2022年1月31日月曜日

2022年1月の読書メーター

 あっという間に1年の1/12が終わってしまったことに愕然。終わらせるべき仕事が終わっていないことにも愕然。
 突如のオミクロン禍の影響にも愕然としつつ、こんな調子でまた1年がすぎてしまうのかな?と気持ちが暗くなる。せめて好きな本を読む時間だけは手放したくないな。娘の大学受験。思えば、1年ちょい前、子供に手をかけられる最後のチャンスだから1年は楽な職場に配置して欲しい、ここ何年も無茶な働き方して疲れ果てているから1、2年でいいから、少しは楽な職場に配置して体調と気力を立て直す余裕をくれ、と懇願したんだったな。思うに任せない事も多いがエイダンよりはマシって自分を慰めるってどんだけ、な1月であることよ。

1月の読書メーター
読んだ本の数:12
読んだページ数:4022
ナイス数:1396

テメレア戦記 1 気高き王家の翼 下テメレア戦記 1 気高き王家の翼 下感想
さっくり、私でも一日で読める行間の隙間と本の薄さ。これさ、上下巻にしないでも出版できるよね?と思わんでもないが、出版社側にも事情ってもんがあるんだろうよ。で、下巻はいよいよフランスはナポレオン軍との戦争が迫ってきます。開戦にむけた戦闘訓練、味方の救援、奇襲、スパイの処断、そして。テメレアは生後8ヶ月で成竜にちかくなり、サイズは74門の戦列艦に匹敵、私好みからするとちょっとデカすぎかな。小型のウインチェスター種くらいが可愛いが、レヴィタスは哀れでした。竜と人間の関係に考えさせられる下巻。
読了日:01月30日 著者:ナオミ・ノヴィク

テメレア戦記 1 気高き王家の翼 上テメレア戦記 1 気高き王家の翼 上感想
ふふん。幼いドラゴンが可愛いんですけど!!!時はナポレオン戦争の時代。海は戦列艦による艦隊戦。そんな世界にドラゴンがいたら、の架空戦記・ファンタジー。生まれてすぐに言葉を交わし、名前を与えてくれた者を主とするドラゴンーーー聡明で巨大な生き物、と人間の愛と友情の物語。とにかくドラゴンのテメレアが文句なく可愛い。生後数ヶ月でこの知性。フランスのフリゲート艦を拿捕したら積み荷の中にあったのは中国産の希少種ドラゴンの卵。しかも孵化目前。だれかがハンドラーにならねばならないが、ドラゴンと生きるのは試練の道である。
読了日:01月29日 著者:ナオミ・ノヴィク

BADON(5) (ビッグガンガンコミックス)BADON(5) (ビッグガンガンコミックス)感想
首都バードンでやってみると決めて1年。2年目は、ここで生きる、と決める時か。仲間たち、友人、理解者が少しずつ増えて、それぞれに将来を見つめ始める。時に荒い風が吹き込む日もあるが、大切に想うものがあれば揺らいでも大丈夫。今回もとても良かった。
読了日:01月25日 著者:オノ・ナツメ

モーメント 永遠の一瞬 16 (マーガレットコミックス)モーメント 永遠の一瞬 16 (マーガレットコミックス)
読了日:01月25日 著者:槇村 さとる
100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集感想
入手したのは表紙の色が違う第7刷。「100万回死んだねこ」なんて、一瞬何が違うかわからない(笑)。『とんでもなくクリスタル』「カフカの『変態』」『ぶるる』等々。書店のカウンターや図書館にいればあるあるの数々、読み人しらずなくすりから爆笑まで。わたしも実は、中学校時代図書室に生息していたので、図書貸し出しカードの「かきまつがい」の珠玉のコレクションがありました。が、この本を手に取って思いだそうとしたら一つしか思い出せませんでした、年だな(涙)。・・・・それは『山本5+6』日本人の伝記です。判るかな〜?(笑)
読了日:01月23日 著者:福井県立図書館

チェーザレ 破壊の創造者(13) (KCデラックス)チェーザレ 破壊の創造者(13) (KCデラックス)感想
ここで終演かあ。ちょっと残念。タイトルまたはサブタイトルを変えてシリーズ2、といってほしいところだけど、手間の掛かる作品だけにいろいろと都合があるのだろうか・・・・なにはともあれ、ルネサンス期のコンクラーベを始めとした社会政治情勢や文化を堪能した。
読了日:01月23日 著者:惣領 冬実

笑う死体 マンチェスター市警 エイダン・ウェイツ (新潮文庫)笑う死体 マンチェスター市警 エイダン・ウェイツ (新潮文庫)感想
よかった、よかった、よかった。ギドリー(モン・シェール)とバークとジャスパーを足して3で割って、砂糖菓子とウイスキーを足して× 2したくらい、エイダンを愛さずにはいられないよ。1月にして年ベスだよ。なんだよ、切ないよ。こんな男いちゃいけないよ。・・・意味不明ですが、よかったです。ジョセフ・ノックス凄い。
読了日:01月22日 著者:ノックス ジョセフ

堕落刑事 :マンチェスター市警 エイダン・ウエィツ (新潮文庫)堕落刑事 :マンチェスター市警 エイダン・ウエィツ (新潮文庫)感想
タイトルで損してないか?と思ったこの本。エイダンは全然堕落していなかった。いい奴だった。ただ、哀れなのだ。損に生まれついた者は一生損する見本のような。その必死さ一生懸命さが割に合わない仕打ち、善悪や人それぞれの思惑が入り乱れ境界を失い、暴力的な混沌となり街を覆う濃密な展開で、途中からはもう、エイダンをただただ追いかけて行くのみになる。他人を信用できない性の彼ではあるが、感情も愛情も虐げられたときに感じる痛みも、共感もある。生き別れた妹への思いが、弱い女性達への思いと重なる。切ない。一気読みです。良かった。
読了日:01月17日 著者:ジョセフ ノックス

ハートに火をつけないで (創元推理文庫)ハートに火をつけないで (創元推理文庫)感想
パーフェクト!!ワニ町にして、最高。シールズならぬSwamp team 3なのに完璧!前3作より破天荒さは若干弱めなれど、それを勝る破壊力なのが色男カーターの流し目だ!熱々のディープキスがもともと少なめなフォーチュンの理性をどろっどろに溶かして流しちゃうぞ(笑)。もう、次作はハーレクインから出したら良いんじゃないだろか? 熱々お色気アクション路線で行っちゃってほしい。いや、ハーパーに奪い取れと言ってるわけじゃあありません。このまま創元さんに着実に出版をお願いします! 最高の夕日をプレゼントできる男に乾杯!
読了日:01月12日 著者:ジャナ・デリオン

普及版 ハイラム・ホリデーの大冒険 下普及版 ハイラム・ホリデーの大冒険 下感想
なぜか突然、ドイツで死刑判決を受けるところから。正義と騎士道精神と情熱に溢れかえったハイラム・ホリデー氏はドイツ入りした当日にクリスタル・ナハトを目撃。激情の赴くままにナチを殴り倒し、急場を助けてくれた赤毛の美女と・・・大人の世界へダイブ!(児童書)。冒険もいよいよ佳境、姫と王子を伴ってのアルプス越えの逃避行はサウンド・オブ・ミュージックの原型では?と思わせる。重ねていうが1939年の作品だ。ローマでは陰謀に真っ向から立ち向かい、グラディウスを使った決闘に臨むハイラム、元祖ロマンチックな愚か者ここにあり!
読了日:01月10日 著者:ポール ギャリコ

普及版 ハイラム・ホリデーの大冒険 上普及版 ハイラム・ホリデーの大冒険 上感想
東江一紀さんの翻訳しかも児童書、ということで目についた、ポール・ギャリコ1939年の作品です。当時のヨーロッパの危機感を米国に伝える役目を果たせたのかどうかは判りませんが、1938年、ミュンヘン会談前後のナチスの暗雲が広がりつつあるヨーロッパの不安と喧噪を伝えます。主人公ハイラム氏は小太り丸眼鏡の冴えない中年アメリカ人。しかしその内実は、冒険心と正義感と騎士道精神が溢れかえった情熱で煮えたぎるロマンチスト。真っ向から冒険に飛び込み、セミプロレベルに鍛えに鍛えたフェンシングと射撃とボクシングと柔道で人助け。
読了日:01月10日 著者:ポール ギャリコ

グッド・パンジイ (ハヤカワ・ミステリ文庫)グッド・パンジイ (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
【追悼 アンドリュー・ヴァクス読書会】バークの相棒の愛すべきイタリアン・マスチフの老犬パンジイは、バークを守るために敵に襲いかかり蜂の巣にされて殺される。かつてない危機と苦難に見舞われたバークであるが、そのバークを助けるために登場する面子が素敵に良い奴らばかり、今作は“バディ物”の雰囲気すら漂う。これは『ブルーベル』を超える名作では? サツ嫌いのバークをして一目置かせるシカゴの名刑事クランシー。かつてビアフラでバークに命を助られたことを今もって恩にきているホモの黒人、バイロン。その恋人のCIAブリック。
読了日:01月08日 著者:アンドリュー ヴァクス

読書メーター

2022年1月29日土曜日

0319-20 テメレア戦記 1  気高き王家の翼  上・下 

書 名 「テメレア戦記 1 気高き王家の翼 上」 
原 題 「His Majesty's Dragon」2006年
著 者 ナオミ・ノヴィク    
翻訳者 那波 かおり
出 版 静山社 2021年12月(文庫版)
文 庫 272ページ
ISBN-10 4863896409
ISBN-13 978-4863896406
初 読 2022年1月29日

 時はナポレオン戦争の時代。海戦は戦列艦による艦隊戦。そんな世界にドラゴンがいたら、の架空戦記・ファンタジー。生まれてすぐに言葉を人語を交わし、名前を与えてくれた者を主(ハンドラー)とするドラゴンーーー聡明で巨大な生き物、と人間の愛と友情の物語です。これはもう、面白くない訳がない。

 生粋の海軍軍人ローレンスが率いる英国海軍フリゲート艦リライアント号が戦いの末フランスのフリゲート艦を拿捕してみたら、積み荷の中にあったのはドラゴンの卵。しかも博識な軍医によれば、孵化目前とみえる。ドラゴンは各国において極めて貴重な存在で、生まれた時に絆を結ぶ人間がいなければ野生化してしまう。だれかが竜の誕生に立ち合い、ハンドラーにならねばならないがそこは大西洋の洋上。居合わせたのは、すでに海で艦とともに生きると心を定めた海軍軍人たちしかいない。誰がこれまでとこれからの人生を捨てて、ドラゴンと生きる道を取るのか。ドラゴンのハンドラーとなるのは試練の道である。
 人間たちの困惑と思惑をよそに、孵化した幼竜が選んだのは、フリゲート艦リライアント号の艦長ローレンスだった。艦長は幼竜に一流の戦列艦テメレア(テメレール号)の名前を与えた。
 とにかく、テメレアが可愛い。その一言に尽きる。
 孵化直後から人語を解し、好奇心一杯。男の子の幼竜なのです。(しかし、肉食の大喰らいでもある。)
 ふふん。というのが口癖、というか、鼻で笑うような仕草。
 光り物が大好きで、ローレンスからプレゼントされた宝飾品をとても大切にしているのも可愛らしい。
 そして、そのハンドラーとなった、ローレンスがまたイイ男なのだ。成長譚は成長譚なのだが、少年期(12歳)から海軍で育ち、有能で人柄にも優れて部下からも慕われ、すでにフリゲート艦の艦長になっている英国海軍軍人たる主人公のローレンスが、偶然の重なりで竜のハンドラーになってしまい、そこから、人生の進路の変更を迫られ、新たな伴侶(竜)とともにさらに転進していく、というある意味、転職ストーリーなので、ファンタジーといえど、ちょっと渋くて十分大人の読書に耐える仕上がっている。 
 ドラゴンを愛する全ての人へ。読んで損はなし。 余談だが、リライアント号という艦の名前に心がうち震える。 



書 名 「テメレア戦記 1 気高き王家の翼 下」 
文 庫  312ページ
ISBN-10 4863896417
ISBN-13 978-4863896413
初 読 2022年1月30日

 図らずも大洋で生まれて、生後数ヶ月をそこで過ごしたテメレアは、泳ぐのが得意で大好きな竜に育っていた。陸育ちの竜達には水浴びの習慣がなかったようで、湖で泳いで体を清潔にするのを好むテメレアに感化されれた竜達が増えていく。戦闘シーンも面白いが、こういう訓練や戦闘の合間のくつろぎのシーンが楽しい。
 ハンドラーや、クルー、チームのメンバーに大切に世話されている竜達の中で、小型の伝令竜のレヴィタスが哀れ。自分の竜と心を交わさず、道具程度にしか思っていない愚昧で高慢なハンドラーに周囲は皆腹を立てているが、だからといってどうにもできないやるせなさや苦みは、現実に通じるものがあるなあ。開戦に向けた訓練、合間の水遊びや食事、救援、奇襲、スパイ、そして戦闘。ナポレオンとの戦争はまだまだ続く。以下続刊。

2022年1月22日土曜日

0318 笑う死体:マンチェスター市警 エイダン・ウエィツ (新潮文庫)

書 名 「笑う死体:マンチェスター市警 エイダン・ウエィツ」 
原 題 「THE SMILING MAN」2018年
著 者 ジョセフ・ノックス
翻訳者 池田 真紀子
出 版 新潮社  2020年8月
文 庫 656ページ
初 読 2022年1月22日
ISBN-10 4102401520
ISBN-13 978-4102401521
 前作からなんとか首の皮一枚つながって、そりの合わない嫌み悪臭まみれの鼻つまみ者の警部補サティとバディを組んで夜勤専属の刑事として現場に戻ったエイダン。
 嫌われ者のサティにあからさまに嫌われ、いいようにこき使われているが、夜の街を見つめるエイダンの視線はどこかやさしい。
 営業を停止しているホテルからの通報で現場に向かうと、巡回中に殴り倒された警備員、逃げていく不信な人影、そして不可思議な死体。
 笑っているように顔の筋肉を硬直させて死んでいる男を巡り捜査は二転三転し、同時進行で有名テレビコメンテーターによる女子学生へのリベンジ・ポルノ、エイダン自身を標的とした殺人計画、不審な無言電話と監視者の影・・・・・と、息つく暇もなく、緻密に絡みあうストーリーは本格ミステリーとしても秀逸だと思うが、なによりもエイダンの造形がたまらなく良い。
 虐待され、犯罪に利用され、殺人や悲惨な情景を目撃しつづけた幼少時の記憶を追い散らすために麻薬に耽溺した過去、虐待から意識を逃避させるために身についた解離や認知のゆがみも自分自身の属性として受け入れながら、ただ生き延びるために生きているエイダンが、街で出会う人々に向ける思いに胸がいたむ。

 俺は妹に日に数度は合っている。オクスフォード・ロードには若い女性がひしめいている。妹と同じ巻き毛と真剣な表情をした娘もいる。二十年以上前、妹のアニーが浮かべていたのと同じ真剣そのものの顔。あのなかの一人が妹だったとしてもおかしくない。だから俺は、彼女たち一人ひとりを愛おしく思う。おしゃれに装っていれば、俺も背筋が伸びる。大事な仕事に向かうところなら、誇らしくなる。幸せそうな様子をしていれば、恋人と並んで街を歩いていれば、うれしくなる。(中略)これまで生きてくるあいだに俺は少なからぬものを失ったが、妹と離ればなれで生きてきたがために、それだけのものを手に入れた。行きずりの人を見て一日に二十回も笑みをうかべる人生。

 これが、エイダンという人間だ。

 もうひとり、嫌われ者のサティも、だたのイヤな奴ではない。 むろんイヤな奴には違いないのだが、破滅型で回りにとばっちりをまき散らしかねないエイダンをあえて引き受けているような、複雑な奥の深さがある。

 幸せでなくても、報われることがなくても、自分が死んだりましてや殺されたりする理由にはならないし、死なない以上、どんなにそれが困難でも生きていかなければならない。あまりにも薄幸だが、内面に火花のような生命力を秘めたエイダンの存在そのものが、この物語である。

   

2022年1月16日日曜日

0317 堕落刑事 :マンチェスター市警 エイダン・ウエィツ (新潮文庫)

書 名 「堕落刑事 :マンチェスター市警 エイダン・ウエィツ」 
原 題 「SIRENS」2017年
著 者 ジョセフ・ノックス
翻訳者 池田 真紀子
出 版 新潮社  2019年8月
文 庫 618ページ
初 読 2022年1月16日
ISBN-10 4102401512
ISBN-13 978-4102401514
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/103806351   
 タイトルの「堕落刑事」はややミスリード気味で煽りが強いかな。このタイトルと、“―押収品のドラッグをくすねて停職になった刑事エイダン・ウェイツ。”という謳い文句に騙されて、長いこと興味が湧かずに手を出さなかったのは事実だ。しかし、読み友さんのレビューはなかなかに興味を引く。ついでに3作目の『スリープウォーカー』の帯の惹句があまりにもあんまり(笑)なので、まとめて読むことにした。
 
 ちなみにその3冊目の帯はこれ ↓
 まあ、この惹句が正しいかどうかは、3作目をよんで判断するとして、そのためにもまずはこの一作目を読まなくてはならない。
 というわけで読んでみた。

 
 で、まず、冒頭の感想。
 タイトルがミスリード、と思ったのは最初に書いたとおり。これは多分損してるよな。堕落刑事どころかエイダン・ウェイツ、なんというか真っ直ぐで不器用だけど、ちょいと破滅型だけど、いい奴じゃないか。ただ、損な生まれつきの人間は一生損をする見本のような、負け犬人生を素で歩んでいそうではある。
 同僚の卑小な不正を見逃せず、さりとて真っ向から抵抗もできず、自分にできるささやかな証拠隠滅を図ろうとしたら速攻でバレて、証拠品横領の泥で頭のてっぺんからつま先まで真っ黒にされてしまう。おまけにマスコミに都合良くリークもされて、もはや隠れるところなき「汚職警官」の一丁上がり。そして、崖っぷちに立たされて、都合良く麻薬密売組織への潜入捜査員に仕立て上げられるわけだ。

 だがこの話、さすがはイギリスの小説というべきか、アメリカ・ミステリにはない深みがある。明確な善悪でくくれない登場人物たち。悪の親玉までが良いヤツに思えてくるのが不思議で、だれもだれもが不思議な魅力を湛えている。全部が自分は悪くない、と心底では思っている節がある。そして、エイダンはこれでもかと殴られ、殴られ、階段から落とされ、ボロボロ。とにかく哀れなのである。
 そこまでボロボロでも、それぞれが大なり小なり清濁合わせ呑むところが、さすがの英国風だと感じるゆえんだ。この世の中は、国家のありようそのものが若気の至りなアメリカ人が考えるほどには単純ではない。小説世界もまた然り。母親に捨てられてて、幼い妹と施設に入れられたエイダンが、せめて妹だけでも良い里親に引き取られるように、と願う。妹を手放したときから、妹にイメージが重なる若い女性を守ることが、彼の生き方を決めている。最後のキャスとの別れが妹との別れと重なって、無性に切ない。
 
 いやこれ、面白かったです。珍しくも1日で読み切ってしまう、というリーダビリティは翻訳者の池田真紀子氏の手腕でもあろう。当然、後2冊も読む。
 エイダンにほんのちょっとは幸いあらんことを祈りつつ。

 ちなみに、このエイダンもバークと同じ孤児院育ちだが、同じく「児童養護施設」とはいえ、二人の仕上がりにはずいぶんな差がある。これも英国と米国の懐の深さというか歴史の違いなのだろうか。

2022年1月13日木曜日

0316 ハートに火をつけないで(創元推理文庫)

書 名 「ハートに火をつけないで」 
原 題 「SWAMP TEAM 3」2014年
著 者 ジャナ・デリオン
翻訳者 島村 浩子
出 版 東京創元社 2021年9月
単行本 352ページ
初 読 2022年1月12日
ISBN-10 4488196071
ISBN-13 978-4488196073

 パーフェクト!!ワニ町にして、最高。シールズならぬSwamp team 3なのに完璧!
 前3作より破天荒さは若干弱めなれど、それを勝る破壊力なのが色男カーターの流し目だ!熱々のディープキスがもともと少なめなフォーチュンの理性をどろっどろに溶かして流しちゃうぞ(笑)。もう、次作はハーレクインから出したら良いんじゃないだろか? 熱々お色気アクション路線で行っちゃってほしい。いや、ハーパーに奪い取れと言ってるわけじゃあありません。このまま創元さんに着実に出版をお願いします! 最高の夕日をプレゼントできる男に乾杯!

 今回、後書きに、架空の街「シンフル」のホームページが紹介されています。キャラクター写真については、フォーチュン以下、TEAM3のメンバーはイマイチだけど、カーターとウォルターとマーリンはぴったりだ。おかげでこの本を読んでいる間、ずーっと、カーターの超色っぽい流し目が、脳裏を流れていたよ。まだ見てない方は必見。ぜひ!→http://sinfullouisiana.com/sinful-residents/  (写真はHPより借用しました。)



2022年1月10日月曜日

0314ー15 ハイラム・ホリデーの大冒険(上・下)ソフトカバー単行本

書 名  「普及版 ハイラム・ホリデーの大冒険 上・下」
著 者 ポール ギャリコ  
翻訳者 東江 一紀  
出 版 復刊ドットコム 2014年4月 
文 庫 上巻/197ページ 下巻/225ページ        
ISBN-10 上巻/4835450515     下巻/4835450523  
ISBN-13 上巻/978-4835450513 下巻/978-4835450520
初 読 2022年1月10日 
読書メーター    
“人間は誰でも、程度の違いはあるが、二重の人生を営んでいる。自分の頭の中にある自分の人生と、友人や同僚の目にうつった自分の人生だ。”
 東江一紀さんの翻訳による児童書、ということで目を引いた作品。主人公は冴えない小太りの中年男でこの冒険譚!しかも1939年の出版でこの内容。よくぞ書いたり。

 東江さんによる「訳者あとがき」は必読。この作品が書かれた時代背景が簡略に述べられていますが、あの当時の情勢を、アメリカで創作活動をしていたポール・ギャリコが的確に捉えていたのはすごい慧眼だと思う。さすがは記者、というか、ギャリコの父はイタリア人、母はオーストリア人で、アメリカに移民したというから、父祖の地の当時の情勢に人一倍敏感だったのかもしれない。(このあたりの事情は下巻の解説に詳しく書いてあった。)
 見栄えもしない冴えない中年の米国人であるハイラム・ホリデー氏に連れられて、イギリス、フランス、チェコスロバキア・・・・(ここまでが上巻で、下巻ではドイツからオーストリアを経てイタリアに向かう。)とヨーロッパを股にかけた冒険を追いかけつつ、ハイラム氏とともに、ナチス・ドイツの暗雲がヨーロッパを覆い尽くすのをひしひしと感じる。その危機感を大西洋を挟んでまだまだ暢気な米国に伝えたようとしたのだろう。アメリカが参戦するのはここから3年後の1941年。日本による真珠湾攻撃を待つことになる。
 下巻は、いきなりハイラム・ホリデーの死刑宣告?! と刺激的な展開となる。ハイラムは、ベルリンに入った当日に“クリスタル・ナハト”を目撃する。目撃するだけでなく、ガマンしきれずに衝動的にSS(?)に殴り掛かり、居合わせた血に飢えた群衆になぶり殺しにされそうになる。そこに助けに割り込んだ絶世の美女。ハイラムは勢いにまかせて・・・・・大人の世界に突撃だ!(これ、児童書だったよな??)
 その後のオーストリア編では、これはサウンド・オブ・ミュージックの原型では?と思えるような、民謡を聴かせるレストランからの逃亡劇して教会の墓所へ身を隠し、決死のアルプス越え。いやすごい。重ねていうが、1939年の作品なのだ。
 そして、ローマ編。ハイラムは、彼の命を奪わんとするファシスト達の陰謀で、後に引くことのできぬ決闘に引き込まれる。。。。。

 下巻の解説を読めば、ハイラム・ホリデー氏が著者ポール・ギャリコの、かくあれかし、という夢の人格であることが判る。まさに冒頭の、“人間は誰でも、程度の違いはあるが、二重の人生を営んでいる。自分の頭の中にある自分の人生と、友人や同僚の目にうつった自分の人生だ。”という一文のとおり。


【第二次世界大戦 概略(アメリカ参戦まで)】
  1936年11月25日ドイツと日本帝国による防共協定
1937年7月7日日本が中国に侵攻(盧溝橋事件・日中戦争)
1938年3月13日アンシュルス(ドイツがオーストリアを併合)
9月29日ミュンヘン協定(ドイツ、イタリア、英国、フランス)。チェコスロバキア共和国の
スデーテン地方のドイツへの譲渡(※作中P.28の「ゴーデスベルグの会談」がこれ)
11月9日クリスタル・ナハト(水晶の夜)
1939年3月14日〜15日スロバキアは独立を宣言、スロバキア共和国を結成。ドイツはミュンヘン協定に反
してチェコの残りの領域を占領し、ボヘミア・モラビア保護領を結成
3月31日フランスと英国がポーランドの国境を保障
4月7日〜15日  イタリアによるアルバニアの侵攻および併合
8月23日独ソ不可侵協定および秘密議定書の調印。東ヨーロッパの分割
9月1日  ドイツのポーランド侵攻。ヨーロッパにおける第二次世界大戦が勃発
9月3日  英国とフランスがドイツに宣戦布告
9月17日ソ連が東からポーランドに侵攻
9月27日〜29日ワルシャワ降伏。ポーランド政府はルーマニアに亡命。ドイツとソ連は両国間で
ポーランドを分割
11月30日
〜翌3月12日
ソ連のフィンランド侵攻(冬戦争)。フィンランドは休戦を求め、ラゴダ湖北岸
と北極海沿いの海岸線地帯をソ連に譲渡
1940年4月9日
〜6月9日 
ドイツがデンマークとノルウェーに侵攻。デンマークは即日に降伏。ノルウェー
は6月9日まで抵抗
5月10日ドイツがフランスおよび中立の低地帯諸国を攻撃。ルクセンブルクを占領
5月14日オランダ降伏
5月28日ベルギー降伏
6月22日フランスが休戦協定に調印。これによりドイツはフランスの北半分と大西洋海岸
線地域全体を占領。ヴィシー政権樹立
6月10日イタリアが参戦。イタリアは6月21日に南フランスに侵攻
6月14日〜ソ連がバルト海沿岸諸国を占領、8月にはそれらの国をソ連に併合
9月13日イタリアがリビアから英国支配下にあるエジプトに侵攻
9月27日ドイツ、イタリア、日本が三国同盟に調印
10月28日イタリアがアルバニアからギリシャに侵攻
11月 スロバキア、ハンガリー、ルーマニアが枢軸国に加盟
1941年2月ドイツが北アフリカにアフリカ軍団を送り、イタリア軍を援護
3月1日ブルガリアが枢軸国に加盟
4月6日〜6月 ドイツ、イタリア、ハンガリー、ブルガリアによるユーゴスラビアの侵攻および
分割。4月17日ユーゴスラビア降伏。ドイツとブルガリアはイタリアを支持して
ギリシャに侵攻。ギリシャの抵抗が1941年6月初旬に終わる
6月22日〜11月 ドイツと枢軸国パートナー(ブルガリアを除く)がソ連侵攻。冬戦争の休戦での
領土喪失の救済を求めるフィンランドは、侵攻の直前に枢軸国に加盟。ドイツは、
バルト海沿岸諸国を制圧し、フィンランドと協力して、9月までにはレニングラー
ドを包囲。
12月6日ソ連の反撃によりモスクワ郊外からドイツ軍が撤退
12月7日真珠湾攻撃
12月8日米国が日本に対して宣戦布告し、第二次世界大戦に参戦。
太平洋地域の第二次世界大戦勃発

2022年1月8日土曜日

アンドリュー・ヴァクス作品一覧


アウトロー探偵バークシリーズ
1 フラッド (Flood)(1985年)          
2  赤毛のストレーガ (Strega)(1987年)  
3 ブルー・ベル (Blue Belle)(1988年) 
4 ハード・キャンディ (Hard Candy)(1989年) 
5 ブロッサム (Blossom)(1990年) 
6 サクリファイス (Sacrifice)(1991年) 
7 ゼロの誘い (Down in the Zero)(1994年) 
8 鷹の羽音 ( Footsteps of the Hawk)(1995年) 
9 嘘の裏側 (False Allegations)(1996年) 
10 セーフハウス (Safe House)(1998年) 
11 クリスタル (Choice of Evil)(1999年) 
12 グッド・パンジイ (Dead and Gone)(2000年) 
13 Pain Management(2001年) 
14 Only Child(2002年) 
15 Down Here(2004年) 
16 Mask Market(2006年) 
17 Terminal(2007年) 
18 Another Life(2008年) 

ノンシリーズ
凶手(1993年)  
バットマン 究極の悪 (Batman: The Ultimate Evil)(1995年)  
A Bomb Built in Hell(2000年)
The Getaway Man(2003年)
Two Trains Running(2005年)

2022年1月7日金曜日

0313 グッド・パンジイ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

書 名 「グッド・パンジイ」 
原 題 「DEAD AND GONE」2000年
著 者 アンドリュ−・ヴァクス    
翻訳者 菊地 よしみ    
出 版 早川書房 2003年8月
単行本 582ページ
初 読 2022年1月●日
ISBN-10 4150796114
ISBN-13 978-4150796112
読書メーター  
 愛すべき老犬の、イタリアン・マスチフのパンジイ。バークの相棒、親友、同居人。バークは、はめられて銃撃され、バークを守るために敵に襲いかかったパンジイは蜂の巣にされて殺される。
 バークも九死に一生を得るも重傷を負って片目の機能を損ない、マックスの隠れ家にかくまわれて何ヶ月も潜伏する。
 やがて、活動を再開したバークは、パンジイの敵討ちを果たすために、自分を狙った相手とその理由を探し出す・・・・・

 シリーズのなかでもかつてない危機と苦難に見舞われたバークであるが、そのバークを助けるために登場する面子がこれまた素晴らしく、それこそシリーズ中かつてなかった“バディ物”の雰囲気が漂う。これは・・・・・・ひょっとして、 『ブルーベル』を超える名作なのでは!?
 サツ嫌いのバークをして一目置かせるシカゴの優秀な刑事、クランシー。かつてビアフラでバークが命を助けたことを今もって恩にきているホモの黒人、バイロンはパイロット&自動車運転の名手。その恋人の「国内では活動できない」諜報機関員(つまりCIA)のブリックもその技術でバークの支援につく。かつてポル・ポト政権下のカンボジアを生き抜いた経歴を持つ、才色兼備で大食の女ジェムは、バークの「押しかけ女房」に。幼い頃、児童精神病院を共に脱出したかつての美少年で今は超絶ハンサムな男に成長したパターン分析の天才ルーン、その部下のインディアンのレヴィは元海兵隊で長距離射撃の名手。これにいつものファミリーの面々と久しぶりに登場のサニー(ランディ)も加わり、為すことはただ一つ。バークの命を狙った奴を探し出す。そしてパンジイの復讐を。
 バークの命が狙われた理由を探すことは、すなわち、バークの過去を洗い出すこと。
 分析の天才ルーンに導かれて、バークは記憶のある限り、自分の過去を洗い出す。
 バイロンとのいきさつ、ルーンとの過去、子犬のパンジイを育てた思い出。辛い記憶をまさぐる度に解離を経験しつつ、ジェムに守られ・癒やされながら。前作のバークの不安定さと対象的に、この本のバークは静かだ。

“ジョー・ランズデールの新作が目に留まった。まだ読んでいないやつだ。” 

 ヴァクスはランズデールと仲が良いのだろうな、バーク・シリーズにはランズデールの本の登場率が高い。そして、ホモセクシャルの黒人キャラ、バイロンでレナードを連想する。

“「あんたは、どんなことだとおれに安心して話せるのかな?」”

 初対面のバークを、最初は自己紹介代わりに自分の用事に連れ回したあと、そう問うたのは、シカゴの有能刑事のクランシー。穏やかに、的確に。いや、バークのような人間との付き合い方を心得ているよな、と感心する。本当に良い奴だ。

 “女が立ち上がった。何かの小さな缶詰を開いて、中身を品よくフォークで白い陶器の皿に掻き出す、猫が近づいてきて、慎重ににおいを嗅いでから、女王然とした態度で、二、三口召し上がった。”

 ヴァクスは、犬のことだけでなく、猫のこともよく理解しているようだ。

“ジェムの食べ方は・・・・・慎重、という言葉がふさわしいようだ。ゆっくりと、一口ごとに何度も何度も噛んでいた。同時に着実でもあり、決してペースを乱さなかった。ローストチキンをまるごと平らげた彼女は、小さな白い歯で骨まできれいにしていった。ドレッシングをかけたサラダの大盛り。ロールパンを四度おかわり。アップルジュースを大きなグラスで三杯。オニオンリングのフライを一皿。付け合わせのロースト・ポテト。”

 自分は大食いだ、と挑戦気味にバークに話しを向けるジェムに、バークは、彼女が小さい頃に飢餓を体験していることを言い当てる。カンボジア人のジェムは、幼い頃にクメール・ルージュに知識人だった両親を殺されていた。そのジェムに、「あなた、どうなるかわからないって恐怖を知ってる?完全に無力だという恐ろしさ、・・・・理解できる?」と問われたバークは「ああ、知ってる」と答える。そんな一言で分かりあえるほど二人の体験は簡単なものではないが、二人は会話や行動を重ねるなかで、信頼を作っていく。

“「古い目覚まし時計をタオルにくるみ、子犬をそのそばで寝かしてやれば、母犬の心臓の鼓動のように聞こえて安心すると言われている。そうする代わりに、おれはパンジイをおれの心臓の上で寝かしてやった。」”

 自分の復讐の目的と理由をジェムに語るバーク。忠実なパンジイがバークを守って、死ぬまで勇猛に闘ったことの意味をジェムに伝えるためには、自分とパンジイの、子犬のころからの関係を語らなければならなかった・・・・・



 冒頭の激しさやバークの苦悩の深さにもかかわらず、パンジイの復讐を実行するという、極めて明確な目標を自分のなかに定めたバークは、非常に落ち着いている。そのためか、この本、これまでのシリーズの中で一番読みやすい。その上、改造車の蘊蓄、50年代、60年代の音楽、さらりと脇に登場する犬猫、銃器、とかなりマニアック度も高い。さらけ出されるバークの過去話も注目度高し。この巻の終わりに、しばしニューヨークを離れてポートランドを拠点にすること、つまりはジェムと一緒に暮らすことを決めるバークであるが、日本語版の刊行がこの巻で止まってしまっているのが非常に残念。ここからのバークの生き様をさらに追いかけたいのに。

2022年1月2日日曜日

映画『ミュンヘン』

 スティーブン・スピルバーグ監督・製作の『ミュンヘン』を視聴。
 今年、イスラエル国家について、パレスチナ問題について、ユダヤ人問題について、フィクションではなく、ノンフィクションの方面で本を読むための、とっかかりというか、動機づけの強化というか。

 2005年12月公開。
ミュンヘン・オリンピック事件と、その報復である『神の怒り作戦』、その担い手に選ばれたモサドの構成員だった若いユダヤ人(作中ではアフナー)とその仲間の行動と、作戦終了後の葛藤を描く。原作は『標的(ターゲット)は11人―モサド暗殺チームの記録 (新潮文庫)』
 まだ若い未熟な青年が仲間とともに暗殺を実行し、やがてそれに慣れ、そのうち一人ひとりが精神を病んでいき、さらに、報復によって仲間も殺されていく。
 悪夢と不眠症に苛まれ、自分の実行した殺人が、(法的にも倫理的にも)肯定されうるものだという証拠を国に対して求めるものの、イスラエル国からそれを得ることはできなかった。結局はアフナーは不信からイスラエルを離れてアメリカに移住し、祖国も失うことになるが、暗殺行動以降、イスラエル当局から圧力をかけられるところも含めリアルに描かれている。(もちろん、リアルだからといって真実だとはかぎらないわけだが。)
 作戦に従事している中、国外から電話をかけ、幼い娘の喃語を聴いて泣くアフナーの姿が一番胸に響いた。
(ガブリエル・アロンとは頭を切り離して観ていたつもりだけど、暗殺を嫌悪しながらも、自分の手で暗殺を実行することにこだわるアフナーがガブリエルとオーバーラップするのを100%排除はできなかった。それにしても、こうしてリアル寄りの映画を観ると、やはりガブリエルはきれい事寄りだよなあ、とは思う。この「リアル」にガブリエルという「フィクション」を対置したダニエル・シルヴァの意図はどういうものだったのだろう、ということも気になる。)

 パレスチナ側だけでなく、イスラエルに対しても批判的な表現があるこの作品は、アラブ側からもイスラエル側からも批判され、スピルバーグの作品のなかでも一番の問題作だと言われているとのこと。また、公開時、モサドや、元モサドの要員などからも事実と違う、との批判が寄せられたそうだ。(Wikipediaより)
 しかし、モサドが「真実と違う」と言ったからといって、だれがそれを信じる?とは思うよね。

 作中で、国を失ったパレスチナ人は100年かかっても国を取り戻すと言い、ユダヤ人は「自分の力で国を取り戻した」と信じる。この救いの無さをほんの一瞬でも観た人に直視させることができるのなら、この映画は成功しているといえるだろう、と思う。ではどうしたらよい?と考えると、救いのない暗澹とした気分に陥る。
 また、イスラエルを知れば知るほど、第二次大戦後『戦争放棄』の道を歩もうとした日本と、あくまでも強固な意志と手段を選ばぬ武力によって『決して侮られない』戦いの道を選択したイスラエル国という二つの国の対照的な姿を思う。そして、結局は『戦争』は放棄しても『武力』は放棄できなかった日本の戦後の姿についても、考えざるを得ない。
 また、2020東京オリンピック開会式で、ミュンヘン・オリンピック事件の犠牲者に対する黙祷が行われたことの意味合いも、合わせて考えてみなくては。

 ところで話は変わるが、主人公アフナーの同志であるスティーブを演じているのがダニエル・クレイグ。
 好演しているのだが、あの薄い色の瞳の効果か、サイコパスに見えてくるんだよね。友情に篤い良いキャラクターなんだけど、どうしても「殺しのライセンス」に見えて、異様な存在感を放っていて主役を喰っていたのはご愛敬(笑)。

2022年1月1日土曜日

謹賀新年2022年 年頭所感

2022年にとりあえず読みたいもの。
 ✓ アンドリュー・ヴァクスの未読4冊。『グット・パンジイ』『嘘の裏側』『鷹の羽音』
  『バッドマン 究極の悪』・・・・ヴァクスを悼んで。
 ✓ 積んでるディーヴァー5作10冊(本棚のディーヴァーを並べるために空けてある隙間を埋めたい。)
我が家の『究極の悪』
今日はお節の海老の尻尾をネコババ
 ✓ 堕落刑事〜スリープウォーカー    3冊
 ✓ ザ・プロフェッサー〜最後の審判   4冊
 ✓ コールド・コールド・グラウンド
           〜レイン・ドッグズ 5冊
 ✓ 天使と嘘   上・下
 ✓ 生か、死か  上・下
 ✓ 夜に生きる  上・下
 ✓ ストーンサークル・ブラックサマー  2冊
 ✓ ハートに火をつけて
 ✓ 自由研究には向かない殺人
 ✓ ガブリエル・アロンの新刊と、キンケイド警視の新刊の翻訳を切望する。もちろん、ロバート・クレイスもだ。グレイマンシリーズも新刊が出れば当然読む。
 ✓ ホロコーストとユダヤ人問題に関連して、積んでいる本を読んでいく。

年間100冊読書。
今年の新刊ラインナップ 創元すごいです。
 ◇ワニ町新刊
 ◇マーサ・ウェルズ『マーダーボット・ダイアリー 逃亡テレメトリー』
 ◇ アンソニー・ホロヴィッツ 『その裁きは死』の続刊 
 ◇ ホリー・ジャクソン 『自由研究には向かない殺人』の続刊 
 ◇ フェルディナント・フォン・シーラッハの新刊『珈琲と煙草(仮)』 
 ◇ フィン・ベルの新刊 
 ◇ P分署捜査班の新刊 
 ◇特筆すべきはコレ! なんと、オルツイの『紅はこべ』の新訳! 
 これは、できたら、続きの作品群の翻訳もぜひ出版してほしい。 

2022年の早川書房の翻訳ミステリ&NVラインナップから大注目作をご紹介!

 ◇ウィリアム・ケント・クルーガー 新刊 
 ◇マイケル・Z・リューイン3作品、うち1冊はアルバート・サムスンの『沈黙のセールスマン』を新版で復刊。
   もう一冊はサムスンの連作短編を武藤陽生さんが翻訳ですと! 
 ◇ロボサムの『天使と嘘』の続刊がもちろん越前敏弥さんの翻訳で! 
 ◇ショーン・ダフィシリーズの6作目も武藤陽生さんの翻訳で。 
 ◇グレイマンシリーズ最新作『Sierra Six』も刊行予定とな。この原著のタイトルだけでいや増す期待感。

  ほかにも一杯あったけど、もはやはち切れそう♬です。読んでない既刊をどんどん読まねば。