2020年9月30日水曜日

0222 奇跡の巡洋艦

書 名 「奇跡の巡洋艦」 
原 題 「The Iron Pirate」
著 者 ダグラス・リーマン 
翻訳者 大森洋子 
出 版 早川書房 1992年2月
初 読 2020/9/30

 リーマンもだいぶ読み尽くしてきて、いよいよドイツ側の一冊。同じような語り出しだが、やはり空気感が厳しいと感じるのは舞台がドイツだという先入観があるからかな。
 何しろ、ドイツ艦だ。辛い結果になるに決まってる。もう、鷲舞を読む時のような覚悟でこっちは臨むのだ。なのになのに、いつものリーマン節である。
 原題のThe Iron Pirate(鉄の海賊)は、寡黙な艦長、主人公ディーター・ヘヒラードイツ海軍大佐に部下達から奉じられていた異名である。ヘヒラーはドイツ重巡洋艦《プリンツ・ルイトポルト》の艦長で、この頃、すでに艦は「奇跡の巡洋艦」との評を得ていた。
 巡洋艦リューベック号も出てきて、あれ、リューベック号って、他の本で誰かの駆逐艦に沈められていなかったっけ?リーマンは結構、敵艦も味方艦も、艦名を使い回す。それとも対戦相手は、あの駆逐艦なのか?しかも、すでに10冊以上リーマンを読んでいて、始めの頃に読んだ駆逐艦本は、もはや頭のなかでエピソードが混ざってしまっている。
 悲劇ははなから折り込み済みなので、できれば格好良い「ロマンチックな愚か者」を堪能したいところなのだが、そこはリーマンなので、今回は極めつけにイヤな身内の敵、ライトナー司令官が終始同乗している。これがとにかくイヤなやつ。そして、ライトナーがユダヤ人の富豪を殺害して略奪した財宝と、それにまつわる様々な欲と思惑。妻の不貞を知っているヘヒラー、それに関わりのある艦医、ゲシュタポに妻を拘束された副長。巌のようにあるべき艦長とその副長を悩ます心の揺らぎ。心と意志を一つにして強固に団結しているべき艦に入り込むきしみ。まるで靴の中に入った小石のように、いらいらチクチク、異物感が半端ない。

 そこに艦に同乗する女性パイロット。まあ、恋に落ちるよね。リーマンだもの。負傷して艦長室を病室にするエリカと、彼女を見舞う艦長ヘヒラー。見ぬふり、聞かぬふりで廊下を見張る歩哨の様子に、いかにヘヒラーが部下に慕われているかを感じる。前半はとにかく煮え切らず、ぐだぐだと悩んでいる様子だったヘヒラーも、英国海軍との戦闘に及んでは、鉄の鉄たる所以を示し、そして彼の船、ドイツの重巡洋艦は、戦い敗れて大西洋に沈むのだ。艦に与えられた命令は、名誉の「自沈」。しかし、ヘヒラーは、総員退艦を命じ、自らも沈むプリンツ・ルイトボルトを見送る。
 捕虜となり、ヘヒラーは英国の捕虜収容所で終戦を迎える。やがて、荒廃した祖国に戻った彼を待っていた者が。ヘヒラーとエリカが、どのような戦後を生きたのか、その物語の予感で物語は閉じる。

2020年9月29日火曜日

レジナルド・ヒル ダルジール警視シリーズ リスト


ダルジール警視シリーズを読みたい!(リストはWikiより拝借しました)
※なぜユニオンジャックなのかというと、つい先日まで、フランスものだと思い込んでいたのです。だって、ダルジールって、フランス語っぽくないですか?アルベールとか、ベルナールとかと似てるじゃないですか。イギリス人の、しかも巨漢だと知ってびっくりだ!
#邦題原題刊行年
イギリスの旗
刊行年月
日本の旗
訳者出版社
日本の旗
1社交好きの女A Clubable Woman1970年1982年3月秋津知子早川書房
2殺人のすすめAn Advancement of Learning1971年1980年8月秋津知子早川書房
3秘められた感情Ruling Passion1973年1996年4月松下祥子早川書房
4四月の屍衣An April Shroud1975年1997年3月松下祥子早川書房
5A Pinch of Snuff1978年
6A Killing Kindness1980年
7薔薇は死を夢見るDeadheads1983年1985年11月嵯峨静江早川書房
8死にぎわの台詞Exit Lines1984年1988年4月秋津知子早川書房
9子供の悪戯Child's Play1987年1989年9月秋津知子早川書房
10闇の淵Underworld1988年1991年3月嵯峨静江早川書房
11骨と沈黙Bones and Silence1990年1992年5月秋津知子早川書房
12One Small Step1990年
13甦った女Recalled to Life1992年1997年4月嵯峨静江早川書房
14完璧な絵画Pictures of Perfection1994年1998年6月秋津知子早川書房
15幻の森The Wood Beyond1996年1998年9月松下祥子早川書房
16ダルジール警視と四つの謎
  1. 最後の徴収兵
  2. パスコーの幽霊
  3. ダルジールの幽霊
  4. 小さな一歩
Asking for the Moon
  1. The Last National Service Man
  2. Pascoe's Ghost
  3. Dalziel's Ghost
  4. One Small Step
1996年1997年10月秋津知子早川書房
17ベウラの頂On Beulah Height1998年2000年6月秋津知子早川書房
18武器と女たちArms and the Women2000年2011年12月松下祥子早川書房
19死者との対話Dialogues of the Dead2001年2003年9月秋津知子早川書房
20死の笑話集Death's Jest-Book2002年2004年11月松下祥子早川書房
21真夜中への挨拶Good Morning Midnight2004年2006年2月松下祥子早川書房
22ダルジールの死The Death of Dalziel2007年2008年3月松下祥子早川書房
23死は万病を癒す薬A Cure for All Diseases2008年2009年11月松下祥子早川書房
24午前零時のフーガMidnight Fugue2009年2011年1月松下祥子早川書房
 

2020年9月27日日曜日

いちおう、ブログ移転と構築完了

読書メーターから、レビューの移転一応完了。こちらには漫画は登録しないつもり。
読メの読んだ本が600冊超えていたけれど、漫画が200冊以上あったし、再読本と、ショートショートをのぞくと、この4年で読んだ本は200冊ちょっと。思ったより少なくてがっかりだ。それと、神林長平20冊ほどは、再読してきちんとレビュー入れたいので、今回は登録せず。銀英伝もしかり。
で、積んでいる本が600冊くらい。未登録本も入れると700冊くらいはあるか?
読みたい本も700冊くらい。
本当は、年100冊くらい読みたいのよね。それでも10年以上かかるではないか?シリーズでコンプリートしたいものも多数。困ったものだ。

2020年9月25日金曜日

父のこと

 父は体が悪く、私がものごごろついたころにはもう仕事はしておらず、いつも家にいた人だった。とはいえ、ベッドや布団に寝込むほどではなく、毎朝きちんと、折り目のついたスラックスにニットシャツ、春秋はその上にニットのカーディガン、冬はカシミアのセーターを着て、ゆったりとリクライニングチェアに横になっている、というのが一番記憶に残っている姿だ。囲碁が趣味で、碁盤の前になら4,5時間座っていることもあった。父の弟も碁を打つので、その叔父が訪ねてきたときも、たいていは二人で碁盤を囲んでいた。

 読書家で、駅前の本屋さんのご主人が御用聞きのように配達に回っていたので、月に一回くらいは定期購読の本とその時々の注文書を届けてくれていたように思う。と、ここまで書くと、なにやら立派な庭付きの日本家屋の縁側に面した書斎兼寝室に佇む病弱な主、的な昭和な情景が私の目にも浮かんでしまうが、実際に住んでいたのは狭い2DKの公団タイプの職員住宅だったし、決して悠々自適だったわけでもない。

 

 そんな父が、少なくとも病を得てから40年以上、日々何を思って暮らしていたのか、私にとってもいまだに謎なのだが、すくなくとも、普通に仕事をすることができないと諦めてからは、「障害があっても、自分にできることは何でもしよう」というような前向きな方向には、諸般の事情から、進まなかったことは間違いないと思う。基本「何もしない」という方向性を極めていた。すっぱり世の中とのかかわりを絶って、必要最低限の数人の親戚付き合いと生涯で2、3人の碁打ちの友達くらいとしか、他人との付き合いもなかった。

 父が自分の役割と自任していたのは、私に関わることだけだったかもしれない。

 車での保育園の送迎やら、小学校の授業参観、宿題の面倒、家事の手ほどきなとは、父の受け持ちだった。だからといって、べたべたとかかわるではなく、私にとっての父は、家の空気とか座敷童にちかい存在感だった。なにしろ、私が生まれたころからそうだったので、それが普通ではないことにはながらく気づかず、中学生の時になって、父のことを何気なく話した同級生にえらく申し訳なさそうに同情されて、はじめて、いわゆる「普通の」家庭ではないらしいことに気づいて不思議な気がした。


 父の日常といえば、天気の良い日の午後4時頃に、1時間くらいの散歩にでかけるのが日課ではあった。幼い頃は、私もよく一緒に行った。手をつないでいたのか、いなかったのか、記憶にない。その日ごとにテーマがあったらしく、行きと帰りに同じ道を歩かない、とか、角をかならず右に曲がる、とか、分かれ道は下り道を選ぶ、とか私を飽きさせない工夫があった。駅前の出入りの本屋さんは定番のコースで、本屋に行って本を物色し、同じ商店街の中にある喫茶店に入って、よくマロンパフェを食べさせてもらった。

 定期的に配達してもらっていた本は、囲碁雑誌のほかは、定期配本になっていた世界文学全集、ドストエフスキー全集、日本の古典全集と、手塚治全集(!)などだった。ジャングル大帝、リボンの騎士、火の鳥、ライオンブックスなどから、きりひと賛歌などの社会派作品まで、手塚治虫はほとんど読み尽くした。本は財産だ、というのが持論で、本は基本買って読み、読み終えた後も手元に置いた。考えてみれば、気軽に図書館にいけるものでもなかったし、そもそも近くに図書館はなかったのだが、読んだ本が父の過ごした時間の証だったのかもしれない。

 

 あれを読め、これを読め、と勧められることはあまりなかったが、読みたいといった本は買ってくれた。小学校に上がって最初に自分の意志で買ってもらった本は、たしかポプラ社かどこかの「おおかみ王ロボ」と「名犬ラッシー」だった。私が「ベルサイユのばら」にはまっていたときに、これを読め、とオルツイの「べにはこべ」を差し出したことはあった。フランス革命を賛美していた娘に差し出す本のセレクトとしてはなかなかセンスが良かったと今でも思う。

 

 父のことは、今にいたってもよくわからないままだ。何を思い、何を考え、何をあきらめて生きていたのか。満足していたのか、していなかったのか。諦観が服を着ていたような人ではあったが。居心地のよい部屋と椅子と、本とクラシック音楽と鉢植え。父の周りにあったものは覚えていても、父の内心は一向にわからない。亡くなってからもう、20年経つ。若いころの闘病でさんざん病院で酷い目にあっていたせいか、病院では死なないと決めていて、私が生まれた頃の最後の入院以降は、ずっと家で過ごした。亡くなる何年か前に、呼吸状態が悪くなって一度緊急入院したが、在宅酸素を携えて断固として退院してきた。私が幼いときと同じように、朝、きちんと身なりを整え、朝食にグレープフルーツを少々食べ、家族の出かけた後の居間で、一人でリクライニングチェアに掛けたまま亡くなった。そういえば父が亡くなるしばらく前、叔父が父の様子伺いに来た時、父はそのころ宮沢賢治を好んで読んでいたのだが、夢見るような様子で「俺は宮沢賢治の世界が分かったよ。あれは“青”なんだ」と語ったそうな。

当時、かなりの低酸素状態で実は朦朧としていたらしい。うつらうつらと夢を見て、母に「木を植えているんだ」と話したこともあったと聞いた。父と面立ちのよく似た、父を尊敬してくれていた叔父も数年前に亡くなった。

父が最後に座っていた椅子は、今、我が家の書斎にあって、大切にしようという私の意に反して我が家の猫達が爪をといでいる。

いつか、父の理解した宮沢賢治の「青」の世界を、究明できる日がくるとよいのだが。

2020年9月22日火曜日

氷川丸に逢いたい

霞ならぬ、活字を喰って生きていきたい今日この頃。
そうはいっても、淡麗グリーンラベルと、リーマンの影響ですっかりお気に入りになった“ホースネック”は捨てがたい。
上半期の仕事を一段落させたら、横浜港に、氷川丸に逢いにいこう。
第二次大戦前に建造され、太平洋航路を200回以上も渡った日本郵船の貨客船で、戦争中は病院船として働き、3回触雷しても遂に沈まなかった、ジャパニーズ・ビューティーである。

私の子供時代には、なぜか船体が緑色に塗られていた。(宮崎吾朗監督の「コクリコ坂」にもちらりと緑色の氷川丸が登場する。)
今は、元々の黒い船体に白いライン(煙突には赤白のライン)の「郵船カラー」に再塗装され生まれながらの姿を取り戻している。
なぜか私は、子供の頃からこの船が好きで、忘れがたい。

子供の頃、何回か船内を見学しているが、その当時、もうスクリューは取り外されている、と解説を聞いたような記憶がある。もう動けないんだ、、、、と子供心にも船が哀しく感じられたのを覚えている。当時は船体がヘンな緑色に塗られていたので、それも残念だった。船の魂はまだここにあって、もう航海できないのを悲しんでいるような、ね。
郵船カラーに塗り直されたのはずいぶん前のことだが、このニュースを知った時には、嬉しかったものだ。

氷川丸の情報はこちら→ 日本郵船氷川丸



2020年9月20日日曜日

ブログのタイトルをちょこっと変更。

おはようございます。
9月に入ってから、読メレビューを書き写してブログをいじり倒しているのですが、
さっきアドレスを書き換えてしまいました。万が一、ブックマークされている方がいたら(ほとんどいないとは思うが)ご迷惑をおかけします。ゴメンなさい。

もともと「今日からはじまる」というブログだったのですが、合唱曲とか詩とか、いろいろとあるみたいなので、「此処からはじまる」にしたんですね。そしたら、なんだか某薬局みたいなタイトルだなあ、と、気になりだし。

結局「此処よりはじまる」にすることにしたんですが、ついでにアドレスも、、、、と思ったら、ブログが表示されなくなって、大焦り(笑)しました。あ〜びっくりした。

2020年9月19日土曜日

作業中

追記9/20 どうしても画像が上手くはれない。HTML表示にしてみても、コードが読めないからさっぱりわからない。もっと勉強しなくちゃ駄目?→判らないなりに、何とかHTMLのコピペで対応。
Win機で表示確認したら明朝体の表示が美しくなかったのでゴシック体に変更。このブログサービスは日本語フォントが貧弱?
ひとまず、既読の300冊くらいのアップを目指している。
とりあえず、アップしたレビューは、更新日に載せるようにして、項目に「初読」を足す。
だって、古い既読を初読日でアップしても、トップページに動きがなくてつまらないし。
レビュー整理していたら、全然読書が進まず。でも古いレビューを掘り返すと、読み友さんたちのコメントも思い出して面白い。
追記9/18 各コメントに読書メーターとのリンクを貼ろうかと思っていたが、読メにヘンなスパムが出現したので、止めることにする。
追記9/18 ロバート・クレイスはとりあえずコンプリート

2020年9月7日月曜日

0221 砲艦ワグテイル(創元推理文庫)

書 名  「砲艦ワグテイル」
原 題  「Send a Gunboat 」1960年
著 者 ダグラス・リーマン
翻訳者 高橋泰邦
出 版 東京創元社 1982年2月

 ついに出た(´∀`)。伝統のアル中艦長!初っ端の危機には、気弱で屈折した退役間際の副長ファローが思いの外いい奴で、泥酔したロルフ艦長を渾身で世話してくれたのでホッとした。いやあ、命令書持って参謀が来艦というのにいきなりの艦長ご乱行で、どうなる事かと(冷汗)。
 はっきりと年代は書いていないが、女王陛下の砲艦(HMG?)と名乗っているからには1952年(エリザベス女王の即位)以降か。そういえば、ロルフが朝鮮戦争にも参戦したらしいことが書いてあったので、1953年以降、ほど近い頃の話だと思う。酒に逃げる余裕があるのが平時の証かもしれん。同じ寝取られでも「輸送船団を死守せよ」のマーティノーが苦悩を抱えたまま自沈攻撃に及んだことを考え合わせると、泥酔して艦をドッグの側壁にぶつけるのは平和のなせる技かもしれないし、アル中艦長は戦争中のモチーフではないのだろうな。何はともあれ面白い。リーマン、流石です。
 WW2終結後、勢力拡大と固定化を図る中国共産党(いや、今もか?)。台湾の先、陸地にほど近い国民党旧勢力が支配する小島に、入植した英国人の小集落がある。中共の動きが怪しいので事を構えずに英国人を脱出させたい。ロクな港もない小島に接近できるのは、退役間際の河川用砲艦である老艦ワグテイル号。艦長は何かの事件を起こして軍法会議の末に左遷されてきた男である。
 さて、この男、乗艦してすぐにタチの悪いアル中と知れる。
 もう二度と飲むまい、と決意する側から酒の誘惑。艦長の社交には酒がついて回るし、ロルフがグラスを持つ毎の、読んでるこちらの緊張感と言ったらない。
 しかしこの男。
 酒さえ入らなければ、冷静沈着、勇猛果敢な生え抜きの海軍士官なのだ。
 酒に溺れた原因は、心の底から愛して、崇拝していた妻の浮気。生真面目一本な男には辛すぎた現実。こんな男を癒やすのは、戦いと女しかない。なにしろリーマンだし。そんなわけで、彼には過酷な成り行きが用意されている。艦長が一人で艦をはなれて中共が侵攻して戦闘状態の島に潜入したり、女を助けたり、海を必死で泳いだり、そんな艦長に、一人の忠実な少年が付き従ってすんでのところを助けたり。と冒険活劇モードがふんだんに盛り込まれています。そして、アル中から立ち直った彼の側には、美しい女性が。リーマン節です。

0220 掃海艇の戦争

書 名  「掃海艇の戦争」
原 題  「In Danger's Hour」1988年
著 者 ダグラス・リーマン
翻訳者 大森洋子
出 版 早川書房 1993年

 世間の耳目を集める大型の作戦ハスキー作戦やノルマンディー上陸作戦の影で、味方の艦船が作戦遂行できるようにするため、ひたすら下働きの機雷除去を続ける小型艦。上陸作戦を仕掛ける攻撃艦や兵士を運ぶ上陸用舟艇のためにまず海路を開かねばならない。機雷原を隊列を組んで進み、機雷を除去。一歩間違えれば触雷し、海底に沈む数多の艦船の後を追うことになる。
 小型とはいえ80余名が乗る掃海艇の艇長イアン・ランサム少佐28歳。志願予備役の将校で戦時だけの軍人だが、部下と艦を愛する錬達の艦長である。年の離れた弟が地中海で戦死したとの報に胸が潰れる思いを押し隠し、冷静に艦を指揮する。個性豊かな乗組員の悲喜こもごもを交えつつ、そんな部下をまとめて、育て上げ、誇りにすら思う、ランサム少佐の情の深さが読みどころ。そのような彼の姿が、新任の副官の目を通して語られる。
 この副官、中将の一人息子で、もちろん将来を嘱望されている。しかし、潜水艦には不適、と判断され、大型艦で艦長に上り詰めるにはちと、何かが足りない。そんな息子に父親が敷いたレールが、小型艦の副官から艦長に昇任させる、というもの。よってランサムの掃海艇ロブロイ号への配属は、明かに本人ではなく父親の野心付き。この父親、女癖が悪いようで、掃海隊の指揮官であるブリス中佐とは、女絡みの因縁があるもよう。当のハーグレイヴ大尉は、予備役士官や、小型艦のあれこれに偏見を持ちがちではあるが、生来の素直さ、生真面があって素直にランサムに感化されて、副長職を勤め上げるまでに成長していくのも見所のひとつ。

 さてそんなランサムの秘めた恋の相手は、10歳も年下の牧師の一人娘のイブ「俺のかわいいお嬢さん」。なんと相思相愛の純愛である。さすがの年の差・立場の差に、世間体を案じた両家の思惑で長年引き裂かれていた二人。イアンを想い続けていたイブと、艇長にまで出世して、年の差は如何ともしがたいが、なんとか世間的には釣り合いが取れてきた?イアン。
 愛の成り行きは初々しく、手を繋いだり、頬にキスをしたり、万感の思いを込めてぎゅっと抱きしめたり。甘酸っぱいことこの上ない。それでも、彼女の純真な想いはついに実る日を迎えるのだ。そのとき、まさにD-deyの直前。そして、ついに彼の艇は危機を迎えることになる。
 イアンの部下の航海長、元機雷処理士官シャーウッドの人生模様と、ずっとイアンの心を支えていたに違いない、彼が愛する大型ヨット〈バラクーダ〉号も、物語の背景にあって、準主役級の存在感を示していた。派手さはないけど、手堅くてよい物語です。

2020年9月1日火曜日

2020年8月の読書メーター

8月の読書メーター
読んだ本の数:9
読んだページ数:4086
ナイス数:866

砲艦ワグテイル (創元推理文庫)砲艦ワグテイル (創元推理文庫)感想
ついに出た(´∀`)。伝統のアル中艦長!初っ端の危機には、気弱で屈折した退役間際の副長ファローが思いの外いい奴で泥酔したロルフ艦長を渾身で世話してくれたのでホッとした。いやあ、命令書持って参謀が来艦というのにいきなりの艦長ご乱行で、どうなる事かと(汗)。WW2終結後、勢力拡大を図る中国共産党。国民党旧勢力が支配する小島に英国人集落がある。中共の動きが怪しいので事を構えずに英国人を脱出させたい。ロクな港もない小島に接近できるのは、退役間際の河川用砲艦である老艦ワグテイル号。艦長は左遷されてきたアル中である。
読了日:08月30日 著者:ダグラス リーマン
志願者たちの海軍 (ハヤカワ文庫NV)志願者たちの海軍 (ハヤカワ文庫NV)感想
カナダ人の予備役大尉で航海長のフレイザー、警察官から海軍入りして小型艇に乗り組みたかったアイブス、掃海艇乗務から機雷除去のエキスパートになって、聖ジョージ勲章まで受けたアランビー。志願の動機は生き甲斐、やりがい、はたまた生存戦略。3人の男達が集ったのはオールダンショー少将麾下の特殊部隊『ブロザローの海軍』。ハスキー作戦の前哨戦から始まり、Dーdayを経て終戦までを闘い抜く。戦争が日常の男達の群像。どこか薄幸そうだったアランビーは恋人を喪いついに報われず。酷薄な陸軍士官の描写にリーマンの海軍びいきがちょっと
読了日:08月28日 著者:ダグラス リーマン
燃える魚雷艇 (徳間文庫)燃える魚雷艇 (徳間文庫)感想
記念すべきリーマン処女作。さすがに若い頃の作だからか、翻訳の違いなのか、描写が丁寧。主人公クライヴ・ロイス中尉、志願予備役でなんと任官3ヶ月目の20歳!このまだ未熟な中尉が魚雷艇に着任するところから始まり、一人前の魚雷艇艇長に成長するまでを、もちろん恋愛付きで、懇切丁寧に描写してます。彼が尊敬するハーストン艇長もまた若い、23歳。ですがすでに歴戦の勇士の貫禄を備え、ロイスを導き、艦を指揮する。小さな魚雷艇のこと、士官は艇長と先任の二人のみ。あとは下士官と水兵。つまり、ロイスは初心者なれど先任士官なのだ。
読了日:08月23日 著者:ダグラス リーマン
掃海艇の戦争 (ハヤカワ文庫NV)掃海艇の戦争 (ハヤカワ文庫NV)感想
世間の耳目を集める大型の作戦、ハスキー作戦やノルマンディー上陸の影で、味方の艦船の航行のためにひたすら下働きの機雷除去を続ける小型艦。戦闘に向かう攻撃艦や上陸用舟艇のために、まず安全な海路を開かねばならない。小型艇とはいえ80余名が乗る掃海艇の艇長は、イアン・ランサム少佐28歳。年の離れた弟が地中海で戦死したとの報にも、胸が潰れる思いを押し隠し、冷静に艦を指揮する練達の艇長。艇を愛し、部下思いで、個性豊かな乗組員の悲喜こもごもを交えつつ指導育成する指揮官としての姿も読みどころである。
読了日:08月22日 著者:ダグラス リーマン
AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争 (光文社新書)AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争 (光文社新書)感想
読むというよりは見る。戦前のモノクロ写真をデジタルと関係者の証言でフルカラー化。とても綺麗で、かつ臨場感を持って甦った戦前ー戦中の写真。圧巻だったのは真珠湾で爆発する駆逐艦。胸につまったのは子供と女性たちの笑顔。モノクロだと歴史の彼方に隔絶された感じがする戦争が、にわかに身に迫ってきた。戦争など遠い昔だとつい感じている人に是非見てほしい。
読了日:08月16日 著者:庭田 杏珠,渡邊 英徳
神の棘II (新潮文庫)神の棘II (新潮文庫)感想
【CNC(Crime Novels Club)参加中】WWⅡ終戦75周年。さて、なぜ、そんな行動を取るのか、上巻でチラリと触れたレジスタンスとの真の関係は何だったのか?アルベルトの行動がイルゼの証言で明らかになる。しかし「自由」になった後も何故武装SSに志願したのか。なぜ戦い続けたのか。ドイツ人としての矜持?責任感?マティアスを尋問する体裁をとりつつ、治療を施しSSが解放せざるをえなくなるまで庇護下においた。アルベルトが本当に守りたかったのは、イルゼとマティアスの二人だけだったのだろうか?
読了日:08月15日 著者:須賀 しのぶ
神の棘Ⅰ (新潮文庫)神の棘Ⅰ (新潮文庫)感想
まずはこのテーマを日本人が書いてよいのか、と驚くとともに、作者に敬意を表する。キリスト教、世俗権力化した宗教、第一次大戦後のドイツ社会の混乱と世相、なぜ、ナチスが生まれたのか、ユダヤ人迫害、レジスタンス。正義はなく、通底するのは人間の弱さ、醜悪さ。そこに切り込んでいった著者の意欲は買う、だがしかし。残念ながらマティアスの造形が軽いのです。もっと深みのある人物にできなかったものか。決定的な事件を目撃した原因が居眠り、というエピソードもにわかには信じられない軽さなのだ。とにかく、行動が浅はかなのが残念至極。
読了日:08月12日 著者:須賀 しのぶ
起爆阻止起爆阻止感想
リーマン御大80歳、35作目の作品で、年寄りの昔語り宜しく筆の遊ぶまま悠々自適な書きっぷり(笑)。細かく時間を刻んで話が前後するので読んでいると迷子感が半端ないが、とまれ面白い。主人公デイヴィッド・マスターズ少佐は老成して見える29歳。時折触れる頬の傷跡。元潜水艦乗り。かつて新造艦の指揮官として出航、港の鼻先で初潜行したその時、触雷して艦が沈没。艦橋のマスターズは海に投げ出されて助かったが、部下は全員が艦と運命を共にした。一人生き残った罪悪感。初めての指揮艦と年若い部下達。港は掃海してあったはずだった。
読了日:08月09日 著者:ダグラス・リーマン
国王陛下のUボート (ハヤカワ文庫 NV (396))国王陛下のUボート (ハヤカワ文庫 NV (396))感想
なんと、英国軍艦Uボートである。とりあえず今回の据え膳、死んだ親友の妻ゲールがダメだ。地中海で夫の指揮する潜水艦が消息を絶つ。おそらくは機雷。後から帰還したマーシャルが弔問に訪れた時にはすでに再婚して転居済み、相手はエリート士官のシメオン中佐。それなのにマーシャルを呼びつけて、死んだ夫ビルと結婚したのはマーシャルが結婚してくれなかったから、今も私、あなたが好きなの。でも私は家庭が欲しかったのよ。それってそんなに悪いこと?だから今の夫と結婚したの。でもあなたがその気なら・・・・って、なんだこの女?
読了日:08月06日 著者:ダグラス・リーマン

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