書 名 「空飛ぶ広報室」
著 者 有川 浩
出 版 幻冬舎 2016年4月
文 庫 558ページ
初 読 2023年6月3日
ISBN-10 4344424549
ISBN-13 978-4344424548
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/114128447
著 者 有川 浩
出 版 幻冬舎 2016年4月
文 庫 558ページ
初 読 2023年6月3日
ISBN-10 4344424549
ISBN-13 978-4344424548
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/114128447
日本国憲法を大切に思っているし、憲法前文の理想は至高だと思っている。その一方で、「戦争放棄=自衛隊がなくなりゃあいい」なんて、単純なものではないと思っている。朝な夕なミサイルを飛ばしているかの国や、日本を仮想敵国化してやまないあの国や、もとKGB将校が大統領やってる例の国や、隣国を恫喝してやまない某国と国境を接しているこの国がどうやって戦争に巻き込まれず、平和を守って行くか。地図を見てみると良い。日本はあれらの国にまるで瘡蓋のように、蓋をしている。地球儀の上に、こんなに「邪魔くさい」国が他にあるだろうか。
そして、もうひとつ、自分の中に大きな矛盾がある。
宮崎駿が『紅の豚』や『風立ちぬ』を作らざるをえなかったように。
なぜ、私は潜水艦や、戦闘艦や、戦闘機に愛着を感じてしまうのだろう?
闘うためだけに作られた機械に、どうして心動かされてしまうんだろうか?
だれか、この衝動を説明してほしい。いや本当に。
とまれ、この本の主役は、そんなこの国のかかえる矛盾とそれ故の批判を一身に請けつつ、日々生真面目に任務に精励する航空自衛隊の広報官の面々。ブルーインパルスに憧れ、ブルーに乗るために戦闘機パイロットになり、ついにその日がくるという矢先に不遇な事故でパイロット資格を喪失し、失意の中、広報室への異動を命じられた元パイロット(P免)の空井が主人公。
まだ若く、純粋・純朴な空井が、世の中の偏見や軋轢にめげながらも折れず、カンバっている、そんな等身大で普通な彼らを描くお仕事小説。実はいまの私の勤務地がほどほど防衛省に近かったりして、利用駅やら飲むエリアやらが確実に彼らとかぶってる。防衛省のビルの上に離発着する輸送ヘリなんかはもろ、頭上を飛んでいく。あまり見かけないが、胸に略綬を沢山付けた姿勢の良い制服姿の自衛官と道ですれ違ったりも。そんなこともあって、むやみとこの本の登場人物たちに親近感も感じつつの不思議な読書タイムになった。
この本は本当は2011年の夏に発行を予定していたそうだが、その矢先の3月11日、東日本大震災が起こった。自衛隊の松島基地の被災も報道で取り上げられたが、より注目を浴びたのは自衛隊の災害復興支援活動だったろう。著者の有川浩さんは、これを書かない訳にはいかないと、この本の終章を書き上げ、1年遅れでの本の発行となったとのこと。
出版された直後に書店の平積みからこの本を手に取ったとき、終章を見て、これはあざといだろ、と思った。しかし後書きを読んで、終章を書き足さざるをえなかった気持ちが十分に理解できたし、これを読めて良かったと思う。(この本の内容とは関係がないが、ブルーインパルスは、2020年5月29日、新型コロナに奔走する医療者を応援するために、都心の上空で展示飛行を行った。当時は高層ビルの上階で働いていたが、当日は忙しくしていて、窓の外を眺める暇が無かったが、あのとき窓の外をみたら、普段は見ることができない高度からブルーを見れたのにとおもうと、ちょっと残念だ。)
震災当時、職場のテレビは情報収集のためにつけっぱなしになっており、押し寄せる津波で飛行機が横流しに流される松島基地の様子も映し出され、なんとも形容しがたい気持ちで胸がふさいだ。爆発して白煙を上げる原発の映像に暗澹とした気持ちになった。そのなかで、呆然としながらも働いて、気がついたら4月の人事異動を迎えていた。各職場からはかなり早い段階で災害復旧支援の人員が出されていたが、早い時期に支援に派遣された人達は、缶詰工場から流された大量の青魚が腐敗する中を必死で道路復旧にあたったり、学校を泥かきして清掃したりもしたとのこと。なかには瓦礫撤去中にご遺体を発見したという話も耳にした。その後も、YouTube動画を沢山みた。
私自身に東北支援の順番が回ってきたのは、震災から10ヶ月後の、奇しくも話中でリカが仙台に到着したのと同じ2012年1月だった。仙台駅周辺の繁華街はほぼ復旧していた。被災地でお金も使うのも復興支援!と開き直って、初日はリカと同じく駅構内の牛タン通りで食事をして、以降毎日牛タンだ、ずんだだと消費に勤しんだのは、苦労や辛い思いも多かった先発隊には非常に申し訳ないことながら、仙台は街も人も活気があってやさしく、今でも私が一番好きな街の一つになった。
支援派遣中の中一日は休日があって、その日はリカの道中と同じく仙石線に乗って、松島海岸までいった。震災の傷跡をこの目で見ておかなければ、という気持ちがあった。話中のリカの視線は、私の視線と重なる。
仙台駅から海岸線に近づくにつれて、リカが目にしたとおり、延々更地になった土地が続くようになり、津波の痕跡を目で追った。自衛隊の滅私の奮闘や、被災者がお互いを思いやり、自制と自律で被災生活を送っていたことに、日本人の精神性の高さを称揚する動画や書き込みがネット上にも溢れたが、一人ひとりの自分と等身大の人達の努力や苦難や、悲しみを忘れないようにしたい。この本も、同じ思いで書かれていると思う。
後書きラストから引用
「自衛隊をモデルに今までいろんな物語を書いてきましたが、今回ほど平時と有事の彼らの落差を思い知らされたことはありません。
ごく普通の楽しい人たちです。私たちと何ら変わりありません。しかし、有事に対する覚悟があるという一点だけが違います。
その覚悟に私たちの日常が支えられていることを、ずっと覚えていたいと思います。」
日々の平和は、当たり前にそこにあるのではなく、守られ、支えられてここにある。そのことも私たちは事実として、きちんとわきまえていなければならないだろう。
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