2024年5月6日月曜日

0485 BLの教科書 有斐閣(その1 第一部)※ まだ未読了

書 名 「BLの教科書」
著 者 堀 あきこ/守 如子 編     
出 版 有斐閣  2020年7月
単行本(ソフトカバー) 306ページ
初 読 2023年1月9日
ISBN-10 4641174547
ISBN-13 978-4641174542

読書メーター https://bookmeter.com/books/15988418   

 2022年ごろから、突然BLを読み始めまして。
 それまで、全く未経験ってわけでもなく、今にしてこの本などを紐解くと、キャプ翼同人からいわゆる「やおい」が派生して、隆盛を極めたころと、自分が一時期コミケという文化に首を突っ込んだのがピンポイントで同時期。もっとも自分は比較的早く冷めてしまって(熱しやすく冷めやすい)、それでもまあ、そういう世界は知っていた。その後、私が“そういう世界”から遠ざかっている数十年の間に、なんとなく退廃的で仄暗く、耽美な匂いも纏っていたJUNEっぽい世界から、やおい文化はBL(ボーイズラブ)としてスクスク育ち、なんとも明るく健康的な商業BLから、現在はなろうやらNoteやら、pixivなどのネット界に広く深く花開いているようだ。
 「攻め」とか「受け」とかリバとか、私が知らなかった用語ができていたり、海外で派生したオメガバースとかDom/Subなんていう世界観が輸入されたり、現況、なんとも不思議で浅くも深くも、めくるめく二次元世界が構築されている。
 同じく、海外ではM/Mというジャンルで花開いているなんていうのも、この1、2年で知った知識。
 いい歳ぶっこいて(!)再びBLなんぞを読み始めた当初は、なんだか小っ恥ずかしくて、なぜ自分がBLを読むのか、とか言い訳っぽく考察していたが、さすがに最近は慣れてきて、楽しければいいじゃん、という気分になってきた。とはいえ、なんでしょうね、自分は恋愛ものは苦手、という意識があるのだが、確かに女×男は、得意ではない。っていうか、男女の恋愛もので、女に感情移入できたためしがない。女性が書いた小説でも、男性が書いた小説でも、そこで描かれる女性性(ジェンダー)にすんなり馴染めなかったりするのだが、その点、男同士っていう設定だと、自己投影をする必要がないので、自分とは無関係に純粋にLoveを楽しめるような気がしているような。その辺りの機微は、いまだに自分でもよくわからないが、それが自分がBLやらM/Mを読む理由かもしれない。
 ただ、いずれにせよ、仕事で追い詰まったり煮詰まったり、過労死直前に追い込まれたりしていると、重めの小説が読めなくなるので、最近はBL系に逃避している時が多いかな、という気はする。
 そんなこんなで、自分とBLの馴れ初めやら付き合いやらを振り返るために、この本を入手。これはこれで、勉強になる。

第1部 BLの歴史と概論
 第1章 少年愛・JUNE/やおい・BL
  • 1970年代「少年愛」の誕生———“花の24年組” 大泉サロンが大きな役割を果たした。
  • 竹宮惠子『サンルームにて』(改題「雪と星と天使と・・・』)→『風と木のうた』
  • 萩尾望都『11月のギムナジウム』→『トーマの心臓』→『ポーの一族』 
  • 1978年「JUNE」創刊。 
  • 木原敏江『茉莉と新吾』、山岸凉子『日出づるところの天子』
  • 小学館「少女コミック」や白泉社「LaLa」「花とゆめ」、新書館「Wings」「サウス」など、一般商業誌での少年愛や男同士の深い友情を取り扱った作品の連載。そーいやあ、『ツーリング・エクスプレス』とかは、何の違和感もなく楽しく読んでいた。
  • 初耳だったのは「やおい」の起源というか、この言葉の初出が波津彬子さんが主宰する同人誌「らっぽり」の「やおい特集号」であったこと。なんと波津彬子さん起源!?意外すぎた。
 その後1980年代後半にコミケ等の同人誌即売会で「キャプ翼」の“やおい”作品が爆発的に人気を博し、おぼろげな私の記憶ではこの時期、地方コミケ全盛期から全国版コミックマーケットに同人活動が大きく移行した。(ただしこれは神奈川の事情、というか当時の同時代的実感。)“やおい”は「山なしオチなし意味なし」という表向きの意味から、男子同士の性表現に対する隠語となった。(「やめて・おねがい・いやー!」の意とかなんとか。)キャプ翼同人から高河ゆんがプロデビューしたのもこの頃。
 こうしてあらためて自分の黒歴史込みで概観してみると、自分がかなり同時代的に関わっていたのだとあらためて気付く。自分がコミケに行ったのは比較的短い期間でで85年〜86年。それ以降は全国コミケ主流となり開催規模が大きくなりすぎて、下手くそ素人が頑張ってやっていくのが面倒になった。リアルの学校生活が忙しくなってしまった。一緒にやっていた仲間が見事に進学先がばらけたことで、 私自身のコミケ熱はあっという間に鎮火した。そもそも常軌を逸した人混みが嫌いだった。並ぶのも嫌いだった。さて、そして1990年代。商業BLジャンル確立。(以下続く)

第2部 さまざまなBLと研究方法

第3部 BLとコンフリクト

2024年5月5日日曜日

0482〜84 五歳で、竜の王弟殿下の花嫁になりました1〜3 (Celicaノベルス)

書 名 「五歳で、竜の王弟殿下の花嫁になりました」
著 者 須王 あや     
出 版  TOブックス 2023年7月
単行本(ソフトカバー)400ページ
初 読 2024年3月23日
ISBN-10 4866998911
ISBN-13 978-4866998916
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/119719650

「王弟殿下におかれましては、ご機嫌うるわしう・・・」
 なんと哀れな姫君。
 両親を失って、後ろ盾もなく、たった五歳で、十二歳も年上のディアナの王弟殿下に腰入れなどと・・・。 

 最初の3行で、掴みも最高です。一気に世界に引き込まれます。須王あやさん、文才あるわ。
 1000年前に竜王神が顕現して、当時の王女とともに国を興した大国ディアナ。その竜王陛下の直系子孫で、先祖返りみたいに竜王陛下に生き写しなのに、そのために義母である王太后に疎まれて、とかく生きにくさを抱えて生きてきた王弟殿下のフェリスと、その義母の「陰謀」でフェリスに輿入れすることになった隣国サリアの先王の娘レティシア。5歳と17歳の歳の差婚。歳の差は政略結婚にはありがちだとしても、流石に5歳の花嫁は規格外。おまけにその5歳の中の人は現代日本で27歳で事故死した娘で、17歳の王弟殿下の方は、竜王譲りの美貌と魔力と知性と幼少時からの苦労で老成しまくってる。そんな二重三重のミスマッチがきちんとこの歳の差カップルの中に収まって、レティシアの可愛さに氷と称される鉄壁のガードが崩れて笑い転げるフェリスの喜びや、そんなフェリスが大好きになったレティシアの幸福感が読者に伝染して、なんとも幸せな気持ちになる。いやこれ、かなりの拾い物です。

 初対面で、レティシアに優しくしてくれたフェリスに、

 いい人だ。
 私も、この優しい王弟殿下をお守りしよう。 

 と、心に誓うレティシア。やさしさが溢れて、泣きそうだ。


書 名 「五歳で、竜の王弟殿下の花嫁になりました2」
著 者 須王 あや     
出 版  TOブックス 2023年11月
単行本(ソフトカバー)400ページ
初 読 2024年3月24日
ISBN-10 4866999969
ISBN-13  978-4866999968
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/119740245  

 街に流布された悪意ある噂が王太后の逆鱗にふれて、謹慎蟄居を命じられてしまったフェリス。国王陛下の差配でその日のうちに謹慎蟄居は撤回されるも、これを機に、とレティシアを伴って自領にひっこんだ。おりしもフェリスの自領のシュヴァリエは特産の薔薇の盛りで「薔薇祭」が開催され、土地の人々が敬愛する領主の婚姻で祝祭ムードに溢れている。
 そのフェリスのお膝元の街にも、なにやら異国の異分子が紛れ込み、不穏な策動が・・・
 ちょこっと黒フェリスが顔を出して荒事っぽいことも起こったりして、幸福感を扱いあぐねて笑いころげてるばかりでないのもよし。
 レティシアが奪われてしまった愛馬を取り戻せたこともよし。
 この巻も、優しさと労わりと愛情と真心にあふれてます。

書 名 「五歳で、竜の王弟殿下の花嫁になりました3」
著 者 須王 あや     
出 版  TOブックス  2024年5月
単行本(ソフトカバー)400ページ
初 読 2024年5月3日
ISBN-10 4867941719
ISBN-13 978-4867941713
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/120499141

3巻目発売。もはや私の心の包帯と化しているこのお話。
 今作はレティシアの幸福を阻まんとする母国サリアの叔母王妃が、よくない企みを発動する。レティシアの愛馬のサイファをサリアに迎えにきたフェリスに対面したサリア王妃は、ろくな知識もないままに厄介者の冷や飯食いの王弟だと思い込んでいたフェリスが、美形で有能な王子だと知る。とたんにレティシアに与えるのが惜しくなって、自分の娘とレティシアの交換を画策。だがしかし、この悪い策謀に対して、伴侶をこよなく愛するディアナ王家の気質を遺憾なく発揮しているフェリス様の怒りが爆発。

「それを書面にせよ。そちの裏切りを、サリアとディアナに知らしめよ。書けぬと言うなら、首は落として、腕だけ残して、腕に命じる」

 もう、このセリフに惚れ惚れしましてん。「腕だけ残して、腕に命じる」ですよ!冷酷これに極まれり。これもまたフェリス様の本性の一部ですよ! 首を落とした後、腕一本だけ残す間に残った部分はきっと粉砕されちゃうんだ。とか書いてないことまで想像してその黒さにぞくぞくしますわ。
 この巻、レティシアの前では優しい白猫をかぶってるフェリスの黒い面も堪能できる。白フェリス?と黒フェリスの塩梅が絶妙です。須王あやさん、上手いよな〜と思いながらしっかり緩急を堪能。なお、男前?な王太后様がすんばらしかった。見直したよ。

何と了見のおかしなサリアの王室よ。  

そもそもディアナの王弟相手に、現王女でなく、やっかい者の姫を寄越そうなんて政治センスのない王室だ。 

もともと常識がないのであろう。 

「……どのみち、もうフェリスはあの娘を気に入った。ディアナの王族が誰かを気に入ったら、それを奪うことなど、サリアの王妃ごときに出来ぬ」

 日頃、なにかと目障りな恋敵の息子に嫌がらせの手を緩めない王太后様だが、さすがの生粋のディアナ娘は、ディアナ王族の特質を見切っている。そして、ディアナの王家としての気概も見せる。フェリスに対してはかなり変な行動をとりがちだが、きちんと賢い王族でもあるところに、初めて高感度がアップした。

2024年5月4日土曜日

0485 OBLIVION<矢代俊一シリーズ25>

読書メーター https://bookmeter.com/reviews/120522799   

Amazonより・・・「矢代俊一が渾身の力を込める新アルバムのレコーディング合宿が河口湖のスタジオで開始された。しかし、俊一の父は合宿所に何者かがいるといい始め、その夜にはさらに奇怪な現象が発生するが……明け方に目覚めた俊一は取り憑かれたように曲を書き始める。著者逝去により中断した表題作を収録した矢代俊一シリーズ最終の第25巻。栗本薫が生前に自分の作品をもっとも理解していると信頼していた円城寺忍による解説付き。」

 矢代俊一シリーズ最後の本である。
 薫サン2008年12月の筆。翌年の2009年5月に死去。1章から7章まで、未完。
 なにはともあれ、故人の冥福を祈る。 
 
 矢代俊一グループは、新しいアルバムの収録に富士河口湖畔のホテル兼スタジオを貸し切って臨む。収録にはコアメンバー5人(俊一、サミー、英二、晃市、木村)の他にピアニストの松本弓彦、和太鼓の社中なども参加し、純一の父も参加する予定になっている。新アルバムは『雨月物語』をテーマに、人間の業と救済を表現する。そしてそのホテルで心霊現象に遭遇・・・で、ここからというところで断筆。

 おそらくシリーズ中、もっとも読みやすい普通の文章。どうした薫サン、なにか憑き物でもおちたんだろうか、ってくらい普通の文だ。それが曲がりなりにも小説家に対する褒め言葉か、と思うとなんとも言えん気分になるが、事実だ。
 おそらく前巻でついに金井とキレて、変に俊一に絡みつく男どもがいなくなっているせい。透はついに良に捨てられ、いまや俊一への愛に生きているし。ひっそりと完璧に日陰の身を演じて、すくなくとも修羅場を演じて俊一をかき乱すことはしないし。透の変遷についても、言いたいことは山ほどあったような気もするけれど。これで決別である。

 ついでながら、透について言えば、個人的には、『嘘は罪』に2回ほど出てきたときの透ちゃんが、自分の中では一番だった。あそこが透の最高到達点。まあ、『ムーン・リヴァー』は別格として、こちら、矢代俊一シリーズに登場する透は、薫サンにおもちゃにされた哀れなキャラとしか思えない。今西良もしかり。まあ、外伝の方は読んでないのだけどね。
そんなこんなで、まあ。お疲れ様でした。

栗本薫〈矢代俊一シリーズ1〜25〉総評


最初に、1冊目の『YOU DON'T KNOW WHAT LOVE IS 恋の味をご存じないのね』の冒頭に配された、栗本薫の御夫君であり、以前はS-Fマガジンの編集長でもあった今岡清氏の前書き 「矢代俊一シリーズ電子版刊行にあたって」から抜粋。

栗本薫の個人レーベル(同人誌)である天狼叢書の出版について、今岡氏は以下のように語っている。
・・・また、『真夜中の天使』、『キャバレー』などの作品が、作家としてデビューする以前に出版するあてもなく、書きたいという衝動だけにせかれて書かれていたことへの回帰ということもあったのでしょう。編集者の意向や読者の要望などに影響されずに、思うがままに書いていきたいという気持ちから書き始められたのが『YOU DON'T KNOW WHAT LOVE IS』以降の矢代俊一シリーズの作品でした。

シンプルな表紙を取ったとこについては、
・・・いつまでも語り継がれるよう、矢代俊一シリーズの表紙はずっと変わらずにいるようにとあえてこの形をとりました。最後に、電子版配信にあたって天狼叢書として出版された版と多少の違いがあることをお断りしておきます。まず、編集者としての私から見て明らかな矛盾や事実誤認については訂正をしました。もちろん内容や表現に関する部分には、一切手を加えてはいません。訂正は、栗本薫に納得してもらえると私に確信の持てる部分に限っています。

 シリーズが巻数を重ねるにつれて趣味的要素が強くなりすぎ、読者が減っていったこと、プロの編集者の目から見て、(編集・出版の)プロの目が介在しなかったことによる瑕疵が気になるところでもあった、と今岡氏は語るのだけど、それは薫サン自身が望んだことなんだよね。他者の意見を聞き入れる精神を持ち得なくなった作家が、周囲の批判や意見から耳を塞いで居心地のよい環境に逃げ込んだだけにしか思えず、そのような創作環境を、プロの編集者の目をもつ夫の今岡氏はどのように受け止めていたのか、とか、考え始めるといろいろと気になってしまう。それでも、今岡氏は「いつまでも語り継がれる」価値があるとは考えているわけだ。(だからこそ、この電子書籍シリーズが今も刊行中なわけだけど。)

 先に、電子全集に『トゥオネラの白鳥』が収録されてしまったがために、『東京サーガ』の行き着く先が、栗本薫の同人レーベル非読者にも明かされてしまったのは、私にとっては、不幸な出来事だった。少なくとも私の心中には、とんだ東京焼け野原が出現することになってしまったが、しかしあの『トゥオネラの白鳥』に含まれる、〈毒〉はいったい何なのだろう。その〈毒〉ゆえに、栗本薫は闇落ちした、と私は確信したのだが、そんな薫サンの軌跡をたどる、同人レーベル〈矢代俊一シリーズ〉正伝25巻、外伝18巻(未完作品を含む)を、いまから辿ってまいりますよっと。


◆「東京サーガ/矢代俊一ブランチ 作品一覧」◆
角川書店 「野性時代」1983 年掲載
角川書店 1983年
角川文庫 1984年
角川春樹事務所/ハルキ文庫 2000年

『死はやさしく奪う』(矢代俊一シリーズの登場人物金井恭平のエピソード)
角川文庫 1986年
カドカワノベルズ 1990年

『黄昏のローレライ キャバレー2』
角川春樹事務所/ハルキ・ノベルス 2000年

『身も心も 伊集院大介のアドリブ』(伊集院大介シリーズに矢代俊一登場)
講談社 2004年
講談社文庫 2007年

『流星のサドル』
成美堂出版/クリスタル文庫 2006年

以下は天狼プロダクション刊 〈矢代俊一シリーズ〉
  1. 『YOU DON'T KNOW WHAT LOVE IS 矢代俊一シリーズ1』 2007
  2. 『朝日のように爽やかに Softly,As In A Morning Sunrise 矢代俊一シリーズ2』 2008 
  3. 『CRAZY FOR YOU 矢代俊一シリーズ3』  2008 
  4. 『NEVER LET ME GO 矢代俊一シリーズ4』 2009 
  5. 『BLUE SKIES    矢代俊一シリーズ5』 2009
  6. 『ROUND MIDNIGHT    矢代俊一シリーズ6』   2009
  7. 『THE MAN I LOVE    矢代俊一シリーズ7』   2010
  8. 『WHAT ARE YOU DOING THE REST OF YOUR LIFE   矢代俊一シリーズ8』 2010
  9. 『GENTLE RAIN    矢代俊一シリーズ9』2010
  10. 『CARAVAN    矢代俊一シリーズ10』  2011
  11. 『亡き王女のためのパヴァーヌ    矢代俊一シリーズ11』 2011
  12. 『LOVER FOR SALE    矢代俊一シリーズ12』2011
  13. 『SUMMERTIME    矢代俊一シリーズ13』   2012
  14. 『SOUL EYES    矢代俊一シリーズ14』 2012 
 で、ここまで(14冊目まで)の感想だが、失礼ながら、以外にも、面白かった。
 やはり好きなものを、好きなように書いているからだろうか。エロ描写がふんだんに散りばめられているためか、脳内流出ぐだぐだトークが相対的に少なくなっていて、比較的読みやすいし、展開がスピーディーだ。『キャバレー』の矢代俊一がこうなり、『死はやさしく奪う』の金井がああなる。そしてその二人がそうなる。この点のみ、ぐっと飲み下すことができれば、このシリーズは読める。少なくともここまでは。キャラ劣化の兆しは見えてはいるものの、まだ、そう酷くはない。しかし、たとえば黒人キャラクターに与えた役割や、HIV感染の話など、センシティブな事柄に対する無神経な取り扱いにはドン引きする。実在のタレントを彷彿とさせる当て字で、あそこの穴がゆるゆる、とかやるのも勘弁してほしい。こういう思慮のなさは、もともとの薫サンなんだろう。
 透はやっと13作目での登場だが、なにやら婉容なセックスマシーンみたいなキャラになっているが、まあ、私的にはまだ、許容の範囲内。このあとの続刊を坐して待つ。

【以下、追記】

◆ 2022.7.30 15冊目の『WILLOW WEEP FOR ME 』が刊行されたので、レビューを追加。
 執筆時期の薫サンの体調の影響か、はたまた、他の活動の影響か、作品の質にかなりのバラツキを感じるのは気のせいかな。15冊目はなんだか俊一の方向性というか、姿が定まらない感じで心許ない。
◆ 2022.9.22 16冊目の『SKY LARK 』が刊行されたので、レビューを追加。
 透の人物像に相当な劣化を感じるようになった。また、アクションパートが終了したため、全体的に、薫サンの〈脳内ダダ漏れぐだぐだトーク〉と私が形容している、冗長で繰り返しの多い無駄な文章が増え、目が滑る率が高まる。どの登場人物も同じような言葉回しをするため、セリフによる各人物の書き分けが曖昧。小説の質的な劣化が見られる。
 しかし、『テンダリー』を三分割して、61ページ分を550円、91ページ分を770円で頒布する、という価格設定は暴利というか無謀ではないか?同人誌価格なのか?さすがに私は買わないよ、これ。
◆ 2022.11.30 17冊目の『IT AIN'T NECESSARILY SO』刊行
  結構、読むのがツラい代物になってきた。透が完全に闇落ちしましたね。もやは、『朝日のあたる家』や『嘘は罪』や『ムーン・リヴァー』の透とは別人に成り果てました。
◆ 2023.2.20 18冊目『MORE THAN YOU KNOW』 刊行。
 薫サンの脳に沸きいずる言葉をただただ、だらだらと書き綴ったのだな。ひたすら俊一が己の二股の恋を思い悩む。そうはいっても、そんなに深いものにはなりようがない。残り、本編6冊。
◆ 2023.4.20 19冊目 『ボレロ』刊行
  待ちに待った、俊一と父、万里小路俊隆の父子リサイタル。薫サンの音楽描写は悪くないと思っているし、クラシックを織り交ぜたコンサートの構成とか、それを薫サンがどのように描写するか、とかそれなりに(結構に)楽しみにしていたんだよね。でもって、期待値を上げすぎて惨敗する、という、なんだろう、己に負けたような残念感だったりして。詳細は個別のレビューのほうへどうぞ。
◆ 2023.6.20  20冊目 『DEVIL MAY CARE』刊行
 もはや期待のひとかけらも持たずに。それでも発売日に惰性でダウンロード。スマホの画面を10回スライドさせて1行読むくらいのペースで読み飛ばした。その程度で十分な希薄さなのだ。読むべきものも、評価すべきものもないと思う。
◆ 2023.9.1   21冊目     『AS TIME GOES BY』刊行
 惰性であることは重々理解しているが、とりあえず、隔月で出るので、いちおう目を通す。出だしは悪くないかも?と思ったのだけど、すぐに俊一がグダグダしだして、ウンザリ。この巻はステージもないので、ほんと、金井と寝て、英二と寝て、透に犯されて、寝込む。だけ。それが大ステージ控えたプロのミュージシャンのやることか? 深海より深く反省しやがれ。
◆ 2023.10.22   22冊目 『SENTIMENTAL JOURNEY』刊行
 前々から決まっていた全米ツアーの一部始終。俊一を嫌う在米の日本人ジャズピアニストが寄ってきて、つまらぬ嫌がらせの数々。俊一は英二に焼き餅をやき、痴話喧嘩の一方で、やはりニューヨークに来た金井と寝るし、風間を全力で誘惑するし。でもまあ、ステージの描写は悪く無かった。  
◆ 2023.10.22   23冊目 『ANGELEYES』刊行 
 ニューヨークから帰国したのちも、晃市の音楽性問題は継続中。金井が交通事故で重症を負う。金井と俊一の関係を案じ、また透の先行きも案じる風間は、俊一と透の関係は知らぬまま、俊一の愛人として、透を勧める。 
◆ 2024.2.25  24冊目 『MY ONE AND ONLY LOVE』刊行  
 ピアニストの松本弓彦(ユミー)が登場。晃市のピアノ問題の音楽性の問題は継続中。金井が交通事故で足を骨折したあと、仕事もできず九州で困窮しているとの黒田からの連絡があり、ついに俊一は金井にまとまった金を渡して決別することを決意。 
  透は手紙で良から、出所したらイギリスにいって永住するかもしれない。透の所には戻らない。と別れを告げられ、いよいよ俊一に傾倒。
◆ 2024.4.25  25冊目『OBLIVION(未完)』刊行 
 2008年の年末に書かれた章で、絶筆。びっくりするほど、読みやすい。金井との二股が解消し、透との秘めた恋愛は、透がすっきりと影に潜んでいるので俊一を悩ませることはなく、この最後の巻は音楽性の話題と、心霊現象のみ。俊一の内心の一向に進歩のないぐだぐだトークがないだけで、これほど文章がすっきりするのかと。
 薫サンが亡くなったのが2009年5月。なにはともあれ、故人の冥福を祈りたい。

◆ 『トゥオネラの白鳥       矢代俊一シリーズ未完作品集2』   2016(栗本薫・中島梓傑作電子全集28【JUNE Ⅱ】収録)


《矢代俊一シリーズ 外伝》
  1. 『テンダリー』 2009(晃一)
  2. 『明るい表通りで』 2009(晃一)
  3. 『酒とバラの日々』 (金井)
  4. 『SMILE――獣人の恋――』 (黒田)
  5. 『GEE BABY,AIN'T I GOOD TO YOU 』 2010(渥美) 
  6. 『聖夜—サイレントナイト』 2010(金井×俊一)
  7. 『VERY SPECIAL MOMENT』 2010(俊一×メンバー)
  8. 『Bei Mir Bist Sheon—素敵な貴女—』 2011(風間・黒田)
  9. 『EIJI29歳』 2011(俊一×英二)ニューヨーク後
  10. 『ラ・ヴィ・アン・ローズ』 2013(透)
  11. 『悪魔を憐れむ歌』 2014(銀河)
  12. 『レイジー・アフタヌーン』 2014(透)
  13. 『夜のタンゴ』 2015(透)
  14. 『タンゴ碧空』 2015
  15. 『アリヴェテルチ・ローマ』 2015
  16. 『牧神の午後への前奏曲』 2015
  17. 『BLACK ROSES』 2016
  18. 『ブルーレディに赤いバラ』 2016
※なお、『栗本薫・中島梓傑作電子全集28【JUNE Ⅱ】』に収録されている、矢代俊一年譜から書き起こした東京サーガ年譜はこちらへ。



2024年4月の読書メーター

 過労死ライン超えの残業をしつつ、3月中に終わらなかった仕事に絶叫しつつ迎えた4月。だがすくなくとも、人的環境については4月の人事異動で劇的に改善した。それだけでも大感謝。
 とはいえ、積み残しの仕事がひしひしと心を蝕む新年度。『公安J』を読んでいたものの、ちょっと読みにくさがしんどくなって、さらりと読めるBLに逃避。多分、読んでストレスにならないところだけ3周くらい読んだ。十時さんの書く話は、基本優しく切なく生真面目で、癒されるんだよ。だけど、漢字の誤字が少なくないし、政治や戦略のことになると、稚拙すぎて残念至極。いいもの持ってるのにな〜と、ちょっと残念ではある。いや、同じレベルであっても上手にファンタジーしている作品はたくさんあると思うのだ。なんというか、リアリティをもたせようとしたがために失敗している、のかなあ。

4月の読書メーター
読んだ本の数:11
読んだページ数:2190
ナイス数:300

望んだものはただ、ひとつ ~リーベスの崩城~ 後編 (ボーイズラブ(BL))望んだものはただ、ひとつ ~リーベスの崩城~ 後編 (ボーイズラブ(BL))感想
リーベスはシェリダンの姓。リーベス家の崩壊とともに、シェリダンは自力でその闇から抜け出す。じっとシェリダンの苦闘を見つめ、力を添えるアルも良い。だがしかし、兄がおバカすぎる。こんなバカいるのかって、せっかくのストーリーのリアリティが消し飛ぶ程度にはおバカ。全体的にはいい味出してるのにな〜。総じてダメな部分が鋭角すぎる。
読了日:04月30日 著者:十時

望んだものはただ、ひとつ ~リーベスの崩城~ 前編 (ボーイズラブ(BL))望んだものはただ、ひとつ ~リーベスの崩城~ 前編 (ボーイズラブ(BL))感想
シリーズ最終話? 今作は大それた政変などはなく、いわば日常系(?)。シェリダンの元に、過去の陰謀で城を追われた兄とその妻が助けを求めてやってくる。救いの手を差し伸べたシェリダンに当然恩を仇で返す所業。シェリダンが自身の傷つきとどうやって向き合い決別できるか、という話。陰謀もこの程度のスケールなら安心して読める。
読了日:04月30日 著者:十時

望んだものはただ、ひとつ: ~狙われた佩玉~ 後編 (ボーイズラブ(BL))望んだものはただ、ひとつ: ~狙われた佩玉~ 後編 (ボーイズラブ(BL))感想
自分を攻撃されると、自己肯定感低めでいろいろと悪夢が戻ってきたりしてぐだぐだになりがちなシェリダンが、他者の危機に臨んでは極めて優秀な指揮官になる描写はとても良い。そしてアルフレッドに愛されてトロトロにされる描写もまた良い。だが、その戦術はどうなんだ? 敵国の戦略も、対するシェリダンの戦術も、あまりにも稚拙で残念すぎる。
読了日:04月30日 著者:十時

望んだものはただ、ひとつ: ~狙われた佩玉~ 前編 (ボーイズラブ(BL))望んだものはただ、ひとつ: ~狙われた佩玉~ 前編 (ボーイズラブ(BL))感想
シリーズ4作目前編。アルフレッド王の兄大公登場。病弱で若くして隠棲していたが、よく効く薬のおかげて政務に復活。最後まで本当にいい人なのか疑っていた私は心が黒いな。兄大公が城に連れてきた二人の夫人が後宮に波乱をもたらす。そこに、某国の陰謀で複数国の国王たちが囚われて幽閉されて・・・。   てかありえんだろ。ありえないだろ〜〜〜〜。ファンタジーにしてもあんまりな。本当にセンスないから国際謀略的な話はやめておいた方が良い。
読了日:04月30日 著者:十時

望んだものはただ、ひとつ: ~サチュアの罠~ 後編 (ボーイズラブ(BL))望んだものはただ、ひとつ: ~サチュアの罠~ 後編 (ボーイズラブ(BL))感想
つづきの後編。さて、麻薬「サチュア」の大量摂取で人形のようになってしまったシェリダン。有能な医師が特効薬を開発して、意識を取り戻す。その描写があまりにあんまりで(苦笑)。シェリダンが辛い過去に向き合ったり、身勝手な周囲の思惑に背筋を伸ばして向き合ったり、それをしっかり支えるアルフレッド、という描写はとても良いので、このシリーズ嫌いじゃないんだよ。というか好きだよ。良いもの持ってるんだから、もうちょっと勉強すればいいのに〜、とおばちゃんちょっと残念なのよ〜
読了日:04月30日 著者:十時

望んだものはただ、ひとつ: ~サチュアの罠~ 前編 (ボーイズラブ(BL))望んだものはただ、ひとつ: ~サチュアの罠~ 前編 (ボーイズラブ(BL))感想
つづき。1巻目でも失敗しているのだから、後宮管理省(だったか?)の長官人事はもうちょっと慎重にしたほうがよいのでは? 長官ゴリ押しの新人女官ライラはさすがにありえん。主人に口答えやら嫌味やら、即刻手討ちでよい。なんにせよ、ファンタジーだということに甘えずBLであることにも甘えず、もっとストーリーを練ろうよ。もしくはラブストーリーに徹せれば。
読了日:04月30日 著者:十時

望んだものはただ、ひとつ: ~迫りくるサーヴェ~ 後編 (ボーイズラブ(BL))望んだものはただ、ひとつ: ~迫りくるサーヴェ~ 後編 (ボーイズラブ(BL))感想
虐待され、疎外されて自己肯定感低めに成長した主人公シェリダンが、夫となった国王アルフレッドの愛と自助努力で、一歩前進/後退を繰り返しながら、自分を取り戻していく話は十分に切なく、十分に愛に溢れ、二人の側妃たちや女官のエレーヌなんかのキャラ立ちも素晴らしい。とにかく政治の話さえしなければ。そして敵役があんなにおバカでなければ。勿体無いな〜。あと漢字の勉強をしてほしい。
読了日:04月30日 著者:十時

望んだものはただ、ひとつ: ~迫りくるサーヴェ~ 前編 (ボーイズラブ)望んだものはただ、ひとつ: ~迫りくるサーヴェ~ 前編 (ボーイズラブ)感想
表紙の絵柄がツライ。主人公の危機はこういう小説には必須だが、あまりにも無理筋。ただただ、主人公の切なさを味わうのみ。
読了日:04月30日 著者:十時



望んだものはただ、ひとつ: ~水晶に選ばれし王妃~ (ボーイズラブ)望んだものはただ、ひとつ: ~水晶に選ばれし王妃~ (ボーイズラブ)感想
表紙がどうしても受付けない(苦笑)。読了登録するか散々悩んだが、諦めて(?)登録。十時さんの創作は結構好きだ。主人公の真面目さ、切なさの塩梅がよろしい。だがしかし、政治とか社会とか戦略とかの描写がお子様レベルに拙いので、あまりそういうことは書かない方がいいんじゃ、と思ったりするし、漢字の間違いが多すぎる。(誤変換ではなく、多分素で間違ってる。)そういうところを見ると、文才はあるけど勉強(読書)はあまりしていない方なのかな?とか想像したりする。だが、キャラクターは良い。概ね大目にみれば、読んで幸せになれる。
読了日:04月30日 著者:十時

警視庁公安J ブラックチェイン (徳間文庫)警視庁公安J ブラックチェイン (徳間文庫)感想
公安J3冊目。今作、J分室はおそらくはシリーズ最大級の悲劇に見舞われる。なんてこった!いけねえよっ。(っとメイさん風に。)中国の農村部の貧困と一人っ子政策が生んだ闇、黒孩子。党内の腐敗と汚職と、人身売買、臓器売買、密漁・密輸。それらの手先に仕立てあげられた闇の子。それを利用しようとする者、糺そうとする者。深淵の縁で両方を見据える者。虚実ない交ぜでスケールも大きく、とりあえず面白い。だがしかし。シノさ〜〜〜〜ん!!(T-T)
読了日:04月10日 著者:鈴峯 紅也

警視庁公安J マークスマン (徳間文庫)警視庁公安J マークスマン (徳間文庫)感想
面白いか面白くないかといっちゃ、面白いんだが。この遠大なストーリーの核心がダニエルのイタズラ心だというのが実にいただけない。おまけに肝心のネタバラシを、すべてカタカナ読みさせられる苦痛をどうにかしてほしい。不透明で不合理に満ちた世界で、純也の真心がきらりと光るのがこの物語の醍醐味だと思うのだが、今作ではあまり心に響くシーンはなかった。そこがちょっと残念かな。空を舞う海苔に地味にイライラしてる純也は面白かったかも。そして矢崎サンは面白すぎる。あんたも野営してるんかい!
読了日:04月03日 著者:鈴峯 紅也

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