2022年8月19日金曜日

0382 新装版 ぼくらの時代 (講談社文庫)

書 名 「新装版 ぼくらの時代」
著 者 栗本 薫     
出 版 講談社 2007年12月
文 庫 448ページ
初 読 2022年8月19日
ISBN-10 4062759330
ISBN-13 978-4062759335
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/108406787   
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【旧版】
出版社   講談社  
単行本初版 1078年9月/文庫本初版 1980年9月
初 読   1983年頃?
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 「推理文壇」っていう言葉があるんですね。
 ミステリー界、ではなく「文壇」。私だけかもしれないけれど、この文壇って言葉には、えらくアカデミックで高尚で、考えようによってはうさんくさい感じがしてしまう。
 なるほど、栗本薫は処女小説でこの「推理文壇」なるものに、超新星のごとく出現したのだ。たしかに、それでけのインパクトのある、若々しく瑞々しいのに、こなれている、これは良作、もしかしたら名作かもしれん。
 高校生・大学生の父親世代に、まだ「戦争帰り」がいる時代なのだ。私自身よりもちょい前くらいの世代か。たしかに、戦中生まれだった私の父がもう数年早く生まれていたら、学徒出陣していた可能性もあったわけだ、と今ごろになって、思いのほか「戦争」は昔の話ではないのだと気付いたりもする。このあたり、初読の時にどう感じたかはちょっと思い出せない。
 ここのところ、栗本薫の晩期の作をずっと読んできて、こうして、〇十年ぶりにあらためて処女作を読むと、この段階で、ほぼ完成した作家だったのだと改めて思う。と、いうかここが絶頂期なんじゃないのか? ただし、語彙の使い方、漢字のひらき方に(私の感覚からすると)妙なものもあり、そういったところを、処女作からもてはやされて「大目に見てもらえ」て、業界から持てはやされて、これでOKと絶大な自己肯定感を得てしまったのが、薫サンの長い凋落の始まりだったのだろうか。ここで、この時に、キビシイ担当編集さんにがっつり、小説書きのお作法を仕込んでもらっていたら・・・・・いや、仕込まれたのだろうか? 書き上げたら読み直してみなさいとか、推敲しなさい、とか。漢字の使いかたとか? 推敲する習慣だけでも、きちんと身に付けてくれていたならば、早書きだけが能の作家には成り下がらなかったろうに。(迂闊、軽率は直らなかったかもしれないけど。)

 テレビ局、マスコミ、スター、などというキラキラした世界が最初から好きだったんだな、とも思う。のちの「島サン」に通じる原田ディレクターや、「良」なんかのスターにつながる若くて脆弱なスターの造形も、「探偵」役の造形も、原型は全部ここにある。それに、後の一連の東京サーガで登場するテレビ局「KTV」が、「極東テレビ」だということも再確認。

 ストーリーは文句なく面白い。タイプの違う2人の探偵役の役どころも面白い。トリックというか、トリックは無かった、というかのストーリーのひねりもなかなか練れている。
 戦後の焼け野原から再興したトウキョウの街と、それを汗水垂らして作りあげてきた「大人」の矜持、その押しつけに反抗するこども、反抗の証しともいえるロックと長髪。そしてやがて「もう若くないんだ」と彼らも髪を切って就職していくんだな、と某名曲を思い出す旧版「ぼくらの時代」と「ぼくらの気持ち」の表紙がなつかしい。なにはともあれ、面白かった。

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