原 題 「Portrait of an Unknown Woman」2022年
著 者 ダニエル・シルヴァ
翻訳者 山本 やよい
出 版 ハーパーコリンズ・ジャパン 2023年6月
文 庫 648ページ
初 読 2023年6月19日
ISBN-10 4596774781
ISBN-13 978-4596774781
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/114433241
2021年12月。ガブリエル71歳。
ガブリエルは、長年身を捧げてきたイスラエルの諜報機関「オフィス」の長官を引退した。幸いにして、1年弱前の暗殺未遂事件による負傷は、大きな後遺症を残さなかったようだ。キアラの敷いた計画どおり、退任したその日にはエルサレムを離れて、古巣ともいえるヴェネツィアに移住した。この地は、若い日に、画家になることを断念したガブリエルが美術修復師になるための修行を積んだ街であり、その後長年にわたって身元を偽って、数々の絵画修復を手がけたガブリエルの第二の故郷であり、そしてキアラの両親が暮らす街でもある。
双子のアイリーンとラファエルは家から近い公立の小学校に通い、登下校の送り迎えはガブリエルがしている。
キアラの監督(監視?)の元、ゆっくりと休息をとり、長年の苦労と疲労を落としたガブリエルは1人の画家、もしくは美術修復師として生まれ変わったように・・・・というよりはガブリエル本来のものであったはずの笑顔やユーモアを取り戻しつつある。
まあ、たまにカラビニエリのフェラーリ将軍が厚情でつけた護衛を、尾行者と間違えてうっかり叩きのめしたりはしているが。
で、そんな穏やかな新しい生活に、ガブリエル本人がいささか退屈も感じ始めたころ、旧友の画廊経営者であるイシャーウッドが偽造絵画売買に関わるトラブルに巻き込まれてしまう。ガブリエルはキアラの赦しを得て、フランスに出向き、調査に乗り出す。
前作に引き続き、かつてのガブリエルの恋人だったアンナ・ロルフが登場。イシャーウッド、サラ・バンクロフト、ケラー、オルサーティ、占い師の老女、おまけに邦訳されていないシリーズ8作目『Moscow Rules』で登場したフィレンツェのヴィラまで登場。(ガブリエルがモスクワに潜入し、ルビヤンカの地下で殴られて目を負傷したのち、脱出してこのヴィラで治療を受け、静養した、、、んだったと思う。たしか。)前作でも思ったが、旧作の登場人物を次々と登場させるあたり、シリーズ総まとめに入っているんだろうか?と感じる。
おまけに今回は美術界の贋作売買の一大ネットワークを巡る事件なので、ガブリエルの絵画に関する蘊蓄や制作シーンがふんだんに描かれている。ついでに、愛するキアラとの熱々な昼下がりまで、サービス満点。
絵画と諜報という二大得意分野の合わせ技で、その才能に並ぶものなはなし、各国・各界に助力を惜しまない協力者がいるガブリエルは向かうところ敵なしで、まさに余裕綽々と言ってよく、中盤までの危なげない様子はむしろ退屈と言えなくもない。しかし、終盤に至って、元CIAのきたない金で動く民間警備会社やらが登場し、ガブリエルの計画の進行が怪しくなったあたりからは、いくつかのどんでん返しも仕掛けられてかなり面白かった。総じて、ガブリエルがこんな老後(?)にたどり付けて本当に良かった・・・・・というのが正直なところの感想。
あと何年・・・・いや、何作続くかわからないけど、本当にもう、これ以上は怪我させないでほしい。
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