出会い

対談

 「自由」を賭けて戦う愛を! 中島梓×竹宮惠子

  ジュネスピリッツ・リローデッド対談  中島梓×竹宮惠子

特別寄稿

 今西良、この運命的なるもの 金田淳子

回想録

 栗本薫との日々 二      今岡清

 栗本薫の育児日記  二   山田良子

付録1「特別資料」二

 『真夜中の天使』自筆原稿

 『翼あるもの 上 生きながらブルースに葬られ』自筆原稿

 『翼あるもの 下 殺意』自筆原稿

付録2 単行本初版書影写真

解題第二回解題 八巻大樹(薫の会)


 『The END of the World』を読むためだけのために、Kindle版で入手した。
 お値段的には、『まよてん』『翼あるもの』を全巻収録してあるだけでも、お買い得感がある。(もっとも、すでにどちらも、紙本、Kindleで持っていた身としては、ただの三度買いである。いや、『翼あるもの』は少なくとも中学生時代に一回買ってその後手放しているから、四度買いだ。)『翼あるもの』本編でも『朝日のあたる家』でも描かれることのなかった、巽が死んだ日の透と島津の間の出来事である。つまり、巽が死んで、透は自殺することもできず、島津に「めちゃくちゃにしてくれ」と頼んで、島津がその頼みを聞いた。というヤツ。

 相変わらず不思議な時空の乱れ。
 『翼あるもの』透25歳。ドラマ2クール26回(実質6ヶ月)。最終回撮影時(巽死亡時)、透27歳。なぜだ〜?!
 つまり、この『裏切りの街路』収録中に、巽が良に惚れてしまい、透が野々村と島津のところに逃走する。『ウラガイ』放映と同時進行的に、透の再デビュープロジェクトが進行するが、『アイ誕10週連続勝ち抜き』のベタ企画だって10週掛かるし、島津が企画していた透のドキュメンタリー作成だって、それなりに時間がかかるだろう。そうこうしている間に『ウラガイ』が進行して巽が死んでしまっては、おそらく透の再デビューも途中で透が腑抜けて頓挫必至。要は、巽が死ぬまでの良—巽サイドの所要時間と、透が再デビューを果たすまでの、そして、島津が透を見直して惹かれるようになるまでの、透—島津サイドの所要時間が合ってないんだよ。
 巽が死んだときに、島津と透の間で多少は通じるものが生まれていないと、『The END of the World』のエピソードも機能しないわけで。で、大いに問題なのが、そういうことを当の栗本薫が辻褄合わせしないで、その時の筆の勢いで作品を垂れ流すこと。
 今ひとつ疑問なのは、透が自分のシングルがベスト10入りした時点で「もうやめる」と島津に告げるタイミングがいつなのか、かな。少なくとも、『The END of the World』の時点では、透も多少は仕事を抱えているようなので、この後の出来事なのだろう。おそらく、『The END of the World』作中で、透を26歳にしておけば、ぎりぎりごまかせた時空軸。誕生日がいつなのかにもよるし、ねえ。

 さて、それで、『The END of the World』の方であるが。
 冒頭部分の島津のサドでゲスな振る舞いが酷いんで、あれで、貴族的だの高貴な魂だの言われてもなあ。とちょっと鼻白む。唯々諾々と服従している透の心理もちょい謎。透は逃げ出すようなエネルギーが枯渇しているだけか。DV被害者が陥る逃げられない心理状態みたいな感じなのかもしれない。傍からみれば立派な鬱病・ストレス障害で、現実からの逃避行動、乖離がみられます、ってカンジなんですけどね。でもそう言ってしまうと耽美な作品にはなりようがないので、あえて、そういうことには目をつぶる。透の特異な人間性の発露なのよ、これは。ここからどう立ち直ると、立派なジゴロになるのだろう。。。不思議。
 そして、ウワサの拷問シーンですが。
 普段は、商売ものの透の体にはあまり傷をつけないように気をつけながら、サドの業を振るう島津さんも、今回ばかりは遠慮がない。透を全裸にひんむいてベッドに縛り付け、ベルトを抜いて、渾身の力で打ち振るう。飛び散る血。心の中で巽に助けを求める透。そんな透の頬を張り、「巽のことを考えるんじゃない!」と繰りかえす島津。Aを巨大な何かで攻められて、裂けて、大出血して、ベッドを血まみれにし、何回も失神と覚醒を繰り返しながら、薄れ行く意識のなかで、島津が透を責めるために、己の肉体を重ねていることに気付く。・・・・・・・これは、なんというか壮絶だけど、いいシーンだよ。だけどさ。

 それって、『ムーン・リヴァー』と矛盾しないか?とちょっと思った。
 あれは、初めて透と我が身で一体になった島津が、生まれて初めての性の快感に溺れちゃう話だからさ。あと、栗本サンの性描写が、これまでに読んだどの話もA○ァックで裂けて出血、のワンパタなのが酷く残念。
 だけど、島津は、巽の死報によって透が生きる力を全て失って、動くこともできずに床にへたって項垂れているときに、透の頬を張って「どうしてほしい?」「どうしてほしいんだ?」と透が自ら求めるものを、繰り返し問うんだよ。自発性をまったく失ってしまった透への、生きる為におのずから欲することを思い出させるこの問いが、この後の透を生かしていくのだろう。たとえその時透が自らもとめたのが、島津のサド行為だったとしても、さ。

2022年6月15日水曜日

上半期の読書遍歴(まとめ)


ざっとこんなカンジ。
 マンチェスター市警エイダン・ウェイツシリーズを読む。
(心が大いに痛む)
甘々なもので心を慰めたくなり、ついうっかり、ジョシュ・ラニヨンに手を出す。
(禁断のM/M(BL)の扉を開いてしまう。)
Amazonにオススメされるままに、『囀る鳥は羽ばたかない』にハマる。
それならば、と読み友さんから『聖なる黒夜』を絶賛オススメされる。
当然のことながらハマり、柴田よしきを揃える。
が『所轄刑事・麻生龍太郎』あたりで当の龍太郎さんに食傷ぎみとなる。
練ちゃんは超好み♪ 私は、傷ついた男が大好物だ。
美形ならなおよし。
ふと、BLの源流を確認したくなり、元祖JUNE、栗本薫の作品を検索。
『ムーン・リヴァー』を読む。透に惚れる。
(心がえぐられる)
『翼あるもの』に遡る。さらに透に惚れる。
(さらにえぐられる)
東京サーガをコンプリートすべく、『朝日のあたる家』を読む。
ついでに、沢田研二にもハマる。
(だがしかし、ここで、栗本薫の劣化、およびあまりに自堕落な
考証なし、書きっぱなし故の
作品世界の崩壊ぶりに唖然とする。)

イマココ

要は、エイダンが可哀想すぎたのが、すべての始まり。
自分がどこにいくのか、良く分からない。

0353 朝日のあたる家 Ⅴ(角川ルビー文庫)

書   名 「朝日のあたる家 Ⅴ」
著   者 栗本 薫    
出   版 角川書店   2001年12月(単行本初版)/20033月(文庫初版)
文   庫 365ページ
初   読 2022年6月15日
ISBN-10 4044124213
ISBN-13 978-4044124212

 作中で、良が長々と、「矢代さん」「矢代先生」について、本物の天才とはなにか、本物のスターとは何か、その人そのものを認められ、愛されるとはどんなことか、と語るんだけどね。うーん。読む方からみると、ちょっと、いやかなり、作者のオナニープレイが恥ずかしい。一方の作品のスターが、もう一方のシリーズの主人公を褒めあげてるわけだからね。じゃあ、その矢代がどれだけすんばらしいかっつうと、天才という設定の美貌のBLキャラだったりするわけで、、、、。矢代君が『キャバレー』からもうすこし、逞しく育ってくれてたらよかったのになあ。なんか矢代のために体を張った滝川さんに申し訳ない気がしてくる。

 あと、良が島津の別荘や、島津の自宅にいくのをちょっとイヤがったりするんだけど、お前さん、3巻や4巻で、島津のマンションに入り浸ってたよね? きっと薫サン、わすれちゃってるんだろうなあ。

 それはおいておくとして、だ。『翼あるもの』上巻から、周りからあがめ奉られるばかりで、まったく本人の本当の意志や姿が見えず、偶像崇拝も極まっていた良が、その周囲の身勝手な思い込みとイメージの押しつけについに反旗を翻し、自分を語りはじめた5巻である。
 透のほうは「えぇ」とか「うーん」とか「それは・・・」とか言いながら、良の話を聞くしかない状況。
 これまで、著者の薫サンがさんざ良の死亡フラグを立てまくっていたが、それすら、そんなの本当のオレじゃないもーん。とばかりに、良の本来の生命力が満ち溢れてくる。それはいい。キャラが勝手に自分の生を生きはじめてこそ、栗本薫の本領発揮だもの。一方で、この良も栗本薫の投影であるならば、栗本薫は何に縛られ、どう、なりたかったのかな、などども、もちらちと頭を過ったけれどもね。

 この話のキモはなんだろう、と考えると、透が1巻で、一日一日をカタツムリが歩むようにゆっくりと踏みしめ7年間の時を過ごし、かつての巽と同じ歳になっていることに気付く。そして、5巻ではかつて透を愛おしんだ巽のように、自分が良を愛おしみ、そんな「弱き、幼き者を愛し、慈しむ」立場、つまり大人になっていることに気付く。人は変わる。成長することができる。人を愛する側になることができる。
 これがこの作のテーマだといいな、と思うのは私の願望に過ぎないが、けっして透ちゃんが立派で力強い大人、になるわけではないのが面白いところ。だって、死ぬ寸前までヘロヘロに弱った良と、なんとかかんとか生き抜いてきて、すこしは生きる力がついてきたかな、というか、かつてないほど、生命力がついてきたかな、という透で力関係はほぼイーブン。
 だから、透が、精一杯良を愛して、透が持てるエネルギーをすべて注いで、良に充電してやったおかげて、良は力を得てその天性の生命力を甦らせ、輝かせ、活動させ始める、そうすると、透はまったくそのエネルギーには敵わない、のだ。それが透の凡人たるところ。ちょっと可哀想なんだけど、その弱さや、揺らぎがまた透たる由縁。だがね。

 栗本センセイ、書いたら書きっぱなしで、他の作品との整合を図るなんてめんどいことはしないのだよ。文章を脳内から垂れ流してるとしか思えない、まるで昼下がりのワイドショーや、つまらない主婦のお喋りのようなだらだらした文章を書きなぐってるせいで、透の人格の崩壊ぶりが著しい。本当にヒドい。

 良はかわいい。透も良も愛おしい。ダメなのはあんただよ、栗本センセイ。アンタの頭の中からまろび出て、一人歩きを始めた人格達をきちんと表現してやらなかったのはアンタだ。『朝日』も『ムーンリヴァー』も良い作品だと思う。少なくともその骨格や、目指すところは。だけどこの5巻とムーンリヴァーを続けて読んだら、透ちゃんはただの言行不一致の口だけの行き当たりばったり野郎になってしまう。こりゃあ往年のファンが怒る筈だ。💢 と納得の逸品的な仕上がり具合だ。それでも終章の美しさと言ったら、私、10回は読んだからね。💢
 でもでも。この終章だけが、まるで別の生き物みたいに、作品全体から浮いているのは否めない。ここまで頑張ってきて、コレかよ。と思う人もいるだろうなあ。恐竜頭のパンチ一発。透ちゃんは顎粉砕骨折でダウンしましたとさ。だもの。

 どうしたらよいのコレ。  同人の浜名湖うなぎ氏のように、二次創作宜しく、かくあるべき『朝日のあたる家』を自分で脳内に妄想するしかないのか。それなのに、愛しくも美しく、切ないのだ。バカー!!

2022年6月11日土曜日

0352 朝日のあたる家 Ⅳ(角川ルビー文庫)

書   名 「朝日のあたる家 Ⅳ」
著   者 栗本 薫    
出   版 角川書店   1999年10月(単行本初版)/20032月(文庫初版)
文   庫 340ページ
初   読 2022年6月8日
ISBN-10 4044124205
ISBN-13 978-4044124205

 良を諦めることができない風間の狂気と、正体不明(ってか読者には分かってるけど、透が鈍すぎ)の脅迫、マスコミの悪意、良(ジョニー)の周辺の者達の敵意にだんだん追いつめられる透ちゃんが、必至で頑張る四巻目です。
 何とか話合いで乗り切ろうっていう透が甘いっちゃあ甘いが、透ちゃんは凄惨な経験を沢山してきているわりに、人間の善意を信じているっていうか、悪意の存在を信じきれていないようなところがあるので・・・・・・ってか、それが“透”っていう存在で、その存在がなければ『東京サーガ』も存在しないわけだが。

 そんな彼自身の甘さが災いして、やることなす事裏目にでるのが常な透が、本当なら島津の部屋のサボテンよろしく、ひっそりちんまりじっとしている方がよほど似合っているわれらが透ちゃんが、もう無理!オレには無理!と内心悲鳴をあげながら、可愛い良のために、しゃかりきにがんばる、だけど力及ばない。しかし、普段はめっぽう非力なのに、良に対してはリードしたり、ヤれる男ぶったり、社会常識をちらつかせたり、となんだか一生懸命さが甘酸っぱい。


 よかれと思って、風間と良の話し合いの場を設けたものの、良は猛然と風間を挑発し、煽られて暴走した風間が良の首を絞める。ひた隠しにしてきた破綻が、ついに衆目に晒されることとなり、風間は逮捕、良は入院、そして記者連中に取り囲まれた透はやむなく記者会見に臨むことになり。
 これまでも何度もそういう場で滅多打ちにされてきた透は、そこそこうまく対処したように思えるけど、結局は記者連中に煽られ、中傷されて、記者会見で事態を収拾することはできなかった。そこに接近してきたのが、野々村とも通じているスクープ記者で、この男は朝倉樹三郎の政界汚職事件の調査の突破口を求めていた。透はこの男に朝倉雪子の結婚の真相を教えられ、雪子とつなぎをつけてくれれば、良と透に都合のよいように、記事を出してやる、と。・・・こんなオイシイ伏線を置いたのに、まったく回収に訪れなかった栗本薫は、己の不覚を深く恥じるがよい!(駄洒落ではない。)

 透は、誰かを頼んだり利用したり、ってことがまったく考え及ばないお人好しなんで仕方ないが、この記者会見、野々村に事前に頼んでムラさんの手の者を数人送り込んでもらうだけでだいぶ状況をコントロールできたのになあ、と思うと、残念である。

 透が必死で防波堤になるべく頑張っている一方で、考える時間だけはたくさんあった良も、一人で一生懸命考えました。基本がお姫様体質なので、こうと決めたらそりゃあ頑固。
 透が好きだもん。透はオレのアイドルだったんだもん。もん。もん。って小学生かよ、なワガママっぷりで、プロダクションの社長沢野を翻弄する。沢野の怒りは透に向かい、逃亡して透とSEXすることで頭がいっぱいの良に、もはや透は抵抗できず、やむを得ず良を連れて駆け落ち、愛の逃避行と相成りました。
 だがしかし、日頃出不精な透と、一般社会常識皆無の良の組み合わせ、なので逃避行そのものも地味。結局、巽さんに一度つれてってもらった思い出の横浜のニュー・グランド・ホテルにチェックイン。(いや、ホテル名書いてなかったけど、そうだろ?)そして次の行き先は熱海に行きたい!とな。天下のスターが、熱海に温泉旅行にすら行けなかったのかと思うと、それはそれで哀れである。

 そして透は、良の精神的健康をとりもどすべく、本来の健康な人間の性の営みってやつを、良に取り戻してやりたい、とついにSEXを敢行。というか、一昼夜、やりまくりました。


 個人的には、風間が発狂寸前で透に縋ってきたときに、透が思わず風間に同情して、風間と寝てたりしたら(シモな表現だが抜いてやってたら、さ)、案外風間も憑きものが落ちて収まったりしたんじゃ、と脳内パラレル、というか二次方向の妄想をしたりもしたが、そうなると、後で良、風間、島津、透の恐るべき四角関係が出現するのか、そりゃあムリだな。とか考えたり。

 良のプロダクションの沢野が透に感謝したり、怒ったり。まあ、他人というものは身勝手なもの。トミーのレックス時代のご乱行は、そうとう酷かったんだろうなぁ、と思いつつも、実はレックスの興行を獲るために、プロダクションが陰で透を売ってたりもしただろうと想像する。あの当時のトミーにもっと気配りをしてくれる周囲の人間がいたならば、透はどれほど生きやすかっただろうか、なんてことも考えたり。人生は思うに任せないもの、を地で行く哀れな透ちゃんと、ほとんど動物的な勘と生命力で生き抜くことを欲する良はこれからどうなる、で遂にあとラス1、です。


2022年6月4日土曜日

035Ⅰ 朝日のあたる家 Ⅲ(角川ルビー文庫)

書   名 「朝日のあたる家 Ⅲ」
著   者 栗本 薫    
出   版 角川書店   1991年6月(単行本初版)/20031月(文庫初版)
文   庫 333ページ
初   読 2022年6月3日
ISBN-10 4044124191
ISBN-13 978-4044124199

 第三巻です。
 良は実は透が好きだった。透は良をずっと愛していて、これは運命。と透が考え続ける。
 だけどさ。そこ、島津さんの家だし。
 透が島津さんちに良を入れてるせいで(?)風間も入り込むし、雪子も押しかけるし、良のマネジャーだって来るし、そこ、島津天皇の自宅だよ?
 島津さん、潔癖症で人嫌いで、基本透以外の人間を家にはいれないじゃない?
 そこに良が入り込んで、いくら透のベッドだっていったって、島津さんの寝室じゃん、そこ? って事実が、なんだか、収まりわるくて、正しいことでない感じがして、居心地が悪いのだよ。おまえ、そこでスキャンダル書かれたらどうするんだよ〜。島サンを背後から撃つなよ〜!と気が気ではないじゃないか。
 するとあれか。私は島津さんが好きなのかな? 透って、もし身近にいたら、絶対にふざけんな〜!ちったあモノ考えろよ!頭冷やせ!と殴りたくなるだろうな〜。それを、好きだっていってられる野々村さんも、案外偉大なのかもしれない。良も天然だが、透も相当に天然なんだよなあ。

 それにしても、だらだらとひたすら透の思考を追いかけるこの巻です。まあ、栗本サンのご本はこれに始まったことではないけど、推敲して、言葉を厳選したら、50ページぐらいに収まりそう(笑)
 人間の思考なんて、そもそもだらだらと冗長でループして、しょーもないことをぐだぐだと考えているものなのだけど、だからといってそれを全部文章にしたら良いってもんでもないだろうに。

 良の記憶は世界線を越えて、『まよてん』にダイブ。あれは前世だったのか?とは特に考える必要はなし。

 良の心の傷をいやすべく、SEXをすべきか、それは今か、犯ったら自分も巽さんみたいに殺されるか?
 と迷う透に、透への《恋》に恋するあまり家出をした四十女の雪子、透に頼りきる一方で、透に良を盗られたと嫉妬の幽鬼と化した風間。透の身から出たサビとはいえ、透を通じて島津に取り入ろうと、身の程知らずの欲で透に絡むアリサはなけなしのプライドを傷つけられてバカな復讐に出そうだし、やっと手に入れた良を守らなければと肩に力が入れば入るほど、透の周囲は他人の欲望でがんじがらめに狭まれていく。この雰囲気がちょっとサスペンスっぽくて、はらはら。そんな風に追いつめられちゃうと、透ちゃんは、島津の愛にふたたび気付いたりしてしまうわけで。ほんとうにもう、あああめんどくさい。こりゃあ、風間が収まらないだろうなあ、と、いうところで四巻目へ。

 追伸。とはいうものの、透がこれから良を何から守らねばならないのか、と自分の一番ツライ時期————ソロデビューを目指して頼んだプロダクションで、男色の社長の慰みものにされ、格好の枕営業のコマとして利用され、転落し、麻薬に手を出し、逮捕され、本当の男娼に落ちるまでの、自分でも時間の底に封印していた記憶を解きほぐす場面は、読んでいて切ない。透ちゃんの過去は壮絶すぎた。彼を島津さんに成り代わって抱きしめてヨシヨシしてあげたい気分になる。SEXの経験を重ねすぎて、もう、良とも、SEXするよりも体は触れあわず唇だけを重ねるほうが、より真実性を感じるようになっているという透の過去も、良との邂逅で癒やされてほしい。この切なさは、『翼あるもの・下巻』に匹敵。


2022年6月2日木曜日

2022年5月の読書メーター

5月の読書メーター
読んだ本の数:11
読んだページ数:3701
ナイス数:1586

朝日のあたる家〈2〉 (角川ルビー文庫)朝日のあたる家〈2〉 (角川ルビー文庫)感想
透ちゃんは情緒の人なのでそのときどきの自分の感情の動きが全部になっちゃう。なのでその都度、目の前にいる誰かがそのときの100%になってしまっても、彼の中では矛盾していないんだよな。巽さん、島津、亜美、雪子、それぞれに惜しみなく自分の思いを注ぐ透を、愛おしくも痛ましくも思う。透が“マリア様”である由縁。自分を守らず、そのときどきの思いを惜しまず相手に与えるから。それによって、自分が危険に晒されることなどには思いも至らず。ゆえに、ついに良の想いを捕まえて、自分は良の為だけに形づくられたんだ!と思ったとしても、おいおい、それじゃあ島津さんが気の毒じゃないか、とか考えてはいけない。なんとなれば島津が愛したのはそんな透だから。野々村は透と巽のことを風間に漏らし(←これが自分的には一番赦し難かった。)風間は遂に狂気の向こう側にリタイア。良の透に向けた想いが明かされ、透が昇天(もちろん比喩)。島津は亜美を連れてフランスへ。そして次巻から、“付き人”透の登場となる。ここまで、やおい展開はないが、ひたすら、いろんな人に頬を殴られている透ちゃんである。それじゃあ、マリア様じゃなくって、キリストだよ。と。
読了日:05月31日 著者:栗本 薫

ムーン・リヴァー (角川文庫)ムーン・リヴァー (角川文庫)感想
実際、短期間で数度目の読み返し。この展開に賛否はあれど、私はこの二人が好きだ。
読了日:05月30日 著者:栗本 薫



朝日のあたる家〈1〉 (角川ルビー文庫)朝日のあたる家〈1〉 (角川ルビー文庫)感想
かつて透を愛してくれた巽と同じ歳になった自分に、静かに驚いている透。相変わらずのジゴロだが最近は女相手。大物政治家の妻雪子は透を買い、その娘の亜美は透を追いかける。亜美が健康的で生命力に溢れていて、変温動物の透ちゃんが、岩場で日光浴するイグアナみたいに女の体温と生命力にぬくもってる感じがするのは決して気のせいじゃない。以前よりは自分が好きになり、気持ちも落ち着いている透だが、ある日、巽の墓の前で良と再開する。良は麻薬に溺れて、スターの座にも翳りが出てきていた。透の中に良への愛情と懸念が湧き上がってくる。
読了日:05月27日 著者:栗本 薫

透明な愛のうつわ (on BLUEコミックス)透明な愛のうつわ (on BLUEコミックス)感想
日曜日に書店で見つけ、透明感のあるきれいな表紙に心惹かれ、月曜日中気になって頭から離れなかったので、さきほど夜中に書店に買いに行った。設定が全ての異種婚姻譚的なやつ。登場人物全部それぞれちょっとだけうざったいような。でも絵も、ストーリーもとてもキレイだった。自分の心がささくれてなかったら、もっと素直に読めたんだろうなあ。
読了日:05月24日 著者:hitomi

宇宙兄弟(41) (モーニング KC)宇宙兄弟(41) (モーニング KC)感想
もーなんなの!(`ヘ´)。ヒビトに悪いことが起きそうで、ドキドキしっぱなしでしたよ! 兄ちゃんが付いているから大丈夫だと、41巻まで読者を連れてきてバッドドリームはさすがにないだろう、と自分に言い聞かせながら、読みました。もう、早く地球に帰っておいで・・・・・(母より←ウソ)
読了日:05月24日 著者:小山 宙哉

翼あるもの (下) (文春文庫 (290‐5))翼あるもの (下) (文春文庫 (290‐5))感想
透ちゃんが愛しい。切なすぎる。上巻がA面だとしたら下巻はB面。煌めくスター今西良のドラマ撮りを巡る騒動の裏に、影となった存在森田透と巽の秘められた愛情の物語。上巻がまったく共感できない風間のモノローグだったのでちょっとキツかったが、下巻は透視点なので、最初のページから、もう、胸が潰れる思いで読む。女性的な美しい顔や肢体に生まれた故に、子供の頃から好色の餌食になってきた透の抱える人間不信、それを強引に溶かした挙げ句の巽の背信、その巽を守るがための透の選択、すべてが哀しい。巽の死が語られないのも空恐ろしい。
読了日:05月22日 著者:栗本 薫

翼あるもの (上) (文春文庫 (290‐4))翼あるもの (上) (文春文庫 (290‐4))感想
○十年ぶりの再読。これは、風間視点の今西良への妄想の書。この本の中に良本人はどこにもいないのだ。偶像化され周囲の崇拝者から勝手にイメージを与えられたアイドルとなった青年の真実の姿やその思いが語られることはない。ひたすら周囲の身勝手な妄想とさや当てと嫉妬。その不毛なエネルギー量がもの凄い。当時のアイドル論、音楽論を反映した作品としても凄いものだったのだろうな。最後に劇的に破壊的な手段に出る良の胸の内を聞くことができるのは、『朝日のあたる家』までお預け。すでにグループを去っている森田透は名前のみ登場。
読了日:05月20日 著者:栗本 薫

所轄刑事・麻生龍太郎 (新潮文庫)所轄刑事・麻生龍太郎 (新潮文庫)感想
『RIKOシリーズ』『聖なる黒夜』の麻生龍太郎、駆け出しの所轄刑事時代の短編集。麻生の所属する高橋署、読み方は「たかばし」場所は江東区高橋で、現実世界では深川署。そして、思いのほかワンコ本だった。「早く行ってやらないとな。もし奴が本ボシなら、今ならまだ、刑事事件としては微罪だ。謝罪させてそれで被害者が納得すれば、送検しなくても済む。だがほおっておけばきっとエスカレートする。未来を棒に振る前に、止めてやろう」先輩の今津刑事の言葉が心底優しく聞こえる。後の山内練の事件の時の麻生の思いにも通底するものがある。
読了日:05月14日 著者:柴田 よしき

逃亡テレメトリー: マーダーボット・ダイアリー (創元SF文庫 SFウ 15-4)逃亡テレメトリー: マーダーボット・ダイアリー (創元SF文庫 SFウ 15-4)感想
メンサーを(グレイクリス社から)守ることを至上命題とし、防御にかけては隙だらけのプリザベーション連合の治安システムと警備当局に終始イライラいらいらしています。弊機。(笑)おまけに不得意でめんどーくさい人間の対応もせざるを得ず、ストレス高め。例によって、冒頭からぼやきが止まりません。おまけに、弊機のプリザベーション・ステーションの中での立場を向上させる為にも、警備当局と協働して緊張関係を緩和すべき、と考えるメンサーの指示で、警備局と殺人事件の捜査協力をするはめになり、イライラ値も絶賛向上中(笑)。
読了日:05月09日 著者:マーサ・ウェルズ

キャバレー (角川文庫)キャバレー (角川文庫)感想
久しぶりに、明日の仕事の事も考えずに夢中で読み切った。初読はたぶん初版、1984年って。年はとりたくないもんだ。今にして読むと、矢代君が青いったら。。。若いったら。。。この歳になると、さすがに矢代の内心ポエムはちょっと恥ずかしくはある。ジャズの世界で生きるべく、生まれ育ちを捨てて、場末のキャバレーで人生修行中のサックス奏者矢代と、強面のヤクザの滝川の束の間の邂逅。きらめく才能と無知と若さ故の向こう見ずを、まるで壊れやすい宝物のように守ろうとする滝川。場末が場末らしく、ヤクザがヤクザらしかった時代。
読了日:05月06日 著者:栗本 薫

ムーン・リヴァー (角川文庫)ムーン・リヴァー (角川文庫)感想
言葉がない。こんな愛情があるのか、小説だからこそあり得るのか。栗本薫だからこそこんな小説を世に出せたのか。『翼あるもの』から30年、作中でも10年以上にはなるのだろうか。森田透を囲う島津の愛。今西良を愛しつつも島津も愛する透。嫉妬と欲情と妄執の果て、殺人に等しい行為でも壊すことのできない純愛。どろどろの愛欲まみれなのに、清らかで尊くすらある二人に言葉を失う。癌に冒された島津との最後の壮絶な時間と、島津を失った後の透の圧倒的な孤独。この喪失を抱えて透はこれからどのように生きていくのだろうか。
読了日:05月04日 著者:栗本 薫

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