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2020年12月5日土曜日

0234 砂漠の標的(ハヤカワ・ミステリ文庫)

書 名 「砂漠の標的」 
原 題 「UNCLE TARGET」1988年 
著 者 ギャビン・ライアル
翻訳者 菊池 光 
出 版 早川書房 1997年7月 
初 読  2020年12月

 マクシム少佐、4冊目。マクシム少佐の本はこれで最後。あまりにも勿体ないが、読まないわけにはいかない。
 首相の交代で、ジョージ・ハービンガーと供に首相官邸を辞して以来、ロンドン軍管区で、隊を指揮しているマクシム少佐。迷彩の戦闘服に耳の穴まで迷彩のドーランぬったくって、楽しそうに部下をしごいている。訓練の成果を問われれば、「ガールスカウトの方がまし」。でも彼にいわせればこれは“誉め言葉”で、真意は部下にも伝わっている、らしい。
 アグネスともベッドの中でしっくりしているとのこと。おやおや、いつのまにそこまで? 良かったじゃないか。でもまだ、プロポーズにまでは至っていない模様で、アグネスも弱冠収まりが悪そうに見える。

 そんな折、ロンドンの某高級ホテルで人質事件が発生する。初めは誰もが自分には無関係とたかをくくっていたが、人質にとられたのが、現在情勢不安なヨルダンの軍事指導者だとわかり、しかもそれがマクシムの知り合いであることも判明。救出作戦にかり出されたSASのヘリが故障し、到着が遅延、人質は拷問されており事態は一刻を争う。なぜかホテルで現地指揮を執っているのがハービンガーで、もはやマクシムが突入作戦をやらざるを得ない状況である。

 実はイギリスは最新式の戦車の試作品をヨルダンの砂漠で試走行させている最中で、ヨルダンで起きた軍部隊の反乱の最中、その戦車の行方が知れなくなる。先の人質拷問事件は、反政府側がこの戦車の行方を聞き出そうとしたものだったらしい。反政府側はソ連と繋がっている可能性が高く、新型戦車をソ連に売りつけようとしたのか、もしくは新型戦車の情報ほしさに東側が反乱を焚きつけたのか?
 絶賛巻き込まれ中の当のマクシム少佐は、根っからの歩兵であり、より人間の戦闘力重視のSASが長かったこともあり、重鈍な戦車が好きではない模様。「君は戦車が好きではないのか」とのジョージの問いにこう答える。

「ばかでかくて、騒々しくて、煙とにおいが酷くて、窮屈で、やたら目を引く点さえのぞけば、不服はありません」

 陣地の奪取はヘリでもできるが、それを守るのは人間だ、とも。そんな彼が人質事件の後始末で“外務省の使い”のためヨルダンに出向き、事件の録音テープをヨルダン当局に渡すだけのはずが、ついうっかり迷子の新型戦車の位置を特定してしまい、あれよという間に戦車爆破班のリーダーに。

“おれはテープを届けにきただけだ、とマクシムは無言でいい返した。はやく自分のデスクとアグネスのベッドに戻りたいんだ。”

 そんな心の声にもかかわらず、気付いた時には作戦のど真ん中で指揮を執っている、マクシム少佐(平常運転)である。(笑)

 そして、彼らを乗せて戻るはずだったヘリが墜落。マクシム達は爆破するはずだった戦車に乗って陸路サウジに向けて脱出を図ることになるのだが。戦車は好きではないといってはばからなかったマクシムが、だんだん戦車に愛着を覚えていくところがそこはかとなく可笑しい。

 さて、マクシムが砂漠で野放しになっていると知って慌てるのがイギリス本国。なにしろ転んだら只では起きてくれない(?)男である。さっそく敵戦車1台撃破、の報が入ってきて外務省が頭を抱える。イギリス政府がヨルダンに賠償するんだぞ、と。
 
「・・・ヨルダンにおける我が国の方針は、目下ハリイ・マクシム少佐によってつくられつつあります。それを止めようにも連絡がとれないのです」
「マクシム? マクシム少佐? 何者です」
 一呼吸の間がおかれてから、准将がこたえた。「戦車の指揮を————推測ですが———とっている男です」
「先日ホテルの人質事件でも突入しました」スコット—スコビイがつけくわえた。「事件となると役に立つ男です」「まだ事件になっていないときは」と、スプレイグ。「彼が行けば、5分以内に事件になります」

外務省、国防省、陸軍、情報部・・・・のおなじみの仲良しグループ(?)が寄せ集まって事態の進行をなんとか管理しようと空しい努力を続ける中、ハリイに寄せられる評価がコレだ。

 そして、なんとかサウジアラビア国境まで目と鼻の先のところまできて、ついに反乱軍に包囲されるマクシムの戦車。そんな危機を救ったのは、結局のところ、アグネスとジョージのタッグなんだよなあ。愛と友情・・・・の物語では決してないのだが。なにはともあれ、非常に面白い。これは諜報物でも軍事物でもアクションでもなく、ただただ、マクシム少佐の為人を味わう本である。

 

2020年10月17日土曜日

0225 クロッカスの反乱

書 名 「クロッカスの反乱」 
原 題 「THE CROCUS LIST 」1985年 
著 者 ギャビン・ライアル
翻訳者 菊池 光 
出 版 早川書房 1995年4月 
初 読 2020/10/17

「プレイペン作戦」 
 核攻撃危機下における首都要人移送作戦である。
 ヘリで首都の国王・政府要人等を直接「核」の影響の及ぶ範囲外に緊急輸送する秘密作戦。ヘリは飛び立ったら戻ってこないのでプレイペン作戦を指揮する現地指揮官は、そのまま残留し、必要とあらば(可能な状況であれば?)後方残留作戦(敵占領下における組織的レジスタンス戦)に移行する・・・・・・ 

 首相の退任でジョージ・ハービンガーとともに首相官邸を去ったマクシムは、陸軍のロンドン管区に異動している。ハービンガーは国防省に出戻り。ハービンガーって、国防省の文官だったのか。
 マクシムは自分の出身部隊に戻ったわけではないらしい。もともとSASで海外勤務となっていた期間が長くて出身部隊と縁が薄くなっているところに、首相官邸付きの空白期間が加わり、マクシムの履歴はいささか危機的な状況に陥っている。少佐になって幕僚大学校に進むタイミングで中東で戦傷を受けて、6か月の時間とチャンスを既にフイにしており、有能である事は誰もが認めているものの、軍幹部に昇進していくためには是非とも(政治と社交に)必要な妻もテロで失っている。今回の配置は、せめてここロンドンで余暇のたっぷりある任務を割り当てて、異性と出会い再婚するチャンスを与えようという軍の温情であるらしい。目下はプレイペン部隊に割り当てられ、後方残留作戦やらの研修・演習の日々。

 そこに突然、ロンドンを騒がず事態が起こる。
 もと軍人の老公爵(王族)が亡くなり各国要人が集まる盛大な葬儀が行われる。
 そこにアメリカ大統領まで来ることになり、警備上の大問題となる。ひそかにプレイペン作戦の予備段階が発動し、大統領警護の特別編成小隊の指揮はマクシムが担うことになった。そして葬儀のさなか、寺院の中で発砲されたAK47。犯人はマクシムに発見されて手榴弾で自爆、ソ連製の武器をあからさまに使った凶行に、ソ連の立場を損いたい勢力の関与が疑われる。

 マクシムは国内外のもろもろの思惑を収拾するために「命令からの逸脱行為」やら「無謀な追跡」やらの責任を問われてて生贄にされかねない事態に。つくづくと不運な男である。しかしマクシムが気になるのは我が身の無事より事実。「ロシアとのかかわりをどうやってもみけすのか?(出来るのか?)」 若干天然気味の斬れ味鋭いツッコミが彼の持ち味である。(笑)
 そんなこんなで、自分の身を自分で守らざるを得なくなるマクシム、そして、そんな立場にマクシムを追い込んでしまったジョージは、なれない諜報活動に首を突っ込む羽目になる。前巻までは辛うじて保たれていた上下関係も、首相官邸を離れればもはや「友人」としか言いようのない関係で、こうなると、どう見てもマクシムの方が天然なだけに強い(笑)

 アグネスに対してはマクシム、紆余曲折の末なんとか「愛している」との自覚に達し、今後の展開が楽しみ。今回、なぜせっかくのチャンスに童貞ティーンエイジャーみたいなことになってしまったのかは謎(笑)。次は上手にベッドインできると良いのだが。

 そして、なんと言っても今回の一番のお気に入りは、プレイペン作戦本部の副本部長だ。退役陸軍少将。現在のマクシムの上司。ご老体なんだろうが、いやあ、しみじみと格好良い、筋金入りの軍人。マクシムにこんな理解者がいて本当に良かったと思う。

 「ハリイ。きみは孤独な道を歩んでいるようだな・・・・」

 「よろしい。3時間与える。連絡がなかったらわしがなんとかしなければならん」

 自由裁量を許すだけでなく、その責任を取ることまでも請け負ってくれる立派な上官である。人間、こういう上司の下でなら、120%以上の能力を発揮するものだ。今時はこういう人物は貴重品かもしれない。
 他の人のレビューをみるとこの本、他のマクシム本にくらべてそんなに評価が高いわけではないのだが、いやあ、面白かったわ。全体的に派手さはないが、じっくりと読ませてくれる。政治の姑息さも、官僚組織のあれこれも、スパイ組織のこれそれも。結局の黒幕がアレとか、あいつも仲間だったのか、とか、ちょっとラストのインパクトが物足りない気もするけど、どうやって収拾したのかも気になるけれど、その後ちゃんとベッドインできたのか、とかも色々と気になるけれど、なにしろ、マクシム少佐の為人を味わう本なので(笑)
それにしても、最終的に某モスクワの諜報機関とはどのように落とし前つけるんだか。ハリイの身の安全は守られるのか???

2020年10月11日日曜日

0224 マクシム少佐の指揮

書 名 「マクシム少佐の指揮」 
原 題 「THE CONDUCT OF MAJOR MAXIM」1982年 
著 者 ギャビン・ライアル 
翻訳者 菊池 光 
出 版 早川書房 1994年4月 
初 読 2020/10/11

 マクシム少佐2冊目。
 事件やストーリーを読むというより、マクシム少佐の為人を楽しむ本。
 「それは、ロマンティックなたわごとだよ。」
 「軍人はロマンティックなのです。」マクシムが平静な口調で言った。「彼らは、戦争映画を見て、奇妙な服装をし、自分たちを竜騎兵近衛隊員といった奇妙な名で呼ぶのです」
 あくまで平静で、穏やかに表情を変えずに語るハリイ・マクシム少佐であるが、実は沸点けっこう低め。内心は、任務で死ぬことを義務として受け入れている若い元SAS隊員が、無謀な諜報活動に消耗品のごとく利用されたことに怒り心頭。そして、こういう時の彼は無言で行動にでるのだ。今回は、スパイ活動でも超有能なことを証明するマクシム少佐である。自分を監視していたMI6の諜報員二人組を、無線も使えず、応援を呼べないエリアに誘い込み、急襲し、殴り倒し、車載の無線機を完膚なきまでに破壊し、拉致し、拷問(?)の恐怖を加えて自白を得る、お見事な手腕である。実戦向きではない気取ったMI6要員に対して、対IRAのテロ・諜報対策を、頭にではなく体に叩き込まれているSAS舐めんな、って感じですかね。清々しいまでの実力行使。やられた方には哀れを誘われる(笑)。
 それにしても、マクシム少佐の本は4冊しかないので、読むのがあまりにも勿体なく、なかなか先に進めない(笑)
 少佐は決して正義漢ってわけではなく、形容するに一番しっくりくるのは、義務に対する忠誠とやはり軍人としての矜持。それは自分が実行するだけでなく、部下、もしくは若い兵士のそれに対して応えるべき上官の義務としても存在するわけで、今回はそういう、部下を持つ上官としての心意気がキモ。
 事は東ドイツの政治指導部の人員刷新に端を発した諜報戦から、どんどん巻き込まれて深入りし、こうなってくるとおいそれとは手を引けないマクシム少佐は、ジョージが差し出した書類に微笑を湛えてサインをして、手勢を連れて決戦に臨むことになる。
 マクシムが署名した書類は、過去日付の辞表。万が一マクシムが失敗してその行動が白日の下に晒されたときに、英国政府が非難されないようにするため。「彼は数日前に辞任しており、イギリス政府は彼の行動に一切関知していない。彼は相応の責任を問われるであろう」とか言うためのものか?組織の捨て駒である。

「ひとつだけ。この件に関するわたしのやり方を考えると、極秘などということは問題ではなくなる。大勢の人間が—もちろん、向こう側だが——何が起きたか知ることになります」

 奪われた人質を奪還するため、あくまでも、戦闘員、それも精鋭としての作法で動くマクシムと部下(全員が元SASだ)は、交戦の前に、身元が判明する可能性のある持ち物を全て外す。
 “みんな、自信にみちた静かな態度で立っていた。アグネスは、彼らが自分の死体の身元がわからないようにしたのに気づいて、思わず身震いした。”
 アグネスがバックアップに付き、手勢を引き連れて敵に対するマクシム少佐。その戦いは片やサイレンサー付きの軽機関銃と拳銃(スパイ側)、片や手榴弾と散弾銃(マクシム側)という圧倒的武力差。極秘などということは問題でなくなる、というマクシムの予告どおり、人的資源の欠如を殺傷力で補って、静かに事を済まそうなどとは毛頭考えていない。結果は敵スパイの死に際のセリフ「軍人とは闘いたくない」。しかし、マクシム側も仲間を喪うことになる。そして、その結果は、はやりマクシムが背負うのだ。「俺が指揮官だった」

 アグネスとの一線を越えかねているのは、再び恋人を持つ喜びよりも、もう一度最愛の人を喪う可能性のほうが心に堪えているのだろうな、と推測する。実家で育つ一人息子の小学校のPTA(?)の奥様連が「人柄のよいマクシム少佐」をとにかく誰かと結婚させようと画策していて、それを微笑を湛えてかわしているマクシムの非番のひとときも微笑ましかった。

2020年6月13日土曜日

0204 影の護衛

書 名 「影の護衛」 
著 者 ギャビン・ライアル 
翻訳者 菊池 光 
出 版 早川書房 1993年6月 
初 読 2020/06/13 

 マクシム少佐、渋くて、ちょっとニヒルで、格好いい。傍目にはそれとは見えない熱を持っていて、自分の義務に忠実。目先のことをやるだけでなく、自分の立ち位置、存在意義、全体像を俯瞰できる感性を持っていて、ほんのちょっと、甘さもあって、なによりも自信がある。要は、人間味と存在感がある。
 ガチの陸軍将校(歩兵大隊出身、SASを二期つとめ、軍服にはパラシュート記章)。
 妻は、中東の任地にマクシムを訪ねたおり、搭乗した輸送機が爆破されて死亡。10歳の一人息子は両親の家で育てられている。一人暮らしの部屋とデューク・エリントンのレコード。官邸内での微妙な立ち位置。町中での銃撃戦かと思うと、KGB将校との駆け引き。日常と非日常がきわどく接している緊張感と、自分は腕力だけの兵隊ではない、国防に携わる陸軍将校であるとの強い矜持、政治とは違う規範で行動していることの有言・無言の主張。これらが綯い交ぜになって、マクシム少佐という男を形作っている。

  そんな彼は、このたび首相官邸勤務に抜擢されて、当初、何をすべきか途方に暮れたものの、着任早々、首相官邸に手榴弾(実は模擬弾)が投げ込まれる事件があり、それに対処したことから、新しい職場に馴染みはじめる。そして、諜報のまねごとをする羽目になる。だんだんまねごとでは済まなくなるが、軍人らしい寡黙さと、果断な決断力と行動力は、上司である首相補佐官(ジョージ)も不安を催すほど(笑)。ただし、本人は、あくまでも自分の判断で必要とされたことを自分なりにこなしているだけ。

 時代は冷戦時代、第三次世界大戦は核戦争であると誰もが確信していた時代である。
 イギリスとアイルランド、フランス、チェコ、ソ連。当時の関係性にさほど詳しいわけではないが、あの時代の空気感は、記憶にある。とにかく諜報戦が渋くて、静か。元SASだからといって、いたずらに銃をぶっ放したり、町中を駆けずりまわったりする作品ではない。陸軍将校同士の平時の付き合いとか、軍隊内の日常など、政治とは別の世界の、もともとマクシム少佐の馴染んでいた世界が垣間見えるのも良い。

 訳のカタカナが少々時代がかって見えるが、気になるほどではない。(主人公が「ハリー」ではなく「ハリィ」であったり、セーターがスエター、ウィスキィがストレイトであったりする程度だ。要は、菊池光氏の翻訳だ。菊池氏の仕事は他にはヒギンズ、ディック・フランシス、ロバート・B・パーカー、、、、と。納得。訳者で追いかけるのもおつです。
 『深夜プラス1』も良かったが、自分的にはこちらの方が好み。「深夜プラス1」のように、そのうち新訳出してくれないかしら。それも読んでみたい気がする。

2017年10月27日金曜日

0065 鷲は飛び立った

書 名 「鷲は飛び立った 」 
著 者 ジャック・ヒギンズ 
翻訳者 菊池 光 
出 版 早川書房 1997/4 
初 読  2017/10/27 

 なにぶんにも評価の分かれる、人言うところの、「作者による二次創作」。そうはいっても、生きて動いているリーアムとシュタイナを見たくて、恐る恐る手を出した次第。

 シュタイナとリーアムが格好良くて、味方はとことん有能で頭脳明晰、首尾良く英国を脱出して何の因果かあの男の命を助け、その上某国に脱出。というお気楽展開である。
 「鷲は舞い降りた」が戦争小説ならこちらは娯楽小説以上でも以下でもなく。もっともその違いは物語の出来ではなく、物語を牽引するキャラの違いかもしれない。鷲舞はメインがラードルとシュタイナなので真面目・真剣自ずと事態も深刻になったが、鷲飛はなにせ享楽デブリンと考え無しの米国人エイサ、勝ち組シェレンベルクと来ては、勢いストーリ展開もなにやら楽しげな様相に。

 ①絶妙なタイミングでリーアムと接触し、
 ②凄腕パイロットが運良く見つかって、
 ③ちょうど良い飛行機をゲット、
 ④幸運にも目的地近くに絶好の英国内協力者の私設飛行場があり!
 ⑤おまけにシュタイナが幽閉されている建物の詳細な図面は元々手元にあり、
 ⑥人に知られていない地下道まである!

という極めてご都合のよろしい展開(笑)。読んでいるうちは気にならなかったが、こうして並べるとなんだかヒドい話だな(笑)。それでも面白く読ませる作者の筆力はたいしたもの。読む価値があるかどうかは各々の評価に任せたい。ま、面白かったですよ。これよりつまらない話もごまんと世に出ている。さすがはヒギンズです。

 それにこれは、パラレルワールドの入り口かもしれない。
 シュタイナが生きていて、リーアムとアイリッシュウイスキーを酌み交わし、たまにはリーアムに手を貸して英国政府に嫌がらせして。普段はアイルランドの僻地でタバコ吸いつつ羊を追ったり、本を読んだり。
 鷲舞の戦士達のうち一人くらい、そんな戦後を送らせてあげても良いじゃないか、とちょこっと思ったりもするから。

2017年10月20日金曜日

0064 鷲は舞いおりた〔完全版〕

書 名 「鷲は舞いおりた〔完全版〕」 
著 者 ジャック・ヒギンズ 
翻訳者 菊池 光 
出 版 早川書房 1997/4 
初 読 2017/10/20 

  作戦が失敗し部隊も犠牲になったきっかけは、部下が子供を助けて命を落としたこと。そのことがどこか誇らしげなシュタイナ中佐だった。そもそも、作戦が成功するか否かは、大して問題ではなかったのだ。
 ナチスに反感を抱き、ドイツの敗戦を確信しながら、何の為に戦うのか。この戦争は命を落とす価値があるのか。彼らは自問しつつ、それでも戦いの中に身を投じ、すべてを賭して戦う。
 戦争の無残と敵味方に分かれて殺し合うことの虚しさ、そして誰もが自分の人生を歩む人間であることを描き切った名作。オルガニストの兵士や、バードウォッチングが趣味な兵士、平時の素顔を知ってしまったことで、いっそう、戦争のむごさが身に染みる。緻密に編んだはずの編み目が少しづつ綻んで、一気に破綻していく過程が悲壮だ。
人間の無能と衝動だけは予測がつかない。

 そしてマックス・ラードル中佐に惚れた。軍服の着こなし、まるで制式であるかのような眼帯、黒手袋。完璧だ。保身もするし、ヒムラーの前では心臓がバクバクする人間味がまた良い。鷲が飛び立つ前までにラードル中佐を求めて3回も読み返してしまった(笑)。中盤の一文“ラードルは後日妻に語ったように” からラードルが生きて妻に再会出来たらしいことが分かるので、読んでいてせめて気持ちが救われる。マックスとクルトの友情が良い。マックスの体を気遣うホーファの忠誠、冬季戦線で失った部下達への思い。台詞の一つ一つに心を打たれた。名作です。でも中盤は、リーアムのおいたが過ぎるのが読んでいて辛く、読書スピードが落ちる。敵地に先行したリーアムが衝動の赴くまませっせと地雷を埋設してるし!!フラグ立てるし!!マックス、これは人選ミスだよ。でも終盤は、そんなリーアムでさえ格好良く見えてきて、自分に驚いた(笑)。