原 題 「ROGUE JUSTICE」1982年
著 者 ジェフリー・ハウスホールド
翻訳者 村上 博基
出 版 創元推理文庫 2009年11月
初 読 2021年1月 日
文 庫 288ページ
ISBN-10 : 448823903X
ISBN-13 : 978-4488239039
さて話は、主人公“わたし”の親友であり、管財人でもあった弁護士のソウル・ハーディングによるプロローグから始まる。時は1942年。前作のヒトラー暗殺未遂に引き続く一連の事件が1938年の出来事であったことも判明。
なんとゲシュタポに捕らえられた“わたし”が仮収監されていた警察署(?)が英国空軍の空襲により倒壊し、地下牢から脱出するところから始まる。あれ、ヒトラー暗殺の冒険活劇ではないの?またもや逃走劇なの?と思いつつ、この濃厚な一人語りは勢いで読まないときっと挫折すると思って読み進める。
「わたしはドイツの将兵には尊敬の念しか抱いたことがない。彼らにとって、自分たちが守るのは祖国であり、地獄から生まれた体制ではないのだ。」
これも、戦後40年近く経ったからこそ、書けた一文かもしれないな。
一つ疑問に思うのは、なぜ、3年の忍耐と偽装ののちに、ヒトラー暗殺を断念したのか。これだけ粘り強いのだから、初志貫徹したほうが何かをなせる可能性は高かったのではないだろうか。なぜ帰国し判りやすい(言うなれば安直に)戦争に参じようとしたのか。
Ⅰ章で、頭の最初の危機———ゲシュタポによる逮捕拘留ーーーが、英国で参戦するためにスカンジナビア経由で帰国を目指したものの、ドイツのスパイとしてイギリスに拒絶されて送還された直接の結果だというのが、皮肉でしかない。ここから、怒濤の逃走劇が展開するわけだが。
ロストク爆撃→シェチェン→アウシュビッツ→クラクフ・・・・なんだろう、この行き当たりばったり、口八丁手八丁でどこまでもいっちゃう感じは、どこかで、と思ったらヴォルコシガン・サガのマイルズ『戦士志願』と似ていなくもない、か? もっとも状況はこちらのほうが狂気じみていてかなり熾烈だ。そして、この強烈な生き残りに賭け、一人だけの戦争を続けるあり得ないほどの闘志がどこから生まれるのだろう。
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