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2025年2月10日月曜日

0539 沈黙の書 (創元推理文庫)

書 名 「沈黙の書」
著 者 乾石 智子    
出 版 東京創元社 2017年7月
文 庫 373ページ
初 読 2025年2月15日
ISBN-10 4488525075
ISBN-13 978-4488525071
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/125941006

 きっと私の心が荒んでいるからに違いない。なんというか、最後のほうまで、物語が自分の中にしっくり馴染まなかった、ような気がする。
 寓話的・神話的な部分と、生々しい人間の欲望や戦乱の部分、これがどうしても、一本の綱のように寄りあわないまま終章まで。そもそも物語の中に沢山の「星」が出てくるんだけど、自分の中のイメージがまんま黄色い「🌟彡」になってしまって、自分のイメージ力の貧困さに泣く。八つの星を支えている竜のエピソードなどは特にイメージがメルヘンで、脳内の絵柄が童話絵本みたいになっちゃって、それなのに、全般的に語られるのはそれはそれは赤黒い人間というよりは動物的な残虐さだったりして、読んでいる最中から頭の中がしっちゃかめっちゃかだ(絶望)

 オーリエラントの始まりの書。人々を繋ぐもの、平和の礎となるのものは言葉である、という確固たる思いが伝わる一方で、言葉が相容れない相手は蹂躙するのか、自分の平和を守る為であれば、異民族を駆逐するのは良しとするのか、(攻め込んで来たのは相手方だとしても)そこに流れる血はやむを得ないもの・当然のものとするのか、という別のメッセージも受け取ってしまう物語だった。それが著者が意図したものかどうかはともかくとして。「北の蛮族」とはなんなのだろう? 私にとってはそれが不可解なものとしてわだかまってしまう物語だった。
 たとえば、ジーン・アウルの「大地の子エイラ」シリーズでは、音声言語を持たないネアンデルタール人の氏族の豊かな精神文明が描かれていたのが、いまだに印象に残っている。この物語では寓話的に描かれてはいても、「北の蛮族」にも実りの少ない北の大陸に大きな人口を成せるだけの文化があるはずでは、とか、そもそも他の作品からして北の大地は白夜のツンドラのはずで、そこに農耕が成立しているのか、とかいろいろな疑問が頭を離れなかった。
 (意思疎通できる)言葉を有することが協力や思いやりや平和を築く礎とするならば、「言葉を持たない」ことが異民族を駆逐する理由ともなり、大抵の民族間・部族間闘争は合理化できてしまうのではないか?
 例えば、『沈黙の書』が聖書だったとしたら? というイメージが沸いてしまうのだ。あまねく言葉(=聖書)が布教された「平和な」世界。言葉が通じない(=異教の)異民族は排斥する、っていう一神教的な世界観につながるものを、作品から言外に感じてしまう。物語が喚起する神話的イメージとは別に、勝手に自分の中に想起されるイメージがそんな感じなので、いろいろと折り合いがつかず、だいぶ消化不良気味な読書になった。

 なお、例の黒いヤツはこの本にも登場した。
 ゲルダの館(砦)の情景は、なんとなく邪馬台国を連想。一国の女王だった巫女の館はこんな女の砦だったのかもね、と思ったり。
 なるほど、陸橋や海峡が海になったのはそういう伝承となるのか。巨人、デカいな。小石のくせに(笑)

 で、このオーリエラントのシリーズにはそれぞれ巻頭に地図が付されているのだけど、ついつい、その地形が気になってしまって、やってしまった。こういうの、やり過ぎないほうが良いとは思ってはいるのだが、ガマンできなかった。。。。
 この沈黙の書と、『夜の魔導師』その他の地図の比較。オレンジでマークした地名が同じ「テクド島」や、北の大陸との陸橋、海峡、大きな湾、墜神の湖を指標にして重ねてみたさ。
ちなみに、《沈黙の書》時代の地図は縦横比を少し変えて横に伸ばし、強引に地図を重ねた。

 たとえば、『沈黙の書』の時代が氷河期の直後ぐらいで、海水面が上がったとしたら、こんな感じだろうか。いや、あまり厳密に考えちゃだめだとは思うけど。といいつつ、それだとフォトとかエズキウムの当たりは隆起したことになるので、ううむ。ナランナ海は内陸に入り込んできているから、沈降・・・?まあ、魔導師が落っこちて火山を作ったりもしてるしな。・・・魔導で地殻変動が・・・?  あと、ヒーバは海水面が上がって島になってヒバル島になったのかな?とか想像すると少し楽しい。べつに測量した地図があるわけでもなし、大陸を俯瞰できるのはそれこそ風の魔導師くらいのものだし。細かいところを突き詰めるのは御法度として、とりあえずやってみて、気分的には満足した。
 

2025年2月5日水曜日

0538 オーリエラントの魔導師たち

書 名 「オーリエラントの魔道師たち(単行本)」
著 者 乾石 智子         
出 版 東京創元社 単行本2013年6月
単行本 246ページ
初 読 2025年02月04日
ISBN-10 4488027156
ISBN-13 978-4488027155
【収録作品】
◆紐結びの魔導師
◆闇を抱く
◆黒蓮華
◆魔導写本師 

書 名 「オーリエラントの魔道師たち(創元推理文庫)」 2016年6月        
単行本 267ページ
初 読 2025年02月04日
ISBN-10 4488525059
ISBN-13  978-4488525057
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/125856221
【収録作品】
◆陶工魔導師
◆闇を抱く
◆黒蓮華
◆魔導写本師 

 どちらの表紙も美しい。やっぱり単行本の表紙も眺めたい。というのと、単行本と文庫本で収録作品が違っているので、それもご紹介。
 単行本に収録されていた短編の『紐結びの魔導師』は、文庫本化されるときにこの本からは除かれて、リクエンシスを主人公とした短編連作として、『紐結びの魔導師』を本のタイトルとして別途文庫本化された。文庫本の『オーリエラントの魔導師』にはあらたに「陶工魔導師」が収録されている。
 「紐結びの魔導師」はこのあと3部作シリーズ化(赤銅、白銀、青炎)されているのでそちらも大いに楽しみにしている。

◆陶工魔導師
 コンスル帝国歴800年代。「にゃんこを蹴飛ばすなんて人間じゃねえ」とはウィダチスの魔導師ギャラゼの台詞。それに対して陶工魔導師ヴィクトゥルスは「猫を蹴飛ばすのは人間だけだ」。いずれにせよ、にゃんこを蹴飛ばした奴には相応以上の罰があたる、という話。

◆闇を抱く

 女たちが自衛のために身に付けたイスリルの古い魔法。アルアンテス。アルタと呼ばれるリーダーを頂点に、全体を統括するカサン、実際に魔力を行使するカシヤナ、魔法による助力を必要とする女性をカシヤナに引き合わせる仕事をするカスク、というメンバーで構成される地下の魔女組織。彼女たちの密やかな抵抗。

◆黒蓮華
 村をコンスル兵に襲撃されて親兄弟、村人を皆殺しにされた少年は魔導師となり、孤独と憎しみに胸の中に黒い華を咲かせながら、おのずと身についたプアダンの魔術でコンスル人に仕返しを重ねる。
 黒々としたストーリなのに、清々しく、美しくも感じるのはなぜだろう。

◆魔導写本師
 「夜の写本師」カリュドウの師であるイスルイールの比較的若い頃のお話。写本師の魔導のありようが良くわかる。そして、やっぱりイスルイールは魅力的だ。

2025年2月2日日曜日

0537 紐結びの魔道師 (創元推理文庫)

書 名 「紐結びの魔道師」
著 者 乾石 智子         
出 版 東京創元社 文庫版2016年11月
文 庫 267ページ
初 読 2025年1月31日
ISBN-10 4488525067
ISBN-13 978-4488525064
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/125766907

 紐結びの魔導師リクエンシスの短編連作です。情景を語るのがものすごく上手い作家さんだけど、この本は、とりわけ、気候や季節感を感じる。冬の匂いがする。
 にしても、こんなに安心して読める本は何冊ぶりのことか? それもひとえにエンスの人柄ゆえ。とはいえ、長命故に気鬱になったり、長じるにつれ、いろいろな物事にも心が動かなくなってきて。ケルシュとの偶然の邂逅にまた元気付けられもして。まあ、ケルシュ=キルアスも、相当に明るい人格ではあるが。 魔導師が長命であることはこの物語世界の基本設定だけど、この本は、そこに焦点を当てている。掌編の『形見』がとてもよいと思う。『夜の写本師』に登場する指なしカッシが指を失う経緯がこんなに間抜けで可愛いお話だったとは。
この物語世界で銀戦士の存在感が思いのほか大きいのがなんとなくイヤ(笑)。あの教祖に教団を背負って立つのは無理なんじゃないかと。。。(苦笑)

オーリエラント世界の登場人物たち(ネタバレあり・自分用忘備)

《夜の写本師》コンスル歴1800年代 コンスル帝国滅亡後
*基準点(いちおう)
カリュドウ夜の写本師 
エイリャカリュドウの育ての親の女魔道師  。アンジストに殺害される。
フィンカリュドウの幼なじみの少女 。アンジストに殺害される。
アンジスト エズキウムの魔道師長 
セントン魔導師。エズキウムの副魔道師長。四大魔道師 
カッシ魔導師。エズキウムの副魔道師長。四大魔道師 
グルース魔導師。エズキウムの副魔道師長。四大魔道師 
ケルシュ 魔導師。エズキウムの副魔道師長。四大魔道師 。1000年前のキアルスの転生。
セフィヤ ガエルクの弟子 。カリュドウの魔導の失敗で死に、カリュドウに大きな教訓を残す。
ラームガエルクの弟子 
ティモナガエルクの弟子 
イスルイール パドゥキアの写本工房を仕切る親方 。〈夜の写本師〉
ハールイエズキウムの写本工房の元締 
ガースエズキウムの写本師の親方 
ワイバン ガース親方の弟子 
ジグエスガース親方の弟子 
ヴェルネガース親方の弟子 
ルッセオ ガース写本工房の雑用係の少年 。写本師見習いの卵
*100年前
ルッカード パドゥキアの少女。ガエルクの弟子。 (カリュドウの前世)
アンジスト エズキウムの魔道師長 
ケルシュ 魔導師。キアルスの転生。
ガエルク パドゥキアの魔道師 。シルヴァインの兄ブリュエの転生。
*500年前
エムジスト エズキウムの魔道師長 アンジストの五百年前の名前
イルーシア マードラ国一の魔道師 (カリュドウの前前世)
*1000年前
アムサイスト コンスル帝国から来た魔道師 アンジストの千年前の名前 
シルヴァインオイル領主の娘 (カリュドウの前前前世)
ブリュエ シルヴァインの兄 
キアルス シルヴァインとブリュエの友人。祐筆 
「写本魔導師」《オーリエラントの魔導師たち》コンスル帝国歴1800年代
「闇を抱く」《オーリエラントの魔導師たち》コンスル帝国歴1800年代
「魔導師の憂鬱」《紐結びの魔導師》 コンスル帝国歴1788年頃  
ニーナエンスの恋人。
ケルシュエズキウムの魔導師。
「子孫」《紐結びの魔導師》 コンスル帝国歴1785年
リクエンシスエンス 紐結びの魔導師
ニーナエンスの恋人
「形見」《紐結びの魔導師》 コンスル帝国歴1703年 早春
リクエンシスエンス 紐結びの魔導師
※1700年代《夜の写本師》のルッカードのエピソードがこの頃
《太陽の石》 コンスル帝国歴1699年 コンスル帝国末期
デイス   主人公。十六歳の少年 
ネアリイ  デイスの姉。門前に捨てられていた赤子のデイスを拾った。
ビュリアン デイスの幼なじみ。喧嘩友達。悪友。親友
ザナザ   イスリルの魔道師。300年前のイスリル大戦の際、敵方でイザーカト兄弟と戦った。
【イザーカト兄弟】※デイスやネアリイの時代より300年前〜
ゲイル   長男。大地と火の魔道師。若干ぼんくら風味だが、真面目で公正で面倒見がよい。
テシア   長女。大地と火の魔道師。
ナハティ  次女。大地と火の魔道師。魔力は兄弟の中でも抜きん出ているが、兄弟の間でつねに疎外感を
味わっており、僻みと恨みが黒い奴と親和した。
カサンドラ 三女。水の魔道師。リンターと年子で特に仲がよかった。リンターはカサンドラを崇拝してい
たが、それがナハティの恨みを招いた。ナハティに惨殺された。
リンター  次男。大地と火の魔道師 300年前、ナハティと最後の死闘を繰り広げ、その結果火山の下
で長らく休眠することになった。
ミルディ  四女。水と土と風の魔道師 イスリル大戦での9人兄弟の唯一の戦死者。ザナザの火球に打た
れて死ぬ。兄弟崩壊のきっかけとなる。
ヤエリ   五女。雷と稲妻の魔道師  美しいものが大好きで、潔癖症。かなり軽薄。ナハティ側につい
て、漁夫の利を得る。
イリア   三男。風と水と嵐の魔道師  300年前の兄弟喧嘩の後、潜伏していた。
デイサンダー 末っ子。植物と生命の魔道師  300年前の兄弟喧嘩の際、ナハティに消滅させられそう
だったが、赤ん坊返りにとどまり、どうにかして300年後にネアリイに拾われる。

「水分」《紐結びの魔導師》 コンスル帝国歴1500年頃? 
リクエンシスエンス 紐結びの魔導師
リコ(グラーコ)80歳過ぎ
「紐結びの魔導師」《紐結びの魔導師》 コンスル帝国歴1457年
リクエンシスエンス 紐結びの魔導師
リコ(グラーコ)エンスの相棒。同居人。エンスの魔法をせっせと記録している。
カッシ貴石占術師。エンスの魔法にひっかかって指を二本失う。
「冬の孤島」《紐結びの魔導師》 帝国歴1448年
リクエンシスエンス 紐結びの魔導師
神が峰の神官戦士団設立される 帝国歴1383年
※1300年代ごろ、イザーカト9兄弟の兄弟喧嘩はこのあたり。
 また、《夜の写本師》イルーシアのエピソードもこの年代。
《魔導師の月》コンスル帝国歴857年〜(シルヴァインが殺されて3ヶ月後〜)
キアルス魔導師。ギデスディン魔法(書物を使った魔法)の創始者。
レイサンダーコンスル帝国皇帝の甥ガウザス付きの魔導師。(地の魔法)
カーランキアルスが一時身を寄せたイラネス神殿の管理官。
ハルルカーランのチョウゲンボウ
ジアトルスキアルスガ雇った写本師兼雑用係
エブンキアルスが買い取った奴隷の少年
テューブレンコンスル帝国の皇帝。華美を嫌い、ヒバル島に隠棲しながら帝国を支配。
ガウザスコンスル帝国皇帝の甥。皇位継承者。
コリウスレイサンダーの親友で軍人。ガウザス配下
ムラカン近衛副隊長
コンパルクスムラカンの部下
トリエウスムラカンの部下
ソール皇帝付きの魔導師。石の魔導師。
*さらに400年前 帝国歴450年頃
テイバドールティル、テイバルとも。〈グリルの民〉の少年。タージの歌謡集の収集者。星読み
タゼン星読み。テイバドールの師匠
コノークルコノル。 グリルの族長の息子
ルネルカンドルードとも。コノルの配下
ファイドールテイバドールの父。グリルの族長。故人。ヒダルの民との部族闘争で落命した。
アーチェテイバドールの姉。部族間闘争で攫われる。
セイランセールアーチェの息子。
ネフルテイバドールの次姉
ユーロウテイバドールの犬
オルクレキルナダの大地の魔導師
イスランオルクレの長女。大地の魔導師。強い。
リルルオルクレ次女。大地の魔導師。強い。
アレギウスコンスル帝国第七軍団の司令官。
ホリエウスアレギウスの副官。テイバドールに竪琴を習い、師と敬う。
「陶工魔導師」《オーリエラントの魔導師たち》コンスル帝国歴800年代の始め頃
ヴィクトゥルス陶工魔導師。
ギャラゼウィダチスの魔導師。黒猫姿で登場。
ロウヴィクトゥルスの弟子
クリアルヴィクトゥルスの弟子
「闇を抱く」《オーリエラントの魔導師たち》コンスル帝国歴?年代
オルシア織工見習いの少女。
ロタヤ・クピヤ・マンダ フェデルの名家の奥方
リアンカ織物工房の女主人
カリナアルアンテスの魔術の使い手(カシヤナ)
「黒蓮華」《オーリエラントの魔導師たち》コンスル帝国歴397年
〈耳男〉〈白花〉はロウイと呼びかけた。アブリウスの奴隷
〈白花〉ファーリ。奴隷の女。
〈煙男〉アブリウスの使用人
〈暑がり〉アブリウスの使用人

オーリエラント世界の魔術(ネタバレあり・自分用忘備)


■ウィダチスの魔法 
 動物を使役したり、動物に変身したりする。 『夜の写本師』カリュドウの師であり、育ての親であるエイリャが得意とした魔術。

ギデスディン魔法
 書物を使い魔法を発動させる。ケルシュの前世、キアルスが始祖。『魔導師の月』でキルアスがずっと書き綴っている「ギデスディンの魔法書」は、時代が下がって、カリュドウは諳んじるほど写本した。

貴石占術
 石が持つ大地の力を利用する魔術。指なしカッシは貴石占術の使い手。  

ガンディール呪法
 人形と人体の一部を使い操る魔法。 呪いの藁人形的な呪術。パドゥキアで盛ん。ガエルクはガンディール魔法の使い手で、カリュドウの師となった。

マードラ呪法 
 マードラ国で使われる魔術。死人を利用した暗黒の魔道。イルーシアはマードラ呪法の使い手で、エンジストの求めにより、死者の怨嗟を利用してエズキウムの城塞を築き上げ、自身もエンジストによって生きたまま城塞に埋め込まれた。

ブアダン
 動物や死骸の一部分を使い呪い殺す。 

エクサリアナの呪法
 相手の魔導師からその能力を奪い、己のものとする邪法.相手は殺される。アムサイストが編み出した。

夜の写本師 
 写本の技術によって魔術を用いる、魔導師ではない魔術の使い手。カリュドウ。イスルイールがカリュドウの師。

大地の魔法 
 大地にかかわるものを使う。主に土、水、火、植物、風をあやつる。 ライサンダーの家族、子孫たちイザーカトの一族はよく大地の魔法を操る。

 テイクオク(紐結びの魔術)
 紐をさまざまな方法で結びながら、呪文を織り込むことで、魔術を発動させる。人や物事を結び付けたり、祝福したりすることが得意で、攻撃にはあまりむかないよう。紐の魔導師リクエンシス。エンスの操る紐の魔法は、生活魔法的なのも多くてほのぼのする。

フォアサイオンの魔術 
 世界にある〈気〉の流れをさまざまな道具によって操作する魔法。風水っぽいものらしい。作品世界が違うが佐藤さくら氏の『魔導の矜持』に登場するデュナンはフォアサイオンっぽいな、と思った。

■ヴィクトゥルスの魔法
 『オーリエラントの魔導師達』収録「陶工魔導師」のヴィクトゥルスが編み出した魔法。製作する陶器に魔術を練り込む。

■アルアンテス(イスリル語で「古き力」の意)の魔術
 女たちが使う古い魔法。「闇を抱く」(『オーリエラントの魔導師たち』)に詳しく書かれている。


2025年1月30日木曜日

0536 太陽の石 (創元推理文庫)

書 名 「滅びの鐘 」
著 者 
乾石智子         
出 版 東京創元社 文庫版2015年8月
文 庫 300ページ
初 読 2025年1月29日
ISBN-10 4488525040
ISBN-13 978-4488525040
読書メーター https://bookmeter.com/reviews/125728693

 イザーカトきょうだいの兄弟喧嘩、といわれる、それはそれは激しく、超弩級災害級の魔導戦。火山が二つ出来、湖が出来、山が崩れ、地割れが起き。その激しさにもまして、仲の良い9人兄弟がだんだんに崩れていくのが悲しい。
 そして、その根っこには、彼らの祖であるライサンダーがその血筋に封じた、例の昏い奴が存在する。

 前作の『魔導師の月』で、イザーカト兄弟の祖先であるライサンダーの物語が語られた。この物語は、そこから時代を下ること数百年。
 実は『魔導師の月』で散々な(?)活躍をしたライサンダーの物語の余韻に浸り、その子孫達がまたぞろ黒い奴に酷い目に遭わされるのを早々に見たくなかったため、先に『滅びの鐘』を読んでしまったのだ。そして、気を取り直してこの本に取りかかる。

登場人物一覧*ネタバレあり注意
デイス   主人公。十六歳の少年 
ネアリイ  デイスの姉。門前に捨てられていた赤子のデイスを拾った。
ビュリアン デイスの幼なじみ。喧嘩友達。悪友。親友
ザナザ   イスリルの魔道師。300年前のイスリル大戦の際、敵方でイザーカト兄弟と戦った。
【イザーカト兄弟】
ゲイル   長男。大地と火の魔道師。若干ぼんくら風味だが、真面目で公正で面倒見がよい。
テシア   長女。大地と火の魔道師。
ナハティ  次女。大地と火の魔道師。魔力は兄弟の仲でも抜きん出ているが、兄弟の仲でつ
         ねに疎外感を味わっており、僻みと恨みが黒い奴と親和した。
カサンドラ 三女。水の魔道師。リンターと年子で特に仲がよかった。リンターはカサンドラ
         を崇拝していたが、それがナハティの恨みを招いた。ナハティに惨殺され
         た。
リンター  次男。大地と火の魔道師 300年前、ナハティと最後の死闘を繰り広げ、その
         結果火山の下で長らく休眠することになった。
ミルディ  四女。水と土と風の魔道師 イスリル大戦での9人兄弟の唯一の戦死者。ザナザ
         の火球に打たれて死ぬ。兄弟崩壊のきっかけとなる。
ヤエリ   五女。雷と稲妻の魔道師  美しいものが大好きで、潔癖症。かなり軽薄。ナハ
         ティ側について、漁夫の利を得る。
イリア   三男。風と水と嵐の魔道師  300年前の兄弟喧嘩の後、潜伏していた。
デイサンダー 末っ子。植物と生命の魔道師  300年前の兄弟喧嘩の際、ナハティに消
         滅させられそうだったが、赤ん坊返りにとどまり、どうにかして300年
         後にネアリイに拾われる。

 魔導合戦を書きたい、いっていた著者氏は心ゆくまで、どっかんずっどんと派手に周囲を所構わず破壊しながら、魔法の応酬を楽しんでいらっしゃるよう。

 とにかく、9人兄弟の真ん中で次男のリンターが本当に「お兄ちゃん」って感じで、大好きだ。魂に回復しがたい傷を負い、暗い暗黒を纏った目の目元を少し綻ばしてデイサンダーを見守るお兄ちゃんの描写は、あまりにも切ない。

 あと、文庫101ページに登場するのは、エズキウムの魔導師、アンジストだよね。

 黒蝶湖の水先案内人の亡霊が誰だかいまいち判らなかったのだけど、どこか読み飛ばしただろうか。あれは、リンター(の欠片?)なのかな? それとも頬に深い傷跡があるというから、カサンドラだったもの? でもそれならなぜ男性? 
 
 なにはともあれ、とても面白かったが、きょうだいが一人づつ減っていってしまうのは、悲しかった。ヤエリの底抜けにおバカな感じは悪くないかも(笑)だが、あんなメンタリティで教団を率いていけるのかについては、甚だ疑問だ。ナハティがデイサンダーに兎の刺繍のマントを作って、デイサンダーが気にいらず、解いて刺繍をし直すシーンに胸を突かれた。ナハティ。あんな時代もあったのに。いや、あんな時代があってこそ、なのか。

2025年1月26日日曜日

0535 滅びの鐘 (創元推理文庫)

書 名 「滅びの鐘 」
著 者 
乾石智子         
出 版 東京創元社 文庫版2019年8月
文 庫 592ページ
初 読 2025年1月25日
ISBN-10 4488525091
ISBN-13 978-4488525095
読書メーター
 https://bookmeter.com/reviews/125623494

 文庫本とKindle版とAudible併用で一気に読了。
 Audibleと文庫本で一部表現に細かい違いがあったのは、Audibleの原稿が単行本なのかな?
 Audibleの朗読(ナレーター)は、浅井晴美氏。地の文の朗読は落ち着いた声で、男性のセリフも概ね聞きやすい。だが子供と女性の台詞部分については、突如“アニメ声”になってしまって、非常に聞きづらく、物語にも合わず、鬱陶しことこの上ない。もっと普通に、朗読調で読んでくれて構わないのに。とは、Audibleを聴いていて良く思うことではある。この分野は、声優の勉強している人たちで担われているのかな。会話劇ではないので、淡々と読んでほしいのだけど。
 それはともかく、Audible、Kindle併用で、寸暇も惜しまず読み進めた。
 
 とにかく、急き立てられるように、それこそ何かに追われるようにして一気に読了。これが、乾氏智子氏の小説の魔力である。
 『夜の写本師』のオーリエラントの世界とは別の、魔力の色濃い、古代から中世にかけてくらいの時代感。呪文を唱えて魔方陣作って、っていう最近ありがちなファンタジーではないのは、オーリエラント世界と同様。生命の不思議が魔法の形を取っているような、生き物の生と死と、人とは切っても切り離せない嫉妬や悪意や憎悪も暗黒の力として色濃く存在する、太古の魔力が圧倒的な力を見せる世界である。

 そのような世界の中で、曲がりなりにも一国の中で平穏に暮らしている先住民族カーランド人と征服民族アアランド人が、ある出来事をきっかけに一気に憎悪を膨らまし、民族殲滅の虐殺行為に突き進んでいく様を、タゼーレンの家族とともに体験する。
 「難民」というものを私はきちんと理解していなかったかもしれない、と思った。これまでなんとなく、戦乱を避けるために、自ら住んでいた土地を離れる人々、と思っていた。確かにそういう人達もいるだろうし、それだって命がけのことだろうが、この本の中の出来事のように、住み慣れた土地と生活を追われる人達もいるのだろう。


 さて、物語のあらすじだが、
 カーランディアの首都にある守護の〈鐘〉を、魔導師デリンが破壊する。二つの民族の友和と守護をもたらしていた鐘、その実は『滅びの鐘』であった鐘の、438個の破片は世界に飛び散り、その破片を身のうちに取り込んだ人々や生き物の変容をもたらす。

 デリンが鐘を破壊する原因となった、カーランド人大虐殺を行ったボーレン王の世継ぎの第一王子イリアンは鐘の破片のせいで歩けなくなり、第二王子のロベランは、頭に入り込んだ破片のために、怒りと暴力に歯止めが利かなくなる。ロベランの鐘を破壊したデリンに対する怒りは、やがてカーランド人全体に向けられることとなり、もともとはカーランド人を差別し虐殺した父王に対しては反発と憎しみを抱いていたはずのロベラン当人が、父王以上のカーランド人迫害と虐殺に手を染めることになっていく。

 物語の半ば過ぎまでは、ひたすらカーランド人の受難と逃避行が語られる。しかし、その流浪の中でも若者たちは、生気や喜びに溢れ、大人達は日々の暮らしを努力と工夫ですこしでも良いものにしようと力を合わせ、雄大な自然の恵みを存分に受け取りながらのカーランド人の生活は、迫り来る迫害と戦乱に怯えながらも、まだ希望がある。

 〈鐘〉が封じていた存在、かつて稀代の〈歌い手〉であったにも関わらず、妬みから妻子を殺され、自身は喉を潰されて暗黒に身を落としたタイダーの怨念は、彼を封印していた鐘の破壊により世に解き放たれる。さらに層をなす憎しみと怨念、一人一人の愛憎が連鎖し、より大きな災悪を招くどうしようもなさを見せつけられる。

 主人公タゼーレンは、「恨むな」という父の教えのとおりに生きようとするが、彼自身も鐘の破片を胸の中に抱き、暴力や憎しみや怒りに飲まれまいと苦悩する。やがてロベランの進軍により家族を失い、捕らえられたタゼーレンはロベラン本人に残酷な拷問を加えられ、ついにタイダーの憎悪の化身でもある闇の獣カイドロスと一体化してしまう。
 
 大地を戦乱が席巻し、多くの人々が死んだ後。予言の歌に沿って、主人公タゼーレンは暗黒を乗り越え、世の理想から人々の汚泥のような感情まですべてを織りなす竪琴を復活させ、その音で世の中を収まるべきところに収めていく。物語は、冬の終わりに春の日差しが訪れるように、人々が静かな希望を携えて、少し先の未来を思い描くがごとく、穏やかな謳いの余韻のように消えていく。決して物語がぷっつりと終わるのではなく、人々が生きつづけるこの世界にひとときの間、時間軸が交わり、また離れていったような、不思議な残響が胸に残る。

 大魔道師デリンの、直情径行な憎めない性格が良い。イリアンの冷静さも光る。本来なら好漢であったはずのロベランの無残。伝書バトのような役目を果たす雪ツバメの「老いらくの恋」は微笑ましい。主人公のタゼーレンは、予言の歌の通りに流されただけと言えなくもないような気もするし、脇役たちに比べて魅力的、とは言えないような気もするけど、その壮絶な経験ののちに、人としての姿を取り戻し、のちには多くの人びとの力となり、後進を育て、愛する妻を娶り、自分が父母から受けた愛情を、自分の子供達や周囲の人々に伝えていくのだろう。
 起承転結を読む物語ではない。世界の在り方を読むようなファンタジーなのだ。後書きにもあるように、著者が長い年月、書こうとしては断念し、温めてきた壮大な物語。それがこうして世に出され、読むことができる読者は、とても幸せだと思う。

2025年1月21日火曜日

0534 魔道師の月 (創元推理文庫)

書 名 「魔道師の月」
著 者 乾石 智子    
出 版 東京創元社 2014年11月
文 庫 462ページ
初 読 2025年1月21日
ISBN-10 4488525032
ISBN-13 978-4488525033
読書メーター 
https://bookmeter.com/reviews/125546842

 コンスル帝国歴857年 晩秋、という書き出しから始まるこの書。コンスル帝国皇帝の甥で皇位継承者であるガウザス(軍人)お気に入りのお抱え魔道師レイサンダーと、まさに『夜の写本師』話中でシルヴァインを失った直後の失意と絶望に苛まれるキアルスの二人の魔導師の邂逅の物語は、どこまでも緻密に織られるタペストリーの一幅のよう。

 太古の闇、始原の悪意とも言うべき〈暗樹〉。見かけは円筒型の黒い木片のように見えるが、木でも木炭でも石でもない、太古から存在する禍々しいもの。地上に現れては動物から人へ、人の手から人の手を渡り、より強い欲を持つもののところに擦り寄り、人の欲望を増長させ、混乱と破綻と災悪をもたらすもの。それが時の権力者の元に現れたときに居合わせてしまったのが、大地の魔導師レイサンダー。
 シルヴァインを殺された衝撃と悲嘆から立ち直る時間もなく、彷徨い歩いていた書物の魔導師キアルス。
 キアルスは、大切に肌身離さず持ち歩いていた『タージの歌謡集』を、失意に飲まれて焚き木にくべてしまう。正気に返ってから深く後悔し、せめて、その断片だけでも復元を試みるが、タージの歌謡集とそれを叙述した人物が図柄に織り込まれた古いタペストリーの魔法に飲み込まれ、タージ、正確にはタジンの歌謡集の由来と歌謡集が編まれた過程を追体験することになる。実はタジンの歌謡集は、当時も世に現れた太古の悪意〈暗樹〉を封じるために集められた、魔術の込められた歌謡集だった。

 タジンの歌謡集の記述者で星読み(予見者)だったテイバドールの人生を自分に取り込んだキアルスは現世に戻り、〈暗樹〉から逃れて姿を隠していたレイサンダーと出会うことで、二人で暗樹と戦うことに。

 まさに、その世界そのものに遊ぶハイ・ファンタジーの名にふさわしい、壮大な魔力に満ちた世界が一気に叙述され、読み手も主人公と一緒に翻弄される。
 キアルスが体験した、テイバドールの人生は、それだけで一冊の大河ファンタジーになりうる密度だったし、レイサンダーの幻視は燦然と、脈絡なく広く深く、次から次へと展開する。
 そのイメージはとても人間に体験しうるものではないと思えるのだが、それでもぐいぐいと読まされてしまい、訳もわからないままに、この魔力に満ちた世界を引き回される。
 エピソードの一つ一つは、どれも闇夜のようで暗く重いのだが、物語全体が明るさに満ちているのは、キアルスの深刻になりきれないどちらかというと軽めな性格と、レイサンダーの「闇を持たない」明朗さのおかげか。知性と思索のキアルスと直感のレイサンダーという対比も光る。
 二人の友となるコンスル帝国軍の副隊長(のちに隊長)のムラカンの存在も素晴らしい。ラストの成り行きは、このようになるしかない、とは思っても心が痛む。

 テイバドールの妻となるイスランとその妹のリルルは、脳内で『乙嫁語り』に登場する双子の乙嫁(名前忘れた!)で完全再生された。話中でもすこしキアルスが調べているが、この過去の物語ののち、テイバドールが夢見た王国は、愛する妻、イスランの名前を冠した「イスリル」という国となり、やがて、魔導師の大国・イスリル帝国として、コンスル帝国に拮抗していく。そのあたりの物語は、『イスランの白琥珀』までおあずけとなるよう。
 主人公に感情移入できる作品も素晴らしいと思うが、乾氏智子氏の作品は、主人公に、ではなく、世界そのものに読者を引き込む力を持っている。感想らしい感想というのは難しいのだが、私にとって、乾氏智子氏その人が、書物の魔導師のようだ。