2020年9月7日月曜日

0220 掃海艇の戦争

書 名  「掃海艇の戦争」
原 題  「In Danger's Hour」1988年
著 者 ダグラス・リーマン
翻訳者 大森洋子
出 版 早川書房 1993年

 世間の耳目を集める大型の作戦ハスキー作戦やノルマンディー上陸作戦の影で、味方の艦船が作戦遂行できるようにするため、ひたすら下働きの機雷除去を続ける小型艦。上陸作戦を仕掛ける攻撃艦や兵士を運ぶ上陸用舟艇のためにまず海路を開かねばならない。機雷原を隊列を組んで進み、機雷を除去。一歩間違えれば触雷し、海底に沈む数多の艦船の後を追うことになる。
 小型とはいえ80余名が乗る掃海艇の艇長イアン・ランサム少佐28歳。志願予備役の将校で戦時だけの軍人だが、部下と艦を愛する錬達の艦長である。年の離れた弟が地中海で戦死したとの報に胸が潰れる思いを押し隠し、冷静に艦を指揮する。個性豊かな乗組員の悲喜こもごもを交えつつ、そんな部下をまとめて、育て上げ、誇りにすら思う、ランサム少佐の情の深さが読みどころ。そのような彼の姿が、新任の副官の目を通して語られる。
 この副官、中将の一人息子で、もちろん将来を嘱望されている。しかし、潜水艦には不適、と判断され、大型艦で艦長に上り詰めるにはちと、何かが足りない。そんな息子に父親が敷いたレールが、小型艦の副官から艦長に昇任させる、というもの。よってランサムの掃海艇ロブロイ号への配属は、明かに本人ではなく父親の野心付き。この父親、女癖が悪いようで、掃海隊の指揮官であるブリス中佐とは、女絡みの因縁があるもよう。当のハーグレイヴ大尉は、予備役士官や、小型艦のあれこれに偏見を持ちがちではあるが、生来の素直さ、生真面があって素直にランサムに感化されて、副長職を勤め上げるまでに成長していくのも見所のひとつ。

 さてそんなランサムの秘めた恋の相手は、10歳も年下の牧師の一人娘のイブ「俺のかわいいお嬢さん」。なんと相思相愛の純愛である。さすがの年の差・立場の差に、世間体を案じた両家の思惑で長年引き裂かれていた二人。イアンを想い続けていたイブと、艇長にまで出世して、年の差は如何ともしがたいが、なんとか世間的には釣り合いが取れてきた?イアン。
 愛の成り行きは初々しく、手を繋いだり、頬にキスをしたり、万感の思いを込めてぎゅっと抱きしめたり。甘酸っぱいことこの上ない。それでも、彼女の純真な想いはついに実る日を迎えるのだ。そのとき、まさにD-deyの直前。そして、ついに彼の艇は危機を迎えることになる。
 イアンの部下の航海長、元機雷処理士官シャーウッドの人生模様と、ずっとイアンの心を支えていたに違いない、彼が愛する大型ヨット〈バラクーダ〉号も、物語の背景にあって、準主役級の存在感を示していた。派手さはないけど、手堅くてよい物語です。

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