2019年4月27日土曜日

0175 回帰者

書 名 「回帰者」 
著 者 グレッグ・ルッカ 
翻訳者 飯干 京子 
出 版 講談社 (2010/8/12) 
初 読 2019/04/27

 アリーナが携帯で「アティカス」と呼びかけて思わず驚いた。そうだこいつ、アティカスだったっけ!
 それくらいの変貌ぶり。 
 複数の偽造パスポートを使いこなし、黒海を中心にグルジア、トルコ、ドバイ、ロシアと駆け回り、次の日にはアメリカに飛びその次はアイルランド。
 もはや世界を股にかける裏世界の住人となったアティカス。でも「守る」という信念だけは変わらない。鉄板のいい人であることも。

 恋人の妊娠中絶から始まった彼の物語は大きならせんを描き原点に回帰する。
 アリーナが身ごもり、人身売買の犠牲となったグルジアで隣家に済んでいた少女を助けだし、アティカスの守るべき家族は3人となる。安息の地をカナダに求め、本当にこれから、家族を守って平穏に暮らしていけるか心底心配。こんなに先行きが心配になる主人公も珍しい。

 回帰、といえば、シリーズ一冊目では「守るべき者を守りきれなかった」守護者は、今作ではついに、味方に一人の死者を出すことも無く、少女の奪還を果たした。無傷で、とはいえず、これからも守り続けなくてはならないとはいえ。
 祖国への回帰、出発点への回帰、守護者への回帰と、邦題限定とはいえ、良いタイトルを選んでいる。これでアティカスとお別れなのが寂しい。こんな大河ドラマになるとは、最初の一冊では思いもよらなかった。いやあ、堪能した。

2019年4月18日木曜日

0174 哀国者

書 名 「哀国者 」 
著 者 グレッグ・ルッカ 
翻訳者 飯干 京子 
出 版 講談社 (2008/9/12) 
初 読 2019/04/18

 大切な友の死と、負傷と潜伏を経て、寡黙なボディーガードが暗殺者になる。

「俺は今までは連中がどう思おうと警護者だったが、あんたのためにテンの一員になってやる」

 と、アティカスにトレントに向かって言わせたかったな! 自分が餌になったり、トレントを◯したり、アティカスの作戦はリスクの方が高くつきそうでイマイチ納得出来ないのだけど、まるでバレエのグラン・パのような、アリーナとアティカスの作戦行動は手に汗握る展開。

 一生懸命だけどスキだらけだった初期のアティカスが懐かしいほどの全方位戦闘態勢。さて次が最終巻。名残惜しい。

2019年4月12日金曜日

0172−73 逸脱者 上・下

書 名 「逸脱者 上」 「逸脱者 下」 
著 者 グレッグ・ルッカ 
翻訳者 飯干 京子
出 版 講談社  (2006/1/13) 
初 読 2019/04/12


 上巻冒頭、ボディガードとして有名になり、一流と認められた代償として、ろくでもない仕事もこなさざるをえないアティカス。依頼者にぶち切れるところからスタート。次の仕事は、英国の社会活動家の警護。そして、“ドラマ”が忍び寄る。
 上巻後半は殆ど姿の見えない“ドラマ”とアティカスの一騎討ち、というよりワンサイドゲーム。
 ひたすら指示に従っているようで、何か確かな繋がりを紡いでいるような展開。令嬢を間に置いた仲間達とのジョークの応酬や心温まるひとときもこれで見納めとなる予感をひしひしと感じる。
 一方でブリジットとの破局の仄めかし。ココがホントのターニングポイント。下巻新章からは、アティカスは向こう側にいってしまうのだろう。

 さて下巻は、上巻とはまったく違うステージ。
 “ドラマ”ことアリーナに拉致されたアティカス。そして、アリーナの依頼は、自身の警護だった。アティカスとの戦いで“テン”からも狙われることになったアリーナは、ボディーガートというよりは、仲間を欲していた。だからといって、アティカスがこういう風に巻かれるのか、と思わないではないが。
 アティカスはアリーナの隠れ家で、アリーナと暮らすことになる。最初は不本意に、そしてやがて、アリーナに心惹かれて。で、そこに、踏み込んでくるブリジットとクリス。
 暗殺者を題材にする危険に無自覚に踏み込むクリスの軽さ。
 殺し屋を引き連れて隠れ家に意気揚々と攻め込んでくるブリジット。
 おいおい、勘弁してくれ!不公平って何が?クリスの死の責任はスルーか?これは痛い。アティカスがアリーナ側に飲み込まれる展開がいささか説得力に欠ける気がするし、こっちをエピソード盛り盛りにして、ドラマティックに仕立ててくれてもよかったのにと思わないでもない。それに、アリーナの動きが封じられてしまったのもちょっと残念。

 銃とは切ってもきれぬ縁とは言え、善良な市民であったはずのアティカスが、分不相応?な敵と渡りあったせいで、手に負えない凶運ともいうべきものに巻きこまれていく、その事に無自覚無抵抗な所が、ナタリー父に忌み嫌われる所以。
 本人が被害に遭うだけならただのアクションだけど、きっちり周囲の人間を巻き込んで死人を量産するところがルッカのドSなところだ。
 さあアティカス、お前は明日、何処に行くのか?

 私の読みが足りないのかもしれないけど、アティカスがCIAに開帳した闇金の動きを何処で入手したのだろう?アリーナの情報だけじゃ足りない気がする。
 もうひとつ。アリーナとの共同戦線で、遠距離射撃で仕留めるつもりがなければ、なぜ危険を冒してアリーナに現場を下見させたのか。
 私は初めからアリーナが狙撃するんだと思ってたんだけど、それをアティカスが考えていなかったってのが理解できん。
 限界を超えても信念を譲らない青臭いアティカスに小一時間くらい小言を垂れたいとは思うが、まあ、それも魅力のうちなのだから仕方ない。

2019年4月3日水曜日

0171 暗殺者

書 名 「暗殺者」 
著 者 グレッグ・ルッカ 
翻訳者 古沢 嘉通 
出 版 講談社 (2002/2/15) 
初 読 2019/04/03 

 暗殺者“ドラマ”登場。出てきた瞬間からキャラが立つ。これまでガサツな口をきく女ばかりが登場してきたが、穏やかで美しい言葉使いの“ドラマ”、大きくはないのに、良く通る綺麗な声が聞こえてくるよう。いきなりフラグ立ってる?立ってるよね?

 怒濤の展開だけではなく、仲間内のウィットに富んだ会話がめちゃくちゃ楽しい。今回一番笑ったのは、この台詞。アティカスとナタリーの濡れ場を写真に撮られ、それを見たがるデイル。
「おまえはホモなんだぞ、忘れたのか?」
「その写真にはあんたも写ってるんだろうが、鈍感め」
「許してくれ、あのときのおれは許しがたいほどの異性愛者だったんだ」いい。すごくイイ!デイル最高!!