著 者 深見 真
出 版 徳間書店 2010年7月
文 庫 378ページ
初 読 2022年8月6日
ISBN-10 419893195X
ISBN-13 978-4198931957
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/108126704
『ヴァイス』を読んだところ、この『ゴルゴタ』が出色だ、との読み友さんからの情報をいただき、手に取る。
冒頭、某国の工作船が能登半島に漂流・座礁し、逃げ場を失った10名の精鋭工作員が石川県に上陸、自暴自棄で戦闘に出るところから始まる。これは、大石英司の『特殊作戦群、追跡す!』みたいな展開になるのか、と思いきや、そこは一章でサクっと作戦終了。この思い切りの良さに驚く。続く数章は自衛隊特殊部隊の訓練風景。ここまでは、ひたすら主人公の為人や背景を説明するための数章。そして事態が動く。
最精鋭の特戦群でもトップの戦闘力の自衛官が、10代の非行少年どもの凶行で妻子を失う。不自然な少年審判で犯人達が正しく法に裁かれる道が閉ざされた被害者の真田が、周到な準備ののち、非道な報復に出る。残虐な拷問殺戮を繰り返し、捜査に当たる警官もあっさりと殺害してしまい、「これで良いのか?それとも、このあと更に、この事態を納得させるようなどんでん返しが来るのか?」と不安にざわざわする。
迎え撃つ警視庁捜査一課の特殊班も、SIG社のアサルトライフルやらSIGの1911やらで武装して、ただ事ではない様相になってくるし、真田の元部下の協力者が、自衛隊制式のライフルを持ち出しているあたりで、どうもウラがありそうなきな臭さも感じるが、警察対真田の結末はかなりあっけなくついてしまう。
とにもかくにも、なんとも複雑な気持ちにさせられる作だった。
真田よ、アンタは正しくない。絶対に間違ってる。だけど、何がどう間違ってるのか、読んでいる自分が混乱してくる。バカも愚か者も含めての世の中だ。駄目な連中の酷い行いもなにも、清濁併せ呑むのが人の世のあり方なんだよ。でもそんな理屈が、幼い時に目の前で両親を殺された孤独な男に、その男がやっと得た家族を、なんの理由もなく殺されてしまった絶望に通用するか?
この小説とはなんの関係もないのだが、最近のことだが、本当は危険な人物に対して、さしたる自覚もなく無責任な行動をとる人たちの危うさを目の当たりにして、ヒヤリとしたことがある。この人、こんな無責任なことしちゃって、もしこの人に恨まれたら、ただじゃ済まないかもしれないよ。と。
怒らせてはいけない男を怒らせてしまった。眠れる竜を起こしてしまった。そんな話。
ゴルゴタの丘で一人の人間が殺されたことで、後世を大きく変えた。
それは大げさに過ぎる喩えかもしれないが。
追伸 どうしても一箇所、気になる表現が。
『大会の無差別級個人戦決勝で、優勝候補同士がぶつかった。』
・・・・決勝戦でぶつかるのは、優勝候補同士にちがいあるまいよ。いや、そういうことを言いたいのではないとは思うのだけどね。優勝候補の二人が、順当に決勝戦に勝ち上がったんだよね。分かってるよ、うん。
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