2021年1月3日日曜日

0241 尋問請負人 (ハヤカワ文庫 NV)

書 名 「尋問請負人」 
原 著 「THE INQUISITOR」2012年 
著 者 マーク・アレン・スミス 
翻訳者 山中 朝晶 
出 版 早川書房 2012年5月 
初 読 2021年1月3日
文 庫 440ページ 
ISBN-10  4150412561 
ISBN-13  978-4150412562

 2021年初読みがこれかよ!
 な、拷問、流血満載のブラッディな本・・・・かと思いきや、拷問シーンはやや控えめか? もっともこれは読む人の耐性によるので、どうか信用はしないでいただきたい。以前、『アウトランダー』の読メレビューを読んで、「拷問シーンがリアルで」という書き込みが沢山あったので、ワクワクして読んでみたら全然たいしたことなかった、という経験の持ち主である。

 焼いて真っ赤っかなキリで突き刺す、とか刃こぼれしたカミソリで切開、とかなーんだ、たいしたことないじゃん?て人なら大丈夫。昨日、なぜかAmazonプライムビデオでつい観てしまった『ネイビーシールズ』は、電動ドリルで手の甲に穴、空けてたからな、あっちの方がよほどリアルに痛そう。映像なだけに(爆)
 しかし、そんなおどろおどろしい「お仕事」小説だというのに、どうしてこれが、初々しいというか、まるで青い初恋みたいな読み口である。なぜなら、主人公ガイガーがあまりにも初心(うぶ)だから。といっていいやら、良く分からんが、作中の表現に任せるなら

「彼は幼い子ども(リトル・ボーイ)だ」

そう、純真な子どものような精神状態のまま、拷問人に仕上がっているガイガーが、思いもかけない仕儀から己を取り戻していく物語なのだ。

 それにしても気になるのは、ガイガー父の“宗教”だか“哲学”の出所。アメさんのことなので、本当にこんな異端宗教がありそうで怖い。ご存じの方がいらしたら、教えてほしい。

 足の裏側(膝裏から腿にかけて)無数の傷跡を持つガイガー。15分以上座っていると足が痺れて来るし、膝の可動域が狭く、歩行するときには主に股関節と足首を使っていて、それでも動作は一見滑らかに優雅に体をコントロールしている。あきらかに後遺症で、血行障害がありそうだ。そして、成人になる以前の記憶がなく、気づいたときにはこういう人間に仕上がっていた。「こういう人間」とは、痛みと恐怖で精神を操り、人から情報を引き出す自称「情報獲得業」、他称は「尋問請負人」もしくは「拷問人」。

 そんな彼の「お仕事」のマイルールは、子どもと老人は対象としないこと、だったにも関わらず、他人の思惑なぞ気にもとめない雇い主にルールを一蹴され、12歳の「対象者」の尋問を強要されたことから、ガイガーの周囲が騒然とし始める。そしてガイガーが慎重に保っていた精神の平静も乱されるに及んで。。。。。

 これは、血生臭い稼業でありながら、(正真の)少年と、少年の心を持った男の交流と恢復の物語なのだ。カミソリで切開される描写なんて、背筋やら尻の穴がぞわぞわするが、それにも関わらず爽やかさが漂う、なにやら中毒性のある作品である。万人にお勧めはできないが、面白いことは請け負う。

 やや蛇足だが、敵役のホールが、最初はただのマフィアの下働きのような印象だったが、話が進むにつれて車の所有者の割り出しから、公共料金の支払いから所有不動産を洗い出し・・・・と、あきらかに手法が捜査機関かCIAっぽくなってくる(ただし、こちらも非合法の民間請負)。子どもに情けをかけたり、ターゲットを民間人から玄人に絞ったり、かと思うと無能な手下を切り捨てたり。明かに民間人の巻き込みと流血を嫌うこのホールの行動もそう思って読むと結構味わいがある。

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