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2021年8月9日月曜日

0286 運のいい日 (創元推理文庫)

書 名 「運のいい日」 
原 題 「LUCKY DAY」
著 者 バリー・ライガ
翻訳者 満園 真木 
出 版 東京創元社 2016年12月 
文 庫 237ページ 
初 読 2021年8月8日 
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/100138674   
ISBN-10 4488208061 
ISBN-13 978-4488208066
『さよなら、シリアルキラー』3部作のおまけの前日譚。
ハウリー、ジャズ、コニーの短編と、ジャズとビリーの運命の日、G・ウィリアムのビリー逮捕のいきさつ。

キャリア・デイ
 日本の中高生も最近はカリキュラムになっているらしい「キャリア教育」・・・・自分の好きなことは、得意なことは、夢は、希望は————って、何の経験も、自己認知もまだまだなティーンにステレオタイプな自己イメージの確立を促したら、将来自分のなりたい職業に就けるのか?って話だ。それよりも、労働の意味とか、人は何をもって報われるのか、とか、自力で食っていくことの重要さを教えてほしい。
 自分の好きなことを仕事にできている人間が、はたして世の中の何%いるのやら、学校の先生には自分の胸に手をあてて考えてもらいたいもの。人のやりたがらない仕事であっても、社会的に必要な仕事がある、とりたてて自分の得意分野でなくても、他人や社会との関わりそのものが目的となりうる・・・・・というのは、この本にはまったく関係ない。

 卒業して社会に出ている先輩たちの話を聞いて、将来の自分の姿を考える、という、まあいずこも同じカリキュラム〈キャリア・デイ〉の授業を受けるジャスパー16歳。自分の適性、親の仕事、、、、教師の問いかけに、ただただ困惑。可哀想に。結局授業後のアンケートに書いた答えは「安全になりたい」、でも同時に、親に与えられた名前「ジャスパー」ではなく、「ジャズ」を選ぶ。これが彼の自己の確立の第一歩だったのかも。
 
ハロウィン・パーティー
 なんとか女の子を引っかけて童貞を喪失したいハウリーが、田舎町の悪名高い有名人ジャズとその彼女コニーを引き連れ、ちょっと離れたよその町のハロウィンパーティーに紛れ込む。
 本当の気持ちは、いつも周囲の好奇の目にさらされている親友を、周りに誰も知っている者がいない、普通の人にとって普通な場所に連れ出したかったから。そしてもちろん、自分の冒険も。ハウイー、良い奴。

仮面
 ジャズと演劇クラブ。ぜったいに人目に立つことなんかしたくないはずのジャズが、なぜ演劇部? もちろんコニーに引っ張りこまれたに決まっているが、自分も他人もコントロールする術を叩きこまれてるジャズは、なるほど、演劇と相性がよかった。それにしても白い仮面のパントマイムは怖すぎ。嫌がりながらも、自分ひとりで一生懸命考えて(たぶん練習もして?)きただろうジャズが真面目で愛おしい。

運のいい日
 平和な田舎町で起こった殺人事件。それを追う老齢に差し掛かった保安官。犯人はまさかの町の住民だった。踏み込んで拳銃を突きだした先には、13歳の少年ジャスパー。手には父の宝物の数々。言われたとおり、手に持ったボストンバッグを床におとし、手を上げる少年。この日、ジャスパーの狂った世界は、正しい世界にむけて崩壊した。

2021年8月7日土曜日

0285 ラスト・ウィンター・マーダー 〈さよなら、シリアルキラー〉 (創元推理文庫)

書 名 「ラスト・ウィンター・マーダー 〈さよなら、シリアルキラー〉」 
原 題 「BLOOD OF MY BLOOD」2014年
著 者 バリー・ライガ
翻訳者 満園 真木 
出 版 東京創元社 2016年5月 
文 庫 494ページ 
初 読 2021年8月8日 
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/100201195   
ISBN-10 4488208053 
ISBN-13 978-4488208059
 「本当にかわいそうにな、ジャスパー」

 この一言に、ここまでのジャスパーの苦難が凝縮され、どうしようもできない理不尽が語り尽くされているように感じる。

 私個人の職業の中で、児童虐待に関わった大して長くもない数年で自分が考えたことにも通じる。

 人生は理不尽だ。子どもが自分の人生の与条件を自分で変えることはできない。虐待する親も、不幸な生い立ちも、来なかった助けも、見当外れな介入も、経済的な困難も。
 だけど、自分の人生を少しでも良いものにしていくことは、自分にしかできない。世の中が不平等なんだと全身全霊で知り、覚悟を決めて、そこを出発点とすることでしか人は本当の意味での大人にはなれない。ついでに言うと、人は不幸でも案外生きていける。
 人はひとりひとりが違う。それを理解するということは、どういうことなのか。人は大事。人は本物。ミステリやサスペンスはさておき、そんなことが、この本にも凝縮している。
 まあ、アンドリュー・ヴァクスとこの本を「同じ文脈」で読むのが正しい読み方かどうかは知らんが。

 さて、前巻ラストで、ジャズ、コニー、ハウイーが3人それぞれに絶対絶命に陥ったところからスタートするこの巻。

 とりあえず、コニーもハウイーも、そしてジャズも生きている。そしてジャズの危機が図らずもコニーを助けることに。〈みにくいJ〉は誰なのか。そして〈カラスの王〉は? 生きていたジャズの母は?
 ビリーの自己愛を投影したジャズへの愛情の示し方は、これ以上無いほどに歪んではいるが、ジャズの命を助けたり、かばったり、ジャズの敵と見なした者には徹頭徹尾容赦ないところは徹底している。歪んでいるが、そこに確かに愛を感じてしまうから、ビリーを憎みきれない。人間という不完全な存在の難しさ。母ジャニスの冷酷の方が、まだ分かりやすい。結局ジャズは両親を殺さないが、ジャズはそこまで母に縛られなくても良いのに、とラストで思う。この本の中では、かれらをソシオパス、という言葉で示しているが、どっちかっていうと両親はサイコパスだよね、と思う。ジャズはソシオパスの要素の方が強いが。
 
 前巻で一瞬「こいつ怪しいんじゃね」と思ったヒューズは、ただの良い奴だった。こいつはニューヨークみたいに複雑怪奇な犯罪のるつぼではなく、平和な田舎のロボズ・ノッドにでも再就職したほうが良さそうだ。G・ウィリアムとの相性も良さそうだし、近い将来G・ウィリアムが引退した暁には、ジャズの新たな庇護者が必要だろうしな。

 コニーパパについては、多分弁護士だろうと思っていて、きっとジャズの弁護を引き受けることになるよな、と予想した通り。コニーパパがジャズに愛情(らしきもの)か、もしくは同情を抱いてしまうのは、インテリの弱みのような気もするが、それでジャズが癒やされるのであれば、それでよし。

 ジャズの人生は、二十代にしてすでに余生に突入しているようなものだが、これから先の長い人生を、穏やかに、静かに、そして時に人の情に温められて過ごして欲しいと願うばかり。

 2021年ベス確定です。蛇足だとは思うが、邦訳タイトルが3冊とも良い。それと翻訳もすこぶる良い。

以下、これも蛇足だとは思うが忘備代わりに転記。

 父の顔に葛藤がよぎる。でも、それは一瞬で消えた。父が立ち上がって胸を張り、咳払いした。「わたしが彼の弁護士です、ヒューズ刑事。ジェローム・ホールと申します。以後お見知りおきを」 


 「だいじょうぶじゃない。だいじょうぶだったことなんてない」


 「きみにはわからない。この国で黒人であるというのがどういうことか、きみにはわからない。だから決して理解できないだろう」 
 「そのとおりです。僕は黒人であるというのがどういうことかわからない。これからも決してわかることはない。でも、人はみんな違うんじゃないですか? そりゃ、共通の体験はたしかにあるだろうけど、でも世の中の見え方はひとりひとり違う。少なくともちょっと違う。誰もが自分なりのフィルターを通して世界を見ている。あなたは黒人としての体験がある。ぼくには決してわからないようなことをたくさん経験しているんでしょうけど、それでも全員の体験を知ることはできないでしょ。だって、もし人がみんな同じだと考えるなら、ぼくたちの体験が取りかえのきくものだと考えるなら、それは……ほとんどビリーの考え方だから。ぼくたちはそれぞれが個人です。人は本物で、人は大事です。ぼくたちひとりひとりが大事なんです。共通する部分以上に、それぞれ違う部分が」
 
 「私はずっと、どうすればそれができるのか考えてきた」「どうすれば我々が集団として、社会として、本当の平等を勝ち取れるのかと。どうすれば過去の罪を償わせることができるのかと」
 
 「多分……許すか、忘れるか」

 

 「きみに言いたいのは、かわいそうにということだ。本当にかわいそうにな、ジャスパー」

2021年8月6日金曜日

0284 殺人者たちの王 〈さよなら、シリアルキラー〉 (創元推理文庫)

書 名 「殺人者たちの王 〈さよなら、シリアルキラー〉」 
原 題 「GAME」2013年
著 者 バリー・ライガ
翻訳者 満園 真木 
出 版 東京創元社 2015年11月 
文 庫 551ページ 
初 読 2021年8月6日 
ISBN-10 4488208045 
ISBN-13 978-4488208042
 さよなら、シリアルキラーの2ヶ月後。
 ニューヨーク市警の殺人課の刑事であるヒューズが、ニューヨークの連続殺人事件の捜査への協力を求めて、ロボズ・ノッドのジャズの元にやってくる。ニューヨーク市警からの要請、というが実はヒューズの独断専行だった。
 しかし、事件の現場にシリアルキラーからジャズへのメッセージが残されたことにより、合同捜査本部のFBI捜査官ラミレスにより、正式に捜査へ協力することになる。

 一方、恋人のコニーにも、ビリーからとも思えるメッセージが届き、コニーはジャズを助けるために、自ら事件の渦中に。

 さらに、ロボズ・ノッドに残って、ジャズの祖母の面倒を見るハウリーは、最初こそジャズの伯母のサマンサの色香に夢中になるものの、サマンサの愛称〈サミーJ〉と、シリアルキラーからジャズにのこされた符丁である〈みにくいJ〉の類似に気付いて、ひょっとしてビリーの姉は、ビリーの血統だけのことはあるのでは? と自分の踏み込んだ泥沼に心臓バクバク。

 ニューヨークのシリアルキラー〈ハット・ドッグ・キラー〉と、〈みにくいJ〉、収監中のロボズ・ノッドの殺人鬼〈ものまね師〉とビリーの関係。それに行方不明のジャズの母、伯母のサマンサの存在も絡み、混沌とする状況の中からも、ジャズはビリーが仕組んだニューヨークの殺人ゲームのルールに気付く。しかし、ジャズを事件捜査に巻き込んだ当の本人であるヒューズは、ジャズの情報提供にも対応してくれない。ヒューズの行動は、初めからちょっと不審なので、ひょっとしてコイツ犯人の一味じゃね?との疑惑が一瞬頭をよぎるが、うーん多分違うかな。

 市警の殺人課刑事ヒューズが当てにならないジャズは、ビリーを追うことに個人的な執念を燃やすFBIラミレスと組んで〈ハット・ドッグ・キラー〉を追う。

 〈みにくいJ〉とは誰なのか。サマンサの正体は?〈カラスの王〉の寓話が示す真実は何なのか? とまったく謎が謎のまま、ジャズは重傷を負ったまま監禁され、コニーはビリーに捕らえられ、ハウイーは・・・・と、3人が3人ともに絶対絶命な状況。そこでこの巻『殺人者たちの王』は、以下つづく、状態。おーい!ここでか?ちょっとまて?ここは話を切るところか?
 と、新刊発行当時の読者の悲鳴と嘆きが目に浮かぶようだ。とてもじゃないが先が気になってしかたがないので、次巻『ラスト・ウィンター・マーダー』へ。(ここで半年待たされたのじゃたまらん!)

2021年8月2日月曜日

0283 さよなら、シリアルキラー (創元推理文庫)

書 名 「さよなら、シリアルキラー」 
原 題 「I HUNT KILLERS」2012年
著 者 バリー・ライガ 
翻訳者 満園 真木
出 版 東京創元社 2015年5月 
初 読 2021年8月2日 
文 庫 414ページ 
ISBN-10 4488208037 
ISBN-13 978-4488208035 

 123人(息子のジャズの記録によれば124人、その差のひとり分は行方しれずのジャズの母)を殺した連続殺人犯(シリアル・キラー)を父に持つ17歳の高校生のジャスパー(ジャズ)。

 幼い時から殺人マニアの父に“その道”の英才教育を施され、望んでもいないのに殺人シーンのイメージや妄想が頭の中を駆け巡り、同時にいつか自分も父のようになるのでは、という不安に苛まれつつ、正しい人間であろうと努力し続ける悩める高校生が主人公。

 小さな田舎町で逮捕された世紀の殺人鬼の一人息子のことを、町内で知らない者はない。父親の逮捕から4年たった今でも、鵜の目鷹の目でたかってくる地元の三流記者や、住民の好奇の目を避けながら祖母と2人でなんとか普通の生活をし、ときとして父親の犯罪の被害者家族に詰め寄られる。

 彼の「保護者」である祖母は、シリアルキラーである父の実母。どこから見てもまともではない、偏執的な宗教観と人種差別主義に凝り固まった怒りっぽいアルツハイマー患者で、いよいよ手に負えなくなってきている。しかし、この「保護者」を失ったら児童養護施設に行かなければならないジャズは、祖母をお守りすることで自分のプライバシーを守っている。そんな危うい生活を、親友のハウイーや、最近出来た初めての彼女であるコニー、父を逮捕した保安官のG・ウィリアムに支えられて・・・・・・とまあ、よくも盛ったり、この設定。ただただ関心するばかり。

 そんな彼の身辺で、再び連続殺人事件が始まる。
 犯人「ものまね師」は、彼の父親ビリーの犯行を再現していた。
 次々に発生する殺人事件を追い、犯人を捕まえることで、自分の身の潔白を証明し、自分の存在が“良いこと”の役に立つと証明したいと願うジャズ。

 彼の17年の人生のどこをどう切っても悲惨でしかないのに、文のタッチは軽快で、どこかユーモアがある。
 頭が良くて粘り強くて、心が折れそうになりながらも、前向きでありつづけようとする17歳男子がとにかくがんばるので、読んでるこちらも応援せざるを得ない、というかぐんぐん引き込まれてしまう。
 いつ、どこで「異常」の方にぶれていってしまってもおかしくない。自分でも何が異常でどこからが正常な感覚なのか、常に自分の中の物事への反応を一つ一つ確かめながら、なんとか踏みとどまってまともな人間であろうとしつづけるジャズであるが、重くなりそうな内省も、17歳の少年らしいみずみずしさや軽やかさがあって、不思議な読み心地である。
 かれが自暴自棄になったり、自殺したりしないでやっていける強さって、どこに根源があるのだろうと考えると、それがたとえ常軌を逸したソシオパスの歪んだ愛情だとしても父親の愛だったとしたら、悲劇なのか喜劇なのかと悩むところ。


 父親であるシリアルキラー、ウィリアム(ビリー)・デントが、32回の終身刑で収監されていた刑務所からまんまと脱獄し、父とジャズの戦いは、これからどう転がっていくのか。一冊目ではまったく先が読めません。次行こう次!
 
 なお、翻訳が相当良い、と思う。それに、邦訳タイトルも非常に良い。この翻訳者、満園真木氏も追いかけたい。