2021年10月29日金曜日

プルーフ版が当たった!『まだ見ぬ敵はそこにいる』ハーパーBOOKS 12月17日発売



ジェフリー・アーチャーの新刊 ウォーウィック・シリーズ2巻目の発売です。
これは、プルーフ版。発売は12月17日です。楽しみですね!
がんばって感想書きます。

それにしても、この本を獲りに行くハーパーコリンズ・ジャパンの強気にほれぼれする。
どうか、すごく面白いのに翻訳が途絶えてしまっている海外小説のあれやこれやを救って欲しい。
まあ、ハーパーさんの本は結構誤植や誤訳もあったりするけどさ、
面白い本をどんどん発掘して日本の翻訳小説ファンに提供してくれる姿勢が大好きだよ。




2021年10月23日土曜日

0301 ネットワーク・エフェクト マーダーボット・ダイアリー (創元SF文庫)

書 名 「ネットワーク・エフェクト マーダーボット・ダイアリー」 
原 題 「Network Effect: (The Murderbot Diaries)」2020年
著 者 マーサ・ウェルズ 
翻訳者 中原 尚哉 
出 版 東京創元社 2021年10月 
文 庫 540ページ 
初 読 2021年10月15日 
読書メーター    
ISBN-10 4488780032 
ISBN-13 978-4488780036

 仏頂面の弊機はともかく、この“女の子”は誰なんだ、とカバーイラストが公表されたときから違和感しかなかった3冊目。この女の子は、どうやら弊機の後見人(?)であるメンサー博士の娘ということらしい。
 とにかく人間嫌いな“マーダーボット”こと自称弊機は、今回も1行目からぶっとばしております。いやあ、中原さんの翻訳、相変わらず素晴らしい。
 これも、ネタバレになることはあまり書きたくないな。とにかく相変わらずひねくれいじけ虫な弊機は、いろいろとこじらせつつも、誠心誠意人間の友人たちのために奔走。心を分ける機械知性であるART(の機体)に拉致され、当のART本体(知性)は存在がつかめず、どうやら削除=殺害されたようだと判断したところで、情緒的に破綻。メンサーの娘のアメナは、最初はマーダーボット弊機を嫌っていたものの、若者らしい柔軟さと情緒で、弊機と心を交わす存在になっていく。そしてまた、相変わらずARTが良い。後半登場する警備ボットの3号の一人称が「本機」なのが、弊機とは性格が違うことを感じさせる。これ、元からなの?それとも、原作はどちらも「I」で、翻訳で「弊機」と「本機」を訳し分けてるのか? 英語で原文を読んでる方に教えてほしい。(で、教えてもらいましたが、原文ではどちらも"I"だそうです。これを『弊機』と『本機』に訳し分ける中原さん、凄し。そして、日本語の表現力に感嘆する。文体から弊機と、マーダーボット2.0と、3号の性格の違いがにじみ出ている。)とにもかくにも、今作も翻訳の勝利! ああ、面白かった。



2021年10月6日水曜日

0299ー0300 大統領失踪 上・下 (ハヤカワ文庫 NV)

書 名 「大統領失踪 上」「大統領失踪 下」 
原 題 「The President Is Missing」2018年
著 者 ビル・クリントン,ジェームス・パタースン 
翻訳者 越前 敏弥, 久野 郁子 
出 版 早川書房 2020年12月 
文 庫 上巻:388ページ 下巻:366ページ 
初 読 2021年10月6日 
読書メーター    
ISBN-10 上巻:4150414742/下巻:4150414750 
ISBN-13 上巻:978-41504147401/下巻:978-4150414757
面白い。
実にスリリングで、まず間違いなく面白い。
 なのにちょっと笑いがこみ上げてきてしまうのは、やはり著者があのビル・クリントン氏だから。
 実際、大統領経験者ならではの、公邸や執務室内での描写とか、ぎりぎりの判断や決断を示すシーンとか、シークレット・サービスや主席補佐官や、政府内の各長官たちとの信頼と丁々発止などのシーンは、実にリアルで臨場感マシマシ。
 知っていなければ書けないだろうと読み手に思わせる。
 だけど元特殊部隊員で湾岸戦争ではイラクの捕虜になって拷問にも屈しなかった、とかプロ野球選手だったとか、そして現在は血液難病で紫斑と痛みに脅かされ、いつなんどき脳内出血で倒れるかも知れず、貧血と闘い、輸血をうけつつ、恐るべきサイバーテロと孤独に戦い、と設定もマシマシだ。アハハ・・・・。ついでに言うと、超愛妻家で、ガンで亡くなった亡き妻の事を今も涙目で想ってる、って、さすがにオイコラ!
 もう少し謙虚でもいいんでないかい?と、奥ゆかしい日本人としては思ってしまうよね(笑)。
 因みに先頃読んだ某暗殺者と同じく一人称現在形だ。これは疾走感があって悪くない。というか、なかなか良い。翻訳者は、かの越前敏弥氏と久野郁子氏・・・はお弟子さんかな?  

 この本、覆面作家で出版すればよかったのになあ。いや、面白いですよ。下巻が楽しみ。裏切り者はあいつだけではないよな。あれがブラフだよな、という予感がする。どーする、大統領?と、下巻への引きもなかなかのもの。いや、単純にAAとして中々の出来ですよ。読み友さん達には是非手に取ってもらいたいです。

【メモ】
“今日ではツイッター、スナップチャット、フェイスブック、二十四時間垂れ流されるニュースが、有権者の王道を左右しているように見える。現代人は最新のテクノロジーを利用して、原始的な人間関係へと回帰している。”

 “ギリシャ様式の柱を具え、長い階段をのぼりきった先に堂々たる大利石像が鎮座するリンカーン記念堂は、違和感を覚えるほどいかめしく、謙虚さが身上の大統領よりも神そのものを崇める場所にふさわしい。だが、その矛盾こそがいかにもアメリカ的だ。自由と独立と個人の権利の上に築かれた国家でありながら、他国のそれは平気で蹂躙する。”


 で。さて下巻だ。
 難局をのりきるために、米合衆国大統領は秘密裏に同盟国、および敵国の首脳を招集する。ドイツ、イスラエルの首相はともかく、ロシア大統領(実際に来たのは首相だったけど)もこんな風に呼び寄せることができるのかな? それともこれは小説だからだろうか? もし、こんな風に各国首脳が直接会ったりしてるんだったらスゴイな、と思った。
 合衆国のあらゆるコンピューターにばらまかれたウイルスが特定できて、いよいよ駆除の段階からがおもしろい。焦点は裏切り者の特定へ。上巻の舞台設定が派手だった分、いくぶん尻すぼみな感はなくもない。また、大統領「失踪」といいつつ、大統領が緊急事態で危機管理センターに籠もっただけで、実際に失踪したわけではなかったのも肩すかしな感はあるかな。しかしまあ、面白くはあった。アメリカの権力構造をどれだけ正確に描写しているのかはわからんけど、十分に楽しめた。
 主要な登場人物の少なさからすれば、まあ、真の裏切り者はそうだよなあ、と。
 ストーリーの一方を牽引した暗殺者“バッハ”は、キャラ立ちしていただけに、完全にお仕事が空振りしたのがちょっと残念でした。もっと活躍しても良かったのに。東欧の民族紛争の悲劇が見え隠れするストーリー立てや、サウジアラビアの関わりも、なんだか使い方が勿体ないなあ。そしてやっぱり悪いのはロシアなのね。本当に、この人達(米国人)、ロシアが嫌いなんだなあ。。。。。

2021年10月2日土曜日

0297ー98 レッド・メタル作戦発動 上・下 (ハヤカワ文庫 NV)

書 名 「レッド・メタル作戦発動 上」「レッド・メタル作戦発動 下」
原 題 「Red Meta」2019年
著 者 マーク・グリーニー/H・リプリー・ローリングス四世  
翻訳者 伏見 威蕃 
出 版 早川書房 2020年4月 
文 庫 上巻:512ページ
    下巻:528ページ 
初 読 2021年10月2日 
読書メーター     
ISBN-10 上巻:4150414645 /下巻:4150414653 
ISBN-13 上巻:978-4150414641/下巻:978-4150414658
 一人の男の屈辱が、世界を巻き込む戦乱のきっかけとなる。フランス人よ。牛糞は人に投げつけるもんじゃない。

 とまれ、アナログから超高度なハッキング技術まで、第二次大戦を彷彿とさせる軍隊列車から、最新鋭原潜や第5世代戦闘機まで、そして海底通信ケーブルから、高高度の軍事衛星までを同時多発的に攻撃する緻密な作戦が始動する。敵も味方も、西も東も、登場する人物の背景が語られ、人物造形が与えられ、物語に深みが増す。しかし西側の人物造形がリアルなのに対して、ロシア側は旧弊って感じのステレオタイプなのがすこし残念。思わず応援したくなっちゃうようなカッコ良いロシア軍人が出てきたら、もっと面白かったのに! さすがの主役のコナリー中佐は好感度ピカイチ。私の脳内では「テイキング・チャンス」のケビン・ベーコンで完全再生。その部下のグリッグス少佐も捨てがたい。直属上司がダメダメで、せめてコイツの頭越しに最上層に意見具申したいコナリー。その意を受けてグリッグスがたくらんだ作戦はその名も『犠牲フライ作戦』。もちろん、バッターボックスで犠牲フライを叩くのはグリッグス、その合間に二塁からホームベースを目指すのはコナリー。必要とあらばきちんと貧乏くじを引くことが出来るグリッグスは良い部下だ。下巻ではぜひ復権してもらいたいもの。
 ロシアの仕組んだ「レッド・メタル作戦」の骨格・・・・というかストーリーの骨格はごく単純。軍事技術や相互監視の通信技術が高度になりすぎ、各国が身動きする余地が少なくなってきている現代で、スリリングな軍事物を書こうと思ったら、軍事力の前提条件(通信技術とそれに裏付けされた高度なIT化)をぶち壊してしまえば良い、そうすれば、第二次大戦なみに泥臭い軍事スリラーを展開できるじゃないか。ようは、発達しすぎた技術をあえて丈詰めしてしまう、という荒技。(まあ、グレイマンを病身にして出力50%オフするのと同じ発想ではある。)その為に、最先端の潜水艦と兵器で、大西洋海底の海底ケーブルを切断し、通信衛星を戦闘機で爆撃し、ハッカー集団がコンピューターを攪乱する。すべては“泥臭く”戦うタメである。

 そして、圧巻なのはポーランドの反骨。ここで大国にコケにされてなるものか。ロシアの身勝手なやり方を黙認したら、今後も利用され続け、国家の存続が危ぶまれる。弱小国だからこそ、過去の歴史から学ぶのだ。国内第4の都市を市街戦の戦場に設定したポーランド、犠牲という名の背水の陣を敷いて牙を剥くポーランドと慢心するロシア。戦争に勝つことはできなくても、局地をものにすることはできる。そしてそれが、全体の戦局を大きく変える。
 突然招集されてロシアに蹂躙されたポーランド民兵のパウリナは、本人の気持ちとは無関係に、戦いの女神として崇拝を受けるように。ジャンヌダルクのように先頭で戦い続ける彼女の恐怖に気付いたのは、ロシア軍車列を果敢に攻撃し、撃墜された米A10パイロット。戦場に咲く小さな花。そんな細かいエピソードも混ぜながら、基本は海兵隊万歳、ウーラー!!デビルドッグ!な壮大な戦争小説。
 ここまで、最新武器を縦横に使い、破壊している小説はあまりないのでは?
 老ラザール陸軍大将が、いぶし銀の如く輝く。最終兵器の争奪で最後にもう一波乱描くこともできたな、とは思うが、これで良いのだろう。
 個人的には、ボルビコフが魅力的な人物に描かれていたら、もっと面白かったな、というのが若干贅沢な感想。まあ、この執筆陣にそれは期待できないか。

 ラストは、それぞれの戦後処理。暴風雨が去ったあとは、死者への追悼と生者の褒賞。そうやって無理矢理、喪失に心の区切りを付ける。今作、ポーランド民兵のエースパウリナ、戦闘ヘリ"アパッチ”のパイロット"グリッター”(きらきら)ちゃん。そして攻撃型原潜の艦長ダイアナ・デルヴェッキオ、と3人の女性も大活躍。とくにダイアナを読むと、『ステルス艦カニンガム』を無性に読みたくなるな。

2021年10月1日金曜日

2021年9月の読書メーター

9月の読書メーター
読んだ本の数:11
読んだページ数:3256
ナイス数:1256

9月は駆け込みで、『レッドメタル』上巻を読了。今月はグレイマン新刊始め、グリーニーがピカイチ。30日発売の『ハートに火をつけて』ほか『チェスナットマン』『自由研究には向かない殺人』『見知らぬ人』『追跡不能』『某国のハントレス』ほか読みたい新刊多数。1読書の秋にふさわしく読みたい新刊のオンパレードでした。

3月のライオン 16 (ヤングアニマルコミックス)3月のライオン 16 (ヤングアニマルコミックス)感想
16巻。零くんとひなちゃんは、押しも押されぬ(?)ラブラブ模様。ひなちゃんは三日月堂を継いで甘味どころも一緒にやりたい、と夢を遂に口にする。おじいちゃんのお店を拡張できそうな気配もただよい、零君は一人で寒い、寂しい場所から、あたたかくて明るくで幸せな場所にいることに気付いて、自由に楽しく将棋を指している自分を発見。宗谷名人の私生活に女性の影があるとは!の読者サービス(笑)そろそろ終盤に向かって一気に走りだしそうな気配満々だが、はちクロではここからが大波乱だったからな。このためが怖い。
読了日:09月30日 著者:羽海野 チカ
レッド・メタル作戦発動 上 (ハヤカワ文庫 NV ク 21-13)レッド・メタル作戦発動 上 (ハヤカワ文庫 NV ク 21-13)感想
一人の男の屈辱が、世界を巻き込む戦乱を作る。フランス人よ。、牛糞は人に投げつけるな。アナログから超高度なハッキング技術まで、そして第二次大戦を彷彿とさせる軍隊列車から、最新鋭原潜や第5世代戦闘機まで、そして海底通信ケーブルから、高高度の軍事衛星まで。同時多発的に攻撃する緻密な作戦が始動する。ストーリーの骨格はごく単純。軍事技術や相互監視の通信技術が高度になりすぎ、各国が身動きする余地が少なくなってきている現代で、第二次大戦なみに泥臭い軍事スリラーを展開するために、伸張しすぎた通信技術を丈詰め。
読了日:09月30日 著者:マーク・グリーニー,H・リプリー・ローリングス四世
宇宙兄弟(40) (モーニング KC)宇宙兄弟(40) (モーニング KC)感想
ついに、兄弟が月に到着。どこまでもイレギュラー続きだが、それを乗り越え、さくっと再会。さあ、さっさと帰ってこい。
読了日:09月24日 著者:小山 宙哉
フラジャイル(21) (アフタヌーンKC)フラジャイル(21) (アフタヌーンKC)感想
前巻からの熱血馬鹿医者の続き。どれだけ悲惨なことになるのかと思っていたら、なんだかほんわかソフトにランディング?この話、もっとぎすぎすしてなかったっけ(笑)最近岸先生が滅法丸くなってる気がする。治る病よりも治らない病の方が沢山あるし、医者の熱意が必ずしも人を助けるとは限らない。自分の自己満足のために患者をがんばらせてはいないか?一緒に走ろうといいながら、結局走るのは患者で、自分は調教師、いやひょっとしたら馬主なんてことも・・・・。でも基本医者は頭が良いので、きちんと気付くこともできる。今回も良い話だ。
読了日:09月24日 著者:恵 三朗
暗殺者の献身 下 (ハヤカワ文庫 NV)暗殺者の献身 下 (ハヤカワ文庫 NV)感想
うおおおおお〜!!面白かった! 普段はネタバレ満開なレビューばっかり書いてるけど、これは絶対にネタバレしない!面白かったよ〜〜〜シリーズ最高傑作です。なんか誤植あったような気もしたけど、気にしない!ハリウッド映画ばりばりです。も、映画化してくれ。大画面で。大音響で!ザックがかっこいい。ジェントリーを完全に喰った。いやあ、お父ちゃん大好きだ!みんな早く読んでくれ!まだ手に取っていないあなたは、明日書店に駆け込むべきだ!
読了日:09月21日 著者:マーク グリーニー
暗殺者の献身 上 (ハヤカワ文庫 NV)暗殺者の献身 上 (ハヤカワ文庫 NV)感想
すでに無双を極めているグレイマンことジェントリー、前回も多勢に無勢だったがすでに読者は究極の安心感なので、これを打開(?)するためにグリーニーが選んだ手段は、なんとジェントリーの出力50%OFF+生命危機リミット付き。いつもなら救援に現れる“お父ちゃん”ことロマンティックことザックは監獄の中。そして、今回の風呂敷はまた、たっぷりとデカい。登場人物と舞台が錯綜するため、めったにやらないことだがメモを作成しながら読む。ついでに言うと至極シリアルである。前作でおおいに楽しませてくれたオレオレの自分語りはナシで。
読了日:09月19日 著者:マーク グリーニー
コロナの時代の僕らコロナの時代の僕ら感想
この本昨年4月に出てから1年と半年が経過したが、いまだこの本の中身は過去のものではない。ウイルスという新たな脅威に直面したとき、人々はどのように困惑し、拒否し、見当違いのものに縋り付き、他人を貶め、時間を無駄にし、その結果死者を増やすのか。日本の国内でも、多くの人が淡々とワクチンを接種し、マスクを掛け他人との接触を避け、自分も他人も害さないように注意深く辛抱強く日常を送っている一方で、いまだにマスク・ワクチン懐疑派や陰謀説や、政争の材料にしている人達や諸々。みな冷静に、前を向き、より大きな福利のために。
読了日:09月14日 著者:パオロ・ジョルダーノ,Paolo Giordano
ファニー 13歳の指揮官ファニー 13歳の指揮官感想
実話です。1942年13歳のユダヤ人の少女ファニーが子ども達だけでフランスからドイツ兵が警護する国境地帯を脱けてスイスに逃れる。子ども達を児童人権保護団体に託した母、その前にフランス秘密警察に逮捕されて収容所に送られた父とは、戦後再会することは叶わなかった。幼い妹達だけではなく、いつのまにか大勢の子ども達を統率することになったファニーの強い意志と責任感に敬服します。戦後、姉妹はイスラエルに移住し、ホロコーストの記憶を次世代に繋ぐ活動をされており、この話は『少女ファニーと運命の旅』という邦題で映画化。
読了日:09月12日 著者:ファニー・ベン=アミ
神さまの貨物神さまの貨物感想
これが「実際にあった話」であれば、あるひとつのユダヤ人家族の、一人の男の、一人の子どもの悲劇だが「本当にはなかった話」としたときに、この話は普遍的になる。そんな風に感じた。反語で語られる最終章。あったのだろうか。いたのだろうか。そんな問いかけが不安を誘い、胸にざわめきを残す。もちろんあったのだ。家畜と貶められ、貨物とされ、無学で粗野な森の深奥の木こりにまで“神を殺した呪われた奴ら”“たんまり金をもった泥棒”と蔑まれる、ヨーロッパのすみずみにまで染みわたった偏見が。その偏見がもたらした民族抹殺という悲劇が。
読了日:09月11日 著者:
狼たちの城 (海外文庫)狼たちの城 (海外文庫)感想
【第188回海外作品読書会】うーむ。私好みではない、かな。とにかく行き当たりばったり過ぎる。ユダヤ人がゲシュタポ本部に潜り込んだというのに、相手に委ねるシーンが多過ぎ。コーシャっぽいものを選んでしまう。うっかりユダヤ教の食前の祈りが口から出る。親衛隊員なら必ずあるはずの血液型の入れ墨がないことを見られてしまう。ゲシュタポ本部で、知り合いのユダヤ人の老女に名前を叫ばれてしまう(!)etc. いやあ、これは無理だろ(笑)あり得ない。フィクションだろうが、エンタメだろうが、リアリティは必要だよ、と思う。
読了日:09月10日 著者:アレックス・ベール
ベイジルの戦争 (海外文庫)ベイジルの戦争 (海外文庫)感想
『巨匠ハンターが描く傑作エスピオナージュ』という帯の謳いに大いに期待して臨むが、あれ?なんだか大味だな、というのが感想。『エニグマ奇襲指令』に似ていなくもないが、あちらのほうが格段に面白かった。皮肉やで見栄っ張りの英国人、勤勉精励なドイツ軍人(ナチとSSが嫌いでこっそりユダヤ人を助けたりしている。)ドイツに占領されても相変わらずフランス人のままのフランス人、とまあ、とってもステレオタイプ(笑)。面白くないわけじゃないので、まあ、これが最高!という人もいるだろう(私じゃないけど)という感じでした。うーむ。
読了日:09月05日 著者:スティーヴン・ハンター

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