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2025年12月21日日曜日

0573 初雪 海は灰色 第一部

書 名 「初雪 海は灰色 第一部 」
著 者 柴田 よしき      
出 版 角川書店 2025年12月
文 庫 288ページ
初 読 2025年12月20日
ISBN-10 4041169135
ISBN-13 978-4041169131
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/132244150

 待って、待って、待って、待ち続けた待望の続刊。
 「聖なる黒夜」から「私立探偵・麻生龍太郎」を経て、道を分かったはずの麻生と練が、再び語らう。

 「聖なる黒夜」を読んで頭ん中がうわーーーーーっとなって、続き!続き!こいつらこれからどうなっていくんだ〜〜〜とネットを徘徊し、柴田よしきさんが続話をWEBで連載していたことは知ることができたが、その時点で、もう「海は灰色」はWEBから下げられていて、愛読者のブログなどでおぼろげに輪郭が分かるだけの、まぼろしの作品と化していた。いつかは、いつかは刊行されるに違いない、と思って待ち続けてはや〇年。このたびついに刊行され、やっと手にとることが叶った『聖なる黒夜』続刊である。

 てっきり、練のあの事件の真相を追う話だと思い込んでいたんだが、出だしはなんと、龍太郎の逃げた奥さんを探す旅だった。そこに練が乱入、その上2人が滞在する鄙びた温泉街で殺人事件と傷害事件が起こる。正統派な推理小説仕立てながら、根城の新宿を離れて身軽な風情な練と、前科がついて、裏街道をとぼとぼと行くしかなくなった龍太郎が、一緒に同じ事件を追う、という、なんというか、『聖黒』ファンにとっては、ボーナストラックみたいな、なんだか時期的にはクリスマスプレゼントみたいな作品であった。
 私は練ちゃん贔屓なもんで、麻生龍太郎ははっきりいって憎々しく思っていたのだが、なんかこの作品を読んでそんな気分も霧散した。2人の腐れ縁はこれからも切っても切れないし、龍太郎にとって、今生きている練は、暴風雨の後に一輪健気に咲き続けている小さな花なのか、と思ったら、ついうっかり、龍太郎の練を愛しく思う気持ちに移入してしまったよ。練は「練」なのだけど、なんとなく泥の中に咲く「蓮」を連想した。

 練にとっては、龍太郎は練の過去も現在も等しく知っているほぼ唯一の存在なんだな、と考えると、練の龍太郎に対する執着も分かるような気がする。練の胸に止まっているウスバシロチョウの意味も、そもそもそこにウスバシロチョウを彫っていることだって、知っているのは龍太郎以外に誰がいるのか。そういや、作中で練が温泉に入るくだりで、練が背中に彫りモンがあるような記述だったが、練って背中に何かしょってたっけ?どうにも思い出せない。『聖黒』の細部の記憶がだいぶおぼろげになったところで、『RIKO』から刊行順に読み直すのも乙かもしれんな。

 このほとんど救いのないような練・龍の2人がこれからどうなっていくのかは、続刊を待つしかない。ちなみに続刊の発行は、26年12月、つまり1年後だそう。またまた長いな〜〜〜。いっそのこと揃ってから一気読みしたいくらいだが、読者はこの本を待ってたんだ!という心意気を示すためにも、予約で買いました。ついでに、Kindle版も購入したので、2冊買いだ。それくらい応援している。続刊をあと1年、待ちます。なお、作者様のXによれば、この作品は3部作になるそうだ。そして、第二部以降は大幅なリライトになると。はい。お待ちしております。『海は灰色』刊行してくれてありがとう!

2025年10月19日日曜日

0566 ババヤガの夜  英国推理作家協会賞(ダガー賞)

書 名 「ババヤガの夜」
著 者 王谷 晶
出 版 河出書房新社 2023年5月
文 庫 208ページ
初 読 2025年10月19日
ISBN-10 4309419658
ISBN-13 978-4309419657
読書メーター    

 書店の平積みになったダガー賞受賞の帯に「ほう?」と気が惹かれて読んだ。だが大変に失礼ながら、ダガー賞を受賞するほどなのかなあ。よほど翻訳が上手かったんだろうか、それとも最近欧米で大はやりと聞く日本風味(ヤクザ)が目を惹いたのか、などど、とちょっと意地悪い感想も抱いてしまった。
 任侠ではない、「暴力団」って感じのヤクザもの。そのヤクザの組長宅に、一匹狼の、やたらと喧嘩が強くて暴力が大好きな大柄な女が、自分の意志とは関係なく引きずり込まれる。
 年代を特定するヒントが少ないなかで、なんとなく現代だと思って話を読んでいくと、途中で、え?となる。徹頭徹尾、血生臭さと腐臭と汚臭が漂うバイオレンスだが、あまり深くはない。ちょっとした叙述トリックがあり、途中でちょっと戸惑うものの、理解してしまえばなんということもない。最初の方で感じた芳子のつれあいの言葉遣いの、違和感というほどでもないひっかかりは、ちゃんと帳尻があう。
 なにしろあっという間に読めるので、血生臭いのが大丈夫ならちょっと読んで見てもよいのでは、とオススメしたい。しかし、ラストはちょっとファンタジーっぽすぎるかなあ。全編血生臭さと腐臭がただようが、その実メルヘンだと思った。

 個人的には、柳がどうなったのかが気になる。ヤクザの若頭補佐をつとめようという男が、ちょっと甘すぎるんじゃないか、とは思って、そこにもかるくひっかかった。
 韓国釜山と下関を結ぶ国際フェリー就航が1970年。柳は家族を連れて韓国に渡ることができたんだろうか。

2023年4月10日月曜日

0419 ドント・ストップ・ザ・ダンス (講談社文庫)

書 名 「ドント・ストップ・ザ・ダンス」 
著 者 柴田 よしき         
出 版 講談社 2016年8月(単行本初版 2009年7月)
文 庫 560ページ
初 読 2023年3月10日
ISBN-10 4062934647
ISBN-13 978-4062934640
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/113021593
 園長探偵ハナちゃんシリーズ、最終作になる5作目。読んでしまうのが名残惜しい。だからって、読了に一ヶ月以上掛かったのは、読み惜しんだからではなく、仕事の超繁忙期と家庭の事情と、体力の都合ゆえ。疲労困憊で、週末毎に実家に通う往復の電車でも、イスに座ったとたんに泥のように寝落ちしてしまう日々で、毎日読めたのは数ページだったから。読み終わったときには冒頭のエピソードは忘れかけている始末だった。
 とは、もっぱらこちらの事情で。

 我らがハナちゃんは借金返済と愛する園の子供達のため、今日もがむしゃらに走るのだ。

 前作は短編連作だったが、こちらはがっつり長編。ハナちゃんの保育園に通う小生意気な5歳児の父は、今現在は売れていない小説家。妻には逃げられ、小説は書けず・売れずで、バイトのダブルワーク、トリプルワークでなんとか日々の糧と息子の保育料を稼いでいる状態。それなのに、何者かに襲われて意識不明の重体となってしまって。他には身よりのない子供を園で世話しつつ、逃げた母親を探し、一方で美味い稼ぎになるはずだった城島からの探偵仕事は、どんどんきな臭くなっていく。ヒットマンの影がちらつくころには、進むも引くもならない窮状に陥るハナちゃん。そして早朝の新宿駅のホームで背中をどつかれて、列車が進行してくるなか、ハナちゃんが宙に舞う!?
・・・・と、なんともテンポもよろしく、これでもか、と窮地の波状攻撃なのは通常運転といえなくもない。聖黒界隈で一番、不遇な男であるハナちゃんは今日も命からがらだ。
 
 それにしても、柴田よしきさんのこの聖黒関連のシリーズは、なぜか私の土地勘のあるエリアが舞台になっていることが多い。この作では東急田園都市線の青葉台駅が登場。最近は月にに数回は行っている。なぜならば、実家詣でのコースだから。駅前のショッピングセンターは東急スクエア。2フロアを占める大型書店はブックファースト。2階の雑貨ショップ併設のカフェは無印良品だ。

 凶悪犯罪と、園児のパパへの暴行事件&家庭内争議、という大型二本立てで進行するのかとおもいきや、事件はさくっと一本にまとまり、大人達が子供時代を過ごした児童養護施設で起こったある事件に行き当たる。前の作品のレビューで児童福祉の知識が寸足らず、などと批判的なことを書いたが、作者の柴田よしきさんが、このテーマに大切に取り組んでいる感じがして、大変失礼だった、とちょっと反省している。

 この作品で、聖黒の練ちゃん登場作品は読み切ったことになる。あとは、もやはネットでも読むことができない『海は灰色』の刊行を待つばかり。今年は柴田よしき氏の作品刊行ラッシュらしいので、そのうちの一冊が『海は灰色』でありますように、と切に願っている。

2023年3月2日木曜日

コミック 囀る鳥は羽ばたかない 8 (H&C Comics ihr HertZシリーズ)

書 名 「囀る鳥は羽ばたかない 8」
著 者 ヨネダコウ        
出 版 大洋図書 2023年3月
単行本 210ページ
初 読 2023年3月2日
ISBN-10 4813033407
ISBN-13 978-4813033400

読書メーター https://bookmeter.com/reviews/112351285   
 表紙の矢代さんも、差し込みイラストの百目鬼と矢代さんの絡みも、美しいです。
 そしていきなり風呂場での絡みからスタート。そういや前巻、そんなところで終わっていたっけ。40歳になってる矢代ですが、百目鬼の目から見て、そのカラダは以前と変わらず美しいようだ。自分の感情とカラダを扱い兼ねる矢代と、力関係は逆転しているものの、そんな矢代をどうしたらいいか判らないままにほぼ体当たりな百目鬼が、不器用すぎて、読んでるこっちもどうしたら良いか判らん。
 このぶきっちょ同士、幸せになれる気がしない。

 そして明かされる矢代の秘密(?)。
 一人でいるところをあの井波に襲われてレイプされた、だと?(おい、七原!テメー何してやがった?何でガードしてねーんだよ!)←と思ったのは私だけではあるまい。
 そして、そのせいで不感症になって勃たなくなった、だと?・・・そんなことで、どうにも自棄ぎみな矢代に、百目鬼は無自覚に揺さぶりをかけ続けるし。なんだか読んでいてハラハラする。ツラい。無表情な絵に少ないセリフで、矢代も百目鬼も、どうも汲み取るべき感情がどこら辺にあるのかがよくわからん。連載ネタバレブログをいくつか読んでいるが、皆さんよくぞあそこまで深読みできるな?!
 桜一家の内紛と、三角の道心会の縄張り荒らしが一本につながって、荒れるのはこれから。次巻が最速でも一年後ってのもツラいね。

2022年10月9日日曜日

0396 ア・ソング・フォー・ユー (講談社文庫)

書 名 「ア・ソング・フォー・ユー」 
著 者 柴田 よしき
出 版 講談社 2014年12月
   (単行本初版 2007年9月)
文 庫 560ページ
初 読 2022年10月7日
ISBN-10 4062767503
ISBN-13 978-4062767507

 園長探偵ハナちゃんシリーズ、第4弾。
 短編集かと思いきや、2からは短編連作っぽい作りになってる。
 赤ん坊はなぜ、そこに捨てられたのか。
 捨てたのは誰なのか。
 「子供はみんな幸せであるべきだ。子供たちを幸せにすることができないのなら、俺たち大人なんて、生きてる価値なんかない。」その通りだね。ハナちゃん。そして子ども時代が幸せなら、大抵の大人は大人になってからも幸せになれるはず。・・・なんて書いてから、練のことを思い出して「そうでもないか・・・」と思ってしまったよ。
 悲しい・・・・・

1. ブルーライトヨコハマ
 ハリウッドセレブとなった日本人女性からの、奇妙な依頼。呪いの藁人形の持ち主だった当時の少年の捜索。
 しかし依頼は依頼。一枚の古い写真から、当時高校生だった男子学生の学校を割り出し、卒業アルバムから本人を特定し、昔の住まいを訪ね、地道に情報を集める探偵ハナちゃん。今回は危険もなく、ぽっと胸が温かくなるラストも良い。

2.アカシアの雨
 アカシアの雨からは短編連作。ハナちゃんの保育園があるビルと、その隣のビルのわずか20センチくらいの隙間に捨てられた生後間もない赤ん坊。
 そして、城島のもの凄く美人な姪っ子から舞い込んだ意外性のある依頼・オカメインコの捜索。
 赤ん坊は無事保護されたが、ハナちゃんは赤ん坊を捨てたのが誰か、気になってしかたない。赤ん坊を捨てたのは子どもだったらしい。もし、その子が赤ん坊の母だったら?その子は、今どうしているのだろう?
 おまけにハナちゃんは美人のオカメインコの飼い主の言動にただならぬものを感じてしまう。オカメインコの居所は掴んだが、はたして、その美人の飼い主を救うことはできるのか?

3.プレイバックPART3
 新宿の靴磨きカンちゃんの災難。 赤ん坊を捨てた人物はいまだ判らず。ゲームセンターの女の子は誰? 
 カンちゃんのパートナーの巨体のミヤさんがとても素敵。まさかの偶然で、カンちゃんに怪我させた女の子と、子連れの売春婦と、捨て子の赤ん坊がつながって。 
  あまりにも理不尽な世の中に、ハナちゃんは涙する。

4.骨まで愛して
 ここに至って新たな依頼が2件も! 一件は恋人から、「お骨を探してほしい」との奇妙な依頼。もう一件はなんとカネゴンこと美形の女顔の広域指定暴力団の若頭から。渋谷で練に捕獲されて、連れて行かれたのは大久保の老舗の組事務所。そこにいた組長の正体にハナちゃんは驚愕。
 赤ちゃん—赤ちゃんを捨てた少年—赤ちゃんを産んだ女・・・・とただただ金にもならぬ人助けをしただけなのに、結局練に理不尽に絡まれて、やらされた仕事は、後腐れ無く使える鉄砲玉のスカウトとは。
 ハナちゃんの無念が忍ばれる。

5.エピローグ
 そして麻生登場。
 マックでマヨネーズ垂らしながらバーガー喰ってただけだけど。 
 なんとなくくたびれた中年男になっている龍太郎は、元々私のイメージ通りではあるのだが、直前に読んでいたRIKOシリーズでは足の長いハンサム男だったりするので、ちょっと自分の中のイメージにはブレが生じる。 
 ハナちゃんは捜査一課の元名刑事とは面識がないらしい。麻生の方はどうなのかな?かつて同僚を射殺して警察を去った、暴対の刑事の顔は知らないのだろうか。麻生が頑固な分、元刑事のハナちゃんが身代わりで練にもてあそばれて、割を食っているような気がしてならんのだけど。

   あと、練がハナちゃんより年上って、やっぱりハナちゃんの勘違いじゃあないのかな? 

2022年10月4日火曜日

0395 月神の浅き夢 (角川文庫)

書 名 「月神の浅き夢」
著 者 柴田 よしき         
出 版 角川書店 2000年5月
文 庫 645ページ
初 読 2022年10月4日
ISBN-10 4043428049
ISBN-13 978-4043428045
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/109413916

 いよいよ、『聖黒』を先に読んだことを後悔する。
 被害者 玉本栄、掛川エージェンシーってだけで、激しくネタバレ状態だ。まあ、そこはぐっと目をつぶって気付かないふりして読まなければ。って言ってるそばから、泉が、彼氏はコンピューターの天才なんだ、と。それって練以外にあり得ないじゃん? やっぱり脳内を一端初期化したい。まっさらな状態でリコシリーズから読み直したい。

 そうはいっても気を取り直して、あらすじのおさらいだ。リコは息子が3歳になり、やっと安藤警視と夫婦らしい生活を営んでいる。そしてついに、刑事を辞職して息子を育て、夫に守られる生活に入ってしまおうか、と心が傾いているよう。安藤とは、長野県松本のリコの両親・・・というよりはリコの父に、結婚の赦しをもらいに行こう、と夫婦で話あっているところ。 父にとっては、リコは職場で上司と不倫して、警視庁を追われた不名誉極まりない娘だったし、安藤は、既婚者でありながら部下の初心な娘に手をだして、おまけに未婚の母にまでした、憎い男だ。しかし、生まれてきた孫は可愛いし、安藤が身辺を整理して、リコと結婚の覚悟を決めたとあっては、和解する潮時だった。

 そんな矢先に、凄惨な連続殺人事件が発生する。犠牲者はすべて私服刑事。独身、美男子。
 手足と性器を切断されて、首を吊られた状態で発見された。犠牲者はすでに5人に及ぶ。
 特別捜査班が警視庁に設けられ、辰巳署のリコも、新宿署の坂上も、特捜班の助っ人に駆り出される。警視庁は、リコにとっては鬼門。今でも偏見に満ちた軽蔑の目で見る刑事たちが大勢いる。その中で、特捜班を指揮する高須は、ここで実力を見せつけろ、とリコに命じる。
 リコの捜査と、捜査の成果をこえる閃きで、事件は過去の警察の汚点であるある冤罪事件につながる。その事件の捜査には、リコの夫の安藤や、その部下だった高須も、そして麻生も関わっていて・・・。その事件の被害者の娘と、その娘につながるもう一人の娘の存在が連続殺人事件の焦点となっていくが・・・・・・

 つかみは上々。
 だがしかし。児童福祉に関する知識がちょっと寸足らずな印象を受ける。
 子供の保護を受け持つのは福祉事務所ではなく児童相談所だし、児童養護施設はたしかに児童福祉施設の一つではあるが、ここでいうならやっぱり「児童養護施設」だと思う。
 入所している子供の保護理由の多くが母親からの虐待で、もう一つ多いのが父親からの性的虐待である、とかもどうなの?
 むろん性虐ケースはそれなりにあるが、この二つが代表であるかのような書きっぷりはちょっと違うように思った。実際には身体的虐待や非行、養育困難の方が多くて、たぶん、性的虐待は件数的にはそれほど多くない。それは、実数が少ないからではなく、表面化しずらいため子どもの保護に到らないって理由もあるだろうと思う。作品の中で、子供の虐待について、登場人物にあんなに語らせず、曖昧にぼかしたままでも十分ストーリーは成立しただろうに、あえて詳しく語っちゃったせいで、かえってリアリティが薄れてしまったのが、残念に思えた。
 もし、新版とか改訂版とか出すチャンスがあったら、児童福祉制度に詳しい人にちょっと監修してもらえるといいんじゃないかな。

 捜査の謎解きは、せっかくきめ細やかに捜査を積み重ねているのに、肝心のところはリコのひらめきに頼り過ぎてるんじゃないかな。まあ、リコはそういう「捜査のカン」が優れた刑事ではあるんだけど、もっと理詰めでもいけそうなのに。泉の表情から、許されない命がけの恋をしているのだ!というくだりなんかは、思い込みが強すぎでないかい。

 話の流れからもっと、練の冤罪事件に切り込むのかと思いきや、そこはそれほどでもなかあた。練の事件への関わり方があまりにもさりげなく、しかもリコへの絡み方もモロ好みで、やっぱり練が主役じゃあないか、と。
 練が泉を住まわせるために調度を整えてやったマンションの描写にもなんだか胸がつまる。
 しかし、練がかなり淡々としているのに、麻生はひとり悶々として、あげくにリコに慰めてもらうって、どんだけ身勝手なんだ麻生!!
 それに、練は斎藤の出所を出迎えてやったのだ。練はやっぱり、麻生に出迎えてほしかったんだろうなあ、と斎藤が練に出迎えられて驚いたってくだりで思ったのですよ。
 今作では、練のいろんな顔を見ることが出来てその点でもとても満足。

 連の冤罪事件については、『海は灰色』を待つしかないようだ。いや、批判ばっかりしているように見えるかもしれんが、私はこの一連の作品群が大好きだ。あとは大切に取っておいてある、ハナちゃんシリーズが2冊のみ。続編の刊行を切望する。

 それにしてもラスト。練はリコにどのように語ったのだろう。


0394 聖母の深き淵 (角川文庫)

書 名 「聖母の深き淵」
著 者 柴田 よしき         
出 版 角川書店 1998年3月
文 庫 560ページ
初 読 2022年9月30日
ISBN-10 4043428022
ISBN-13 978-4043428021
読書メーター https://bookmeter.com/books/573930

 リコが主人公な話なのに、私にとっては山内である。
 それは、私が『聖なる黒夜』を先に読んでいたから。あとで落ち着いたて考えたら、この話、刊行順じゃないと駄目だったよね。この本先に読んでいたら、どれだけ、「な!なにがあったのよ〜〜〜〜〜!!!山内!麻生〜〜〜!!!」とジタバタすることができたことか。やっぱり本当はRIKOシリーズを先に読むのが正解。そのじたばたとドキドキを味わう為だけでも。
 『聖黒』を先に読んでしまった私には、ハナちゃんシリーズ読んでも、RIKOシリーズを読んでも、もはや、山内が主人公としか思えない。(笑)山内には、作品の中にも外にも、その魔性の魅力にとりこまれちまった人間が山ほどいるのだ(笑)。
 さて、その山内を愛している筆頭の麻生のセリフである。
 “彼女”はどんな人か、とリコに問われて麻生が惚気るわけだよ。

『そうだなぁ……天然の、柔らかいくせっ毛なんだ。日本人にしては茶色っぽいな。朝日がさしてその髪に当たると、瞬間だけど金色に見えることもある』
『うん。睫が長くて、泣き虫なもんだから、その睫の先に大きな涙の粒が載っかってることがたまにある。それが揺れると、ころんと落ちる。』

 『ちょっと怒ったりするとすぐに耳が朱くなる。』

『抱きしめてやると、山鳩みたいな声を出す』「山鳩?」と聞き返すリコに
『そう。ククゥ、ルルルルって聞いたこと、ない?あんな感じ。』
『あとは、そうだな、酒が強いな。酔い潰されたことが何度かあるよ。その人は酔うと少し下品になるんだ。扇情的になって、すぐに脱ぎたがる。あれは悪い癖だな……』

酔って下品になって、それからどうなるの?『天使になる』

 もはや、山内練は人間ではない。山鳩みたいに喉を鳴らせる人間がいるものか。練は天使なんだ。
 練を泣かせて、睫の上に乗っかる涙の粒を(おそらく超至近距離で、おそらくは腕の中の練を)観察してる麻生め! あんたさあ。麻生さんよ。その涙は、世田谷の取り調べ室ですか?それとも、韮崎が死んだ時ですかぁ?あんた、コロンと落っこちる涙に萌えてるばあいじゃないだろうがぁぁぁ!
 ああもう。麻生の腕の中で喉を鳴らす練ちゃん。天使になる練ちゃん。きいいいいいっ(逆上)
 世の中には麻生龍太郎ファンが数多いることは知っているが、私にとっちゃ、麻生は全小説世界を横断しても、ピカイチで腹が立つ野郎だよ。だが、いや、まて!

 本当は、ここでの読者の正しい態度は「なになに、それってどんな女なの?麻生さんが惚れた女はどこの誰なの〜〜?!」だ。まさかここで、相手が練だとは思うまい。そうなのだ。そして、麻生は背が高く、ハンサムで、有能な元刑事の私立探偵なのだ。私の脳内の麻生はどっちかってーと「刑事コロンボ」さんなんだけど、そうじゃない。どこから見ても二枚目なのが麻生の役どころ。
 ああ、いったん自分の頭の中を消去して、初めから読み直したい。

 さて、ここで登場する練は、韮崎という大物ヤクザが殺されたあと、春日組の次期組長を期待され、企業舎弟の社長から、異例の抜擢で春日組の若頭に就任した、極悪ヤクザだ。だが、リコに見せる隙や、なぜかリコに聴かせてしまう昔語りや、リコに反撃されて怖い目をみるとやけに素直になっちゃったりするところは、やっぱりどうしたって可愛い。

 いつ自分がぶっ壊れても構わないかのような向こう見ずで大胆な悪行で、日夜新宿界隈の裏表を泳ぐ練ではあるが、リコも無謀・向こう見ずではひけを取らない。そんなリコはどうも練に気に入られたらしく、思わぬ昔話も聞かされたりしてしまうのだ。
 練と田村の馴れ初めなんぞも、もう、私には、涙無しには読めませんでしたが。
 刑務所で初めて男に犯された夜、ボロい毛布を口に突っ込んで声を殺して震える練を、田村が一晩中抱きしめて、背中をなでていた。・・・・・そんな昔話を、タダできかせてもらってしまったリコ、この縁はもう、切っても切れないよ。

 リコ本人については、ちょっと形容しがたい。
 生まれてこのかた自分にすり込まれた社会的性差を全部とっぱらった、全き女(そんなものが存在するとして、だが)がどういうものなのか、どうにも考えてしまう。リコみたいに、皮膚が子宮の中まで全部つながって(いや、実際つながってはいるんだけど)感覚器になってしまってるみたいなキャラ、初めてだったしな。そんなに簡単に性暴力に晒されてしまっていいのか、リコの周りの男どもの気が知れないと思う一方で、なぜそれを「ごっくん」とできるのか、赦していないけど「ごっくん」と腹に収めた、というのがどういう精神状態なんだか、どういう納得の仕方なんだか・・・・・ちょっと、素直に自分の感覚に取り込めない。ものすごく、質感というか肉感があって、魅力的なキャラではあるんだけど、同僚のバンちゃんに「私のこと守ってね」って言っちゃう感覚もよくわからない。「男に守られたい」っていう気持ちと男に互したい、っていう気持ちはリコの中では対立しないのか? リコは矛盾や葛藤を抱えまくっているし、その混沌を混沌のままマグマのように自分の中に抱え持って、かつ、1人の人格として成立しているリコに言いようのない魅力を感じるんだけど、やっぱり納得仕切れないものもあるんだよね。

 いやあ、全然ストーリーの方は頭に入ってなくて恐縮なんだけど、読了後一日経ったら、すでにあれ、この話、何の事件だったっけ?ってくらい事件そのものの印象が薄い。それだけ、練もリコも強烈。ああ早く続編、『海は灰色』を読みたい。すでに角川の電子書店ではダウンロード出来なくなっているので、近いうちに、正式に出版されるものとおおいに期待している。

2022年9月6日火曜日

0387 シーセッド・ヒーセッド (講談社文庫)

書 名 「シーセッド・ヒーセッド」
著 者 柴田 よしき         
出 版 講談社 2008年7月(単行本初版 2005年4月)
文 庫 512ページ
初 読 2022年9月6日
ISBN-10 4062761009
ISBN-13 978-4062761000
読書メーター https://bookmeter.com/books/543629

 このシリーズだと、練ちゃん何歳になってるんだっけ?40代だってハナちゃんが言っているけど、あと繰り返し、ハナちゃんがあと数年で21世紀だと言っているので、作品世界では1997か8年くらい?だと思ってるのだけど、そうすると練だって40代にはまだなってないんじゃない?
ここでもう一度、聖黒のレビューで書いた時系列を掲載してみよう。










時系列(全体)
 1985年夏          世田谷事件(練が麻生に逮捕される。) 練26歳
 1986年4月        練・府中刑務所で服役中
 1986年7月    〃
 1986年10月      覚醒剤中毒者による小学生刺殺事件発生
 1987年4月   練・仮釈放・武蔵小金井の保護司を頼り、印刷会社に勤める。
 1987年8月   練・印刷会社の同僚に脅迫され、武蔵小金井のアパートを飛び出して新宿に。
          生きるために体を売るようになる。
 1988年            田村出所
 1989年2月15日早朝
         ブレーキの調子が悪かったため韮崎が乗り捨てた車の回収を命じられた部下が、
                         その車を運転し運転し、飛び出してきた赤ん坊(真子)を抱いた母親(望月
                         路子)をはねる。
 1989年2月15日早朝
         同日・小田急線参宮橋近くの線路で自殺を試みた練が韮崎に拾われる。
 1989年5月    韮崎の弁護士が交通事故の示談工作。
 1989年7月    覚醒剤中毒の男に子どもを殺された女が、武藤と韮崎が同席していたところを
         拳銃で襲う事件発生。
 1989年9月    練は韮崎の住まいに居候している。
 1989年9月      北村が殺害される。
 1992年    北村の娘が北村の遺骨を納骨する。
 1995年10月    韮崎が新宿のホテルで他殺体で発見される。 練36歳


今作は、短編3作の連作
ゴールデンフィッシュ・スランパー・・・・・アイドル歌手に送りつけられた脅迫状の送り主を探すお仕事。ストーカー事件のようでいて実は、苦しい過去が。
イエロー・サブウェイ・・・・・なんと、練が置き去りにされた赤ん坊の母親の捜索をハナちゃんに依頼。
ヒー・ラブズ・ユー・・・・・最初はストーカーの片棒担ぎのように思えた尾行だったが、実は真面目で苦しい恋につけ込まれた脅迫事件に関わる調査だったと分かり、アフターケアと称して依頼主の苦境を助けるハナちゃんが、なんとも素敵。

 練の住む高級マンションの玄関先に置き去りにされた生後2ヶ月くらいの女の子の赤ん坊。置き手紙には「あなたのものなので、あなたに返す」と書いてある。疑惑の一夜には、練は泥酔していて記憶にない、と。取り巻きの斎藤などは、件の赤子を遠慮しいしい「社長のお嬢さん」扱いしているのがちょっと面白い。赤ん坊を押しつけられて困惑している練、ってのもなんというかかわいい。ここに麻生さんが居たら、「俺が育てる!」とか言っちゃいそう。いや、それはないか。。。練ちゃんに突如勃発したトラブルをがっつり押しつけられる園長ハナちゃん。今回は探偵業と保育業のフルコンボでとことん練に利用されている。
 そこはハナちゃんの努力と根性で、絡んだ糸を解きほぐし、赤ちゃんの母親も、ついでに父親と思しき人物も見つけ出し、母親を説得して赤ちゃんを返し、報酬も得ることができたが、意外にも、それでことが収まっていなかった人物が一人居たわけだ。それも騒動の大本、張本人が。
 いったんは母親の元に返った赤ん坊との親子鑑定をやりたい、と言い出す練。とうに家族との縁は薄くなっている練だが、一体赤ん坊の存在に何を求めたものか。この間何があったんだろうか? 

「事情が変わったんだ」山内は、少し妙な表情を見せた。何か企んでいる顔には間違いないのだが、どこか、戸惑っているような目つきをしている。

 その事情ってのはなんなのさ! と、ちょっと麻生さんを探して首を揺さぶって見たい気がする。
 自分が「一代雑種」だと言う練は、やはり、ヤクザの世界にも馴染みきってはいないのよね。死んだはずの自分を生かしてくれた韮崎への思いや、先代とのしがらみが練をヤクザの世界につなぎ止め、練をヤクザに擬態させてるけど、本当は寂しいのだろうなあ。

「それは、つまり、俺は消えた方がいい、ってことか。この世に生まれて来た痕跡は何ひとつ残さず、綺麗さっぱりと消えた方がいい人間だ、そういうことか」山内の声に怒りはなかった。ただ淡々と、静かにそう言った。

 こういうときは、素の練ちゃん。ああ、切ない。こういうこういう顔を見せられるハナちゃんすごいよ。
 そんな練と麻生の「聖黒」後のしがらみを描いた「海は灰色」はいつ読めるのだろうか。すでに角川のネット書店では取扱いがないようなので、書籍化を待つしかない。


 

2022年8月31日水曜日

0384 フォー・ユア・プレジャー (講談社文庫)

書 名 「フォー・ユア・プレジャー」
著 者 柴田 よしき         
出 版 講談社 2003年8月
文 庫 544ページ
初 読 2022年8月31日
ISBN-10 4062738171
ISBN-13 978-4062738170


「若」。わか。刑事だったのに汚職で懲戒免職くらった辞め警の斎藤が、今は山内練の腹心の部下に収まっている斎藤が、練を「若」と呼ぶ。
 若頭だから「若」なんだろうけど、なんか、それだけで、愛というか思慕が溢れてるんだよ。
 だけど、その男、心は他の辞め警のものなんだぜ? さらりと描いている脇のはずの斎藤の慕情が、なんとも切ないのだ。結局、保育園園長で凄腕探偵なハナちゃんが活躍するこの話は、美形で傷ついてて壊れてて、ケタケタと笑って平気で残酷な振る舞いをするあの男の物語、なんだな。だから、ここには登場しない麻生さんよ、つまらないプライドは捨ててさっさと練を抱いてやれよ、と。

 そんな練に、今日も振り回されているハナちゃんのかいがいしい努力が涙ぐましい、ハナちゃんシリーズ2冊目なのです。今作はより一層グレードアップした難題がハナちゃんを襲う。
 一回寝ただけの行きずりの男を捜してくれ、という無茶な依頼をしたのは、どこかタカビーな天然女。飛び込みで保育園を訪れた無茶な父親からやむを得ず預かった乳児が深夜の急変で救急車を呼ぶ騒ぎになり、その育児に無知な父親に罵倒され、最愛の恋人の理沙はなにか困った様子だったのだが、ハナちゃんには相談できないまま姿を消してしまい、その理沙の妹のトラブルが、理沙失踪の原因かと追いかければ、なんとまたしても殺人事件に巻き込まれる。
 その上、極悪ヤクザの山内にはケタケタと笑いながら無理難題をふっかけられ、解決の為に与えられた時間は24時間しかないのに、マトリの捕り物に巻き込まれ! 全部が全部つながって円満解決したについては、さすがにできすぎ、というかやり過ぎだろ、と思ったがそれはまあ、よい。読んでほんわか幸せな気分になるための小説だしな。
 胸の蝶の刺青で読者にちょっとどきっとさせるあたり、柴田センセは芸が細かいのお。あと、太宰治の「走れメロス」の真っクロ黒な洒落が洒落になってませんでした。今作もハナちゃんには同情しかありませんでした。頑張れ園長先生!


 

2022年8月20日土曜日

0383 フォー・ディア・ライフ (講談社文庫)

書 名 「フォー・ディア・ライフ」 
著 者 柴田 よしき         
出 版 講談社 2001年10月
文 庫 496ページ
初 読 2022年8月22日
ISBN-10 4062733064
ISBN-13 978-4062733069

 彼の名前は花咲慎一郎、愛称は「ハナちゃん」。ただそれだけで漂うほんわかな雰囲気で、そもそも大成功してるよね、この本。
 そのハナちゃんは、新宿の裏町の無認可保育園の雇われ園長で、新宿の夜の女達が預けにくる子どもたちを守るために孤軍奮闘している。保育園の経費を賄うために、睡眠時間を削って、あぶない探偵仕事を頼まれながら。
 そのハナちゃんの経歴が、じつは警視庁の元刑事で、同僚を射殺して職を追われていたり、その保育園が、某暴力団の先の組長の妾だったおばあさんが経営するものだったり、その園の建物が乗ってる土地の所有権が、某イースト興業つう超絶ブラックで反社な会社に移って、美貌の睡眠薬中毒の社長(兼暴力団若頭)に土地の買い取りを巡って顔面蹴り上げられたり、とまあ、とにかくただ事ではない。
 『聖なる黒夜』やその続編の短編では、まだ表社会と裏社会の狭間で揺れていた練も、ここでは、もはや真っ黒黒な正真正銘のヤクザである。だがしかし、その彼がチラ見せする優しさや弱さに、またそそられるのだ。ああもう、麻生さんなにやってんのよ。なんで一緒に闇落ちして、練を抱いてやんないのよぉぉぉぉぉ、という私の心の雄叫びを聴きやがれ(笑)

 ハナちゃんの事件簿、ももちろん面白いのだが、それよりも、『聖黒』『RIKO』『ハナちゃん』で構成されているこの界隈の群像が面白い。某下町のうらぶれたビルに職住共用で悶々と悩みながら暮らす硬派でホモの元刑事の探偵やら、極悪非道な美形のヤクザやら、そしてかつて大物ヤクザの愛人だった美人の医者なんかが蠢いているのだ。あ、あと私は百々井さんが結構好きだな。で、それはさておき、ハナちゃんである。

 子どもを預ける母たちから取る保育料だけでは到底園の経営は維持できないから、ハナちゃんは給料をもらうどころか、園の赤字補填のために探偵の裏稼業で稼ぐ日々。頼まれ仕事はヤクザの殴られ役に始まり、家出少女の捜索、家出少年の追跡・・・・だったはずなのに、なぜか厄介な事件に巻き込まれていく。だがそのネタがね。
 いや、これは、もっぱらワタクシ事なんだが、栗本薫の「僕らの時代」を読んだ次に、あえて「僕らの気持」を読まずにこの本を手にとったのにこのネタかよ!・・・・と。いささかげんなりしたのは事実だ。
 いや、ハナちゃん大好きです。おもしろいよ!オススメ!
 だけど、ゲイの恋愛に、往年の大漫画家ネタに、コミケに二次・・・・と、なんかトッピング盛りすぎじゃねーか?????とも思ったのだ。もう、胸焼けしちゃう。ま、面白いんだからいいけどね!


2022年8月3日水曜日

0376 ヘルドッグス 地獄の犬たち (角川文庫)

書 名 「ヘルドッグス 地獄の犬たち」 
著 者 深町秋生       
出 版 KADOKAWA 2020年7月
文 庫 560ページ
初 読 2022年8月2日
ISBN-10 4041094100
ISBN-13 978-4041094105

 ううーむ。深町さん初読みである。だがしかし、並み居る深町さんファンに申し訳ないことにこれは私にとっちゃ鬼門かも? 
 べつに暴力描写とかは全然問題ない。余裕で許容範囲内。
 しかし、これだけの猛烈なストーリーにリアリティを与えるための人物描写があと一息、あと一歩、深みがあればなあ。あと、暴力団組織のあれこれとかが説明がましくて、中盤に差し掛かるまえに気持ちが砕けた。だが、面白くないわけじゃあ、もちろんない。むしろ、好きなカテゴリなだけに、要求水準が自ずと高くなってしまったか。個人的には、こいつを “アジアを又にかける孤高の殺し屋出月梧郎の壮絶な前日譚” ってことにして、梧郎主人公のハードボイルド小説を読みたい。

 だがしかし。
 日本の作家さんを読んでいると陥りがちな、言葉の引っかかりが発生。
 「夜間双眼鏡」はできたら「暗視双眼鏡」「赤外線双眼鏡」でお願いできれば、と。
 「じゃっかん」はぜひ漢字で記載願いたい。
 「肩身の狭い想い」は「思い」の方が良いかと・・・・だから、こういう風に引っかかっちゃうから、日本人作家さん苦手なのだ〜。でも、まあ序盤中盤はかなりざっくりと読みましたが、後半戦、例の誘拐あたりからは、ワクワクが止まらなかったよ。室岡は気に入っていただけに、結末が悲しい。ああなる宿命とはいえ、ちょっと勿体ないなあ。良い弟分だったのになあ。もうちょっと二人で動くところを見たかったな。残念だ。
 あと、血まみれの殺し道具やら服やらの始末を他人に任せて後に残してくるのって、プロとしてどうなん?とは思った。


2022年7月2日土曜日

0359-60 嘘は罪 上・下 角川文庫

書 名 「嘘は罪 上・下」
著 者 栗本 薫    
出 版 角川書店 2009年9月
文 庫 上:489ページ  下:421ページ
初 読 2022年7月2日
ISBN-10 上:4044124221 下:404412423X
ISBN-13 上:978-4044124229 下:978-4044124236
読書メーター 上:https://bookmeter.com/reviews/107400101
       下:https://bookmeter.com/reviews/107407740 

 「東京サーガ」森田透・今西良ブランチのサイドストーリーというか、スピンオフ。
 良に耽溺するあまり道を誤った“普通の人”たる風間先生の改悛と再生の書。私は風間先生は好きだな。
 良を失い、名誉も地位も地に落ちて、仕事もなく、周囲の好奇の視線を怖れて、どん底で自宅マンションに閉じこもる風間先生がドロドロと考え続けている。遂に金も食料も酒も尽きた。だが何よりも辛いのは煙草が無くなったことだった。風間は、自分を案じてくれている数少ない友人の野々村に金を無心しようと、やっと部屋を出て、新宿二丁目に足を運ぶ。
 偶然出会った、野生の獣のような忍という少年に、風間は信じがたいような音楽の才能を見いだす。今西良のようなスター性はないが、剥き出しの原石の天性。忍を苦境から救い出し、その才能を伸ばしてやりたい、と風間が思ったとき、風間自身も再生を始める。
 いい話っちゃあいい話だと思うのだけど、せっかくのストーリーラインが、薫サンの脳内から零れだした、薫サンのとも風間センセのとも判別できないグダグダ無限ループ状態のクソみたいな思考に沈んで、上巻前半でほぼ溺死状態。そうはいっても、風間センセが少々立ち直って、動きはじめてからは状況はやや改善するので、とにかく冒頭は読み飛ばしておけ。読まなくても、まったく大勢に影響はない。
 この話をたとえば、上下巻ではなく、半分の一冊にまとめられなくなったのが、薫サンの文才の限界を示してるのではないかねえ。途中で二回、透ちゃんが登場して、風間センセの話相手を務めるが、その形容が美しいのは良しとする。透はいつでも優しいね。
 絶対音感と、おそらくは音に関する共感覚を持ってうまれたのに、その悲惨な生まれ育ちのせいで、だれにもその才能を気付かれずに生きてきた忍という少年を偶然拾ってしまい、忍に歌の手ほどきをすることで、一度は諦めた音楽と生きる道を模索し始める風間は、もともと生真面目な性格だし、不器用さがかわいいところがあって、見捨てがたいキャラではあるのだよな。私は風間センセが嫌いではない。ってか、良も透も風間も島さんも野々村も好きだし、ついでに言えば、今作に登場する黒須もなかなか良いキャラだ。
 上巻は、基本のお膳立てと仕込み。ついでに、恐ろしいばかりのはずだった暴力団若頭の黒須が、風間と二丁目のお友達になってしまうまで。
 端正な顔立ち、黒髪を後ろにひっつめて黒いパンツに革のロングコート、に黒のグラサンという凄みのあるヤクザの黒須に、風間が、あんたの刺青を見てみたい。という。かすかな恥じらいを浮かべる黒須。きゃー(棒)。場所が二丁目なだけに、お互いがそういう相手を求めているということは了解済みとはいえ、なかなかに凄い口説き文句だわ。その刺青たるや、大輪の牡丹に蓮に菊に百合が咲き誇り、白い肌に散る絢爛な刺青の背中に解いた黒髪が流れおちるって、色っぽいにもほどがある。
 下巻に入り、急にハードボイルド路線か?と思いきや、そうでもない。どん底で、どれだけ批判され、世の中から受け入れられなくても、人は生きていかなければならない、という風間の境遇に、薫サンは自分を重ねているのだ、という話もあるし、嘘を歌えない忍に、自分の歌いたい唄しか歌えない忍に、薫サンは、自分の書きたいものを書きたい自分を重ねたのかな、とも読める。だがしかし、「それが世界一厳しい道」であることを、奇しくも風間が指摘したのは、薫サン自覚があってのことなのか?
 一生で一曲だけの本当の歌を歌って死んだ歌手もいる。どんなに自分の好きなもの「だけ」を世に送りたくても、歌い手はボイストレーニングは必要だし、音痴では話にならない。書き手は、世に認められる水準で、作品を書かなければだれも読みはしない。それが受け入れられないのは、不当に扱われているからではなく、単に研鑽が足りないからではないのか。「嘘は罪」、だけど嘘は吐いたもん勝ちになることだってある。これはひょっとしたら名作なのかもしれないが、でもそれを書いた薫サンがその生き方で、作品を裏切っているような気がする。

2022年5月6日金曜日

0344 キャバレー (角川文庫)

書   名 「キャバレー」
著   者 栗本 薫    
出   版 角川書店 1984年12月(文庫初版)
           2000年  6月(文庫改版)
文   庫 309ページ
初   読 1985年?
再   読    2022年5月5日
ISBN-10 4894567040
ISBN-13 978-4894567047

 初読は、たぶん初版だと思われる。
 ほぼ、40年近く前じゃないか。年はとりたくないもんだ。
今にして読むと、矢代が青いったら。。。若いったら。。。ああ、若いってのは恥ずかしいものだ。
 
 「いいとこ」の坊ちゃんで、有名私立大(多分、作者と同じ早大かな。)に入り、ジャズ研でプレイするには飽き足らず、才能はあるが、ただ、流れにのってプロになるのも満足できず、大学を飛び出し場末のキャバレーで人生とジャズを修行中のサックス奏者・矢代と、強面のヤクザの代貸・滝川の束の間の邂逅。
 きらめく才能と、若さ故の向こう見ずを、まるで壊れやすい宝物のように守ろうとする滝川。場末が場末らしく、ヤクザがヤクザらしかった時代と、生の音楽。キャラクターのセリフ回しや盛り場の雰囲気なんかは、今となってはさすがに時代がかって感じるものの、矢沢の優しい息のようなフルートの音色や、震えるアルトサックスの音だけは今もって生々しい。いや、この年になって読むと、さすがに矢代の内心のポエムはかなり恥ずかしいものがあるが。

 才能を持つもの。それを開花させる力があるもの。
 小説の中でしかあり得ない出会いと、交わされる言葉。溢れ、踊り、絡む音楽。
 それを、小説として紡ぐ才能。自分が中学生くらいの頃、夢中になって読んでいた栗本薫氏の才能を、今ごろになって、惜しんでいる。

2022年4月23日土曜日

0341 私立探偵・麻生龍太郎 (角川文庫)

書 名 「私立探偵・麻生龍太郎」著 者 柴田 よしき         
出 版 角川書店 2011年9月
単行本 464ページ
初 読 2022年4月23日
ISBN-10 4043428103
ISBN-13 978-4043428106

 位置づけ的には、RIKOシリーズのスピンオフ『聖なる黒夜』のさらにスピンオフ? 時系列的には、『聖黒』からRIKOシリーズにつながる隙間をつなぐ本書。
 山内練にまつわる冤罪事件(世田谷事件)の情報を追っていることを内々に咎められ、外勤(交番つまり制服組)への異動の内示をうけた麻生龍太郎が、警察を辞職し、私立探偵事務所を開いたところから、麻生が、“こちら側に戻ってこい”と懇願する山内練が、ついに裏社会で生きる(春日組の杯を受ける)ことを決めるまで。

 春日の杯は、練にとっては、麻生の前に置いた大きな踏み絵だっただろうな、と思う。条件付きの自分ではなく、過去も現在もひっくるめた俺の全てを受け入れてほしい。冤罪で人生を破壊された可哀想な俺、ではなく、それも込みで清濁合わせた今の俺は受け入れられないのか、という練の心の声が聞こえてきそう。悪い夢で済ませるには練の過ごしてきた10年間は重すぎるしリアル過ぎる。麻生がきれいさっぱり忘れていた間の練は、韮崎が生かしていたのだ。世の中の暗い面は確かに存在するし、その中でしか生きていけない連中も確かに存在する。正義とか罪は社会秩序を維持するためのシステムでしかないし、すでにそのシステムに裏切られている練の立場では、いまさらそれに自己の存在を委ねる気にはなれないのも道理だ。
 あくまでも社会システムの内側で「正しく」生きていこうとし、その生き方を練と共有したい麻生と、麻生を好きでいながら、そのシステムの内側にはもはや入れないと思い定めている練と、それぞれの揺らぎの書である。

1 OUR HOUSE
 開設間もない麻生の探偵事務所(兼ねぐら)に、いかにも良家のマダム風の美しい女性が調査の依頼に訪れる。依頼内容は子どものころに埋めた「タイムカプセル」を探すこと。なんとも牧歌的な依頼にもかかわらず、不穏な胸騒ぎを感じる麻生。しかして「タイムカプセル」の捜索は、恵まれない幼少期を過ごした一人の女性の、復讐の最初の一投だったのか。
 一連の「韮崎殺人事件」で警察に逮捕拘留されていた練は、捜査二課の梶原からの執拗な取り調べも躱し(?)、銃刀法違反+経済犯で数ヶ月の実刑となった模様だが、判決がでるまでの拘留期間を差し引くとさして日数も残らなかったため、小菅(東京拘置所) から釈放されてきた。練は「出迎えにもこなかった」麻生に不満げ。麻生も、練の更生を願ってるなら、ちゃんと釈放のスケジュールを確認して迎えに行ってやりゃあいいのに。世田谷事件からなにも学んでいない麻生に(怒)。  

2  TEACH YOUR CHILDREN
 依頼者の男は、私立女子中学校の校長。半年ほど自分の学校に勤めた女性教諭から、身に覚えのない「セクハラ」の訴えを起こされていた。私はいったいなぜ、これほど彼女に恨まれているのか、という依頼者の問い。麻生が調査して判明した事実、そしてあえて余韻の中で語られない依頼者の虚像と実像。

3  DERJA VE
 うっかり風邪をひいて、近所の薬局の世話になった麻生は、その薬局でバイトする薬剤師の青年にデジャブを覚える。当の青年も麻生と会ったことがあるというが、お互いに思い出せない。横浜で女性が死体で発見され、その青年が重要参考人として手配される予定であることを麻生は知るが、どうしても彼が殺人犯だと思えない麻生が動き出す。

4  CARRY ON
 「麻生さん、あんたなんで警察辞めたのさ。あいつの為でしょ?・・・・だったらさあ。あいつが本物のヤクザになろうがどうしようが、とことんあいつの為に生きるっていってやればいいじゃん。あんたがそう言えば、あいつ、あっさり指なんか落としてさ、あんたと二人、どっか海外にでも飛んで死ぬまでのんびり暮らす決心、すると思うんだよね。・・・・」 田村、ホントそうだよ、良いこと言うよな。練に故郷を取り戻してやりたい、という麻生の言い分もずいぶんと自己満足、手前勝手だが、それも田村に看破されている。練ちゃん、ほんとうになんでこんなダメ男に惚れちゃったんだか・・・・ 
 だが、麻生の真のこだわりポイントはそこではなかったんだな。練を陥れた真犯人を挙げる。その為には、たとえ練のためだろうが二人で海外逃亡するわけにはいかないわけだ。 

5  Eplogue
 巻末解説の高殿円氏の言葉を借りれば、「永遠の加害者」である麻生と「永遠の被害者」である練。二人の間のごちゃごちゃしためんどうくささをいったんうっちゃって、自分に正直に、とは本書冒頭の麻生の弁であるが、それなのに、麻生は「永遠の加害者」ポジションを捨てようとはしない。練に正しい生き方に戻れ、と言い続ける限り、麻生は加害者であり、練は被害者なのだ。かつての韮崎の恋人達のように、相手のあり方も含め全存在を愛するとは言えない麻生の弱さと、そんな麻生を愛する練の無情感がたまらないラスト。麻生から傘をもぎ取って練は雨の中を歩き出す。愛車のカウンタックは路肩に置いたまま。麻生は雨の中を歩む練も、(いつか練が戻ってくる)練の愛車も後に走り去ったのだろうか。それとも、雨の中、練を待ち続けたのだろうか。私は後者であることを願う。


 

2022年4月21日木曜日

0340 聖なる黒夜 下(角川文庫)

書 名 「聖なる黒夜 下」
著 者 柴田よしき       
出 版 角川書店 2006年10月
文 庫 591ページ
初 読 2022年4月17日
ISBN-10 404342809X
ISBN-13 978-4043428090

 練が愛おしい。とにかく、愛おしい。むねを掻きむしりたくなるくらいに。そして麻生がウザいのだ。なんだよこのナルシストめ!そして、麻生も及川も、麻生の同期の山背も、どいつもこいつも話しすぎだ。いい年した男どもがぺらぺらペラペラと紙が燃えるみたいにしゃべりやがって、「沈黙は金」ってのを知らねえのかよ!・・・・と、つい練ちゃんみたいなべらんめえ調になる。出てくる男どもがどうにもお喋りで、女々しくて、いやなの〜!基本黙って行動する練ちゃん意外、全員ウザい!!!・・・・でも、面白かったです。滅法面白かったです。当然、RIKOシリーズも、私立探偵、も所轄刑事も、園長探偵も読みますとも。

 しゃべりすぎ、ってのは脇に置いておいて、ラストで麻生と及川が協力して練を追う、この疾走感は良い。なんだかんだで、及川も良い奴なんだよなあ。なんで練ちゃんも及川もあんなのに惚れるんだろうなあ。そして、最後に韮崎の復讐を遂げようとする練が、犯人の女に示す優しさで、また、胸が締め付けられる。練の悲劇、不安定さ、情の深さ、能力の高さ、鋭利な感性、極めつけの不運。人間の人生が、崩れるなんてほんのちいさなきっかけがあればよい。そして墜ちた人間であっても、人間である以上、もがいて生きつづけようとし、その足掻きがさらに、周囲に波紋を及ぼさずにはいられない。
 ストーリー的には、偶然に偶然が重なり、出来すぎと感じないでもない。でも良い。練に出会えたのだから。

時系列(全体)
 1985年夏    世田谷事件(練が麻生に逮捕される。)
 1986年4月  練・府中刑務所で服役中
 1986年7月    〃
 1986年10月   覚醒剤中毒者による小学生刺殺事件
 1987年4月  練・仮釈放
 1987年8月  練・武蔵小金井の保護司の元を飛び出して新宿に。
 1988年     田村出所

 1989年2月15日早朝  鉄道自殺を試みた練が韮崎に拾われる。
 1989年2月15日早朝  同日、調子が悪かったため韮崎が乗り捨てた車を運転した部下が飛び
        出してきた赤ん坊(真子)を抱いた母親(望月路子)をはねる。

 1989年5月    韮崎の弁護士が交通事故の示談工作。
 1989年7月    覚醒剤中毒の男に子どもを殺された女が、武藤と韮崎が同席していたところを
        拳銃で襲う事件発生。
 1989年9月    練は韮崎の住まいに居候している。
 1989年9月       北村が殺害される。
 1992年    北村の納骨
 1995年10月     韮崎がホテルで他殺体で発見される。

登場人物(上巻)
麻生龍太郎 本庁捜査一課(殺人課)の警部。妻に逃げられたヤモメ男。
及川純   本庁捜査四課(対暴課)の警部 麻生の大学時代(剣道部)の先輩。
      オシャレで潔癖症のゲイ。
宮島静香  麻生の部下。捜査一課の紅一点。 
山背(山さん)   麻生の部下 、主任。
相川    麻生の部下 
山下    麻生の部下 
有田(キンちゃん) 麻生の部下 
茂田(シゲ) 麻生の部下
榎本一郎  現・町田署捜査二課長。元世田谷署。 
川口孝吉  現・柴又署捜査一課長。麻生の以前の同僚。
 
韮崎誠一  被害者 ヤクザ 関東連合春日組のNo.2。
山内 練  韮崎の恋人、兼 企業舎弟(パートナー) イースト興業社長。
      東工大の元大学院生で修士課程修了間際の頃、婦女暴行と強姦未遂で麻生に
      逮捕された。
      一度は自供したものの、裁判で無罪を主張し、有罪・実刑判決となった。
      その後、底辺を這うような経緯ののち、鉄道自殺しようとしたところを 
      韮崎に助けられる。
長谷川環  練の秘書。
金村皐月(芸名 久遠さつき) 元ジャズシンガー 韮崎の女No.1 
      一時期、韮崎から練を預かっていた。
野添奈美  内科の開業医 韮崎の女No.2
皆川幸子(芸名 篠原ゆき)  元アイドル歌手 韮崎の女No.3
      恋人がいて、韮崎が殺されたホテルで愛人と密会していた。
生田咲子  元アイドル歌手 韮崎の女No.4
      韮崎とホテルにチェックインした女。
江川達也  韮崎の男娼。東中野で囲われていた。

塚原富子  代々木五丁目あたりの下町のおばちゃん。
望月路子  赤ん坊(真子)を韮崎に轢き殺された女性。韮崎に裁判を仕掛けていた。
      夫の死後、保険金を持って行方がしれなくなった。
高山春子  新宿のデパートのブティックの店員。(=望月路子)
須山知美  高山春子が務めるブティックの店長

新藤洋次郎 高安法律事務所弁護士。春日組側

藤浦勝人  練の世田谷事件の際の国選弁護人
香田雛子  練の姉 
田村             練の府中刑務所での同房  武藤組
北村    同上 湯川組若頭(春日組と対立)、稲村芸能オーナー、韮崎に殺された 
伊藤、尾花、井野、宮田、高岡  練の府中刑務所での同房 
諏訪    春日組若頭 組長春日の娘婿

岩下圭吾  練の従兄弟 

登場人物(下巻追加)

神田陽子  北村の娘。准看護師 
黒田百合  ススキノのソープ嬢。江川達也の元ガールフレンド 
井野美雪  新宿署捜査一課の新人刑事 
植田陽介  神崎組のナンバー3
川上    韮崎の子分。
瀬尾良恵  覚醒剤中毒の男に小学生の娘を殺されて、復讐にでた女性。
梶原    警視庁捜査二課の刑事。麻生の同期
小山内槙  麻生の恋人。
槙原要介  瀬尾良恵の娘と一緒に犠牲になった小学生


 

2022年4月17日日曜日

0339 聖なる黒夜 上(角川文庫)

書 名 「聖なる黒夜 上」
著 者 柴田よしき       
出 版 角川書店 2006年10月
文 庫 668ページ
初 読 2022年4月17日
ISBN-10 4043428081
ISBN-13 978-4043428083

『囀る鳥は羽ばたかない』つながりで、読み友さんからおすすめされた。たしかに、ほとんど同じ世界観で読める。てか、『囀る鳥』のベースになってるのが『聖黒』なのか。
 韮崎が三角さんで、山内が矢代のイメージでほぼほぼいける。まあ、文字を読んでイメージをふくらませるのが小説読みの楽しみなのだから、お手軽に他の作品のイメージを拝借するのは邪道なので、ここは韮崎は韮崎だし、山内は山内で、自分の中にイメージを作っていったほうが良い、とは思う。それにしてもこの話。新宿、府中、武蔵小金井・・・・と土地勘ありすぎてやたらとリアル。しかもその描写に違和感がないのが有り難い。

 で、もってだ。「感謝する」!!!!そうくるか。麻生さんよ。そりゃあそれしかないよね、ベストアンサーだよね。
 山内だって泣くよ。ページめくったらこれだもん、まさかページの切れ目まで計算してたのか?!

 さて、これはヤクザ小説なのか、警察小説なのか、はたまた・・・・?

 人間関係の錯綜ぶりがすごいです。
 麻生−及川の関係性
 麻生の家庭問題
 麻生の恋愛関係(槙の過去?)
 世田谷事件関係・山内兄関係?
 韮崎が起こした過去の交通事故関係
 韮崎が殺した(?)北村の関係
 山内と韮崎
 長谷川環
 韮崎の愛人
 ・・・

 上巻だけで、でてくる線はこれくらいか?いやあ絡まる絡まる。きちんとメモしていかないと途中で訳わかんなくなります。
 ざっとあらすじを押さえると、
① ヤクザの大物、韮崎誠一が新宿の一流ホテルで殺害され、その捜査に、警視庁捜査一課(殺人課)の麻生と、捜査四課(マル暴)の及川があたることになる。この二人は過去に公私にわたる因縁がある。
② 殺された韮崎には男女の愛人がいたが、そのうちの一人で企業舎弟でもある山内練は、かつて麻生が扱った傷害強姦未遂事件の犯人として実刑判決を受け、裏社会に堕ちた人間だった。
③ 韮崎の殺害関係は怨恨によるものである可能性が高いが、その線の捜査は難航。
④ 韮崎が過去に起こした事件(一般人を巻き込んだ交通事故、その他の殺人事件も)も絡んでいそうな。
⑤ 麻生が山内と関わる中で、かつての事件(世田谷事件)は冤罪だったという可能性が浮上。
⑥ 韮崎と関係の深い赤坂のクラブのライターを握りしめたホステス(?)が黒焦げ焼死体で発見される。
⑦ 山内は韮崎が殺した可能性のある北村の娘の存在を提示。
⑧ 新宿署から逃げ出したおばちゃんはいまだ発見されず。

上巻ではここまで。

登場人物が非常に入り組んでいるので、登場人物一覧表と時系列を作ってみた。
しかし、登場人物一覧だけでも、ネタバレ臭が漂うので、これからわくわく読書を楽しみたいかたは、これ以下はご覧にならないほうが良し。

時系列(韮崎殺害の当日)
 午後3時頃—————韮崎が女連れでホテル・グランクレール東京にチェックイン
           (女の身元は後の捜査で判明)
 午後6時頃—————韮崎が組事務所を出る
 午後7時過ぎ————赤坂の料亭「司」に入る。武藤組組長・幹部と会食
 午後9時半頃————「司」をでて、六本木のクラブ「華座」に向かう。山内と落ち合う。
  (30分程度)
       ————山内のマンションに向かう。(裏付けはなし)

 午後11時50分——ホテルに戻る。
 午後11時55分——内線電話を使用。

時系列(全体)
 1985年夏    世田谷事件(練が麻生に逮捕される。)
 1986年4月  練・府中刑務所で服役中
 1986年7月    〃 
 1987年4月  練・仮釈放
 1987年8月  練・武蔵小金井の保護司の元を飛び出して新宿に。
 1988年     田村出所

 1989年2月  練が韮崎に拾われる。

 1989年5月  これよし少し前に路子が子どもを抱いて韮崎の車の前に飛び出してはねられる。
        子どもが死亡し、韮崎の弁護士が示談工作。
 1989年9月       練は韮崎の住まいに居候している。
 1995年10月     韮崎がホテルで他殺体で発見される。



 

登場人物
麻生龍太郎 本庁捜査一課(殺人課)の警部。妻に逃げられたヤモメ男。

及川    本庁捜査四課(対暴課)の警部 麻生の大学時代(剣道部)の先輩。
       オシャレで潔癖症のゲイ。
宮島静香  麻生の部下。捜査一課の紅一点。 
山背(山さん)   麻生の部下 
相川    麻生の部下 
山下    麻生の部下 
有田(キンちゃん) 麻生の部下 
茂田(シゲ) 麻生の部下
榎本一郎  現・町田署捜査二課長。元世田谷署 
川口孝吉  現・柴又署捜査一課長。麻生の以前の同僚。
 
韮崎誠一  被害者 ヤクザ 関東連合春日組のNo.2。

山内 練  韮崎の恋人、件企業舎弟(パートナー) イースト興業社長
      東工大の元大学院生で卒業間際の頃、婦女暴行と強姦未遂で麻生に逮捕された。
      一度は自供したものの、裁判で無罪を主張し、有罪・実刑判決となった。
      その後、底辺を這うような経緯ののち、鉄道自殺しようとしたところを 
      韮崎に助けられる。
長谷川環  練の秘書。謎の過去の女。練に金で縛られているらしい。

金村皐月(芸名 久遠さつき) 元ジャズシンガー 韮崎の女No.1 
      一時期、韮崎から練を預かっていた。
野添奈美  内科の開業医 韮崎の女No.2 アリバイあり。
皆川幸子(芸名 篠原ゆき)  元アイドル歌手 韮崎の女No.3
      恋人がいて、韮崎が殺されたホテルで愛人と密会していた。
生田咲子  元アイドル歌手 韮崎の女No.4
      韮崎とホテルにチェックインした女。

江川達也  韮崎の男娼 東中野で囲われている。
黒田ゆり  ススキノのソープ嬢。江川達也の元カノ 
      韮崎の目を盗んで江川達也が付き合っていたため、売り飛ばされた。

塚原富子  東新宿(?)の下町のおばちゃん。
望月路子  赤ん坊(真子)を韮崎に轢き殺された女性。韮崎に裁判を仕掛けていた。
      夫の死後、保険金を持って行方がしれなくなった。
高山春子  新宿のデパートのブティックの店員。(=望月路子)
春子と喫茶店であっていた品のない女 
須山知美  高山春子が務めるブティックの店長

新藤洋次郎 高安法律事務所弁護士。春日組側   


槙     麻生の恋人。過去は謎。

藤浦勝人  練の世田谷事件の際の国選弁護人
香田雛子  練の姉 
田村             錬の府中刑務所での同房  武藤組
北村    同上 湯川組若頭(春日組と対立)、稲村芸能オーナー、韮崎に殺された 
伊藤、尾花、井野、宮田、高岡  錬の府中刑務所での同房 
諏訪    春日組若頭 組長春日の娘婿

岩下圭吾  錬の従兄弟 


 

2022年4月2日土曜日

コミック 囀る鳥は羽ばたかない1巻〜7巻(以下連載中)

 3〜4月にはまったコミックがこちら。ヨネダコウ『囀る鳥は羽ばたかない』
 BLのレーベルだけど、内容的にはどうなんだろう。“ボーイズ・ラブ”というとつい、青くて甘美なのとか、背徳的でエッチなのとかのイメージ(←個人的思い込み)抱いてしまうのだが、これは、どっちかってーとそーいう話ではない。ヤクザと暴力とセックス。

 私はこういう設定の話は仕事柄、児童虐待の文脈で捉えてしまいがちなのだが、2巻で襲撃されて死にかけている矢代の

「俺は 全部受け入れて生きてきた
 何の憂いもない 誰のせいにもしていない
 俺の人生は誰かのせいであってはならない」
 
という静かな矜持にはひどく心を打たれた。

 色ごとの描写は暴力的でガツガツしていて、あまり艶っぽくはない。基本セックスというよりは暴力描写だし、まともに愛し合っているわけではないのだから、色っぽくなくても当たり前だ。一方で愛があるはずの百目鬼のセックスは、優しくはあるが一方的で、とても残酷でもある。愛情を口にしながらも強制的で矢代の抵抗は歯が立たず、矢代にとっては継父によるレイプの記憶を呼び起こす。本能的に恐怖と吐き気を催しても、百目鬼がそれを気にかけることはない。
 矢代にとっては、暗黙のルールと性欲処理にすぎないという「限度」がはっきりしたセックスがよほど安心なのだろうと思う。見ようによっては、百目鬼のセックスはほとんどレイプだ。愛があれば良いというわけではないのだが、若い百目鬼は心酔する矢代を失いたくないあまり暴走してしまう。

 開けてはいけない記憶の扉が開き、矢代は自分を守るために百目鬼を捨てざるを得ない。百目鬼をカタギの世界に返す、というのも理由の一つではあるかもしれないが、そちらは表面的なものでしかない。

 6巻で、抗争を偽装した三角の傘下における矢代排除の企みはひと段落し、矢代の所属した組は潰されるが、矢代は生き残る。そして、4年後。7巻は三角と盃を交わした子分であることは変わらぬながら、組を持たない裏カジノ経営者に収まった矢代が、百目鬼と再会して動き出す。4年の間に、研ぎ澄まされた刃物のようになった百目鬼は、矢代をどのように愛するのだろうか。この二人がどのように落とし前を付けるのか、現在進行中の連載からも目が離せない。