著 者 ジョン・ル・カレ
翻訳者 宇野 利泰
出 版 早川書房 (1978/5/1)
初 読 2019/01/03
重く、痛切であり、非情である。
大戦後の東西の分裂と冷戦の時代。
東西ドイツの間に厚くて高いレンガとコンクリートと鉄条網の壁があった時代。今思えば冷戦がいつ熱い戦争になるかと、いつも背筋に冷たいものがあった時代でもあった。
スイッチ1つで何、何万の命を奪う軍拡戦争の一方で、ひとりの人間が孤独に、人間性を削り合う諜報戦で暗躍する。
ちょうど年末NHKで 「映像の世紀」の再放送をやっていて、ベルリンの壁をめぐる人々の攻防を、万感の思いで見た。 本書に登場する社会主義者達の教条主義的な決まり文句に、「主義」は人を救わないと改めて思う。
「僕がこの小説で 、西欧自由主義国に示したかったもっとも重要で唯一のものは 、個人は思想よりも大切だという考え方です 。これを反共的な観念だとの一語で片付けてしまうのは 、怖ろしい誤りです 。どのような社会にあっても 、大衆の利益のために個人を犠牲にして顧みない思想ほど危険なものはありません 。」
現在、自由主義が勝利を納めたというのはあまりに享楽的な考えで、社会主義の失敗は「社会主義」だから失敗したのではなく人間だから失敗したのだと考えてみる。
「反共的な観念」だと片付けられたくないというカレに通じる。
「僕は次のような逆説に興味を感じている 。西欧デモクラシ ーは一個の観念によって貫かれている 。個人はいかなる思想よりも価値の高い存在だとの考え方だ (コミュニズムはその正反対の見解を表明している ) 。この小説を書いた僕の意図は 、西欧デモクラシ ー体制防衛のために 、意識的にその主義を放棄した人々の群像を描くことにあった 」『主義』のあるところに人間の幸せはない。教育は『主義』を教え込む場ではなく、自由な思考を育む場でなければならない・・・・人間社会の営みについて、脱線しつつ考えつつ、の読書となったが、それもル・カレの望むところのような気がする。
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