原 題 「Red Meta」2019年
著 者 マーク・グリーニー/H・リプリー・ローリングス四世
翻訳者 伏見 威蕃
出 版 早川書房 2020年4月
文 庫 上巻:512ページ
下巻:528ページ
初 読 2021年10月2日
読書メーター
ISBN-10 上巻:4150414645 /下巻:4150414653
ISBN-13 上巻:978-4150414641/下巻:978-4150414658
とまれ、アナログから超高度なハッキング技術まで、第二次大戦を彷彿とさせる軍隊列車から、最新鋭原潜や第5世代戦闘機まで、そして海底通信ケーブルから、高高度の軍事衛星までを同時多発的に攻撃する緻密な作戦が始動する。敵も味方も、西も東も、登場する人物の背景が語られ、人物造形が与えられ、物語に深みが増す。しかし西側の人物造形がリアルなのに対して、ロシア側は旧弊って感じのステレオタイプなのがすこし残念。思わず応援したくなっちゃうようなカッコ良いロシア軍人が出てきたら、もっと面白かったのに! さすがの主役のコナリー中佐は好感度ピカイチ。私の脳内では「テイキング・チャンス」のケビン・ベーコンで完全再生。その部下のグリッグス少佐も捨てがたい。直属上司がダメダメで、せめてコイツの頭越しに最上層に意見具申したいコナリー。その意を受けてグリッグスがたくらんだ作戦はその名も『犠牲フライ作戦』。もちろん、バッターボックスで犠牲フライを叩くのはグリッグス、その合間に二塁からホームベースを目指すのはコナリー。必要とあらばきちんと貧乏くじを引くことが出来るグリッグスは良い部下だ。下巻ではぜひ復権してもらいたいもの。
ロシアの仕組んだ「レッド・メタル作戦」の骨格・・・・というかストーリーの骨格はごく単純。軍事技術や相互監視の通信技術が高度になりすぎ、各国が身動きする余地が少なくなってきている現代で、スリリングな軍事物を書こうと思ったら、軍事力の前提条件(通信技術とそれに裏付けされた高度なIT化)をぶち壊してしまえば良い、そうすれば、第二次大戦なみに泥臭い軍事スリラーを展開できるじゃないか。ようは、発達しすぎた技術をあえて丈詰めしてしまう、という荒技。(まあ、グレイマンを病身にして出力50%オフするのと同じ発想ではある。)その為に、最先端の潜水艦と兵器で、大西洋海底の海底ケーブルを切断し、通信衛星を戦闘機で爆撃し、ハッカー集団がコンピューターを攪乱する。すべては“泥臭く”戦うタメである。
そして、圧巻なのはポーランドの反骨。ここで大国にコケにされてなるものか。ロシアの身勝手なやり方を黙認したら、今後も利用され続け、国家の存続が危ぶまれる。弱小国だからこそ、過去の歴史から学ぶのだ。国内第4の都市を市街戦の戦場に設定したポーランド、犠牲という名の背水の陣を敷いて牙を剥くポーランドと慢心するロシア。戦争に勝つことはできなくても、局地をものにすることはできる。そしてそれが、全体の戦局を大きく変える。
突然招集されてロシアに蹂躙されたポーランド民兵のパウリナは、本人の気持ちとは無関係に、戦いの女神として崇拝を受けるように。ジャンヌダルクのように先頭で戦い続ける彼女の恐怖に気付いたのは、ロシア軍車列を果敢に攻撃し、撃墜された米A10パイロット。戦場に咲く小さな花。そんな細かいエピソードも混ぜながら、基本は海兵隊万歳、ウーラー!!デビルドッグ!な壮大な戦争小説。
ここまで、最新武器を縦横に使い、破壊している小説はあまりないのでは?
老ラザール陸軍大将が、いぶし銀の如く輝く。最終兵器の争奪で最後にもう一波乱描くこともできたな、とは思うが、これで良いのだろう。
個人的には、ボルビコフが魅力的な人物に描かれていたら、もっと面白かったな、というのが若干贅沢な感想。まあ、この執筆陣にそれは期待できないか。
ラストは、それぞれの戦後処理。暴風雨が去ったあとは、死者への追悼と生者の褒賞。そうやって無理矢理、喪失に心の区切りを付ける。今作、ポーランド民兵のエースパウリナ、戦闘ヘリ"アパッチ”のパイロット"グリッター”(きらきら)ちゃん。そして攻撃型原潜の艦長ダイアナ・デルヴェッキオ、と3人の女性も大活躍。とくにダイアナを読むと、『ステルス艦カニンガム』を無性に読みたくなるな。
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