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2026年5月6日水曜日

0591〜92 アポロ18号の殺人 上・下

書 名 「アポロ18号の殺人」
原 題 「THE APOLLO MURDERS」2021年
著 者 クリス・ハドフィールド   
翻訳者 中原 尚哉   
出 版 早川書房 2022年8月
文 庫 上巻:384ページ  下巻:‎ 384ページ
初 読 2026年5月5日
ISBN-10 上巻:4150123756   下巻:4150123764
ISBN-13 上巻:978-4150123758 下巻:978-4150123765
読書メーター 上巻:https://bookmeter.com/reviews/135145196
       下巻:


 上巻を読むのにあまりにも時間が掛かりすぎたために、伏線をほとんど忘却する、という事態に。人様のレビューを読んで、あわてて再チェック。
 3人の正規クルーと3人のバックアップの中に、ソ連側のスリーパーが存在した。それは誰なのか。
 アポロ18号の打ち上げ1ヶ月前にして、船長であるトムが訓練機の操縦ミスで墜落死。果たして事故なのか(んなワケない。)では、犯人は誰なのか。
 打ち上げは、バックアップクルーの中からチャドが繰り上げになって続行。
 そのチャドの、打ち上げ前の最後の食事でステーキを喰うやらかしがヒドい。

 そして無人だと思っていたソ連側偵察衛星は実は有人で、しかも、アポロ18号の悪意ある接近を待ち構えていた。なんなら手に手に武器を持って。

 自己過信強めの(よくある)アメリカ側の迂闊と、ソ連側の野蛮が宇宙空間で計算ずくの遭遇を果たすが、その結末は想像を超えた。だけど、その直接的な原因が、いかにもアメリカ野郎が考えたソ連のやらかしっぽくてかるく失笑。

 アポロ宇宙船のハッチの縁に掛かった人間の手(手袋)は、ほぼ、ホラー映画のノリである。

 そして乗り込んで来たのはソ連の女性宇宙飛行士。

 なにしろ著者が宇宙飛行士ってことで、微に入り細にわたる細かい描写を丁寧に読んでいくと全体がスローモーションみたいになってしまい、致命的に自分の文字を追うスピードと物語のペースが合わない。これが、読書に着手して3回も中断、放置になった理由。宇宙船が打ち上がったあたりからやっと面白くなってきて、読書スピードを上げることに成功し、上巻を(そして大気圏を)脱出。なんというか、やっと一段目のロケットの切り離しに成功した気分である。
 上巻ラストで、ついに件のスリーパーが誰なのか、そして、なぜイラリオン修道士が冒頭から登場していたのかがつながり、あろうことかアポロ18号に乗り組む生者3人のうち、2人までもが“ソ連側”であることが判明。だがこの2人とて、手に手をとって協力する様子ではない。だがしかし、本当に彼が“スリーパー”なのか?わかりやすすぎやしないか。もしや“スリーパー”は別にいて、さらにストーリーが錯綜する可能性すら残っている。しかし、この2人がこれからどう動くのか。そして、地上に置き去りな主人公のカジミエラス・ゼメキスはどう動くのか。個人的には、隻眼のカズは超好みである。

 そして、ここからが下巻。





2025年10月31日金曜日

0567〜8 暗殺者の回想 上・下 (ハヤカワ文庫NV)

書 名 「暗殺者の回想 上」「暗殺者の回想 下」
原 題 「SIERRA SIX」2021年
著 者 マーク・グリーニー    
翻訳者 伏見 威蕃    
出 版 早川書房 2022年10月
文 庫 上巻:464ページ/下巻:448ページ
初 読 2025年10月31日
ISBN-10 上巻:4150415005/下巻:4150415013
ISBN-13 上巻:978-4150415006/下巻: 978-4150415013

読書メーター https://bookmeter.com/reviews/131246661  

 新刊から丸々3年以上寝かせてしまった(汗)。すでにその後、2作が刊行されている(汗)。その上、12月には新刊が出る!(大汗)。 ここで遅れを取り戻さねば、と慌てて手に取る。
 今作は、12年前と現在の交互展開。"冷酷な目をした暗殺者”なのに、どうしても子犬に見えるのはどうしてだ? ジェントリーと教官だったモーリスの信頼関係もよい。だがしかし、久しぶりに登場したカーマイケルは相変わらずクソだ。
 ジェントリーはザックのチーム〈ゴルフ・シエラ〉の4人目のシエラ・シックスだった。生意気千万の25歳。根っからの単独行動者。長期間の潜伏にも耐える粘り強さと比類無き技倆を持ち、そして口のきき方を知らない(笑)。

 ただ、口のきき方は知らないが、自分がそういう人間だということは承知しているし、得手不得手も承知している。そして、望まれるなら、努力もできる。若ジェントリーは生意気で変わった奴ではあるが、見所はある。そんなジェントリーを鍛え甲斐のあるやつと見込んだザック。ジェントリーが弟以外では初めて持ったチームであり、上官。スタッグの組み方もジェントリーはザックとそのチームに叩き込まれたのだ。
 そして、これまた甘酸っぱい、高校生みたいな恋。その結果は推して知るべし。

 そして、ジェントリーが胸の痛みを知ることになった、惨憺たる結果になったパキスタンでの作戦から時が過ぎること12年。
 再びCIAのおたずね者になったジェントリーは、ある民間請負の仕事であり得べからざる男を発見する。それは、12年前の事件の首謀者。そこから始まる追跡劇。
 
「俺はあんたのシックスでいたい」

 もはや、恋の告白のような言葉で、ザックの永遠の弟分ポジションが確定した若造ジェントリーであった。

2025年7月31日木曜日

0561 幻影の都市(ハヤカワSF文庫版)

書 名 「幻影の都市」
原 題 「CITY OF ILLUSIONS」1967年
著 者 アーシュラ・K・ル=グウィン    
翻訳者 山田 和子    
出 版 早川書房 1990年4月
文 庫 313ページ
初 読 2025年7月31日
ISBN-10 4150108668
ISBN-13 978-4150108663
読書メーター  

  表紙の絵が怖いのだ。白目に見えるんだよね。実際には、猫目の光彩が描き込んであって、金色の目なんだけど、小さな画像になると、金色の濃淡でうっすらと描かれた光彩が見えないのだ。
 あと、なんだかねえ。訳者後書きが死ぬほどつまらない。貴方様のSF論を読みたいわけではないのだ。観念的で、なにか意味のあることが語られてるのかを理解できないのは、私の頭が悪いからなんだろうか? なんというか、70年代の匂いが紛紛とする。「主義」とか「思想」とかの匂いがしてくる。(出版されたのは90年なんだけどね。)まあ、自分自身も文章で語ってしまったりしがちなので、あまり人のことを批判できないとは思うのだけど、ただ訳すだけじゃダメだったのか? 似たようなことは、ル=グウィン自身にも思ったりはする。ただ、書くだけじゃダメだったのか?と。作家なんだから、作品で語ればいいじゃないか。なぜ、解説したがるんだ。 ましてや、翻訳者の思い込みの強い蘊蓄なんて、本当にいらんわ。翻訳の苦労話ならいくらでも読めるのだけど。
 
 まあ、それはさておき。

 ル=グウィンは、どの作品でも主人公が大陸や原生林の中を旅をする。大いなるワンパタなんだ、と思い始めた。ゲドも旅をしたし、これまで読んだ本、『辺境の惑星』を除いて、とりあえず主人公が孤独な旅をする。作品一つ一つの完成度は高いのだと思うのだが、まとめて読んで食傷した。主人公は男にせよ、女にせよ、いつも淡々としている。とても抑制が効いている。大きく乱れない。とてもストイック。なんとなく息苦しい。
 主人公が旅の中で出会う、刻々と様相を変えていく空や、森林、壮大な大自然の描写は素晴らしいと思うのだ。多分・・・・たぶん、単品で読んだほうがいいのだ。たとえ、ハイニッシュ・ユニバースのシリーズであっても。

 このシリーズの中では、どの惑星も「地球」と呼ばれ、どの星の話なのかは読み進めるまでは判らない。時代の前後関係も、しかとは語られない。この作品は、どこか深宇宙の惑星の話か、と思ってよんでいたら、実は文明が衰退した後の地球、しかも北アメリカ大陸の話だった。科学文明が隆興し、宇宙に植民し、星間戦争ののち、衰退する。人々は、残された文明の残滓に縋りながら、近代以前に後退した文化の中で生活している。
 なお、読んでいて、『辺境の惑星』に直接繋がる話なのだと判明する。『辺境の惑星』がその後、どのように発展したのか、様子がわかって感慨深い。このあたりの文化や文明のヴァリエーションの付け方は、さすがだな、と思う。
 その一方で、舞台となる惑星は違えど、似たようなシチュエーションが展開することに飽きてきてしまって、読み進めるのがついに苦痛になってしまった。
 前半はグレートジャーニー、後半は『敵』との心理戦。敵であるシングのイメージが前半、中盤、後半でがらりと変わってくるのは面白いとは思ったのだよな。だけどそこまで。前半の旅が冗長だったので、後半の心理戦に重点を置いていたら、また印象が違ったかもしれない。

2025年6月8日日曜日

0557 辺境の惑星(ハヤカワSF文庫版)

書 名 「辺境の惑星」
原 題 「Planet of Exile」1966年
著 者 アーシュラ・K・ル=グウィン    
翻訳者 脇 明子    
出 版 早川書房 1989年7月
文 庫 215ページ
初 読 2025年6月7日
ISBN-10 4150108315
ISBN-13 978-4150108311
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/128345663

 まず、この「辺境の惑星」の設定が面白い。
 太陽は、竜座のγ(ガンマ)、エルタニン。竜座は(この地球の)北の天空の北極星を半円に取り囲んでいる星座で、エルタニンは北極星からは一番遠くに見える二等星。
 その恒星を太陽とするこの惑星(作中ではこちらも「地球」と呼ばれる。)は二重星で、こちらの地球の月よりも(おそらくは)はるかに大きく、それ故、重力の影響も強い月を持つ。
 月の影響による潮の満ち引きは、毎日15フィートから50フィート、というから満潮と干潮では、4メートルから15メートルの海面高の差を生む。干潮から満潮に向けて海が満ちてくるときには、毎日津波のように潮の壁が押し寄せる。ダイナミック!
 月と惑星がお互いを巡る公転周期は400日。月の満ち欠けは400日をかけてゆっくりと行われる。この二重星が恒星(エルタニン)を一回りする公転周期、つまり1年は60ヶ月=24000日、一日の長さについては言及されていないので、ひとまず地球日を当てはめるとして、四季が巡るのに、地球年では65年ほどかかる計算。(作中では、60年と書かれているので、もしかしたら一日の長さは地球よりも短めなのかもしれない。)
 おそらくだが、それだけ月が大きいとなると、月の公転でこの惑星も振り回されるだろうから、一月400日の間にも相当の寒暖差があるのではなかろうか。そして、60ヶ月(地球年で60年)の惑星の公転周期では、氷河期と温暖期ほどの寒暖差が生まれる。

 そんな惑星にもとから生息するヒューマノイド(ヒルフ)と、後から植民した地球人のコロニーが、冬(=氷河期レベル)の脅威と、その天候の中で生まれる生物の大移動によりもたらされる民族存続の危機に立ち向かう、そんな話。この惑星運行のダイナミズムをまず、世界観として楽しもう。

 この小説は、言うまでもなくSF小説のカテゴリーなんだけど、これまでに読んだル=グウィンのSFすべてに当てはまるが、「空想科学」の「科学」の部分はとても薄め。どちらかというと民俗学、folklore。ル=グウィンが70年代以降の米国を代表するSF作家の一人であることには無論異議はないのだが、個人的には、SFというよりはFF=folklore fantasy?fiction?ってカテゴライズを奉じたくなる。だが、それはさておき、物語は起伏に富み、とくに主人公の一人のロルリーの造形もとても良く、面白く読めた。

 遠未来の辺境の星域の惑星。植民したものの、『ロカノンの世界』でも語られた、敵対する異星文明の侵攻の煽りで惑星に置き去られ、忘れ去られた植民者たち。植民星の先住文明に影響を与えることを禁ずる法律を遵守し、原始共産制社会から中世くらいのどこかの発達段階でしかない先住民族の文化レベルに同化せざるをえなかった入植者と現住民の文化の衝突。そして氷河期レベルの冬の到来で、もう一種の北方の先住民族の暴力的な民族大移動に蹂躙される危機。先住民と入植者のコロニーは生存をかけて手を結ぼうとするものの、異文化の排他や、血族や男の沽券なんかも絡んで一筋縄ではいかない。その物語の中で、渦中の主人公ロルリーが異郷の人々の中で静かに意思の強さと賢さを発揮する様子がとても好ましい。(読んでいないけど)ネイティブアメリカンのイシもそんなだったのだろうか?などと想像。ル=グウィンの原体験に根差した作品なのであろうと感じさせられる。
 
 なお、やっとヒルフの指すところがはっきりした。HILF。ハイリー・インテリジェンス・ライフ・フォーム(高度な知性を有する生命体)の頭文字。実は先に読んだ『ロカノンの世界』にも登場していたが、『最高の知性を有する生命体』とサラリと日本語に翻訳されていたために、おそらくこれだろうな、とは思ったが、確信が持てていなかった。なお、『ロカノンの世界』の第1章は、独立した短編『セムリの首飾り』として、ハヤカワSF文庫の『風の十二方位』に収録されており、こちらの翻訳では「高度な知性を有する生命体」にハイ・インテリジェンス・ライフ・フォームと親切にルビが振ってあった。ちょっとすっきりした。

2025年5月26日月曜日

0556 ロカノンの世界(ハヤカワSF文庫版)

書 名 「ロカノンの世界」
原 題 「Rocannon's world 」1966年
著 者 アーシュラ・K・ル=グウィン    
翻訳者 小尾 芙佐     
出 版 早川書房 1989年5月
文 庫 217ページ
初 読 2025年5月18日
ISBN-10 4150108234
ISBN-13 978-4150108236
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/128057332

 ル=グウィンのデビューSF長編。(なにかの解説に「処女長編」って書いてあったけど、ル=グウィンはそのような表現嫌がりそう(笑))
 ハヤカワ文庫の表紙は萩尾望都で、これがとても美しい。そういえば、SFファンタジーというような作風は、萩尾望都、竹宮惠子などとの同時代性を感じる。実際には大泉組が影響をうけた側だろうと思うが。『銀の三角』とか『マージナル』のような萩尾望都の絵柄で、物語が脳内再生される。神話世界を生きている惑星と、そこに到来した地球(=ハイン)文明、SF的要素が融合した、異世界ファンタジーである。
 第一部は、ある(未開の)惑星の、民俗的伝承から始まる。
 そこで描かれるサファイヤ(たぶん)の首飾りは、初期の探検隊が星から持ち出し、別の惑星にある博物館に収められていた。その首飾りを取り戻すために、神話世界の女王たる美しい女性が、まさに時空を旅してロカノンの元を訪れる。
 一人の異郷の美しい女性に心惹かれた民族学者が、再びその惑星の調査に訪れる。古典SFらしい、光速旅行による時間の遷延が、物語の重要なファクターとしてうまく取り込まれている。また、超光速航法は開発されてはいるが、生物は超光速航法には耐えられず、光速の壁を越えることはできない、というル=グウィンのハイニッシュ・ユニバースの独自設定も面白い。
 一人の成熟した民俗学者である地球人(血統的には純粋なハイン人)のロカノンが、異星民族の調査中に、突然正体不明の敵からの攻撃で仲間と船を失い、母星との連絡手段も失われてしまう。鉄器ー青銅器時代の発展段階の未開な異星にたった一人で取り残された状態から、起死回生のために、現地人の勇者や従者や矮人を連れて、未知の土地に旅に出る。主にロカノンの視点で語られる未開の惑星が、ル=グウィンの手によって色彩も鮮やかに、空気も芳しく描き出される。ロカノンの驚異的な体験や、筆舌に尽くせぬ心象をごく控えめな筆致で描き、ラストでは、この惑星でロカノンがどのように最後の時間を過ごしたのかは読者の想像に委ねられ、読者はその余韻に漂うことになる。
 ロカノンがテレパシー能力を獲得するくだりなんかは、ちょっとご都合主義な感じがしないでもないが、十分に許容範囲。
 読み進めると同時に、萩尾望都を再読したくなった。今時の(?)SFらしいメカニカルなSFとは一線を画する世界観は、ちょっと郷愁めいたものを感じるし、夢中になって萩尾望都を読んでいた、〇十年前を思い出す。

 先に読んだ、『世界の合い言葉は森』は、どこか説教がましい感じがあって、あまりのめり込めなかったが、この作品は十分にセンスオブワンダーを感じる。これが、(初期の)ル=グウィンのSFか。SFと、ファンタジーと、童話を混ぜて練り上げたような、独特の読み応えがとても面白かった。

2025年5月17日土曜日

0555 世界の合言葉は森(ハヤカワSF文庫版)

書 名 「世界の合言葉は森」
原 題 「THE WORD FOR WORLD ID FOREST」1972年
    「HE EYE OF THE HERON 」1978年
著 者 アーシュラ・K・ル=グウィン    
翻訳者 小尾 美佐/小池美佐子     
出 版 早川書房 1990年5月
文 庫 391ページ
初 読 2025年5月11日
ISBN-10 4150108692
ISBN-13 978-4150108694
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/127873328

 ゲド戦記から、評論やエッセイを経由して、ル=グウィンのSFに着手。この本を最初に手にとったのは、ただの偶然。たまたま、Kindle版をスマホにダウンロードしていたから。刊行順に読むより、行きつ戻りつ読んだ方が面白いかと思って。
 この本には、『世界の合い言葉は森』と『アオサギの眼』の中編2本を収録。うち、『世界の〜』はハイニッシュ・ユニバースシリーズの一篇。『アオサギ』の方は多分独立した小説だと思われる。
 ちなみにハイニッシュ・ユニバースとは、ル=グウィンが創作したSF世界。本作中にも登場するハイン人が、過去に宇宙に植民して人類を播種し、それぞれの植民星で人類が個別に進化した、とする世界。詳しくはこちらのwikiを参照のこと→ ハイニッシュ・ユニバース

 ところで、このハヤカワの文庫本裏表紙のあらすじが酷い(笑)。

 「森がどんどん消滅していく———植民惑星ニュー・タヒチでは・・・(中略)。利益優先の乱開発で、惑星の生態系は崩壊寸前。森を追われた原住種族アスシー人は、ついに地球人に牙をむいた! だが、圧倒的な軍事力を誇る地球人に、アスシー人の大集団も歯がたたない。二つの知的種族とその文明の衝突が産む悲劇を、神話的なモチーフをたくみに用いて描き上げる・・・」

 どこがどう酷いのか、説明しがたいほどに酷い。こういう話じゃないよ。ぜんぜん違う。侵略者と被征服民、強者と弱者、正義と悪、そういう二項対立は、ル=グウィンが一番嫌うところだと思う。以下、感想。

◆世界の合言葉は森◆
 植民惑星、原住民、植民軍。“船一隻分の女が新着。繁殖用女性、品質優良のニンゲン212頭。ピチピチはちきれそうなベッド向きのボイン212人”ときたもんだ。なんだかすごいものを読み始めたぞ。と、冒頭うろたえる私(笑)。

 “野蛮人はつねに文明人に道を譲るべきだ。さもなきゃ同化するか。”

 よもやこのデイヴィッドソン大尉が主人公ではあるまいな?とドキドキする。なんだこの植民地主義の男根主義のイカれた男は! アメリカ大陸に押し寄せた侵略者はこんな感じだったんだろうか? 脳内のデイヴィッドソン大尉が、開拓時代の南軍の軍服や、西部劇の騎兵隊の制服で脳内再生されちゃって。インディアン皆殺しだヒャッホー!って感じを地でいく偏見ゴリゴリの勘違い男だが、なまじか頭がよく、信念があり、ありとあらゆる事象を自分に都合良く解釈。でも実際にもこういった人間はいる。ほら、某大統領とか、某県知事とか。現実味があるのが、いっそ恐ろしい。

 「メカ〇〇」とか、「ロボ〇〇」とか、「ロケット船」といった用語も今はなっては古色蒼然、「テレテープ」っていうのは、ビデオテープのようなものだろうか。音声記録はカセットテープ! 2001年宇宙の旅のハルの記憶媒体が磁気テープだった時代だもんな、などと思いながら、でもたとえば、ホーガンの『星を継ぐもの』なんかも1970年代SFだけど、ノートPCに類するガジェットなんかの空想のテクノロジーは、現在でも読むに耐えるものに仕上がってるし、これは、やはり作者の方向性の違い、というかテクノロジーへの関心の高さの違いかも? まあ、ル=グウィンだし、遠未来のテクノロジーを描くことが主題ではないし。なんとか1章を突破して、ようよう2章目から、目前に広がるル=グウィンの世界観!森!森!大森林!
 
さてここから読み進めるのに登場人物一覧と用語集が必要だ。

デイビッドソン大尉———上記、第1章のイカれ男。マッチョな男根野郎。だが、なまじ頭が
            良く、認知は歪んでいるが、リーダーシップもあり、行動力も十分
            にあるのが最低。
ラジ・リュボフ大尉———植民軍の研究者。人類学者。異星社会学、異星文化人類学って感じか。
ゴス      —————ドン大佐の部下
ベントン    —————ドン大佐の部下
ジョシュ・セレン ———技師
ムハメッド少佐  ———植民開拓地ニュー・ジャバの指揮官
ディン・ドン大佐————植民星ニュー・タヒチ(惑星41号)の植民軍現地司令官
ニュー・タヒチ  ———彼らが植民している惑星の通称。地球から27光年離れている。
            この星は大部分がが海で、いくつかの大きめな島があり、密林で覆わ
            れており、人類は、森林資源(材木)を目当てにこの惑星に植民した。
ユング司令官   ———星間光速宇宙船〈シャックルトン号〉指揮官。
アンシブル    ———星間通信装置。光年間の空間で即時通話を可能とする技術。
            この世界ではジャンプ航法やワープ航法はなく、宇宙船の最高速度
            は光速。通信だけが、即時通信出来る設定。
スペッシュ    ———作品中では定義が判らなかった。他の作品読んだら判るか?
            植民軍の中の技術職を指しているのか?科学者のことかも。
クリーチー    ———元々は基地の底辺労働者の意。ここでは原住民(アスシー人)にた
            いする蔑称にも。
ヒルフ      ———現地人の意か? ハイニッシュユニバースの先行本を読むと判るっ
            ぽい。
ルペノン     ———星間輸送船〈シャックルトン号〉でこの植民惑星〈惑星41号〉に
            やってきたハイン人。肌が白く、背が高い。星間連盟政府に所属。
オル       ———セチア人。毛深い。灰色、小男 ルペノンと同じくシャックルトン
            号に乗船していた。
セルバー     ———アスシー人。アスシー人は身長1m弱、緑色の体毛を持つ、アスシー
            の環境に適応して進化した人類。植民者の人間(アスシー人による
            とジンゲン)のリュボスと友誼を結び、お互いの言語を学び、辞書
            を作るなど、リュボスの研究にも貢献。
「神」(アスシー語)——新しい知識や概念をもたらすもの。指導者。アスシー語の神には通
            訳の意も含む。

 地球人側からすれば、植民惑星の開拓だが、実際のところ、侵略と原住民族の殲滅にほかならない。そもそも、デイヴィッドソンのような男を植民軍の先鋒に加えたのが間違いとしか。
 この男が少しずつ軌道がずれて、さらにおかしくなっていくのが、現実的すぎる。どこでどうやったらこの男を止められるのか。作中ではついに止められないけど。こんなのが現実にいたらどうやって対処しよう?と真面目に考えたくなる。

 人間と異星民族のアスシー人とがお互いに理解しあう、とかハイン人であるルペノンであれば融和の導きは可能かも、などという予定調和にもちこむ気は、ル=グウィンにはさらさらなく、異文明の相互理解の難しさが読者の目前に投げ出される。セルバーは人間から「殺人」を学び、行動に移すことで、アスシー人の『神』となる。アスシー人は人間から「殺人」という行動様式を取り込み、この星の文化はこれからどのような局面に向かっていくのか。彼らは平穏で安定した生活を取り戻しうるのか、殺人を知った人々は、もとの現実界と夢見界を行き来する生活に戻ることができるのか。

 彼らの行動様式を外形的に類推はできても、その基盤にある精神生活を根本的に理解することは、わたしたち「ジンゲン」には不可能だ。理解できない。そして、今我々が「理解している」と思っている、この地球上のアレコレだって、実際に理解できているかは怪しいものだ。西欧人にとって、たとえば日本の文化、イスラム文明、何一つ、本当には彼らには理解できていないのではないか。むろん、逆もしかり。私にとっても。そんな疑問を投げかけられる作品だ。

◆アオサギの眼◆
 地球の植民惑星であるヴィクトリア星。そこは、植民地というよりは、流刑地だった。過去2回の植民船の到着。1回目は100年以上前で、南アメリカ大陸から、犯罪者がおくりこまれたよう。2回目は50年くらい前で、このとき送り込まれたのは非暴力・不服従の平和主義者たち・・・いわば政治犯だった。それぞれの植民者達は、シティとタウンの二つのコロニーを形成。お互いに経済的に依存しているが、タウン(後からの植民者)が食料生産を担い、非暴力平和主義のタウンの人々は、先住者の支配を受け入れ、シティ(先住者)は議会を持ち、支配者層を形成している。ル=グウィンは、そんな舞台を作り、女性の自立や『主義』のぶつかり合いを描く。・・・・てか、ル=グウィンが描きたいものを描くための世界の構築なので、けっこう作り物感があって、あまり、没入感は持てなかったのがすこし残念。

 ◆旧世界の代表、マフィアのドンみたいなイメージのファルコ(父親)
 ◆目覚めた女性ラズ(娘)
 ◆夢想家で情熱家で活動家のレヴ(若者)。非暴力不服従の平和主義者

 レヴが語る「理想」という言葉がどうにも胡散臭い。というよりは青臭い? 理想を語る西欧人をとことん信用できないのは、日本人の性かもしれないけど。
 この、現実の暴力を知らない人間たちが、根なし草のようで頼りなく曖昧模糊としている「平和・非暴力」を大義名分にすることの危うさ。そして、大勢の人間から崇拝を集め、人々を「指導」するという優越感や自己陶酔感の危なさ。

 理想や大義を語ることで、周囲の一般大衆から一段高い場所に立ち、注目や崇拝を集め、他人を指揮することの麻薬的な効果が、暴力による優越感と大差ないことを、一人、異邦人のラズだけが看破している。

 しかし、まあ、総じて面白くはあるのだけど、なんとなく、そこはかとなく、説教臭いんだよなあ。ル=グウィンらしいとも思うけど。ちなみに、『世界の〜』はヒューゴー賞を受賞している。

2024年9月1日日曜日

0496 猫は日記をつける (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 9-27)

書 名 「猫は日記をつける」」
原 題 「THE PRIVATE LIFE OF WHO…」2003年
著 者 リリアン・J. ブラウン    
翻訳者 羽田 詩津子     
出 版 早川書房 2005年7月
文 庫 173ページ
初 読 2024年08月31日
ISBN-10 4150772274
ISBN-13 978-4150772277
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/122787981

 よくよく考えるに、最後にシリーズ作を読んだのは、ムスコが生まれる前?ってことは・・・・四半世紀ぶりのシャム猫ココシリーズ。
 この本は本編ではなく、二匹のシャム猫のしもべたる主人公クィルの日記風猫語り。シリーズ読者にはほどほどに楽しく、そうでない人には全く無価値な一冊だ(笑)。私はといえば、20数年ぶりに記憶を掘り起こすために役立った。

 たとえば、ココの本名がカウ・コウ=クンであることや、ヤムヤムの元の名前がフレイヤであったこと。クィルがリンゴ納屋を改造して、木に染みこんだリンゴの良い薫りのする居心地のよい大型ログハウスに住んでいることとか、登場人物のアレコレ。
 本編では雄猫ココが活躍しがちでヤムヤムはどっちかっていうと手のかかるお嬢さん的な扱いだったヤムヤムが、実はココよりもクィルに溺愛されていそうなことが、新しい発見か。

 すると、善良な獣医が状況を理解しないうちに、ココは突然、猫エネルギーのミサイルと化した。わたしは叫んだ。「ココ!」そして彼のしなっている尻尾をつかんだ! しかし、彼はするりと身をかわし、8フィートの戸棚の上に飛び乗り、そこから追跡者を傲然と見下ろして、シャム猫の罵りの言葉をさんざんに浴びせた。怒ったシャム猫に罵られたことがない人間には、どれほどの毒舌ぶりか想像もつかないだろう!
 
 私もこのシリーズを読むまでは、シャム猫がそれほど大声で啼く猫だとは知らなかった。
 現在の我が家の猫、カルヴァさんは、運動能力こそシャムと互角を張る気がするが、鳴き声は「鈴を転がすよう」と世間一般では言われているので。・・・・とてもそうは思えないのだけどね。

 あと、この本を読むと猫飼いは「我が家の猫の名付けの由来」を語りたくなるものらしい。

 ウチの前代の猫はシードル。現在はカルヴァドス。果実酒由来の洋酒シリーズである。もし、次に猫様をお迎えすることになったら、シェリーになるだろう。初代猫を「麦」にしなかったことがやや悔やまれる。
 




引用

2024年8月28日水曜日

リリアン・J. ブラウン  『シャム猫ココシリーズ』作品リスト


 以前に追いかけて読んでいたのだが、途中で退屈して読むのが中断したままになっているシリーズ。半分くらいは読んでるのような気がする。退屈した理由は、主人公クィルの恋人がだんだん身勝手になってきて、二人の熟年恋模様が楽しくなくなってきたから。それに、シリーズが進むごとに合衆国北の人口も少ない小さな街であまりにも殺人事件が多発して、だんだん嘘っぽくなってきちゃって・・・・
 シャム猫ココとその連れ合いのヤムヤムはわがままカワイイ(笑)
 また読みたくなってきたな。

 書 名国内発行ISBN原 題
1猫は手がかりを読む ☆1988年11月4-15-077202-9The Cat Who Could Read Backwards
2猫はソファをかじる ☆1989年8月4-15-077203-7The Cat Who Ate Danish Modern
3猫はスイッチを入れる ☆1990年4月4-15-077204-5The Cat Who Turned On and Off
4猫は殺しをかぎつける ☆1988年5月4-15-077201-0The Cat Who Saw Red
5猫はブラームスを演奏する2001年6月4-15-077220-7The Cat Who Played Brahms
6猫は郵便配達をする2002年1月4-15-077221-5The Cat Who Played Post Office
7猫はシェイクスピアを知っている ☆ 1991年1月4-15-077206-1The Cat Who Knew Shakespeare
8猫は糊をなめる ☆1991年9月 4-15-077207-X The Cat Who Sniffed Glue
9猫は床下にもぐる ☆1993年9月4-15-077208-8 The Cat Who Went Underground
10猫は幽霊と話す ☆1994年4月4-15-077209-6 The Cat Who Talked to Ghost
11猫はペントハウスに住む ☆1994年12月4-15-077210-XThe Cat Who Lived High
12猫は鳥を見つめる ☆1995年4月4-15-077211-8 The Cat Who Knew a Cardinal
13猫は山をも動かす ☆1995年11月4-15-077212-6The Cat Who Moved a Mountain
14猫は留守番をする ☆1996年8月4-15-077213-4The Cat Who Wasn't There
15猫はクロゼットに隠れる ☆1997年9月4-15-077214-2The Cat Who Went into the Closet
16猫は島へ渡る ☆1997年12月4-15-077215-0The Cat Who Came to Breakfast
17猫は汽笛を鳴らす1998年8月4-15-077216-9The Cat Who Blew the Whistle
18猫はチーズをねだる ☆1999年5月4-15-077217-7The Cat Who Said Cheese
19猫は泥棒を追いかける1999年12月4-15-077218-5The Cat Who Tailed a Thief
20猫は鳥と歌う2000年6月4-15-077219-3 The Cat Who Sang for the Birds
21猫は流れ星を見る2002年6月4-15-077222-3 The Cat Who Saw Stars
22猫はコインを貯める2002年12月4-15-077223-1The Cat Who Robbed a Bank
23猫は火事場にかけつける2003年6月4-15-077224-X The Cat Who Smelled a Rat
24猫は川辺で首をかしげる2004年2月4-15-077225-8 The Cat Who Went Up the Creek 
25猫は銀幕にデビューする2005年2月4-15-077226-6 The Cat Who Brought Down the House 
26猫は七面鳥とおしゃべりする2006年1月4-15-077228-2 The Cat Who Talked Turkey 
27猫はバナナの皮をむく2006年6月4-15-077229-0The Cat Who Went Bananas 
28猫は爆弾を落とす2006年12月4-15-077230-4 The Cat Who Dropped a Bombshell 
29猫はひげを自慢する2007年6月4-15-077231-2The Cat Who Had 60 Whiskers 
     
 猫は14の謎をもつ猫が登場する14の話を収録した短編集
  1991年7月4-15-077205-3The Cat Who Had 14 Tales 
 猫は日記をつける ☆ココシリーズ既刊作品での出来事をクィラランの日記風に書いた作品
  2005年7月4-15-077227-4 The Private Life of the Cat Who... 
 シャム猫ココの調査報告シャロン・A・フィースターによるシリーズ案内
  2002年6月4-15-077299-1 The Cat Who...Companion 
 猫はキッチンで奮闘する ★羽田詩津子による作中料理の調理エッセイ(レシピ付き)
  2008年1月4-15-077298-3 

☆ちなみに国内刊行順 ※あ〜うん。この順番で読んだ記憶がある。
 書 名国内発行
4猫は殺しをかぎつける1988年5月
1猫は手がかりを読む1988年11月
2猫はソファをかじる1989年8月
3猫はスイッチを入れる1990年4月
7猫はシェイクスピアを知っている1991年1月
8猫は糊をなめる1991年9月 
9猫は床下にもぐる1993年9月
10猫は幽霊と話す1994年4月
11猫はペントハウスに住む1994年12月
12猫は鳥を見つめる1995年4月
13猫は山をも動かす1995年11月
14猫は留守番をする1996年8月
15猫はクロゼットに隠れる1997年9月
16猫は島へ渡る1997年12月
17猫は汽笛を鳴らす1998年8月
18猫はチーズをねだる1999年5月
19猫は泥棒を追いかける1999年12月
20猫は鳥と歌う2000年6月
5猫はブラームスを演奏する2001年6月
6猫は郵便配達をする2002年1月
21猫は流れ星を見る2002年6月
22猫はコインを貯める2002年12月
23猫は火事場にかけつける2003年6月
24猫は川辺で首をかしげる2004年2月
25猫は銀幕にデビューする2005年2月
26猫は七面鳥とおしゃべりする2006年1月
27猫はバナナの皮をむく2006年6月
28猫は爆弾を落とす2006年12月
29猫はひげを自慢する2007年6月