原 題 「The Iron Pirate」
著 者 ダグラス・リーマン
翻訳者 大森洋子
出 版 早川書房 1992年2月
初 読 2020/9/30
リーマンもだいぶ読み尽くしてきて、いよいよドイツ側の一冊。同じような語り出しだが、やはり空気感が厳しいと感じるのは舞台がドイツだという先入観があるからかな。
何しろ、ドイツ艦だ。辛い結果になるに決まってる。もう、鷲舞を読む時のような覚悟でこっちは臨むのだ。なのになのに、いつものリーマン節である。
原題のThe Iron Pirate(鉄の海賊)は、寡黙な艦長、主人公ディーター・ヘヒラードイツ海軍大佐に部下達から奉じられていた異名である。ヘヒラーはドイツ重巡洋艦《プリンツ・ルイトポルト》の艦長で、この頃、すでに艦は「奇跡の巡洋艦」との評を得ていた。
巡洋艦リューベック号も出てきて、あれ、リューベック号って、他の本で誰かの駆逐艦に沈められていなかったっけ?リーマンは結構、敵艦も味方艦も、艦名を使い回す。それとも対戦相手は、あの駆逐艦なのか?しかも、すでに10冊以上リーマンを読んでいて、始めの頃に読んだ駆逐艦本は、もはや頭のなかでエピソードが混ざってしまっている。
悲劇ははなから折り込み済みなので、できれば格好良い「ロマンチックな愚か者」を堪能したいところなのだが、そこはリーマンなので、今回は極めつけにイヤな身内の敵、ライトナー司令官が終始同乗している。これがとにかくイヤなやつ。そして、ライトナーがユダヤ人の富豪を殺害して略奪した財宝と、それにまつわる様々な欲と思惑。妻の不貞を知っているヘヒラー、それに関わりのある艦医、ゲシュタポに妻を拘束された副長。巌のようにあるべき艦長とその副長を悩ます心の揺らぎ。心と意志を一つにして強固に団結しているべき艦に入り込むきしみ。まるで靴の中に入った小石のように、いらいらチクチク、異物感が半端ない。
そこに艦に同乗する女性パイロット。まあ、恋に落ちるよね。リーマンだもの。負傷して艦長室を病室にするエリカと、彼女を見舞う艦長ヘヒラー。見ぬふり、聞かぬふりで廊下を見張る歩哨の様子に、いかにヘヒラーが部下に慕われているかを感じる。前半はとにかく煮え切らず、ぐだぐだと悩んでいる様子だったヘヒラーも、英国海軍との戦闘に及んでは、鉄の鉄たる所以を示し、そして彼の船、ドイツの重巡洋艦は、戦い敗れて大西洋に沈むのだ。艦に与えられた命令は、名誉の「自沈」。しかし、ヘヒラーは、総員退艦を命じ、自らも沈むプリンツ・ルイトボルトを見送る。
捕虜となり、ヘヒラーは英国の捕虜収容所で終戦を迎える。やがて、荒廃した祖国に戻った彼を待っていた者が。ヘヒラーとエリカが、どのような戦後を生きたのか、その物語の予感で物語は閉じる。
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